波長分散発生装置
【課題】任意の波長について高い精度で波長分散を発生させることのできる波長分散発生装置を提供する。
【解決手段】本波長分散発生装置は、入射光を波長に応じて異なる方向に出射することが可能なVIPA板1と、VIPA板1から出射される各波長の光を予め設定した位置で反射してVIPA板1に戻す3次元ミラー7と、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度を制御する制御部10と、を備える。制御部10は、記憶回路14に記憶された、特定波長についての複数の波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置に関するデータおよび波長分散スロープ値、並びに、所定の波長グリッド上の各波長についての複数の波長分散値に対応したVIPA板1の温度に関するデータおよび波長温度係数を基に、任意の波長および波長分散値に対応した3次元ミラー7の目標位置およびVIPA板1の目標温度を演算して、各々を最適化する。
【解決手段】本波長分散発生装置は、入射光を波長に応じて異なる方向に出射することが可能なVIPA板1と、VIPA板1から出射される各波長の光を予め設定した位置で反射してVIPA板1に戻す3次元ミラー7と、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度を制御する制御部10と、を備える。制御部10は、記憶回路14に記憶された、特定波長についての複数の波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置に関するデータおよび波長分散スロープ値、並びに、所定の波長グリッド上の各波長についての複数の波長分散値に対応したVIPA板1の温度に関するデータおよび波長温度係数を基に、任意の波長および波長分散値に対応した3次元ミラー7の目標位置およびVIPA板1の目標温度を演算して、各々を最適化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所要の波長分散を発生して光信号の波長分散補償や光通信装置の波長分散耐力測定などを行うことのできる波長分散発生装置に関し、特に、入力光を波長に応じて分波する機能を備えた光部品を利用して構成した波長分散発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、例えば、敷設されシングルモードファイバ(SMF)等の波長分散特性に対して逆特性を持つ分散補償ファイバ(DCF)を用いて波長分散補償が行われる。DCFは、その長さに応じて波長分散値が調整されるため、予め所要の波長分散を補償するのに必要なファイバ総長が計算されて、長さの異なる複数のDCFリールが用意されることが多い。このため、システムの設置現場では、持ち込んだDCFリールの組み合わせでしか波長分散値を設定することができず、最適な波長分散補償を実現することが困難な場合があった。
【0003】
このようなDCFに対し、波長分散値を自在に設定できるようにした波長分散補償器の1つとして、例えば、入力光を波長に応じて空間的に区別可能な複数の光束に分波する、いわゆるバーチャリ・イメージド・フェーズド・アレイ(Virtually Imaged Phased Array:VIPA)を利用して構成した波長分散補償器が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
図13は、従来のVIPA型波長分散補償器の構成例を示す斜視図である。また、図14は、図13の構成例の上面図である。
【0005】
各図に示すように従来のVIPA型波長分散補償器では、例えば、光サーキュレータ120を介して光ファイバ130の一端から出射された光が、コリメートレンズ140で平行光に変換された後に、ライン焦点レンズ150によって1つの線分の上に集光され、VIPA板110の照射窓116を通って対向する平行平面の間に入射される。このVIPA板110への入射光は、例えば、VIPA板110の一方の平面に形成された100%より低い反射率を有する反射多層膜112と、他方の平面に形成された略100%の反射率を有する反射多層膜114との間で多重反射を繰り返す。その際、反射多層膜112の面で反射するごとに数%の光が当該反射面を透過してVIPA板110の外に出射される。
【0006】
VIPA板110を透過した光は、相互に干渉し、波長に応じて進行方向が異なる複数の光束を作る。その結果、各光束を収束レンズ160で1点に集光すると、各々の集光位置は波長の変化に伴って直線上を移動するようになる。この直線上に例えば3次元ミラー170を配置することにより、VIPA板110から出射され収束レンズ160で集光された光は、各々の波長に応じて3次元ミラー170上の異なる位置で反射されてVIPA板110に戻される。3次元ミラー170で反射された光は元の光路を反対方向に伝搬するため、異なる波長成分は異なる距離を伝搬することになって、入力光の波長分散補償が行われる。
【0007】
上記のようにVIPA板110で多重反射される光の振る舞いは、例えば図15に示すようなモデルを考えると、階段状の回折格子として周知のエシュロン格子(Echelon grating)と同様の振る舞いをする。このため、VIPA板110は仮想的な回折格子として考えることができる。VIPA板110における干渉条件を考えると、図15の右側に示すように、出射光はその光軸を基準にして上側が短波長、下側が長波長の条件で干渉するので、各波長の光信号の短波長成分が光軸の上側に出射され、長波長成分が光軸の下側に出射されることになる。このような従来のVIPA型波長分散補償器は、波長分散を広い範囲で補償することができ、また、補償する光の波長(透過波長)を変化させることが可能であるといった長所がある。
【特許文献1】特開平9−43057号公報
【特許文献2】特表2000−511655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような従来のVIPA型波長分散補償器は、波長分散値や透過波長などの光学特性が同一のものであっても、VIPA光学系の構成部品の個々のばらつきにより、内部の設定値(例えば3次元ミラーの位置やVIPA板の温度など)は異なったものとなる。そこで、本出願人は、波長分散補償の運用を開始する前に、3次元ミラーの位置やVIPA板の温度に対応させて、各波長における波長分散値や透過波長特性に関するデータを取得して記憶し、運用時に、その記憶したデータのうちから波長分散値等の設定条件に対応したデータを読み取って3次元ミラーの位置やVIPA板の温度を制御する技術を提案している(例えば、特願2003−311083号参照)。
【0009】
しかし、上記の先願発明に関しては、基本的に、運用時に使用が想定されるすべての波長および波長分散値について予めデータを取得しておかなければならないため、より多くの波長および波長分散値に対応可能な汎用性の高いVIPA型波長分散補償器を実現しようとすると、データの取得に長時間を要してしまうという課題がある。
【0010】
また、上記のような従来のVIPA型波長分散補償器についての他の用途として、光通信に用いられるデバイスやモジュールの波長分散耐力測定に利用することが検討されており、このような用途では前述した図13の構成が任意の波長分散を発生させる波長分散エミュレータとして利用される。前述した波長分散補償の用途では、基本的にITU−T等に準拠した波長グリッドに対応する光信号が波長分散補償の対象となるため、グリッド上の各波長に対応させて上記データを取得し、それを記憶データとしておけばよい。一方、波長分散エミュレータとしての用途では、ITU−T等の波長グリッド上以外の波長で使用されるデバイスやモジュールについても波長分散耐力の測定対象となるため、任意の波長に対応した上記データを取得して記憶させておかなければならず、所望の測定精度を実現するにはデータの取得に要する時間が非常に長くなってしまうとともに大容量のメモリが必要になるという課題がある。
【0011】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、任意の波長について高い精度で波長分散を発生させることのできる波長分散発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため本発明は、相対する平行な2つの反射面を有する素子を含み、1次元方向に集光した光が前記素子の各反射面の間に入射され、該入射光が各反射面で多重反射されながらその一部が一方の反射面を透過して出射され、該出射光が干渉することにより波長に応じて進行方向の異なる光束が形成される分波機能を備えた光部品と、該光部品の一方の反射面から異なる方向に出射される各波長の光束を予め設定した位置で反射して前記光部品に戻す反射器とを備えて構成された波長分散発生装置を提供する。この波長分散発生装置は、所定の波長グリッド上の複数の波長のうちの特定波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記反射器の位置に関するデータを前記特定波長および波長分散スロープ値とともに記憶する第1領域と、前記波長グリッド上の各波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記光部品の温度に関するデータを前記波長グリッド上の各波長および波長温度係数とともに記憶する第2領域と、を有する記憶部と、運用時の波長および波長分散値が指定され、前記記憶部の第1領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を演算するとともに、前記記憶部の第2領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記光部品の目標温度を演算する演算部と、前記反射器の位置を前記演算部で演算された目標位置に一致させる位置制御部と、前記光部品の温度を前記演算部で演算された目標温度に一致させる温度制御部と、を備えて構成されたことを特徴とする。
【0013】
また、前記演算部は、前記指定された波長が前記波長グリッド上の各波長の間に存在するとき、前記記憶部の第1領域に記憶された波長分散スロープ値を用いて、前記指定された波長分散値を前記特定波長における波長分散値に変換した後、前記記憶部の第1領域に記憶された前記反射器の位置に関するデータを参照して、前記変換後の波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を求めるようにするのが好ましい。
【0014】
さらに、前記演算部は、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に最も近い波長を近傍グリッド波長とし、該近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照し、前記変換後の波長分散値に対応する前記光部品の温度を求め、該求めた温度を前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて前記指定された波長に対応する温度に変換することによって前記光部品の目標温度を求めるようにしてもよい。
【0015】
上記のような波長分散発生装置は、入力される光信号に累積した波長分散を補償可能な波長分散を発生する、波長分散補償器としての用途や、接続される光通信装置の波長分散耐力を測定可能な波長分散を発生する、波長分散エミュレータとしての用途に好適である。
【発明の効果】
【0016】
上記のような本発明の波長分散発生装置によれば、反射器の位置を制御するためのデータとして、特定波長についての少なくとも2つの波長分散値に対応した反射器の位置と波長分散スロープ値とを記憶部の第1領域に記憶し、光部品の温度を制御するためのデータとして、所定の波長グリッド上の各波長についての少なくとも2つの波長分散値に対応した光部品の温度と波長温度係数とを記憶部の第2領域に記憶しておくことで、任意の波長について精度良く波長分散を発生させることができる。このような波長分散発生装置は、運用開始前における光学特性データの取得を比較的短時間で行うことが可能であり、また、記憶部の大容量化を効果的に防ぐことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。
【0018】
図1は、本発明による波長分散発生装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1において、本実施形態の波長分散発生装置は、例えば、相対する平行な2つの反射面を有する素子としてのVIPA板1と、そのVIPA板1の照射窓1Dに対して一線分上に集光する光信号を入射可能にする、光サーキュレータ2、光ファイバ3、コリメートレンズ4およびライン焦点レンズ5からなる光学系と、VIPA板1で多重反射されて一方の平行平面から出射される光束を1点に集光する収束レンズ6と、その収束レンズ6で集光された光を所要の位置で反射し、収束レンズ6を介してVIPA板1に戻すための反射器としての3次元ミラー7と、VIPA板1を含む所要の光部品が内部に収納されるケース8と、VIPA板1の温度を測定する温度センサ9と、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度を制御する制御部10と、を備えて構成される。
【0020】
VIPA板1は、上述の図13〜図15に示した従来の構成で用いられるVIPA板110と同様に、対向する平行平面を備えたガラス板1Aと、そのガラス板1Aの一方の平行平面に形成された反射多層膜1Bと、他方の平行平面に形成された反射多層膜1Cおよび照射窓1Dと、を有する。このVIPA板1は、照射窓1Dに入射される光の光軸が垂直入射となる角度に対して所要の角度だけ傾けられている。
【0021】
ガラス板1Aは、線形熱膨張および温度に依存した屈折率変化を有する物質を用いて製作されている。反射多層膜1Bは、照射窓1Dから入射される光信号に対して100%より低い(好ましくは95〜98%程度)反射率を有し、ガラス板1Aの一方の平面全体に形成されている。また、反射多層膜1Cは、照射窓1Dから入射される光信号に対して略100%の反射率を有し、ガラス板1Aの他方の平面の一部分に形成されている。ガラス板1Aの他方の平面の反射多層膜1Cが形成されていない部分は、光信号に対して透明な照射窓1Dとなっている。
【0022】
