説明

波動歯車減速機及び伝達比可変操舵装置

【課題】楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることが可能な波動歯車減速機及び伝達比可変操舵装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の波動歯車減速機30によれば、リテーナ43内部の環状空間44に固形潤滑材45が封止され、そのリテーナ43とインナーリング41及びアウターリング40との間にそれぞれクリアランス47,47が設けられているから、楕円形剛性カム35の回転により、その楕円形剛性カム35とリテーナ43とが差動しても、従来のように楕円形剛性カム35を回転駆動する際の負荷トルクが変動することは無い。即ち、楕円形剛性カム35を回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができ、楕円形剛性カム35を回転駆動させるモータ25の発熱や異音を抑えることができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を、可撓性外歯歯車の内側に備えた楕円形剛性カムの回転により周方向に移動して可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とを差動させることが可能な波動歯車減速機及びその波動歯車減速機を備えた伝達比可変操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の波動歯車減速機としては、可撓性外歯歯車と楕円形円筒カムとの間に可撓性ベアリングを備え、その可撓性ベアリングのインナーリングとアウターリングとベアリングボールとの間に形成された空間に、固形潤滑材を充填したものが知られている。この波動歯車減速機では、楕円形剛性カムの回転によりベアリングボールがインナーリングとアウターリングとの間で転動し、それに伴い、楕円形剛性カムが可撓性ベアリングに対して回転する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−349681号公報(段落[0018],[0019]、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、インナーリング及びアウターリングとベアリングボールとの間にはクリアランスが設けられている。このため可撓性ベアリングが楕円形剛性カムによって楕円形に変形されると、インナーリングの楕円形状とアウターリングの楕円形状とは僅かに異なる。そして、楕円形の短軸方向におけるインナーリングとアウターリングとの間隔が、楕円形の長軸方向におけるインナーリングとアウターリングとの間隔より僅かに広くなる。
【0004】
ところが、上述した従来の波動歯車減速機では、楕円形剛性カムの外側に可撓性ベアリングを嵌合した状態で、インナーリングとアウターリングとの間に固形潤滑材をモールド成形していた為、楕円形の短軸方向における固形潤滑材の厚さが、楕円形の長軸方向における固形潤滑材の厚さより僅かに大きくなっていた。このため、楕円形剛性カムが固形潤滑材に対して回転して、楕円形剛性カムの長軸が固形潤滑材の厚肉部位とすれ違う際に、楕円形剛性カムの回転の負荷トルクが一時的に増大し、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクが変動するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることが可能な波動歯車減速機及び伝達比可変操舵装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る波動歯車減速機(30)は、剛性内歯歯車(32)と、その内側に配置されかつ剛性内歯歯車(32)と歯数が異なる可撓性外歯歯車(33)と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリング(34)と、さらにその内側に嵌合されて可撓性外歯歯車(33)及び可撓性ベアリング(34)を楕円形に変形させる楕円形剛性カム(35)とを備え、可撓性外歯歯車(33)が剛性内歯歯車(32)に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を楕円形剛性カム(35)の回転により周方向に移動して可撓性外歯歯車(33)と剛性内歯歯車(32)とを差動させることが可能な波動歯車減速機(30)において、可撓性ベアリング(34)のアウターリング(40)とインナーリング(41)との間には、複数のベアリングボール(42)を周方向で均等配置して保持するリテーナ(43)が備えられ、そのリテーナ(43)は、周方向に連続した環状空間(44)を内部に有し、可撓性ベアリング(34)のラジアル方向で各ベアリングボール(42)の中間部分を環状空間(44)内に収容すると共に、各ベアリングボール(42)の一部をリテーナ(43)の内外周面からそれぞれ突出させるための複数のボール露出孔(46)を備え、リテーナ(43)の内外周面とインナーリング(41)及びアウターリング(40)との間にはそれぞれクリアランス(47,47)が設けられ、環状空間(44)の内部には、潤滑油を樹脂に含有してなる環状の固形潤滑材(45)が封止されたところに特徴を有する。なお、本発明の「潤滑油」には、潤滑油に増ちょう剤を分散させて半固体状にした、所謂「グリース」が含まれる。
【0007】
請求項2の発明に係る波動歯車減速機(30)は、剛性内歯歯車(32)と、その内側に配置されかつ剛性内歯歯車(32)と歯数が異なる可撓性外歯歯車(33)と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリング(34)と、さらにその内側に嵌合されて可撓性外歯歯車(33)及び可撓性ベアリング(34)を楕円形に変形させる楕円形剛性カム(35)とを備え、可撓性外歯歯車(33)が剛性内歯歯車(32)に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を楕円形剛性カム(35)の回転により周方向に移動して可撓性外歯歯車(33)と剛性内歯歯車(32)とを差動させることが可能な波動歯車減速機(30)において、可撓性ベアリング(34)のアウターリング(40)とインナーリング(41)との間には、複数のベアリングボール(42)を周方向で均等配置して保持するリテーナ(243)が備えられ、そのリテーナ(243)は、内周面側が開放しかつその開放口(243A)がインナーリング(41)にて閉塞された溝構造にされ、それらリテーナ(43)とインナーリング(41)とに囲まれた環状空間(244)の内部に各ベアリングボール(42)を収容すると共に、開放口(234A)と反対側の外周壁(243B)に各ベアリングボール(42)の一部をアウターリング(40)側に突出させるための複数のボール露出孔(46)を備え、リテーナ(43)の外周壁(243B)とアウターリング(40)との間にはクリアランス(47)が設けられ、環状空間(244)の内部には、潤滑油を樹脂に含有してなる環状の固形潤滑材(45)が封止されたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明に係る波動歯車減速機(30)は、剛性内歯歯車(32)と、その内側に配置されかつ剛性内歯歯車(32)と歯数が異なる可撓性外歯歯車(33)と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリング(34)と、さらにその内側に嵌合されて可撓性外歯歯車(33)及び可撓性ベアリング(34)を楕円形に変形させる楕円形剛性カム(35)とを備え、可撓性外歯歯車(33)が剛性内歯歯車(32)に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