説明

洗浄装置、液体吐出装置及びインクジェットヘッドの洗浄方法

【課題】液体吐出面にストレスを与えることなくノズル内部に付着した汚れ及び液体吐出面に付着した汚れを除去しうる洗浄装置、液体吐出装置及びインクジェットヘッドの洗浄方法を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド(10)のノズル(12)から吐出させる第1の液体(14)の最大吐出速度以上の流速を有する第2の液体(16)の層流(16A)を発生させ、発生させた第2の液体の層流をノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、ノズルの内部の第1の液体と第2の液体の層流との間に生じるせん断応力によりノズルの内部に第1の液体の循環流を発生させて、ノズルの内部の汚れを除去するととともに、発生させた第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面(12A)に接触させて、液体吐出面に付着している汚れを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄装置、液体吐出装置及びインクジェットヘッドの洗浄方法に係り、特にインクジェットヘッドにおけるノズル内部の洗浄技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に具備されるインクジェットヘッドは、インク吐出面(ノズル面)に液状のインクや固化したインクなどの汚れが付着すると、吐出性能を低下させてしまうことがありうる。例えば、ノズル開口の近傍に汚れが付着すると、吐出量の減少や飛翔方向の曲がりが発生して、ドットサイズの異常やドットの形成位置の異常の原因となる。
【0003】
インクジェットヘッドのインク吐出面を定期的に洗浄して汚れを除去し、吐出性能の低下を回避している。インク吐出面の洗浄方法として、ワイパーやブレードなどの払拭部材を接触させる接触方式や、インク吐出面に洗浄液を吹き付ける非接触方式が採用されている。
【0004】
払拭部材をインク吐出面に接触させる方式では、払拭部材の接触によりインク吐出面に形成される撥液膜へのダメージが懸念される。撥液膜へのダメージはインクの吐出特性を低下させる原因になりうる。また、払拭部材がインク吐出面に付着している汚れをノズルの中に押し込んでしまうと、インクの吐出特性を低下させてしまう。
【0005】
一方、非接触によるインク吐出面の洗浄は、インク吐出面に付着している汚れは除去されるものの、ノズルの内部に洗浄液を入り込ませることは難しく、ノズルの内部に付着している汚れを除去することができない。
【0006】
特許文献1は、プリントヘッドの表面を清掃する清掃立体を備えた装置を開示している。該装置は、プリントヘッドの表面(オリフィスプレート)と清掃立体の隔壁との間にギャップを形成し、このギャップの中に流体の流れを発生させ、表面とオリフィスとの間に流体力学的な剪断力を誘起するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−117995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1はプリントヘッドの表面とオリフィスとの間に流体的なせん断応力を発生させるための条件が開示されていない。つまり、引用文献1の開示から図7や図8に図示されたチャンネル70内の流れ(破線の矢印線により図示)をどのように発生させているかを把握することは困難である。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、液体吐出面にストレスを与えることなくノズル内部に付着した汚れ及び液体吐出面に付着した汚れを除去しうる洗浄装置、液体吐出装置及びインクジェットヘッドの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る洗浄装置は、インクジェットヘッドの第1の液体を吐出させる液体吐出面と対向させるプレート部材と、前記プレート部材の前記液体吐出面と対向させる層流発生面に第2の液体を供給する第2の液体供給手段と、前記液体吐出面と前記層流発生面との間に前記第2の液体の層流を発生させる層流発生手段と、を備え、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノズル内部の第1の液体と第2の液体の層流との間にせん断応力を発生させ、ノズル内部の第1の液体に循環流(キャビティ流れ)を発生させることで、液体吐出面やノズル内部に機械的なストレスを与えることなく、ノズル内部に付着した汚れを除去することができる。
【0012】
また、第2の液体の層流を液体吐出面に接触させることで、液体吐出面に機械的なストレスを与えることなく液体吐出面に付着した汚れを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る洗浄方法(装置)を模式的に示す概念図
【図2】本発明の第1実施形態に係る洗浄装置の概略構成を示す全体構成図
【図3】図2に示す洗浄装置の層流発生面の構造を示す平面図
【図4】図2に示す洗浄装置の制御系の概略構成を示すブロック図
【図5】図2に示す洗浄装置の層流発生面の他の構造例を示す平面図
【図6】図2に示す洗浄装置の層流切換を模式的に示す説明図
【図7】図2に示す洗浄装置の等価回路図
【図8】図7に示す等価回路に基づいて算出される最大ギャップの説明図
【図9】本発明の第2実施形態に係る洗浄装置の層流発生面の構造を示す平面図
【図10】図9に示す層流発生面の他の構造例を示す平面図
【図11】図9に示す層流発生面のさらに他の構造例を示す平面図
【図12】図9に示す層流発生面のさらに他の構造例を示す平面図
【図13】本発明の第3実施形態に係る洗浄方法(装置)を模式的に示す概念図
【図14】本発明に係る洗浄装置を具備するインクジェット記録装置の概略構成を示す全体構成図
【図15】図14に示すインクジェット記録装置における印字部とメンテナンス処理部との配置関係を示す説明図
【図16】図14に示すインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明を実施するための形態について詳説する。
【0015】
〔洗浄方法の説明〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る洗浄方法(装置)を模式的に示す概念図である。本例に示すインクジェットヘッドの洗浄方法は、インクジェットヘッド10のノズル12の内部の第1の液体(インク)14にキャビティ流れ14A(循環流、図1において渦巻状の矢印線により図示)を発生させ、ノズル12の内部の汚れを除去するものである。また、第2の液体の層流16A(図1中、左から右へ向かう矢印線により図示)によってノズル面12Aに付着した汚れも除去される。
【0016】
すなわち、ノズル面12A内方向に第2の液体16の層流16Aを発生させると、第2の液体16の層流16Aとノズル12の内部の第1の液体との間に粘性によるせん断応力が生じる。つまり、第1の液体と第2の液体との境界における両者の摩擦力によって、ノズル12の内部の液体がかき回される。その結果として、ノズル12の内部に二次的にキャビティ流れと呼ばれる循環流(矢印線により図示)が生じる。
【0017】
ノズル面12A内方向の第2の液体16の層流16Aによってノズル面12Aに付着した異物が除去されると同時に、ノズル12の内部の第1の液体14の循環流14Aによって、ノズル12の内部の汚れが除去される。ノズル12内部の汚れには、ノズル12の内壁に付着した固化したインクなどがある。
【0018】
なお、図1では、ノズル開口12Bからノズル内部へ広がるように傾斜(テーパ)形状とされたノズル12を例示したが、ノズル開口からノズル内部へ直線状に形成されたノズルにも、本発明を適用することができる。
【0019】
〔洗浄装置の構成〕
図2は、本発明の第1実施形態に係る洗浄装置の概略構成を示す全体構成図である。なお、図2において図1と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0020】
図2に示す洗浄装置20は、第2の液体16による層流16Aを発生させる層流発生面22を具備するプレート部材23を備え、層流発生面22には、複数の第1の開口24及び複数の第2の開口26が形成される。図2には、第1の開口24及び第2の開口26がそれぞれ2つずつ図示されている。
【0021】
第1の開口24‐1は、第1の流路28‐1介して外部の流路29‐1と接続され、第1の開口24‐2は、第1の流路28‐2を介して外部の流路29‐2と接続され、流路29‐1,29‐2は第1のポンプ30及び不図示のタンクと接続される。
【0022】