光サーキュレータ2は、例えば、3つのポートを有し、第1ポートから第2ポートに向かう方向、第2ポートから第3ポートに向かう方向、第3ポートから第1ポートに向かう方向に光を伝達する一般的な光部品である。ここでは本波長分散発生装置に入力される光信号が、光サーキュレータ2の第1ポートに与えられ、第2ポートを介して光ファイバ3の一端に送られると共に、光ファイバ3の他端に戻されてきた光信号が、第2ポートを介して第3ポートから本波長分散発生装置の出力光として出力される。
【0023】
光ファイバ3は、例えばシングルモードファイバ等の一端を光サーキュレータ2の第2ポートに接続し、他端をコリメートレンズ4の近傍に配置したものである。なお、光ファイバ3の種類は上記に限られるものではない。
【0024】
コリメートレンズ4は、光ファイバ3の他端から出射される光ビームを平行光に変換してライン焦点レンズ5に与える一般的なレンズである。
【0025】
ライン焦点レンズ5は、コリメートレンズ4からの平行光を1つの線分の上に集光させるものであり、具体的にはシリンドリカルレンズや屈折率分布レンズなどを用いることが可能である。
【0026】
収束レンズ6は、VIPA板1で多重反射して反射多層膜1B側から出射され、相互に干渉して進行方向が波長に応じて異なる複数の光束をそれぞれ1点に集光する一般的なレンズである。
【0027】
3次元ミラー7は、例えば、表面形状が非球面の3次元構造となっており、その非球面ミラー上には設計基準となる中心軸が存在する。この3次元ミラー7は、移動ステージ7A上に載置されており、移動ステージ7Aの走行軸と中心軸の各方向(図1におけるX軸方向)とが平行となるように配置されている。移動ステージ7Aは、制御部10から出力される制御信号Cpに従って図示を省略したパルスモータ等を駆動することによりX軸方向に走行する。なお、ここではVIPA板1に照射される光信号の光軸方向をZ軸とし、VIPA板1から出射される光の角度分散方向に対して垂直方向をX軸、平行方向をY軸としている。
【0028】
ケース8は、例えば、図示を省略したフィルムヒータを側面に設けた円筒形の容器等であって、ここでは、コリメートレンズ4、ライン焦点レンズ5、VIPA板1および収束レンズ6が上記容器内部の所定の位置に収容されている。フィルムヒータは、その動作が制御部10からの制御信号Ctに従って制御される。
【0029】
温度センサ9は、例えば、VIPA板1の反射多層膜1Cの外側表面に取り付けられており、VIPA板1の温度に応じて内部抵抗値が変化するような一般的な温度センサが用いられる。この温度センサ9の抵抗値を示す信号Rtは制御部10に出力される。なお、温度センサ9の取り付け場所は上記の位置に限られるものではなく、VIPA板1の温度が測定可能な任意の場所に取り付けることが可能である。
【0030】
制御部10は、例えば、3次元ミラー7の位置を最適化する位置制御部としての移動ステージ制御回路11と、VIPA板1の温度を最適化する温度制御部としての温度制御回路12と、移動ステージ制御回路11および温度制御回路12を制御するマイクロコンピュータ13と、後述するような手順に従って事前に取得した本装置の光学特性データを不揮発性メモリ等に記憶させた記憶部としての記憶回路14と、を備える。マイクロコンピュータ13は、外部通信コネクタ10Aを介して入力される設定指令に従って記憶回路14に記憶された光学特性データを読み出し、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度の目標値を演算して、その結果を移動ステージ制御回路11および温度制御回路12に伝える演算部としての機能をもつ。
【0031】
ここで、制御部10の具体的な構成例を、移動ステージ制御、温度制御および通信・コマンド処理の各機能に大別して説明する。
【0032】
図2は、制御部10の移動ステージ制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。なお、図中の細実線で示された機能ブロックは、ハードウェア(マイクロコンピュータ内部も含む)により構成されるものであり、太実線で示された機能ブロックは、ソフトウェアにより構成されるものである。この機能ブロックの表記法は以降の他の図面においても同様とする。
【0033】
図2の構成例において、制御部10が実装されるボード(以下、コントローラボートとする)内部のハードウェア構成としては、モータドライバ20、エッジ検出回路21A,21B、コンパレータ22A,22BおよびMOSFETスイッチ23A,23Bが設けられる。また、マイクロコンピュータ13の内部においてソフトウェアにより構成される機能ブロックとしては、パルスモータコントローラ24、LED点灯/パワー制御部25、リニアスケールカウンタ26およびステージ動作監視部27が設けられる。
【0034】
モータドライバ20は、移動ステージ7AをX軸方向に走行させるためのパルスモータに対して、パルスモータコントローラ24からの出力指令に従った駆動信号を与えるものである。
【0035】
エッジ検出回路21A,21Bは、3次元ミラー7のX軸方向の位置を検出するために移動ステージ7Aに設けられたリニアスケールから出力される信号のA相およびB相のエッジをそれぞれ検出し、その結果を示す信号をリニアスケールカウンタ26に出力する。
【0036】
コンパレータ22A,22Bは、移動ステージ7AのX軸方向に対する可動範囲の両端に配置されたリミットスイッチ(LEDおよび受光素子)からの出力信号が与えられ、移動ステージ7Aの位置が可動範囲外に達した場合にそれを示すリミット信号をパルスモータコントローラ24に出力するとともに、コンディションフラグCFを発生する。
【0037】
MOSFETスイッチ23A,23Bは、LED点灯/パワー制御部25からの点灯指令に従って、移動ステージ7Aのリニアスケールおよびリミットスイッチの各LEDの発光/消灯を制御する。
【0038】
パルスモータコントローラ24は、記憶回路14の光学特性データを基に算出された3次元ミラー7の目標位置および移動ステージ7Aの速度に関する設定が入力され、その入力情報に従ってパルスモータの駆動状態を制御するための指令をモータドライバ20に出力する。このモータドライバ20に対する指令は、その出力状態がコンパレータ22A,22Bからのリミット信号およびLED点灯/パワー制御部25からの動作許可およびパワー制御信号に応じて制御される。また、パルスモータコントローラ24は、LED点灯/パワー制御部25に対して点灯/消灯要請を出力するとともに、ステージ動作監視部27に対してパルスモータの駆動状態に対応したモニタモータパルス信号を出力する。さらに、ここでは3次元ミラー7の現在位置を示す信号もパルスモータコントローラ24から出力される。
【0039】
LED点灯/パワー制御部25は、パルスモータコントローラ24からの点灯/消灯要請に従って点灯指令を生成し、それをMOSFETスイッチ23A,23Bおよびリニアスケールカウンタ26に与える。また、LED点灯/パワー制御部25は、パルスモータコントローラ24に対して動作許可信号およびパワー制御信号を出力する。
【0040】
リニアスケールカウンタ26は、移動ステージ7Aのリニアスケールから出力される信号およびエッジ検出回路21A,21Bからの各出力信号を基に位置カウントを求めるとともに、ステージ動作監視部27に対してリニアスケールパルス信号を出力する。
【0041】
ステージ動作監視部27は、パルスモータコントローラ24からのモニタモータパルス信号およびリニアスケールカウンタ26からのリニアスケールパルス信号に応じて最大パルス間隔の計算を実行する。
【0042】
図3は、制御部10の温度制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【0043】
図3の構成例において、コントローラボート内部のハードウェア構成としては、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)アンプ30、温度検出回路31、ヒータ電流検出回路32およびボード温度検出回路33が設けられる。また、マイクロコンピュータ13の内部には、ハードウェア構成として10ビットアナログ−デジタルコンバータ(ADC)35が設けられるとともに、ソフトウェアにより構成される機能ブロックとして、タイミングコントローラ35、25データ移動平均部36、PID温調コントローラ37、温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39が設けられる。
【0044】
PWMアンプ30は、例えば、MOSFETスイッチ30AおよびPMWコントローラ30Bから構成され、VIPA板1の温度調整を行うためにケース8に設けられたヒータに対してパルス幅変調された電流信号を供給してヒータを駆動するものである。なお、PMWコントローラ30Bは、ソフトウェアにより構成される機能ブロックであり、PID温調コントローラ37から出力されるPWM出力指令に従って、MOSFETスイッチ30Aのスイッチング動作を制御する。
【0045】
温度検出回路31は、VIPA板1の近傍に設けられた温度センサ9の抵抗値を示す信号Rtを電圧信号Vtに変換して10ビットADC35に出力する。ヒータ電流検出回路32は、ヒータの駆動電流Ihを検出し、それを電圧信号Vhに変換して10ビットADC35に出力する。ボード温度検出回路33は、コントローラボートの温度を検出して、その結果を10ビットADC35に出力する。
【0046】
10ビットADC35は、温度検出回路31、ヒータ電流検出回路32およびボード温度検出回路33からそれぞれ出力されるアナログ電圧信号をデジタル信号に変換して25データ移動平均部37に出力する。タイミングコントローラ35は、後述するようにPMWコントローラ30Bおよび10ビットADC35の動作タイミングを最適化することによってVIPA板1の温度制御を高い精度で安定なものにする。25データ移動平均部36は、10ビットADC35でAD変換された各データを平均化することでVIPA板1の温度、ヒータ電流およびボート温度のモニタ値を算出する。25データ移動平均部36で算出されたVIPA板1の温度を示す信号は、PID温調コントローラ37および温調異常検出部38にそれぞれ送られ、ヒータ電流を示す信号は、ヒータ異常検出部39に送られる。
【0047】
PID温調コントローラ37は、記憶回路14の光学特性データを基に算出されたVIPA板1の目標温度と、周知の比例−積分−微分制御(PID制御)を行うためのパラメータに関する設定とが入力され、該入力情報および25データ移動平均部36からのVIPA板1の温度のモニタ値に従って、ヒータの駆動状態を制御するための指令(PWM出力指令)をPWMコントローラ30Bおよび温調異常検出部38にそれぞれ出力する。
【0048】
温調異常検出部38は、25データ移動平均部36からのVIPA板1の温度およびPID温調コントローラ37からのPWM出力指令に基づいて、PID温調コントローラ37による温度制御に異常(制御可能範囲を超えた場合も含む)が発生しているか否かを検出し、その検出結果に対応したヒータON/OFF信号をPID温調コントローラ37に出力する。また、ヒータ異常検出部39は、25データ移動平均部36からのヒータ電流のモニタ値に基づいて、ヒータの異常(例えば、断線や短絡など)が発生しているか否かを検出し、その検出結果に対応したヒータON/OFF信号をPID温調コントローラ37に出力する。温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39からのヒータON/OFF信号を受けたPID温調コントローラ37では、温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39のいずれかで異常発生が検出された場合に、ヒータの動作を停止させる指令をPWMコントローラ30Bに出力する。この際、異常発生に対応したコンディションフラグCFが、PID温調コントローラ37、温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39でそれぞれ発生する。
【0049】
図4は、制御部10の通信・コマンド処理に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【0050】
図4の構成例において、コントローラボート内部のハードウェア構成としては、RS−232Cドライバ40が設けられる。また、マイクロコンピュータ13の内部においてソフトウェアにより構成される機能ブロックとしては、文字列受信部41、応答送信部42およびコマンド実行部43が設けられる。
【0051】
RS−232Cドライバ40は、コントローラボート内の各ハードウェアとマイクロコンピュータ13との間のシリアル通信に用いられる一般的なインターフェースである。このRS232Cドライバ40を介してマイクロコンピュータ13で受信されるデータ信号は文字列受信部41で必要な変換処理が施された後にコマンド実行部43に送られる。コマンド実行部43は、ステージ動作シーケンサ43Aおよび温調パラメータ測定シーケンサ43Bを含んでおり、前述の図2および図3に示した各機能ブロックからの出力信号やコンディションフラグ、記憶回路14の記憶データに基づいて、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度を制御するために必要となる各種コマンドを実行する。コマンド実行部43から出力される各種の指令は、応答送信部42で必要な変換処理が施された後にRS−232Cドライバ40を介して対応するハードウェアに送られる。
【0052】
次に、本実施形態の動作について説明する。
【0053】
上記のような構成の波長分散発生装置では、波長分散補償や波長分散耐力測定などの運用を開始する前に、制御部10による3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度の最適化のために必要となる光学特性データが計測により取得され、その光学特性データが制御部10の記憶回路14に記憶される。
【0054】
表1および表2は、記憶回路14に記憶される光学特性データの具体的な一例であって、表1は予め設定した特定波長についての波長分散値と移動ステージの位置との関係を示すデータ、表2はITU−Tグリッド上の各波長と波長分散値の組み合わせに対するVIPA板1の温度の関係を示すデータである。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
ここで、上記表1に示したデータの取得方法の具体例を図5のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
【0058】
