説明

波長選択スイッチ

【課題】MEMSミラーを用いない波長選択スイッチを提供する。
【解決手段】波長選択スイッチは、入力ポートへ入射した光信号を波長毎に分光して波長に応じた出射角度で出射するアレイ導波路回折格子(14A)と、集光レンズ(41)と、集光された光信号の各々に対し進行方向を変化させる液晶スイッチと、進行方向が変化した光信号の各々を合波して2個の出力ポートのいずれかから出射する、同一基板に構成されたアレイ導波路回折格子(14A,14B)とを含む。液晶スイッチは、集光レンズから順に配置された信号光の偏光状態に対応してアレイ導波路回折格子の基板面内で光信号の各々の進行方向を変化させる複屈折結晶(900)、信号光の偏光状態を変化させる液晶素子(500)、および光路を折り返すミラー(610)により構成される。信号光は、集光レンズから順に、複屈折結晶および液晶素子を透過し、ミラーで折り返した後、順に液晶素子および複屈折結晶を透過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信システムに応用可能な、波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の大容量化が進展し、伝送容量が波長分割多重(WDM(Wavelength Division Multiplexing))方式により増大する一方で、ノードにおける経路切換機能のスループットの増大が強く求められている。従来はその経路切換は、伝送されてきた光信号を電気信号に変換した後に、電気スイッチにより行う方法が主流であったが、高速で広帯域であるという光信号の特徴を生かして、光スイッチ等を用いて光信号のまま、アド・ドロップ等を行う、ROADMシステムが導入されている。具体的には、ネットワークをリング型として各ノードで光信号のアド・ドロップを行うとともに、その必要がないものは光信号のまま通過させるため、ノード装置が小型で低消費電力化するという利点がある。それらROADM(reconfigurable optical add/drop multiplexer)システムの将来的な展開に必要なデバイスとして、波長選択スイッチ(Wavelength selective switch:WSS)モジュールが求められている。
【0003】
従来、MEMSミラーアレイを用いたWSSが知られている(例えば、特許文献1参照)。図1は、そのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーアレイを用いたWSSの構成を示す図である。図1(a)はWSSの平面図であり、図1(b)は側面図である。図1に示すWSSは、入力側の光ファイバに波長分割多重(WDM)化された光信号が入力光として入力し、波長分波器(例えば、基板10上に石英ガラス系のスラブ導波路12およびアレイ導波路14を備えた光導波路(Planar lightwave circuit:PLC)で作製されたアレイ導波路回折格子(Arrayed waveguide grating:AWG))により互いに波長の異なるチャネル光信号ごとに分波され、分波されたチャネル光信号が、レンズ(シリンドリカルレンズ20、主レンズ40)により、MEMSミラーアレイを構成するMEMSミラー60に集光するように構成されている。ここでMEMSミラーアレイは、各々のミラー60に各波長チャネルの光信号が各々入力するように配置されている。したがって、この各MEMSミラーの角度を調整することにより、各波長チャネルの光信号は任意の方向にステアすることができる。例えば図1に示すWSSにおいて光軸(z方向)に対して左右の方向(x方向)にミラーを振ることにより、各波長チャネルの光信号を同一基板上の他のAWGに入力することが可能である。なお、本明細書において光回路の基板における信号光の出射端面と水平な方向をx、垂直な方向をyとし、光波の進行方向すなわち光軸をzとする。
【0004】
図1(b)に示すように、WSSは、入力側のアレイ導波路回折格子基板10と複数の出力側のアレイ導波路回折格子基板10’とを(y方向に)スタックした構成のWSSである。したがって、各MEMSミラーの角度を光軸(z方向)に対して上下の方向(y方向)にさらに調整することにより、スタックされた他のPLC基板のAWGに光信号を入力させることができる。
【0005】
図1に示すWSSにおいて、各波長チャネルの光信号は、出力側の各AWGにより合波され再び各出力ポートからWDM信号として出力される。図1の例では1つの入力側のアレイ導波路格子に対して、24個のアレイ導波路格子が存在するため1入力24出力(1×24)のWSSとして機能する。
