説明

洗浄材

【課題】スクリューシャフトを内蔵した移送管等、内部に複雑な形状の機器類を有する管体内を、短時間で簡単に洗浄することのできる洗浄材を実現する。
【解決手段】モース硬度が2以下のセルロースより成る平均粒径が2〜5mmの粒状の多孔質吸着材に、植物精油から成るテルペノイド類を0.1〜10重量%含有した洗浄液を吸着保持させて成り、上記多孔質吸着材は、被洗浄物と接触して上記洗浄液を浸出すると共に、汚れ成分を吸着するよう構成されていることを特徴とする洗浄材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗浄材に係り、特に、スクリューシャフトを内蔵した移送管等、内部に複雑な形状の機器類を有する管体内の洗浄に適した洗浄材に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に複雑な形状の機器類を有する管体、例えば、スクリューシャフトを内蔵した移送管は、特許第2821675号に記載されている如く、煙草の吸殻回収装置等に組み込まれて使用されたり、或いは、工場等において、製造過程の食品、肥料等を輸送するために使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記スクリューシャフトを内蔵した移送管等、内部に複雑な形状の機器類を有する管体の内部はブラシ等を用いて直接洗浄することが困難であるため、内部の洗浄に際しては、一度分解した上で洗浄し、その後、再度、組立を行っており、非常に手間及び時間がかかり、維持管理のためのコスト高を招いていた。
【0004】
この発明は、従来の上記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、スクリューシャフトを内蔵した移送管等、内部に複雑な形状の機器類を有する管体の内部を、短時間で簡単に洗浄することのできる洗浄材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明に係る洗浄材は、表面に開孔を有する弾性材料より成る多孔質吸着材に洗浄液を吸着保持させて成り、上記多孔質吸着材は、被洗浄物と接触して上記洗浄液を浸出すると共に、汚れ成分を吸着するよう構成されていることを特徴とする。
【0006】
上記多孔質吸着材の開孔の孔径は、例えば、10−4〜10−1mmと成される。また、多孔質吸着材は、平均粒径が2〜5mmの粒状であるのが好ましい。さらに、多孔質吸着材は、モース硬度が2以下の材料で構成するのが好ましい。多孔質吸着材の構成材料としては、例えばセルロースを好適に用いることができる。
【0007】
上記洗浄液は、例えば、植物精油から成るテルペノイド類を含有するものが該当する。この場合、テルペノイド類としては、リモネン、ピネン、カンフェンの単体又は混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る洗浄材にあっては、被洗浄物に接触することにより、被洗浄物表面の剥離性の高い汚れを、多孔質吸着材の物理的吸着作用によって吸着除去することができる。また、本発明に係る洗浄材が被洗浄物に接触すると、多孔質吸着材が弾性変形することにより洗浄液が多孔質吸着材の表面に浸出して、被洗浄物表面の剥離しにくい汚れを溶解することができる。さらに、洗浄液で溶解されて洗浄液中に溶け出した汚れ成分を、毛細管現象を利用した多孔質吸着材の物理的吸着作用によって吸着除去することができる。
従って、本発明に係る洗浄材を、スクリューシャフトを内蔵した移送管等、内部に複雑な形状の機器類を有する管体内に収納して移送させれば、洗浄材が管体の内壁面や機器類と接触することにより、管体の内壁面や機器類に付着した汚れ成分を短時間で簡単に吸着除去することができる。
【0009】
上記多孔質吸着材の孔径を10−4〜10−1mmとすれば、洗浄液の表面張力によって多孔質吸着材の孔内に洗浄液を安定的に保持できると共に、被洗浄物と接触した際には洗浄液を速やかに浸出できる。
【0010】
本発明の洗浄材を用いた物理的な洗浄は、一般的な分子間力や静電エネルギー等を利用して汚れ成分を吸着して行うため、洗浄材を構成する多孔質吸着材の表面積をできるだけ大きくするのが好ましい。一般に粒状物の表面積は、平均粒径が小さいほど、その粒子径の2乗に比例して大きくなるが、あまりに小さいと、機器類の隙間に入り込み、その損傷を招くとともに、洗浄後の処理や利便性に欠ける。そのため、洗浄材を構成する上記多孔質吸着材は、平均粒径2〜5mmの粒状と成すのが好ましい。