波長分散値と移動ステージの位置との関係を取得するために、まず、図5のステップ10(図中S10で示し、以下同様とする)では、VIPA板1の温度が、ITU−Tグリッド上の各波長とVIPA板1の透過中心波長とが略一致する温度(以下、VIPA板設計温度とする)に設定される。
【0059】
ステップ11では、移動ステージ7AをX軸方向の可動範囲(ストローク)の前端付近に位置決めした後、本波長分散発生装置の運用波長範囲(例えばC−バンドなど)について、その中心波長近傍に存在するITU−Tグリッド波長(例えば1545.322nm(周波数で表すと194THz)など)を特定波長に設定し、その特定波長付近の透過帯における波長分散値を測定する。なお、上記の運用波長範囲は、波長分散補償の対象となる光信号の波長帯域、または、波長分散耐力測定の対象となる光通信装置の使用波長範囲に対応させて設定される。
【0060】
ステップ12では、移動ステージ7AをX軸方向の可動範囲の中央付近に位置決めして、上記特定波長付近の透過帯における波長分散値を測定する。
【0061】
ステップ13では、移動ステージ7AをX軸方向の可動範囲の後端付近に位置決めして、上記特定波長付近の透過帯における波長分散値を測定する。
【0062】
ステップ14では、上記ステップ11〜ステップ13で測定された各波長分散値を移動ステージ7Aの位置に対応させてプロットし、直線近似または2次近似などの一般的な近似法を適用して波長分散値と移動ステージ7Aの位置との関係を表す近似式を求める。
【0063】
ステップ15では、上記ステップ14で求めた近似式から、所要の波長分散値(上記表1の一例では、−2000,−1900,−1800,…,1900,2000ps/nm)に対応する移動ステージの位置を計算する。なお、ここでは波長分散値を±2000ps/nmの範囲で100ps/nm刻みに設定する場合を例示したが、波長分散値の設定は上記の一例に限定されるものではなく、少なくとも2つの波長分散値を設定すればよい。また、各波長分散値に対応した移動ステージの位置を[mm]の単位で表すようにしたが、リニアモータを駆動するパルス数により移動ステージの位置を表すようにしても構わない。
【0064】
ステップ16では、移動ステージ7Aをステップ15で計算した各位置に移動し、それぞれの位置における波長分散値を測定する。なお、この測定は、前述したステップ11〜ステップ13の場合と同様の波長帯について行われる。
【0065】
ステップ17では、上記ステップ16で測定された波長分散値が上記ステップ15で計算された波長分散値に一致しない場合に、測定された波長分散値に対応する移動ステージ7Aの位置を基に、所要の波長分散値(上記表1の100ps/nm刻みの波長分散値)となる移動ステージ7Aの位置を計算により求める。このとき、計算に用いる式は、前述のステップ14で求めた近似式、または、ステップ16で測定したデータから新たに移動ステージ7Aの位置と波長分散値をプロットし、直線近似または2次近似などの一般的な近似法を適用して求めた近似式のいずれであってもよい。
【0066】
ステップ18では、上記ステップ17までの処理を行うことで、表1のデータを取得できたので、次に、波長分散スロープ値の測定を行う。まず、波長分散値の絶対値が大きい位置に移動ステージ7Aを移動させる。
【0067】
ステップ19では、本波長分散発生装置の運用波長範囲(例えばC−バンドなど)に対して、短波長寄りのITU―Tグリッド波長(例えば1525.611nm(周波数で表すと196.5THz)など)付近の透過帯での波長分散値を測定する。
【0068】
ステップ20では、移動ステージ7Aの位置は固定として、上記運用波長範囲の中心近傍のITUグリッド波長(例えば1545.322nm(周波数で表すと194THz)など)付近の透過帯での波長分散値を測定する。
【0069】
ステップ21では、移動ステージ7Aの位置は固定として、上記運用波長範囲の長波長寄りのITUグリッド波長(例えば1564.679nm(周波数で表すと191.6THz)など)付近の透過帯での波長分散値を測定する。
【0070】
ステップ22では、上記ステップ19〜ステップ21で測定したデータを、波長を横軸に、波長分散値を縦軸にしてプロットし、近似直線の傾きを計算する。この直線の傾きが「波長分散スロープ値」となるので、[ps/nm2]を単位にした値を、表1および特定波長のデータとともに記憶回路14に記憶させる。
【0071】
次に、上記表2に示したデータの取得方法の具体例を図6のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
【0072】
ステップ30では、VIPA板1の温度を低温に設定し、ITU−Tグリッド上の任意の波長近傍についての損失波長特性(横軸:波長、縦軸:損失[dB])を測定する。
【0073】
ステップ31では、VIPA板1の温度を高温に設定し、上記ステップ30で測定を行った波長帯についての損失波長特性を測定する。
【0074】
ステップ32では、上記ステップ30およびステップ31の測定結果を基に、波長温度係数[nm/℃]を計算する。この波長温度係数は、VIPA板1の温度変化に対してVIPA板1の透過帯の中心波長が変化する割合を示すものである。
【0075】
ステップ33では、VIPA板1の温度をVIPA板設計温度(ITU−Tグリッド波長が透過中心となる温度)に設定する。
【0076】
ステップ34では、表1のデータを参照して設定可能な最小波長分散値の位置に移動ステージ7Aを移動する。
【0077】
ステップ35では、ITU−Tグリッド波長の最短波長付近についての損失波長特性(横軸:波長、縦軸:損失[dB])を測定する。
【0078】
ステップ36では、ステップ35で測定した損失波長特性における最小損失レベルから1dBあるいは3dBダウン(本波長分散発生装置の仕様定義による)したレベル線と損失特性曲線との交点(2箇所)の波長を特定し、それらの波長の中間波長(透過帯の中心波長)を求める。図7は、3dBダウンの透過中心波長を求めた一例である。
【0079】
ステップ37では、上記ステップ36で求めた透過帯の中心波長をその近傍に存在するITU−Tグリッド波長に移動させるためのVIPA板設定温度を、上記ステップ32で求めた波長温度係数を用いて計算し、その設定温度をITU−Tグリッド波長に対応させて表2のデータとして記録する。
【0080】
ステップ38では、運用波長範囲(例えばC−バンド)内におけるITU−Tグリッド上の全ての波長について、上記ステップ35〜ステップ37と同様の処理を短波長側から順次行う。
【0081】
ステップ39では、移動ステージ7Aの現在位置より、波長分散値を所要の刻み(表2の一例では、100ps/nm刻み)だけ増やした移動ステージ7Aの位置を表1のデータから求め、その位置に移動ステージ7Aを移動させた後、上記ステップ35〜ステップ38の処理を実行する。そして、最大の波長分散値に対応した位置に移動ステージ7Aが移動されるまで上記一連の動作を繰り返し、表2に記憶する各データを取得する。
【0082】
なお、上記のような表2のデータ取得方法の一例では、ステップ32において波長温度係数を計算した。この計算では、波長温度係数は一定値であるが、厳密には、波長温度係数が温度に依存する。
【0083】
上記表2のデータ取得のための測定では、VIPA板1の温度をVIPA板設計温度に設定したため、透過帯の中心波長を僅かな温度変更によりITU−Tグリッド上の波長に合わすことができ、温度変化が僅かであれば波長温度係数を一定値とみなすことができるので、前述したような手順で表2のデータを取得することが可能である。しかしながら、ITU−Tグリッド上の各波長の間にある波長についての波長分散耐力測定を可能にする必要がある波長分散エミュレータ等の用途では、VIPA板1の温度を大きく変化させて、任意の波長での使用を可能とするため、例えば図8のフローチャートに示すような手順に従って波長温度係数の温度依存性を関数として定義するのが好ましい。
【0084】
図8において、ステップ50では、VIPA板1の温度可変範囲を例えば4等分し、最低設定温度から最高設定温度までの測定温度を決める。ここでは例えば温度可変範囲が35〜95℃のとき、測定温度を35℃、50℃,65℃、80℃および95℃とする。ただし、測定温度の設定はこの一例に限られるものではない。
【0085】
ステップ51では、VIPA板1の温度を最初の温度(例えば35℃)に設定する。
【0086】
ステップ52では、上述した特定波長(運用波長範囲の中心近傍のITU−Tグリッド波長)付近の透過帯の損失波長特性(横軸:波長、縦軸:損失[dB])を測定する。
【0087】
ステップ53では、ステップ52で測定した損失波長特性における最小損失レベルから1dBあるいは3dBダウン(本波長分散発生装置の仕様定義による)したレベル線と損失特性曲線との交点(2箇所)の波長を特定し、それらの波長の中間波長(透過帯の中心波長)を求める(前述の図7参照)。
【0088】
ステップ54では、VIPA板1の温度を次の測定温度(例えば50℃)に設定し、上記ステップ52,ステップ53の場合と同様の処理を実行して透過帯の中心波長を求める。そして、上記の処理を他の測定温度でも繰り返して実行し、全ての測定温度について透過帯の中心波長を求めたらステップ55に移る。
【0089】
ステップ55では、50℃における透過帯の中心波長から35℃における透過帯の中心波長を引き算して中心波長の変化量を求め、その変化量を35℃と50℃の中間の42.5℃における波長温度係数とする。そして、他の測定温度についても上記と同様の処理を行って、57.5℃,72.5℃および87.5℃における波長温度係数を計算する。次の表3は、各温度について計算された波長温度係数の具体的な一例を示したものである。
【0090】
【表3】
【0091】
ステップ56では、上記表3のデータについて、例えば図9に示すように、温度を横軸に、波長温度係数を縦軸にしてプロットし、次の(1)式で表される近似直線の傾き(ShiftA)および切片(ShiftB)を求める。
【0092】
dλ/dT=ShiftA×T+ShiftB…(1)
ただし、TはVIPA板1の温度、λは波長を表す。具体的に図9に示したグラフでは、ShiftA=0.0000306667、ShiftB=0.01049となる。このShiftAおよびShiftBの値が表2のデータとともに記憶回路14に記憶されることにより、ITU−Tグリッド上の波長だけでなくその間にある任意の波長についても、本波長分散発生装置を使用して波長分散耐力測定や波長分散補償を高い精度で行うことが可能になる。
【0093】
次に、本実施形態の運用時の動作について具体的に説明する。
【0094】
上記のようにして光学特性データが記憶回路14に事前に記憶された波長分散発生装置では、運用時の波長および波長分散値の設定指令が外部通信コネクタ10A(図1)を介してマイクロコンピュータ13に与えられると、記憶回路14の光学特性データに基づいて、設定指令により指定された波長および波長分散値に対応した3次元ミラー7(移動ステージ7A)の位置およびVIPA板1の温度が、例えば図10のフローチャートに従って決定される。
【0095】
まず、図10のステップ70において、上記指定された波長および波長分散値が本波長分散発生装置で設定可能な範囲内にあるか否かをチェックする。適正な範囲内にある場合にはステップ71に進み、設定範囲外にある場合にはエラーとなる。
【0096】
ステップ71では、記憶回路14に記憶された特定波長および波長分散スロープのデータを用いて、上記指定された波長分散値を、特定波長における波長分散値に変換する。この波長分散値の変換は、次の(2)式の関係に従って行うことができる。
【0097】
D(λ0)=D(λ)−DS・(λ−λ0)…(2)
ただし、λ0は特定波長、λは指定された波長、D(λ)は波長λにおける波長分散値、DSは波長分散スロープ値である。
【0098】
ステップ72では、ステップ71で変換された波長分散値について、記憶回路14に記憶された表1のデータを参照し、3次元ミラー7の目標位置を計算する。この際、ステップ71で変換された波長分散値が表1における設定値(±2000ps/nmの範囲で100ps/nm刻みに設定された各値)の間にある場合には、表1の位置データを直線補間等して、変換後の波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置を求めるようにする。また、ステップ71で変換された波長分散値が表1の範囲外にある場合には、外挿計算によって、変換後の波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置を求めるようにする。
【0099】
ステップ73では、上記指定された波長について、ITU−Tグリッド上の各波長うちで最も近い波長(以下、近傍グリッド波長と呼ぶ)を求める。
【0100】
ステップ74では、ステップ73で求めた近傍グリッド波長について、記憶回路14に記憶された表2のデータを参照し、ステップ71で変換された波長分散値に対応するVIPA板1の温度を求める。この際、ステップ71で変換された波長分散値が表2の設定値
(±2000ps/nmの範囲で100ps/nm刻みに設定された各値)の間にある場合には、表2の温度データを直線補間等して、変換後の波長分散値に対応したVIPA板1の温度を求めるようにする。
【0101】
ステップ75では、ステップ74で求めた近傍グリッド波長についてのVIPA板1の温度を、記憶回路14に記憶されたShiftAおよびShiftBの値を用いて、前述の(1)式を温度Tについて解いた次の(3)式の関係に従って、指定された波長λについてのVIPA板1の温度Tに変換する。
【0102】
【数1】
【0103】
ただし、λgは近傍グリッド波長、Tgは近傍グリッド波長についてのVIPA板1の温度を表す。
【0104】
ステップ76では、ステップ75で(3)式の関係に従って計算されるVIPA板1の温度Tが本装置における温度設定可能範囲内にあるか否かが判定される。ここで変換後のVIPA板1の温度Tが設定可能範囲外となる状態について簡単に説明すると、例えば図11に示すように、表2のデータから近傍グリッド波長λgについてのVIPA板1の温度Tgが図中の白丸印で示すような位置にあるとき、VIPA板1の温度を変化させると、温度と波長の関係は上記の白丸印を通る斜め線のようになる。このため、指定された波長とするためにはVIPA板1の温度を三角印まで変化させる必要があるが、本装置には部品耐熱温度等の制約があるため、図中の網掛け領域に示す温度設定可能範囲の外に三角印が位置してしまうことがある。このような場合には、近傍グリッド波長の隣に位置する第2近傍グリッド波長λg’についてのVIPA板1の温度Tg’(黒丸印)を通る斜め線上の四角印にVIPA板1の温度Tを設定すればよい。
