説明

注型成形品の製造方法

【課題】成形時間を短縮でき、注型成形品の生産効率の向上が可能な注型成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】注型用樹脂材料を注型型に注入して加熱硬化させる注型成形品の製造方法において、前記注型型に注入する前に前記注型用樹脂材料を加熱し、前記注型用樹脂材料の粘度がその加熱温度で最低粘度に到達した後も加熱し続けて粘度を上昇させ、前記注型用樹脂材料の粘度が前記最低粘度よりも高くかつ加熱前の注型用樹脂材料の粘度よりも低い前記注型用樹脂材料を前記注型型に注入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注型成形品は例えば絶縁材料や構造材料として電気機器などの製造に使用され、その注型成形品の注型用材料としては、電気的特性、機械的特性、寸法安定性などに優れているエポキシ樹脂などの樹脂をベースとした液状の注型用樹脂材料が使用される。このような注型用樹脂材料を用いた注型成形品の製造においては生産の高効率化の要求が従来からあり、成形時間の短縮が求められている。
【0003】
注型用樹脂材料はベースとなる樹脂および硬化剤などで組成されるが、上記の要求に応えるために、樹脂と硬化剤との架橋反応を促進させる硬化促進剤が配合され、これまでにも各種のものが検討されている。例えば特許文献1には、エポキシ樹脂および酸無水物硬化剤で組成される注型用樹脂材料に1,2−ジメチルイミダゾールを硬化促進剤として配合することが報告されている。そしてこのような硬化促進剤を配合したエポキシ樹脂/酸無水物硬化剤系の注型用樹脂材料は低温硬化が可能とされ、機械的特性や耐熱性に優れた注型成形品が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−31476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように硬化促進剤は成形時間の短縮や注型成形品の機械的特性や耐熱性などの特性の向上を図れるという利点を有するが、注型用樹脂材料の樹脂や硬化剤の種類が異なれば僅かな効果しか示さない場合がある。注型成形品の特性を低下させずに成形時間の短縮を図れる硬化促進剤の探索は容易ではないし、また硬化促進剤が奏する効果以上の硬化速度を望めず硬化促進剤を用いての成形時間の短縮には限界があり、別のアプローチからの成形時間の短縮が望まれている。
【0006】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、成形時間を短縮でき、注型成形品の生産効率の向上が可能な注型成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、注型用樹脂材料を注型型に注入して加熱硬化させる注型成形品の製造方法において、注型型に注入する前に注型用樹脂材料を加熱し、注型用樹脂材料の粘度がその加熱温度で最低粘度に到達した後も加熱し続けて粘度を上昇させ、注型用樹脂材料の粘度が最低粘度よりも高くかつ加熱前の注型用樹脂材料の粘度よりも低い注型用樹脂材料を注型型に注入することを特徴とする。
【0008】
この注型成形品の製造方法においては、注型型に注入する前に注型用樹脂材料の粘度が最大でも最低粘度の3倍の粘度になるまで注型用樹脂材料を加熱することが好ましい。
【0009】
また、この注型成形品の製造方法においては、注型用樹脂材料が、エポキシ樹脂および酸無水物硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形時間を短縮することができ、注型成形品の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例で作製した注型用樹脂材料を60℃で加熱したときの注型用樹脂材料の材料温度および粘度の経時的変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、後述する実施例で作製した注型用樹脂材料を60℃で加熱したときの注型用樹脂材料の材料温度および粘度の経時的変化を示した図である。ここで図1の注型用樹脂材料の組成は、エポキシ樹脂(DIC(株)製 エピクロン850)100重量部、硬化剤(酸無水物硬化剤、新日本理化(株)製 リカシッドMH、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸)88重量部、硬化促進剤(和光純薬工業(株)製 N,N−ジメチルベンジルアミン)3重量部で構成されている。
