説明

注意欠陥/多動障害の治療におけるマジンドールの併用

本発明は、ヒトの健康関連分野に関し、さらに詳細にはマジンドールによる注意欠陥/多動障害(ADHD)の治療に関する。上記化合物は、単独療法としてまたは精神刺激薬など1以上の化合物と組み合わせて、ADHDおよび関連または共存症状の適用のために投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、ヒトの健康に関連する分野に関し、さらに詳細にはマジンドール(mazindol)を用いた注意欠陥/多動障害(ADHD)の治療に関する。マジンドールは、単独療法としてまたは精神刺激薬(psychostimulants)など1以上の化合物と組み合わせて、ADHDおよび関連または併発症状の適用のために投与することができる。
【0002】
ADHDは、小児や青年の精神病理において特に頻繁に見られるパターンの1つを構成する行動傷害である。その罹患率は、修学期児童の総数の2%〜5%と推定されている。
【0003】
臨床レベルでは、この疾患は、子供の環境に適合し難い不注意、衝動性、および多動性(motor hyperactivity)と関連している。組織に馴染めず思慮に欠けるため、これらの子供達は時としてクラスに順応できないことになる。社会的人間関係と適合せず、かつ時には早期に退学させられることさえある過度の運動性興奮という症状により、恐らく両親を専門家に相談することになる。
【0004】
ADHD、特に小児での薬理学的治療において用いられ、一般に受け容れられている刺激物質は、数種類の薬理学的クラス、すなわち精神刺激薬(アンフェタミン、メチルフェニデート、ブプロピオン)、ユーグレゴリック(eugregorics)(モダフィニル、アドラフィニル)、およびモノアミンオキシダーゼBの阻害薬(セレジリン)に属する。
【0005】
特によく用いられかつよく知られているものは、下記の通りである。
−メチルフェニデート(MPH)は、小児(child),青年(adolescent)および成人(adult)におけるADHDの標準治療とされている。それは、特にその刺激特性が知られている精神刺激薬である。ノルアドレナリンおよびドパミン放出における再吸収(recapture)阻害によるドパミン作動性刺激作用を除けば、MPHはシナプス後のノルアドレナリン作動性α-1受容体に関しては全く効果がない(感受性の変更)。
−アンフェタミン(D/L-アンフェタミン)はノルアドレナリンおよびドパミンの小胞外放出作用を有するので、どのような形態の貯蔵(storage)も阻害する。誤用の可能性や望ましくない末梢的効果(心悸亢進、HTA、動揺、不眠)があるため、その薬物療法は極めて限定されており、ヨーロッパの多くの国では認可されていない。
−モダフィニルは、小児のADHDの治療について米国で最近認可が下りており(2005年)、刺激薬(ユーグレゴリック(eugregoric))であるが、その作用機序は複雑であり、完全には知られていない。MPHやアンフェタミンとは異なり、モダフィニルは依存性または習慣性を引き起こさない。その処方は、現時点でフランスではナルコレプシーおよび特発性睡眠過剰の治療に限定されている。
−アトモキセチンは、ノルアドレナリンの再吸収の選択的阻害薬および(前前頭皮質における再吸収を阻害することによる)ドパミン作動性興奮薬であり、小児および成人のADHDにおいて効力と良好な耐性を示している(Spencer et al, 1998; Popper, 2000 ; Biederman et al, 2002)。これは、最近になって米国での発売が認可されている(FDA, 2002年11月)。
−その他: ブプロピオン、カフェイン、セレジリンなど。
【0006】
カテコールアミンの摂取阻害薬および抗鬱薬であるブプロピオンは、ADHDの治療における潜在的競合薬(competitor)でもある。
モノオキシダーゼ摂取阻害薬であるセレジリンは、アンフェタミンに似た薬理特性も有する。ADHDの治療におけるその刺激作用が知られており、この使用の利点は有力である。
【0007】
以上のように、ドパミン作動性精神刺激薬による多動の改善は有意であることが多いが、不十分である。
その理由は、ADHDの治療に用いられるまたは用いるうる刺激物質、特にメチルフェニデートまたはアンフェタミンのような精神刺激薬は、血漿中半減期が短いことが多く、「オン-オフ」効果、すなわち数時間後には「反動症状」を伴いかつ夜間の残りの時間に症状が悪化して就眠の質に有害な「カミング-オフ(coming-off)」効果が出現するからである。
【0008】
さらに、これらの物質の幾つかは生体で代謝されるので、患者にとって有毒となる危険性を示す。
【0009】
また、ADHDの治療において投与される薬剤の幾つかは、特に錠剤が大きすぎ、または1日数回の薬剤の投与のため、小児への特定の投与には適さない。
【0010】
