説明

注形用エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置

【課題】高電圧化、小型化にも対応可能であり、耐クラック性及び顔料の分散性に優れた注形用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂と、(B)無機充填剤と、(C)カップリング剤と、(D)酸無水物硬化剤と、(E)硬化促進剤とを含有し、(C)カップリング剤がアルミネート系カップリング剤を含有するものであって、耐クラック性及び顔料の分散性にも優れた注形用エポキシ樹脂組成物及びこのエポキシ樹脂組成物を用いて硬化した電気部品装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注形用エポキシ樹脂組成物及びそのエポキシ樹脂組成物によって注形された電子部品装置に係り、特に、テレビ等に用いられるフライバックトランスや自動車、オートバイ等のイグニッションコイルの注形に適した注形用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた電気部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気・電子部品に組み込まれるコイルは、エポキシ樹脂組成物により注形・含浸し、硬化させることによって、外部雰囲気や機械的衝撃から保護して安定に動作するようにして製造されていた。
【0003】
ここで用いられるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂をベースとし、これに硬化剤や硬化促進剤、さらにはシリカ粉末等の無機充填剤や顔料等を配合して構成されるものである。
【0004】
近年、注形品内部の高電圧化や小型注形品に伴う成形薄肉化等により、より優れた耐クラック性を有する注形用エポキシ樹脂組成物が求められるようになり、充填材を高充填化する等の試みがなされている。
【0005】
また、注形用樹脂組成物中に無機充填剤を配合する場合には、無機充填剤の表面をシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤で処理することにより有機成分である樹脂と無機成分である充填剤との界面を化学的に結合して補強することが、通常行われていた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−246913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらのカップリング剤の単独又は混合による使用では耐クラック性に限界がきており、着色化の要求が多くある電気部品においては顔料の分散性が良くないため着色性が不十分であった。
【0007】
そこで、本発明は、耐クラック性に優れ、かつ顔料の分散性にも優れた注形用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的の達成に向け鋭意研究を進めた結果、新規な樹脂組成物及びそれを用いた電気部品装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の注形用エポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)無機充填剤と、(C)カップリング剤と、(D)酸無水物硬化剤と、(E)硬化促進剤とを含有する注形用エポキシ樹脂組成物であって、(C)カップリング剤がアルミネート系カップリング剤を含有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の電気部品装置は、本発明の注形用エポキシ樹脂組成物を用いて硬化したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の注形用エポキシ樹脂組成物は、注形用のエポキシ樹脂にアルミネート系カップリング剤を用いることにより、耐クラック性に優れ、かつ顔料の分散性に優れた特性を有する硬化物を得ることができる。したがって、従来の熱硬化性樹脂組成物を用いた場合に比べ、同等又はそれ以上の機械的特性、電気的特性を有する電気部品装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いる(A)エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子量、分子構造等に制限されることなく注形・含浸用として一般的に使用されている汎用液状樹脂、固形エポキシ樹脂等を用いることができ、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸がグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。また、これら以外に必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂等を使用することができる。
【0014】
本発明に用いる(B)無機充填材としては、シリカ、水酸化アルミニウム、タルク、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等、通常注形用エポキシ樹脂組成物の充填剤として用いられるものであれば特に制限無く広く使用することができ、具体的には、クリスタライトA−A、同A−1、同A−2、同C(以上、株式会社龍森製、商品名)、ハイジライトH42M、同H42I、同H32、同H31、同H31I(以上、昭和電工株式会社製、商品名)、BF013、BF013E、BF083、B103、B153、B153E、B173、B173E(以上、日本軽金属株式会社製、商品名)等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
本発明に用いる(C)カップリング剤としては、アルミネート系カップリング剤を含有していることが必須であり、これにシランカップリング剤を併用することもできる。
【0016】