流路29‐1は流路29‐1を開閉するバルブ31‐1が設けられ、流路29‐2は流路29‐2を開閉するバルブ31‐2が設けられる。
【0023】
また、第2の開口26‐1は、第2の流路32‐1を介して外部の流路33‐1と接続され、第2の開口26‐2は、第2の流路32‐2を介して外部の流路33‐2と接続され、流路33‐1,33‐2は、第2のポンプ34及び不図示のタンクと接続される。
【0024】
流路33‐1は、流路33‐1を開閉するバルブ35‐1が設けられ、流路33‐2は、流路33‐2を開閉するバルブ35‐2が設けられる。
【0025】
第1のポンプ30及び第2のポンプ34は、ポンプコントローラ36によって流量及び回転方向(第2の液体16の層流16Aの流れ方向)が制御される。例えば、第1のポンプ30を正転方向に動作させ、第2のポンプ34を逆転方向(第1のポンプ30の回転方向に対して反対方向)に動作させると、第1の開口24から第2の液体16が湧き出され、第1の開口24から湧き出された第2の液体16は第2の開口26へ吸い込まれる。
【0026】
図示は省略するが、洗浄装置20は、層流発生面22とインクジェットヘッド10のノズル面12Aとのギャップ長を調整する移動部(図2中不図示、図4に符号54を付して図示)を備えている。移動部の構成例として、層流発生面22を上下方向へ移動させる移動機構(ガイド、ボールネジ等)と、該移動機構に連結される駆動源(モータ、ギア)と、を備える構成が挙げられる。
【0027】
また、層流発生面22とインクジェットヘッド10のノズル面12Aとのギャップ長を検出するセンサを備え、該ギャップを監視しながら該ギャップを調整する態様、層流発生面22に該ギャップ長に対応する凸部を備え、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との衝突を避ける態様などを適用してもよい。
【0028】
なお、洗浄装置20の位置を固定して、インクジェットヘッド10を上下に移動させるように構成してもよい。
【0029】
本例では、第2の液体16を層流発生面22へ供給する形態として、層流発生面22に形成された第1の開口24及び第2の開口26から第2の液体16を供給しているが、層流発生面22と対向する面から第2の液体16を供給してもよいし、層流発生面22に対して平行な方向から第2の液体を供給することも可能である。
【0030】
図3は、図2に示す洗浄装置20の層流発生面22の構造を示す平面図である。図3に示すように、第1の開口24(白抜きにより図示)と第2の開口26(黒塗りにより図示)とは、交互に配置されるとともに、全体として二次元状に配置される。
【0031】
図3に示すように、第1の開口24(24‐1)から第2の開口26(26‐1から26‐4)へ向かう層流16Aは(矢印線により図示)、ノズル開口12B(破線により図示)の直下を通過している。図3では、インクジェットヘッド10のノズル面12Aに形成されている複数のノズル開口12Bのうち1つだけが図示され、他のノズル開口12Bの図示が省略されているが、例えば、ノズル開口12Bがマトリクス配置されている場合は、第1の開口24から第2の開口26へ向かう層流16Aが少なくとも1つのノズル開口12Bの直下を通過するように、第1の開口24及び第2の開口26が配置されている。
【0032】
図3では、正方格子状に第1の開口24及び第2の開口26が配置される形態を図示したが、実際はインクジェットヘッド10(図2参照)のノズル12(ノズル開口12B)の配置パターンに対応して、第1の開口24及び第2の開口26の配置パターンが決められている。
【0033】
層流発生面22における湧き出しと吸い込みとは、図3に図示するように第1の開口24と第1の開口24に隣り合う第2の開口26により実施され(隣り合う開口同士で実施され)、正味の湧き出し量がゼロとなるように構成することが好ましい。
【0034】
すなわち、第1の開口24からの湧き出し量と第2の開口26の吸い込み量が同一になるように、第1の開口24からの湧き出し量と第2の開口26の吸い込み量が制御される。なお、「第1の開口24からの湧き出し量」とは、当該第1の開口24の周囲を囲む第2の開口26へ向かう第2の液体16の総量であり、「第2の開口の吸い込み量」とは、当該第2の開口26の周囲を囲む第1の開口24から流れてくる第2の液体16の総量である。
【0035】
図4は、図2に示す洗浄装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。システム制御部40は、洗浄装置20の各部を統括制御するとともに、メモリ42のメモリコントローラとして制御する。
【0036】
メモリ42は、流速センサ46、残量センサ48から送出される検出データや、各種システムパラメータなどの記憶領域として機能するとともに、システム制御部40の演算処理領域として機能する。メモリ42は複数の記憶素子から構成されてもよい。
【0037】
ユーザインターフェイス44は、キーボード、マウス、ジョイスティックなどが適用される。オペレータからの指令を受け付けるとともに、該オペレータからの指令をシステム制御部40へ送出する。
【0038】
流速センサ46は、第1の流路28及び第2の流路32(図2参照)における第2の液体16の流速を検出する。流速センサ46の検出信号(検出結果)は、システム制御部40へ送出される。システム制御部40は、流速センサ46の検出結果を取得すると、ポンプコントローラ36を介して第1のポンプ30及び第2のポンプ34の流速を制御し、第2の液体16の流速が所定の値に維持される。
【0039】
残量センサ48は、第2の液体16が収容されるタンク(不図示)の残量を検出し、検出信号(検出結果)をシステム制御部40へ送出する。システム制御部40は、タンクの残量が所定量を下回ると、不図示の報知部を介してその旨を報知する。
【0040】
バルブコントローラ50は、システム制御部40から送出される指令信号に基づいて、バルブ31,35の動作を制御する。バルブ31,35の開閉により複数の第1の開口24から選択的に第2の液体を湧き出させ、複数の第2の開口26から選択的に第2の液体を吸い込ませることができる。
【0041】
移動制御部52は、システム制御部40の指令信号に基づいて、層流発生面22とインクジェットヘッド10のノズル面12Aとの間のギャップ長が所定の値となるように、移動部54の動作を制御する。
【0042】
〔層流発生面の構造例〕
図5は、図2に示す洗浄装置20の層流発生面22の他の構造例を示す平面図である。同図に示す層流発生面22は、図3に図示した第1の開口24及び第2の開口26の配置密度の1/4となっている。すなわち、第1の開口24及び第2の開口26の配置密度は、十分な洗浄効果を得ることができれば、ノズル開口12Bの配置密度よりも粗くてもよい。
【0043】
図6(a),(b)は、図2に示す洗浄装置20における第2の液体16の層流16Aの方向切換を模式的に示す説明図である。図6(a)に示すように第1の開口24を湧出口とし、第2の開口26を吸込口としてもよいし、図6(b)に示すように第2の開口26を湧出口とし、第2の開口26を吸込口としてもよい。
【0044】
湧出口及び吸込口の切り換えは、ポンプ30,34の回転方向の切り換えにより実現することができる。このように、第2の液体16の流れ方向を反転させることで、第1の液体14と第2の液体16との間に生じるせん断応力の向きが反転し、第1の液体14の循環流14Aの方向が反転するので、ノズル12の内部に付着した汚れを除去する能力の向上が見込まれる。
【0045】
〔層流条件からの最大ギャップ長の見積もり〕
第2の液体16の流れが乱流になると、第1の液体14と第2の液体16との間に効率よくせん断応力を発生させることができないので、第2の液体16が層流となる条件(層流条件)から、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22とのギャップ長を導出する。
【0046】
まず、インクジェットヘッド10の吐出速度(インクジェットヘッド10から吐出させた第1の液体14の初速度)は、10メートル毎秒のオーダー(10メートル毎秒から15メートル毎秒程度)である。そうすると、ノズル12の内部の第1の液体14に発生させる循環流14Aの流速がインクジェットヘッド10の吐出速度以上であれば、ノズル12の内部(内壁)に付着した汚れを除去することが可能と考えることができる。
【0047】
つまり、通常の吐出によりノズル12の内部の汚れが排出されると考えれば、第1の液体14の循環流14Aに対して、ノズル12の内部の汚れを動かすことができる速度を与えることができればよいと考えることができる。
【0048】
ノズル12の内部の第1の液体14の循環流14Aの流速は、第2の液体のせん断速度をUとすると、せん断速度Uは、次式(1)により表される。
【0049】
【数1】