その上、恐らくは夜間の多動動揺による不眠、就眠困難、夜間中の覚醒などのある種特定の症状、ならびに不注意、短気および衝動性のような追加的障害は、あらゆるやり方の治療を妨害すると思われる[Chervin et al,「不注意、多動、不穏下肢および周期的下肢運動の症状の関連性(Associations between symptoms of inattention, hyperactivity, restless legs, and periodic leg movements)」. Sleep 2002 15;25(2):213-8; Gruber et al,「注意欠陥/多動性障害の小児における睡眠パターンの不安定性(Instability of sleep patterns in children with attention-deficit/hyperactivity disorder)」. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2000;39(4):495-501]。
【0011】
したがって、精神刺激薬によって現行の治療法で得られるよりも優れた結果を得ることができ、現行の治療法に対して抵抗性の症状を治療することができ、特に症状のカミング-オフ(coming-off)効果または反動がなくかつ毒性の危険が限定された、ADHDの新たな治療法の開発が強く求められている。さらに詳細には、小児を意図する治療法が特に求められている。これは本発明における課題である。
【0012】
全く思いがけないことには、本研究により、今般、ADHDの予防および治療処置においてマジンドールを用いうることが有意な結果とともに見出され、他の物質、特にある種の精神刺激薬における上記した欠点のないことが見出された。
【0013】
マジンドールは、下記の化学式を有するものである:
5-(4-クロロフェニル)-2,5-ジヒドロ-3H-イミダゾ[2,1-a]イソインドール-5-オール
【化1】

【0014】
マジンドールは、現行の薬剤分類では、覚醒感を生じる精神興奮性および食欲減退性の薬剤であると考えられ、フランスでは現在は認可されておらずまたは肥満およびナルコレプシーにおけるTAU(一時使用認可)によって認可されているだけである。それは、覚醒機構の機能不全を扱う上で有利な化合物である。
【0015】
総ての検討種、健康な動物およびヒトにおけるマジンドールの本質的な薬理作用は、食欲調節ドパミン活性中心(appetite-regulating dopaminogenic centres)については視床下部とされる(Hadler, 1972)。その主要代謝は尿中である(3/4尿、1/4糞便)。
【0016】
マジンドールは、それが三環性化学構造であるため、非アンフェタミン化合物である。それは、アンフェタミンに極めて類似した薬理学的プロフィールを示すが、その副次的効果を再現することはない。したがって、アンフェタミン分子とは異なり、マジンドールは覚醒期間の伸張に関してのみ運動活性を増加し、心臓血管の変異またはステレオタイプを生じない(Hadler, 1972)。
【0017】
その上、動物の毒物学的研究では、マジンドールの毒性ポテンシャルは極めて低いことが明らかになった。これは、マジンドールの代謝物が尿中に排泄されるので、マジンドールの毒性の危険性が限定されているからである。特に、
−発癌効果、
−突然変異誘発効果、
−再生(reproduction)における毒物学的効果
は、観察されなかった。
【0018】
さらに、マジンドールは血漿中半減期が長く1日を上回り、カミング-オフ効果、すなわち、1日の終わりにおける「症状の反動」効果の出現が回避される。
【0019】
実際に、単回または反復経口投与の後には、マジンドールはtmax 2〜4時間で吸収される。食物摂取を同時に行うことにより、吸収が(約1時間まで)遅れがちになるが、吸収総量は変更されない。血漿中半減期には、33〜55時間後に到達する。
【0020】
薬物動態は1mg/日〜4mg/日の用量については線形(用量から独立)であり、摂取から24時間後にはまだ用量の75%は「血漿的に」有効である。
【0021】
その上、マジンドール(Teronac(登録商標))錠剤は小さいので、投与において何ら問題を引き起こさない。既に引用した薬物動態学的理由により、マジンドールは1日1回だけ投与されるが、患者、特に正午に投与する必要があることが多い就学児童の特殊な場合には、制約は限られたものとなる。
【0022】
マジンドールは、30年以上もの間、成人の肥満治療において、プラシーボに対する多くの二重盲験コントロール研究の対象とされてきた。ナルコレプシーおよび睡眠過剰の研究は、限定されている。一方、ナルコレプシーおよび特発性睡眠過剰と関連した過度の昼間傾眠の治療における短、中および長期間の使用における安全性は、当座比較的詳細に報告されている(Shindler, et al., 1985)。
【0023】
マジンドールは、これら2つの疾患(ナルコレプシーおよび睡眠過剰)において、覚醒し続ける困難を有する患者における生活の質を有意に改善するという三次目的によってTAU(一時使用認可)治療法となった。
【0024】
したがって、本発明は、それを必要とする患者のための、注意欠陥/多動障害(ADHD)またはその症状の少なくとも1つの予防および/または治療処置用の薬剤を製造するための、マジンドールの使用をその目的とする。
【0025】
本発明において、注意欠陥/多動障害(ADHD)の診断は、国際分類DSM/IV (精神障害の診断および統計マニュアル, 第4版, 1994年)によって定義された臨床特性に基づいている。
