説明

注型材料を備えた電子部品

【課題】注型材料を備えた電子部品、特に点火コイルを改良して、注型材料が、例えば135℃を超えるような高い使用温度時においても、寿命の限り特に熱負荷に耐えるようにすることであり、簡単に高温安定性の注型材料を電子部品に装入することができる注型材料を備えた電子部品を製造する方法を提供する。
【解決手段】柔軟剤が、弾性的な熱可塑性樹脂およびエラストマーのグループに属する材料から形成されており、エポキシマトリックス内に埋め込まれているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、柔軟剤、添加剤および充填材を含むA成分と、少なくとも1つの硬化剤を含むB成分との混合物から形成されている注型材料を備えた電子部品、特に点火コイル、ならびにそのような電子部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品において、ワイヤまたはコンポーネントを注型材料の注型時にその中に埋設封止することは一般に知られている。封止用の注型材料は、過酷な条件に耐え、部品の機械的な強度もしくは安定性、媒体耐性(Medienbestaendigkeit)および電気的な絶縁性をその寿命の限り保証しなければならない。
【0003】
実際の使用において、例えば点火コイルはエポキシ樹脂で注型され、硬化される。その際、1成分の樹脂硬化剤系と2成分の樹脂硬化剤系との間で区別されることができる。
【0004】
2成分の樹脂硬化剤系は例えば、実際に使用されているビスフェノールA注型系であり、ビスフェノールA注型系はその化学的な構造に基づいて約135℃のガラス転移温度を有している。この値を超えると、誘電損率は周波数に依存して著しく上昇し、それにより温度の上昇時、ますますかつ持続的に成形材料の絶縁特性を減じ、熱老化を促進する。
【0005】
電気・電子部品に対する要求の高まり、つまり点火コイルに関していえば特にエンジンへの直接的な組み込みや、電気・電子部品の構造体積のますますの減少といった要求の高まりに基づいて、しばしば高い温度負荷が部品内に生じる。
【0006】
点火コイルでは、脂環式エポキシ樹脂をベースとする高温注型材料の使用により、寿命が決定的に延長され得ることが判っている。それというのも、この注型材料では、175℃を明らかに超えるガラス転移温度が達成され得るからである。しかしながら不都合なことに、脂環式エポキシ樹脂の使用により、成形材料の脆性および割れ感受性は明らかに上昇し、温度交番負荷時に、ビスフェノールAをベースとするエポキシ樹脂の使用時に比べて早期に割れに至り、ひいては部品の故障に至る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、冒頭で述べた形式の、注型材料を備えた電子部品、特に点火コイルを改良して、注型材料が、例えば135℃を超えるような高い使用温度時においても、寿命の限り特に熱負荷に耐えるようにすることである。さらに本発明の別の課題は、簡単に高温安定性の注型材料を電子部品に装入することができる、注型材料を備えた電子部品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明の構成によれば、柔軟剤が、弾性的な熱可塑性樹脂およびエラストマーのグループに属する材料から形成されており、エポキシマトリックス内に埋め込まれているようにした。さらに上記別の課題を解決した本発明の方法によれば、注型材料を、A成分と、1つの硬化剤および場合により1つの促進剤から少なくとも成るB成分との混合により形成し、ただし前もってA成分を、エポキシ樹脂と、柔軟剤、添加剤および充填材との混合により調製しておくようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明が有する利点は、弾性的な熱可塑性樹脂およびエラストマーのグループに属する柔軟剤材料の使用により、脂環式エポキシ樹脂の柔軟化が可能となり、それにより、注型材料が、低い脆性および割れ感受性を有すると共に、高い熱負荷に耐える点にある。実験から、許容される破断伸びが、本発明による柔軟剤により、約1.5倍〜3倍の値の分だけ従来慣用の注型材料に対して向上され得ることが判った。
【0010】
それゆえ、本発明により形成された注型材料を備えた電子部品は、高い温度負荷時にも、長い寿命を伴って使用されることができる。
【0011】
本明細書に記載した発明は、特に点火コイルでの使用のために適しているが、一般に電気的なコンポーネント、例えば高い温度および長い耐用時間に曝されており、より良好な耐熱性のためにシールされるべき電子部品またはセンサのためにも適している。
【0012】
エポキシマトリックスは、本発明の有利な構成では、脂環式エポキシ樹脂に応じて構成されているが、ビスフェノールAマトリックスにおける柔軟剤をこの注型材料の柔軟性の改善のために使用することも可能である。
【0013】
柔軟剤として、例えば、変性された弾性的な熱可塑性樹脂や、例えば熱可塑性エラストマーまたはシリコーンであり得るエラストマーが適している。
【0014】
注型材料の柔軟化に関して特に有利であると判っているのは、2質量%〜15質量%の割合でA成分中に含まれている変性シリコーンの使用である。
【0015】
本発明の別の利点および有利な構成は明細書、図面および特許請求の範囲から見て取れる。
【0016】
本発明の一実施例を図面に示し、以下に原理的に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図面には原理的に、電子部品の例として点火コイル1の構造が示されている。点火コイル1は、低電圧の直流電圧源に接続するための接続手段25を備えた1次コイル3を有している。接続手段25は例えば2つのケーブル31を介して出力段30に接続されている。2次コイル4は同心的に1次コイル3を取り巻くように配置されており、例えば点火ディストリビュータまたは点火プラグに接続するための接続手段20を有している。1次コイル3および2次コイル4は封止用の注型材料8内に埋設されている。
【0018】
択一的には点火コイルの構造形式が棒状であってもよい。
【0019】
注型材料8を製造するために、第1のプロセスステップで、エポキシ樹脂が柔軟剤と混合される。ただし、柔軟剤はその際、混合物内でエポキシ樹脂から分離しないような特性を有していなければならない。
【0020】
柔軟剤はその際、エポキシ樹脂、柔軟剤、添加剤および充填材から成るA成分における2質量%から15質量%まで、有利には10質量%までの割合でもって、エポキシマトリックス内に埋め込まれる。
