説明

活動亢進性免疫系を治療するためのシクロリグナンの使用



活動亢進性免疫系を特徴とする疾患または状態を予防または治療するための、シクロリグナンのある種のピクロ誘導体の使用が開示されている。本発明によるシクロリグナンの例には、ピクロポドフィリン、デオキシピクロポドフィリン、アンヒドロピクロポドフィロールまたはデオキシアンヒドロピクロポドフィロールが挙げられる。式(I)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活動亢進性免疫系(hyperactive immune system)を特徴とする状態を予防および/または治療するためのある種のシクロリグナンに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の免疫系は、数百万年に亘って進化することにより、感染性微生物およびその毒性因子から我々を保護する工夫された防御機構を発展させてきた。免疫系は、2つの部分に区分できる。第1の部分は、先天性または古来からの免疫系であり、ナチュラルキラー(NK)細胞リンパ球、単球/マクロファージ、樹状細胞、好中球、好塩基球、好酸球、組織肥満細胞および上皮細胞からなり、病原体、例えば細菌を認識し、病原体除去の多様な機構を引き起こす。第2の部分は、適応的免疫系であり、TおよびBリンパ球によって媒介される、より最近になって進化した免疫反応系である。このT細胞は、適応的細胞性免疫反応、即ち細胞性免疫を媒介し、ヘルパーT、調節性Tおよび細胞傷害性Tの各リンパ球を包含する胸腺由来リンパ球である。このリンパ球は、骨髄に由来し、抗原に対するB細胞受容体の表面免疫グロブリンを発現し、抗原との相互作用後に特異抗体を分泌することにより、体液性免疫を構成している。以上のことから、リンパ球が免疫系において鍵となる役割を果たしていることは明白である。
【0003】
正常な免疫系は、生物体において、組織または因子のうち「自己」を「異物」と識別する能力を有するが、それでもなお自己免疫が、一部の病理条件下で起こる恐れがある。自己免疫疾患の典型的な特徴は、組織傷害が、自己の組織との生物体の免疫反応により起こされることである。自己免疫の背後にある正確な機構は不明であるが、寄与する因子には、内因性だけでなく外因性のものもあり得る。内因性の場合、抗原提示の変化、T細胞補助の増加、B細胞機能の増加、アポトーシス欠陥、サイトカイン不均衡、および/または免疫調節の変化が関与し得る。したがって、自己免疫疾患の原因は様々になり得るものであり、恐らくは多因子性である。
【0004】
免疫系の過反応性が起こす疾患は、自己免疫、アレルゲンおよび移植された移植片により引き起こされる。
【0005】
自己免疫疾患の発症率は、一般に先進国で増加しており、1つの仮説によれば、これは、改善された生活様式の結果とも言える、即ち、清潔過ぎる環境では、寄生虫および細菌のような外因性抗原に曝されることが殆どないであろう。様々な多くの自己免疫疾患が存在するが、主要および/または重大なそうした疾患の中に、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎および多発性硬化症が含まれる。
【0006】
関節リウマチは、免疫異常のために、対称性関節炎、関節びらん、および関節外合併症が特徴的に生じる多重系障害である。これは、最も一般的で身体障害性の自己免疫性関節炎であり、欧米人口の約1〜3%が罹患している。そのうち約10%は、疼痛ならびに骨格および関節の変形を伴う重度疾患を発現する。
【0007】
クローン病は、重大な炎症性腸疾患であり、寛解および増悪を伴う慢性であることが多い。一般的症状は、下痢、体重減少、腹痛(ときどき閉塞性)および発熱である。局所性合併症には、腸狭窄、穿孔、膿瘍および瘻孔が挙げられる。当該患者は、吸収不良のために支持的な栄養療法を必要とし得る。
【0008】
潰瘍性大腸炎も、長年に亘り再発および寛解を伴う重大な炎症性腸疾患である。活動性疾患の特徴は、血液および粘液の混じる頻繁な下痢、切迫感、時折の腹痛ならびに体重減少である。この疾患は、大腸癌を発現する危険性を高める。
【0009】
多発性硬化症は、CNSのミエリン鞘を冒すが、末梢ニューロンを冒すことのない炎症状態である。この疾患は、良性で、再発および寛解の経過を辿るか、または最初から激しい進行を示す場合もある。この疾患は、視神経、脳幹、小脳および脊髄を冒し、脊髄が冒されると、四肢の不全麻痺、膀胱および腸の機能障害などが起こる。
【0010】
アルツハイマー病は、神経変性状態であり、その進行は免疫抑制療法により低下するようである。この疾患は、進行が遅いが、最終的には、覚醒状態を失うことなく知性、認識および記憶機能の全体的障害を特徴とする認知症に至る。65歳過ぎの人の約5%および80歳過ぎの人の20%が、この疾患に罹っている。この疾患は、通常の自己免疫疾患に普通は分類されないが、幾つかの後向き調査の結果から、抗炎症剤が認知症から保護することが示唆されている(Harrison’s Principles of internal medicine、Kasper DL等編、McGraw−Hill、New York、2005、2393〜2406頁におけるBird TDおよびMiller BL)。
