説明

活性エネルギー線硬化型エマルジョン、および活性エネルギー線硬化型コーティング剤

【課題】 硬度や耐擦傷性、特にプラスチック基材との密着性に優れる被膜を形成できる、新規な活性エネルギー線硬化型エマルジョン、および当該エマルジョンを用いてなる活性エネルギー線硬化型コーティング剤を提供すること。
【解決手段】 アニオン性不飽和単量体(a1)、アルキルエステル系不飽和単量体(a2)、および必要に応じてその他の不飽和単量体(a3)からなるアクリル共重合体塩(A)の存在下で、分子中に活性エネルギー線で重合しうる重合性不飽和結合基を少なくとも1個有する化合物(B)を水に分散してなる、活性エネルギー線硬化型エマルジョンを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型エマルジョン、および活性エネルギー線硬化型コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化型樹脂は一般的に、電子線や紫外線等で重合反応するオリゴマーやモノマー等の化合物からなるものであり、基本的に有機溶剤を含まないので環境負荷が小さく、また重合反応時に外部熱を要しないので生産性等にも優れる。そのため該活性エネルギー線硬化型樹脂は各種用途、特に、プラスチック用コーティング剤、木工用塗料、印刷インキ等のコーティング用途において賞用されている。
【0003】
ところで、かかるコーティング用途においては、塗工適性や造膜性を改善する目的で、活性エネルギー線硬化型樹脂を希釈する必要性が多々生ずる。その際、前記モノマーを希釈剤として用いる場合にはこのものが皮膚刺激性を有していたり、また有機溶剤を用いた場合には環境負荷が大きかったりする等の問題がある。
【0004】
そこで従来、水による希釈を可能とするために、例えば、活性エネルギー線で重合反応する官能基と、親水性部位とを併有する反応性界面活性剤の存在下で、活性エネルギー線硬化型樹脂を水に分散させ、エマルジョンとする試みがなされている(例えば、特許文献1〜2を参照)。
【0005】
しかし、これらの公知のエマルジョンは、当該反応性界面活性剤が連続層である水中に遊離して多量に存在するためか、被膜とした場合において、その硬度や耐擦傷性、プラスチック基材との密着性等が十分でないことが多い。
【0006】
【特許文献1】特開2007−191530号公報
【特許文献2】特開平10−298211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬度や耐擦傷性、特にプラスチック基材との密着性に優れる被膜を形成できる、新規な活性エネルギー線硬化型エマルジョン、および当該エマルジョンを用いてなる活性エネルギー線硬化型コーティング剤を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、下記特定のエマルジョンによれば、前記反応性界面活性剤によらずとも、前記課題を達成できることを見出した。
【0009】
即ち本発明は、アニオン性不飽和単量体(a1)、アルキルエステル系不飽和単量体(a2)、および必要に応じてその他の不飽和単量体(a3)からなるアクリル共重合体塩(A)の存在下で、活性エネルギー線で重合しうる重合性不飽和結合基を分子中に少なくとも1個有する化合物(B)を水に分散してなる、活性エネルギー線硬化型エマルジョン、ならびに、当該活性エネルギー線硬化型エマルジョンを用いてなる活性エネルギー線硬化型コーティング剤、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の活性エネルギー線硬化型エマルジョンは、水系溶媒(水等)で希釈可能であるため、人体への負担や環境への負荷が小さい。また、本発明の活性エネルギー線硬化型エマルジョンによれば、硬度や耐擦傷性に優れた被膜を形成でき、しかも、当該被膜は各種基材、特にプラスチック基材(具体的には(メタ)アクリル系プラスチック基材)との密着性に優れる。そのため、当該エマルジョンは、各種用途、例えば、プラスチック用コーティング剤、木工用塗料、印刷インキ等の各種コーティング剤として、特に、(メタ)アクリル系プラスチック基材に対するハードコーティング剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る活性エネルギー線硬化型エマルジョン(以下、単にエマルジョンという)は、アニオン性不飽和単量体(a1)(以下、(a1)成分という)、アルキルエステル系不飽和単量体(a2)(以下、(a2)成分という)、および必要に応じてその他の不飽和単量体(a3)(以下、(a3)成分という)からなるアクリル共重合体塩(A)(以下、(A)成分という)の存在下で、分子中に活性エネルギー線で重合しうる重合性不飽和結合基を少なくとも1個有する化合物(B)(以下、(B)成分という)を水に分散してなる組成物(乳化物ないし分散体)である。
【0012】
(a1)成分としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、α,β−不飽和カルボン酸類〔アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸等〕や、α,β−不飽和スルホン酸類〔ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等〕などが挙げられる。これらの中でも、エマルジョンの貯蔵安定性や、プラスチック基材に対する被膜の密着性等の観点より、該α,β−不飽和カルボン酸類が、特にアクリル酸および/またはメタクリル酸が好ましい。
【0013】
