説明

波付き管及び配管構造

【課題】 高温でも整直性に優れ、まっすぐな状態を維持することができ、配管において特殊な工具等を必要とせず、軽量であるため施工性に優れ、強度があり、耐食性、難燃性に優れる波付き管およびこれを用いた配管構造を提供する。
【解決手段】 波付き管1は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、難燃材およびタルクを含有する。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレンが使用できる。タルクは少量の添加でも高温での強度低下を抑制する効果がある。たとえば、ポリエチレン100質量部に対して1質量部のタルクの添加でも高温強度向上の効果を発揮し、タルクの添加量の増加に従い、その効果は大きくなる。一方、15質量部を超えたタルクの添加は、波付き管の表面荒れを顕著にするとともに、高温強度向上の効果も飽和するため望ましくない。したがってタルクの添加量はポリエチレン100質量部に対して、1〜15質量部の添加が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル等の保護管として使用され、高温でも直線形状を保ち、高強度であり、軽量かつ施工性に優れる波付き管およびこれを用いた配管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線等のケーブルの保護管としては、鋼管や樹脂製の可撓管等が用いられる。鋼管は、通常、構造物の屋内外において、保護管が露出する部分に用いられる。鋼製の保護管は整直性が優れるため、見た目がよく、時間経過とともに保護管が撓むこともない。一方、樹脂製の可撓管は、地中等に埋設する部分に用いられる。樹脂製の可撓管は、軽量であると共に、特殊な工具を必要とせず、容易に曲げることができ、施工性、耐食性に優れるためである。このように、使用部位に応じて、保護管の種類が使い分けられる。
【0003】
このような、電線等のケーブルの保護管としては、種々の鋼管や可撓管が使用されており、例えば、樹脂製の可撓管としては、外周が波形に形成され、波形の一部に最薄部を形成することで、可撓性に優れる波付き電線管がある(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−005348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の鋼管を用いる方法では、鋼管の配管の際に、配管現場において、特殊な工具等を用いて、配管の切断や曲げ加工を行う必要があるため、作業性が悪い。また、施工に時間を要し、保護管が重いため、作業性も悪いという問題がある。
【0006】
これに対し、特許文献1のような可撓管を露出部に使用すると、可撓管の自重や内部に挿入されたケーブル等の重みで、可撓管が撓み、見た目が悪くなるという問題がある。また、可撓管の運搬時等においては、ボビン等に巻きつけられるため、巻きぐせにより、配管した際にS字状などとなり、見た目が悪くなるという問題がある。
【0007】
そこで、発明者らは、特願2007−108763号において、非フレキシブル性の波付き管を提案した。しかし、従来の非フレキシブル性の波付き管は、常温では整直性に優れるが、高温では整直性を保つことが困難であり、直射日光が当たる場所や、工場等において高温となる場所に使用すると、時間の経過に伴い、自重などで撓みが生じる恐れがあることが分かった。
【0008】
図5は、高温にさらされた状態の配管構造30を示す図である。波付き管31b、31cの接合部には、管継手33が設けられる。また、波付き管31aと波付き管31bとの接合部には、エルボ状の管継手35が用いられる。
【0009】
設置時において整直されていた波付き管31a、31b、31cは、高温状態においては強度が低下し、自重および内部の電線等の重みなどによって、変形する。したがって、まっすぐに配置された配管構造30は、波付き管の撓みによって見た目が悪くなるという問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、高温でも整直性に優れ、まっすぐな状態を維持することができ、配管において特殊な工具等を必要とせず、軽量であるため施工性に優れ、強度があり、耐食性、難燃性に優れる波付き管およびこれを用いた配管構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、少なくともポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、難燃材を1〜20質量部、タルクを1〜15質量部含み、管体の外周部に谷部と、前記谷部よりも幅および外径が大きく中実の山部とが交互に形成されることを特徴とする樹脂製波付き管である。
【0012】
