説明

波形記録装置

【課題】正確な信号波形を表示または印刷可能なデータを短時間で確実に記録する。
【解決手段】入力信号を信号処理する信号処理部と、処理後信号をA/D変換するA/D変換部と、指定された処理条件に従って入力信号を信号処理させると共にA/D変換部によってA/D変換されたデジタル信号のサンプリング値をデータ記録部に時系列に順次記録させる波形記録処理10を実行する制御部とを備え、制御部は、記録処理10の実行中に新たな処理条件が指定されたときに(ステップ14)、新たな処理条件に従って入力信号を信号処理させると共に、新たな処理条件が指定されたことを特定可能な第1の情報(値が「1」の変更フラグ)を、新たな処理条件に従って信号処理された最初のサンプリング値に対応付けて記録させ(ステップ16)、かつ、新たな処理条件の内容を特定可能な第2の情報(設定情報)を第1の情報に対応付けて記録させる(ステップ17)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号を信号処理した後にA/D変換したデジタル信号の値を記録部に記録させる波形記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特開平6−137901号公報には、波形信号をサンプリングして記録する波形記録装置が開示されている。この波形記録装置は、装置外部から入力された波形信号(以下、「入力信号」ともいう)を増幅または減衰する(すなわち、測定レンジを切り替えて信号処理する)可変増幅器、および可変増幅器から出力された増幅後または減衰後の信号(以下、「処理後信号」ともいう)をA/D変換するA/D変換器をチャネルCH1〜CH4の4つのチャネル毎にそれぞれ備えている。また、この波形記録装置では、各A/D変換器から出力されたデジタル波形信号の値を制御部が記録計に記録させたり、デジタル波形信号に対応する信号波形を表示器に表示させたりする構成が採用されている。
【0003】
具体的には、この波形記録装置では、制御部が、タイムスケール、レンジおよびチャネル数等の初期設定情報をメモリから読み出して可変増幅器等を制御すると共に、可変増幅器によって信号処理されてA/D変換器によってA/D変換されたデジタル波形信号の値を記録計に出力して順次記録させる。また、制御部は、デジタル波形信号の値と初期設定情報とに基づいて表示データを作成し、作成した表示データに基づいて表示器に信号波形を表示させる。なお、この波形記録装置では、タブレットの操作によって信号波形の表示態様を変更することができるように構成されているが、この表示態様の変更操作に関する説明を省略する。これにより、デジタル波形信号の記録、およびデジタル波形信号に基づく信号波形の表示が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−137901号公報(第2−4頁、第1−3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の波形記録装置には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来の波形記録装置では、可変増幅器が入力信号を増幅または減衰して処理後信号を生成し、A/D変換器(A/D変換部)が処理後信号をA/D変換してデジタル波形信号を生成し、制御部がデジタル波形信号の値を記録計に記録させたり、デジタル波形信号に対応する信号波形を表示器(表示部)に表示させたりする構成が採用されている。この場合、この種の波形記録装置によるデジタル波形信号の値(以下、「波形データ」ともいう)の記録や波形データに基づく信号波形の表示に際しては、入力信号の電圧変化に伴い、可変増幅器による信号処理条件を変更する必要が生じることがある。
【0006】
具体的には、一例として、入力信号の電圧値の記録中(または、表示中)に電圧値が徐々に上昇して、A/D変換部の入力定格範囲を超えそうになったときに、信号処理条件が変更されなかったとき(可変増幅器による入力信号の信号増幅率が維持されたとき)には、A/D変換部に入力される電圧が入力定格を超えた時点以降において、A/D変換部から出力される波形データ(デジタル波形信号の値)が入力定格の上限値で一定(飽和)となってしまう。したがって、この例においては、入力信号の電圧値がA/D変換部の入力定格範囲を超えそうになったときに、可変増幅器による信号増幅率を低下させる(または、減衰させる)ように処理条件を変更する必要が生じる。
【0007】
この場合、この種の波形記録装置には、A/D変換部から出力された波形データを記録する波形記録処理中に、A/D変換部に入力する信号を信号処理する回路(上記の波形記録装置における可変増幅器等)の処理条件が変更されたときに、そのまま波形記録処理を続行するタイプの装置と、処理条件の変更前に実行していた波形記録処理において記録した波形データを破棄して新たな処理条件に従って波形記録処理を最初から実行するタイプの装置とが存在する。
