説明

注型樹脂組成物およびそれを用いた絶縁材料、絶縁構造体

【課題】注型樹脂の耐トリーイング性を改善する。
【解決手段】絶縁物用注型樹脂組成物は、1分子当たりに2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、シリカ、アルミナ、ムライトよりなる群より選択された1以上の物質よりなるマイクロ粒子と、層状シリケート化合物、酸化物、窒化物よりなる群より選択された1以上の物質よりなるナノ粒子と、エラストマー粒子と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送変電機器等の高電圧を扱う機器における絶縁を担う注型樹脂組成物およびそれを用いた絶縁材料、絶縁構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所から需要家までの電力流通網には、各所に送変電設備が設置されており、各送変電設備には高電圧回路の開閉等の目的のために、真空バルブを収納したスイッチギア、六弗化硫黄ガスが封入されたガス絶縁開閉装置および管路気中送電装置などの送変電機器が設置されている。これらの送変電機器において、真空バルブや高圧導体を絶縁するために、樹脂組成物よりなる絶縁材料が利用される。
【0003】
上記の目的で利用される絶縁材料には機械的強度、耐熱性、電気絶縁性が必要であって、さらにコストの低減の観点とから、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が利用されている。さらに機械的特性や電気絶縁性を向上する等の目的から、種々の粒子をエポキシ樹脂中に分散する技術が知られている。特許文献1乃至3は、関連する技術を開示する。
【特許文献1】特開2002−15621号公報
【特許文献2】特開2001−160342号公報
【特許文献3】特開2006−57017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の各関連技術による絶縁材料を、導体をモールドするための注型樹脂として利用とする場合には、幾つかの技術的課題が惹起される。まず、絶縁材料の熱膨張係数を導体のそれに十分に近いものとしなければ、モールドされた導体との界面において剥離が生ずる懸念が生ずる。また、導体と絶縁材料とが極めて密着しているために、放電による絶縁材料の劣化が局在化し、絶縁材料中の耐性の低い部位を速やかに樹状に進展する(本願図2参照。以下、トリーイングと記述する。)。この進展は極めて速やかであるために、注型樹脂の絶縁破壊時間は専ら耐トリーイング性に依存する。本発明者らによる検討によれば、特許文献1による絶縁材料は、耐トリーイング性が十分でないという欠点があり、特許文献3による絶縁材料によれば、導体との熱膨張率の差が大きいために、導体と絶縁材料との間に剥離が生じやすいという欠点がある。
【0005】
本発明はこれらの技術の欠点を克服するためになされたものであって、その目的は、モールドされた導体との密着性を有し、かつ高い耐トリーイング性を有する注型樹脂組成物およびそれを用いた絶縁材料、絶縁構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の絶縁物用注型樹脂組成物は、1分子当たりに2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、シリカ、アルミナ、ムライトよりなる群より選択された1以上の物質よりなるマイクロ粒子と、層状シリケート化合物、酸化物、窒化物よりなる群より選択された1以上の物質よりなるナノ粒子と、エラストマー粒子と、を含むことを特徴とする。
【0007】
また本発明の絶縁材料は、前記注型樹脂組成物の硬化物よりなることを特徴とする。
【0008】
さらに本発明の絶縁構造体は、導体と、前記絶縁材料よりなり、前記導体と他の部材との間を絶縁する絶縁部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
モールドされた導体との密着性を有し、かつ高い耐トリーイング性を有する注型樹脂組成物およびそれを用いた絶縁材料、絶縁構造体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態につき、添付の図面を参照して以下に説明する。本発明の一実施形態による注型樹脂組成物は、概略、(A)1分子当たりに2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、(B)シリカ、アルミナ、ムライトよりなる群より選択された1以上の物質よりなるマイクロ粒子と、(C)エラストマー粒子と、(D)層状シリケート化合物、酸化物、窒化物よりなる群より選択された1以上の物質よりなるナノ粒子と、を含む。
【0011】
(A)エポキシ化合物
前記エポキシ化合物としては、2の炭素原子と、1の酸素原子と、よりなる三員環を、1分子あたりに2以上持つ化合物であって硬化し得る適宜の化合物であれば、何れも適用することができ、特に限定されるものではない。
【0012】