ここで、タルク(talc)とは、滑石という鉱石を微粉砕した無機粉末である。化学名称は、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO・HO)であり、工業用の原料や無機充填剤として塗料等に広く使用されている物質である。
【0013】
第1の発明によれば、タルクが1〜15質量部含まれ、管体の外周部に谷部と中実の山部とが交互に形成されるため、耐熱性に優れ、高温でも整直性に優れる波付き管を得ることができる。難燃材を加えているので、難燃性を向上させることでき、例えば、難燃材としてハロゲン系難燃剤を添加する場合には、添加量を少なくすることができるが、水酸化マグネシウムを添加する場合には、ハロゲン系難燃剤を使用する場合は、添加量を多くする必要がある。難燃材の添加量は、難燃材の種類に応じて、波付き管の難燃性に応じて設定できる。
【0014】
さらに、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。カーボンブラックを添加すると、高温整直性も向上させることができるだけでなく、室外の環境下においても紫外線などによる劣化が起こりにくくする効果があるので、カーボンブラックを適宜加えることができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明にかかる樹脂製波付き管を用いた配管構造であって、直線状の前記波付き管が、配管構造の曲線部分を含まない配管の直線部分に配置されたことを特徴とする保護管構造である。
【0016】
第2の発明によれば、高温においても整直性に優れる波付き管を直線部に配置したため、直射日光が当たる部位や工場等の高温箇所において使用しても、直線性を維持することができ、このため見た目に優れる保護管構造を得ることができる。ここで、高温とは60℃程度を差し、これは、真夏の直射日光が当たる部位や、工場内での高温設備近傍や上部屋根部等において、最大達する恐れがある温度である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温でも整直性に優れ、まっすぐな状態を維持することができ、さらに必要に応じて耐候性を向上させた配管において特殊な工具等を必要とせず、軽量であるため施工性に優れ、強度があり、耐食性、難燃性に優れる波付き管およびこれを用いた配管構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態にかかる波付き管1について説明する。図1は、波付き管1を示す図である。
【0019】
波付き管1は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とし、難燃材およびタルクを含有する。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレンが使用できる。
【0020】
発明者らは、種々の検討の結果、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂にタルクを添加することで、強力な有機無機複合体を形成し、材料の強度や曲げ弾性率の向上、耐熱性の向上、寸法安定性の向上等の効果を得ることができることを見出した。すなわち、ポリエチレン等にタルクを添加することで、高温でも材料の強度が劣化することがない。このため、高温になる部位にタルクを含有する波付き管1を設置しても、波付き管1が撓み等生じることがなく、見た目に優れた配管構造を保つことができる。
【0021】
タルクは少量の添加でも高温での強度低下を抑制する効果がある。たとえば、ポリエチレン100質量部に対して1質量部のタルクの添加でも高温強度向上の効果を発揮し、タルクの添加量の増加に従い、その効果は大きくなる。一方、15質量部を超えたタルクの添加は、波付き管の表面荒れを顕著にするとともに、高温強度向上の効果も飽和するため望ましくない。
【0022】
したがってタルクの添加量はポリエチレン100質量部に対して、1〜15質量部の添加が望ましく、さらには、7〜10質量部の添加が望ましい。7質量部以上添加すれば、60℃x24時間での波付き管1の変形量を最大でも0.8%以下(波付き管の長さ1000mmに対しての撓み量の割合)に抑えることができ、タルクの添加量が10質量部以下であるため、外観に優れる波付き管を得ることができる。変形量が0.8%以下であれば、見た目上変形が目立たないため、波付き管は直線を維持しているように見え、外観に優れた配管構造を得ることができる。
【0023】
難燃材としては、公知のいずれの難燃材も使用することができるが、例えばハロゲン系では臭素系のものが使用でき、ノンハロゲン系では水酸化マグネシウムが使用できる。難燃材として臭素系を添加する場合には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1〜5質量部であることが望ましい。また、難燃材として水酸化マグネシウムを添加する場合には、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して5〜20質量部であることが望ましい。難燃材の添加量は、難燃材の種類に応じて、波付き管の難燃性を得られる範囲で設定される。