を楕円形剛性カム(35)の回転により周方向に移動して可撓性外歯歯車(33)と剛性内歯歯車(32)とを差動させることが可能な波動歯車減速機(30)において、可撓性ベアリング(34)のアウターリング(40)とインナーリング(41)との間には、複数のベアリングボール(42)を周方向で均等配置して保持するリテーナ(343)が備えられ、そのリテーナ(343)は、外周面側が開放しかつその開放口(343A)がアウターリング(40)にて閉塞された溝構造にされ、それらリテーナ(43)とアウターリング(40)とに囲まれた環状空間(344)の内部に各ベアリングボール(42)を収容すると共に、開放口(343A)と反対側の内周壁(343B)に各ベアリングボール(42)の一部をインナーリング(41)側に突出させるための複数のボール露出孔(46)を備え、リテーナ(343)の内周壁(343B)とインナーリング(41)との間にはクリアランス(47)が設けられ、リテーナ(43)のうち環状空間(344)の内部には、潤滑油を樹脂に含有してなる環状の固形潤滑材(45)が封止されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の波動歯車減速機(30)において、リテーナ(43,243,343)には、流動性を有した固形潤滑材(45)の原料を環状空間(44,244,344)内に充填するための充填口(49)が備えられたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の波動歯車減速機(30)において、リテーナ(43,243,343)は、そのリテーナ(43,243,343)を可撓性ベアリング(34)のアキシアル方向の中間で分割してなる1対のリテーナ構成体(48,48)で構成されると共に、それら1対のリテーナ(48,48)構成体を合体させた状態に保持するための合体保持機構(48R)を備えたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明に係る波動歯車減速機(30)は、剛性内歯歯車(32)と、その内側に配置されかつ剛性内歯歯車(32)と歯数が異なる可撓性外歯歯車(33)と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリング(34)と、さらにその内側に嵌合されて可撓性外歯歯車(33)及び可撓性ベアリング(34)を楕円形に変形させる楕円形剛性カム(35)とを備え、可撓性外歯歯車(33)が剛性内歯歯車(32)に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を楕円形剛性カム(35)の回転により周方向に移動して可撓性外歯歯車(33)と剛性内歯歯車(32)とを差動させることが可能な波動歯車減速機(30)において、可撓性ベアリング(34)のアウターリング(40)とインナーリング(41)との間には、複数のベアリングボール(42)を周方向で均等配置して保持するリテーナ(443)が備えられ、リテーナ(443)は、アウターリング(40)とインナーリング(41)との間の中央でベアリングボール(42)を保持し、潤滑油を含有した樹脂を、アウターリング(40)とインナーリング(41)との間で周方向に連続した環状空間にモールド成形してなる環状の固形潤滑材(45)を設け、固形潤滑材(45)のうち可撓性ベアリング(34)のアキシアル方向を向いた側面には、その周方向に沿って連続した環状溝(70)が形成されたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明に係る波動歯車減速機(30)は、剛性内歯歯車(32)と、その内側に配置されかつ剛性内歯歯車(32)と歯数が異なる可撓性外歯歯車(33)と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリング(34)と、さらにその内側に嵌合されて可撓性外歯歯車(33)及び可撓性ベアリング(34)を楕円形に変形させる楕円形剛性カム(35)とを備え、可撓性外歯歯車(33)が剛性内歯歯車(32)に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を楕円形剛性カム(35)の回転により周方向に移動して可撓性外歯歯車(33)と剛性内歯歯車(32)とを差動させることが可能な波動歯車減速機(30)において、可撓性ベアリング(34)のアウターリング(40)とインナーリング(41)との間には、複数のベアリングボール(42)を周方向で均等配置して保持するリテーナ(443)が備えられ、リテーナ(443)は、アウターリング(40)とインナーリング(41)との間の中央でベアリングボール(42)を保持し、潤滑油を含有した樹脂を、アウターリング(40)とインナーリング(41)との間で周方向に連続した環状空間にモールド成形してなる環状の固形潤滑材(45)を設け、固形潤滑材(45)のうち可撓性ベアリング(34)のアキシアル方向を向いた側面には、その周方向に均一に複数の凹部(71,71)が形成されたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至7の何れかに記載の波動歯車減速機(30)において、剛性内歯歯車(32)と歯数が異なるサブ剛性内歯歯車(31)を、剛性内歯歯車(32)と同軸上かつ隣り合わせに配置すると共に、可撓性外歯歯車(33)を、剛性内歯歯車(32)及びサブ剛性内歯歯車(31)の両方に噛合させて、剛性内歯歯車(32)をサブ剛性内歯歯車(31)に対して差動可能としたところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明に係る伝達比可変操舵装置(20)は、請求項8に記載の波動歯車減速機(30)と、剛性内歯歯車(32)又はサブ剛性内歯歯車(31)の一方に固定されかつ車両(14)のハンドル(16)に連結された入力側ハウジング(21)と、剛性内歯歯車(32)又はサブ剛性内歯歯車(31)の他方に固定されかつ車両(14)の転舵輪(11,11)にラックアンドピニオン機構(12,15)を介して連結された出力側ハウジング(24)と、入力側ハウジング(21)に取り付けられ、楕円形剛性カム(35)を回転駆動するためのモータ(25)とを備え、ハンドル(16)からラックアンドピニオン機構(12,15)のピニオン(15)への操舵角の伝達比を車速に応じて変更するところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明に係る伝達比可変操舵装置は、請求項8に記載の波動歯車減速機(30)と、剛性内歯歯車(32)又はサブ剛性内歯歯車(31)の一方に固定されかつ車両(14)のハンドル(16)に連結された入力軸(18)と、剛性内歯歯車(32)又はサブ剛性内歯歯車(31)の他方に固定されかつ車両(14)の転舵輪(11,11)にラックアンドピニオン機構(12,15)を介して連結された出力軸(24)と、入力軸(18)及び出力軸(24)と同軸上に回転軸(25R)が配置され、楕円形剛性カム(35)を回転駆動するためのモータ(25)とを備え、ハンドル(16)からラックアンドピニオン機構(12,15)のピニオン(15)への操舵角の伝達比を車速に応じて変更するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
[請求項1の発明]
請求項1の構成によれば、可撓性外歯歯車と可撓性ベアリングは、楕円形剛性カムの楕円形状に相似した楕円形に変形する。従って、楕円形剛性カムが可撓性外歯歯車に対して相対回転すると、可撓性外歯歯車における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴って可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とが歯数の相違分だけ差動する。