【0006】
【特許文献1】米国特許第7088882号明細書
【非特許文献1】ヘクト著、ヘクト光学II,2004年9月,p88
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図1の波長選択スイッチは、以下のような課題が存在する。図1の波長選択スイッチでは、WDM光信号を波長毎に回折格子で分割し、MEMSミラーアレイに当てて処理しているため、MEMSミラー同士の隙間をできるだけ狭くする必要がある。すなわちMEMSミラーは、図2に示すように波長ch数分のミラーが隙間なく並べられ、典型的にはその上下にヒンジ(ミラーを支えるバネ)が設けられた構造になっている。この理由は回折格子から波長毎に分けられた光がミラー面のA−A’に入射するため、ミラー間の隙間分だけ出射光の波長スペクトルにギャップができるためである。すなわち上下右左に傾けるため、上下右左にヒンジが設けられた方が有利であるにもかかわらず、ミラー間にヒンジ(バネ)を入れることはできず上下にのみヒンジがある。
【0008】
それにもかかわらず従来例では、上下右左にミラーを傾け、反射光を2次元方向に曲げる必要がある。これは出力ポートに対応するアレイ導波路格子の出力部が光軸の進行方向にむかって2次元的に配置していることに起因する。このように原理的には1軸方向の回転に適したヒンジ構造にも関わらず2軸方向に回転させる必要があり、ヒンジに無理な応力がかかるため信頼性等に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、MEMSミラーを用いない波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【0010】
本発明に係る波長選択スイッチは、入力ポートから光信号を入力し分光して異なる波長の複数の光信号に分離して、各波長の光信号に対して、光軸を変化させることにより複数の出力ポートのうちの所望の出力ポートに対応させ、各々の出力ポートに対応する光信号は異なる波長の複数の光信号が合流して各出力ポートから出力する波長選択スイッチである。本発明に係る波長選択スイッチは、入力ポートへ入射した光信号を異なる波長を有する複数の光信号に分光して波長に応じた出射角度で出射する分光手段と、分光手段により波長毎に分光された光信号を各々に集光する集光手段と、集光手段により集光された光信号の各々に対し進行方向を変化させる空間偏向手段と、空間偏向手段により進行方向が変化した光信号の各々を合波して2個の出力ポートのいずれかから出射する合波手段とを含む。
【0011】
本発明に係る波長選択スイッチの合波手段の複数の分光面は同一の面内にあり、一実施形態では、1つまたは複数のアレイ導波路回折格子を用いて構成することができる。また、本発明に係る波長選択スイッチの分光手段も、一実施形態では、アレイ導波路回折格子を用いて構成することができる。
【0012】
本発明に係る波長選択スイッチの空間偏向手段は、集光手段側から順に配置された信号光の偏光状態に対応して合波手段の分光面内で光信号の各々の進行方向を変化させる複屈折結晶、前記信号光の偏光状態を変化させる液晶素子、および光路を折り返すミラーにより構成することができる。信号光は、集光手段から順に、複屈折結晶および液晶素子を透過し、ミラーで折り返した後、順に液晶素子および複屈折結晶を透過するように構成することができる。
【0013】
本発明に係る波長選択スイッチの空間偏向手段は、空間偏向手段により進行方向を変化させた光信号および進行方向を変化させない光信号が、集光レンズへ入射する前に互いに平行となるよう当該光信号の進行方向を変化させる手段をさらに備えることもできる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、MEMSミラーを用いない、かつ複数のAWGを含むPLC基板を用いた波長選択スイッチを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記のように、本発明の波長選択スイッチは、AWGを含むPLC基板と、液晶スイッチとを備え、液晶スイッチが入力側のAWGにより波長分離された所望の波長チャネルの光をステアして出力側のAWGの方向(x方向)に結合する(所望の波長チャネルの光を他の波長チャネルの光から分光する)スイッチとして機能する。本発明の波長選択スイッチは、反射型として実施することができる。以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本明細書において、同一または類似の要素は、同一または類似の符号によって参照される。