前記エポキシ化合物は、エピクロルヒドリンとビスフェノール類などの多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとビスフェノール類などの多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂や、エピクロルヒドリンとガルボン酸との縮合によって得られるグリジジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダイトン類との反応によって得られるヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂を、その好適な例として挙げることができる。またこれらは単独もしくは2種以上の混合物として適用することができる。
【0013】
前記エポキシ化合物を固化するために、エポキシ化合物用硬化剤を添加する。エポキシ化合物用硬化剤としては、エポキシ化合物と化学反応してエポキシ化合物を硬化させるものであれば適宜に適用可能であり、その種類は限定されるものではない。このようなエポキシ化合物用硬化剤としては、例えばアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、フェノール系硬化剤、ルイス酸系硬化剤、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。
【0014】
前記アミン系硬化剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、ジプロプレンジアミン、ポリエーテルジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチル)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、トリ(メチルアミノ)へキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロへキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、m−キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジドが挙げられる。
【0015】
前記酸無水物系硬化剤の具体例としては、例えばドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロへキセンジカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水ヘット酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ポリアゼライン酸が挙げられる。
【0016】
前記イミダゾール系硬化剤の具体例としては、例えば2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールが挙げられる。また、ポリメルカプタン系硬化剤の具体例としては、例えばポリサルファイド、チオエステルが挙げられる。
【0017】
さらに、前記エポキシ化合物用硬化剤と併用して、エポキシ化合物の硬化反応を促進あるいは制御するエポキシ化合物用硬化促進剤を添加してもよい。特に、酸無水物系硬化剤を添加した場合、その硬化反応はアミン系硬化剤等の他の硬化剤と比較して遅いため、エポキシ化合物用硬化促進剤を適用することが多い。酸無水物系硬化剤用の硬化促進剤としては、三級アミンまたはその塩、四級アンモニウム化合物、イミダゾール、アルカリ金属アルコキシド等を適用することが好ましい。
【0018】
(B)マイクロ粒子
前記マイクロ粒子としては、シリカ、アルミナ、ムライトの何れかよりなる粒子、またはその2種以上の混合物が例示できる。
【0019】
前記マイクロ粒子は、前記エポキシ化合物100重量部に対して、100〜500重量部の割合で混合されていることが好ましい。前記マイクロ粒子の配合量が前記エポキシ化合物100重量部に対して100重量部未満であると、注型樹脂組成物の熱膨張率が大きくなり、金属導体の熱膨張率との差により、モールドされた金属導体との間で剥離を生ぜしめる原因となる。一方、前記マイクロ粒子の配合量が前記エポキシ化合物100重量部に対して500重量部を超えると、注型樹脂組成物の粘度が上がり、マイクロ粒子を混合する作業や注型に関わる作業に不利である。
【0020】
前記マイクロ粒子の1次粒径は、1〜100μmの範囲とすることが好ましい。前記マイクロ粒子の1次粒径が1〜100μmの範囲を逸脱すると、注型樹脂組成物の粘度が上がり、マイクロ粒子を混合する作業や注型に関わる作業に不利である。
【0021】
(C)エラストマー粒子
前記エラストマー粒子としては、エラストマーよりなり、コアシェル構造の粒子が適用できる。好適なエラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。またこれらは、単独もしくは2種以上の混合物として適用することができる。また、コアシェル構造を取らないエラストマー粒子であっても、特別な分散剤や分散方法により樹脂中で均一に分散できれば、適用しうる。
【0022】
前記エラストマー粒子は、前記エポキシ化合物100重量部に対して、1〜30重量部の割合で混合されていることが好ましい。前記エラストマー粒子の配合量が前記エポキシ化合物100重量部に対して1重量部未満であると、注型樹脂組成物の硬化物の靱性が低下する。一方、前記エラストマー粒子の配合量が前記エポキシ化合物100重量部に対して30重量部を超えると、注型樹脂組成物の粘度が上がり、マイクロ粒子を混合する作業や注型に関わる作業に不利である。
【0023】