【0011】
喘息および湿疹様皮膚炎のようなアトピー性アレルギー状態も、一般的な免疫疾患である。湿疹様皮膚炎(アトピー性皮膚炎)は、普通幼児期に始まり、成人期になっても続くことが時々ある再発性状態である。典型的な特徴は、細胞間表皮浮腫および掻痒であり、慢性になった後、苔蘚化および落屑が見られる。アトピーは、免疫過反応性を発現する遺伝傾向を意味する。
【0012】
臓器移植は、現代医学における重要な治療形態であるが、移植臓器は、受容者の免疫系にとって標的となり得る抗原を含有している。循環しているT細胞は、グラフト(移植片)拒絶反応の主因であるが、こうしたアロ抗原に対する抗体も、移植片拒絶反応を媒介することができる。免疫系の抑制を必要とする臓器、組織または細胞の移植が、人間において益々頻繁に行われている。
【0013】
自己免疫疾患の病因は不明であり、こうした疾患の多くは効率的な治療法を欠いている。したがって、こうした疾患の大部分ばかりでなく、アレルギー性疾患および移植後の新規で有効な代替治療が緊急に必要とされている。
【0014】
鎮痛剤、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイド、疾患修飾薬および/または免疫抑制薬が、頻繁に使用されているが、上記疾患の多くは効率的な治療法を欠いている。したがって、新規でより有効な代替治療が必要とされている。
先行技術
国際公開第1986/004062号は、一部の膠原病、例えば関節リウマチ、神経疾患、例えば多発性硬化症、および移植片の拒絶に対して有用であるとして、ある種のシクロリグナンを開示している。しかし、前記シクロリグナンは、本発明のものとは異なる。
【0015】
特定のシクロリグナン誘導体は、インビトロで免疫抑制的または抗炎症的性質を有することが以前に示された。Gordaliza M等、J Med Chem、1996、39、2865〜2868頁、およびKadota S等、Tetrahedron Letters、1987、28、2857〜2860頁を参照されたい。
【0016】
欧州特許公開第0711765A1号も、免疫抑制活性を有すると言われているシクロリグナン誘導体を開示している。
【0017】
国際公開第2002/102804号は、IGF−1受容体の阻害、および癌などのIGF−1R依存性疾患の治療のために、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンを含めたある種のシクロリグナンの使用を開示している。
【0018】
国際公開第2007/097707号は、2型糖尿病、黄斑変性および関連疾患の治療、および避妊のために、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンを含むある種のシクロリグナンの使用を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第1986/004062号
【特許文献2】欧州特許公開第0711765A1号
【特許文献3】国際公開第2002/102804号
【特許文献4】国際公開第2007/097707号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Harrison’s Principles of internal medicine、Kasper DL等編、McGraw−Hill、New York、2005、2393〜2406頁におけるBird TDおよびMiller BL
【非特許文献2】Gordaliza M等、J Med Chem、1996、39、2865〜2868頁、およびKadota S等、Tetrahedron Letters、1987、28、2857〜2860頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、シクロリグナンのある種のピクロ誘導体(シス型立体配置を有する)が、免疫抑制(免疫調節)剤として作用できるという観察に基づいている。したがって、該誘導体は、活動亢進性免疫系が起こす、自己免疫疾患、アトピー性アレルギー、および移植後の移植片拒絶反応などの炎症性疾患の治療に使用することができる。
【0022】
第1の態様では、式Iの化合物、
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択され、Rは、OおよびH2個からなる群から選択されており、5員原子環は、β結合2個のシス型立体配置を有する)、ならびに薬学的に許容されるその塩の、活動亢進性免疫系を予防または治療する医薬を製造するための使用が提供される。
【0025】
式Iの前記化合物は、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、および移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を予防または治療する医薬を製造するために使用することができる。