【0016】
図3は、MEMSミラーを用いずに、液晶の光偏波スイッチを用いた波長選択スイッチの構成例を示す図である。図3(a)は平面図、図3(b)は側面図である。
【0017】
図3に示す波長選択スイッチは、入力ポートまたは出力ポート側から順に、(y方向に)スタックされたAWGを含むPLC(入力側AWG10および出力側AWG10’)と、シリンドリカルレンズ 20と、偏波分離部(たとえば、偏波ビームディスプレーサ)30、主レンズ(たとえば、シリンドリカルレンズ、球面レンズ)40と、液晶可変光減衰器(Variable Optical Attenuator:VOA)500と、第1液晶スイッチ700および第2液晶スイッチ800と、反射ミラー610とを備える。
【0018】
図3に示すWSSでは、PLC10(10’)がAWGを含み、AWGは光導波路11、スラブ導波路12、アレイ導波路14から構成されている。
【0019】
第1液晶スイッチ700および第2液晶スイッチ800は、液晶スイッチ部を構成する。第1液晶スイッチ700および第2液晶スイッチ800は、それぞれ液晶素子550と、液晶素子550を透過した光を入射する偏波分離結晶(または、ウェッジ型の複屈折結晶)900とを備え、液晶スイッチ部において入力側AWGから出射した光を上下方向(PLCのスタック方向:y方向)にステアする機能を担う。
【0020】
図3に示すWSSでは、入力側のAWG10からの出力光は、波長により水平面内に異なる角度に出射する。入力側PLC10の端面から出射した光ビームは上下方向の広がりを防ぐため、シリンドリカルレンズ20を透過する。
【0021】
次いで、液晶VOA500、第1液晶スイッチ700および第2液晶スイッチ800を構成する液晶素子が偏光依存性を持つため、偏波分離部30でシリンドリカルレンズ20を透過した光を、例えば水平方向の偏光成分のみにする。偏波分離部30から出力された各光は図のように主レンズ40を透過する。主レンズ40の前後の焦点はPLCの出射端面および反射ミラー610の反射面になるようにしている。そのため、図3(a)のように水平面内で波長により出射角度が異なっていた光は全て中心光軸が平行な光となる。主レンズ40を透過した光は、液晶VOA500へ入射し強度が制御される。
【0022】
液晶スイッチ700,800は、図4に示す構造を有し、液晶素子550において透明導電膜のITO電極506に所望の電圧を加えることにより、光信号の偏光面を光軸に垂直面上に0〜90度まで回転できる。つまり、ITO電極506の印加電圧を制御することにより、液晶素子550は偏光面の回転角度0、90度で制御できる。したがって液晶素子550と偏波分離結晶840とを用いると、図4に示すような光を分離する1×2スイッチを構成できる。最終的にその各々の光路の出力側に各々PLCを設置することによりWSSを構成できる。図3に示すWSSでは液晶光偏波スイッチ部における上下方向(y方向)の光軸の分離(シフト)は、図5に示すウェッジ型の複屈折結晶900による水平・垂直方向の偏光の屈折角度の違いによっても引き起こすことができる。
【0023】
図5は、図3の液晶スイッチの一部を構成するウェッジ型の偏波分離結晶を説明するための図である。ここで偏波分離結晶の例として、複屈折結晶YVO4を用いる。ここでは、複屈折結晶YVO4の水平方向の屈折率がn(//)=1.9447、垂直方向の屈折率がn=2.1486とする。そして複屈折結晶YVO4の光が入射する入射面が光路に対して垂直であり、図示のように出力する出力面が入射面に対して傾いていると、スネルの法則により入力偏光の向きにより出力角度がシフトする。したがって、複屈折結晶YVO4の出射面のオフセット角度を調整することにより各偏光の屈折角を所望の値に変化させることができ、その垂直方向の光と水平方向の光との屈折角度差も一様に増加させることができる。したがって、複屈折結晶の前段に配置された液晶素子550において、複屈折結晶に入射する光の偏光の方向を0か90度に制御することにより出射角度を変化させる1×2の光スイッチとして第1液晶スイッチ700および第2液晶スイッチ800を機能させることができる。
【0024】