【0014】
図1に示すように、注型用樹脂材料の材料温度は加熱初期において上昇し、その後は一定温度(加熱温度である60℃に近似する温度)を示す。注型用樹脂材料の粘度は加熱初期において材料温度の上昇に伴って低下し、材料温度が一定温度になるあたりでは粘度の低下が止まり最低粘度を示す。その後は硬化反応が進行して徐々に粘度が上昇し、最終的にはゲル化して硬化物となる。
【0015】
なお、図1の注型用樹脂材料は上記のとおりの組成のエポキシ樹脂組成物で構成されるが、このような注型用樹脂材料に限らず注型成形品の製造に用いられる公知の注型用樹脂材料の材料温度および粘度は図1に示す挙動と同様な挙動を示す。
【0016】
本発明は、注型型に注入する前に注型用樹脂材料を加熱し、次いで注型用樹脂材料を注型型に注入して加熱硬化させて注型成形品を製造している。ここで、注型型に注入する前に注型用樹脂材料を加熱することを、以下、予熱ともいう。
【0017】
本発明における予熱は、図1に示すような粘度の経時的変化を有する注型用樹脂材料において注型用樹脂材料の粘度がその加熱温度で最低粘度に到達した後も加熱し続け、注型用樹脂材料の粘度が最低粘度よりも増加するまで加熱している。そして、その最低粘度よりも増粘した粘度を有する注型用樹脂材料を注型型に注入して加熱硬化させる。
【0018】
注型型に注入される注型用樹脂材料はある程度増粘されて硬化反応が進んでいるので、注入後の注型型内の注型用樹脂材料の昇温時間および硬化時間を短くすることができ、結果として注型型での注型用樹脂材料の成形時間を短縮することができる。
【0019】
予熱後の注型用樹脂材料の粘度、つまり注型型に注入する注型用樹脂材料の粘度は、注型型に注入可能な粘度であり注型成形品が良品として得られるような粘度であることが当然考慮される。すなわち、本発明においては、充填不良が発生するなど注型成形品に成形欠陥が生じるような粘度になるまで注型用樹脂材料を予熱することは考慮されない。注型成形品に成形欠陥が生じないような粘度は、一般的には予熱前の注型用樹脂材料の粘度よりも低い粘度である。このため注型用樹脂材料の予熱においては、注型用樹脂材料の粘度が最低粘度に到達後、予熱前の粘度未満の粘度になるように加熱することが考慮される。
【0020】
このように本発明においては、注型用樹脂材料の粘度を予熱によって上昇させた際の最大値(注型型に注入する注型用樹脂材料の粘度の最大値)は注型成形品が良品として得られるような粘度であれば特に制限されるものではない。
【0021】
図1に示すように、注型用樹脂材料を加熱し続けた場合、注型用樹脂材料の粘度がその加熱温度の最低粘度の3倍を超えた付近から増粘速度が急速に大きくなる。注型成形品の製造に用いられる公知の注型用樹脂材料についても一般的には同様な挙動を示す。この付近では注型用樹脂材料を所望の粘度に調整することが容易ではなく、また増粘により充填不良などが生じる可能性がある。
【0022】
この観点から、注型用樹脂材料の粘度を予熱によって上昇させた際の最大値がその予熱の加熱温度での最低粘度の3倍であることが望ましい。注型用樹脂材料の粘度が最低粘度の3倍以下の粘度であれば充填不良などが生じにくくなるので好ましい。粘度の調整の容易性や注型型内の注型用樹脂材料の昇温時間および硬化時間などを総合的に勘案すると、注型用樹脂材料の粘度を予熱によって上昇させた際の最大値はその予熱の加熱温度での最低粘度の2倍であることがより好ましい。
【0023】
注型用樹脂材料の粘度を予熱によって上昇させた際の最小値についても特に制限されるものではないが、粘度測定誤差を考慮するとその予熱の加熱温度での最低粘度の1.1倍であることが望ましい。
【0024】
本発明に使用される注型用樹脂材料は、そのベースとなる樹脂と硬化剤との液状混合物であり、公知の注型用樹脂材料が使用される。この注型用樹脂材料には必要に応じて硬化促進剤が添加されていてもよい。
【0025】
ベースとなる樹脂は、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが例示され、硬化剤はそれぞれの樹脂に応じて公知のものが適宜選択される。
【0026】
本発明の効果をより効果的に実現するために、注型用樹脂材料はエポキシ樹脂および酸無水物硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物が好適である。
【0027】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0028】