【0026】
第2の態様では、前記疾患の少なくとも1種を予防および/または治療するために、式Iの化合物、ならびに薬学的に許容されるその塩が提供される。
【0027】
第3の態様では、治療を必要とする対象に、式Iの化合物または薬学的に許容されるその塩を投与することを含む、前記疾患の少なくとも1種を治療する方法が提供される。
【0028】
第4の態様では、哺乳動物の免疫反応性を調節するために、式Iの化合物の使用が提供される。
【0029】
図面に関して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】化合物ピクロポドフィリンおよびアンヒドロピクロポドフィロールの構造式を示す図である。
【図2】化合物デオキシピクロポドフィリンおよびデオキシアンヒドロピクロポドフィロールの構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一態様では、本発明は、式Iの化合物、
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択され、Rは、OおよびH2個からなる群から選択されており、5員原子環は、β結合2個のシス型立体配置を有する)、
ならびに薬学的に許容されるその塩の、活動亢進性免疫系を予防または治療する医薬を製造するための使用を提供する。
【0034】
特に、式Iの化合物は、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、および移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を予防または治療する医薬を製造するために使用することができる。
【0035】
がOである場合、式Iに示すように、5員原子環の炭素へその酸素を付ける二重結合が存在する。Rが水素原子2個である場合、各水素原子は、5員原子環の炭素に各々1つの結合で付いている。
【0036】
顕著なことには、式Iの化合物は、太い実線で示すように、5員原子環がシス型立体配置、即ちβ結合2個のピクロ誘導体である。Rおよびトリメトキシフェニル基は、波線で図示するように、α位またはβ位のいずれにあってもよい。5員原子環は、式Iの右側に示されている。
【0037】
本発明の一実施形態では、式IIの化合物、
【0038】
【化3】

【0039】
(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択される)、ならびに薬学的に許容されるその塩の使用が提供され、ラクトン環は、β結合2個のシス型立体配置を有しており、Rおよびトリメトキシフェニル基は、破線で図示するように、α位にある。式IIは、R=Oであり、Rおよびトリメトキシフェニル基がα位にある式Iに等しい。ラクトン環は、式IIの右側に示されている5員原子環である。
【0040】
式IIの好ましい化合物は、ピクロポドフィリン(図1上部)およびデオキシピクロポドフィリン(図2上部)であり、これらの化合物は、本発明に従った使用に特に適していることが判明した。
【0041】
本発明の別の実施形態では、式IIIの化合物、
【0042】
【化4】

【0043】
(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択される)、ならびに薬学的に許容されるその塩の使用が提供され、シクロエーテル環は、太い実線で示すように、β結合2個のシス型立体配置を有しており、Rおよびトリメトキシフェニル基は、破線で図示するように、α位にある。式IIIは、RがH2個であり、Rおよびトリメトキシフェニル基がα位にある式Iに相当する。
【0044】
式IIIの好ましい化合物は、アンヒドロピクロポドフィロール、即ちピクロポドフィリン環状エーテル(図1下部)、およびデオキシアンヒドロピクロポドフィロール、即ちデオキシピクロポドフィリンエーテル(図2下部)である。
【0045】
式Iの化合物2種以上の混合物の、本発明に従って医薬を製造するための使用は、本発明の範囲に入っている。
【0046】
エステル基としてのRは、リン酸エステルおよびアミノ酸エステルなど、薬学的に許容される任意のエステル基を指定することができる。エステル基は、遊離のカルボキシル基または別の酸性基も含むことができる。特にエステル基は、OCOH、OCO(CH0−18CH、OCOCH(CH、OCO(CHCOOH、OCOCHN(CH、OCONHCHCH、OCOCNHおよびOPOからなる群から選択することができる。特定の実施形態では、RはOCOCHN(CHである。エステル誘導体を使用する主目的は、当該化合物の薬学的性質、例えば水溶性を改善することである。
【0047】