【0011】
上記多孔質吸着材を、モース硬度が2以下の比較的柔らかい材料で構成すれば、接触した際に被洗浄物を損傷させることがない。また、被洗浄物と接触した際、容易に弾性変形して洗浄液を速やかに浸出できる。
【0012】
上記洗浄液として、植物精油から成るテルペノイド類を含有したものを用いれば、被洗浄物に付いた油脂性の汚れ(例えば、煙草のヤニやタール類)を効果的に溶解除去することができる。すなわち、植物精油から成るテルペノイド類は極性のない(非極性)炭化水素化合物であるため、同じく極性のない(非極性)油脂類に対して高い親和性を保つ。それゆえに被洗浄物に付いた油脂性の汚れ(例えば、煙草のヤニやタール類)を効果的に溶解除去することが可能である。
この場合、洗浄液に含有させるテルペノイド類の粘度が高いと、多孔質吸着材の表面から洗浄液を速やかに浸出させることが困難である。また、洗浄液に含有させるテルペノイド類の蒸気圧が高いと、洗浄中に揮発してしまい、溶解除去した汚れ成分を多孔質吸着材に吸着させることが困難である。さらに、洗浄液に含有させるテルペノイド類の非極性物質に対する親和性が低いと油脂性の汚れを十分に溶解除去できない。以上の事態が生じるのを防止するため、テルペノイド類としては、特に、リモネン、ピネン、カンフェンの単体又は混合物を用いるのが良い。
【0013】
上記多孔質吸着材の構成材料としてセルロースを用いた場合、天然高分子であるセルロースは生分解性材料であるため、使用後に廃棄しても環境に悪影響を及ぼすことがない。また、テルペノイド類を含有した洗浄液を多孔質吸着材に保持させる場合、セルロースはテルペノイド類と反応して侵されることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る洗浄材は、表面に開孔を有する弾性材料より成る多孔質吸着材に洗浄液を吸着保持させて成り、上記多孔質吸着材は、被洗浄物と接触して上記洗浄液を浸出すると共に、汚れ成分を吸着するよう構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
上記多孔質吸着材の孔径は、物理的吸着作用を発揮する微細なものと成されるが、洗浄液の表面張力によって多孔質吸着材の孔内に洗浄液を安定的に保持できると共に、被洗浄物と接触した際には洗浄液を速やかに浸出できるようにするため、特に、10−4〜10−1mm、好ましくは10−3mmと成すのが良い。
【0016】
また、上記多孔質吸着材は、平均粒径が2〜5mmの粒状と成すのが適当である。すなわち、本発明の洗浄材を用いた物理的な洗浄は、一般的な分子間力や静電エネルギー等を利用して汚れ成分を吸着して行うため、洗浄材を構成する多孔質吸着材の表面積をできるだけ大きくするのが好ましい。一般に粒状物の表面積は、平均粒径が小さいほど、その粒子径の2乗に比例して大きくなるが、あまりに小さいと、機器類の隙間に入り込み、その損傷を招くとともに、洗浄後の処理や利便性に欠ける。そのため、洗浄材を構成する多孔質吸着材は、平均粒径は2〜5mmの粒状と成すのが良い。
【0017】
さらに、上記多孔質吸着材は、接触した際に被洗浄物を損傷させることがないようモース硬度が2以下の材料、例えば、後述するセルロースで構成するのが好ましい。モース硬度が2以下の比較的柔らかい材料で多孔質吸着材を構成した場合には、被洗浄物と接触した際、容易に弾性変形して洗浄液を速やかに浸出できる。
【0018】
洗浄材を構成する多孔質吸着材に吸着保持させる上記洗浄液は、植物精油から成るテルペノイド類と、界面活性剤と、水とを含有して構成される。界面活性剤は、テルペノイド類を乳化させて水溶性にするために添加されるものであり、乳化作用のある公知の界面活性剤が使用可能である。
【0019】
植物精油から成るテルペノイド類は極性のない(非極性)炭化水素化合物であるため、同じく極性のない(非極性)油脂類に対して高い親和性を保つ。それゆえに被洗浄物に付いた油脂性の汚れ(例えば、煙草のヤニやタール類)を効果的に溶解除去することが可能である。