ここで、アルミネート系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピオネート等のアルミニウムを主要骨格とするアルミネート系カップリング剤、ジルコニウム及びアルミニウムを含む主要骨格を有し、これにアミノ基やカルボキシル基を結合させたジルコアルミネート系カップリング剤が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。このアルミネート系カップリング剤として、具体的には、AL−M(味の素株式会社製、商品名)、CAVCO MOD−M、MI、C(CAVEDON CHEMICAL社製、商品名)等が挙げられる。
【0017】
また、シランカップリング剤としては入手容易なアミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリクロロシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等のほか、アミノ基、メルカプト基又はヒドロキシル基と、シリル基の両者を持つ種々の化合物が利用可能である。
【0018】
本発明に用いる(D)酸無水物硬化剤としては、分子中に酸無水物基を有し、通常注形用エポキシ樹脂組成物の硬化に用いるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0019】
本発明に用いる(E)硬化促進剤としては、注形用エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤との反応を促進する作用を有するものであればいかなるものであってもよい。具体的には、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6−トリジメチルアミノメチルフェノール(TAP)等の3級アミン類が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
本発明に用いる(F)顔料としては、注形用エポキシ樹脂組成物に通常使用される顔料であれば、特に限定されるものではなく、例えばカーボンブラック、二酸化チタン、酸化鉄等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0021】
なお、これらの成分の配合割合について、耐クラック性及び顔料の分散性を特に良好にするためには、(A)エポキシ樹脂 100質量部に対して、(B)無機充填剤 150〜300質量部、(C)カップリング剤 0.5〜3.0質量部、(D)酸無水物硬化剤 50〜150質量部、(E)硬化促進剤 0.5〜3.0質量部であることが好ましい。
【0022】
また、カップリング剤としてアルミネート系カップリング剤とシランカップリング剤とを併用する場合には、(C)カップリング剤中に、アルミネート系カップリング剤 25〜75質量%、シランカップリング剤 25〜75質量%の割合で配合することが好ましい。
【0023】
さらに、(F)顔料を添加する場合には、(A)エポキシ樹脂 100質量部に対して、(F)顔料を0.1〜5.0質量部の割合で配合することが好ましい。
【0024】
本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物は、上述したエポキシ樹脂、無機充填剤、アルミネート系カップリング剤、特定の硬化剤及び硬化促進剤を必須成分とするが、本発明の目的に反しない範囲において、その他のカップリング剤、消泡剤、その他の成分を添加配合することができる。これらは単独又は2種類以上混合して使用することができる。
【0025】
本発明の注形用エポキシ樹脂組成物の各成分、すなわち、エポキシ樹脂、無機充填剤、アルミネート系カップリング剤、酸無水物硬化剤、硬化促進剤等は、それらを混合し、十分に撹拌して容易に注形用エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
【0026】
また、上記した本発明の注形用エポキシ樹脂組成物は、これを通常の方法によりコイル等を含浸硬化することで容易に電気部品装置を製造することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0028】
(実施例1)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名) 100質量部、シリカとしてクリスタライトA−1(株式会社龍森製、商品名) 200質量部、消泡剤としてTSA720(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 0.1質量部、シランカップリング剤としてTSL8350(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 1.0質量部、アルミネート系カップリング剤としてAPG(CAVEDON CHEMICAL社製、商品名) 1.0質量部を混合した。次いで、硬化剤としてQH200(日本ゼオン株式会社、商品名) 87質量部、硬化促進剤として2E4MZ−CN(四国化成工業株式会社製、商品名) 1.0質量部を加えて注形用エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0029】
(実施例2)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名) 100質量部、シリカとしてクリスタライトA−1(株式会社龍森製、商品名) 200質量部、消泡剤としてTSA720(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 0.1質量部、シランカップリング剤としてTSL8350(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 1.0質量部、アルミネート系カップリング剤としてAPG(CAVEDON CHEMICAL社製、商品名) 1.0質量部、顔料としてMA600(三菱化成株式会社製、商品名) 0.1質量部を混合した。次いで、硬化剤としてQH200(日本ゼオン株式会社、商品名) 87質量部、硬化促進剤として2E4MZ−CN(四国化成工業株式会社製、商品名) 1.0質量部を加えて注形用エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0030】