前記エラストマー粒子の1次粒径は、0.1〜10μmの範囲とすることが好ましい。前記エラストマー粒子の1次粒径が0.1〜10μmの範囲を逸脱すると、注型樹脂組成物の硬化物の靱性が低下する。また、注型樹脂組成物の粘度が上がり、マイクロ粒子を混合する作業や注型に関わる作業に不利である。
【0024】
(D)ナノ粒子
前記ナノ粒子としては、層状シリケート化合物、酸化物、窒化物の何れかよりなる粒子、またはその2種以上の混合物が例示できる。
【0025】
層状シリケート化合物としては、スメクタイト群、マイカ群、バーミキュライト群、雲母群からなる鉱物群から選択された少なくとも一種が挙げられる。スメクタイト群に属する層状シリケート化合物としては、例えばモンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイトが挙げられる。マイカ群に属する層状シリケート化合物としては、例えばクロライト、フロゴパイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、マーガライト、テニオライト、テトラシリシックマイカが挙げられる。バーミキュライト群に属する層状シリケート化合物としては、例えばトリオクタヘドラルバーミキュライト、ジオクタヘドラルバーミキュライトが挙げられる。雲母群属する層状シリケート化合物としては、例えば白雲母、黒雲母、パラゴナイト、レビトライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイトが挙げられる。これらのうちでも、エポキシ化合物への分散性等の点から、スメクタイト群に属する層状シリケート化合物を用いることが望ましい。層状シリケート化合物は、これらの物質の何れか単独あるいは2種類以上の混合物を含みうる。
【0026】
また、層状シリケート化合物は、シリケート層が積層した構造を有しており、各層間にイオン交換反応(インターカレーション)により、イオン、分子、クラスタ等の種々の物質を保持することできる。例えば、層状シリケート化合物の各層間は種々の有機化合物を保持することができ、該有機化合物により層状シリケート化合物に特定の作用を付与せしめることができる。例えば、エポキシ化合物に対する親和性を付与する有機化合物を各層間に保持せしめることにより、該有機化合物を保持した層状シリケート化合物にエポキシ化合物に対する親和性を付与せしめることが可能となる。各層間に挿入する有機化合物は限定されるものではないが、イオン交換処理により層間に挿入される度合を考慮すると四級アンモニウムイオンは好適である。
【0027】
四級アンモニウムイオンとしては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ジヘキシルジメチルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ヘキサトリメチルアンモニウムイオン、オクタトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ドコセニルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリエチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、N−メチルジエタノールラウリルアンモニウムイオン、ジプロパノールモノメチルラウリルアンモニウムイオン、ジメチルモノエタノールラウリルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムイオン、ジメチルヘキサデシルオクタデシルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオンを例示することができる。これらの四級アンモニウムイオンの単独あるいは2種類以上の混合物を層状シリケート化合物の各層間に保持せしめることができる。
【0028】
酸化物としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、三酸化ビスマス、二酸化セリウム、一酸化コバルト、酸化銅、三酸化鉄、酸化ホルミウム、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化錫、酸化イットリウム、酸化亜鉛を例示することができる。前記酸化物は、これらの物質の単独あるいは2種類以上の混合物を含みうる。
【0029】
窒化物としては、Ti,Ta,Nb,Mo,Co,Fe,Cr,V,Mn,Al,Si等の窒化物を例示することができる。前記窒化物は、これらの物質の単独あるいは2種類以上の混合物を含みうる。
【0030】
前記ナノ粒子の1次粒径は、1〜1000nmの範囲とすることが好ましい。前記ナノ粒子の1次粒径が1〜1000nmの範囲を逸脱すると、電気絶縁性能の向上が十分でない。また、注型樹脂組成物の粘度が上がり、マイクロ粒子を混合する作業や注型に関わる作業に不利である。
【0031】
前記マイクロ粒子、前記エラストマー粒子、および前記ナノ粒子の表面は、適宜の改質またはコーティングを施してもよい。改質またはコーティングは、エポキシ化合物との接着性を改善する、またはエポキシ化合物中での凝集を抑制する目的でなされる。改質のためのカップリング剤としては、γ−グリシドオキシ-プロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピル-トリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル-トリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤が例示できる。また改質のための表面処理剤としては、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸鉄アルミナ、シリカ、ジルコニア、シリコーンが例示できる。あるいは、これらの薬剤の2種以上を混合して適用してもよい。