(a2)成分としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、クロトン酸アルキルエステル類、マレイン酸(ジ)アルキルエステル類、フマル酸(ジ)アルキルエステル類、イタコン酸(ジ)アルキルエステル類かなる群より選ばれる少なくとも1種を例示できる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸のことをいう。また、「アルキルエステル」としては、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピル、n−ブチルエステル、iso−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ステアリルエステル等が挙げられる。また、「(ジ)アルキルエステル」とは、アルキルエステルまたはジアルキルエステルのことをいう。(a2)成分の中でも、エマルジョンの貯蔵安定性や、プラスチック基材に対する被膜の密着性等の観点より、該(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が、特に、(メタ)アクリル酸メチルエチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸n−ブチルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
また、(a3)成分としては、例えば、スチレン系不飽和単量体〔スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、アセトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、クロルビニルトルエン等〕、水酸基含有不飽和単量体〔(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル等〕、アクリルアミド系不飽和単量体〔(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体等〕、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル系単量体〔ポリオキシアルキレン系単量体等〕、ニトリル系不飽和単量体〔(メタ)アクリロニトリル等〕などが挙げられ、これらは必要に応じ、本発明の所期の効果を損なわない範囲において、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
(A)成分における前記各成分の使用量は特に限定されないが、エマルジョンの貯蔵安定性や、プラスチック基材に対する被膜の密着性等の観点より、(A)成分の総重量(固形分換算)に対して、通常、(a1)成分が15〜35重量%(好ましくは25〜30重量%)、(a2)成分が65〜85重量%(好ましくは70〜75重量%)、(a3)成分が0〜20重量%(好ましくは0〜10重量%)程度である。
【0016】
(A)成分は各種公知の方法(溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等)で製造することができる。例えば溶液重合法の場合であれば、溶剤とラジカル重合開始剤(および必要に応じて連鎖移動剤)の存在下で、前記各成分を通常40〜150℃程度の温度で1〜6時間程度かけてラジカル共重合させた後、該溶剤を各種手段で除去し、共重合体を各種公知の方法で前記中和塩とする方法が挙げられる。
【0017】
前記溶剤としては、各種公知の有機溶剤を特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、ポリオキシアルキレングリコール系溶剤〔ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等〕、脂環族炭化水素系溶剤〔メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等〕、アルコール系溶剤〔エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等〕ケトン系溶剤〔メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等〕、芳香族炭化水素系溶剤〔ベンゼン、トルエン、キシレン等〕、エステル系溶剤〔酢酸エチル、酢酸ブチル等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
また、前記ラジカル重合開始剤としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、有機過酸化系開始剤〔過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等〕や、アゾ系重合開始剤〔2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−メチルバレロニトリル等〕、過硫酸系開始剤〔過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。該重合開始剤の使用量は、(A)成分の総重量(固形分換算)に対して通常0.5〜10重量%程度である。
【0019】
また、前記連鎖移動剤としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、オクタンチオール、ドデカンチオール、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、イソプロピルアルコール、四塩化炭素、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クメン、チオグリコール酸エステル、アルキルメルカプタンなどが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(A)成分の物性は特に限定されないが、エマルジョンの貯蔵安定性や被膜の硬度等の観点より、数平均分子量が通常10000〜100000程度であり、また被膜の硬度やプラスチック基材に対する密着性等の観点より、酸価(JIS−K−0070)が通常90〜170mgKOH/g程度である。
【0021】
前記(B)成分は、前記した活性エネルギー線硬化型樹脂に相当する成分であり活性エネルギー線で重合しうる重合性不飽和結合基を分子中に少なくとも1個有する化合物であれば、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。また、当該重合性不飽和結合としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基またはメタクリロイル基をいう。以下、同様)が挙げられる。
【0022】