【0008】
また、この種の波形記録装置では、例えば、波形データの記録後に信号波形を表示部に表示させたり印刷部に印刷させたりする際に、記録した波形データと、その波形データの記録時における入力信号の処理条件についての情報とに基づいて、各時点における入力信号の測定値(上記の例における電圧値)を演算する構成が採用されている。このため、この種の波形記録装置では、波形記録処理の開始時点において設定されている処理条件(従来の波形記録装置における「初期設定情報」)、または、波形記録処理の終了時点において設定されている処理条件のいずれかを、一連の記録処理で記録した各波形データに対応付けて記録する構成が採用されている。
【0009】
したがって、波形記録処理中に処理条件が変更されたときに波形記録処理を続行するタイプの波形記録装置では、変更前の処理条件に従って信号処理された処理後信号についての波形データ(以下、「条件変更前のデータ」ともいう)と、変更後の処理条件に従って信号処理された処理後信号についての波形データ(以下、「条件変更後のデータ」ともいう)との双方に対して、変更前の処理条件、および変更後の処理条件のいずれかが対応付けて記録されることとなる。このため、このタイプの波形記録装置では、信号波形の表示や印刷に際して、条件変更前のデータに基づく信号波形、および条件変更後のデータに基づく信号波形のいずれか一方が、その値の記録時の処理条件とは相違する処理条件に基づいて演算される結果、条件変更前のデータに基づく信号波形、および条件変更後のデータに基づく信号波形のいずれか一方については、正確に表示または印刷することができないという問題点がある。
【0010】
一方、波形記録処理中に処理条件が変更されたときに新たな処理条件に従って波形記録処理を最初から実行するタイプの波形記録装置では、記録される各波形データに対応付けて新たな処理条件が記録されるため、処理条件が変更されたときに波形記録処理を続行するタイプの波形記録装置に存在する上記の問題点が解消されている。しかしながら、このタイプの波形記録装置では、処理条件を変更する都度、変更前に記録した波形データが破棄されてしまう。このため、対象とする入力信号についての波形記録処理を再び実行することができないとき(例えば、記録対象の信号が1度しか発生しないとき)には処理条件を変更することができず、また、波形記録処理を再び実行することができるときにおいても、処理条件の変更前に実行した波形記録処理の分だけ、所望のデータ量の波形データを得るのに要する時間が長くなるという問題点が存在する。
【0011】
本発明は、かかる問題点や改善すべき課題に鑑みてなされたものであり、正確な信号波形を表示または印刷可能なデータを短時間で確実に記録し得る波形記録装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく請求項1記載の波形記録装置は、入力信号を信号処理する信号処理部と、当該信号処理部によって信号処理された処理後信号をA/D変換するA/D変換部と、指定された処理条件に従って前記信号処理部を制御して前記入力信号を信号処理させると共に前記A/D変換部によってA/D変換されたデジタル信号の値をデータ記録部に時系列に順次記録させる波形記録処理を実行する制御部とを備えた波形記録装置であって、前記制御部は、前記波形記録処理中に新たな前記処理条件が指定されたときに、当該新たな処理条件に従って前記信号処理部を制御して前記入力信号を信号処理させると共に、当該新たな処理条件が指定されたことを特定可能な第1の情報を、当該新たな処理条件に従って信号処理されて最初にA/D変換された前記デジタル信号の値に対応付けて前記記録部に記録させ、かつ、当該新たな処理条件の内容を特定可能な第2の情報を前記第1の情報に対応付けて前記記録部に記録させる。
【0013】
また、請求項2記載の波形記録装置は、請求項1記載の波形記録装置において、前記制御部は、前記波形記録処理中に新たな前記処理条件が指定されたときに、前記記録部に記録させたいずれの前記第2の情報に対応する前記処理条件に従って信号処理された前記処理後信号をA/D変換した前記デジタル信号の値であるかを特定可能な第3の情報を当該各デジタル信号の値にそれぞれ対応付けて前記記録部に記録させる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の波形記録装置によれば、新たな処理条件が指定されたことを特定可能な第1の情報を、新たな処理条件に従って信号処理して最初にA/D変換したデジタル信号の値に対応付けて記録させ、かつ、新たな処理条件の内容を特定可能な第2の情報を第1の情報に対応付けて記録させることにより、信号処理部による信号処理の処理条件が変更されたときにデジタル信号の値(サンプリング値)の記録処理を継続したとしても、各サンプリング値がどのような処理条件に従って信号処理された処理後信号についてのデジタル信号のサンプリング値であるかを確実に特定することができる。