【0017】
ここで、本発明では、可撓性ベアリングのうち、リテーナの内部には周方向に連続した環状空間が形成され、この環状空間には、ベアリングボールのラジアル方向における中間部分が収容されると共に、環状の固形潤滑材が封止されている。そして、リテーナに保持されたベアリングボールの一部が、リテーナの内外周面に開放したボール露出孔から突出してインナーリング及びアウターリングに突き当たり、その状態で、リテーナの内外周面とインナーリング及びアウターリングとの間に、それぞれクリアランスが設けられている。これにより、楕円形剛性カムが固形潤滑材(可撓性ベアリング)に対して回転した場合に、従来のように楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクが増大することがなくなる。即ち、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができる。
【0018】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、可撓性外歯歯車と可撓性ベアリングは、楕円形剛性カムの楕円形状に相似した楕円形に変形する。従って、楕円形剛性カムが可撓性外歯歯車に対して相対回転すると、可撓性外歯歯車における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴って可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とが歯数の相違分だけ差動する。
【0019】
ここで、本発明では、可撓性ベアリングは内周面側が開放しかつその開放口がインナーリングにて閉塞された溝構造のリテーナを備え、このリテーナとインナーリングとに囲まれた環状空間には、ベアリングボールのラジアル方向における中間部分が収容されると共に、環状の固形潤滑材が封止されている。
【0020】
そして、リテーナに保持されたベアリングボールの一部は、リテーナの外周壁に開放したボール露出孔から突出してアウターリングに突き当たり、その状態で、アウターリングとリテーナの外周壁との間にはクリアランスが設けられている。これにより、楕円形剛性カムが固形潤滑材(可撓性ベアリング)に対して回転した場合に、従来のように楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクが増大することがなくなる。即ち、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができる。
【0021】
[請求項3の発明]
請求項3の構成によれば、可撓性外歯歯車と可撓性ベアリングは、楕円形剛性カムの楕円形状に相似した楕円形に変形する。従って、楕円形剛性カムが可撓性外歯歯車に対して相対回転すると、可撓性外歯歯車における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴って可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とが歯数の相違分だけ差動する。
【0022】
ここで、本発明では、可撓性ベアリングは外周面側が開放しかつその開放口がアウターリングにて閉塞された溝構造のリテーナを備え、このリテーナとインナーリングとに囲まれた環状空間には、ベアリングボールのラジアル方向における中間部分が収容されると共に、環状の固形潤滑材が封止されている。
【0023】
そして、リテーナに保持されたベアリングボールの一部は、リテーナの内周壁に開放したボール露出孔から突出してインナーリングに突き当たり、その状態で、インナーリングとリテーナの内周壁との間にはクリアランスが設けられている。これにより、楕円形剛性カムが固形潤滑材(可撓性ベアリング)に対して回転した場合に、従来のように楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクが増大することがなくなる。即ち、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができる。
【0024】
[請求項4の発明]
請求項4の構成のように、流動性を有する固形潤滑剤の原料をリテーナに備えられた充填口から環状空間に充填し、環状空間内で固形化させることで、環状空間内に封止された環状の固形潤滑材が出来上がる。
【0025】
[請求項5の発明]
請求項5の構成によれば、1対のリテーナ構成体をアキシアル方向で合体させ、合体保持機構で合体状態に保持させることで、複数のベアリングボールをリテーナにて保持することができる。
【0026】
[請求項6の発明]
請求項6の構成によれば、可撓性外歯歯車と可撓性ベアリングは、楕円形剛性カムの楕円形状に相似した楕円形に変形する。従って、楕円形剛性カムが可撓性外歯歯車に対して相対回転すると、可撓性外歯歯車における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴って可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とが歯数の相違分だけ差動する。
【0027】
ここで、本発明では、可撓性ベアリングに備えた環状の固形潤滑材は、アウターリングとインナーリングとの間にモールド成形されているので、周方向で厚みにばらつきが生じ得るが、この固形潤滑材のうち、アキシアル方向を向いた側面には、その周方向に沿って連続した環状溝が形成されている。この環状溝により、楕円形剛性カムの回転によりその長軸と固形潤滑材の厚肉部位とがすれ違う際に、厚肉部位を容易に圧縮変形させることが可能となり、トルクの増大を抑えることができる。即ち、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができる。
【0028】
[請求項7の発明]
請求項7の構成によれば、可撓性外歯歯車と可撓性ベアリングは、楕円形剛性カムの楕円形状に相似した楕円形に変形する。従って、楕円形剛性カムが可撓性外歯歯車に対して相対回転すると、可撓性外歯歯車における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴って可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とが歯数の相違分だけ差動する。
【0029】
ここで、本発明では、可撓性ベアリングに備えた環状の固形潤滑材は、アウターリングとインナーリングとの間にモールド成形されているので、周方向で厚みにばらつきが生じ得るが、この固形潤滑材のうち、アキシアル方向を向いた側面には、その周方向に均一に複数の凹部が形成されている。これら凹部により、楕円形剛性カムの回転によりその長軸と固形潤滑材の厚肉部位とがすれ違う際に、厚肉部位を容易に圧縮変形させることが可能になり、トルクの増大を抑えることができる。即ち、楕円形剛性カムを回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができる。
【0030】
[請求項8の発明]
波動歯車減速機は、可撓性外歯歯車から軸方向に延長されたトルク伝達筒部と、そのトルク伝達筒部の端部から内側又は外側に屈曲した端部固定壁とを備えて、その端部固定壁と剛性内歯歯車とを、機械装置の入力部と出力部とにそれぞれ連結してもよいし、請求項8の発明のように、剛性内歯歯車と歯数が異なるサブ剛性内歯歯車を、剛性内歯歯車と同軸上かつ隣り合わせに配置すると共に、可撓性外歯歯車を、剛性内歯歯車及びサブ剛性内歯歯車の両方に噛合させて、剛性内歯歯車をサブ剛性内歯歯車に対して差動可能に構成し、剛性内歯歯車とサブ剛性内歯歯車とを、機械装置の入力部と出力部とにそれぞれ連結してもよい。
【0031】