該(B)成分の具体例としては、例えば、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する化合物として、1官能(メタ)アクリレート類〔2−エチルヘキシルアクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、モルホリンアクリルアミド、エチルカルビトールアクリレート、メチルトリグリコールアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート〕、2官能(メタ)アクリレート類〔ヘキサメチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4ーブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレングリコールジアクリレート等〕、3官能(メタ)アクリレート類〔トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリアクリレート、εカプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート等〕、4官能(メタ)アクリレート類〔ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等〕、5官能以上の(メタ)アクリレート類〔ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、被膜の硬度や、プラスチック基材に対する密着性等の観点より、前記3官能(メタ)アクリレート類が、特に、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0023】
また、例えば、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有し、かつ、水酸基を少なくとも1個有する化合物として、1官能ヒドロキシ(メタ)アクリレート類〔ロジングリシジルエステルと(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるロジンエポキシアクリレート等〕、2官能ヒドロキシ(メタ)アクリレート類〔グリセリンジエポキシ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジエポキシ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジエポキシ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジエポキシ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等〕、3官能ヒドロキシ(メタ)アクリレート類〔ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリエポキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性グリセロールトリエポキシ(メタ)アクリレート等〕、5官能以上のヒドロキシ(メタ)アクリレート類〔ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、被膜の硬度や耐擦傷性等の観点より、3官能〜5官能のヒドロキシ(メタ)アクリレート類が、特に、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0024】
また、例えば、分子中にビニル基を少なくとも1個有する化合物として、1官能ビニルモノマー類〔N−ビニルピロリドン、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、N−ビニルホルムアミド等〕、2官能ビニルモノマー類〔ジエチレングリコールジビニルエーテル等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、(B)成分としては、各種公知の(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート類を用いることもできる。このものは、例えば、前記ヒドロキシ(メタ)アクリレート類と、各種ポリイソシアネート類と、必要に応じて多価アルコール類とを反応させることにより得られるポリウレタン骨格を分子中に有し、かつ、分子末端に(メタ)アクリロイル基含有するものであれば特に限定されない。該ポリイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体等が挙げられる。また、該ポリオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジヒドロキシペンタジエン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、ポリオキシプロピレントリオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0026】
また、(B)成分としては、前記したもの以外に、各種公知のポリエステル(メタ)アクリレート類を用いることもできる。このものは、例えば、各種公知の多塩基酸類と、前記多価アルコールとを各種公知の手段で縮合反応させてなるポリエステル骨格を分子中に有し、かつ、分子末端に前記(メタ)アクリロイル基含有するものであれば特に限定されない。なお、該多塩基酸類としては(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シストラコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸等の飽和または不飽和の多塩基酸が挙げられる。
【0027】
本発明のエマルジョンは、前記(A)成分の存在下で前記(B)成分を水に分散してなるものである。なお、分散方法は特に限定されないが、例えば、前記(A)成分の水溶液(固形分濃度が通常20〜50%程度)に前記(B)成分を所定量加えて系を撹拌する方法や、(A)成分と(B)成分からなる混合物に水を添加しながら系を撹拌する方法(転相乳化法)などが挙げられる。エマルジョン製造時における、反応系の粘度変化等の作業性等を考慮すると、当該転相乳化法が好ましい。また、分散時の系の温度は特に限定されない。
【0028】