(実施例3)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名) 100質量部、シリカとしてクリスタライトA−1(株式会社龍森製、商品名) 200質量部、消泡剤としてTSA720(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 0.1質量部、アルミネート系カップリング剤としてAPG(CAVEDON CHEMICAL社製、商品名) 1.0質量部、顔料としてMA600(三菱化成株式会社製、商品名) 0.1質量部を混合した。次いで、硬化剤としてQH200(日本ゼオン株式会社、商品名) 87質量部、硬化促進剤として2E4MZ−CN(四国化成工業株式会社製、商品名) 1.0質量部を加えて注形用エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0031】
(比較例1)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名) 100質量部、シリカとしてクリスタライトA−1(株式会社龍森製、商品名) 200質量部、消泡剤としてTSA720(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 0.1質量部、シランカップリング剤としてTSL8350(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 1.0質量部を混合した。次いで、硬化剤としてQH200(日本ゼオン株式会社、商品名) 87質量部、硬化促進剤として2E4MZ−CN(四国化成工業株式会社製、商品名) 1.0質量部を加えて注形用エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0032】
(比較例2)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名) 100質量部、シリカとしてクリスタライトA−1(株式会社龍森製、商品名) 200質量部、消泡剤としてTSA720(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 0.1質量部、シランカップリング剤としてTSL8350(東芝シリコーン株式会社製、商品名) 1.0質量部、顔料としてMA600(三菱化成株式会社製、商品名) 0.1質量部を混合した。次いで、硬化剤としてQH200(日本ゼオン株式会社、商品名) 87質量部、硬化促進剤として2E4MZ−CN(四国化成工業株式会社製、商品名) 1.0質量部を加えて注形用エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0033】
(試験例)
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた注形用エポキシ樹脂組成物を加熱硬化させ、絶縁破壊の強さ、曲げ強度、耐クラック性及び顔料分散性について評価した。その結果を表1に示した。
【表1】

*1:JIS C 2105に準じて測定した。
*2:JIS C 2105に準じて測定した。
*3:JIS C 2105に準じて測定した。
*4:100℃で5時間の硬化条件にて、直径10cm、厚さ0.5cmの円板状の硬化物を作成し、目視にて外観を観察した。
【0034】
○:顔料が均一に分散、×:顔料の凝集物が見られ、分散が不均一
この結果から、本発明の注形用エポキシ樹脂組成物は、耐クラック性及び顔料分散性に優れたエポキシ樹脂組成物であり、このエポキシ樹脂組成物を用いることで信頼性の高い電気部品装置を製造が可能であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、(B)無機充填材と、(C)カップリング剤と、(D)酸無水物硬化剤と、(E)硬化促進剤とを含有する注形用エポキシ樹脂組成物であって、
前記(C)カップリング剤がアルミネート系カップリング剤を含有することを特徴とする注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)カップリング剤がアルミネート系カップリング剤とシランカップリング剤を併用したカップリング剤であることを特徴とする請求項1記載の注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)エポキシ樹脂 100質量部に対して、前記(B)無機充填材を150〜300質量部、前記(C)カップリング剤を0.5〜3.0質量部、前記(D)無水物硬化剤を50〜150質量部、前記(E)硬化促進剤を0.5〜3.0質量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)カップリング剤が、アルミネート系カップリング剤を25〜75質量%、シランカップリング剤を25〜75質量%含有してなることを特徴とする請求項2又は3記載の注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(F)顔料を含有し、前記(A)エポキシ樹脂 100質量部に対して、前記(F)顔料を0.1〜5.0質量部含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の注形用エポキシ樹脂組成物を用いて硬化したことを特徴とする電気部品装置。

【公開番号】特開2006−117806(P2006−117806A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307372(P2004−307372)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】