図3に示すWSSは、液晶スイッチ700,800をカスケードに配置して、1×4スイッチを実現する例を示している。ここで垂直方向へのシフト量の組み合わせは偏波分離結晶のオフセット角度によって調整することが可能である。
【0025】
一方、水平方向(PLCのスタック方向に対して垂直な面内の方向:x方向)については、図3(a)に示すように各波長chの信号がAWG10により波長分離されている。従って液晶スイッチ700,800を構成する液晶素子550も、ITO電極を分光軸方向(図3に示すWSSではx方向)にパターン化し、所望の波長chの信号光ごとに1ピクセルのITO電極に当たるようにしておくことにより、各波長chごとに出力ポートの切り替えをすることが可能である。そして、AWG10’を出力信号の集光位置に並べることにより、所望のAWG10’に戻すことができる。各AWG10’に戻された光は合波されてPLC基板の左側の各ポートから出力する。
【0026】
図3の構成において、1つの液晶スイッチに着目すると、光は、液晶素子、複屈折結晶ウェッジ、ミラー、複屈折結晶ウェッジ、液晶素子の順に透過する。偏波回転後に2回複屈折結晶ウェッジを通る事で、2倍の分離角度を得る事ができる。図5から分るように一般に大きな分離角度を得る為には厚い結晶が必要でありコスト高となる。本発明の液晶スイッチの構成によると、薄い結晶を用いることが可能となりコストメリットが得られる。
【0027】
図3に示す波長選択スイッチWSSでは、各々アレイ導波路回折格子(AWG)を含む複数のPLC基板(10,10’)を用いるため、コストが増大するという問題がある。また、図3に示す波長選択スイッチWSSでは、複数のPLC基板(10,10’)をスイッチ軸方向(y方向)に高精度にスタックする必要があるため、組立工程が複雑になり歩留まりが低下し、コストが増大するという問題、および光学モジュールが厚くなるという問題がある。一方で、図3と同じ構成の液晶スイッチを用いてx方向に光をステアすると次の問題が生じる。
【0028】
図6は、図3に示したWSSの液晶スイッチ(700,800)と同様に構成した場合に、液晶スイッチへ入射した光の光路を説明するための図である。
【0029】
図6に示す液晶素子は、液晶素子550、ウェッジ型の複屈折結晶900、ミラー610の順に配列されている。液晶素子550は、PLC基板におけるAWGの配列方向(x方向)に配列された、PLC基板面に垂直な方向(y方向)に長いITO電極506を備え、各ITO電極506のピクセルが、光の波長chに対応する。
【0030】
図6に示すように、液晶スイッチへ入射光路から入射した光は、液晶素子550において偏光面の回転角度が0または90度に制御された後に複屈折結晶ウェッジ900へ入射される。複屈折結晶ウェッジ900へ入射した光は、偏光面の回転角度に応じた屈折角度で出射し、ミラー610で反射されて再び複屈折結晶ウェッジ900および液晶550を透過する。このようにして、光はPLC基板におけるAWGの配列方向(x方向)へ出射光路AまたはBをスイッチするようにステアされる。ここで、図6に示すように、出射光路Bへスイッチした場合は、液晶素子550における光の入射位置と出射位置はx方向において異なるため、液晶素子550のピクセルに入射した光が異なるピクセルを透過して出力される場合が生じる。異なるピクセルを透過した光は、意図されていない偏光面の光として出力されるため、光のステアの精度が低下し、WSSにおける波長分解能が低下する。
【0031】
そこで、本発明では、分光軸方向にステアする液晶スイッチ部のみ、偏光分離する複屈折結晶ウェッジを出力PLC側に配置する事とした。この配置の動作を図7を用いて説明する。図7に示す液晶素子は、ウェッジ型の複屈折結晶900、液晶素子550、ミラー610の順に配列されている。液晶素子550は、光が2回透過したときに当該光の偏光面の回転角度が0または90度に制御されるように構成されている。
【0032】
図7に示す液晶スイッチへ入射した光は、先ずウェッジ型の複屈折結晶900を透過し、液晶素子550において偏光面の回転角度が制御され、ミラー610で反射されて再び液晶素子550で偏光面の回転角度が制御され、ウェッジ型の複屈折結晶900に入射する。再びウェッジ型の複屈折結晶900に入射した光は、偏光面の回転角度に応じた屈折角度で出射する。このようにして、光はPLC基板におけるAWGの配列方向(x方向)へステアされる。
【0033】
