説明

津波からの避難通路。

【課題】きわめて簡易で、かつ通常の生活に支障をきたさない、津波からの避難通路を提供する。
【解決手段】第1の張り出し部材と、第2の張り出し部材を緩衝装置を介在させて連結して柱結合体を形成する。この柱結合体の下を通路とする。通路を横断する方向の柱結合体を、通路に沿って多数本設置する。柱結合体と柱結合体の間に捕捉材を張り渡す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や高潮そのものの内陸への上陸を阻止するのではなく、津波あるいは高潮による漂流物が人体に与える損害を阻止できる避難通路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波が発生すると、住宅や都市の機能、そして多くの人命に甚大な被害を及ぼす。
そのような被害の発生を防止するために従来は津波そのものの内陸への上陸を阻止することを目的に、防波堤の形状の工夫、消波ブロックの改良、防波堤のかさ上げ、膨大な延長の防波堤の設置、といった技術が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−100231号公報
【特許文献2】特開2002−61151号公報
【特許文献3】特開2000−282434号公報
【特許文献4】特開平7−113217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような従来の技術は津波の上陸そのものを、巨大な剛体で阻止しようとする発想である。
しかし全海岸線に巨大な防波堤を設けるわけには行かないから、津波の上陸を阻止できない場合も必ず発生する。
もしいったん上陸してしまったら、津波は膨大な漂流物を押し流すが、そのような漂流物から人々を避難させる技術は開発されていない。
さらに具体的に説明すると、津波は陸上に上がると内陸に数キロまで遡上する場合がある。
その際に、津波によって漁船、木材、いかだ、自動車、コンテナ、クレンのような港湾施設などの巨大な漂流物が押し流される。
津波の漂流物による被害は、人家などの多い平野部においては内陸に数キロにわたって遡上して被害を拡大する。
その結果、波の力だけではなく、巨大な漂流物群によって家屋や倉庫、各種の施設が破壊され、それらによって多くの人体が傷つけられることが分かっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の津波からの避難通路は、津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、通路の一側から通路の上空に向けて張り出した第1の張り出し部材と、通路の他側から通路の上空に向けて張り出した第2の張り出し部材とより構成し、両張り出し部材間を、通路上空で結合して柱結合体を形成し、この柱結合体下を通路とし、通路に沿って、通路横断方向に、この柱結合体を適宜間隔で配置したことを特徴としたものである。
また、本発明の津波からの避難通路は、津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、通路の一側から通路の上空に向けて張り出した第1の張り出し部材と、通路の他側から通路の上空に向けて張り出した第2の張り出し部材とより構成し、両張り出し部材間を、緩衝部材を介挿させて通路上空で結合して柱結合体を形成し、この柱結合体下を通路とし、
通路に沿って、通路横断方向に、この柱結合体を適宜間隔で配置したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の津波からの避難通路は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 津波のエネルギーを城壁のような巨大で強固な構造物によって跳ね返すのではなく、海水の上陸は許してしまい、漂流物の移動によって人体が損傷を受けることだけを阻止する構造物である。そのためにきわめて簡易な構造によって目的を達成することができる。
<2> 津波が上陸してきた場合の漂流物から避難するだけの構造物であるから、津波自体のエネルギーによる破壊は阻止できない。しかし実際に人体に損傷を与えている大きな原因は漂流物の衝突であるから、この漂流物の移動を阻止する簡易な構造物によって人体への損害を大幅に低減することができる。