[請求項9及び10の発明]
請求項9及び10の伝達比可変操舵装置は、上記した本発明に係る波動歯車減速機を備えているので、楕円形剛性カムを回転駆動するためのモータの負荷トルクが安定する。これにより、モータの発熱や異音を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1に示すように、車両10のうち1対の前輪11,11(本発明に係る「転舵輪」に相当する)の間にはラック12が差し渡され、そのラック12の両端部がタイロッド13,13を介して各前輪11,11に連結されている。また、ラック12は、車両本体14に固定されたラックケース12Cに直動可能に収容され、そのラックケース12Cの中間部に備えたピニオン15と噛合している。
【0033】
ピニオン15とハンドル16とは、ステアリングシャフト17によって連結されている。そのステアリングシャフト17は、ハンドル16側の第1ステアリングシャフト18と、ピニオン15側の第2ステアリングシャフト19とからなる。それら第1と第2のステアリングシャフト18,19の間に、本発明に係る伝達比可変操舵装置20が取り付けられている。なお、伝達比可変操舵装置20は、図示しないエンジンルームと運転席とを区画するコラム14Cより運転席側に配置されている。
【0034】
図2には、伝達比可変操舵装置20の詳細構造が示されている。同図に示すように、伝達比可変操舵装置20は、第1ステアリングシャフト18に連結された円筒ハウジング21(本発明に係る「入力側ハウジング」に相当する)を備え、その円筒ハウジング21の内部にモータ25と波動歯車減速機30とが収容されている。また、円筒ハウジング21の上端部には、円環状のケーブルケース22が設けられ、このケーブルケース22内には、渦巻き状に巻回されたスパイラルケーブル23が収容されている。そして、スパイラルケーブル23の一端が端子金具23Tを介してモータ25に接続され、他端がケーブルケース22の外面に備えた図示しないコネクタを介して操舵制御装置60(図1参照)に接続されている。
【0035】
図2に示すように、モータ25のステータ25Sは、円筒ハウジング21に固定され、そのステータ25Sの下端面から下方にロータ25Rが突出している。そして、そのロータ25Rが波動歯車減速機30に連結されている。
【0036】
波動歯車減速機30は、本発明の「サブ剛性内歯歯車」に相当する第1のサーキュラスプライン31と、本発明の「剛性内歯歯車」に相当する第2のサーキュラスプライン32とを同軸上に隣り合わせにして備えている。第1及び第2の両サーキュラスプライン31,32の内周面には複数の内歯がそれぞれ形成され、それらの歯数は、第1のサーキュラスプライン31より第2のサーキュラスプライン32の方が、1つ又は2つだけ少なくなっている。なお、第1と第2の両サーキュラスプライン31,32の歯底径及び歯先径は略同一になっている。
【0037】
第1のサーキュラスプライン31は、ステータ25Sの下端面に隣接配置され、円筒ハウジング21の内周面に圧入固定されている。一方、第2のサーキュラスプライン32は、第1のサーキュラスプライン31の下方に配置され、円筒ハウジング21の内周面に設けたメタル軸受32Jに回転可能に軸支されている。また、第2のサーキュラスプライン32の下面は、出力シャフト24の上端部に備えたフランジ24Fに連結され、その出力シャフト24の下端部が第2ステアリングシャフト19(図1参照)に連結されている。
【0038】
図3に示すように、第1及び第2の両サーキュラスプライン31,32の内側には、本発明の「可撓性外歯歯車」に相当するフレクスプライン33が配置されている。フレクスプライン33は、両サーキュラスプライン31,32に比べて可撓性が高い材料で円筒状に形成されて、第1及び第2の両サーキュラスプライン31,32に跨って延びている。
【0039】
フレクスプライン33の外周面には、第1のサーキュラスプライン31の内歯と同数の複数の外歯が形成されている。また、フレクスプライン33の外歯のうち歯幅方向における半分は第1のサーキュラスプライン31の内歯に対向する一方、残りの半分は第2のサーキュラスプライン32の内歯に対向している。そして、フレクスプライン33は内側に備えたウェーブジェネレータ50により楕円形状に変形され、その楕円の短軸線上における2箇所でフレクスプライン33の外歯と、第1及び第2の両サーキュラスプライン31,32の内歯とが噛合している。
【0040】
なお、波動歯車減速機30のうち図3に示したフレクスプライン33と両サーキュラスプライン31,32との間には、比較的高粘度の潤滑剤(例えば、グリース)が使用されている。
【0041】
ウェーブジェネレータ50は、楕円形剛性カム35の外側に可撓性ベアリング34を嵌合してなる。楕円形剛性カム35は、図4に示すように、円形に近い楕円形状になっている。なお、図4においてL1は、楕円形の長軸であり、L2は楕円形の短軸であり、L3は、フレクスプライン33が内接する真円である。楕円形剛性カム35の中心部には貫通孔35Aが形成され、その貫通孔35Aの内面には、一般的な回り止め用のスプライン35Sが形成されている。また、図3に示したモータ25のロータ25Rに固定された連結盤25Tの外周面にもスプライン(図示せず)が形成されている。そして、連結盤25Tを貫通孔35A内に嵌合して、ロータ25Rと楕円形剛性カム35とが一体回転可能に連結されている。
【0042】
可撓性ベアリング34は、楕円形剛性カム35に比べて可撓性が高い材料で構成されたアウターリング40とインナーリング41とを有している。そして、それらアウターリング40とインナーリング41との間には、複数のベアリングボール42と共に、それら複数のベアリングボール42を周方向で均等配置した状態に保持するためのリテーナ43が収容されている。
【0043】
インナーリング41は、楕円形剛性カム35の外周面に嵌合される一方、アウターリング40は、フレクスプライン33の内周面33Aに嵌合されている。これにより、インナーリング41、アウターリング40及びフレクスプライン33がそれぞれ楕円形剛性カム35にほぼ相似した楕円形に変形している。そして、インナーリング41とアウターリング40との間では、長軸L1方向における間隔S1が最も狭くなっており、短軸L2側に近づくに従って徐々に広くなって、短軸L2方向における間隔S2が最も広くなっている。
【0044】
図3に示すように、可撓性ベアリング34の両側部にはサイドプレート37,37が設けられている。サイドプレート37,37は、全体が楕円形剛性カム35に相似した楕円形状になっている。また、サイドプレート37,37及び楕円形剛性カム35には、それらを重ねた状態で軸方向に貫通した貫通孔36Aが形成されている。そして、両サイドプレート37,37と楕円形剛性カム35の楕円形の長軸同士を一致させた状態にして貫通孔36Aにリベット36を挿通し、それらリベット36をかしめてサイドプレート37,37が楕円形剛性カム35に固定されている。
【0045】
また、本実施形態では、図3に示すように、可撓性ベアリング34のインナーリング41及びアウターリング40が、楕円形剛性カム35と略同一の幅(軸長)になっており、フレクスプライン33が、アウターリング40より両側方に幅広になっている。
【0046】
これらに対し、サイドプレート37,37は全体として平板状をなしており、楕円形剛性カム35の側面とインナーリング41の側面とに密着すると共に、インナーリング41とリテーナ43との間で側方に段付き状(クランク状)に屈曲してアウターリング40の側方まで延びている。これにより、インナーリング41がサイドプレート37,37の間に挟まれて楕円形剛性カム35に対して軸方向で固定されている。また、リテーナ43がサイドプレート37,37によって可撓性ベアリング34内に抜け止めされている。さらに、サイドプレート37,37の先端部の内側面37B,37Bが、リテーナ43及びアウターリング40の両側面にクリアランスを介して対向すると共に、サイドプレート37,37の先端周面37A,37Aが、フレクスプライン33のうちアウターリング40から露出した内周面にクリアランスを介して対向している。