このため、条件変更前のサンプリング値に基づく信号波形、および条件変更後のサンプリング値に基づく信号波形の双方を正確に表示または印刷することができる。また、信号処理部による信号処理の処理条件を変更する必要が生じたときにサンプリング値の記録処理を続行することができるため、記録処理を再び実行することができないとき(例えば、記録対象の入力信号が1度しか発生しないとき)であっても、処理条件を任意に変更することができると共に、信号処理の処理条件を変更する以前に記録したサンプリング値を破棄することなく、正確な信号波形を表示または印刷可能な情報として利用することができるため、信号処理の処理条件を変更する以前に記録したサンプリング値を破棄するのと比較して、所望のデータ量のサンプリング値を得るのに要する時間を充分に短縮することができる。
【0015】
また、請求項2記載の波形記録装置によれば、波形記録処理中に新たな処理条件が指定されたときに、記録させたいずれの第2の情報に対応する処理条件に従って信号処理した処理後信号をA/D変換したデジタル信号の値であるかを特定可能な第3の情報を各デジタル信号の値にそれぞれ対応付けて記録させることにより、各サンプリング値が時系列に順次記録されたデータを途中から参照して信号波形を表示させたり印刷させたりするときであっても、参照を開始したサンプリング値がどのような処理条件に従って信号処理された処理後信号についてのデジタル信号のサンプリング値であるかを確実に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】波形記録装置1のブロック図である。
【図2】入力信号Siと波形データDwおよび設定情報Dsに基づく信号波形Wとの関係について説明するための波形図である。
【図3】波形データDwの一例について説明するための説明図である。
【図4】設定情報Dsの一例について説明するための説明図である。
【図5】波形記録処理10のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る波形記録装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示す波形記録装置1は、信号処理部2、A/D変換部3、操作部4、表示部5、印刷部6、記録部7、制御部8および記憶部9を備え、入力信号Siについてのデジタル信号Dd(「A/D変換部によってA/D変換されたデジタル信号」の一例)のサンプリング値を波形データDwとして記録可能に構成されている。信号処理部2は、入力信号Siを増幅または減衰させるアンプ回路や、入力信号Siについてのフィルタリング処理を実行するフィルタリング回路を備え(図示せず)、制御部8の制御に従って入力信号Siを信号処理して処理後信号Saを出力する。A/D変換部3は、信号処理部2によって信号処理された処理後信号SaをA/D変換してデジタル信号Ddを生成する。
【0019】
操作部4は、波形記録装置1の動作条件(波形記録処理の開始条件および終了条件や、信号処理部2による信号処理の処理条件等)を設定するための操作スイッチなど(図示せず)を備え、スイッチ操作に応じた操作信号を制御部8に出力する。表示部5は、制御部8の制御に従い、波形記録装置1の動作条件を設定するための動作条件設定画面(図示せず)や、後述するように記録部7に記録した波形データDw(図3参照)および設定情報Ds(図4参照)に基づく信号波形W(図2参照)を表示する信号波形表示画面(図示せず)を表示する。なお、本例の波形記録装置1では、信号波形表示画面等を表示するための表示部5を備えて構成されているが、外部装置としての「表示部」に信号波形表示画面等を表示させる構成を採用することもできる。
【0020】
印刷部6は、制御部8の制御に従い、上記の信号波形W等を印刷する。なお、本例の波形記録装置1では、信号波形W等を印刷する印刷部6を備えて構成されているが、外部装置としての「印刷部」に信号波形W等を印刷させる構成を採用することもできる。記録部7は、「データ記録部」に相当し、一例として、ハードディスクドライブや、不揮発性メモリ等の記憶媒体を備えて構成されて、制御部8の制御に従って波形データDwや設定情報Dsなどを記録する。なお、本例の波形記録装置1では、波形データDwや設定情報Dsを記録する記録部7を備えて構成されているが、外部装置としての「データ記録部」に波形データDwや設定情報Dsを記録させる構成を採用することもできる。
【0021】