ここで、図7に示すように、液晶素子550における光の入射位置と出射位置はx方向において一致する。液晶素子550において、偏光面が回転されない場合(液晶素子550の制御量が0度の場合)、光は元の光路と逆向きの光路に精度よく出力される。また、液晶素子550において、偏光面が90度回転された場合(液晶素子550の制御量が90度の場合)、光は元の光路とは異なる光路に出力される。図7に示すような分光軸方向にステアする液晶スイッチ部を、光が出射光路AまたはBに分離された後に他の液晶スイッチ部を透過しないように配置する事で、出射光路AとBとの間の光路位置差による波長分解能の低下を防ぐことができ、これにより精度の高い光のステア機能を実現することができる。
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
図8は、第1の実施例のWSSの構成図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。図8に示すWSSは、2つのAWGを含むPLC基板10と、図7を参照して説明した液晶スイッチとを備える。
【0036】
PLC基板10は、石英系ガラスのコアとクラッドがSi基板上に形成されたものであり、光導波路11Aとスラブ導波路12Aとアレイ導波路14AからなるAWG A、および光導波路11Bとスラブ導波路12Bとアレイ導波路14BからなるAWG Bを構成している。AWG Aは、入力用AWGおよび出力用AWGの兼用として備えられている。したがって光導波路11Aにはサーキュレータ15が接続されている。AWG Bは、出力用AWGとして備えられている。
【0037】
AWG AおよびBの分光器としての角度分散値は等しく設定されている。AWG AおよびBの自由透過帯域FSRは、光導波路11Aから入力される波長多重光信号(WDM光信号)の波長帯域幅以上に構成されている。
【0038】
液晶スイッチは、PLC基板10側から順に配列された、ウェッジ型の複屈折結晶900、液晶素子550およびミラー610を備える。
【0039】
液晶素子550は、PLC基板におけるAWGの配列方向(x方向)に配列された、PLC基板面に垂直な方向(y方向)に長いピクセル列にパターン化されたITO電極506を備える。また、液晶素子550は、ITO電極506への印加電圧を制御することで、光が2回透過したときに当該光の偏光面の回転角度が0または90度に制御されるように構成されている。
【0040】
ウェッジ型の複屈折結晶900は、水平方向の偏光成分(x偏光)に対する屈折角が小さく、垂直方向の偏光成分(y偏光)に対する屈折角が大きくなるように、結晶軸方向を設定しておく。
【0041】
ミラー610は、液晶素子550の制御量が0度の場合に光が元の光路と逆向きの光路、すなわちAWG Aに結合される光路に出力されるように調整された角度で配置されている。
【0042】
AWG Aのアレイ導波路側14A側およびAWG Bのアレイ導波路側14B側には、それぞれシリンドリカルレンズ(図示しない)が配置されている。また、各シリンドリカルレンズの先には、偏波分離結晶30Aと1/2波長板31A、および偏波分離結晶30Bと1/2波長板31Bがそれぞれ配置されている。1/2波長板31Aは、偏波分離結晶30Aで分離されたy偏光の光路(y偏光光路)に挿入し、x偏光に変換して液晶スイッチ側に出射している。よって偏波分離結晶30Aと1/2波長板31Aからなる偏波分離部より液晶スイッチ側の光線は、すべてx偏光になる。光の相反性により、AWG Aは、液晶スイッチから偏波分離結晶30Aと1/2波長板31Aとからなる偏波分離部までの光路のx偏光の光を受光できる。1/2波長板31Bは、偏波分離結晶30Bのx偏光光路に挿入し、液晶スイッチ側からのy偏光光線をx偏光に変換して偏波分離結晶30Bに入射させる。よってAWG Bは、液晶スイッチから偏波分離結晶30Bと1/2波長板31Bとからなる偏波分離部までの光路のy偏光の光を受光できる。
【0043】
さらに、1/2波長板31Aおよび31Bと液晶スイッチのウェッジ型の複屈折結晶900との間には集光レンズ41が配置されている。
【0044】
図8(b)に示すように、集光レンズ41の作用により、y方向に分離した2つの光路は反射ミラー610上で互いに光軸が一致して結合する。よってAWG内のTEモード光およびTMモード光は、それぞれx偏光およびy偏光として出射され後、交換されてAWGに受光され、偏波ダイバーシティ構成が成り立っている。
【0045】
ここで光信号の伝搬の順に従って本実施例のWSSの構造と機能を説明する。