【0024】
さらに、高温での整直性や耐候性を向上させるためには、カーボンブラックを3質量部までの範囲で加えることができる。カーボンブラックの添加量が0.3質量部以下では、高温での整直性や耐候性向上に効果がなく、3質量部以上加えると高温での整直性や耐候性に対する効果が飽和するので、添加量の上限は3質量部までとする。カーボンブラックを上記の範囲で加えることにより、高温での整直性や耐候性が改善するので、カーボンブラックを加えることもできる。
【0025】
波付き管1は、外周部に山部3と谷部5とを交互に有する管体である。山部3は谷部5よりも外径が大きく、また、山部3の幅は、谷部5の幅よりも大きい。山部3は中実であり、波付き管1の内周面には、外周面のような明確な山部、谷部はない。すなわち、山部3の厚みは、谷部5の厚みよりも厚い。谷部5の内周面は、やや内周に向かって円弧上に膨れた形状である。したがって、波付き管1の内周面には大きな凹凸がないため、電線等を挿入した際に引っ掛かることがない。
【0026】
図2は、波付き管1a、1b、1cを接続した配管構造13を示す図である。波付き管1a、1b、1cは、それぞれ整直されており、直線状の形状を有する。波付き管1b、1cの接合のように、直線状の接続部には、管継手7が設けられる。また、波付き管1aと波付き管1bとの接合部のように、直角に曲げて接続される部位には、エルボ状の管継手9が用いられる。なお、管継手9に代えて、従来の可撓管を用い、その可撓管を図示しない管継手7で繋ぐこともできる。また、必要に応じて、波付き管1cの端部にはスイッチボックス11等の周辺部材が設けられる。なお、配管構造13が屋外に使用される場合には、管継手7、9は、それぞれ防水性を有することが望ましい。
【0027】
配管構造13は、屋外や室内の壁面等の見える部分に設置される。したがって、美観を保つためには、配管構造13に使用される波付き管1a、1b、1cには高い整直性が要求される。
【0028】
配管構造13が屋外に設置される場合には、真夏の直射日光等の影響により、波付き管1は60℃程度の高温にさらされる恐れがある。また、室内であっても、工場などの高温発生設備の近傍や、高温発生設備が設置された工場の屋根部等においても、60℃程度の高温となる恐れがある。従来の配管構造30では、前述のとおり、高温では波付き管31の強度が低下し、常温で有していた整直性が劣化する。しかし、タルクを含む波付き管1a、1b、1cは、高温でも優れた整直性を示し、波付き管の撓みが極めて小さい。したがって、配管構造13は、高温部に配置しても、見た目が悪くなることがない。
【実施例】
【0029】
本発明にかかる波付き管1について、高温時の撓み量を計測した。図3は、高温時の波付き管の撓み量の測定方法を示す図で、図3(a)は、試験体20を設置した状態、図3(b)は、所定条件の高温保持後に、試験体20が変形した状態を示す図である。
【0030】
試験体20は、両端を受台21で支持した。受台21の間隔は1mとした。この状態で恒温槽に入れ、30℃、40℃、60℃の温度でそれぞれ24時間保持し、保持後の変形量23を計測した。変形量23は、試験体20の中央の点での撓み量である。
【0031】
試験に供した各試験体の仕様は表1に示す。タルク含有量を0〜10質量部、管径を16〜36mmφとして、計16種類の試験体を対象に試験を行った。表中のタルク量は、ポリエチレン100質量部に対するタルクの質量部を示す。試験体は、ポリエチレン100質量部に対して臭素系の難燃材を3.6質量部添加し、さらに所定量のタルクを添加した。波付き管はそれぞれ図1に示す形状であり、谷部肉厚が約1.5mm、山部肉厚が約3.5mmとした。
【0032】
【表1】

【0033】
各試験体の各条件での撓み量を表2〜表3に示す。なお、表2は、30℃、40℃、60℃における試験体単体での試験結果であり、表3は、30℃、40℃、60℃における、各試験体に下記の各径の波付け管に対して、ケーブルを挿入した状態での試験結果である。
16φ…約16mm×1m(重量約:160g/m)
22φ…約22mm×1m(重量約:220g/m)
28φ…約28mm×1m(重量約:300g/m)
36φ…約36mm×1m(重量約:410g/m)
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
試験結果より明らかなように、タルクを添加しない試験体では、低温(30℃)では大きな変形はないが、40℃、60℃と温度が上昇するにつれて変形が大きくなり、特にケーブルを挿入した状態での変形が顕著となった。なお、小径(16φ)の変形量が全体的に大きいのは、試験体自体の剛性が小さいためである。