尚、一般に洗浄剤として使用される種々の界面活性剤も油脂類に親和し、溶解する効果があるが、タール類など、長鎖の脂肪酸が常温で固化しているときなどは、テルペノイド類と比較して溶解度が落ちるため、十分な効果が期待できない。
また、油脂類を溶解除去する効果を有する化合物として、直鎖の炭化水素や脂肪酸、アルコール類、エーテル、芳香族炭化水素などがあるが、いずれも、溶媒臭や不快臭を伴い、使用しにくいという問題がある。これに対し、植物精油からなるテルペノイド類の臭気は、香水に使われるなど、低濃度においては人に対して不快な臭気を発生させないどころか香気として働く特徴があり、好適に使用することができる。
【0020】
上記テルペノイド類としては、リモネン、ピネン、ミルセン、サビネン、テルピネン、カンフェン、シトロネラール、ヒノキチオール、カジノール、リシチン、ピサチン、シトラール、シトロネラール、リナロール、テトラヒドロリナロール、カルボン等が該当し、これらテルペノイド類の単体若しくは2種以上の混合物が、上記洗浄液中に含有される。
尚、洗浄液に含有させるテルペノイド類の粘度が高いと、多孔質吸着材の表面から洗浄液を速やかに浸出させることが困難である。また、洗浄液に含有させるテルペノイド類の蒸気圧が高いと、洗浄中に揮発してしまい、溶解除去した汚れ成分を多孔質吸着材に吸着させることが困難である。さらに、洗浄液に含有させるテルペノイド類の非極性物質に対する親和性が低いと油脂性の汚れを十分に溶解除去できない。以上の事態が生じるのを防止するため、上記テルペノイド類の内、特に、リモネン、ピネン、カンフェンの単体又は混合物を用いるのが良い。
【0021】
洗浄液中に含有させるテルペノイド類は、0.1〜10重量%と成すのが好ましい。すなわち、油脂性の汚れを効率良く溶解除去するためには少なくとも0.1重量%以上のテルペノイド類を含有させるのが良い。
一方、10重量%を越えるテルペノイド類を含有させると、洗浄液の動粘度が高くなり洗浄液の移動性が悪くなるため、洗浄液を多孔質吸着材に吸着させることや、被洗浄物と接触した際に洗浄液を浸出させることが困難になる。
従って、上記の通り、洗浄液中に含有させるテルペノイド類は、0.1〜10重量%とするのが適当である。
上記界面活性剤は、テルペノイド類を十分に乳化させて水溶性とするため、テルペノイド類の含有量の10分の1程度添加される。
【0022】
尚、テルペノイド類を含有した洗浄液を上記多孔質吸着材に保持させる場合、多孔質吸着材の構成材料によっては、上記テルペノイド類と反応して浸され、その形状を維持できないことがあるため、テルペノイド類に侵されないものを多孔質吸着材の構成材料として選定する必要がある。
テルペノイド類に侵されない性質の材料としては、金属、活性炭、ガラス、セルロース等があるが、金属やガラスビーズは多孔質構造でないため洗浄液を吸着保持できないと共に、硬度が高くて被洗浄物を傷めてしまう。また、活性炭は洗浄液を吸着保持できるものの、被洗浄物と接触して洗浄液を浸出することができない。
従って、テルペノイド類を含有した洗浄液を上記多孔質吸着材に保持させる場合、多孔質吸着材の構成材料としては、テルペノイド類に侵されることがなく、しかも、洗浄液の吸着保持及び放出が可能なセルロースを用いるのが最適である。天然高分子であるセルロースは生分解性材料であるため、使用後に廃棄しても環境に悪影響を及ぼすことがないという利点も有する。
【0023】
本発明の洗浄材を構成する多孔質吸着材に保持させる洗浄液の量は、多孔質吸着材の容量の30〜70%であり、多孔質吸着材に洗浄液が吸着保持されており、滴り落ちない程度とされる。
【0024】
本発明に係る洗浄材にあっては、被洗浄物に接触することにより、被洗浄物表面の剥離性の高い汚れを、多孔質吸着材の物理的吸着作用によって吸着除去することができる。また、本発明に係る洗浄材が被洗浄物に接触すると、多孔質吸着材が弾性変形することにより洗浄液が多孔質吸着材の表面に浸出して、被洗浄物表面の剥離しにくい汚れを溶解することができる。さらに、洗浄液で溶解されて洗浄液中に溶け出した汚れ成分を、毛細管現象を利用した多孔質吸着材の物理的吸着作用によって吸着除去することができる。
従って、本発明に係る洗浄材を、スクリューシャフトを内蔵した移送管等、内部に複雑な形状の機器類を有する管体内に収納して移送させれば、洗浄材が管体の内壁面や機器類と接触することにより、管体の内壁面や機器類に付着した汚れ成分を短時間で簡単に吸着除去することができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