制御部8は、波形記録装置1を総括的に制御する。具体的には、制御部8は、操作部4のスタートスイッチが操作されたときや、予め設定された開始条件(設定された開始時刻が到来したとの条件、および設定されたトリガ条件を満たす入力信号Siが入力されたとの条件)が満たされたときに、図5に示す波形記録処理10を実行して、入力信号Siについての波形データDwや、その波形データDwの記録時に信号処理部2が実行した信号処理の処理条件についての設定情報Dsを記録部7に記録させる。また、制御部8は、表示部5を制御して、記録部7に記録させた波形データDwおよび設定情報Dsに基づく信号波形Wを表示させる。さらに、制御部8は、印刷部6を制御して、記録部7に記録させた波形データDwおよび設定情報Dsに基づく信号波形Wを印刷させる。
【0022】
この場合、図3に示すように、波形データDwは、A/D変換部3から出力されたデジタル信号Ddを予め設定された周期でサンプリングしたサンプリング値(「デジタル信号の値」の一例)と、そのサンプリング値のデジタル信号Ddが生成された時点において信号処理部2による処理条件が変更されたか否かを特定するための変更フラグと、そのサンプリング値のデジタル信号Ddが生成された時点において信号処理部2が実行していた処理条件を特定するための設定情報番号とが時系列に記録されて構成されている。なお、この波形記録装置1では、後述するように、波形記録処理10の実行中に新たな処理条件が指定されたときに、新たな処理条件に従って信号処理されて最初にA/D変換されたデジタル信号Ddのサンプリング値に対応付けて、値が「1」の変更フラグ(「第1の情報」の一例)が記録される構成が採用されている。
【0023】
また、設定情報Dsは、「第2の情報」の一例に相当すると共に、上記の波形データDwにおける設定情報番号と相俟って「第3の情報」を構成する。この設定情報Dsは、図4に示すように、設定(指定)されていた処理条件の設定値(増幅率または減衰率や、フィルタリング処理の内容等)を特定可能な情報(同図における「設定値0」〜「設定2」の各設定値)が記録されて構成されている。この場合、本例の波形記録装置1では、一例として、波形記録処理10の開始時点において設定されていた処理条件の設定値(同図における「設定0」の設定値)を先頭にして、最初に処理条件が変更された際に設定された処理条件の設定値(同図における「設定1」の設定値)、および次に処理条件が変更された際に設定された処理条件の設定値(同図における「設定2」の設定値)が設定情報Dsとして順次追記されることにより、各時点における信号処理の処理条件を特定することが可能となっている。一方、記憶部9は、信号処理部2から出力されたデジタル信号Ddや、制御部8の演算結果を一時的に記憶する。
【0024】
この波形記録装置1による記録処理に際しては、まず、一例として、操作部4を操作して、開始条件および終了条件や、開始時点において信号処理部2が実行する信号処理の処理条件等を設定する。この際には、一例として、開始条件として任意の開始時刻を設定し、終了条件として処理開始から10分が経過した時点との条件を設定し、記録条件として、入力信号Siの電圧値を1秒間隔で記録するとの条件を設定し、開始時点において信号処理部2が実行する信号処理の処理条件として、入力信号Siを10倍の増幅率で増幅し、かつフィルタリング処理を実行しないとの条件を設定する。また、記録対象の入力信号Siを出力する対象体に信号処理部2を接続した状態において、上記の開始条件が満たされたときには、制御部8が、図5に示す波形記録処理10を開始する。
【0025】
この波形記録処理10では、制御部8は、まず、波形記録処理10の開始時点において指定されていた信号処理部2による信号処理の処理条件(初期の処理条件)を設定情報Dsの第1レコードに記録する(ステップ11)。次いで、制御部8は、入力信号Siについてのサンプリング処理を実行する(ステップ12)。具体的には、制御部8は、指定された処理条件に従って信号処理部2を制御して入力信号Siを信号処理させる(この例では、10倍の増幅率で入力信号Siを増幅させる)と共に、A/D変換部3が処理後信号SaをA/D変換したデジタル信号Ddの値を設定された周期(この例では、1秒間隔)でサンプリングする。
【0026】
また、制御部8は、サンプリングした値(サンプリング値)を時系列に順次記録する(波形データDwの記録:ステップ13)。この場合、この波形記録装置1では、記録処理の開始時点から、信号処理部2による信号処理の処理条件が変更される(新たな処理条件が指定される)までの間においてサンプリングしたサンプリング値については、制御部8が、値が「0」の変更フラグを、そのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する。また、初期の処理条件に従って信号処理部2に信号処理させている状態においてサンプリングしたサンプリング値については、設定情報番号として「0」の値を、そのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する。
【0027】