AWGは透過型の回折格子であるから入力側のAWG Aからの出力光は、波長によりPLC基板面(xz面)内で異なる角度に出射する。すなわち、波長分離される。波長分離された光軸を含む面を分光面と呼ぶ。
【0046】
入力側PLC10の端面から出射した各波長チャネルの光は上下方向の広がりを防ぐため、シリンドリカルレンズを透過する。次いで、液晶スイッチを構成する液晶素子550および複屈折結晶900が偏光依存性を持つため、偏波分離部(偏波分離結晶30Aと1/2波長板31A)において、シリンドリカルレンズ 20を透過した光を、例えば水平方向の偏光成分のみにする。これらの光は、平行光として出力される。この隣接した2つのビームの挙動は全く同一のため、以下の説明や図面では省略する。
【0047】
偏波分離部から出力された各波長チャネルの光は集光レンズ41を透過する。
【0048】
集光レンズ41を透過した各波長チャネルの光は、液晶素子550の異なるピクセル(パターン化されたITO電極)に入射し、偏光面の回転角度が制御され、ミラー610で反射されて再び液晶素子550で偏光面の回転角度が制御され、ウェッジ型の複屈折結晶900に入射する。
【0049】
再びウェッジ型の複屈折結晶900に入射した光は、偏光面の回転角度に応じた屈折角度で出射する。このようにして、光はPLC基板におけるAWGの配列方向(x方向)へステアされる。液晶素子550において、偏光面が回転されない場合(液晶素子550の制御量が0度の場合)、光は元の光路と逆向きの光路、すなわちAWG Aに結合される光路に出力される。また、液晶素子550において、偏光面が90度回転された場合、光は元の光路とは異なる光路、すなわちAWG Bに結合される光路に出力される。
【0050】
なお、光スイッチのクロストークを十分低くする為には、AWG Aに結合される光路とAWG Bに結合される光路とが重ならない必要がある。この条件は、アレイ導波路14Aと結合される光のガウスビーム半径をw、集光レンズ41の焦点距離をf、ウェッジ型の複屈折結晶900の複屈折量および頂角をそれぞれΔn、α、とすると、
【0051】
【数1】

【0052】
で表される。複屈折結晶をYVO4(Δn=0.2)、アレイ導波路14Aと結合される光のガウスビーム半径をwを2mm、集光レンズ41として焦点距離fが100mmの集光レンズを用いると、ウェッジ型の複屈折結晶900の頂角αは、
【0053】
【数2】

【0054】
となる。
【0055】
このようにして、1×2のWSSを実現することができる。なお本実施例では説明の都合上1×2の波長選択スイッチの例を示したが、光の進行方向を逆にして、入出力の方向も逆にすれば2入力1出力(2×1)の波長選択スイッチとして動作させることが可能である。
【実施例2】
【0056】
図9は、第2の実施例のWSSの構成図である。図9に示すWSSは、1つのAWGを含むPLC基板10と、図7を参照して説明した液晶スイッチとを備える。
【0057】
PLC基板10は、石英系ガラスのコアとクラッドがSi基板上に形成されたものであり、光導波路11A、11Bとスラブ導波路12とアレイ導波路14からなるAWGを構成している。
【0058】
AWGの自由透過帯域FSRは、光導波路11Aから入力される波長多重光信号(WDM光信号)の波長帯域幅の2倍以上に構成されている。
【0059】
光導波路11Aは、入力用および出力用の兼用として備えられている。したがって光導波路11Aにはサーキュレータ15が接続されている。光導波路11Bは、出力用AWGとして備えられている。また、光導波路11Aと11Bとは、波長多重光信号(WDM光信号)の波長帯域幅相当以上の間隔を有して、スラブ導波路12に接続されている。
【0060】
実施例1と同様に、AWGのアレイ導波路側14側には、シリンドリカルレンズ(図示しない)が配置されている。また、各シリンドリカルレンズの先には、偏波分離部(図示しない)が配置されている。また、偏波分離部と液晶スイッチのウェッジ型の複屈折結晶900との間には集光レンズ41が配置されている。
【0061】
さらに、本実施例のWSSは、集光レンズ41と液晶スイッチのウェッジ型の複屈折結晶900との間には、液晶スイッチで偏光面が90度回転された光が順に透過する、光学ガラス製ウェッジ90および1/2波長板が配置されている。光学ガラス製ウェッジ90は、複屈折を有さないウェッジである。
【0062】
ここで光信号の伝搬の順に従って本実施例のWSSの構造と機能を説明する。