【0105】
上記のステップ76で温度設定可能範囲内と判定された場合には、ステップ77に進んで、ステップ72で計算された3次元ミラーの位置を目標位置として移動ステージ制御回路11(図1)に設定し、かつ、ステップ75で変換されたVIPA板1の温度とを目標温度として温度制御回路12に設定する。
【0106】
一方、上記のステップ76で温度設定可能範囲外と判定された場合には、ステップ78に移って、前述の図11に示した第2近傍グリッド波長を計算する。そして、ステップ79では、ステップ78で計算した第2近傍グリッド波長について、記憶回路14に記憶された表2のデータを参照し、ステップ71で変換された波長分散値に対応するVIPA板1の温度を求める。
【0107】
ステップ80では、ステップ75の場合と同様にして、第2近傍グリッド波長についてのVIPA板1の温度を、(3)式の関係に従って、指定された波長λについてのVIPA板1の温度Tに変換する。
【0108】
ステップ81では、ステップ72で計算された3次元ミラーの位置を目標位置として移動ステージ制御回路11に設定し、かつ、ステップ80で変換されたVIPA板1の温度とを目標温度として温度制御回路12に設定する。
【0109】
上記のようにして移動ステージ制御回路11および温度制御回路12の各制御目標値が設定されることによって、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度がそれぞれ最適化されるようになるため、指定された波長における波長分散値を高い精度で実現することが可能になる。
【0110】
なお、VIPA板1の温度制御に関しては、上述の図3に示したような構成を適用した場合、ヒータを駆動するPWMアンプ30において大電流をON/OFFする際に発生するノイズが、VIPA板1の温度変化による温度センサ9の抵抗値の微小変化の検出に影響を及ぼさないようにするのが望ましい。具体的には、図3に示したタイミングコントローラ35によって、PWMコントローラ30BにおけるPWM変調のON/OFFのタイミングと、10ビットADC34における変換開始のタイミングとをずらして、図12のタイミング図に示すように、PWM信号のON/OFF時に発生するノイズが十分に小さくなった後に、温度モニタ信号のAD変換を開始するようにする。これにより、PWM信号のノイズの影響を殆ど受けることなく温度センサ9の微小な抵抗値の変化を検出して、VIPA板1の温度を安定して最適値に制御することができるため、所望の波長分散値をより高い精度で実現することが可能になる。
【0111】
上述したように本実施形態の波長分散発生装置によれば、3次元ミラー7の位置制御用のデータとしては、特定波長について少なくとも2つの波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置と波長分散スロープ値とを記憶回路14に記憶し、VIPA板1の温度制御用のデータとしては、ITU−Tグリッド上の各波長について少なくとも2つの波長分散値に対応したVIPA板1の温度とShiftAおよびShiftBとを記憶回路14に記憶しておくことにより、任意の波長について精度良く波長分散を発生させることができる。よって、運用開始前における光学特性データの取得を比較的短時間で行うことが可能であり、かつ、記憶回路14の大容量化を効果的に防ぐことが可能な波長分散発生装置を提供できる。このような波長分散発生装置は、例えば、任意の波長に対応可能な高精度の波長分散補償器として、または、任意の波長で使用される光通信装置の波長分散耐力測定用の波長分散エミュレータとして有用である。
【0112】
以上、本明細書で開示した主な発明について以下にまとめる。
【0113】
(付記1)相対する平行な2つの反射面を有する素子を含み、1次元方向に集光した光が前記素子の各反射面の間に入射され、該入射光が各反射面で多重反射されながらその一部が一方の反射面を透過して出射され、該出射光が干渉することにより波長に応じて進行方向の異なる光束が形成される分波機能を備えた光部品と、該光部品の一方の反射面から異なる方向に出射される各波長の光束を予め設定した位置で反射して前記光部品に戻す反射器とを備えて構成された波長分散発生装置であって、
所定の波長グリッド上の複数の波長のうちの特定波長について、2つの波長分散値に対応する前記反射器の位置に関するデータを前記特定波長および波長分散スロープ値とともに記憶する第1領域と、前記波長グリッド上の各波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記光部品の温度に関するデータを前記波長グリッド上の各波長および波長温度係数とともに記憶する第2領域と、を有する記憶部と、
運用時の波長および波長分散値が指定され、前記記憶部の第1領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を演算するとともに、前記記憶部の第2領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記光部品の目標温度を演算する演算部と、
前記反射器の位置を前記演算部で演算された目標位置に一致させる位置制御部と、
前記光部品の温度を前記演算部で演算された目標温度に一致させる温度制御部と、
を備えて構成されたことを特徴とする波長分散発生装置。
【0114】
(付記2)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記指定された波長が前記波長グリッド上の各波長の間に存在するとき、前記記憶部の第1領域に記憶された波長分散スロープ値を用いて、前記指定された波長分散値を前記特定波長における波長分散値に変換した後、前記記憶部の第1領域に記憶された前記反射器の位置に関するデータを参照して、前記変換後の波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【0115】
(付記3)付記2に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に最も近い波長を近傍グリッド波長とし、該近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照し、前記変換後の波長分散値に対応する前記光部品の温度を求め、該求めた温度を前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて前記指定された波長に対応する温度に変換することによって前記光部品の目標温度を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【0116】
(付記4)付記3に記載の波長分散発生装置であって、
前記記憶部は、前記波長温度係数の温度依存性を表す近似式が前記第2領域に記憶され、
前記演算部は、前記記憶部の第2領域に記憶された近似式を用いて、前記指定された波長に対応する光部品の温度の変換を行うことを特徴とする波長分散発生装置。
【0117】
(付記5)付記3に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて変換された前記光部品の温度が、温度設定可能範囲外の温度に該当するとき、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に2番目に近い波長を第2近傍グリッド波長とし、該第2近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照することを特徴とする波長分散発生装置。
【0118】
(付記6)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
前記温度制御部は、前記光部品の温度を調節するヒータと、前記光部品の温度を検出する温度センサと、該温度センサで検出される温度が前記演算部で演算された目標温度に一致するように前記ヒータの駆動状態を制御するコントローラと、を有することを特徴とする波長分散発生装置。
【0119】
(付記7)付記6に記載の波長分散発生装置であって、
前記温度制御部は、前記ヒータがパルス幅変調方式で駆動されるとき、該ヒータの駆動電流のON/OFFのタイミングに対して前記光部品の温度検出を開始するタイミングをずらすタイミングコントローラを備えたことを特徴とする波長分散発生装置。
【0120】
(付記8)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
入力される光信号に累積した波長分散を補償可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【0121】
(付記9)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
接続される光通信装置の波長分散耐力を測定可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明による波長分散発生装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施形態における制御部の移動ステージ制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【図3】上記実施形態における制御部の温度制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【図4】上記実施形態における制御部の通信・コマンド処理に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【図5】上記実施形態で記憶回路に記憶される表1のデータ取得方法の具体例を示すフローチャートである。
【図6】上記実施形態で記憶回路に記憶される表2のデータ取得方法の具体例を示すフローチャートである。
【図7】3dBダウンの透過中心波長を求めた一例を示す図である。
【図8】波長温度係数の温度依存性を表す近似式を導くための手順を示すフローチャートである。
【図9】波長温度係数の温度依存性を表す近似式の一例を示す図である。
【図10】上記実施形態において運用時に指定される波長および波長分散値に対応した3次元ミラーの位置およびVIPA板の温度を決める手順を示すフローチャートである。
【図11】上記実施形態においてVIPA板の温度が設定可能範囲外となるときの一例を示す図である。
【図12】上記実施形態において温度制御を安定化させるためのヒータ駆動および温度検出のタイミングを例示した図である。
【図13】従来のVIPA型波長分散補償器の構成例を示す斜視図である。
【図14】図13の構成例の上面図である。
【図15】従来のVIPAの動作原理を説明するためのモデルを示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1…VIPA板
1A…ガラス板
1B,1C…反射多層膜
1D…照射窓
2…光サーキュレータ
3…光ファイバ
4…コリメートレンズ
5…ライン焦点レンズ
6…収束レンズ
7…3次元ミラー
7A…移動ステージ
8…ケース
9…温度センサ
10…制御部
10A…外部通信コネクタ
11…移動ステージ制御回路
12…温度制御回路
13…マイクロコンピュータ
14…記憶回路
20…モータドライバ
21A,21B…エッジ検出回路
22A,22B…コンパレータ
23A,23B,30A…MOSFETスイッチ
24…パルスモータコントローラ
25…LED点灯/パワー制御部
26…リニアスケールカウンタ
27…ステージ動作監視部
30…PWMアンプ
30B…PWMコントローラ
31…温度検出回路
32…ヒータ電流検出回路
33…ボード温度検出回路
34…10ビットADC
35…タイミングコントローラ
36…25データ移動平均部
37…PID温調コントローラ
38…温調異常検出部
39…ヒータ異常検出部
40…RS−232Cドライバ
41…文字列受信部
42…応答送信部
43…コマンド実行部
43A…ステージ動作シーケンサ
43B…温調パラメータ測定シーケンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、所要の波長分散を発生して光信号の波長分散補償や光通信装置の波長分散耐力測定などを行うことのできる波長分散発生装置に関し、特に、入力光を波長に応じて分波する機能を備えた光部品を利用して構成した波長分散発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、例えば、敷設されシングルモードファイバ(SMF)等の波長分散特性に対して逆特性を持つ分散補償ファイバ(DCF)を用いて波長分散補償が行われる。DCFは、その長さに応じて波長分散値が調整されるため、予め所要の波長分散を補償するのに必要なファイバ総長が計算されて、長さの異なる複数のDCFリールが用意されることが多い。このため、システムの設置現場では、持ち込んだDCFリールの組み合わせでしか波長分散値を設定することができず、最適な波長分散補償を実現することが困難な場合があった。
【0003】
このようなDCFに対し、波長分散値を自在に設定できるようにした波長分散補償器の1つとして、例えば、入力光を波長に応じて空間的に区別可能な複数の光束に分波する、いわゆるバーチャリ・イメージド・フェーズド・アレイ(Virtually Imaged Phased Array:VIPA)を利用して構成した波長分散補償器が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
図13は、従来のVIPA型波長分散補償器の構成例を示す斜視図である。また、図14は、図13の構成例の上面図である。
【0005】
各図に示すように従来のVIPA型波長分散補償器では、例えば、光サーキュレータ120を介して光ファイバ130の一端から出射された光が、コリメートレンズ140で平行光に変換された後に、ライン焦点レンズ150によって1つの線分の上に集光され、VIPA板110の照射窓116を通って対向する平行平面の間に入射される。このVIPA板110への入射光は、例えば、VIPA板110の一方の平面に形成された100%より低い反射率を有する反射多層膜112と、他方の平面に形成された略100%の反射率を有する反射多層膜114との間で多重反射を繰り返す。その際、反射多層膜112の面で反射するごとに数%の光が当該反射面を透過してVIPA板110の外に出射される。