【0050】
第2の液体16の密度ρを1000キログラム毎立方メートル、粘性抵抗μを1.0×10‐3パスカル秒とすると、レイノルズ数Reは、次式(2)と表される。
【0051】
【数2】

【0052】
ここで、上記式(2)のhは、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との間のギャップ長の代表長さ(第2の液体16の流れに最も影響を与える長さ)である。
【0053】
一方、せん断応力を効率的に発生させるためには、乱流による散逸は回避しなければならない。第2の液体16が層流となる条件は、第2の液体16のレイノルズ数ReがRe<2300を満たす場合であるから、上記(2)により求められた第2の液体16のレイノルズ数Reは、次式(3)を満たす。
【0054】
【数3】

【0055】
上記式(3)から、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22とのギャップ長の代表長さh(マイクロメートル)を求めると、h≪230(マイクロメートル)となる。なお、第2の液体16の流れを平行平板流れと考えると、上記式(2)のhが2×hとなり、h≪115(マイクロメートル)となる。
【0056】
すなわち、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との間のギャップ長hを大きくすると、第2の液体16の流れが乱流となり好ましくない。したがって、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との間に乱流を発生させないように、上記式(1)から(3)に基づいて、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22とのギャップ長が決められる。
【0057】
なお、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との間のギャップ長hは、第2の液体16の物性に依存するので、予め第2の液体16の種類(物性)ごとに、ギャップ長hを求めて、所定のメモリ(例えば、図4のメモリ42)に記憶しておくとよい。
【0058】
〔等価回路法による適正ギャップ長の見積もり〕
次に、等価回路法による、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との間の適正ギャップ長について検討する。図7は、図2に示す洗浄装置20の等価回路図である。なお、図7中、図2と同一又は類似する部分には同一の符号を付すものとする。
【0059】
インクジェットヘッド10のノズル面12Aと層流発生面22との間のギャップを小さくすると、第2の液体16に作用する流路抵抗が増加する。先に説明した最大ギャップ長hの条件を満たしつつ、現実に圧力を発生させることができるかを検討する。
【0060】
図7において、第1の開口24から第2の開口26へ第2の液体16が流れるものとし、第1の流路28、第2の流路32の流路抵抗をR、インクジェットヘッド10のノズル面A12と層流発生面22との間のギャップの流路抵抗をR、第1の流路28の圧力を基準(GND)として、第1の開口24の圧力をPA1、第2の開口26の圧力をPA2、第2の流路32の圧力を−Pとする。
【0061】
インクジェットヘッド10のノズル面A12と層流発生面22との間のギャップ長をh、第1の開口24の中心と第2の開口26の中心との距離をΔxとする。
【0062】
質量保存の法則より、第1の開口24から湧き出させる流量と第2の開口から吸い込まれる流量との関係は、次式(4),(5)を満たす。
【0063】
【数4】