【0026】
DSM-IVの基準としては、3つの特徴(不注意、衝動性および多動性)、正常な知的効率(IQ>80、5-12歳の年齢)、および孤立性鉄欠乏症(isolated iron deficiency)であるが、貧血ではないこと、すなわち、正常のヘモグロビン濃度であることが挙げられる。「鉄欠乏症」という表現は、可溶性トランスフェリン受容体の血清濃度に対して有意な変更のない低鉄血症を意味する。
【0027】
本発明による患者は、新生児、小児、青年または成人から選択される。好ましい態様によれば、これは約5〜12歳の小児、および/または青年の場合である。本発明による患者は、好ましくは鉄欠損症に罹っているが貧血ではない。フェリチン欠損症は血清中で測定することができるが、脳脊髄液のような他の総ての生物学的流体で測定することもできる。
【0028】
フェリチン欠損症は、約50μg/l未満の成人患者におけるフェリチンの血清濃度に対応する。この低フェリチン血症は、フェリチン濃度が約40μg/l未満、または約35μg/l未満、30μg/l未満、20μg/l未満、15μg/l未満にまでも、または約10μg/lにまでも達することがある。血清フェリチンの測定手法は、当業者には周知である。免疫酵素法を、引用することができる(IMXフェリチンキット, Abott Laboratories)。
【0029】
本発明による患者は、トランスフェリンに可溶性の受容体の血清濃度も正常である。トランスフェリンは生体の細胞による鉄の獲得に関与しており、この獲得は細胞表面に存在するトランスフェリン受容体の数によって制御される。これらの受容体の濃度は、比濁法(nephelemetry)のような当業者に知られている手法によって評価することができる(Ruivard et al., 2000 Rev. Med. Interne 21: 837-843)。トランスフェリンに可溶性の受容体濃度の正常範囲は、男性では2.0〜4.50mg/1であり、女性では1.80〜4.70mg/1である(RsTFキットRef 2148315, Rocheを参照されたい)。
【0030】
本発明による化合物または組成物は、様々な経路および種々の形態で投与することができる。例えば、それらは全身、経口、肛門または非経口的に、特に吸入または例えば、静脈内、筋肉内、皮下、経皮または動脈内法などの注射によって投与することができる。好ましくは、経口投与である。
【0031】
注射については、化合物は一般的には懸濁液の形態で包装され、シリンジまたは灌流などによって注入することができる。この場合には、化合物は一般的には、生理食塩水、生理等張緩衝溶液など薬学上の用法に適合し当業者に知られている溶液に溶解される。したがって、組成物は、分散剤、可溶化剤、安定剤、防腐剤などから選択される1以上の化合物またはビヒクルを含むことができる。液体および/または注入可能な処方物で用いることができる化合物またはビヒクルは、特にメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、ラクトース、植物油、アラビアゴムなどである。
【0032】
化合物は、ゲル、油、錠剤、座薬、散剤、カプセル、エアゾールなどの形態で、あるいは生薬形態または長時間および/または遅延放出を提供する手段によって投与することもできる。この種の処方物については、セルロース、炭酸塩または澱粉のような化合物を用いるのが有利である。
【0033】
「ADHD症状」とは、特に不注意のような注意障害、衝動、短気、反抗性障害を表すが、日中または夜間の多動(daytime or nighttime motor hyperactivity)、下肢静止不能症候群および不眠をも表す。
【0034】
不眠とは、
a. 就眠困難を特徴とする不眠の開始、
b. 多動夜間および終夜覚醒を特徴とする不眠の持続、
c. 一般的には慢性的でありかつ一般的には不安、ストレスおよび鬱病エピソードに繋がる精神病理学的不眠
を表す。
【0035】
本発明の別の態様によれば、マジンドールは、同時に、個別に、または順次に使用するための組合せ剤(combination product)として、鉄と組み合わせて用いられる。
【0036】
好ましい使用法によれば、鉄は栄養補助食品としてマジンドールの投与前に患者に使用される。
【0037】
本発明において、「鉄」は、鉄原子、鉄塩または有機鉄の形態、または薬学上許容可能な鉄を含む任意の処方物の形態での鉄を意味する。例えば、薬学上許容可能な鉄塩は、第一鉄塩および第二鉄塩、好ましくはクエン酸アンモニウム第二鉄、ピロリン酸第二鉄、フェロコリネート、アスコルビン酸第一鉄、アスパラギン酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、酒石酸第一鉄、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、グルセプト酸第一鉄、グリシン硫酸第一鉄、乳酸第一鉄、シュウ酸第一鉄およびコハク酸第一鉄から選択されるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、鉄塩は硫酸第一鉄であり、好ましくは胃で保護される硫酸第一鉄である。
【0039】