【0006】
VIPA板110を透過した光は、相互に干渉し、波長に応じて進行方向が異なる複数の光束を作る。その結果、各光束を収束レンズ160で1点に集光すると、各々の集光位置は波長の変化に伴って直線上を移動するようになる。この直線上に例えば3次元ミラー170を配置することにより、VIPA板110から出射され収束レンズ160で集光された光は、各々の波長に応じて3次元ミラー170上の異なる位置で反射されてVIPA板110に戻される。3次元ミラー170で反射された光は元の光路を反対方向に伝搬するため、異なる波長成分は異なる距離を伝搬することになって、入力光の波長分散補償が行われる。
【0007】
上記のようにVIPA板110で多重反射される光の振る舞いは、例えば図15に示すようなモデルを考えると、階段状の回折格子として周知のエシュロン格子(Echelon grating)と同様の振る舞いをする。このため、VIPA板110は仮想的な回折格子として考えることができる。VIPA板110における干渉条件を考えると、図15の右側に示すように、出射光はその光軸を基準にして上側が短波長、下側が長波長の条件で干渉するので、各波長の光信号の短波長成分が光軸の上側に出射され、長波長成分が光軸の下側に出射されることになる。このような従来のVIPA型波長分散補償器は、波長分散を広い範囲で補償することができ、また、補償する光の波長(透過波長)を変化させることが可能であるといった長所がある。
【特許文献1】特開平9−43057号公報
【特許文献2】特表2000−511655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような従来のVIPA型波長分散補償器は、波長分散値や透過波長などの光学特性が同一のものであっても、VIPA光学系の構成部品の個々のばらつきにより、内部の設定値(例えば3次元ミラーの位置やVIPA板の温度など)は異なったものとなる。そこで、本出願人は、波長分散補償の運用を開始する前に、3次元ミラーの位置やVIPA板の温度に対応させて、各波長における波長分散値や透過波長特性に関するデータを取得して記憶し、運用時に、その記憶したデータのうちから波長分散値等の設定条件に対応したデータを読み取って3次元ミラーの位置やVIPA板の温度を制御する技術を提案している(例えば、特願2003−311083号参照)。
【0009】
しかし、上記の先願発明に関しては、基本的に、運用時に使用が想定されるすべての波長および波長分散値について予めデータを取得しておかなければならないため、より多くの波長および波長分散値に対応可能な汎用性の高いVIPA型波長分散補償器を実現しようとすると、データの取得に長時間を要してしまうという課題がある。
【0010】
また、上記のような従来のVIPA型波長分散補償器についての他の用途として、光通信に用いられるデバイスやモジュールの波長分散耐力測定に利用することが検討されており、このような用途では前述した図13の構成が任意の波長分散を発生させる波長分散エミュレータとして利用される。前述した波長分散補償の用途では、基本的にITU−T等に準拠した波長グリッドに対応する光信号が波長分散補償の対象となるため、グリッド上の各波長に対応させて上記データを取得し、それを記憶データとしておけばよい。一方、波長分散エミュレータとしての用途では、ITU−T等の波長グリッド上以外の波長で使用されるデバイスやモジュールについても波長分散耐力の測定対象となるため、任意の波長に対応した上記データを取得して記憶させておかなければならず、所望の測定精度を実現するにはデータの取得に要する時間が非常に長くなってしまうとともに大容量のメモリが必要になるという課題がある。
【0011】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、任意の波長について高い精度で波長分散を発生させることのできる波長分散発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため本発明は、相対する平行な2つの反射面を有する素子を含み、1次元方向に集光した光が前記素子の各反射面の間に入射され、該入射光が各反射面で多重反射されながらその一部が一方の反射面を透過して出射され、該出射光が干渉することにより波長に応じて進行方向の異なる光束が形成される分波機能を備えた光部品と、該光部品の一方の反射面から異なる方向に出射される各波長の光束を予め設定した位置で反射して前記光部品に戻す反射器とを備えて構成された波長分散発生装置を提供する。この波長分散発生装置は、所定の波長グリッド上の複数の波長のうちの特定波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記反射器の位置に関するデータを前記特定波長および波長分散スロープ値とともに記憶する第1領域と、前記波長グリッド上の各波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記光部品の温度に関するデータを前記波長グリッド上の各波長および波長温度係数とともに記憶する第2領域と、を有する記憶部と、運用時の波長および波長分散値が指定され、前記記憶部の第1領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を演算するとともに、前記記憶部の第2領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記光部品の目標温度を演算する演算部と、前記反射器の位置を前記演算部で演算された目標位置に一致させる位置制御部と、前記光部品の温度を前記演算部で演算された目標温度に一致させる温度制御部と、を備えて構成されたことを特徴とする。
【0013】
また、前記演算部は、前記指定された波長が前記波長グリッド上の各波長の間に存在するとき、前記記憶部の第1領域に記憶された波長分散スロープ値を用いて、前記指定された波長分散値を前記特定波長における波長分散値に変換した後、前記記憶部の第1領域に記憶された前記反射器の位置に関するデータを参照して、前記変換後の波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を求めるようにするのが好ましい。
【0014】
さらに、前記演算部は、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に最も近い波長を近傍グリッド波長とし、該近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照し、前記変換後の波長分散値に対応する前記光部品の温度を求め、該求めた温度を前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて前記指定された波長に対応する温度に変換することによって前記光部品の目標温度を求めるようにしてもよい。
【0015】
上記のような波長分散発生装置は、入力される光信号に累積した波長分散を補償可能な波長分散を発生する、波長分散補償器としての用途や、接続される光通信装置の波長分散耐力を測定可能な波長分散を発生する、波長分散エミュレータとしての用途に好適である。
【発明の効果】
【0016】
上記のような本発明の波長分散発生装置によれば、反射器の位置を制御するためのデータとして、特定波長についての少なくとも2つの波長分散値に対応した反射器の位置と波長分散スロープ値とを記憶部の第1領域に記憶し、光部品の温度を制御するためのデータとして、所定の波長グリッド上の各波長についての少なくとも2つの波長分散値に対応した光部品の温度と波長温度係数とを記憶部の第2領域に記憶しておくことで、任意の波長について精度良く波長分散を発生させることができる。このような波長分散発生装置は、運用開始前における光学特性データの取得を比較的短時間で行うことが可能であり、また、記憶部の大容量化を効果的に防ぐことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。
【0018】
図1は、本発明による波長分散発生装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1において、本実施形態の波長分散発生装置は、例えば、相対する平行な2つの反射面を有する素子としてのVIPA板1と、そのVIPA板1の照射窓1Dに対して一線分上に集光する光信号を入射可能にする、光サーキュレータ2、光ファイバ3、コリメートレンズ4およびライン焦点レンズ5からなる光学系と、VIPA板1で多重反射されて一方の平行平面から出射される光束を1点に集光する収束レンズ6と、その収束レンズ6で集光された光を所要の位置で反射し、収束レンズ6を介してVIPA板1に戻すための反射器としての3次元ミラー7と、VIPA板1を含む所要の光部品が内部に収納されるケース8と、VIPA板1の温度を測定する温度センサ9と、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度を制御する制御部10と、を備えて構成される。
【0020】
VIPA板1は、上述の図13〜図15に示した従来の構成で用いられるVIPA板110と同様に、対向する平行平面を備えたガラス板1Aと、そのガラス板1Aの一方の平行平面に形成された反射多層膜1Bと、他方の平行平面に形成された反射多層膜1Cおよび照射窓1Dと、を有する。このVIPA板1は、照射窓1Dに入射される光の光軸が垂直入射となる角度に対して所要の角度だけ傾けられている。
【0021】
ガラス板1Aは、線形熱膨張および温度に依存した屈折率変化を有する物質を用いて製作されている。反射多層膜1Bは、照射窓1Dから入射される光信号に対して100%より低い(好ましくは95〜98%程度)反射率を有し、ガラス板1Aの一方の平面全体に形成されている。また、反射多層膜1Cは、照射窓1Dから入射される光信号に対して略100%の反射率を有し、ガラス板1Aの他方の平面の一部分に形成されている。ガラス板1Aの他方の平面の反射多層膜1Cが形成されていない部分は、光信号に対して透明な照射窓1Dとなっている。
【0022】
光サーキュレータ2は、例えば、3つのポートを有し、第1ポートから第2ポートに向かう方向、第2ポートから第3ポートに向かう方向、第3ポートから第1ポートに向かう方向に光を伝達する一般的な光部品である。ここでは本波長分散発生装置に入力される光信号が、光サーキュレータ2の第1ポートに与えられ、第2ポートを介して光ファイバ3の一端に送られると共に、光ファイバ3の他端に戻されてきた光信号が、第2ポートを介して第3ポートから本波長分散発生装置の出力光として出力される。
【0023】
光ファイバ3は、例えばシングルモードファイバ等の一端を光サーキュレータ2の第2ポートに接続し、他端をコリメートレンズ4の近傍に配置したものである。なお、光ファイバ3の種類は上記に限られるものではない。
【0024】
コリメートレンズ4は、光ファイバ3の他端から出射される光ビームを平行光に変換してライン焦点レンズ5に与える一般的なレンズである。
【0025】
ライン焦点レンズ5は、コリメートレンズ4からの平行光を1つの線分の上に集光させるものであり、具体的にはシリンドリカルレンズや屈折率分布レンズなどを用いることが可能である。
【0026】
収束レンズ6は、VIPA板1で多重反射して反射多層膜1B側から出射され、相互に干渉して進行方向が波長に応じて異なる複数の光束をそれぞれ1点に集光する一般的なレンズである。
【0027】
3次元ミラー7は、例えば、表面形状が非球面の3次元構造となっており、その非球面ミラー上には設計基準となる中心軸が存在する。この3次元ミラー7は、移動ステージ7A上に載置されており、移動ステージ7Aの走行軸と中心軸の各方向(図1におけるX軸方向)とが平行となるように配置されている。移動ステージ7Aは、制御部10から出力される制御信号Cpに従って図示を省略したパルスモータ等を駆動することによりX軸方向に走行する。なお、ここではVIPA板1に照射される光信号の光軸方向をZ軸とし、VIPA板1から出射される光の角度分散方向に対して垂直方向をX軸、平行方向をY軸としている。
【0028】
ケース8は、例えば、図示を省略したフィルムヒータを側面に設けた円筒形の容器等であって、ここでは、コリメートレンズ4、ライン焦点レンズ5、VIPA板1および収束レンズ6が上記容器内部の所定の位置に収容されている。フィルムヒータは、その動作が制御部10からの制御信号Ctに従って制御される。
【0029】
温度センサ9は、例えば、VIPA板1の反射多層膜1Cの外側表面に取り付けられており、VIPA板1の温度に応じて内部抵抗値が変化するような一般的な温度センサが用いられる。この温度センサ9の抵抗値を示す信号Rtは制御部10に出力される。なお、温度センサ9の取り付け場所は上記の位置に限られるものではなく、VIPA板1の温度が測定可能な任意の場所に取り付けることが可能である。
【0030】
制御部10は、例えば、3次元ミラー7の位置を最適化する位置制御部としての移動ステージ制御回路11と、VIPA板1の温度を最適化する温度制御部としての温度制御回路12と、移動ステージ制御回路11および温度制御回路12を制御するマイクロコンピュータ13と、後述するような手順に従って事前に取得した本装置の光学特性データを不揮発性メモリ等に記憶させた記憶部としての記憶回路14と、を備える。マイクロコンピュータ13は、外部通信コネクタ10Aを介して入力される設定指令に従って記憶回路14に記憶された光学特性データを読み出し、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度の目標値を演算して、その結果を移動ステージ制御回路11および温度制御回路12に伝える演算部としての機能をもつ。
【0031】
ここで、制御部10の具体的な構成例を、移動ステージ制御、温度制御および通信・コマンド処理の各機能に大別して説明する。
【0032】
図2は、制御部10の移動ステージ制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。なお、図中の細実線で示された機能ブロックは、ハードウェア(マイクロコンピュータ内部も含む)により構成されるものであり、太実線で示された機能ブロックは、ソフトウェアにより構成されるものである。この機能ブロックの表記法は以降の他の図面においても同様とする。
【0033】