実施例1と同様に、AWGからの出力光は、波長によりPLC基板10の基板面(xz面)内で異なる角度に出射し、シリンドリカルレンズを透過する。次いで、偏波分離部に入射し、x偏光の、互いに平行な2つの光信号として出力される。
【0063】
偏波分離部から出力された各波長チャネルの光は集光レンズ41を透過する。
【0064】
集光レンズ41を透過した各波長チャネルの光は、液晶素子550の異なるピクセル(パターン化されたITO電極)に入射し、偏光面の回転角度が制御され、ミラー610で反射されて再び液晶素子550で偏光面の回転角度が制御され、ウェッジ型の複屈折結晶900に入射する。
【0065】
再びウェッジ型の複屈折結晶900に入射した光は、偏光面の回転角度に応じた屈折角度で出射する。このようにして、分光軸方向(x方向)へステアされる。液晶素子550において、偏光面が回転されない場合(液晶素子550の制御量が0度の場合)、水平方向の偏光成分の光(x偏光:aビーム)は元の光路と逆向きの光路に出力される。また、液晶素子550において、偏光面が90度回転された場合、垂直方向の偏光成分の光(y偏光:bビーム)は元の光路とは異なる光路、すなわち光学ガラス製ウェッジ90および1/2波長板91を透過してAWGに結合される光路に出力される。
【0066】
y偏光の光(bビーム)は、ガラス製ウェッジ90においてAWGに再結合する方向に偏向され、1/2波長板においてx偏光の光に変換される(即ち、aビームとbビームの偏光が一致する)。
【0067】
ここで、aビームおよびbビームは、AWGへの入射角が互いにことなるので、スラブ導波路12の異なる位置に集光する。光導波路11Aおよび11Bは、それぞれaビームおよびbビームが集光するスラブ導波路12の位置において接続されている。ただし、aビームの隣接回折次数の回折光が光導波路11Bの位置にかかるとクロストークとなるので、AWGのFSRは通常の値(使用する波長の帯域幅+マージン)の2倍に設定するのが望ましい。
【0068】
このようにして、1×2のWSSを実現することができる。なお本実施例では説明の都合上1×2の波長選択スイッチの例を示したが、光の進行方向を逆にして、入出力の方向も逆にすれば2入力1出力(2×1)の波長選択スイッチとして動作させることが可能である。
【実施例3】
【0069】
図10は、第3の実施例のWSSの構成図である。図10に示すWSSは、図9を参照して説明した第2の実施例のWSSの変形例である。本実施例のWSSは、第2の実施例の液晶スイッチを、ウェッジ型の複屈折結晶900ではなく偏波ディスプレーサ910で構成している。
【0070】
偏波ディスプレーサ910は、複屈折結晶により作製することができ(例えば、非特許文献1参照)、複屈折結晶と1/2波長板とを備える。偏波ディスプレーサ910は、2つの偏光光を平行に分離するので、第2の実施例のWSSで用いた光学ガラス製ウェッジ90を配置する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】従来の波長選択スイッチの概略構成を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】従来の波長選択スイッチに用いられるMEMSミラーの概略構成を説明するための図である。
【図3】波長選択スイッチの概略構成を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る波長選択スイッチに用いる液晶偏波スイッチの基本原理を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施例に係る1×2波長選択スイッチに用いる液晶スイッチの動作原理を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施例に係る1×2波長選択スイッチに用いる液晶スイッチの動作原理を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施例に係る反射型の1×2波長選択スイッチに用いる液晶スイッチの動作原理を説明するための図である。
【図8】本発明の一実施例に係る1×2波長選択スイッチの概略構成を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図9】本発明の一実施例に係る1×2波長選択スイッチの概略構成を説明するための図である。
【図10】本発明の一実施例に係る1×2波長選択スイッチの概略構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0072】