【0047】
なお、図3に示すように、連結盤25Tには、楕円形剛性カム35の幅と同一幅で大径部が形成され、その大径部の両端が段付き状に縮径した小径部になっている。これに対し、各サイドプレート37の中心部には中心孔37Gが形成され、各サイドプレート37における中心孔37Gの開口縁が、連結盤25Tの両端部に備えた段差部に当接している。これにより、両サイドプレート37,37が連結盤25Tを軸方向で挟んで楕円形剛性カム35に抜け止めしている。
【0048】
以上の構成により、楕円形剛性カム35がモータ25によって回転駆動されると、アウターリング40及びフレクスプライン33において楕円形の長軸が周方向で移動し、これに伴ってフレクスプライン33と両サーキュラスプライン31,32との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、楕円形剛性カム35が1回転したときに、第2のサーキュラスプライン32が第1のサーキュラスプライン31に対して歯数の相違分だけ差動し、出力シャフト24が円筒ハウジング21に対して相対回転する。
【0049】
その相対回転角度は、モータ25の回転角によって変更され、そのモータ25は、操舵制御装置60(図1参照)によって駆動制御されている。具体的には、操舵制御装置60は、図1に示すように、操舵角センサ61にて検出したハンドル16の操舵角と、車速センサ62にて検出した車速とを取り込み、伝達比可変操舵装置20が第1ステアリングシャフト18から第2ステアリングシャフト19に伝達する伝達比を決定する。そして、決定された伝達比と第1ステアリングシャフト18から伝達比可変操舵装置20に入力される入力操舵角とに基づいて、伝達比可変操舵装置20が第2ステアリングシャフト19に出力する出力操舵角を演算して、その出力操舵角に応じて操舵制御装置60がモータ25を駆動制御する。
【0050】
ところで、本実施形態の波動歯車減速機30のうち、可撓性ベアリング34に備えたリテーナ43の内部には、フレクスプライン33と両サーキュラスプライン31,32との間に使用された潤滑剤とは異なるベアリング用の潤滑剤が封止されている。具体的には、リテーナ43は、中空の角筒の両端部同士を繋いで環状にした構造をなしており、その内部に、周方向に連続したリテーナ内環状空間44(請求項1の発明に係る「環状空間」に相当する。以下、単に「環状空間44」という)が形成されている。この環状空間44に、複数のベアリングボール42の一部が収容されると共に、ベアリング用の潤滑剤としての固形潤滑材45が封止されている。
【0051】
より詳細には、図6(A)に示すように、環状空間44には、ベアリングボール42のうちラジアル方向における中間部分が収容され、その残りの空間に、固形潤滑材45がほぼ隙間無く詰まっている。固形潤滑材45は、例えば、潤滑油と、加熱或いは溶剤に溶かすことで液状にしたポリマー(合成樹脂、例えば、ポリプロピレン)との混合物を原料としている。この原料を、リテーナ43に形成された充填口49(図5を参照)から環状空間44に流し込み、その後、冷却又は加熱により固化させることで、環状空間44に封止された環状構造の固形潤滑材45が出来上がる。なお、充填口49は、1つでもよいし、本実施形態のように2つ以上でもよい。
【0052】
また、リテーナ43の内外周面には、径方向で対をなした複数のボール露出孔46,46が周方向に均等に形成されており、それらボール露出孔46から、リテーナ43に保持された各ベアリングボール42の一部が突出している。図6(A)に示すように、ベアリングボール42のうち、リテーナ43の内周面から突出した部分はインナーリング41の外周面に形成された軌道溝に嵌り込み、リテーナ43の外周面から突出した部分はアウターリング40の内周面に形成された軌道溝に嵌り込んでいる。その状態で、リテーナ43の内外周面と、インナーリング41及びアウターリング40との間には、それぞれ環状のクリアランス(間隙部)47,47が形成されている。即ち、リテーナ43は、インナーリング41及びアウターリング40に対してそれぞれクリアランス47,47を介して対向している。
【0053】
さらに、リテーナ43は、そのリテーナ43をアキシアル方向(図6(A)及び同図(B)における上下方向)の中間位置で分割してなる1対のリテーナ構成体48,48を合体させた構造をなしており、それら1対のリテーナ構成体48,48によって複数のベアリングボール42を挟んで保持している。図5に示すように、両リテーナ構成体48は、共に環状溝構造をなしている。詳細には、両リテーナ構成体48,48は、環状の内周壁48A及び外周壁48Bと、それらの一端縁同士を全周に亘って連絡した環状端部壁48Cとから構成されている。そして、両リテーナ構成体48,48の環状端部壁48Cとは反対側の開放口同士を突き合わせて合体することで、内部に環状空間44を有した中空のリテーナ43が構成されている。
【0054】
内周壁48A及び外周壁48Bには、開放口側に開放した半円形の切り欠き部48Dが周方向に等間隔に形成されており、1対のリテーナ構成体48,48の開放口同士を突き合わせて合体させると、両リテーナ構成体48,48に形成された切り欠き部48D,48D同士も合体して、それぞれ円形のボール露出孔46が形成される。なお、リテーナ43のうち、ボール露出孔46の開口縁はベアリングボール42の表面に摺接可能に密着している。
【0055】
さらに、図6(B)に示すように、各リテーナ構成体48,48の内周壁48A及び外周壁48Bの開口縁のうち、切り欠き部48D以外の部分には、内側に突出したリップ48Rが形成されており、リテーナ構成体48,48が合体すると、これらリップ48R,48Rが突き当たる。その状態で、環状空間44内に充填した固形潤滑材45の原料が固形化して固形潤滑材45が形成されると、その固形潤滑材45とリテーナ構成体48,48のリップ48R,48Rとが凹凸係合する。これにより1対のリテーナ構成体48,48が合体状態(リテーナ48が分解不可能)に保持される。なお、このリップ48Rが本発明の「合体保持機構」に相当する。
【0056】
本実施形態の構成に関する説明は以上である。次に、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態の伝達比可変操舵装置20に備えた波動歯車減速機30では、上述したようにフレクスプライン33と可撓性ベアリング34のアウターリング40とが、楕円形剛性カム35の楕円形状に相似した楕円形に変形する。そして、楕円形剛性カム35がモータ25により回転駆動されると、アウターリング40及びフレクスプライン33における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴ってフレクスプライン33と両サーキュラスプライン31,32との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、両サーキュラスプライン31,32とが歯数の相違分だけ差動する。このとき、サイドプレート37,37と可撓性ベアリング34のインナーリング41は楕円形剛性カム35と一体回転し、可撓性ベアリング34のアウターリング40はフレクスプライン33と一体回転する。また、ベアリングボール42がインナーリング41とアウターリング40との間で転動することにより、楕円形剛性カム35とリテーナ43とが相対回転する。
【0057】