【0064】
【数5】

【0065】
すなわち、第1の開口24から湧き出させる流量と第2の開口から吸い込まれる流量との総和はゼロになる。上記式(4),(5)から、第1の開口24の圧力PA1は次式(6)で表され、第2の開口26の圧力PA2は、次式(7)で表される。
【0066】
【数6】

【0067】
【数7】

【0068】
したがって、第1の開口24の圧力Pから第2の開口26の圧力を減算して求められる圧力Pは、次式(8)で表される。
【0069】
【数8】

【0070】
ここで、第1の流路28内及び第2の流路32内の流れがハーゲンポアユイズ流と仮定すると、第1の流路28及び第2の流路32の流路抵抗Rは、次式(9)で表される。
【0071】
【数9】

【0072】
上記式(9)におけるAは、第1の流路28及び第2の流路32の断面積(平方メートル)である。また、ギャップ内の面内流は平面ポアユイズと仮定すると、ギャップ内の流路抵抗Rは、次式(10)で表される。
【0073】
【数10】

【0074】
なお、上記式(10)におけるΔyは、第1の開口24から第2の開口26へ向かう方向(Δxの方向)と直交する方向の第2の液体16の流れの幅(図7において紙面を貫く方向の長さ)である。
【0075】
したがって、ギャップ内の圧力差ΔPは、次式(11)により表される。
【0076】
【数11】

【0077】
上記式(11)で表される圧力差ΔPによる第2の液体16の流速Qは、次式(12)により表される。
【0078】
【数12】

【0079】
上記式(12)により表される流速Qが、インクジェットヘッド10の吐出速度(10メートル毎秒のオーダー)を超えていれば、ノズル12の内部の第1の液体14に発生させる循環流により、ノズル12の内部に付着した汚れを排除しうる。上記(12)により表される流速Qを線速qに変換すると、次式(13)により表される。
【0080】
【数13】

【0081】
上記(13)により表される第2の液体16の線速qは、ギャップ長hに関して最大値を持つ関数であり、図8のようになり、ギャップ長hの最大値hmaxは、次式(14)により表される。
【0082】
【数14】