次いで、制御部8は、信号処理部2による信号処理の処理条件が変更されたか否か(新たな処理条件が指定されたか否か)を判別し(ステップ14)、変更されていないときには、設定された終了条件(この例では、開始から10分が経過したとの条件)が満たされたか否かを判別する(ステップ15)。この際には、終了条件が満たされていない(開始から10分が経過していない)と判別し、制御部8は、上記のサンプリング(ステップ12)、サンプリング値等の記録(ステップ13)、処理条件の変更の有無の判別(ステップ14)、および終了条件が満たされたか否かの判別(ステップ15)を繰り返して実行する。
【0028】
一方、図2に示すように、記録処理を開始した時点t0から所定時間が経過して入力信号Siの電圧値が徐々に上昇し、信号処理部2において10倍の増幅率で増幅した処理後信号SaがA/D変換部3の入力定格範囲を超えそうになったとき(一例として、時点t1)には、信号処理部2による信号処理の処理条件を変更する(新たな処理条件の指定)。具体的には、一例として、入力信号Siを5倍の増幅率で増幅し、かつフィルタリング処理を実行しないとの処理条件を指定することで、入力信号Siの増幅率を低下させる。
【0029】
この際に、制御部8は、新たな処理条件が指定された時点t1aにおいて、処理条件が変更されたと判別し(ステップ14)、新たな処理条件に従って信号処理部2を制御して入力信号Siを信号処理させる(この例では、5倍の増幅率で入力信号Siを増幅させる)。また、制御部8は、図3に示すように、値が「1」の変更フラグ(「新たな処理条件が指定されたことを特定可能な第1の情報」の一例)を、新たな処理条件に従って信号処理されて最初にA/D変換されたデジタル信号Ddについてのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する(ステップ16)。また、制御部8は、図4に示すように、新たな処理条件の内容を特定可能にその処理条件の情報(この例では、5倍の増幅率で増幅し、かつフィルタリング処理を実行しないとの情報:「設定1」の設定値)を設定情報Dsに追記すると共に、図3に示すように、その設定条件を示す「1」の値を設定情報番号としてサンプリング値に対応付けて記録する(ステップ17)。
【0030】
次いで、制御部8は、設定された終了条件(この例では、開始から10分が経過したとの条件)が満たされたか否かを判別する(ステップ15)。この際には、終了条件が満たされていない(開始から10分が経過していない)と判別し、制御部8は、上記のサンプリング(ステップ12)、サンプリング値等の記録(ステップ13)、処理条件の変更の有無の判別(ステップ14)、および終了条件が満たされたか否かの判別(ステップ15)を繰り返して実行する。
【0031】
この際に、この波形記録装置1では、新たな処理条件が指定されてから、次に新たな処理条件が指定される(他の新たな処理条件が指定される)まで、または、記録処理が終了するまでの間においてサンプリングしたサンプリング値については、制御部8が、値が「0」の変更フラグを、そのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する。また、この波形記録装置1では、新たに指定された処理条件に従って信号処理部2に信号処理させている状態においてサンプリングしたサンプリング値については、設定情報番号として「1」の値を、そのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する。
【0032】
また、図2に示すように、設定条件を変更した時点t1aから所定時間が経過して入力信号Siの電圧値が徐々に低下し、信号処理部2において5倍の増幅率で増幅した処理後信号SaがA/D変換部3の入力定格範囲の下限値の近傍となったとき(一例として、時点t2)には、A/D変換部3の分解能における下限値近傍の変換能力だけが利用される状態となる。したがって、このような状態となったときには、A/D変換部3の分解能を無駄なく利用して詳細な情報を得るために、信号処理部2による信号処理の処理条件を変更する(新たな処理条件の指定)。具体的には、一例として、入力信号Siを20倍の増幅率で増幅し、かつフィルタリング処理を実行しないとの処理条件を指定することで、入力信号Siの増幅率を上昇させる。
【0033】
この際に、制御部8は、新たな処理条件が指定された時点t2aにおいて、処理条件が変更されたと判別し(ステップ14)、新たな処理条件に従って信号処理部2を制御して入力信号Siを信号処理させる(この例では、20倍の増幅率で入力信号Siを増幅させる)。また、制御部8は、図3に示すように、値が「1」の変更フラグ(「新たな処理条件が指定されたことを特定可能な第1の情報」の他の一例)を、新たな処理条件に従って信号処理されて最初にA/D変換されたデジタル信号Ddについてのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する(ステップ16)。また、制御部8は、図4に示すように、新たな処理条件の内容を特定可能にその処理条件の情報(この例では、20倍の増幅率で増幅し、かつフィルタリング処理を実行しないとの情報:「設定2」の設定値)を設定情報Dsに追記すると共に(ステップ17)、図3に示すように、その設定条件を示す「2」の値を設定情報番号としてサンプリング値に対応付けて記録する。