【0032】
前記注型樹脂組成物は、さらに、タレ止剤、沈降防止剤、消泡剤、レベリング剤、スリップ剤、分散剤基材湿潤剤等の添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0033】
前記注型樹脂組成物は、上述の各原料を基に、以下のようにして製造される。まず前記エポキシ化合物中に剪断力を加えながら、前記ナノ粒子を混合する。剪断力を加えることにより、ナノ粒子をエポキシ化合物中に均一分散させることが可能となる。混合のための装置としては、剪断力を加えながら粉体を混合可能な装置であれば、何れも使用可能であって、その種類は特に限定されるものではない。その具体例としては、例えばビーズミル混合機、3本ロールミル混合機、ホモジナイザー混合機、ラボプラストミル混合機(東洋精機製作所社製)、ミラクルKCK(浅田鉄工所社製)、Distromix(エーテクジャパン社製)、Clear S55(エム・テクニック社製)が挙げられる。
【0034】
混合の初期において、前記ナノ粒子は互いに弱く凝集した状態であるために、前記エポキシ化合物との混合物は不透明な外観を呈する。混合が進展すると共に前記ナノ粒子の混合物中への分散が進展し、さらに混合が十分に進展すると、前記混合物は透明な外観を呈する。この透明な外観を確認することにより、十分な混合が為されたと判断しうる。
【0035】
前記ナノ粒子の表面は、予めカップリング剤あるいは表面処理剤で改質しておいてもよい。このことにより、エポキシ化合物とナノ粒子との接着界面を強固にすることができる。さらに、ナノ粒子として層状シリケート化合物を用いた場合、予めその層間に有機化合物(例えば四級アンモニウムイオン)を保持せしめる処理をしておいてもよい。このことにより、エポキシ化合物に対する親和性がナノ粒子に付与され、エポキシ化合物中へのより均一な分散が容易となる。
【0036】
次いで、前記ナノ粒子が分散した前記エポキシ化合物に前記マイクロ粒子、前記エラストマー粒子を混合、分散させた後、エポキシ化合物用硬化剤を加えて混合することで、目的とする注型樹脂組成物が得られる。そして、この注型樹脂組成物を金型に流し込み、真空脱泡後加熱硬化することで、絶縁材料(注型絶縁物)が得られる。なお、上記した注型樹脂組成物の製造工程において、前述したような任意に添加しうる添加物は、必要に応じて適宜に添加、混合される。
【0037】
ナノ粒子は非常に微細であるため、ナノスケールで均一に分散するためには剪断混合を行う必要がある。剪断混合を行うことで、マイクロ粒子およびエラストマー粒子を充填後、ナノ粒子−マイクロ粒子間、ナノ粒子−エラストマー粒子間の間隔をいずれも1μm以下とすることができる。粒子間の間隔が1μm以下となることで、高い靭性と優れた電気絶縁性能が発現する。
【0038】
図1は、本実施形態による絶縁材料における各粒子の分散状態の模式図である。絶縁材料は、エポキシ樹脂1と、エラストマー粒子2と、マイクロ粒子3と、ナノ粒子4と、を含む。エポキシ樹脂1中に、エラストマー粒子2が分散し、エラストマー粒子2間の間隙にマイクロ粒子3が分散し、さらにそれらの間隙にナノ粒子4が分散している。エラストマー粒子2と、マイクロ粒子3と、ナノ粒子4とは、エポキシ樹脂1中にそれぞれ均一に分散している。
【0039】
本実施形態による絶縁材料は、高靱性で優れた電気絶縁性能を有しているため、例えば真空バルブを有する開閉機構を収納したスイッチギアにおいて真空バルブを覆い、真空バルブと他の部材との間を絶縁する絶縁部材や、ガス絶縁開閉装置、管路気中送電装置等において金属容器内で高圧導体を絶縁支持する構造部材等に好適に使用される。
【0040】
なお、本実施形態による絶縁材料は上記したスイッチギア用の絶縁部材、ガス絶縁開閉装置用の構造部材等としての使用に限られるものではなく、発電機用タービンエンド部の仕上げワニス、遮断器用絶縁ロッド、絶縁塗料、成形絶縁部品、含浸樹脂、ケーブル被覆材料等の各種用途に使用することが可能である。また場合によっては、パワーユニット絶縁封止材用高熱伝導絶縁シート、IC基板、LSI素子用層間絶縁膜、積層基板、半導体用封止材等に適用することもできる。
【0041】
このように、本実施形態による絶縁材料は、各種の用途に適用可能である。すなわち、近年、産業・重電機器および電気・電子機器の小型化、大容量化、高周波帯域化、大電圧化、使用環境の過酷化等に伴い、注型絶縁物等において、電気絶縁性能の向上などの高性能化、高信頼性化、高品質化並びに品質の安定化等が求められている。本発明の絶縁材料はこれらの要求に合致するものであり、上述したような構成材料を選択的に使用することによって、エポキシ注型絶縁物やエポキシ含浸絶縁物等として、種々の産業・重電機器および電気・電子機器に適用することが可能である。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例につき説明する。
【0043】
(実施例1)
エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100重量部に、ナノ粒子として四級アンモニウムイオンが層間に挿入されている層状シリケート化合物10重量部(1次粒径1〜数百nm)と、エポキシシラン系のカップリング剤1重量部とを、剪断力を加えて混練した。剪断力による混練を、この混合物は不透明から透明になるまで行う。次に、この混合物に、エラストマー粒子として、コアシェル構造を持つスチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体粒子10重量部、マイクロ粒子としてシリカ粒子340重量部を配合し、混合、分散した。次に、この混練物にエポキシ化合物用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って注型樹脂組成物を調製した。この注型樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(1次硬化)+150℃×15時間(2次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする注型絶縁物(絶縁材料)を作製した。この注型絶縁物を後述する特性評価に供した。
【0044】
(実施例2)
エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100重量部に、ナノ粒子として酸化チタン粒子10重量部(1次粒径15nm)と、チタネート系のカップリング剤1重量部とを、剪断力を加えて混練した。次に、この混合物に、エラストマー粒子として、コアシェル構造を持つスチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体粒子10重量部、マイクロ粒子としてシリカ粒子340重量部を配合し、混合、分散した。次に、この混練物にエポキシ化合物用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って注型樹脂組成物を調製した。この注型樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(1次硬化)+150℃×15時間(2次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする注型絶縁物(絶縁材料)を作製した。この注型絶縁物を後述する特性評価に供した。
【0045】
(実施例3)
エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100重量部に、ナノ粒子としてシリカ粒子35重量部(1次粒径12nm)を、剪断力を加えずに混合した。次に、この混合物に、エラストマー粒子として、コアシェル構造を持つスチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体粒子10重量部、マイクロ粒子としてシリカ粒子340重量部を配合し、混合、分散した。この混練物にエポキシ化合物用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って注型樹脂組成物を調製した。この注型樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(1次硬化)+150℃×15時間(2次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする注型絶縁物(絶縁材料)を作製した。この注型絶縁物を後述する特性評価に供した。
【0046】
(比較例1)
エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100重量部に、エラストマー粒子として、コアシェル構造を持つスチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体粒子10重量部、マイクロ粒子としてシリカ粒子340重量部を配合し、混合、分散した。次に、この混練物にエポキシ化合物用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って注型樹脂組成物を調製した。この注型樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(1次硬化)+150℃×15時間(2次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする注型絶縁物を作製した。この注型絶縁物を後述する特性評価に供した。
【0047】
比較例1による注型絶縁物の断面のSEM像を図6に示す。エポキシ樹脂101中には数μm程度のマイクロ粒子102およびエラストマー粒子103が分散していることが観察されるが、これらより小さなナノオーダーの粒子は観察されない。
【0048】
(比較例2)
エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100重量部に、ナノ粒子として四級アンモニウムイオンが層間に挿入されている層状シリケート化合物10重量部(1次粒径1〜数百nm)を配合して、剪断力を加えて混練した。剪断力による混練を、この混合物は不透明から透明になるまで行う。次に、この混練物にエポキシ化合物用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って注型樹脂組成物を調製した。この注型樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(1次硬化)+150℃×15時間(2次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする注型絶縁物(絶縁材料)を作製した。この注型絶縁物を後述する特性評価に供した。