【0083】
例えば、Δx=700(マイクロメートル)、Δy=300(マイクロメートル)、第2の液体16の粘性抵抗μを1.0(パスカル秒)、第1の開口24(第1の流路28)の半径(=第2の開口26(第2の流路32)の半径)r=100(マイクロメートル)、第1の流路28の長さ(=第2の流路32の長さ)l=500(マイクロメートル)、発生圧力P=60(キロパスカル)とすると、ギャップ長hの最大値hmaxは約130(マイクロメートル)、その時の第2の液体16の線速度qの値(最大値qmax)は40メートル毎秒となる。
【0084】
上記した条件下において、130マイクロメートルよりもギャップ長を小さくすると、粘性のため(流路抵抗Rの増加のため)流路そのものが不足してしまう。一方。130マイクロメートルよりもギャップ長を大きくすると、h×Δyの断面(図7参照)において線速qが低下してしまう。
【0085】
ここで、インクジェットヘッド10のノズル面12Aや、洗浄装置20の層流発生面22はある程度たわみが生じていると考えられるので、そのたわみに対応するギャップ長を有していないと、ノズル面12Aと層流発生面22が干渉(衝突)してしまう。
【0086】
そうすると、ギャップ長hを最大値hmaxとし、かつ、線速度qが最大値qmaxとなる条件を適用すると、好ましいノズル面12A及びノズル12の内部の洗浄が実現される。
【0087】
例えば、第1の開口24(第1の流路28)及び第2の開口26(第2の流路32)の半径rを大きくする、第1の流路28及び第2の流路32の長さlを短くする、第1の開口24と第2の開口26との中心間距離Δx,Δyを小さくする、圧力Pを大きくすることが挙げられる。
【0088】
つまり、第1の流路28の流路抵抗R、第2の流路32の流路抵抗Rをできるだけ下げること、又はギャップの流路抵抗Rを下げることが有効である。
【0089】
本例に適用可能な洗浄液は、水(純水)でもよいし、所定の洗浄機能を発揮させるための成分を含有していてもよい。また、第1の開口24及び第2の開口26から流出させることができるように、粘度等の物性値が適宜調整される。
【0090】
上記の如く構成された洗浄装置20によれば、インクジェットヘッド10のノズル面12A間に第2の液体16による層流16Aを接触させると、ノズル12の内部の第1の液体14にキャビティ流れ(循環流)14Aを発生させることができる。
【0091】
第1の液体14の循環流14Aの流速がインクジェットヘッド10の吐出速度以上となるように、第2の液体16の層流16Aが調整され、インクジェットヘッド10のノズル面12Aと、洗浄装置20の層流発生面22とのギャップ長が調整されるので、ノズル12の内部の汚れが除去される。
【0092】
本例では、インクジェットヘッドの全ノズルについて一括して洗浄処理が施される形態を例示したが、インクジェットヘッド全ノズルを複数の区画に分割し、区画ごとに洗浄処理が施される形態も可能である。
【0093】
例えば、複数のヘッドユニットをつなぎ合わせて長尺のインクジェットヘッドが構成されている場合、1つのヘッドユニットに対応する層流発生面22を備え、ヘッドユニット単位で洗浄処理が施される形態がありうる。
【0094】
かかる態様では、複数の洗浄装置を用いて一括して洗浄処理を施してもよいし、洗浄装置とインクジェットヘッドとを相対的に移動させながら、ヘッドユニットごとに順次洗浄処理を施してもよい。
【0095】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る洗浄装置60について説明する。図9は、本発明の第2実施形態に係る洗浄装置60の層流発生面62の構造を示す平面図である。以下に説明する洗浄装置60は、層流発生面62に規制部材63A,63Bが設けられている点で、先に説明した洗浄装置20と相違しており、他の構成は上記の洗浄装置20と同一にすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0096】
図9に示す洗浄装置60は、第2の液体の層流16Aの方向を規制して、第1の開口24から第2の開口26へ向かわせる。すなわち、第1の開口24の周囲を囲むように規制部材63Aが2つ、規制部材63Bが2つ形成され、この4つの規制部材63A,63Bの間の隙間を第2の液体が通過する。
【0097】
図9に示す規制部材63A及び規制部材63Bは、隣り合う第1の開口24同士の間に設けられるとともに、互いに交差する方向に沿って形成されている。図9に示す例では、規制部材63Aと規制部材63Bは直交する方向に沿って形成される。
【0098】
規制部材63A,63Bの高さは、ノズル面12Aと層流発生面22とのギャップ長未満とされ、規制部材63A,63Bがノズル面12Aに接触しないように構成されている。
【0099】
規制部材63A,63Bは、第2の液体に対する耐久性を有し、かつ、第2の液体の層流16Aにより変形しない形状、サイズ等を有している。規制部材63A,63Bに適用される材料には、金属材料、樹脂材料が挙げられる。
【0100】
図10は、他の構造例に係る層流発生面62‘を示す平面図である。同図に示す層流発生面62’は、規制部材63’が所定の一方向に沿って形成されている。また、図11は、さらに他の構造例に係る層流発生面62”を示す平面図であり、図10に示す規制部材63’と直交する方向に沿って形成されている。
【0101】
図9から図11には、直線形状の規制部材63(63’,63”)を例示したが、図12に示すように、洗浄装置80の層流発生面82に中空の矩形形状を有する規制部材83を備える態様も可能である。
【0102】
すなわち、層流発生面22に形成される規制部材63は、第1の開口24から第2の開口26へ向かう第2の液体の層流16Aに乱れが生じないように、所定の形状を有し、所定の配置パターンに従って配置される。
【0103】
また、ノズル面12Aと層流発生面22と間のギャップにおける流路抵抗が増加しないように、かつ、ノズル面12Aと層流発生面22の規制部材63が接触しないように、形状及び配置、材料等が決められている。
【0104】
なお、図9から図11に図示された規制部材63,63’,63”,83を適宜組み合わせてもよい。
【0105】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図13は、第3実施形態に係る洗浄方法(装置)を模式的に示す概念図である。なお、以下の説明において、先の説明と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0106】
第3実施形態に係る洗浄方法は、図6(a),(b)を用いて説明した第2の液体の流れ方向の切り換えに代わり、インクジェットヘッド10及び層流発生面22の少なくともいずれか一方を相対的に1格子分移動させ、1つのノズル開口12Bに作用させる第2の液体16の流れ方向を90°ごとに切り換えている。
【0107】
図13(a)に示す状態は、図6(a)に示す状態と同じ状態であり、破線により図示したノズル12には、第1の開口24‐1から第2の開口26‐1へ向かう方向へ第2の液体16の層流が作用する。
【0108】
次に、図13(b)に示す状態になるように、インクジェットヘッド10及び層流発生面22の少なくともいずれか一方を相対的に1格子分移動させる。かかる状態では、ノズル12には、第1の開口24‐1から第2の開口26‐3に向かう方向へ第2の液体16の層流が作用する。そうすると、第2の液体16の層流は、図13(a)に図示した第2の液体16の層流の方向に対して90°回転させた方向へ流れる。
【0109】
さらに、図13(c)に図示する状態になるように、インクジェットヘッド10及び層流発生面22の少なくともいずれか一方を相対的に1格子分移動させると、ノズル12には、第1の開口24‐1から第2の開口26‐2へ向かう方向へ第2の液体16の層流が作用する。
【0110】
さらにまた、図13(d)に図示する状態になるように、インクジェットヘッド10及び層流発生面22の少なくともいずれか一方を相対的に1格子分移動させると、ノズル12には、第1の開口24‐1から第2の開口26‐4へ向かう方向へ第2の液体16の層流が作用する。
【0111】
このように、第2の液体16の層流の流れ方向を90°ごとに順次回転させることで、第1の液体14に発生させる循環流14Aの方向を90°ごとに順次回転させることができ、ノズル12の内部に付着した汚れに対して4つの方向から第1の液体14の循環流14Aが作用するので、汚れの除去効率の向上が見込まれる。
【0112】
図13(a)から(d)に図示したインクジェットヘッド10と層流発生面22との相対移動は、ノズル面12A及び層流発生面22と平行な面内に存在する2方向(例えば、x方向、y方向)について行われてもよいし、インクジェットヘッド10及び洗浄装置20’(層流発生面22)の少なくともいずれか一方を、ノズル面12A及び層流発生面22と平行な面内において回転させてもよい。