そして、本実施形態の構成によれば、リテーナ43内部の環状空間44に固形潤滑材45が封止され、そのリテーナ43とインナーリング41及びアウターリング40との間にそれぞれクリアランス47,47が設けられているから、楕円形剛性カム35の回転により、その楕円形造成カム35がリテーナ43(固形潤滑材45)に対して回転しても、従来のように楕円形剛性カム35を回転駆動する際の負荷トルクが変動することは無い。即ち、楕円形剛性カム35を回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができ、楕円形剛性カム35を回転駆動させるモータ25の発熱や異音を抑えることができる。これにより、静粛性が向上し、伝達比可変操舵装置20をコラム14Cより運転席側に配置することが可能になる。
【0058】
また、固形潤滑材45の原料は、リテーナ43の環状空間44内に充填されるので、固形潤滑材45がベアリングボール42の軌道溝に入り込むことはなく、ベアリングボール42が軌道溝に入り込んだ固形潤滑材に乗り上がることによる振動や負荷トルクの変動を防止することができる。
【0059】
また、サイドプレート37,37は、可撓性ベアリング34におけるリテーナ43の抜け止めにも兼用されているので部品点数の削減が図られる。さらには、サイドプレート37の先端周面は、フレクスプライン33の内周面にクリアランスを介して対峙しているので、万が一、可撓性ベアリング34が破損した場合に、サイドプレート37の先端周面をフレクスプライン33の内周面に摺接させて波動歯車減速機30を動作させることもできる。
【0060】
[第2実施形態]
この第2実施形態は、可撓性ベアリング34のリテーナの構造が、上記第1実施形態とは異なる。即ち、本実施形態のリテーナ243は、図7に示すように内周面側に開放した断面「コ」の字状の溝構造をなしており、その開放口243Aが、インナーリング41の外周面にて閉塞されている。これにより、リテーナ243とインナーリング41とに囲まれて周方向に連続したインナーリング・リテーナ間環状空間244(請求項2の発明に係る「環状空間」に相当する。以下、単に「環状空間244」という)が形成されている。環状空間244には複数のベアリングボール42が収容され、その残りの空間に固形潤滑材45が充填されている。また、リテーナ243の外周壁243Bには複数のボール露出孔46が周方向に等間隔に形成されており、ここからベアリングボール42の一部がアウターリング40側に突出して、アウターリング40の軌道溝に嵌り込んでいる。その状態で、リテーナ243の外周壁243Bとアウターリング40との間には、環状のクリアランス47が形成されている。即ち、リテーナ243は、インナーリング41に摺接可能に密着する一方、アウターリング40に対してクリアランス47を介して対向している。
【0061】
そして、楕円形剛性カム35が回転すると、ベアリングボール42がインナーリング41とアウターリング40との間で転動し、それに伴いリテーナ243がインナーリング41の外周面に摺接しつつ楕円形剛性カム35と相対回転する。その他の構成は、第1実施形態と同一であるので、同一部位に同一符号を付して重複した説明は省略する。
【0062】
本実施形態によれば、リテーナ243とインナーリング41とに囲まれた環状空間244に固形潤滑材45が封止され、そのリテーナ243とアウターリング40との間にはクリアランス47が設けられているから、楕円形剛性カム35の回転により、楕円形剛性カム35と固形潤滑材45(リテーナ243)とが相対回転した際に、負荷トルクが変動することがない。従って、上記第1実施形態と同等の効果を奏する。
【0063】
[第3実施形態]
この第3実施形態は、可撓性ベアリング34のリテーナの構造が、上記第2実施形態とは異なる。即ち、本実施形態のリテーナ343は、図8に示すように、外周面側に開放した断面「コ」の字状の溝構造をなしており、その開放口343Aが、アウターリング40の内周面にて閉塞されている。これにより、リテーナ343とアウターリング40とに囲まれて周方向に連続したアウターリング・リテーナ間環状空間344(請求項3の発明に係る「環状空間」に相当する。以下、単に「環状空間344」という)が形成されている。環状空間344には複数のベアリングボール42が収容されると共に、そのベアリングボール42を収容した残りの空間に固形潤滑材45が充填されている。また、リテーナ343の内周壁343Bには複数のボール露出孔46が周方向に等間隔に形成されている。ここからベアリングボール42の一部がインナーリング41側に突出して、インナーリング41の軌道溝に嵌り込んでいる。その状態で、リテーナ343の内周壁343Bとインナーリング41との間には、環状のクリアランス47が形成されている。即ち、リテーナ343は、アウターリング40に摺動可能に密着する一方、インナーリング41に対してクリアランス47を介して対向している。
【0064】
そして、楕円形剛性カム35が回転すると、ベアリングボール42がインナーリング41とアウターリング40との間で転動し、それに伴いリテーナ343がアウターリング40の内周面に摺接しつつ楕円形剛性カム35と相対回転する。その他の構成は、第1実施形態と同一であるので、同一部位に同一符号を付して重複した説明は省略する。
【0065】
本実施形態によれば、リテーナ343とアウターリング40とに囲まれた環状空間344に固形潤滑材45が封止され、そのリテーナ343とインナーリング41との間にはクリアランス47が設けられているから、楕円形剛性カム35の回転により、楕円形剛性カム35と固形潤滑材45(リテーナ343)とが相対回転した際に、負荷トルクが変動することがない。従って、上記第1及び第2実施形態と同等の効果を奏する。
【0066】
[第4実施形態]
この第4実施形態は、可撓性ベアリング34の構造が上記第1実施形態とは異なる。以下、第1実施形態と異なる構成に関してのみ説明し、同一の構成に関しては第1実施形態と同一符号を付して重複した説明は省略する。
【0067】
図9に示すように、可撓性ベアリング34は、公知な構造のリテーナ443によって複数のベアリングボール42を保持している。本実施形態のリテーナ443は、例えば、ベアリングボール42のラジアル方向の中央部分を転動可能に保持する複数のボール保持部を周方向に均等配置して、それらボール保持部同士を連結した構造をなしている。
【0068】
可撓性ベアリング34のうち、インナーリング41とアウターリング40との間には、周方向で連続した環状の固形潤滑材45がモールド成形されている。即ち、可撓性ベアリング34を楕円形剛性カム45の外側に嵌合した状態(可撓性ベアリング34が楕円形剛性カム45にほぼ相似した楕円形に変形した状態)で、インナーリング41とアウターリング40との間に、固形潤滑材45の原料(潤滑油と液状ポリマーとの混合物)を充填し、そのまま固化させることで固形潤滑材45がインナーリング41とアウターリング40との間に設けられている。そのため、固形潤滑材45の厚みは、インナーリング41とアウターリング40との間隔とほぼ一致しており、周方向において若干のばらつきが生じ得る。詳細には、インナーリング41とアウターリング40との間隔は、上述したように楕円形剛性カム35の長軸L1方向で最小で、短軸L2方向で最大になっているので、固形潤滑材45のうち、モールド成形時に楕円形剛性カム35の長軸L1方向に位置していた部位は薄肉であり、短軸L2方向に位置していた部位は、厚肉となっている。そして、本実施形態では、固形潤滑材45のうち、アキシアル方向(図9における上下方向)における両側部に、側方に開放しかつ周方向に連続した環状溝70,70が形成されている。なお、環状溝70,70は、断面凹字状をなし、その環状溝70,70の底部からは、リテーナ343の一部が突出している。
【0069】