あるいは、薬学上許容可能な鉄は、デキストラン鉄、スクロース鉄、ポリマルトース鉄、またはソルビトール鉄の形態である。鉄が薬学上許容可能な有機鉄の形態であるときには、好ましくは鉄ビグリシネート、鉄グリシネート、または鉄タンパク質スクシニレートである。
【0040】
好ましい態様によれば、マジンドールは、場合により本発明による鉄と共に、同時に、個別に、または順次に使用するための組合せ剤として、精神刺激薬から選択される少なくとも1種類の化合物と組み合わせて用いられる。
【0041】
精神刺激薬化合物は、ドパミンおよび/またはノルアドレナリン摂取阻害薬およびカテコールアミン作動薬を表す。これらの中、下記のものが挙げられるが、これらに限定されない。
1) 精神刺激薬化合物: メチルフェニデート (特に、リタリン(Ritalin)、コンセルタ(Concerta)、エクァジム(Equasym))、モダフィニル(スパーロン(Sparlon)、モジオダール(Modiodal)、プロヴィジル(Provigil))、アトモキセチン(ストラテラ(Strattera))、およびd-アンフェタミン、デキサドリンおよびデキサンフェタミン(dexamphetamine)のようなアンフェタミン、
2) L-ドーパ: マドパー(Modopar)、シネメット(Sinemet)、
3) 選択的ドパミン作動薬: プラミペキソール(シフロール(Sifrol)、ミラペックス(Mirapex))、ロピニロール(レキップ(Requip)、アダルトレル(Adartrel))、リスリド、ペルゴリド、カベルゴリンなど。
【0042】
中枢神経系に関する鉄の役割は、臨床としての基礎神経生理病理学において報告されていることが多い。機能的知的無力症、慢性疲労症候群、または逆精神運動不安定性および興奮性は、鉄欠損症の結果であることがある(Lozoff, 1989 Adv Pediatr 1989; 6: 331-59)。神経疾患の生理病理学、特に特発性パーキンソン病における鉄の役割は、30年以上も前に知られている。特に、稀な神経変性病理学(例えば、フリートライヒ運動失調)におけるある種の大脳構造(例えば、歯状核)で鉄が増加する証拠も知られている。さらに最近では、ある種の神経病理学的過程におけるトランスフェリン受容体の役割が報告されている(Marder F, et al. 1998 Neurology 50, 4: 1138-40)。大脳毛細血管の内皮細胞におけるトランスフェリン受容体の数の増加は、脳幹神経節(淡蒼球、黒質、赤核および歯状核)の蓄積に関与している可能性がある。中枢レベルでの過形成(受容体数の増加)によるトランスフェリン受容体の機能不全は、神経変性現象に関与するある種の構造における鉄の蓄積の説明となる。一方、これらの受容体の減少は、この現象からの中枢核の保護に寄与することとなる。ADHD生理病理学における血漿フェリチンの減少という想定の下、トランスフェリン受容体は、大脳構造を鉄欠乏状態にしないようにするため、通常は貧血の場合に起こるのと同様に生理学的に増加する。一方、応答がない(トランスフェリン受容体数の増加がない)と大脳の鉄が減少し、ドパミンの合成減少および/またはドパミン作動性受容体の刺激によるドパミン機能不全と適合することとなる。したがって、本発明は、成年期に神経変性異常(neurodegenerative pathology)を生じる新生児、小児、青年または若年成人の患者における予防処置のための、所望により鉄またはその薬学上許容可能なその塩の1つおよび/または精神刺激薬と組み合わせた、マジンドールの使用であって、上記新生児、小児、青年または若年成人の患者が、少なくとも以下の症状を有することを特徴とする、使用に関する:
−フェリチン欠損症であり、フェリチンの血清濃度は50μg/l未満、
−トランスフェリン可溶性受容体の血清濃度が正常、
−注意欠陥/多動障害、またはそれらの症状の少なくとも1つ。
【0043】
好ましくは、上記患者は、IQ>80であり、年齢が約5〜12歳でありかつ貧血でない小児である。
【0044】
好ましくは、上記神経変性異常は、パーキンソン病、小脳性運動失調、フリートライヒ運動失調、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病または筋萎縮性側索硬化症である。さらに詳細には、それはパーキンソン病である。
【0045】
特に、マジンドールを硫酸第一鉄と共に用いるときには、1日単位で患者に投与される硫酸第一鉄の量は1回以上の用量で0.1mg〜10gであり、好ましくは100mg〜2g/日であり、好ましくは約500mgである。
【0046】
さらに詳細には、本発明によれば、患者は鉄、特に硫酸第一鉄の栄養補給を12週間受け、マジンドールの投与を12週間受ける。
【0047】
投薬量は、好ましくは1〜2mg (成人のナルコレプシーの治療における推奨用量)のマジンドールの1日用量に相当する。
【0048】
本発明による注意欠陥/多動障害の治療において、鉄および/または精神刺激薬と組み合わせたマジンドールによる注意欠陥/多動障害の治療の効力評価の基準は、注意欠陥/多動症状ADH-RSの等級スケール重篤度得点の減少(>30%)(治療12週間後、Connerの両親に対するアンケート調査(CPRS)、Connersの教師に対するアンケート調査(CTRS)およびCGI(全般臨床印象)の重篤度得点における改善度)とされる。自覚傾眠は、CASS尺度(小児および青年の傾眠尺度)を用いて評価される。就眠の質は、下肢静止不能症候群の重篤度尺度によって評価される。