<3> 津波による被害は、上陸してきた津波によるだけではなく、海水が引き上げる際の漂流物が人体へ与える被害も大きい。その場合に、本発明では陸上側から引き波によって移動する漂流物による人体への損傷も阻止する構造であるから、海水が往復することによる人体への被害を大幅に低減することができる。
<4> コンクリートブロックのような強固な構造物で津波のエネルギーを跳ね返す構造ではないから、津波によって漂流してくる漁船などを穏やかに補足することができ、高価な漂流物自体の破損、損害を低減することができる。
<5> 津波を岸壁の前面で阻止する構造物を設置するには、津波のエネルギーが巨大であることから膨大な費用を要する。しかし津波は上陸した後にはエネルギーが減少して高さが2〜3メートルで人が走る程度の速度になるため、簡易な構造により、経済的な費用で対応することが可能である。
<6> 海岸の住民が高台へ逃げるまでに避難者が漂流物によって負傷する可能性が高い。しかし強固で高価な避難路を、発生の可能性の低い津波のために設置することは現実的ではない。その点、本発明の構造物はきわめて簡易であり、かつ通常の生活に支障をきたすことがなく、景観に影響を与えることも少ないから、避難路として簡単に採用することができる。
<7> 以上の本発明の効果は、津波発生時だけでなく、高潮の発生時にも同様に期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0008】
<1>全体の構成。
本発明の構造物は、多数の柱結合体1を通路に沿って、通路横断方向に向けて設置することによって、その下を避難通路として構成する構造である。
【0009】
<2>張り出し部材。
柱結合体1は、二つの張り出し部材によって構成する。
すなわち第1の張り出し部材1aと、第2の張り出し部材1bである。
張り出し部材とは、通路の一側から通路の上空に向けて張り出した部材のことである。
第1の張り出し部材1aも第2の張り出し部材1bも、U字を中央から半分に切断したようなアーチ状の外観を呈する。(図1の実施例)
あるいは第1の張り出し部材1aも、第2の張り出し部材1bも、L字型の外観を呈する。(図2の実施例)
あるいは両者を組み合わせることもできる。
各張り出し部材は鋼製の丸パイプ、角パイプ部材その他の公知の材料によって構成する。
しかし各張り出し部材の形状は図の実施例に限定するものではなく、二つを合成して柱結合体1を形成するものであれば各種の形状のものを採用することができる。
【0010】
<3>柱結合体1の構造。
柱結合体1を構成するには、第1の張り出し部材を通路の一側から通路の上空にむけて張り出す。
通路の他側から通路の上空に向けて第2の張り出し部材を張り出す。
こうして張り出した両張り出し部材の間を、通路上空で結合してほぼ逆U字状の柱結合体1、あるいは門構え状の柱結合体1を形成する。
そしてこの柱結合体1の下を避難通路として利用する。
柱結合体1の寸法として例えば、幅が4m程度、高さが3.5mから4.5m程度のものが想定できるが、その寸法に限定するものではない。
【0011】
<4>緩衝装置2。
第1の張り出し部材1aと第2の張り出し部材1bとを連結する場合に、その中間には緩衝装置2を介在させて連結して、柱結合体1を形成することもできる。
緩衝装置2とは例えばバネ、エアダンパー、油圧ダンパー、ゴム板の積層、など公知の衝撃吸収部材を利用する。
第1の張り出し部材1aと第2の張り出し部材1bとの間に緩衝装置2が介在することで、一方の張り出し部材に側方から作用した衝撃は、緩衝装置2でエネルギーを変換して吸収され、他方の張り出し部材へ伝達することになる。
【0012】
<5>柱結合体の設置。
以上のように構成した柱結合体1の下を避難通路として使用する。
すなわち避難通路を横断する方向に向けて、通路に沿って多数の柱結合体1を立て、その下を避難通路として構成する。
避難する人は、ちょうど神社の参道に並んだ多数の鳥居群の下をくぐるような状況でその下を走って避難する。
柱結合体1の設置間隔は特に特定するものではないが、例えば漁船やボート程度の大型の漂流物を柱結合体1と柱結合体1との間で捕捉することを考慮すると1〜2m程度であることが望ましい。
柱結合体1を等間隔で配置して避難通路を形成するが、一群の柱結合体1と、次の一群の柱結合体1との間に間隔を設ける場合もある。
避難通路の周囲は柱結合体1と捕捉材3群によって包囲されているから、万一、水位が高くなった場合に包囲されている空間から脱出できないと本末転倒になる。