図2の構成例において、制御部10が実装されるボード(以下、コントローラボートとする)内部のハードウェア構成としては、モータドライバ20、エッジ検出回路21A,21B、コンパレータ22A,22BおよびMOSFETスイッチ23A,23Bが設けられる。また、マイクロコンピュータ13の内部においてソフトウェアにより構成される機能ブロックとしては、パルスモータコントローラ24、LED点灯/パワー制御部25、リニアスケールカウンタ26およびステージ動作監視部27が設けられる。
【0034】
モータドライバ20は、移動ステージ7AをX軸方向に走行させるためのパルスモータに対して、パルスモータコントローラ24からの出力指令に従った駆動信号を与えるものである。
【0035】
エッジ検出回路21A,21Bは、3次元ミラー7のX軸方向の位置を検出するために移動ステージ7Aに設けられたリニアスケールから出力される信号のA相およびB相のエッジをそれぞれ検出し、その結果を示す信号をリニアスケールカウンタ26に出力する。
【0036】
コンパレータ22A,22Bは、移動ステージ7AのX軸方向に対する可動範囲の両端に配置されたリミットスイッチ(LEDおよび受光素子)からの出力信号が与えられ、移動ステージ7Aの位置が可動範囲外に達した場合にそれを示すリミット信号をパルスモータコントローラ24に出力するとともに、コンディションフラグCFを発生する。
【0037】
MOSFETスイッチ23A,23Bは、LED点灯/パワー制御部25からの点灯指令に従って、移動ステージ7Aのリニアスケールおよびリミットスイッチの各LEDの発光/消灯を制御する。
【0038】
パルスモータコントローラ24は、記憶回路14の光学特性データを基に算出された3次元ミラー7の目標位置および移動ステージ7Aの速度に関する設定が入力され、その入力情報に従ってパルスモータの駆動状態を制御するための指令をモータドライバ20に出力する。このモータドライバ20に対する指令は、その出力状態がコンパレータ22A,22Bからのリミット信号およびLED点灯/パワー制御部25からの動作許可およびパワー制御信号に応じて制御される。また、パルスモータコントローラ24は、LED点灯/パワー制御部25に対して点灯/消灯要請を出力するとともに、ステージ動作監視部27に対してパルスモータの駆動状態に対応したモニタモータパルス信号を出力する。さらに、ここでは3次元ミラー7の現在位置を示す信号もパルスモータコントローラ24から出力される。
【0039】
LED点灯/パワー制御部25は、パルスモータコントローラ24からの点灯/消灯要請に従って点灯指令を生成し、それをMOSFETスイッチ23A,23Bおよびリニアスケールカウンタ26に与える。また、LED点灯/パワー制御部25は、パルスモータコントローラ24に対して動作許可信号およびパワー制御信号を出力する。
【0040】
リニアスケールカウンタ26は、移動ステージ7Aのリニアスケールから出力される信号およびエッジ検出回路21A,21Bからの各出力信号を基に位置カウントを求めるとともに、ステージ動作監視部27に対してリニアスケールパルス信号を出力する。
【0041】
ステージ動作監視部27は、パルスモータコントローラ24からのモニタモータパルス信号およびリニアスケールカウンタ26からのリニアスケールパルス信号に応じて最大パルス間隔の計算を実行する。
【0042】
図3は、制御部10の温度制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【0043】
図3の構成例において、コントローラボート内部のハードウェア構成としては、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)アンプ30、温度検出回路31、ヒータ電流検出回路32およびボード温度検出回路33が設けられる。また、マイクロコンピュータ13の内部には、ハードウェア構成として10ビットアナログ−デジタルコンバータ(ADC)35が設けられるとともに、ソフトウェアにより構成される機能ブロックとして、タイミングコントローラ35、25データ移動平均部36、PID温調コントローラ37、温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39が設けられる。
【0044】
PWMアンプ30は、例えば、MOSFETスイッチ30AおよびPMWコントローラ30Bから構成され、VIPA板1の温度調整を行うためにケース8に設けられたヒータに対してパルス幅変調された電流信号を供給してヒータを駆動するものである。なお、PMWコントローラ30Bは、ソフトウェアにより構成される機能ブロックであり、PID温調コントローラ37から出力されるPWM出力指令に従って、MOSFETスイッチ30Aのスイッチング動作を制御する。
【0045】
温度検出回路31は、VIPA板1の近傍に設けられた温度センサ9の抵抗値を示す信号Rtを電圧信号Vtに変換して10ビットADC35に出力する。ヒータ電流検出回路32は、ヒータの駆動電流Ihを検出し、それを電圧信号Vhに変換して10ビットADC35に出力する。ボード温度検出回路33は、コントローラボートの温度を検出して、その結果を10ビットADC35に出力する。
【0046】
10ビットADC35は、温度検出回路31、ヒータ電流検出回路32およびボード温度検出回路33からそれぞれ出力されるアナログ電圧信号をデジタル信号に変換して25データ移動平均部37に出力する。タイミングコントローラ35は、後述するようにPMWコントローラ30Bおよび10ビットADC35の動作タイミングを最適化することによってVIPA板1の温度制御を高い精度で安定なものにする。25データ移動平均部36は、10ビットADC35でAD変換された各データを平均化することでVIPA板1の温度、ヒータ電流およびボート温度のモニタ値を算出する。25データ移動平均部36で算出されたVIPA板1の温度を示す信号は、PID温調コントローラ37および温調異常検出部38にそれぞれ送られ、ヒータ電流を示す信号は、ヒータ異常検出部39に送られる。
【0047】
PID温調コントローラ37は、記憶回路14の光学特性データを基に算出されたVIPA板1の目標温度と、周知の比例−積分−微分制御(PID制御)を行うためのパラメータに関する設定とが入力され、該入力情報および25データ移動平均部36からのVIPA板1の温度のモニタ値に従って、ヒータの駆動状態を制御するための指令(PWM出力指令)をPWMコントローラ30Bおよび温調異常検出部38にそれぞれ出力する。
【0048】
温調異常検出部38は、25データ移動平均部36からのVIPA板1の温度およびPID温調コントローラ37からのPWM出力指令に基づいて、PID温調コントローラ37による温度制御に異常(制御可能範囲を超えた場合も含む)が発生しているか否かを検出し、その検出結果に対応したヒータON/OFF信号をPID温調コントローラ37に出力する。また、ヒータ異常検出部39は、25データ移動平均部36からのヒータ電流のモニタ値に基づいて、ヒータの異常(例えば、断線や短絡など)が発生しているか否かを検出し、その検出結果に対応したヒータON/OFF信号をPID温調コントローラ37に出力する。温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39からのヒータON/OFF信号を受けたPID温調コントローラ37では、温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39のいずれかで異常発生が検出された場合に、ヒータの動作を停止させる指令をPWMコントローラ30Bに出力する。この際、異常発生に対応したコンディションフラグCFが、PID温調コントローラ37、温調異常検出部38およびヒータ異常検出部39でそれぞれ発生する。
【0049】
図4は、制御部10の通信・コマンド処理に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【0050】
図4の構成例において、コントローラボート内部のハードウェア構成としては、RS−232Cドライバ40が設けられる。また、マイクロコンピュータ13の内部においてソフトウェアにより構成される機能ブロックとしては、文字列受信部41、応答送信部42およびコマンド実行部43が設けられる。
【0051】
RS−232Cドライバ40は、コントローラボート内の各ハードウェアとマイクロコンピュータ13との間のシリアル通信に用いられる一般的なインターフェースである。このRS232Cドライバ40を介してマイクロコンピュータ13で受信されるデータ信号は文字列受信部41で必要な変換処理が施された後にコマンド実行部43に送られる。コマンド実行部43は、ステージ動作シーケンサ43Aおよび温調パラメータ測定シーケンサ43Bを含んでおり、前述の図2および図3に示した各機能ブロックからの出力信号やコンディションフラグ、記憶回路14の記憶データに基づいて、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度を制御するために必要となる各種コマンドを実行する。コマンド実行部43から出力される各種の指令は、応答送信部42で必要な変換処理が施された後にRS−232Cドライバ40を介して対応するハードウェアに送られる。
【0052】
次に、本実施形態の動作について説明する。
【0053】
上記のような構成の波長分散発生装置では、波長分散補償や波長分散耐力測定などの運用を開始する前に、制御部10による3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度の最適化のために必要となる光学特性データが計測により取得され、その光学特性データが制御部10の記憶回路14に記憶される。
【0054】
表1および表2は、記憶回路14に記憶される光学特性データの具体的な一例であって、表1は予め設定した特定波長についての波長分散値と移動ステージの位置との関係を示すデータ、表2はITU−Tグリッド上の各波長と波長分散値の組み合わせに対するVIPA板1の温度の関係を示すデータである。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
ここで、上記表1に示したデータの取得方法の具体例を図5のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
【0058】
波長分散値と移動ステージの位置との関係を取得するために、まず、図5のステップ10(図中S10で示し、以下同様とする)では、VIPA板1の温度が、ITU−Tグリッド上の各波長とVIPA板1の透過中心波長とが略一致する温度(以下、VIPA板設計温度とする)に設定される。
【0059】
ステップ11では、移動ステージ7AをX軸方向の可動範囲(ストローク)の前端付近に位置決めした後、本波長分散発生装置の運用波長範囲(例えばC−バンドなど)について、その中心波長近傍に存在するITU−Tグリッド波長(例えば1545.322nm(周波数で表すと194THz)など)を特定波長に設定し、その特定波長付近の透過帯における波長分散値を測定する。なお、上記の運用波長範囲は、波長分散補償の対象となる光信号の波長帯域、または、波長分散耐力測定の対象となる光通信装置の使用波長範囲に対応させて設定される。
【0060】
ステップ12では、移動ステージ7AをX軸方向の可動範囲の中央付近に位置決めして、上記特定波長付近の透過帯における波長分散値を測定する。
【0061】
ステップ13では、移動ステージ7AをX軸方向の可動範囲の後端付近に位置決めして、上記特定波長付近の透過帯における波長分散値を測定する。
【0062】
ステップ14では、上記ステップ11〜ステップ13で測定された各波長分散値を移動ステージ7Aの位置に対応させてプロットし、直線近似または2次近似などの一般的な近似法を適用して波長分散値と移動ステージ7Aの位置との関係を表す近似式を求める。
【0063】
ステップ15では、上記ステップ14で求めた近似式から、所要の波長分散値(上記表1の一例では、−2000,−1900,−1800,…,1900,2000ps/nm)に対応する移動ステージの位置を計算する。なお、ここでは波長分散値を±2000ps/nmの範囲で100ps/nm刻みに設定する場合を例示したが、波長分散値の設定は上記の一例に限定されるものではなく、少なくとも2つの波長分散値を設定すればよい。また、各波長分散値に対応した移動ステージの位置を[mm]の単位で表すようにしたが、リニアモータを駆動するパルス数により移動ステージの位置を表すようにしても構わない。
【0064】
ステップ16では、移動ステージ7Aをステップ15で計算した各位置に移動し、それぞれの位置における波長分散値を測定する。なお、この測定は、前述したステップ11〜ステップ13の場合と同様の波長帯について行われる。
【0065】
ステップ17では、上記ステップ16で測定された波長分散値が上記ステップ15で計算された波長分散値に一致しない場合に、測定された波長分散値に対応する移動ステージ7Aの位置を基に、所要の波長分散値(上記表1の100ps/nm刻みの波長分散値)となる移動ステージ7Aの位置を計算により求める。このとき、計算に用いる式は、前述のステップ14で求めた近似式、または、ステップ16で測定したデータから新たに移動ステージ7Aの位置と波長分散値をプロットし、直線近似または2次近似などの一般的な近似法を適用して求めた近似式のいずれであってもよい。
【0066】
ステップ18では、上記ステップ17までの処理を行うことで、表1のデータを取得できたので、次に、波長分散スロープ値の測定を行う。まず、波長分散値の絶対値が大きい位置に移動ステージ7Aを移動させる。
【0067】
ステップ19では、本波長分散発生装置の運用波長範囲(例えばC−バンドなど)に対して、短波長寄りのITU―Tグリッド波長(例えば1525.611nm(周波数で表すと196.5THz)など)付近の透過帯での波長分散値を測定する。
【0068】
ステップ20では、移動ステージ7Aの位置は固定として、上記運用波長範囲の中心近傍のITUグリッド波長(例えば1545.322nm(周波数で表すと194THz)など)付近の透過帯での波長分散値を測定する。
【0069】
ステップ21では、移動ステージ7Aの位置は固定として、上記運用波長範囲の長波長寄りのITUグリッド波長(例えば1564.679nm(周波数で表すと191.6THz)など)付近の透過帯での波長分散値を測定する。
【0070】
ステップ22では、上記ステップ19〜ステップ21で測定したデータを、波長を横軸に、波長分散値を縦軸にしてプロットし、近似直線の傾きを計算する。この直線の傾きが「波長分散スロープ値」となるので、[ps/nm2]を単位にした値を、表1および特定波長のデータとともに記憶回路14に記憶させる。
【0071】