【0113】
すなわち、本例に示す洗浄装置20’は、インクジェットヘッド10と洗浄装置20’(層流発生面22)とを相対的に移動させる移動部と、該移動部の動作を制御する制御部と、を備えて構成される。
【0114】
〔インクジェット記録装置への適用例〕
次に、洗浄装置20(20’、60)のインクジェット記録装置への適用例について説明する。
【0115】
(全体構成)
図14は、洗浄装置20(20’、60)を具備するインクジェット記録装置100の全体構成図である。同図に示すインクジェット記録装置100は、記録媒体102を保持して搬送する記録媒体搬送部104と、記録媒体搬送部104に保持された記録媒体102に対して、K(黒)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)に対応するカラーインクを吐出させるインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを含む印字部107と、を含んで構成されている。
【0116】
なお、図14に示すインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yのそれぞれは、図1のインクジェットヘッド10に対応している。
【0117】
記録媒体搬送部104は、記録媒体102が保持される記録媒体保持領域に多数の吸着穴(不図示)が設けられた無端状の搬送ベルト108と、搬送ベルト108が巻き掛けられる搬送ローラ(駆動ローラ、従動ローラ)110,112と、記録媒体保持領域の搬送ベルト108の裏側(記録媒体102が保持される記録媒体保持面と反対側の面)に設けられ、記録媒体保持領域に設けられた不図示の吸着穴に負圧を発生させるチャンバー114と、チャンバー114に負圧を発生させる真空ポンプ116と、を含んでいる。
【0118】
記録媒体102が搬入される搬入部118には、記録媒体102の浮きを防止するための押圧ローラ120が設けられるとともに、記録媒体102が排出される排出部122にもまた、押圧ローラ124が設けられている。
【0119】
搬入部118から搬入された記録媒体102は、記録媒体保持領域に設けられた吸着穴から負圧が付与され、搬送ベルト108の記録媒体保持領域に保持される。
【0120】
記録媒体102の搬送路上には、印字部107の前段側(記録媒体搬送方向上流側)に、記録媒体102の表面温度を所定範囲に調整するための温度調節部126が設けられるとともに、印字部107の後段側(記録媒体搬送方向下流側)に、記録媒体102上に記録された画像を読み取る読取装置(読取センサ)128が設けられている。
【0121】
搬入部118から搬入された記録媒体102は、搬送ベルト108の記録媒体保持領域に吸着保持され、温度調節部126による温度調節処理が施された後に、印字部107において画像記録が行われる。
【0122】
画像記録がされた記録媒体102は、読取装置128によって記録画像(テストパターン)が読み取られた後に、排出部122から排出される。
【0123】
図14に図示は省略するが、インクジェット記録装置100はインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを洗浄するための洗浄装置20(図2参照)を備えている。洗浄装置20は、印字部107の記録媒体搬送方向と直交する方向について、印字部107から離れた位置に配置される。
【0124】
(印字部の構成)
印字部107に具備されるインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yは、記録媒体102の全幅を超える長さにわたって複数のノズルが配置されたフルライン型のインクジェットヘッドである。
【0125】
図14に示すインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yは、記録媒体搬送方向の上流側からこの順番で配置されている。フルライン型のインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yと記録媒体102とを相対的に一回だけ移動させるシングルパス方式により、記録媒体102全域にわたって記録画像を記録することができる。
【0126】
なお、印字部107は上述した形態に限定されない。例えば、LC(ライトシアン)やLM(ライトマゼンタ)に対応するインクジェットヘッド106を具備してもよい。また、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yの配置順も適宜変更可能である。
【0127】
図14に示すインクジェット記録装置100は、不図示のインク供給部を具備している。インク供給部は、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yに供給されるインクを貯蔵するインクタンクを色ごと(ヘッドごと)に備えている。色ごとのインクタンクのそれぞれとインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yとは、不図示のインク供給路により連通されている。
【0128】
また、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yの吐出方式は、圧電素子の撓み変形を利用する圧電方式や、インクの膜沸騰現象を利用するサーマル方式などが適用される。
【0129】
(メンテナンス処理部の説明)
図15は、図14に示すインクジェット記録装置100における印字部107とメンテナンス処理部130との配置関係を示す説明図である。図15に示すように、メンテナンス処理部130は、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを記録媒体搬送部104上の画像形成位置から、記録媒体102の搬送方向と略直交する方向に水平移動させた位置に配置されている。
【0130】
メンテナンス処理部130は、図1から図13を用いて説明した洗浄装置20と、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yに対して吸引処理及びパージ処理を施すキャップ部132と、を備えて構成されている。図15では、1ヘッド分の洗浄装置20及びキャップ部132が図示されているが、洗浄装置20及びキャップ部132はインクジェットヘッドごとに、インクジェットヘッドの数だけ設けられている。
【0131】
インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを画像形成位置からメンテナンス位置へ移動させるには、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを記録媒体搬送部104上の画像形成位置から一旦上方へ退避させ、さらに、記録媒体102の搬送方向と直交する方向へ水平移動させる。インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yが洗浄装置20の処理領域に到達すると、洗浄装置20を上方へ移動させて(又は、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを下方へ移動させて)、ノズル面12A(図1参照)の洗浄処理が実行される。
【0132】
ノズル面12Aの洗浄処理が終了すると、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yをキャップ部132の処理領域へ移動させ、ノズル面12Aにキャップ部132を密着させて、吸引処理又パージ処理が実行される。
【0133】
キャップ部132は、排出流路134を介して廃インクタンク136と連通され、排出流路134には、ポンプ138が設けられる。ノズル面12Aにキャップ部132を密着させ状態でポンプ138を動作させると、ノズルを介してインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Y内のインクが吸引される。
【0134】
このようにして、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yのメンテナンス処理が終了すると、インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yは画像形成位置に移動する。
【0135】
インクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yを上下方向及び水平方向へ移動させる移動機構には、周知技術の水平搬送機構、上下搬送機構を適用することができる。
【0136】
(制御系の構成)