次に本実施形態の動作を説明する。本実施形態の伝達比可変操舵装置20に備えた波動歯車減速機30では、フレクスプライン33と可撓性ベアリング34は、楕円形剛性カム35の楕円形状に相似した楕円形に変形する。従って、楕円形剛性カム35がモータ25によりフレクスプライン33に対して相対回転すると、フレクスプライン33における楕円形の長軸位置が回転し、これに伴ってフレクスプライン33とサーキュラスプライン31,32との噛合位置が周方向で移動していく。これにより、フレクスプライン33とサーキュラスプライン31,32とが歯数の相違分だけ差動する。また、ベアリングボール42がインナーリング41とアウターリング40との間で転動することにより、楕円形剛性カム35とリテーナ443及び固形潤滑材45とが相対回転する。
【0070】
そして本実施形態の構成によれば、可撓性ベアリング34に備えた環状の固形潤滑材45は、アウターリング40とインナーリング41との間にモールド成形されているので、周方向において厚みにばらつきが生じ得るが、固形潤滑材45のうち、アキシアル方向を向いた両側面には、その周方向に沿って連続した環状溝70,70が形成されている。この環状溝70,70により、楕円形剛性カム35の長軸L1と固形潤滑材45の厚肉部位とがすれ違う際に、その厚肉部位を容易に圧縮変形させることが可能となり、楕円形剛性カム35を回転させるためのトルクの増大を抑えることができる。即ち、楕円形剛性カム35を回転駆動する際の負荷トルクを安定させることができ、モータ25の発熱や異音を抑えることができる。これにより、静粛性が向上し、伝達比可変操舵装置20をコラム14Cより運転席側に配置することが可能になる。
【0071】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0072】
(1)上記実施形態では、固形潤滑材45の原料として、潤滑油と液状にしたポリマーとの混合物を例示したが、リテーナ内への充填時に流動性を有し、リテーナ内で固形化できればよい。例えば、潤滑油と粉体状の合成樹脂との混合物でもよい。
【0073】
(2)前記第4実施形態では、環状溝70を固形潤滑材45の両側面に形成していたが、一方の側面だけに形成してもよい。また、環状溝70の断面形状は、図9に示した矩形状に限るものではなく、図10(A)に示すようにU字状や同図(B)に示すようにV字状であってもよい。
【0074】
(3)また、図11に示すように、環状溝70の代わりに複数の凹所71,71を、固形潤滑材45の側面に周方向に均等に形成してもよい。このとき、凹所71を固形潤滑材45の厚肉部位だけに限定して形成してもよい。
【0075】
(4)前記実施形態では、歯数が異なる第1と第2のサーキュラスプライン31,32を備えて両サーキュラスプライン31,32を、機械装置の入力部と出力部とに連結していたが、波動歯車減速機の構造としては、フレクスプラインから軸方向に延長されたトルク伝達筒部と、そのトルク伝達筒部の端部から内側又は外側に屈曲した端部固定壁とを備えて、その端部固定壁とサーキュラスプラインとを、機械装置の入力部と出力部とに連結する構成としてもよい。
【0076】
(5)前記実施形態の伝達比可変操舵装置20は、円筒ハウジング21を第1ステアリングシャフト18と一体回転可能に連結し、その円筒ハウジング21に第1のサーキュラスプライン31を固定した構成であったが、以下のような構成としてもよい。即ち、図12に示すように、円筒ハウジング21を車両本体14に固定し、第1ステアリングシャフト18を円筒ハウジング21に対して相対回転可能に保持させると共に、第1ステアリングシャフト18の下端部に第1又は第2のサーキュラスプライン31,32のうちの一方(本実施例では第1のサーキュラスプライン31)を一体に設ける。また、モータ25のステータ25Sをハウジング21に固定する一方、ロータ25Rを第1ステアリングシャフト18の外側に相対回転可能に嵌合して波動歯車減速機30(楕円形剛性カム35)に連結する。そして、出力シャフト24に、第1又は第2のサーキュラスプライン31,32のうちの他方(本実施例では第2のサーキュラスプライン32)を固定する。本実施例において、第1のステアリングシャフト18は請求項10の発明に係る「入力軸」に相当し、出力シャフト24は請求項10の発明に係る「出力軸」に相当し、ロータ25Rは請求項10の発明に係る「回転軸」に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の概念図
【図2】伝達比可変操舵装置の側断面図
【図3】波動歯車減速機の拡大側断面図
【図4】波動歯車減速機のウェーブジェネレータの正面図
【図5】可撓性ベアリングの分解斜視図
【図6】(A)可撓性ベアリングの部分拡大側断面図、(B)可撓性ベアリングの部分拡大側断面図
【図7】第2実施形態に係る可撓性ベアリングの部分拡大側断面図
【図8】第3実施形態に係る可撓性ベアリングの部分拡大側断面図
【図9】第4実施形態に係る可撓性ベアリングの部分拡大側断面図
【図10】変形例に係る可撓性ベアリングの部分拡大側断面図
【図11】変形例に係る可撓性ベアリングの部分断面斜視図
【図12】変形例に係る伝達比可変操舵装置の側断面図
【符号の説明】
【0078】
10 車両
11,11 前輪(転舵輪)
12 ラック
15 ピニオン
16 ハンドル
20 伝達比可変操舵装置
21 円筒ハウジング(入力側ハウジング)
24 出力シャフト(出力側ハウジング)
25 モータ
30 波動歯車減速機
31 第1のサーキュラスプライン(サブ剛性内歯歯車)
32 第2のサーキュラスプライン(剛性内歯歯車)
33 フレクスプライン(可撓性外歯歯車)
34 可撓性ベアリング
35 楕円形剛性カム
37 サイドプレート
40 アウターリング
40M 環状溝
41 インナーリング
42 ベアリングボール
43,243,343 リテーナ
43A 充填口
44 リテーナ内環状空間(環状空間)
45 固形潤滑材
46 ボール露出孔
47 クリアランス
48 リテーナ構成体
48R リップ(合体保持機構)
70 環状溝
243 リテーナ
243A 開放口
243B 外周壁
244 インナーリング・リテーナ間環状空間(環状空間)
343 リテーナ
343A 開放口
343B 内周壁
344 アウターリング・リテーナ間環状空間(環状空間)
443 リテーナ
L1 長軸
L2 短軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性内歯歯車と、その内側に配置されかつ前記剛性内歯歯車と歯数が異なる可撓性外歯歯車と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリングと、さらにその内側に嵌合されて前記可撓性外歯歯車及び前記可撓性ベアリングを楕円形に変形させる楕円形剛性カムとを備え、
前記可撓性外歯歯車が前記剛性内歯歯車に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を前記楕円形剛性カムの回転により周方向に移動して前記可撓性外歯歯車と前記剛性内歯歯車とを差動させることが可能な波動歯車減速機において、
前記可撓性ベアリングのアウターリングとインナーリングとの間には、複数のベアリングボールを周方向で均等配置して保持するリテーナが備えられ、
そのリテーナは、周方向に連続した環状空間を内部に有し、前記可撓性ベアリングのラジアル方向で前記各ベアリングボールの中間部分を前記環状空間内に収容すると共に、前記各ベアリングボールの一部を前記リテーナの内外周面からそれぞれ突出させるための複数のボール露出孔を備え、
前記リテーナの内外周面と前記インナーリング及び前記アウターリングとの間にはそれぞれクリアランスが設けられ、
前記環状空間の内部には、潤滑油を樹脂に含有してなる環状の固形潤滑材が封止されたことを特徴とする波動歯車減速機。
【請求項2】