モース硬度2のセルロースより成る粒径2mmの粒状の多孔質吸着材(開孔径は10−3mm)に、テルペノイド類としてのリモネンを1重量%界面活性剤で乳化して水に溶解させた洗浄液を、多孔質吸着材の容量の50%吸着保持せしめた本発明の洗浄材(実施例1)を用意した。
また、比較例として、水も洗浄液も吸着保持せず乾燥状態と成された上記実施例1と同じ多孔質吸着材(比較例1)、水だけを容量の50%吸着保持させて成る上記実施例1と同じ多孔質吸着材(比較例2)、テルペノイド類としてのリモネンを1重量%界面活性剤で乳化して水に溶解させた洗浄液を容量の50%含浸させた粒径2mmのウッドチップ(比較例3)を用意した。
[試験方法]
移送管(直径10センチ、長さ5メートル)の内部にスクリューシャフトを有し、該スクリューシャフトの回転により固形物を移送する構造の吸い殻回収装置を準備した。また、汚れ成分として、木炭の粉と松ヤニを1:50の割合で混合した物を10グラム移送管の壁面に塗布した。その上で、上記実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の試験試料を各1リットル、移送管の一端から他端に向かって移送させて移送管内部を洗浄した。 洗浄後、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の試験試料を回収し、表面の埃などを洗い、その乾燥重量を測定して汚れ成分の吸着性能を検証した。さらに、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の試験試料に付着した油脂性の汚れであるノルマルヘキサンの抽出量を測定し、その差違について検証した。この操作をそれぞれ10回行い、平均化する。得られた値は比較例1の値で割り、100分率を求めた。
以上の測定結果を表1に示す。
【表1】

【0027】
表1の結果より、本発明に係る実施例1の洗浄材は、乾燥重量が220%となっており、比較例1及び比較例3と比べて汚れ成分の吸着性能の高いことが判る。特に、油脂性の汚れであるノルマルヘキサンの抽出率は、比較例1、比較例2、比較例3の3倍以上であり、油脂性の汚れに対する高い洗浄効果を有している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開孔を有する弾性材料より成る多孔質吸着材に洗浄液を吸着保持させて成り、上記多孔質吸着材は、被洗浄物と接触して上記洗浄液を浸出すると共に、汚れ成分を吸着するよう構成されていることを特徴とする洗浄材。
【請求項2】
上記多孔質吸着材の開孔の孔径は、10−4〜10−1mmであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄材。
【請求項3】
上記多孔質吸着材は、平均粒径が2〜5mmの粒状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄材。
【請求項4】
上記多孔質吸着材は、モース硬度が2以下の材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の洗浄材。
【請求項5】
上記多孔質吸着材はセルロースで構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の洗浄材。
【請求項6】
上記洗浄液は、植物精油から成るテルペノイド類を含有するものであることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の洗浄材。
【請求項7】
上記テルペノイド類が、リモネン、ピネン、カンフェンの単体又は混合物であることを特徴とする請求項6に記載の洗浄材。


【公開番号】特開2007−136335(P2007−136335A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333506(P2005−333506)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(593065545)株式会社工生研 (3)
【Fターム(参考)】