【0049】
(比較例3)
エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100重量部に、ナノ粒子として四級アンモニウムイオンが層間に挿入されている層状シリケート化合物10重量部(1次粒径1〜数百nm)を配合して、剪断力を加えて混練した。剪断力による混練を、この混合物は不透明から透明になるまで行う。次に、この混合物に、エラストマー粒子として、コアシェル構造を持つスチレン−ブタジエン−メタクリル酸共重合体粒子10重量部を混合し分散した。次に、この混練物にエポキシ化合物用酸無水物系硬化剤86重量部と、酸無水物系硬化剤用硬化促進剤1重量部とを添加し、80℃で10分間の混合を行って注型樹脂組成物を調製した。この注型樹脂組成物を予め100℃に加熱した金型に流し込み、真空脱泡後に100℃×3時間(1次硬化)+150℃×15時間(2次硬化)の条件で硬化処理を施すことによって、目的とする注型絶縁物(絶縁材料)を作製した。この注型絶縁物を後述する特性評価に供した。
【0050】
実施例1〜3、比較例1における注型樹脂組成物の充填粒子および製造工程を表1にまとめて示す。
【表1】

【0051】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜3による注型絶縁物について、破壊靱性、絶縁破壊時間、耐部分放電劣化特性、熱膨張率、硬化前の樹脂粘度、の測定を、それぞれ以下のような方法で実施した。
【0052】
(破壊靱性の測定方法)
ASTM D5045−91に従い、コンパクトテンション試験片に初期亀裂を生成させ、引張り荷重を加え、亀裂が進展して破断した時の荷重から破壊靭性値(KIC)を算出した。また、クロスヘッドの移動速度は1mm/分、測定温度は室温である。
【0053】
(絶縁破壊時間の測定方法)
針を注型樹脂組成物でモールドした試料を作製し、試料の底部に導電性ペイントを塗布し、平板電極上にセットして固定した後、10kV−1kHzの電圧を針に印加し、絶縁破壊するまでの時間を測定した。針電極の先端から平板電極までのギャップは3mmとした。
【0054】
(部分放電による劣化深さの測定)
注型絶縁物から厚さ1mmの板状試料を切り出し、試料表面から0.2mmのギャップを空けてロッド電極をセットした。棒電極に4kVの電圧を印加することで、平板試料表面を部分放電に曝露させた。1440時間課電後、最も放電劣化された部分の劣化深さを測定した。
【0055】
(熱膨張率の測定方法)
作製した注型絶縁物から、縦5mm×横5mm×高さ10mmの直方体試験片を用いて、熱機械分析装置により熱膨張率(α1)を求めた。昇温速度は2℃/分,圧縮荷重は0.05Nとした。
【0056】
(樹脂粘度の測定方法)
エポキシ化合物に各粒子を分散後、エポキシ化合物用硬化剤を加えた後、加熱硬化前の注型樹脂組成物を60℃まで温め、B型粘度計より測定した。
【0057】
実施例1〜3、比較例1〜3による注型絶縁物および硬化前の注型樹脂組成物の評価結果を表2にまとめて示す。
【表2】

【0058】
表2の測定結果に示されるように、実施例1〜3による注型絶縁物は、比較例1〜3による注型絶縁物と比較して、高靱性で優れた電気絶縁性能を有し、且つ熱膨張率も低くなっていることが分かる。以下に、実施例と比較例とを比較参照することで、本発明の具体的な作用、効果を説明する。
【0059】
まず、実施例1,2と比較例1とを比べることで、ナノ粒子を混合することによる破壊靭性にもたらす作用、効果を説明することができる。実施例1,2による注型絶縁物では、充填したナノ粒子の効果により、比較例1よりも破壊靱性が高くなっている。これはエポキシ樹脂中に分散したナノ粒子が、き裂の進展を抑制することから得られる効果である。比較例1のようにエラストマー粒子の充填により破壊靱性が改善されることは一般的に知られているが、実施例1ではエラストマー粒子とナノ粒子を併用して充填することで、従来よりも高い破壊靱性を達成している。
【0060】
また、実施例1,2と比較例2,3とを比べることで、マイクロ粒子およびエラストマー粒子を混合することがもたらす作用、効果を説明することができる。実施例1,2による注型絶縁物では、エポキシ化合物100重量部に対して、100〜500重量部の範囲でマイクロ粒子が充填されているため、導体として汎用されるアルミニウムと同程度の低い熱膨張率となっている。注型絶縁物と導体の熱膨張率が一致させることで、高電圧機器の運転時に発生する熱により、導体と注型絶縁物の界面が剥離することを防止できる。一方、マイクロ粒子が充填されていない比較例2,3による注型絶縁物の熱膨張率は、実施例1,2による注型絶縁物と比較して非常に高くなっている。導体と注型絶縁物の熱膨張率が大きく異なると、導体/樹脂界面での剥離箇所で発生した部分放電により注型絶縁物が劣化してしまう。
【0061】