そこで一群の柱結合体1群と、次の柱結合体1群との間に間隔を空けておき、万一避難通路が水で満たされた場合に、そこから泳いで離脱するためのものである。また、一群の柱結合体1群と、次の柱結合体1群との間の隙間から避難通路に進入することも可能となる。
【0013】
<6>捕捉材3の設置。
ひとつの柱結合体1と、その前方の柱結合体1の間に複数本のワイヤ、PC鋼より線、鋼材の鋼材などで構成した線状の捕捉材3を張り渡す。
張り渡す高さは、各柱結合体1のほぼ同一の高さであり、複数本の捕捉材3は地表面にほぼ平行に張り渡されることになる。
なお、基本的には捕捉材3と捕捉材3の間隔は等しく構成するが、一部では捕捉材の間隔を広げておき、増水時に捕捉材の隙間から脱出可能に構成することもできる。
これは避難通路の周囲は柱結合体1と捕捉材3によって包囲されているから、津波や高潮の水位がその天井部分まで及んだときには避難通路から外部へ泳いで逃げた方がよい場合があり、ワイヤや棒状部材などの捕捉材3の間隔を一部だけ広げておくのはそのための対策である。
【0014】
<7>捕捉材3の機能。
柱結合体1と柱結合体1の間に張り渡した捕捉材3には上下方向に間隔があるから、捕捉材3間は水が透過することが可能である。
したがって津波の波浪の通過を阻止するものではない。
しかし捕捉材3の間隔を適当に配置することによって、捕捉材3に漂流物を捕捉する捕捉機能を与えることができる。
たとえば漁船や丸太が津波によって上陸してきた場合に、大型の漂流物は柱結合体1と柱結合体1との間隔で捕捉し、小型の漂流物は、捕捉材3と捕捉材3との間隔で捕捉することができる。
その結果、柱結合体1と捕捉材3群によって囲まれた通路への漂流物の侵入を阻止することができる。
また捕捉材3として、鋼棒ではなくPC鋼線やワイヤを採用した場合には大きく変形することができるから、その緩衝機能によって漁船などの衝撃を吸収して受け止めることができ、漁船などを破壊せずに捕捉することが可能となる。
【0015】
<8>捕捉材3の間隔。
柱結合体1と柱結合体1の間に張り渡した捕捉材3の間隔は均等でもよいが、津波の移動方向にあわせて使い分けることも可能である。
例えば柱結合体1で囲まれた避難通路が、海岸線と平行である場合には、津波の来襲してくる方向が明確である。
その場合には海側に配置する捕捉材3、すなわち海側からの漂流物を捕捉する捕捉材3はその上下の間隔は広く設定する。
一方、陸側に配置する捕捉材3、すなわち陸側からの漂流物を捕捉する捕捉材3の上下の間隔は狭く設定する。
これは、海側からは大きな漁船や丸太などが上陸してくるから、それらを捕捉するためには捕捉材3の上下の間隔が広くてよいからである。
一方、津波の引き波によって陸側から海側へ移動する漂流物は家屋の破壊片、自転車、家財道具など、比較的小さい物体が多いから、捕捉材3の上下の間隔を狭くする必要があるためである。
【0016】
<9>その他の付帯設備。
柱結合体1と柱結合体1の間に、各柱結合体1のほぼ同一の高さで、手摺4を取り付けることも可能である。
柱結合体1の間に手摺4があると、避難時に津波の襲撃を受けた避難者は、手摺4につかまって津波の水圧に耐えることができる。
柱結合体1と柱結合体1の間の天井部、あるいは一定の高さの位置に床板5を取り付けることもできる。
床板5が各柱結合体1のほぼ同一の位置に取り付けてあれば、避難者は床板5を廊下としてその上を走行して避難することができる。
その場合には、柱結合体1に床板5に至る梯子を取り付けておき、その梯子を利用して床板5の上に登ることになる。
【0017】
<10>梁を介在させる構造。
以上の説明は、第1の張り出し部材と第2の張り出し部材の自由端を緩衝装置を介在させて連結した構成である。
しかし、第1の張り出し部材と第2の張り出し部材とを平面的に位置をずらし、その間に梁6を介在させる構造を採用することも可能である。(図5)
すなわち、避難通路に平行に、通路の上空に梁6を配置し、この梁6に向けて第1の張り出し部材、および第2の張り出し部材の自由端を取り付ける構成である。
張り出し部材と梁6との取り付け位置には緩衝装置2を配置してエネルギーの吸収を図る。
この構造では、特に大きなエネルギーを受ける、海側の張り出し部材の本数を多くすることによって効率的なエネルギーの吸収が可能である。
【0018】
<11>漂流物の補足。
本発明の避難路は、住宅街から高台に向けて設置してある。
津波発生の警報とともに、海岸付近の住民が避難路を通って高台に避難する。
本発明の避難路は、前記したように津波そのものを阻止することはできない。