本発明は、様々な自己免疫疾患を予防または治療する医薬を調製するための式Iの化合物の使用を指す。このような化合物で予防または治療できる自己免疫疾患の非限定的な例は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、重症筋無力症、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、グッドパスチャー症候群、尋常性天疱瘡、1型糖尿病、自己免疫性胃炎、アジソン病、悪性貧血、セリアック病、筋炎、ショーグレン症候群、全身性硬化症、強皮症、壊死性糸球体腎炎、ウェゲナー肉芽腫症、ギラン・バレー症候群、ランゲルハンス組織球増殖症、サルコイドーシスおよび自己免疫性炎症性肺疾患である。治療可能な疾患群には、アルツハイマー病も加えることができる。
【0048】
更に、喘息、湿疹様皮膚炎(アトピー性皮膚炎)、鼻炎およびじんま疹などのアトピー性アレルギー状態も、式Iの化合物で予防または治療することができる。
【0049】
その上、式Iの化合物は、臓器、組織または細胞を移植した後の移植片拒絶反応、および移植片対宿主病を予防または治療するためにも使用することができる。
【0050】
関節リウマチを予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0051】
クローン病を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0052】
潰瘍性大腸炎を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0053】
多発性硬化症を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0054】
アルツハイマー病を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0055】
喘息を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0056】
湿疹様皮膚炎を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0057】
移植後の移植片拒絶反応を予防または治療する医薬を製造するために、上記した任意の化合物の使用が提供される。
【0058】
追加の療法を要する疾患または状態の場合、本発明の化合物を使用する治療は、他種の治療と併用し得る。例えば、該化合物は、細胞を感作し、他の治療の効果を増強するために有用になり得る。したがって、本発明は、医薬、手術などによる治療など、別種の療法と組み合わせた式Iの化合物の使用も指す。自己免疫疾患、アレルギー状態の治療または移植片拒絶反応の予防をするために、本発明の化合物と共に使用できる薬物または療法の例には、それだけに限らないが、鎮痛剤(例えば、パラセタモール)、非ステロイド抗炎症薬即ちNSAID(例えば、アスピリン、メロキシカム)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン)、疾患修飾薬(例えば、メソトレキセート、サルファサラジン)、および/または免疫抑制薬(例えば、アザチオプリン、レフルノミド、シクロスポリン、シクロホスファミド)が挙げられる。
【0059】
式Iによる化合物、式IIによる化合物、および式IIIによる化合物を含めた、上記の任意の化合物について、鎮痛剤(例えば、パラセタモール)、非ステロイド抗炎症薬(NSAID、例えば、アスピリン、メロキシカム)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン)、疾患修飾薬(例えば、メソトレキセート、サルファサラジン)、および/または免疫抑制薬(例えば、アザチオプリン、レフルノミド、シクロスポリン、シクロホスファミド)からなる群から選択される、少なくとも1種の更なる薬物と組み合わせた使用が提供される。
【0060】
別の態様では、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、および移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を予防または治療するために、上記に定義したような式Iによる化合物、ならびに薬学的に許容されるその塩が提供される。
【0061】
更に別の態様では、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、および移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を治療する方法であって、治療を必要とする対象に、上記に定義したような式Iによる化合物、ならびに薬学的に許容されるその塩を投与することを含む方法が提供される。
【0062】
更に別の態様では、哺乳動物の免疫反応性を調節するために、上記に定義したような式Iの化合物、ならびに薬学的に許容されるその塩の使用が提供される。好ましい実施形態では、哺乳動物は人間である。
【0063】