なお、分散の際には、本発明の効果を阻害しない範囲において、各種公知の非反応性乳化剤を併用することができる。具体的には、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキルフェノールエーテルおよびポリオキシアルキルフェノールエーテル硫酸エステル塩などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、本発明のエマルジョンは、さらに各種公知の光重合開始剤(C)(以下、(C)成分という)を含有することができる。具体的には、例えば、ベンゾフェノン系光開始剤〔ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、o−ベンゾイル安息香酸メチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エステル、ベンゾイル安息香酸メチル、フェニルベンゾフェノン、トリメチルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン等〕、アセトフェノン系光開始剤〔フェノキシジクロロアセトフェノン、ブチルジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシメチルフェニルプロパンオン、イソプロピルフェニルヒドロキシメチルプロパンオン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等〕、チオキサントン系光開始剤〔チオキサントン、クロルチオキサントン、メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ジクロロチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ジイソプロピルチオキサントン等〕などが挙げられ、これらは単独または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0030】
また、本発明のエマルジョンは、必要に応じて、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料等の添加剤を含有することができる。
【0031】
こうして得られるエマルジョンは、被膜の硬度や耐擦傷性、プラスチック基材に対する密着性等の観点より、前記(A)成分100重量部(固形分換算)に対し、前記(B)成分を通常100〜900部程度、好ましくは250〜600部含有するものであるのが好ましい。また、前記(C)成分を用いる場合には、これを、(A)成分と(B)成分の合計100重量部(固形分換算)に対して通常0〜10部程度、好ましくは3〜7部含有するものであるのが好ましい。なお、前記添加剤を用いる場合には、これを、(A)成分〜(C)成分の合計100重量部(固形分換算)に対して通常0〜10部程度含有するものであるのが好ましい。
【0032】
こうして得られるエマルジョンの物性は特に限定されないが、粘度(25℃、固形分濃度40%におけるB型粘度計による測定値)が通常、10〜1500mPa・sec程度である。
【0033】
本発明のエマルジョンはそのまま、あるいは各種溶媒(水や有機溶剤)で希釈することにより、プラスチック基材用の活性エネルギー線硬化型コーティング剤として好適に用いることができる。プラスチック基材としては、例えば、PET系、ABS系、ポリカーボネート系、(メタ)アクリル系、ポリスチレン系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリ酢酸ビニル系のプラスチック基材が挙げられる。該コーティング剤は、被膜の硬度や耐擦傷性、密着性等の観点より、特に(メタ)アクリル系プラスチック基材に対するハードコーティング剤として有用である。
【0034】
なお、塗布方法としては、リバースロールコーター、コンマコーター、エアーナイフコーター、ナイフコーター等が挙げられるが、本発明のコーティング剤は特にスプレー態様のコーターに適する。
【実施例】
【0035】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各例中、部および%は特記しない限りすべて重量基準である。
【0036】
製造例1
窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器および撹拌装置を備えた四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル365.7部を仕込み、反応系を120℃に昇温した後、当該温度において、反応系内にモノマー混合物(メタクリル酸158.7部、アクリル酸エチルエステル187.8部、アクリル酸n−ブチルエステル227.9部、およびジ−t−ブチルパーオキサイド40.1部)を5時間かけて滴下することにより、重合反応を行った。次いで、同温度において反応系を2時間保温し、その後160℃において減圧下に該プロピレングリコールモノメチルエーテルを除去し、80℃まで冷却した。次いで、反応系に25%アンモニア水114.9部と軟水1033.8部とを加えることにより、アクリル共重合体塩(A−1)の水溶液を得た。なお、当該アクリル共重合体塩(A−1)の数平均分子量は20000、酸価は165、固形分濃度は35%であった。
【0037】
製造例2
製造例1のモノマー混合物の代わりに、モノマー混合物(メタクリル酸88.2部、アクリル酸エチル223.1部、アクリル酸ブチル263.2部、およびジ−t−ブチルパーオキサイド40.1部)を用いた他は製造例1と同様にして、重合反応を行った。次いで、同温度において反応系を2時間保温し、その後160℃において減圧下に該プロピレングリコールモノメチルエーテルを除去し、80℃まで冷却した。次いで、反応系に25%アンモニア水69.6部と軟水1046.9部とを加えることにより、アクリル共重合体塩(A−2)の水溶液を得た。なお、当該アクリル共重合体塩(A−2)の数平均分子量は16000、酸価は100、固形分濃度は35%であった。
【0038】
製造例3