図16は、インクジェット記録装置100の制御系の概略構成を示すブロック図である。同図に示すように、インクジェット記録装置100は、通信インターフェース170、システム制御部172、搬送制御部174、画像処理部176、ヘッド駆動部178を備えるとともに、画像メモリ180、ROM182を備えている。
【0137】
通信インターフェース170は、ホストコンピュータ184から送られてくるラスター画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース170は、USB(Universal Serial Bus)などのシリアルインターフェースを適用してもよいし、セントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用してもよい。通信インターフェース170は、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
【0138】
システム制御部172は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能し、さらに、画像メモリ180及びROM182のメモリコントローラとして機能する。
【0139】
すなわち、システム制御部172は、通信インターフェース170、搬送制御部174等の各部を制御し、ホストコンピュータ184との間の通信制御、画像メモリ180及びROM182の読み書き制御等を行うとともに、上記の各部を制御する制御信号を生成する。
【0140】
ホストコンピュータ184から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、画像処理部176によって所定の画像処理が施される。
【0141】
画像処理部176は、画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号(画像)処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッド駆動部178に供給する制御部である。
【0142】
画像処理部176において所要の信号処理が施されると、該印字データ(ハーフトーン画像データ)に基づいて、ヘッド駆動部178を介してインクジェットヘッド140(図14のインクジェットヘッド106K,106C,106M,106Yをまとめて図示)の吐出液滴量(打滴量)や吐出タイミングの制御が行われる。
【0143】
これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。なお、図16に示すヘッド駆動部178には、インクジェットヘッド140の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0144】
搬送制御部174は、画像処理部176により生成された印字データに基づいて記録媒体102(図14参照)の搬送タイミング及び搬送速度を制御する。図14における搬送駆動部186は、記録媒体102を搬送する記録媒体搬送部104の駆動ローラ110(112)を駆動するモータが含まれており、搬送制御部174は該モータのドライバーとして機能している。
【0145】
画像メモリ(一時記憶メモリ)180は、通信インターフェース170を介して入力された画像データを一旦格納する一時記憶手段としての機能や、ROM182に記憶されている各種プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域(例えば、画像処理部176の作業領域)としての機能を有している。画像メモリ180には、逐次読み書きが可能な揮発性メモリ(RAM)が用いられる。
【0146】
ROM182は、システム制御部172のCPUが実行するプログラムや、装置各部の制御に必要な各種データ、制御パラメータなどが格納されており、システム制御部172を通じてデータの読み書きが行われる。ROM182は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。また、外部インターフェースを備え、着脱可能な記憶媒体を用いてもよい。
【0147】
メンテナンス制御部188は、図4に示した構成を適用することができる。図4に示した構成に加えて、インクジェットヘッド140の、画像形成位置とメンテナンス位置との間の移動を制御するインクジェットヘッド移動制御部を備えている。
【0148】
さらに、メンテナンス制御部188は、インクジェットヘッド140の位置を検出する検出部を備え、インクジェットヘッド140の位置に応じて洗浄装置20の動作が制御される。
【0149】
パラメータ記憶部190は、インクジェット記録装置100の動作に必要な各種制御パラメータが記憶されている。システム制御部172は、制御に必要なパラメータを適宜読み出すとともに、必要に応じて各種パラメータの更新(書換)を実行する。
【0150】
プログラム格納部192は、インクジェット記録装置100を動作させるための制御プログラムが格納されている記憶手段である。システム制御部172(又は装置各部)は、装置各部の制御を実行する際にプログラム格納部192から必要な制御プログラムが読み出され、該制御プログラムは適宜実行される。
【0151】
なお、図4のシステム制御部40は、図16のシステム制御部172と共通化することができ、図4のメモリ42は、図16のパラメータ記憶部190やプログラム格納部192と共通化することができる。
【0152】
なお、本発明の適用範囲は、記録媒体上にカラー画像を形成するインクジェット記録装置に限定されない。例えば、樹脂粒子や金属粒子を含有する機能性液体により、所定のパターン(マスクパターン、配線パターン)を形成するパターン形成装置なと、インクジェット方式により媒体上に液体を噴射させる液体吐出装置に広く適用することが可能である。
【0153】
〔付記〕
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す態様を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0154】
(第1態様):第1態様に係る洗浄装置は、インクジェットヘッドの第1の液体を吐出させる液体吐出面と対向させるプレート部材と、前記プレート部材の前記液体吐出面と対向させる層流発生面に第2の液体を供給する第2の液体供給手段と、前記液体吐出面と前記層流発生面との間に前記第2の液体の層流を発生させる層流発生手段と、を備え、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去している。
【0155】
第1態様によれば、ノズル内部の第1の液体と第2の液体の層流との間にせん断応力を発生させ、ノズル内部の第1の液体に循環流(キャビティ流れ)を発生させることで、液体吐出面やノズル内部に機械的なストレスを与えることなく、ノズル内部に付着した汚れを除去することができる。
【0156】
また、第2の液体の層流を液体吐出面に接触させることで、液体吐出面に機械的なストレスを与えることなく液体吐出面に付着した汚れを除去することができる。
【0157】
(第2態様):第2態様に係る洗浄装置は、前記層流発生手段は、前記第2の液体の流量を制御する流量制御手段と、前記層流発生面と前記液体吐出面との間の距離を調整するギャップ調整手段と、を備えている。
【0158】
かかる態様によれば、液体吐出面と層流発生面とのギャップとを調整し、第2の液体の流量を調整することで、層流発生面に好ましい第2の液体の層流を発生させうる。
【0159】
(第3態様):第3態様に係る洗浄装置は、前記第2の液体供給手段は、前記層流発生面に形成された第1の開口及び第2の開口を含み、前記流量制御手段は、前記第1の開口及び前記第2の開口の一方から湧き出させ、他方から吸い込まれる第2の液体の流量を制御している。
【0160】
かかる態様によれば、第2の液体の物性及び液体吐出面と層流発生面との間のギャップに応じて第2の液体の流量を制御することができ、好ましい第2の液体の層流を発生させることができる。
【0161】
かかる態様において、第1の開口は第1の流路を介して第1の圧力発生手段と接続され、第2の開口は第2の流路を介して第2の圧力発生手段と接続される形態がある。
【0162】
(第4態様):第4態様に係る洗浄装置は、前記流量制御手段は、前記一方から湧き出させる前記第2の液体の流量が、前記他方から吸い込ませる第2の液体の流量と同一になるように、前記第2の液体の流量を制御している。
【0163】
かかる態様によれば、第2の液体の流れが乱流になることが防止される。
【0164】
(第5態様):第5態様に係る洗浄装置は、前記第2の液体を前記一方から湧き出させ、前記他方から吸い込ませるか、前記他方から湧き出させ前記一方から吸い込ませるかを切り換える切換手段を備えている。
【0165】