上記ピクロ誘導体、即ち、ラクトン環またはエーテル環にシス型立体配置を有するシクロリグナンの合成用出発物質として使用される、ポドフィロトキシンおよびデオキシポドフィロトキシンは、植物中に自然に産する。植物からそうした化合物を抽出することは、可能である。純粋形態の前記物質を調製するために、例えば、ポドフィルム・エモジ(Podophyllum emodi)またはポドフィルム・ペルタツム(Podophyllum peltatum)の乾燥した微粉砕根茎を有機溶媒で抽出することができる。その後、抽出液をシリカゲル上でろ過し、濃縮することができる。当該物質を含有する分画を集め、酸性アルミナおよびシリカゲル上などでのクロマトグラフィーにより、該物質を更に精製し、最後に再結晶することができる。
【0064】
ピクロポドフィリンは、精製したポドフィロトキシンから調製することができる。例えば、ポドフィロトキシンを70%含水エタノール中に溶解でき、この溶液に酢酸ナトリウムを添加してもよく、その混合物を12時間などの期間、還流し、撹拌してもよい。その後、混合物を冷却し、ろ過することができる。沈殿生成物のピクロポドフィリンは、酢酸エチルで洗浄し、次いで、O Buchardt等(J Pharmaceut Sci 1986、75、1076〜1080頁)に本質的に記載されるように、無水エタノールからの再結晶により精製する、あるいは移動相がヘキサン−酢酸エチル混合物のシリカゲル上、および/または移動相が含水メタノールのオクタデシルシラン結合シリカ上でのクロマトグラフィーにより精製することができる。ピクロポドフィリンの全合成は、JW Gensler等(J Am Chem Soc 1960、82、1714〜1727頁)により記載されている。
【0065】
デオキシピクロポドフィリンは、精製したデオキシポドフィロトキシンから、本質的に同じ手順を用いて調製することができる。当業者は、この説明、およびこの説明で言及した参考文献を考慮して、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンを調製することができる。
【0066】
アンヒドロピクロポドフィロールおよびデオキシアンヒドロピクロポドフィロールは、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンからそれぞれ調製することができる。
【0067】
式IIおよびIIIの化合物の追加例として、ピクロポドフィリンおよびアンヒドロピクロポドフィロールの各種エステル、ならびに薬学的に許容されるその塩を挙げることができ、そうした化合物は、従来の手順により調製することができる。
【0068】
経口投与のために、本発明の化合物は、カプセル、丸薬、錠剤、トローチ、散剤、溶液、懸濁液または乳濁液などの固体または液体製剤に処方することができる。
【0069】
局所塗布のために、該化合物は、軟膏(unguent)、クリーム、軟膏(ointment)、ローション、溶液またはパッチの形態で投与することができる。
【0070】
非経口投与のために、該化合物は、注射調剤として、または医薬担体としての生理的に許容される希釈剤における該化合物の溶液、懸濁液または乳濁液の持続的静脈内注入により投与し得るが、こうした担体は、界面活性剤および他の薬学的に許容される補助剤を添加した、または添加していない水、アルコール、油、乳濁液および他の許容される有機溶媒などの滅菌した液体でもよい。
【0071】
吸入のために、該化合物は、エアロゾルとして送達させる粉末または溶液として処方してもよい。
【0072】
該化合物は、活性成分を持続的に放出できるように処方し得る、デポー注射剤またはインプラント製剤の形態で投与することもできる。
【0073】
本発明は、本明細書に示した特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。以下の実施例は、例示のために提示され、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【実施例】
【0074】
実験項
材料
薬品
ピクロポドフィリン(純度99.5%)およびデオキシピクロポドフィリン(純度99.5%)は、ポドフィロトキシン(Sigmaおよび他の商業的供給源から)およびデオキシポドフィロトキシン(Analytecon SA、Pre Jorat、スイス)からそれぞれ合成した。アンヒドロピクロポドフィロール(純度99%)およびデオキシアンヒドロピクロポドフィロール(純度99%)は、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンから、下記のようにそれぞれ合成した。
アンヒドロピクロポドフィロールの調製