そのために津波に乗って、多数の大型の漂流物A、例えは漁船やヨット、材木置き場の木材、港の倉庫の破損材などが上陸してくる。
それらの漂流物Aが避難中の人々に襲いかかっても、避難路に入ってしまえば、大型の漂流物Aは直接に柱結合体1に衝突して捕捉され、小型の漂流物Aは柱結合体1間に張り渡した捕捉材3が受け止めて捕捉するから、人々を直撃することがない。
捕捉材3がPC鋼より線のように伸びるものであれば、その伸張量によって漂流物Aの衝突のエネルギーを吸収して捕捉する。
さらに張り出し部材1aと張り出し部材1bとの間に緩衝装置2を介在させてある場合には、漂流物Aの衝撃を受けた側の第1の張り出し部材1aが変形すると、その衝突のエネルギーは緩衝装置2において吸収されて第2の張り出し部材1bに伝達する。(図4)
このように津波の衝撃のエネルギーを吸収する装置が介在していることによって、柱結合体1を構成する部材には大きな強度が要求されず、細い部材によって構成することができ、きわめて経済的である。
また柱結合体1の部材の断面が小さければ、通路としての内部の容積が広くなり、安全に避難することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の津波からの避難通路の実施例の説明図。
【図2】他の実施例の説明図。
【図3】津波からの避難通路の設置状態の実施例の説明図。
【図4】津波による漂流物を捕捉材で捕捉する実施例の説明図。
【図5】梁を介在させて第1の張り出し部材と第2の張り出し部材を連結する構造の説明図。
【符号の説明】
【0020】
1:柱結合体
1a:第1の張り出し部材
1b:第2の張り出し部材
2:緩衝装置
3:捕捉材
4:手摺
5:床板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、
通路の一側から通路の上空に向けて張り出した第1の張り出し部材と
通路の他側から通路の上空に向けて張り出した第2の張り出し部材とより構成し、
両張り出し部材間を、通路上空で結合して柱結合体を形成し、
この柱結合体下を通路とし、
通路に沿って、通路横断方向に、この柱結合体を適宜間隔で配置することを特徴とする、
津波からの避難通路。
【請求項2】
津波の影響を受ける可能性のある陸上に設置する構造物であって、
通路の一側から通路の上空に向けて張り出した第1の張り出し部材と、
通路の他側から通路の上空に向けて張り出した第2の張り出し部材とより構成し、
両張り出し部材間を、緩衝部材を介挿させて通路上空で結合して柱結合体を形成し、
この柱結合体下を通路とし、
通路に沿って、通路横断方向に、この柱結合体を適宜間隔で配置することを特徴とする、
津波からの避難通路。
【請求項3】
柱結合体の間隔が、
大型の漂流物を捕捉できる幅であることを特徴とする
請求項1、2記載の津波からの避難通路。
【請求項4】
柱結合体間をワイヤーや棒状体などの捕捉材を張り渡して構成した、
請求項1から3記載の津波からの避難通路。
【請求項5】
柱結合体間に張り渡した捕捉材には上下方向に間隔があって
捕捉材の間は水が通過することが可能であり、
かつ捕捉材は、緩衝機能と捕捉機能を具えるように構成した、
請求項1から4に記載の津波からの避難通路。
【請求項6】
柱結合体間に張り渡した捕捉材は、
海側からの漂流物を捕捉する間隔の広い海側捕捉材と、
陸側の漂流物を捕捉する間隔に広い陸側捕捉材とで構成した、
請求項1から5に記載の津波からの避難通路。
【請求項7】
柱結合体間に、手摺を取り付けて構成した
請求項1から6に記載の津波からの避難通路。
【請求項8】
柱結合体上に、
床板と、床板に至る梯子を取り付けて構成した、
請求項1から7に記載の津波からの避難通路。
【請求項9】
避難通路間に適宜距離の間隔を設け、
避難通路から外部への脱出および進入が可能であるように構成した、
請求項1から8に記載の津波からの避難通路。
【請求項10】
避難通路上部の捕捉材の間隔を広げ、
増水時に捕捉材の隙間から脱出可能に構成した、
請求項1から9に記載の津波からの避難通路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−7851(P2009−7851A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170772(P2007−170772)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】