かかる態様によれば、第2の液体の方向を反転させることで、第1の液体の循環流の方向を反転させることができ、ノズル内部に付着する汚れの除去効率が向上する。
【0166】
(第6態様):第6態様に係る洗浄装置は、前記第2の液体供給手段は、複数の前記第1の開口及び複数の前記第2の開口を含み、前記第1の開口と前記第2の開口が交互に配置される構造を有している。
【0167】
かかる態様によれば、第2の液体の層流を高密度に発生させることができ、様々なノズル配置を有するインクジェットヘッドに対応することが可能となる。
【0168】
(第7態様):第7態様に係る洗浄装置は、前記第1の開口及び前記第2の開口の配置密度は、前記インクジェットヘッドのノズル密度に対応し、前記第1の開口及び前記第2の開口の配置パターンは、前記インクジェットヘッドのノズル配置パターンに対応している。
【0169】
かかる態様によれば、インクジェットヘッドに具備される複数のノズルについて、一括して洗浄処理を施すことができる。
【0170】
(第8態様):第8態様に係る洗浄装置は、前記層流発生面は、前記層流発生面に発生させた層流の方向を規制する規制部材が形成される。
【0171】
かかる態様によれば、第2の液体の層流の流れ方向を規制して、ノズルに対して層流を確実に作用させることができる。
【0172】
(第9態様):第9態様に係る洗浄装置は、前記ギャップ調整手段は、前記層流発生面と前記液体吐出面との間の距離を前記第2の液体の層流の速度が最大となるように調整する。
【0173】
かかる態様によれば、第2の液体の層流の流速が最大となるように、前記層流発生面と前記液体吐出面との間のギャップを調整することで、効率のよい洗浄処理が実現される。
【0174】
(第10態様):第10態様に係る液体吐出装置は、インクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドを洗浄する洗浄装置と、を備え、前記洗浄装置は、前記インクジェットヘッドの第1の液体を吐出させる液体吐出面と対向させるプレート部材と、前記プレート部材の前記液体吐出面と対向させる層流発生面に第2の液体を供給する第2の液体供給手段と、前記液体吐出面と前記層流発生面との間に前記第2の液体の層流を発生させる層流発生手段と、を具備し、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去することを特徴とする。
【0175】
(第11態様):第11態様に係る液体吐出装置は、前記インクジェットヘッドの液体吐出面と前記洗浄装置の層流発生面とを、前記インクジェットヘッドの液体吐出面と平行な面内において相対的に移動させる移動手段を備えている。
【0176】
かかる態様によれば、インクジェットヘッドに具備されるノズル内部の第1の液体と第2の液体との間に発生させるせん断応力の向きを変えることができ、ノズル内部の第1の液体に発生させる循環流の向きを変えることできる。
【0177】
(第12態様):第12態様に係る洗浄方法は、インクジェットヘッドのノズルから吐出させる第1の液体の最大吐出速度以上の流速を有する第2の液体の層流を発生させ、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去している。
【符号の説明】
【0178】
10…インクジェットヘッド、12…ノズル、12A…ノズル面、12B…ノズル開口、14…第1の液体、14A…循環流、16…第2の液体、16A…層流、20,60,80…洗浄装置、22,62,82…層流発生面、24…第1の開口、26…第2の開口、40…システム制御部、63,63’,63”83…規制部材、100…インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドの第1の液体を吐出させる液体吐出面と対向させるプレート部材と、
前記プレート部材の前記液体吐出面と対向させる層流発生面に第2の液体を供給する第2の液体供給手段と、
前記液体吐出面と前記層流発生面との間に前記第2の液体の層流を発生させる層流発生手段と、
を備え、
前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去することを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記層流発生手段は、前記第2の液体の流量を制御する流量制御手段と、
前記層流発生面と前記液体吐出面との間の距離を調整するギャップ調整手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記第2の液体供給手段は、前記層流発生面に形成された第1の開口及び第2の開口を含み、
前記流量制御手段は、前記第1の開口及び前記第2の開口の一方から湧き出させ、他方から吸い込まれる第2の液体の流量を制御することを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記流量制御手段は、前記一方から湧き出させる前記第2の液体の流量が、前記他方から吸い込ませる第2の液体の流量と同一になるように、前記第2の液体の流量を制御することを特徴とする請求項3に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記第2の液体を前記一方から湧き出させ、前記他方から吸い込ませるか、前記他方から湧き出させ前記一方から吸い込ませるかを切り換える切換手段を備えたことを特徴とする請求項3又は4に記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記第2の液体供給手段は、複数の前記第1の開口及び複数の前記第2の開口を含み、
前記第1の開口と前記第2の開口が交互に配置される構造を有することを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記第1の開口及び前記第2の開口の配置密度は、前記インクジェットヘッドのノズル密度に対応し、前記第1の開口及び前記第2の開口の配置パターンは、前記インクジェットヘッドのノズル配置パターンに対応していることを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項8】
前記層流発生面は、前記層流発生面に発生させた層流の方向を規制する規制部材が形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項9】
前記ギャップ調整手段は、前記層流発生面と前記液体吐出面との間の距離を前記第2の液体の層流の速度が最大となるように調整することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項10】
インクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドを洗浄する洗浄装置と、
を備え、
前記洗浄装置は、前記インクジェットヘッドの第1の液体を吐出させる液体吐出面と対向させるプレート部材と、
前記プレート部材の前記液体吐出面と対向させる層流発生面に第2の液体を供給する第2の液体供給手段と、
前記液体吐出面と前記層流発生面との間に前記第2の液体の層流を発生させる層流発生手段と、
を具備し、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項11】
前記インクジェットヘッドの液体吐出面と前記洗浄装置の層流発生面とを、前記インクジェットヘッドの液体吐出面と平行な面内において相対的に移動させる移動手段を備えたことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
インクジェットヘッドのノズルから吐出させる第1の液体の最大吐出速度以上の流速を有する第2の液体の層流を発生させ、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記ノズルの内部の前記第1の液体に接触させて、前記ノズルの内部の前記第1の液体と前記第2の液体の層流との間に生じるせん断応力により前記ノズルの内部に前記第1の液体の循環流を発生させて、前記ノズルの内部の汚れを除去するととともに、前記発生させた前記第2の液体の層流を前記インクジェットヘッドの液体吐出面に接触させて、前記液体吐出面に付着している汚れを除去することを特徴とするインクジェットヘッドの洗浄方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2013−67056(P2013−67056A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206318(P2011−206318)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】