高収率の生成物を与えるアンヒドロピクロポドフィロールの合成法を開発した。手短に言うと、先ず、ピクロポドフィリンのtert−ブチルジメチルシリルエーテルを、ピクロポドフィリンおよびイミダゾールのジメチルホルムアミド中の混合物に、tert−ブチルジメチルシリル(t−BDMS)クロリドをN下で添加することにより調製した。その黄色溶液を室温で終夜撹拌し、水中に注ぎ入れた。その誘導体を精製した後、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウムでラクトン基を還元した。次いで、生成した混合物を室温で3時間撹拌すると、遊離のヒドロキシ基2個を有するピクロポドフィロールのt−BDMS誘導体が生成した。この化合物のジクロロメタン溶液に、トリフェニルホスフィンおよびアゾジカルボン酸ジエチルを添加した後、混合物を室温で3時間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、アンヒドロピクロポドフィロールのt−BDMSエーテル粗製物を精製した。その誘導体のテトラヒドロフラン溶液にフッ化テトラブチルアンモニウムを添加することにより、非誘導体化アンヒドロピクロポドフィロールを得た。次いで、その混合物を室温で終夜撹拌した。精製後、純粋な遊離アンヒドロピクロポドフィロールを白色固体として得た。
デオキシアンヒドロピクロポドフィロールの調製
デオキシアンヒドロピクロポドフィロールは、デオキシピクロポドフィリンから同様に合成した。手短に言うと、デオキシピクロポドフィリンのラクトン基は、テトラヒドロフラン中の水素化リチウムアルミニウムを用いて還元した。その混合物を室温で3時間撹拌すると、遊離のヒドロキシ基2個を有するデオキシピクロポドフィロールが生成した。この化合物のジクロロメタン溶液に、トリフェニルホスフィンおよびアゾジカルボン酸ジエチルを添加した後、混合物を室温で3時間撹拌した。次いで、純粋な生成物のデオキシアンヒドロピクロポドフィロールを精製後に得た。
実験
全てのインビボ実験は、実験動物の使用に対する倫理指針に従って行い、地元倫理委員会により認可された。
実験1.マウスにおけるシクロリグナンのトランスおよびシス異性体の毒作用
この実験は、マウスにおけるシクロリグナンのトランスおよびシス異性体の全身毒作用を調べることにより、シクロリグナンの立体化学の一般毒性に対する有意性を判定するために実施した。病原体を保持していない5週齢ヌードマウス(nu/nu)を使用し、無菌施設のプラスチック隔離飼育器内に収容した。ポドフィロトキシン、デオキシポドフィロトキシン、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンによる実験的処置を、DMSOおよび食塩水の混合物10μLに溶解した各化合物を腹腔内に毎日、5日間注射することにより行った。1日1回の注射用量は28mg/kg/dであり、マウス6匹を各薬物に対して用いた。対照マウスは媒体だけで処置した。
【0075】
マウスは、不快、疾患および体重減少の徴候について毎日チェックした。その結果を表1に示してある。ポドフィロトキシンで処置したマウスは、速やかに病気に罹り、2日目に動物は全て死んでいた。デオキシポドフィロトキシン処置マウスは、2日目に重篤な毒性徴候を示し、3日後に全て死んでいた。対照的に、ピクロポドフィリンまたはデオキシピクロポドフィリンのいずれかで処置したマウスは、5日の全期間生存し、明白な毒性徴候を全く示さなかった(表1)。この結果は、ラクトン環がシス型立体配置のシクロリグナン、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンは、対応するトランス異性体のポドフィロトキシンおよびデオキシポドフィロトキシンより、毒性が遥かに低いことを示す。後者の2種は、微小管阻害剤であることが知られており、このことから毒性を説明し得る。
【0076】
【表1】

【0077】
この結果は、シクロリグナンにおけるラクトン環の立体配置が、その毒性にとって決定的に重要である、即ち、ラクトン環がトランス立体配置のポドフィロトキシンおよびデオキシポドフィロトキシンは、対応するシス異性体のピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンとは対照的に、一般に有毒であることを示す。
実験2.マウスにおける血中リンパ球に対するピクロポドフィリンの作用
この実験では、20gの健常マウスを、媒体としてDMSO/ヒマワリ油の9:1を用いた、用量20mg/kg/12hの腹腔内注射を1日2回行って、ピクロポドフィリンで処置した。対照群は、媒体だけで処置した(1日当たり合計:DMSO/油を20μL)。各群にはマウス3匹が含まれていた。7日間処置後、マウスを犠牲にし、血液試料を採取した。試料中の血液細胞数は、Bayer AB(Diagnostica)製のAdvia120血液検査システムを用いて計数した。結果は表2に示してある。
【0078】
【表2】

【0079】
この結果は、ピクロポドフィリンによる処置が、マウスにおける血中リンパ球の数を減少させたことを示しており、免疫系に対する抑制作用に合致している。
実験3.ラットにおける血中リンパ球に対するピクロポドフィリンの作用
この実験では、200gの健常ラット(Sprague−Dawley)を、媒体としてDMSO/ヒマワリ油の9:1を用いた、用量20mg/kg/12hの腹腔内注射を1日2回行って、ピクロポドフィリンで処置した。対照群は、媒体だけで処置した(1日当たり合計:DMSOを200μL)。各群にはラット5匹が含まれていた。14日間処置後、ラットを犠牲にし、血液試料を採取した。試料中の血液細胞数は、Bayer AB(Diagnostica)製のAvia120血液検査システムを用いて計数した。結果は表3に示してある。