10,10’ 光導波路基板
20 シリンドリカルレンズ
30 偏波分離部
41 集光レンズ
550 液晶素子
610 ミラー
900複屈折結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の入力ポートから光信号を入力し分光して異なる波長の複数の光信号に分離して、各波長の光信号に対して、光軸を変化させることにより2個の所望の出力ポートに対応させ、各々の出力ポートに対応する光信号は異なる波長の複数の光信号が合流して各出力ポートから出力する、1個の入力ポートおよび2個の出力ポートを有する1×2波長選択スイッチであって、
前記入力ポートへ入射した光信号を異なる波長を有する複数の光信号に分光して波長に応じた出射角度で出射する分光手段と、
前記分光手段により波長毎に分光された光信号を各々に集光する集光手段と、
前記集光手段により集光された光信号の各々に対し進行方向を変化させる空間偏向手段と、
前記空間偏向手段により進行方向が変化した光信号の各々を合波して前記2個の出力ポートのいずれかから出射する合波手段と
を含み、
前記合波手段の2つの分光面は、同一の面内にあり、
前記空間偏向手段は、前記集光手段側から順に配置された信号光の偏光状態に対応して前記同一の面内で前記光信号の各々の進行方向を変化させる複屈折結晶、前記信号光の偏光状態を変化させる液晶素子、および光路を折り返すミラーにより構成され、
前記信号光が、前記集光手段から順に、前記複屈折結晶および前記液晶素子を透過し、前記ミラーで折り返した後、順に前記液晶素子および前記複屈折結晶を透過することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記分光手段および前記合波手段はアレイ導波路回折格子を用いて構成されたことを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
前記合波手段は、各々が前記2個の出力ポートのうちの互いに異なる出力ポートに接続された2つのアレイ導波路回折格子を用いて構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記合波手段は、2つの出力導波路と、1つのスラブ導波路と、1組のアレイ導波路とにより構成された1つのアレイ導波路格子であり、
前記2つの出力導波路は、一端が前記2個の出力ポートのうちの互いに異なる出力ポートに接続され、他端が前記スラブ導波路に信号光の波長帯域幅相当以上の間隔を有した異なる位置で接続され、
前記空間偏向手段により進行方向を変化させた光信号および進行方向を変化させない光信号が、前記合波手段で合波されるよう、前記集光レンズへ入射する前に当該光信号の進行方向を変化させる手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項5】
前記合波手段は、2つの出力導波路と、1つのスラブ導波路と、1組のアレイ導波路とにより構成された1つのアレイ導波路格子であり、
前記2つの出力導波路は、一端が前記2個の出力ポートのうちの互いに異なる出力ポートに接続され、他端が前記スラブ導波路に信号光の波長帯域幅相当以上の間隔を有した異なる位置で接続され、
前記複屈折結晶は、異なる偏向成分を平行に分離する偏波ディスプレーサであることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項6】
前記液晶素子は、2回透過した光信号の偏光面を0度または90度回転する機能をもつように構成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の波長選択スイッチ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の波長選択スイッチにおいて、前記光信号の進行の向きを逆向きにし、前記出力ポートから光を入力し、前記光入力ポートから光を出力することを特徴とする波長選択スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−117564(P2010−117564A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290885(P2008−290885)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】