さらに、実施例1,2と比較例1,2とを比べることで、マイクロ粒子、エラストマー粒子およびナノ粒子を共にエポキシ化合物に混合することがもたらす効果を説明することができる。針電極を用いた絶縁破壊時間の測定では、実施例1,2による注型絶縁物は、比較例1,2による注型絶縁物と比較して、飛躍的に絶縁破壊時間が長い。比較例1との比較から、ナノ粒子の混合が絶縁破壊時間を延長することが理解される。その一方で、ナノ粒子が混合されている比較例2との比較でも、実施例1,2による注型絶縁物の絶縁破壊時間は長いことから、この効果はナノ粒子単独の効果では説明しきることができず、マイクロ粒子およびエラストマー粒子との複合効果が存することが理解される。
【0062】
針電極を用いた絶縁破壊における注型絶縁物の劣化の過程は、次のように説明することができる。図2(b)に示すように、比較例1の注型絶縁物では、針電極先端から出現した劣化のパス(電気トリー)は、高電界下での劣化耐性の低いエポキシ樹脂1部分およびエラストマー粒子3を選択的に劣化させ進展する。一方、実施例1,2の注型絶縁物では、図2(a)に示すように、劣化パスの進展に対して耐性を持ったナノ粒子4が分散することで、エポキシ樹脂1部分における劣化パスの進展を抑制することができる。エラストマー粒子3もナノ粒子4で囲まれているため、劣化パスの進展から保護される。また、実施例1,2の注型絶縁物は、ナノ粒子のみが充填されている比較例2の注型絶縁物よりも長い絶縁破壊時間を示す。図2(c)に示すように、比較例2の注型絶縁物では、充填されているナノ粒子が、電気トリーの進展を抑制する。これに対し、実施例1,2では、ナノ粒子による電気トリーの進展抑制効果と共に、ナノ粒子とマイクロ粒子を混合充填により電気トリーが最も進展し易いエポキシ樹脂部分の容量を低減できるため、非常に長い絶縁破壊時間を示す。
【0063】
さらに、ロッド電極を用いた耐部分放電特性の測定においても、実施例1,2による注型絶縁物は、比較例1,2による注型絶縁物と比較して、劣化深さが小さいことが分かる。図3(b)に示すように、比較例1の注型絶縁物では、部分放電による劣化は高電界下での劣化耐性の低いエポキシ樹脂1部分とエラストマー粒子3とが選択的に侵食される。一方、実施例1〜2の注型絶縁物では、図3(a)に示すように、部分放電に対する劣化耐性の高いナノ粒子4が分散することで、部分放電によるエポキシ樹脂1部分の侵食を抑制することができる。また、エラストマー粒子3もナノ粒子4で囲まれているため、侵食から保護される。また、実施例1,2の注型絶縁物は、ナノ粒子のみが充填されている比較例2の注型絶縁物よりも劣化の程度が小さい。図2(c)に示すように、比較例2の注型絶縁物では、充填されているナノ粒子により、部分放電による劣化が抑制される。これに対し、実施例1,2では、ナノ粒子による部分放電に対する劣化抑制効果と共に、ナノ粒子とマイクロ粒子を混合充填により部分放電により最も劣化侵食されるエポキシ樹脂部分の容量を低減できるため、部分放電による劣化侵食が非常に小さくなる。
【0064】
次いで、実施例1と実施例3とを比較することで、各粒子の1次粒径および配合量が樹脂粘度に及ぼす作用、効果を説明することができる。実施例1による注型絶縁物の硬化前の樹脂粘度は、従来の比較例1と比較して僅かに高いのみであり、金型に注型樹脂組成物を流し込む注型作業において十分な扱い易さが確保されている。一方、実施例3による注型絶縁物の硬化前の樹脂粘度は、非常に高くなっている。
【0065】
また、実施例1と実施例3とを比較することで、粒子の表面改質および剪断混合がもたらす作用、効果を説明することができる。実施例1に記載の注型絶縁物では、ナノ粒子として層状シリケート化合物を剪断混合によりエポキシ樹脂中に分散している。また、各粒子表面がシランカップリング剤により表面処理されている。一方、実施例3に記載の注型絶縁物では、ナノ粒子としてシリカ粒子を通常混合によりエポキシ樹脂中に分散している。また、各粒子表面はカップリング剤により表面処理されていない。
【0066】
ナノ粒子の剪断混合による分散は、注型絶縁物中における粒子の分散状態に大きな影響を与える。剪断力を加えて、エポキシ樹脂とナノ粒子の混合物が透明になるまで混練した実施例1と通常の混合でエポキシ樹脂とナノ粒子の混合物が不透明な実施例3による注型絶縁物における粒子の分散状態を電子顕微鏡で観察すると、実施例1による注型絶縁物では、ナノ粒子−エラストマー粒子間およびナノ粒子−マイクロ粒子間における間隔がいずれも1マイクロメートル以下となっている。一方、実施例3による注型絶縁物では、各粒子間の間隔は1マイクロメートル以下となっていない。このため、実施例3による注型絶縁物では、ナノ粒子の充填量が実施例1よりも多いにもかかわらず、破壊靱性、絶縁破壊時間、劣化深さのいずれの物性においても、実施例1による注型絶縁物よりも劣っている。
【0067】
さらに、四級アンモニウムイオンで有機修飾した層状シリケート化合物では、四級アンモニウムイオンによりシリケート層の表面エネルギーが低減され、且つ層間が親油性雰囲気となる。このような四級アンモニウムイオンによる有機修飾の効果によって、層状シリケート化合物のエポキシ樹脂に対する親和性が高くなり、剪断応力を加えて混合することで、層状シリケート化合物は層間で剥離して、各層が注型樹脂組成物中で均一に分散することができる。また、シランカップップリング剤による表面処理は、粒子と樹脂の界面を化学結合するため、エポキシ樹脂の高分子鎖を拘束し易くなり熱による分子鎖の運動を抑制でき、クラック進展の弱点となる粒子/樹脂界面を強固にすることができる。
【0068】