剛性内歯歯車と、その内側に配置されかつ前記剛性内歯歯車と歯数が異なる可撓性外歯歯車と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリングと、さらにその内側に嵌合されて前記可撓性外歯歯車及び前記可撓性ベアリングを楕円形に変形させる楕円形剛性カムとを備え、
前記可撓性外歯歯車が前記剛性内歯歯車に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を前記楕円形剛性カムの回転により周方向に移動して前記可撓性外歯歯車と前記剛性内歯歯車とを差動させることが可能な波動歯車減速機において、
前記可撓性ベアリングのアウターリングとインナーリングとの間には、複数のベアリングボールを周方向で均等配置して保持するリテーナが備えられ、
そのリテーナは、内周面側が開放しかつその開放口が前記インナーリングにて閉塞された溝構造にされ、それらリテーナと前記インナーリングとに囲まれた環状空間の内部に前記各ベアリングボールを収容すると共に、前記開放口と反対側の外周壁に前記各ベアリングボールの一部を前記アウターリング側に突出させるための複数のボール露出孔を備え、
前記リテーナの外周壁と前記アウターリングとの間にはクリアランスが設けられ、
前記環状空間の内部には、潤滑油を樹脂に含有してなる環状の固形潤滑材が封止されたことを特徴とする波動歯車減速機。
【請求項3】
剛性内歯歯車と、その内側に配置されかつ前記剛性内歯歯車と歯数が異なる可撓性外歯歯車と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリングと、さらにその内側に嵌合されて前記可撓性外歯歯車及び前記可撓性ベアリングを楕円形に変形させる楕円形剛性カムとを備え、
前記可撓性外歯歯車が前記剛性内歯歯車に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を前記楕円形剛性カムの回転により周方向に移動して前記可撓性外歯歯車と前記剛性内歯歯車とを差動させることが可能な波動歯車減速機において、
前記可撓性ベアリングのアウターリングとインナーリングとの間には、複数のベアリングボールを周方向で均等配置して保持するリテーナが備えられ、
そのリテーナは、外周面側が開放しかつその開放口が前記アウターリングにて閉塞された溝構造にされ、それらリテーナと前記アウターリングとに囲まれた環状空間の内部に前記各ベアリングボールを収容すると共に、前記開放口と反対側の内周壁に前記各ベアリングボールの一部を前記インナーリング側に突出させるための複数のボール露出孔を備え、
前記リテーナの内周壁と前記インナーリングとの間にはクリアランスが設けられ、
前記環状空間の内部には、潤滑油を樹脂に含有してなる環状の固形潤滑材が封止されたことを特徴とする波動歯車減速機。
【請求項4】
前記リテーナには、流動性を有した前記固形潤滑材の原料を前記環状空間内に充填するための充填口が備えられたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の波動歯車減速機。
【請求項5】
前記リテーナは、そのリテーナを前記可撓性ベアリングのアキシアル方向の中間で分割してなる1対のリテーナ構成体で構成されると共に、それら1対のリテーナ構成体を合体させた状態に保持するための合体保持機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の波動歯車減速機。
【請求項6】
剛性内歯歯車と、その内側に配置されかつ前記剛性内歯歯車と歯数が異なる可撓性外歯歯車と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリングと、さらにその内側に嵌合されて前記可撓性外歯歯車及び前記可撓性ベアリングを楕円形に変形させる楕円形剛性カムとを備え、
前記可撓性外歯歯車が前記剛性内歯歯車に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を前記楕円形剛性カムの回転により周方向に移動して前記可撓性外歯歯車と前記剛性内歯歯車とを差動させることが可能な波動歯車減速機において、
前記可撓性ベアリングのアウターリングとインナーリングとの間には、複数のベアリングボールを周方向で均等配置して保持するリテーナが備えられ、
前記リテーナは、前記アウターリングと前記インナーリングとの間の中央で前記ベアリングボールを保持し、
潤滑油を含有した樹脂を、前記アウターリングと前記インナーリングとの間で周方向に連続した環状構造にモールド成形してなる環状の固形潤滑材を設け、
前記固形潤滑材のうち前記可撓性ベアリングのアキシアル方向を向いた側面には、その周方向に沿って連続した環状溝が形成されたことを特徴とする波動歯車減速機。
【請求項7】
剛性内歯歯車と、その内側に配置されかつ前記剛性内歯歯車と歯数が異なる可撓性外歯歯車と、さらにその内側に嵌合された可撓性ベアリングと、さらにその内側に嵌合されて前記可撓性外歯歯車及び前記可撓性ベアリングを楕円形に変形させる楕円形剛性カムとを備え、
前記可撓性外歯歯車が前記剛性内歯歯車に対して部分的に噛合し、それらの噛合位置を前記楕円形剛性カムの回転により周方向に移動して前記可撓性外歯歯車と前記剛性内歯歯車とを差動させることが可能な波動歯車減速機において、
前記可撓性ベアリングのアウターリングとインナーリングとの間には、複数のベアリングボールを周方向で均等配置して保持するリテーナが備えられ、
前記リテーナは、前記アウターリングと前記インナーリングとの間の中央で前記ベアリングボールを保持し、
潤滑油を含有した樹脂を、前記アウターリングと前記インナーリングとの間で周方向に連続した環状構造にモールド成形してなる環状の固形潤滑材を設け、
前記固形潤滑材のうち前記可撓性ベアリングのアキシアル方向を向いた側面には、その周方向に均一に複数の凹部が形成されたことを特徴とする波動歯車減速機。
【請求項8】
前記剛性内歯歯車と歯数が異なるサブ剛性内歯歯車を、前記剛性内歯歯車と同軸上かつ隣り合わせに配置すると共に、前記可撓性外歯歯車を、前記剛性内歯歯車及び前記サブ剛性内歯歯車の両方に噛合させて、前記剛性内歯歯車を前記サブ剛性内歯歯車に対して差動可能としたことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の波動歯車減速機。
【請求項9】
請求項8に記載の波動歯車減速機と、
前記剛性内歯歯車又は前記サブ剛性内歯歯車の一方に固定されかつ車両のハンドルに連結された入力側ハウジングと、
前記剛性内歯歯車又は前記サブ剛性内歯歯車の他方に固定されかつ前記車両の転舵輪にラックアンドピニオン機構を介して連結された出力側ハウジングと、
前記入力側ハウジングに取り付けられ、前記楕円形剛性カムを回転駆動するためのモータとを備え、
前記ハンドルから前記ラックアンドピニオン機構のピニオンへの操舵角の伝達比を車速に応じて変更することを特徴とする伝達比可変操舵装置。
【請求項10】
請求項8に記載の波動歯車減速機と、
前記剛性内歯歯車又は前記サブ剛性内歯歯車の一方に固定されかつ車両のハンドルに連結された入力軸と、
前記剛性内歯歯車又は前記サブ剛性内歯歯車の他方に固定されかつ前記車両の転舵輪にラックアンドピニオン機構を介して連結された出力軸と、
前記入力軸及び前記出力軸と同軸上に回転軸が配置され、前記楕円形剛性カムを回転駆動するためのモータとを備え、
前記ハンドルから前記ラックアンドピニオン機構のピニオンへの操舵角の伝達比を車速に応じて変更することを特徴とする伝達比可変操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−208866(P2008−208866A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44057(P2007−44057)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】