製造例1のモノマー混合物の代わりに、モノマー混合物(メタクリル酸44.1部、アクリル酸エチル245.2部、アクリル酸ブチル285.3部、およびジ−t−ブチルパーオキサイド40.1部)を用いた他は製造例1と同様にして、重合反応を行った。次いで、同温度において反応系を2時間保温し、その後160℃において減圧下に該プロピレングリコールモノメチルエーテルを除去し、80℃まで冷却した。次いで、反応系に25%アンモニア水34.8部と軟水1036.5部とを加えることにより、アクリル共重合体塩(A−3)の水溶液を得た。なお、当該アクリル共重合体塩(A−3)の数平均分子量は15000、酸価は50、固形分濃度は35%であった。
【0039】
実施例1
製造例1と同様の四つ口フラスコに、前記アクリル共重合体塩(A−1)の水溶液57.14部に、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート40部、トリメチロールプロパントリアクリレート40部を加え十分撹拌し、次いで水132.86部を徐々に添加しながら40℃で1時間強攪拌した。次いで光重合開始剤(商品名「イルガキュア2959」、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製)5部、およびレベリング剤(商品名「BYK345」、ビックケミー・ジャパン(株)製)0.75部を加えてよく撹拌し、活性エネルギー線硬化型エマルジョン(1)を得た。
【0040】
実施例2
製造例1と同様の四つ口フラスコに、前記アクリル共重合体塩(A−2)の水溶液57.14部に、ペンタエリスリトールトリアクリレート40部、トリメチロールプロパントリアクリレート40部を加え十分撹拌し、次いで水132.86部を徐々に添加しながら40℃で1時間強攪拌した。次いで前記「イルガキュア2959」を5部、および前記「BYK345」を0.75部加えてよく撹拌し、活性エネルギー線硬化型エマルジョン(2)を得た。
【0041】
実施例3
製造例1と同様の四つ口フラスコに、前記アクリル共重合体塩(A−3)の水溶液57.14部に、ペンタエリスリトールトリアクリレート40部、トリメチロールプロパントリアクリレート40部を加え十分撹拌し、次いで水132.86部を徐々に添加しながら40℃で1時間強攪拌した。次いで前記「イルガキュア2959」5部、および前記「BYK345」0.75部を加えてよく撹拌し、活性エネルギー線硬化型エマルジョン(3)を得た。
【0042】
比較例1
製造例1と同様の四つ口フラスコに、ノニオン性反応性界面活性剤(商品名「ラテムルPD―430」、花王(株)製)15部に、ペンタエリスリトールトリアクリレート40部、トリメチロールプロパントリアクリレート40部を加え十分撹拌し、次いで水150部を徐々に添加しながら40℃で1時間強攪拌した。次いで前記「イルガキュア2959」5部、および前記「BYK345」0.75部を加えてよく撹拌し、活性エネルギー線硬化型エマルジョン(4)を得た。
【0043】
比較例2
製造例1と同様の四つ口フラスコに、アニオン性反応性界面活性剤(商品名「ラテムルPD―104」、花王(株)製)15部に、ペンタエリスリトールトリアクリレート40部、トリメチロールプロパントリアクリレート40部を加え十分撹拌し、次いで水90部を徐々に添加しながら40℃で1時間強攪拌した。次いで前記「イルガキュア2959」5部、および前記「BYK345」0.75部を加えてよく撹拌し、活性エネルギー線硬化型エマルジョン(5)を得た。
【0044】
<コーティング被膜の作製>
前記活性エネルギー線硬化型エマルジョン(1)を、#12バーコーターを用いて膜厚が約10μm(計算値)となるように、2mm厚のアクリルフィルム(商品名「標準試験板アクリル(透明)」、日本テストパネル(株)製)に塗工し、60℃で5分乾燥させた。次いで、得られた塗工フィルムを大気中で、高圧水銀灯(紫外線照射量600mJ/cm)の下に通過させて(水銀灯高さ20cm、搬送速度5m/分)、塗工面を硬化させることにより被覆フィルムを得た。また、前記活性エネルギー線硬化型エマルジョン(2)〜(5)のそれぞれについても同様にして被覆フィルムを得た。
【0045】
<被膜硬度試験>
各被覆フィルムについて、JIS−K−5600に従い、荷重500gの鉛筆引っかき試験によって硬化被膜の硬度を評価した。結果を表1に示す。(なお、表1中、「−」は試験を実施していないことを意味する。)
【0046】
<密着性試験>
前記各被覆フィルムについて、JIS−K−5600に準拠して碁盤目試験を実施し、以下の基準に基づいて、被膜の密着性を評価した。結果を表1に示す。
○:100マス中100マス残存
△:100マス中30〜99マス残存
×:100マス中0〜29マス残存
【0047】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性不飽和単量体(a1)、アルキルエステル系不飽和単量体(a2)、および必要に応じてその他の不飽和単量体(a3)からなるアクリル共重合体塩(A)の存在下で、活性エネルギー線で重合しうる重合性不飽和結合基を分子中に少なくとも1個有する化合物(B)を水に分散してなる、活性エネルギー線硬化型エマルジョン。
【請求項2】
前記アニオン性不飽和単量体(a1)がα,β−不飽和カルボン酸類である、請求項1の活性エネルギー線硬化型エマルジョン。
【請求項3】
前記α,β−不飽和カルボン酸類が(メタ)アクリル酸である、請求項2の活性エネルギー線硬化型エマルジョン。
【請求項4】
前記アクリル共重合体塩(A)の酸価が90〜170mgKOH/gである、請求項1〜3のいずれかの活性エネルギー線硬化型エマルジョン。
【請求項5】
前記化合物(B)が、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する化合物である、請求項1〜4のいずれかの活性エネルギー線硬化型エマルジョン。
【請求項6】
さらに光重合開始剤(C)を含有する、請求項1〜5のいずれかの活性エネルギー線硬化型エマルジョン。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの活性エネルギー線硬化型エマルジョンを用いてなる、活性エネルギー線硬化型コーティング剤。

【公開番号】特開2009−84447(P2009−84447A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256610(P2007−256610)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】