図4、図5は、それぞれ本発明に係る絶縁構造体の例を示す。図4はスイッチギアに用いられる樹脂モールドバルブを示す図である。図4において、固定側導体51と、可動側導体52と、端板53,54と、絶縁筒55とを備える真空バルブ5は、絶縁部材6に覆われている。この絶縁部材6によって、高電圧電流を流す固定側導体51、可動側導体52は、スイッチギアに備えられた他の部材(図示せず)との間を絶縁されている。ここで、絶縁部材6は、本発明の注型樹脂組成物の硬化物である絶縁材料からなる。
【0069】
図5はガス絶縁開閉装置に用いられる絶縁構造部材を示す図である。図5において、高電圧電流を流す導体11は、絶縁ガス(六弗化硫黄ガス)が封入された金属容器12内で絶縁構造部材13によって絶縁支持されている。ここで、絶縁構造部材13は、本発明の注型樹脂組成物の硬化物である絶縁材料からなる。図4、図5のように、本発明の絶縁材料を用いた絶縁構造体によれば、高電圧機器の特性や信頼性を向上させることができる。
【0070】
本発明を幾つかの好適な実施形態を参照して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、本技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁材料における粒子の分散状態を模式的に示す図である。
【図2】針電極先端からの劣化パスの進展状態を示す模式図である。
【図3】ロッド電極先端からの放電による侵食状態を示す模式図である。
【図4】本発明に係る絶縁構造体の一例を示す図である。
【図5】本発明に係る絶縁構造体の他の一例を示す図である。
【図6】比較例1による絶縁材料の断面のSEM像である。
【符号の説明】
【0072】
1 エポキシ樹脂
2 マイクロ粒子
3 エラストマー粒子
4 ナノ粒子
5 真空バルブ
6 絶縁部材
11 導体
12 金属容器
13 絶縁構造部材
51 固定側導体
52 可動側導体
53,54 端板
55 絶縁筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子当たりに2以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、
シリカ、アルミナ、ムライトよりなる群より選択された1以上の物質よりなるマイクロ粒子と、
エラストマー粒子と、
層状シリケート化合物、酸化物、窒化物よりなる群より選択された1以上の物質よりなるナノ粒子と、
を含むことを特徴とする絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項2】
前記マイクロ粒子は、前記エポキシ化合物の100重量部に対して、100〜500重量部の割合で混合されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項3】
前記マイクロ粒子の1次粒径は、1〜100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項4】
前記エラストマー粒子は、前記エポキシ化合物の100重量部に対して、1〜30重量部の割合で混合されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項5】
前記エラストマー粒子の1次粒径は、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、前記エポキシ化合物の100重量部に対して、1〜30重量部の割合で混合されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子の1次粒径は、1〜1000nmであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項8】
前記マイクロ粒子、前記エラストマー粒子、前記ナノ粒子は、カップリング剤および表面処理剤よりなる群より選択された1以上による表面改質を施されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の絶縁物用注型樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の絶縁物用注型樹脂組成物の硬化物よりなることを特徴とする絶縁材料。
【請求項10】
前記硬化物中において、前記ナノ粒子と前記エラストマー粒子との間隔、および前記ナノ粒子と前記マイクロ粒子との間隔は、いずれも1μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の絶縁材料。
【請求項11】
導体と、
請求項9または10に記載の絶縁材料よりなり、前記導体と他の部材との間を絶縁する絶縁部材と、
を備えることを特徴とする絶縁構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−75069(P2008−75069A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202179(P2007−202179)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発事業 環境調和型電力機器実現のためのナノコンポジット絶縁材料の研究開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】