【0034】
次いで、制御部8は、設定された終了条件(この例では、開始から10分が経過したとの条件)が満たされたか否かを判別する(ステップ15)。この際には、終了条件が満たされていない(開始から10分が経過していない)と判別し、制御部8は、上記のサンプリング(ステップ12)、サンプリング値等の記録(ステップ13)、処理条件の変更の有無の判別(ステップ14)、および終了条件が満たされたか否かの判別(ステップ15)を繰り返して実行する。
【0035】
この際に、この波形記録装置1では、新たな処理条件が指定されてから、次に新たな処理条件が指定される(他の新たな処理条件が指定される)まで、または、記録処理が終了するまでの間においてサンプリングしたサンプリング値については、制御部8が、値が「0」の変更フラグを、そのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する。また、この波形記録装置1では、新たに指定された処理条件に従って信号処理部2に信号処理させている状態においてサンプリングしたサンプリング値については、設定情報番号として「2」の値を、そのサンプリング値に対応付けて波形データDw内に記録する。この後、制御部8は、制御部8は、波形記録処理10の開始から10分が経過した時点t3において、設定された終了条件が満たされたと判別し(ステップ15)、この波形記録処理10を終了する。
【0036】
この波形記録装置1では、入力信号Siについての各サンプリング値を時系列に記録した波形データDwにおいて、信号処理部2による信号処理の処理条件が変更された時点に対応するサンプリング値に対応付けて「1」の変更フラグを記録すると共に、各サンプリング値が、設定情報Dsに記録したいずれの処理条件で信号処理した処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値であるかを特定可能に各サンプリング値毎に設定情報番号を記録している。したがって、各サンプリング値がどのような処理条件で信号処理された処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値であるかを確実に特定することができる。このため、入力信号Siについての信号波形Wを表示部5に表示させたり印刷部6に印刷させたりするときには、記録部7に記録した波形データDwおよび設定情報Dsに基づき、各時点の値が正確に再現される。
【0037】
具体的には、図2に示すように、初期の処理条件に従って入力信号Siを信号処理した処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値を記録した時点t0〜t1の間については、波形データDw内の各サンプリング値と、設定情報Dsにおける「設定0」の設定値とに基づき、信号波形W1が表示(または印刷)される。また、最初に変更された処理条件に従って入力信号Siを信号処理した処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値を記録した時点t1a〜t2aの間については、波形データDw内の各サンプリング値と、設定情報Dsにおける「設定1」の設定値とに基づき、信号波形W2が表示(または印刷)される。
【0038】
さらに、2番目に変更された処理条件に従って入力信号Siを信号処理した処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値を記録した時点t2a〜t3の間については、波形データDw内の各サンプリング値と、設定情報Dsにおける「設定2」の設定値とに基づき、信号波形W3が表示(または印刷)される。この際に、信号波形W1〜W3に対応させて、各設定条件の増幅率に対応するゲージ(測定したパラメータの値を示す目盛り:図2に示す「0V,5V,10V」、「0V,10V,20V」および「0V,2.5V,5V」等の目盛り)を表示(または印刷)することで、各信号波形W1〜W3を正確かつ容易に読み取らせることが可能となる。
【0039】
このように、この波形記録装置1では、新たな処理条件が指定されたことを特定可能な「第1の情報(本例では、波形データDwにおける値が「1」の「変更フラグ」)」を、新たな処理条件に従って信号処理して最初にA/D変換したデジタル信号Ddの値に対応付けて記録させ、かつ、新たな処理条件の内容を特定可能な「第2の情報(本例では、設定情報Ds内の各情報)」を上記の「第1の情報」に対応付けて記録させる。
【0040】