【0080】
【表3】

【0081】
この結果は、ピクロポドフィリンによる処置が、ラットにおける血中リンパ球を50%超減少させたことを示しており、免疫系に対する抑制作用に合致している。
実験4.ヒト血中のヘルパーTリンパ球および細胞傷害性Tリンパ球の活性化に対する、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンの作用
ヒト血液リンパ球のサブグループの活性化に対するピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンの作用を、フローサイトメトリー(FACS)で決定した。ヒト末梢血からのリンパ球をficoll−hypaque(Pharmacia、Amersham)で精製し、次いでFACS管中に0.5ml中500000細胞/管で分配した。細胞は、ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞の活性化用10%ウシ血清(BGS、Sigma)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma)および1%グルタミン(Sigma)を補充したRPMI培地(Life technologies)において維持した。その細胞を、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンの非存在下(対照リンパ球)、または濃度0.1および2.5μMの存在下で、室温で30分間インキュベートした。洗浄後、細胞を表面分子のCD4、CD8およびCD69に対して15分染色した。CD4およびCD8は、Tリンパ球の2つのサブセット、即ちヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞によりそれぞれ発現し、CD69は、リンパ球活性化マーカーである。染色は、次の蛍光体コンジュゲート抗体:抗CD4PB、抗CD8APC、抗CD69APCCy7(Beckton Dickinson)を用いて行った。次いで、細胞を、2%FCSおよび0.05%NaN3を含有するPBS(FACS緩衝液)で洗浄した後、細胞のアポトーシスを判定するために、ヨウ化プロピル(PI)/FITCアネキシンV(Beckton Dickinson)で染色し、更に15分間のインキュベーションおよび洗浄の後、細胞をフローサイトメトリー(FACSCalibur、Beckton Dickinson)で分析した。データは、Cellquestコンピュータソフトウェア(Beckton Dickinson)を用いて評価した。結果は表4に示してある。
【0082】
【表4】

【0083】
非処置対照では、ヘルパーT細胞の約9%(CD4/CD69)および細胞傷害性T細胞の約6%(CD8/CD69)が活性化された。ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンは共に、活性化細胞傷害性Tリンパ球(CD8/CD69)の数を用量依存的に減少させた。こうした結果は、シクロリグナンの有意な免疫抑制作用に合致している。該シクロリグナンは、PIおよびアネキシン分析で示されるように、細胞のアポトーシスを誘発しなかった。
【0084】
ここに述べた結果は、自己免疫疾患の関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎および多発性硬化症、ならびに移植後の移植片拒絶反応およびアレルギー疾患に対する、シクロリグナンのモデル系における作用を示唆している。該シクロリグナンは、アルツハイマー病に対するモデルにもなり得る。
実験5.ヒト血中のリンパ球の増殖に対する、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンの作用
ヒトTリンパ球の機能、即ち、抗原/マイトジェンに反応したヒトTリンパ球の増殖能力に対する、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンの作用を、トリチウム標識チミジンの経時的取込みアッセイを用いて測定した。患者末梢血からのリンパ球をficoll−hypaque(Pharmacia、Amersham)で精製し、96ウェルプレート中に100000細胞/ウェルで分配し、試料を全て、同一のものを3点とした。細胞は、10%ヒト血清(Sigma)、100単位/mLのペニシリン(Sigma)、100μg/mLのストレプトマイシン(Sigma)および2mMのL−グルタミン(Sigma)を補充したRPMI1640培地(Life technologies)において維持した。リンパ球の増殖は、Tリンパ球マイトジェンのコンカナバリンA(Con A)10μg/mL(Sigma)で刺激した。シクロリグナンと共に、およびそれなしで、Con Aで3日間インキュベーションの後、1μCiのH−チミジン(Amersham)を各ウェルに添加し、更に18時間後に細胞を採集し、洗浄して、新たに合成されたDNA中に取り込まれたH−チミジンの量を、シンチレーション計数により決定した。その結果は表5に示してある。