【0049】
さらに、本発明はまた、薬学上許容可能な賦形剤およびマジンドールを含んでなる、ADHDまたはその症状の1つの予防および/または治療処置のための医薬組成物に関する。
【0050】
本発明によれば、上記組成物はまた、鉄もしくはその薬学上許容可能な塩の1つ、および/または精神刺激薬を含んでいてもよい。
【0051】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者のための、注意欠陥/多動障害(ADHD)またはその症状の少なくとも1つの予防および/または治療用の薬剤を製造するための、マジンドールの使用。
【請求項2】
前記患者が、新生児、小児、青年または成人から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記患者が、孤立性鉄欠乏症であるが貧血ではない小児である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、経口、肛門、非経口、筋肉内または静脈内法によりマジンドールを投与しうるように処方されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記症状が、不注意、衝動、短気、日中または夜間の多動、不眠症、下肢静止不能症候群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
同時に、個別に、または順次に使用するための組み合せ剤として、鉄と組み合わせられた、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
同時に、個別に、または順次に使用するための組み合せ剤として、精神刺激薬、特にドパミンおよび/またはノルアドレナリン摂取阻害薬から選択される少なくとも1つのものと組み合わせられた、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記化合物が、メチルフェニデート、モダフィニル、アトモキセチンおよびアンフェタミン、特にd-アンフェタミン、デキセドリン、デキサンフェタミン、L-ドーパ、ドパミン、ドパミン作動薬から選択されるものである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
投薬量がマジンドールの1日用量1 〜 2mgに相当する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記患者が、フェリチン欠損症に罹っており、前記患者の血清中フェリチン濃度が、50μg/l未満、約40μg/l未満、約35μg/l未満、約30μg/l未満、約20μg/l未満、約15μg/l未満、約10μg/l未満、または約5μg/l未満である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記患者が、トランスフェリン可溶性受容体の正常血清濃度を有する、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
成年期に神経変性異常を生じやすい、新生児、青年または若年成人の患者における予防処置のための、先行するいずれか一項に記載の使用であって、該新生児、青年または若年成人の患者が、
フェリチン欠損症であり、血清フェリチン濃度が50μg/l未満、
フェリチン可溶性受容体の血清濃度が正常、
注意欠陥/多動障害、またはそれらの症状の少なくとも1つ
の症状のうち少なくとも一つを有することを特徴とする、使用。
【請求項13】
前記神経変性異常がパーキンソン病である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
薬学上許容可能な賦形剤と、マジンドールとを含んでなる、ADHDまたはその症状の1つの予防および/または治療処置のための医薬組成物。
【請求項15】
鉄もしくはその薬学上許容可能な塩の1つ、および/または精神刺激薬をさらに含んでなる、請求項14に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−533388(P2009−533388A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504735(P2009−504735)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053512
【国際公開番号】WO2007/116076
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(500257447)
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE−HOPITAUX DE PARIS
【住所又は居所原語表記】3,avenue Victoria,F−75004 Paris,FRANCE
【Fターム(参考)】