したがって、この波形記録装置1によれば、信号処理部2による信号処理の処理条件が変更されたときにデジタル信号Ddのサンプリング値の記録処理(波形データDwの記録処理)を継続したとしても、各サンプリング値がどのような処理条件に従って信号処理された処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値であるかを確実に特定することができる。このため、条件変更前のサンプリング値に基づく信号波形、および条件変更後のサンプリング値に基づく信号波形の双方を正確に表示または印刷することができる。また、信号処理部2による信号処理の処理条件を変更する必要が生じたときにサンプリング値(波形データDw)の記録処理を続行することができるため、記録処理を再び実行することができないとき(例えば、記録対象の入力信号Siが1度しか発生しないとき)であっても、処理条件を任意に変更することができると共に、信号処理の処理条件を変更する以前に記録した波形データDwを破棄することなく、正確な信号波形を表示または印刷可能な情報として利用することができるため、信号処理の処理条件を変更する以前に記録した波形データを破棄するのと比較して、所望のデータ量の波形データDwを得るのに要する時間を充分に短縮することができる。
【0041】
また、この波形記録装置1によれば、波形記録処理10の実行中に新たな処理条件が指定されたときに、記録させたいずれの「第2の情報」に対応する処理条件に従って信号処理した処理後信号SaをA/D変換したデジタル信号Ddの値であるかを特定可能な「第3の情報(本例では、波形データDwにおける「設定情報番号」)」を各デジタル信号Ddの値にそれぞれ対応付けて記録させることにより、各サンプリング値が時系列に順次記録された波形データDwを途中から参照して信号波形Wを表示させたり印刷させたりするときであっても、参照を開始したサンプリング値がどのような処理条件に従って信号処理された処理後信号Saについてのデジタル信号Ddのサンプリング値であるかを確実に特定することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、波形データDwおよび設定情報Dsに基づく信号波形Wを表示部5に表示させたり印刷部6に印刷させたりする構成の波形記録装置1を例に挙げて説明したが、入力信号Siについての波形データDwや設定情報Dsを記録するだけで、信号波形Wの表示や印刷に関しては、外部装置としての波形表示装置や波形印刷装置にデータを出力して実行させる構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1 波形記録装置
2 信号処理部
3 A/D変換部
4 操作部
5 表示部
6 印刷部
7 記録部
8 制御部
9 記憶部
10 波形記録処理
Dd デジタル信号
Dw 波形データ
Ds 設定情報
Sa 処理後信号
Si 入力信号
W,W1〜W3 信号波形
t0〜t3 時点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を信号処理する信号処理部と、当該信号処理部によって信号処理された処理後信号をA/D変換するA/D変換部と、指定された処理条件に従って前記信号処理部を制御して前記入力信号を信号処理させると共に前記A/D変換部によってA/D変換されたデジタル信号の値をデータ記録部に時系列に順次記録させる波形記録処理を実行する制御部とを備えた波形記録装置であって、
前記制御部は、前記波形記録処理中に新たな前記処理条件が指定されたときに、当該新たな処理条件に従って前記信号処理部を制御して前記入力信号を信号処理させると共に、当該新たな処理条件が指定されたことを特定可能な第1の情報を、当該新たな処理条件に従って信号処理されて最初にA/D変換された前記デジタル信号の値に対応付けて前記記録部に記録させ、かつ、当該新たな処理条件の内容を特定可能な第2の情報を前記第1の情報に対応付けて前記記録部に記録させる波形記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記波形記録処理中に新たな前記処理条件が指定されたときに、前記記録部に記録させたいずれの前記第2の情報に対応する前記処理条件に従って信号処理された前記処理後信号をA/D変換した前記デジタル信号の値であるかを特定可能な第3の情報を当該各デジタル信号の値にそれぞれ対応付けて前記記録部に記録させる請求項1記載の波形記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76635(P2013−76635A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216581(P2011−216581)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】