【0085】
【表5】

【0086】
この結果は、末梢血Tリンパ球の増殖が、自己免疫疾患においてピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンにより抑制されたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物、
【化1】

(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択され、
は、OおよびH2個からなる群から選択されており、
5員原子環は、β結合2個のシス型立体配置を有する)、
ならびに薬学的に許容されるその塩の、活動亢進性免疫系(hyperactive immune system)を予防または治療する医薬を製造するための使用。
【請求項2】
関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、および移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を予防または治療するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
がOであり、Rおよびトリメトキシフェニル基がα位にある、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
がH2個であり、Rおよびトリメトキシフェニル基がα位にある、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
が、OCOH、OCO(CH0−18CH、OCOCH(CH、OCO(CHCOOH、OCOCHN(CH、OCONHCHCH、OCOCNHおよびOPOからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記化合物が、ピクロポドフィリンおよびデオキシピクロポドフィリンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記化合物が、アンヒドロピクロポドフィロールおよびデオキシアンヒドロピクロポドフィロールからなる群から選択される、請求項1、2または4に記載の使用。
【請求項8】
鎮痛剤、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイド、疾患修飾薬および免疫抑制薬からなる群から選択される、少なくとも1種の更なる薬物と組み合わせる、請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項9】
関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、および移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を予防および/または治療するための、
式Iの化合物、
【化2】

(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択され、
は、OおよびH2個からなる群から選択されており、
5員原子環は、β結合2個のシス型立体配置を有する)、
ならびに薬学的に許容されるその塩。
【請求項10】
関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、喘息、湿疹様皮膚炎、移植後の移植片拒絶反応からなる群から選択される、少なくとも1種の疾患を治療する方法であって、治療を必要とする対象に、式Iの化合物、
【化3】

(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択され、
は、OおよびH2個からなる群から選択されており、
5員原子環は、β結合2個のシス型立体配置を有する)、
ならびに薬学的に許容されるその塩を投与することを含む方法。
【請求項11】
哺乳動物の免疫反応性を調節するための、
式Iによる化合物、
【化4】

(式中、Rは、H、OHおよびエステル基からなる群から選択され、
は、OおよびH2個からなる群から選択されており、
5員原子環は、β結合2個のシス型立体配置を有する)、
ならびに薬学的に許容されるその塩の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−525486(P2011−525486A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514542(P2011−514542)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050772
【国際公開番号】WO2009/157858
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510336141)アクセラー エービー (1)
【Fターム(参考)】