【0021】
柔軟剤としてここではシリコーンが使用される。シリコーンの使用により、破断伸びは、変性されていない解決策に対して、約1.5倍〜3倍の値に向上され得る。
【0022】
柔軟剤と混合されたエポキシ樹脂には、次のステップで、添加剤、例えば沈降防止剤または安定剤が混合される。
【0023】
エポキシ樹脂は高い膨張係数を有し、−50℃〜150℃の温度で使用されるため、エポキシ樹脂には、耐熱性を改善するための充填材が混合される。ただし、充填材含有量はA成分の約50質量%〜75質量%である。充填材はその際、鉱物性の成分、例えばケイ砂、雲母および白亜から成るか、またはガラス球もしくはガラス繊維から成ることができる。
【0024】
充填材の粒子特性はその際、一方では注入プロセスのために液状の注型材料8の十分に低い粘度が達成され、他方ではエポキシ樹脂に比べて比重の重い充填材の沈降が最小化されるように調節されている。このために必要な均質な混合は、充填材の微粒子、すなわちここでは約2μmよりも小さな大きさの粒子の割合が、ここでは20μmよりも大きな粗粒子の割合と少なくともほぼ同じ比率にあることにより達成される。液状の注型材料8の注入粘度はその際、2000mPasよりも小さな値に調節される。
【0025】
有利には、本発明では公知のビスフェノールA系と同じ硬化剤が使用されることができる。B成分中に含まれる硬化剤はその際、酸無水物硬化剤、本発明の有利な構成では無水フタル酸から成り、熱硬化性の系を形成する。硬化剤には付加的に促進剤が添加されることができ、その質量割合は、硬化剤の質量のパーミル領域にある値を取ることができる。それにより、硬化剤は樹脂とより急速に反応し、ひいてはプロセス時間は短縮される。
【0026】
真空下で行われる注型プロセスにおいて、硬化剤成分はその化学的な比率に応じて樹脂に添加される。ただし、A成分は総質量における15質量%〜40質量%を取る。
【0027】
点火コイルに注入された注型材料8は引き続いて熱硬化される。その際に保証されねばならないことは、2次コイル4の含浸性が達成され、ひいてはその2次巻線間のブレークダウンが回避されることである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】注型材料を備えた点火コイルの簡単な側面図である。
【図2】図1に示した形式の点火コイルの概略的な横断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 点火コイル
3 1次コイル
4 2次コイル
8 注型材料
20 接続手段
25 接続手段
30 出力段
31 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、柔軟剤、添加剤および充填材を含むA成分と、少なくとも1つの硬化剤を含むB成分との混合物から形成されている注型材料(8)を備えた電子部品、特に点火コイルにおいて、柔軟剤が、弾性的な熱可塑性樹脂およびエラストマーのグループに属する材料から形成されており、エポキシマトリックス内に埋め込まれていることを特徴とする、注型材料を備えた電子部品。
【請求項2】
エポキシ樹脂が脂環式エポキシ樹脂またはビスフェノールAエポキシ樹脂として形成されている、請求項1記載の電子部品。
【請求項3】
エラストマーが熱可塑性エラストマーである、請求項1または2記載の電子部品。
【請求項4】
エラストマーがシリコーンである、請求項1または2記載の電子部品。
【請求項5】
エラストマーが変性シリコーンであり、該変性シリコーンが2質量%〜15質量%の割合でA成分中に含まれている、請求項1、2または4記載の電子部品。
【請求項6】
変性シリコーンが2質量%〜10質量%の割合でA成分中に含まれている、請求項5記載の電子部品。
【請求項7】
約2μmよりも小さな充填材の粒子と約20μmよりも大きな粒子との比率が少なくともほぼ同じである、請求項1から6までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項8】
充填材が50質量%〜75質量%でもってA成分中に含まれている、請求項1から7までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項9】
充填材が、鉱物性の成分、例えばケイ砂、雲母または白亜から成る、請求項1から8までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項10】
充填材がガラス球もしくはガラス繊維から成る、請求項1から9までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項11】
硬化剤が酸無水物硬化剤、有利には無水フタル酸として構成されており、熱硬化性の系を成す、請求項1から10までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項12】
A成分が15質量%〜40質量%の質量割合でもって注型材料(8)中に含まれている、請求項1から11までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項13】
B成分中に付加的に促進剤が加えられている、請求項1から12までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項14】
注型材料(8)の注入粘度が2000mPasよりも小さい、請求項1から13までのいずれか1項記載の電子部品。
【請求項15】
特に請求項1から13までのいずれか1項記載の、エポキシ樹脂、柔軟剤、添加剤および充填材を含むA成分と、少なくとも1つの硬化剤を含むB成分との混合物から形成されている注型材料(8)を備えた電子部品(1)を製造する方法において、注型材料(8)を、A成分と、1つの硬化剤および場合により1つの促進剤から少なくとも成るB成分との混合により形成し、ただし前もってA成分を、エポキシ樹脂と、柔軟剤、添加剤および充填材との混合により調製しておくことを特徴とする、注型材料を備えた電子部品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−169638(P2007−169638A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341350(P2006−341350)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】