次に、上記表2に示したデータの取得方法の具体例を図6のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
【0072】
ステップ30では、VIPA板1の温度を低温に設定し、ITU−Tグリッド上の任意の波長近傍についての損失波長特性(横軸:波長、縦軸:損失[dB])を測定する。
【0073】
ステップ31では、VIPA板1の温度を高温に設定し、上記ステップ30で測定を行った波長帯についての損失波長特性を測定する。
【0074】
ステップ32では、上記ステップ30およびステップ31の測定結果を基に、波長温度係数[nm/℃]を計算する。この波長温度係数は、VIPA板1の温度変化に対してVIPA板1の透過帯の中心波長が変化する割合を示すものである。
【0075】
ステップ33では、VIPA板1の温度をVIPA板設計温度(ITU−Tグリッド波長が透過中心となる温度)に設定する。
【0076】
ステップ34では、表1のデータを参照して設定可能な最小波長分散値の位置に移動ステージ7Aを移動する。
【0077】
ステップ35では、ITU−Tグリッド波長の最短波長付近についての損失波長特性(横軸:波長、縦軸:損失[dB])を測定する。
【0078】
ステップ36では、ステップ35で測定した損失波長特性における最小損失レベルから1dBあるいは3dBダウン(本波長分散発生装置の仕様定義による)したレベル線と損失特性曲線との交点(2箇所)の波長を特定し、それらの波長の中間波長(透過帯の中心波長)を求める。図7は、3dBダウンの透過中心波長を求めた一例である。
【0079】
ステップ37では、上記ステップ36で求めた透過帯の中心波長をその近傍に存在するITU−Tグリッド波長に移動させるためのVIPA板設定温度を、上記ステップ32で求めた波長温度係数を用いて計算し、その設定温度をITU−Tグリッド波長に対応させて表2のデータとして記録する。
【0080】
ステップ38では、運用波長範囲(例えばC−バンド)内におけるITU−Tグリッド上の全ての波長について、上記ステップ35〜ステップ37と同様の処理を短波長側から順次行う。
【0081】
ステップ39では、移動ステージ7Aの現在位置より、波長分散値を所要の刻み(表2の一例では、100ps/nm刻み)だけ増やした移動ステージ7Aの位置を表1のデータから求め、その位置に移動ステージ7Aを移動させた後、上記ステップ35〜ステップ38の処理を実行する。そして、最大の波長分散値に対応した位置に移動ステージ7Aが移動されるまで上記一連の動作を繰り返し、表2に記憶する各データを取得する。
【0082】
なお、上記のような表2のデータ取得方法の一例では、ステップ32において波長温度係数を計算した。この計算では、波長温度係数は一定値であるが、厳密には、波長温度係数が温度に依存する。
【0083】
上記表2のデータ取得のための測定では、VIPA板1の温度をVIPA板設計温度に設定したため、透過帯の中心波長を僅かな温度変更によりITU−Tグリッド上の波長に合わすことができ、温度変化が僅かであれば波長温度係数を一定値とみなすことができるので、前述したような手順で表2のデータを取得することが可能である。しかしながら、ITU−Tグリッド上の各波長の間にある波長についての波長分散耐力測定を可能にする必要がある波長分散エミュレータ等の用途では、VIPA板1の温度を大きく変化させて、任意の波長での使用を可能とするため、例えば図8のフローチャートに示すような手順に従って波長温度係数の温度依存性を関数として定義するのが好ましい。
【0084】
図8において、ステップ50では、VIPA板1の温度可変範囲を例えば4等分し、最低設定温度から最高設定温度までの測定温度を決める。ここでは例えば温度可変範囲が35〜95℃のとき、測定温度を35℃、50℃,65℃、80℃および95℃とする。ただし、測定温度の設定はこの一例に限られるものではない。
【0085】
ステップ51では、VIPA板1の温度を最初の温度(例えば35℃)に設定する。
【0086】
ステップ52では、上述した特定波長(運用波長範囲の中心近傍のITU−Tグリッド波長)付近の透過帯の損失波長特性(横軸:波長、縦軸:損失[dB])を測定する。
【0087】
ステップ53では、ステップ52で測定した損失波長特性における最小損失レベルから1dBあるいは3dBダウン(本波長分散発生装置の仕様定義による)したレベル線と損失特性曲線との交点(2箇所)の波長を特定し、それらの波長の中間波長(透過帯の中心波長)を求める(前述の図7参照)。
【0088】
ステップ54では、VIPA板1の温度を次の測定温度(例えば50℃)に設定し、上記ステップ52,ステップ53の場合と同様の処理を実行して透過帯の中心波長を求める。そして、上記の処理を他の測定温度でも繰り返して実行し、全ての測定温度について透過帯の中心波長を求めたらステップ55に移る。
【0089】
ステップ55では、50℃における透過帯の中心波長から35℃における透過帯の中心波長を引き算して中心波長の変化量を求め、その変化量を35℃と50℃の中間の42.5℃における波長温度係数とする。そして、他の測定温度についても上記と同様の処理を行って、57.5℃,72.5℃および87.5℃における波長温度係数を計算する。次の表3は、各温度について計算された波長温度係数の具体的な一例を示したものである。
【0090】
【表3】
【0091】
ステップ56では、上記表3のデータについて、例えば図9に示すように、温度を横軸に、波長温度係数を縦軸にしてプロットし、次の(1)式で表される近似直線の傾き(ShiftA)および切片(ShiftB)を求める。
【0092】
dλ/dT=ShiftA×T+ShiftB…(1)
ただし、TはVIPA板1の温度、λは波長を表す。具体的に図9に示したグラフでは、ShiftA=0.0000306667、ShiftB=0.01049となる。このShiftAおよびShiftBの値が表2のデータとともに記憶回路14に記憶されることにより、ITU−Tグリッド上の波長だけでなくその間にある任意の波長についても、本波長分散発生装置を使用して波長分散耐力測定や波長分散補償を高い精度で行うことが可能になる。
【0093】
次に、本実施形態の運用時の動作について具体的に説明する。
【0094】
上記のようにして光学特性データが記憶回路14に事前に記憶された波長分散発生装置では、運用時の波長および波長分散値の設定指令が外部通信コネクタ10A(図1)を介してマイクロコンピュータ13に与えられると、記憶回路14の光学特性データに基づいて、設定指令により指定された波長および波長分散値に対応した3次元ミラー7(移動ステージ7A)の位置およびVIPA板1の温度が、例えば図10のフローチャートに従って決定される。
【0095】
まず、図10のステップ70において、上記指定された波長および波長分散値が本波長分散発生装置で設定可能な範囲内にあるか否かをチェックする。適正な範囲内にある場合にはステップ71に進み、設定範囲外にある場合にはエラーとなる。
【0096】
ステップ71では、記憶回路14に記憶された特定波長および波長分散スロープのデータを用いて、上記指定された波長分散値を、特定波長における波長分散値に変換する。この波長分散値の変換は、次の(2)式の関係に従って行うことができる。
【0097】
D(λ0)=D(λ)−DS・(λ−λ0)…(2)
ただし、λ0は特定波長、λは指定された波長、D(λ)は波長λにおける波長分散値、DSは波長分散スロープ値である。
【0098】
ステップ72では、ステップ71で変換された波長分散値について、記憶回路14に記憶された表1のデータを参照し、3次元ミラー7の目標位置を計算する。この際、ステップ71で変換された波長分散値が表1における設定値(±2000ps/nmの範囲で100ps/nm刻みに設定された各値)の間にある場合には、表1の位置データを直線補間等して、変換後の波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置を求めるようにする。また、ステップ71で変換された波長分散値が表1の範囲外にある場合には、外挿計算によって、変換後の波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置を求めるようにする。
【0099】
ステップ73では、上記指定された波長について、ITU−Tグリッド上の各波長うちで最も近い波長(以下、近傍グリッド波長と呼ぶ)を求める。
【0100】
ステップ74では、ステップ73で求めた近傍グリッド波長について、記憶回路14に記憶された表2のデータを参照し、ステップ71で変換された波長分散値に対応するVIPA板1の温度を求める。この際、ステップ71で変換された波長分散値が表2の設定値
(±2000ps/nmの範囲で100ps/nm刻みに設定された各値)の間にある場合には、表2の温度データを直線補間等して、変換後の波長分散値に対応したVIPA板1の温度を求めるようにする。
【0101】
ステップ75では、ステップ74で求めた近傍グリッド波長についてのVIPA板1の温度を、記憶回路14に記憶されたShiftAおよびShiftBの値を用いて、前述の(1)式を温度Tについて解いた次の(3)式の関係に従って、指定された波長λについてのVIPA板1の温度Tに変換する。
【0102】
【数1】
【0103】
ただし、λgは近傍グリッド波長、Tgは近傍グリッド波長についてのVIPA板1の温度を表す。
【0104】
ステップ76では、ステップ75で(3)式の関係に従って計算されるVIPA板1の温度Tが本装置における温度設定可能範囲内にあるか否かが判定される。ここで変換後のVIPA板1の温度Tが設定可能範囲外となる状態について簡単に説明すると、例えば図11に示すように、表2のデータから近傍グリッド波長λgについてのVIPA板1の温度Tgが図中の白丸印で示すような位置にあるとき、VIPA板1の温度を変化させると、温度と波長の関係は上記の白丸印を通る斜め線のようになる。このため、指定された波長とするためにはVIPA板1の温度を三角印まで変化させる必要があるが、本装置には部品耐熱温度等の制約があるため、図中の網掛け領域に示す温度設定可能範囲の外に三角印が位置してしまうことがある。このような場合には、近傍グリッド波長の隣に位置する第2近傍グリッド波長λg’についてのVIPA板1の温度Tg’(黒丸印)を通る斜め線上の四角印にVIPA板1の温度Tを設定すればよい。
【0105】
上記のステップ76で温度設定可能範囲内と判定された場合には、ステップ77に進んで、ステップ72で計算された3次元ミラーの位置を目標位置として移動ステージ制御回路11(図1)に設定し、かつ、ステップ75で変換されたVIPA板1の温度とを目標温度として温度制御回路12に設定する。
【0106】
一方、上記のステップ76で温度設定可能範囲外と判定された場合には、ステップ78に移って、前述の図11に示した第2近傍グリッド波長を計算する。そして、ステップ79では、ステップ78で計算した第2近傍グリッド波長について、記憶回路14に記憶された表2のデータを参照し、ステップ71で変換された波長分散値に対応するVIPA板1の温度を求める。
【0107】
ステップ80では、ステップ75の場合と同様にして、第2近傍グリッド波長についてのVIPA板1の温度を、(3)式の関係に従って、指定された波長λについてのVIPA板1の温度Tに変換する。
【0108】
ステップ81では、ステップ72で計算された3次元ミラーの位置を目標位置として移動ステージ制御回路11に設定し、かつ、ステップ80で変換されたVIPA板1の温度とを目標温度として温度制御回路12に設定する。
【0109】
上記のようにして移動ステージ制御回路11および温度制御回路12の各制御目標値が設定されることによって、3次元ミラー7の位置およびVIPA板1の温度がそれぞれ最適化されるようになるため、指定された波長における波長分散値を高い精度で実現することが可能になる。
【0110】
なお、VIPA板1の温度制御に関しては、上述の図3に示したような構成を適用した場合、ヒータを駆動するPWMアンプ30において大電流をON/OFFする際に発生するノイズが、VIPA板1の温度変化による温度センサ9の抵抗値の微小変化の検出に影響を及ぼさないようにするのが望ましい。具体的には、図3に示したタイミングコントローラ35によって、PWMコントローラ30BにおけるPWM変調のON/OFFのタイミングと、10ビットADC34における変換開始のタイミングとをずらして、図12のタイミング図に示すように、PWM信号のON/OFF時に発生するノイズが十分に小さくなった後に、温度モニタ信号のAD変換を開始するようにする。これにより、PWM信号のノイズの影響を殆ど受けることなく温度センサ9の微小な抵抗値の変化を検出して、VIPA板1の温度を安定して最適値に制御することができるため、所望の波長分散値をより高い精度で実現することが可能になる。
【0111】
上述したように本実施形態の波長分散発生装置によれば、3次元ミラー7の位置制御用のデータとしては、特定波長について少なくとも2つの波長分散値に対応した3次元ミラー7の位置と波長分散スロープ値とを記憶回路14に記憶し、VIPA板1の温度制御用のデータとしては、ITU−Tグリッド上の各波長について少なくとも2つの波長分散値に対応したVIPA板1の温度とShiftAおよびShiftBとを記憶回路14に記憶しておくことにより、任意の波長について精度良く波長分散を発生させることができる。よって、運用開始前における光学特性データの取得を比較的短時間で行うことが可能であり、かつ、記憶回路14の大容量化を効果的に防ぐことが可能な波長分散発生装置を提供できる。このような波長分散発生装置は、例えば、任意の波長に対応可能な高精度の波長分散補償器として、または、任意の波長で使用される光通信装置の波長分散耐力測定用の波長分散エミュレータとして有用である。
【0112】
以上、本明細書で開示した主な発明について以下にまとめる。
【0113】
(付記1)相対する平行な2つの反射面を有する素子を含み、1次元方向に集光した光が前記素子の各反射面の間に入射され、該入射光が各反射面で多重反射されながらその一部が一方の反射面を透過して出射され、該出射光が干渉することにより波長に応じて進行方向の異なる光束が形成される分波機能を備えた光部品と、該光部品の一方の反射面から異なる方向に出射される各波長の光束を予め設定した位置で反射して前記光部品に戻す反射器とを備えて構成された波長分散発生装置であって、