【0037】
本発明にかかる、タルクが添加された試験体では、おおむね高温での変形量が抑制された。したがって、タルクの添加によって高温強度が向上し、試験体をケーブル等の保護管として使用すれば、高温状態で使用されても保護管の撓み量を抑えることができる。このため、見た目に優れる配管構造を得ることができる。
【0038】
特に、タルクを10質量部添加することで、ケーブルを挿入した状態であっても、60℃x24時間保持後の変形量が全ての管径で2mm以下となった。1mの保護管に対して、中央の撓み量が8mm以下であれば、保護管を設置した状態でも外観上保護管が撓んでいるようには見えず、直線性を維持しているように見えるため特に望ましい。なお、中央の撓み量が5mm以下であればさらに望ましい。
【0039】
次に、同様の試験体を用いて、各試験体の曲げ剛性を計測した。図4は曲げ剛性の試験方法を示す図である。試験体20の一方の端部を壁体25に略水平に設置した。試験体20の長さは200mmとした。試験体20を23±2℃に2時間保持した後、図中矢印A方向に30mm/分の速度で40秒間引っ張り(変位量27は、20mm)その際の荷重を測定した。
【0040】
曲げ剛性は、以下の式で算出される。
EI=W・l/3δ ・・・(式)
ここで、EIは曲げ剛性(N・m)、lは長さ(m)、Wは荷重(N)、δは変位量(m)である。したがって、曲げ剛性EI=0.133Wで算出することができる。
【0041】
各試験体の曲げ剛性を表4に示す。結果より明らかにように、曲げ剛性は管径によって大きく異なるが、タルクの添加によって曲げ剛性は向上し、強度が向上した。特に、タルクの添加量に応じて曲げ剛性は向上した。
【0042】
【表4】

【0043】
以上説明したように、本実施の形態にかかる波付き管1によれば、タルクを含有するため、特に高温での強度に優れ、高温で保持した際の撓み量を極めて小さく抑えることができる。
【0044】
また、タルクの添加量が15質量部以下であるため、表面の肌荒れも生じることがなく、見た目に優れる波付き管を得ることができる。特に、タルク7質量部以上であれば、60℃×24時間保持後の撓み量を、1mの波付き管に対して8mm以下に抑えることが可能であるため、波付き管が撓んでいることが外観上把握されることがなく、直線性が維持されるため、波付き管を高温にさらされる部位のケーブル保護管に使用した際にも、見た目に優れる保護管構造を得ることができる。
【0045】
波付き管1は、外周部に山部3と谷部5とを交互に有し、山部3は谷部5よりも外径が大きく、また、山部3の幅は、谷部5の幅よりも大きいため、強度が高く、整直性に優れるため、ケーブル等の配管として使用した際の見た目に優れ、鋼管よりも軽量で加工性にも優れるため、配管の設置も容易な波付き管を得ることができる。
【0046】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】波付き管1を示す斜視図。
【図2】波付き管1を使用した配管構造13を示す図。
【図3】試験体20の高温時の変形量を測定する状態を示す図で、(a)は試験体20の設置状態を示す図、(b)は高温保持後の試験体20の変形量23を示す図。
【図4】試験体20の曲げ剛性を測定する状態を示す図。
【図5】従来の波付き管31を用いた配管構造30を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1a、1b、1c………波付き管
3………山部
5………谷部
7………管継手
9………管継手
11………スイッチボックス
13………配管構造
20………試験体
21………受台
23………変形量
25………壁体
27………変位量
30………配管構造
31a、31b、31c………波付き管
33………管継手
35………管継手
37………スイッチボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、難燃材を1〜20質量部、タルクを1〜15質量部含み、管体の外周部に谷部と、前記谷部よりも幅および外径が大きく中実の山部とが交互に形成されることを特徴とする樹脂製波付き管。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製波付き管を用いた配管構造であって、直線状の前記波付き管が、配管構造の曲線部分を含まない直線部分に配置されたことを特徴とする配管構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−22083(P2010−22083A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177890(P2008−177890)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(501314396)古河樹脂加工株式会社 (26)
【Fターム(参考)】