酸無水物硬化剤の具体例としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0029】
エポキシ樹脂および酸無水物硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物に必要に応じて添加される硬化促進剤は、例えばN,N−ジメチルベンジルアミンのような3級アミンが例示される。
【0030】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0031】
<実施例1〜6、比較例1〜3>
エポキシ樹脂(DIC(株)製 エピクロン850)100重量部、硬化剤(酸無水物硬化剤、新日本理化(株)製 リカシッドMH、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸)88重量部、硬化促進剤(和光純薬工業(株)製 N,N−ジメチルベンジルアミン)3重量部を撹拌混合し、真空脱泡して注型用樹脂材料を得た。
【0032】
この注型用樹脂材料を表1に示す予熱条件で60℃のオイルバスを用いて予熱し、表1に示す粘度を有する注型用樹脂材料を得た。なお、比較例1,2では予熱を行わなかった。粘度は、音叉型振動式粘度計(エー・アンド・デイ製 SV−10)を用いて測定した。注型用樹脂材料を60℃で加熱したときの注型用樹脂材料の材料温度および粘度の経時的変化を図1に示す。
【0033】
注型用樹脂材料を予熱した後、直ちに、予め60℃に加熱した注型型(SUS板とシリコンゴム製スペーサーを組み合わせて作製)に注入し、表1に示す温度のオイルバスに注型型を投入して加熱成形した。なお、比較例1,2については室温の注型用樹脂材料を予め60℃に加熱した注型型に注入した。
【0034】
加熱成形中の材料温度を注型型内に取り付けた熱電対を使用して測定器により記録、観察して発熱ピーク発生時間(オイルバスによる注型型の加熱開始から発熱ピークまでの時間)を測定した。
【0035】
発熱ピークから10分後に注型型をオイルバスから取り出し、常温の水槽に投入することにより加熱を終了した。成形時間はオイルバスによる注型型の加熱開始から注型型を常温の水槽に投入するまでの時間であり、発熱ピーク発生時間+10分間である。
【0036】
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、予熱により増粘させた注型用樹脂材料を用いた実施例1〜6は比較例1,3と比べて成形時間が短くなっており、注型成形品の生産効率の向上が可能であることが確認できた。比較例2は成形時間短縮のためにオイルバスの温度を上げて成形温度を上げた例であるが、硬化剤の揮発によって発泡するため注型成形品を製造することができない。
【0039】
注型成形品を目視で外観観察すると、実施例1−5で得た注型成形品の外観が良好であることが確認できた。実施例6で得た注型成形品には充填不良などによる成形欠陥が若干見られた。このことから、注型用樹脂材料の粘度を予熱によって上昇させた際の最大値がその予熱の加熱温度での最低粘度の3倍、より好適には2倍であることが望ましいことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注型用樹脂材料を注型型に注入して加熱硬化させる注型成形品の製造方法において、前記注型型に注入する前に前記注型用樹脂材料を加熱し、前記注型用樹脂材料の粘度がその加熱温度で最低粘度に到達した後も加熱し続けて粘度を上昇させ、前記注型用樹脂材料の粘度が前記最低粘度よりも高くかつ加熱前の注型用樹脂材料の粘度よりも低い前記注型用樹脂材料を前記注型型に注入することを特徴とする注型成形品の製造方法。
【請求項2】
前記注型型に注入する前に前記注型用樹脂材料の粘度が最大でも前記最低粘度の3倍の粘度になるまで前記注型用樹脂材料を加熱することを特徴とする請求項1に記載の注型成形品の製造方法。
【請求項3】
前記注型用樹脂材料が、エポキシ樹脂および酸無水物硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする請求項1または2に記載の注型成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111088(P2012−111088A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260622(P2010−260622)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】