所定の波長グリッド上の複数の波長のうちの特定波長について、2つの波長分散値に対応する前記反射器の位置に関するデータを前記特定波長および波長分散スロープ値とともに記憶する第1領域と、前記波長グリッド上の各波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記光部品の温度に関するデータを前記波長グリッド上の各波長および波長温度係数とともに記憶する第2領域と、を有する記憶部と、
運用時の波長および波長分散値が指定され、前記記憶部の第1領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を演算するとともに、前記記憶部の第2領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記光部品の目標温度を演算する演算部と、
前記反射器の位置を前記演算部で演算された目標位置に一致させる位置制御部と、
前記光部品の温度を前記演算部で演算された目標温度に一致させる温度制御部と、
を備えて構成されたことを特徴とする波長分散発生装置。
【0114】
(付記2)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記指定された波長が前記波長グリッド上の各波長の間に存在するとき、前記記憶部の第1領域に記憶された波長分散スロープ値を用いて、前記指定された波長分散値を前記特定波長における波長分散値に変換した後、前記記憶部の第1領域に記憶された前記反射器の位置に関するデータを参照して、前記変換後の波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【0115】
(付記3)付記2に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に最も近い波長を近傍グリッド波長とし、該近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照し、前記変換後の波長分散値に対応する前記光部品の温度を求め、該求めた温度を前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて前記指定された波長に対応する温度に変換することによって前記光部品の目標温度を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【0116】
(付記4)付記3に記載の波長分散発生装置であって、
前記記憶部は、前記波長温度係数の温度依存性を表す近似式が前記第2領域に記憶され、
前記演算部は、前記記憶部の第2領域に記憶された近似式を用いて、前記指定された波長に対応する光部品の温度の変換を行うことを特徴とする波長分散発生装置。
【0117】
(付記5)付記3に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて変換された前記光部品の温度が、温度設定可能範囲外の温度に該当するとき、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に2番目に近い波長を第2近傍グリッド波長とし、該第2近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照することを特徴とする波長分散発生装置。
【0118】
(付記6)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
前記温度制御部は、前記光部品の温度を調節するヒータと、前記光部品の温度を検出する温度センサと、該温度センサで検出される温度が前記演算部で演算された目標温度に一致するように前記ヒータの駆動状態を制御するコントローラと、を有することを特徴とする波長分散発生装置。
【0119】
(付記7)付記6に記載の波長分散発生装置であって、
前記温度制御部は、前記ヒータがパルス幅変調方式で駆動されるとき、該ヒータの駆動電流のON/OFFのタイミングに対して前記光部品の温度検出を開始するタイミングをずらすタイミングコントローラを備えたことを特徴とする波長分散発生装置。
【0120】
(付記8)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
入力される光信号に累積した波長分散を補償可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【0121】
(付記9)付記1に記載の波長分散発生装置であって、
接続される光通信装置の波長分散耐力を測定可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明による波長分散発生装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施形態における制御部の移動ステージ制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【図3】上記実施形態における制御部の温度制御に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【図4】上記実施形態における制御部の通信・コマンド処理に関連した構成例を示す機能ブロック図である。
【図5】上記実施形態で記憶回路に記憶される表1のデータ取得方法の具体例を示すフローチャートである。
【図6】上記実施形態で記憶回路に記憶される表2のデータ取得方法の具体例を示すフローチャートである。
【図7】3dBダウンの透過中心波長を求めた一例を示す図である。
【図8】波長温度係数の温度依存性を表す近似式を導くための手順を示すフローチャートである。
【図9】波長温度係数の温度依存性を表す近似式の一例を示す図である。
【図10】上記実施形態において運用時に指定される波長および波長分散値に対応した3次元ミラーの位置およびVIPA板の温度を決める手順を示すフローチャートである。
【図11】上記実施形態においてVIPA板の温度が設定可能範囲外となるときの一例を示す図である。
【図12】上記実施形態において温度制御を安定化させるためのヒータ駆動および温度検出のタイミングを例示した図である。
【図13】従来のVIPA型波長分散補償器の構成例を示す斜視図である。
【図14】図13の構成例の上面図である。
【図15】従来のVIPAの動作原理を説明するためのモデルを示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1…VIPA板
1A…ガラス板
1B,1C…反射多層膜
1D…照射窓
2…光サーキュレータ
3…光ファイバ
4…コリメートレンズ
5…ライン焦点レンズ
6…収束レンズ
7…3次元ミラー
7A…移動ステージ
8…ケース
9…温度センサ
10…制御部
10A…外部通信コネクタ
11…移動ステージ制御回路
12…温度制御回路
13…マイクロコンピュータ
14…記憶回路
20…モータドライバ
21A,21B…エッジ検出回路
22A,22B…コンパレータ
23A,23B,30A…MOSFETスイッチ
24…パルスモータコントローラ
25…LED点灯/パワー制御部
26…リニアスケールカウンタ
27…ステージ動作監視部
30…PWMアンプ
30B…PWMコントローラ
31…温度検出回路
32…ヒータ電流検出回路
33…ボード温度検出回路
34…10ビットADC
35…タイミングコントローラ
36…25データ移動平均部
37…PID温調コントローラ
38…温調異常検出部
39…ヒータ異常検出部
40…RS−232Cドライバ
41…文字列受信部
42…応答送信部
43…コマンド実行部
43A…ステージ動作シーケンサ
43B…温調パラメータ測定シーケンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する平行な2つの反射面を有する素子を含み、1次元方向に集光した光が前記素子の各反射面の間に入射され、該入射光が各反射面で多重反射されながらその一部が一方の反射面を透過して出射され、該出射光が干渉することにより波長に応じて進行方向の異なる光束が形成される分波機能を備えた光部品と、該光部品の一方の反射面から異なる方向に出射される各波長の光束を予め設定した位置で反射して前記光部品に戻す反射器とを備えて構成された波長分散発生装置であって、
所定の波長グリッド上の複数の波長のうちの特定波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記反射器の位置に関するデータを前記特定波長および波長分散スロープ値とともに記憶する第1領域と、前記波長グリッド上の各波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記光部品の温度に関するデータを前記波長グリッド上の各波長および波長温度係数とともに記憶する第2領域と、を有する記憶部と、
運用時の波長および波長分散値が指定され、前記記憶部の第1領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を演算するとともに、前記記憶部の第2領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記光部品の目標温度を演算する演算部と、
前記反射器の位置を前記演算部で演算された目標位置に一致させる位置制御部と、
前記光部品の温度を前記演算部で演算された目標温度に一致させる温度制御部と、
を備えて構成されたことを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記指定された波長が前記波長グリッド上の各波長の間に存在するとき、前記記憶部の第1領域に記憶された波長分散スロープ値を用いて、前記指定された波長分散値を前記特定波長における波長分散値に変換した後、前記記憶部の第1領域に記憶された前記反射器の位置に関するデータを参照して、前記変換後の波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に最も近い波長を近傍グリッド波長とし、該近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照し、前記変換後の波長分散値に対応する前記光部品の温度を求め、該求めた温度を前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて前記指定された波長に対応する温度に変換することによって前記光部品の目標温度を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の波長分散発生装置であって、
入力される光信号に累積した波長分散を補償可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項5】
請求項1に記載の波長分散発生装置であって、
接続される光通信装置の波長分散耐力を測定可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項1】
相対する平行な2つの反射面を有する素子を含み、1次元方向に集光した光が前記素子の各反射面の間に入射され、該入射光が各反射面で多重反射されながらその一部が一方の反射面を透過して出射され、該出射光が干渉することにより波長に応じて進行方向の異なる光束が形成される分波機能を備えた光部品と、該光部品の一方の反射面から異なる方向に出射される各波長の光束を予め設定した位置で反射して前記光部品に戻す反射器とを備えて構成された波長分散発生装置であって、
所定の波長グリッド上の複数の波長のうちの特定波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記反射器の位置に関するデータを前記特定波長および波長分散スロープ値とともに記憶する第1領域と、前記波長グリッド上の各波長について、少なくとも2つの波長分散値に対応する前記光部品の温度に関するデータを前記波長グリッド上の各波長および波長温度係数とともに記憶する第2領域と、を有する記憶部と、
運用時の波長および波長分散値が指定され、前記記憶部の第1領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を演算するとともに、前記記憶部の第2領域に記憶された情報に基づいて前記指定された波長および波長分散値に対応する前記光部品の目標温度を演算する演算部と、
前記反射器の位置を前記演算部で演算された目標位置に一致させる位置制御部と、
前記光部品の温度を前記演算部で演算された目標温度に一致させる温度制御部と、
を備えて構成されたことを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記指定された波長が前記波長グリッド上の各波長の間に存在するとき、前記記憶部の第1領域に記憶された波長分散スロープ値を用いて、前記指定された波長分散値を前記特定波長における波長分散値に変換した後、前記記憶部の第1領域に記憶された前記反射器の位置に関するデータを参照して、前記変換後の波長分散値に対応する前記反射器の目標位置を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載の波長分散発生装置であって、
前記演算部は、前記波長グリッド上の各波長のうちで前記指定された波長に最も近い波長を近傍グリッド波長とし、該近傍グリッド波長について前記記憶部の第2領域に記憶された前記光部品の温度に関するデータを参照し、前記変換後の波長分散値に対応する前記光部品の温度を求め、該求めた温度を前記記憶部の第2領域に記憶された波長温度係数を用いて前記指定された波長に対応する温度に変換することによって前記光部品の目標温度を求めることを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の波長分散発生装置であって、
入力される光信号に累積した波長分散を補償可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【請求項5】
請求項1に記載の波長分散発生装置であって、
接続される光通信装置の波長分散耐力を測定可能な波長分散を発生することを特徴とする波長分散発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−184798(P2006−184798A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381010(P2004−381010)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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