説明

活性化エステルを調製する方法

本発明は、式(I)の活性化エステルの調製に関し、式中、Rは(C−C)アルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル基であり、Alkは、(C−C)アルキレン基であり、この方法は、溶媒中、ジシクロヘキシルアミン塩Pとジスクシンイミジルカルボナート(DSC)との反応で構成され、ここでN−ヒドロキシスクシンイミドのジシクロヘキシルアミン塩Pが沈殿する。本発明はまた、式Pの生成物に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)の活性化エステルの調製に関する。
【0002】
【化1】

式中、Rは(C−C)アルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル基であり、Alkは、(C−C)アルキレン基である。これらの活性化エステルは、共役体、即ち生物学的に活性な化学化合物、例えば細胞毒性化合物が共有結合によって結合した抗体の調製に使用することができる。共役体化学に関するさらなる詳細は、例えばBirch and Lennox, Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Chap.4,Wiley−Liss,New York,N.Y.(1995)に見出される。
【背景技術】
【0003】
WO2004/016801には、ニトロスクシンイミドユニットを含む活性化エステルが記載されている。図1から6に記載されるこれらの化合物の調製は、本発明に想定されるものより困難な反応に基づく。
【0004】
J.Med.Chem.2006,49(14),4392−4408には、本発明に想定されるものより困難な反応によって、スキーム6での、活性化エステル、特にN−スクシンイミジル−[4−メチル−4−(メチルジチオ)]ペンタノアートの調製が記載されている。
【0005】
Langmuir 2000,16(1),81−86には、スキーム1において、対応する酸とN−ヒドロキシスクシンイミドとのカップリングにより、スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)ブチラート(SPDB)の調製が記載されている。
【0006】
US6407263、US5872261、US5892057およびUS5942628には、活性化エステルおよびこれらの調製方法が記載されている。
【0007】
Can.J.Chem.1982,60,976には、アセトン中、ジシクロヘキシルアミンとN−ヒドロキシスクシンイミドとの反応によって、N−ヒドロキシスクシンイミドのジシクロヘキシルアミン塩(P)の調製が記載されている。この化合物はCAS番号82911−72−6を有する。
【0008】
Can.J.Chem.1986,64(11),2097−2102;J.Chem.Soc,Perkin Trans.1 1985,4,765−8;Bull.Soc.Chem.Jpn 1986,59(8),2505−8;Coll.Czech.Chem.Comm.1985,50(12),2925−2936には、ジスクシンイミジルカルボナートは使用しない、ジシクロヘキシルアミン塩からスクシンイミドエステルの調製が記載されている。
【0009】
Tetrahedron Letters 1979,49,4745−4746には、DSCおよび合成におけるこの価値が記載されている(スキーム2を参照のこと)。
【0010】
Biochem.J.1978,173,723−737には、N−ヒドロキシスクシンイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下で活性化エステルの調製が記載されている。
【0011】
JACS2003,125(30),8994−8995は、技術背景の一部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/016801号
【特許文献2】米国特許第6407263号明細書
【特許文献3】米国特許第5872261号明細書
【特許文献4】米国特許第5892057号明細書
【特許文献5】米国特許第5942628号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.Med.Chem.2006,49(14),4392−4408
【非特許文献2】Langmuir 2000,16(1),81−86
【非特許文献3】Can.J.Chem.1982,60,976
【非特許文献4】Can.J.Chem.1986,64(11),2097−2102
【非特許文献5】J.Chem.Soc,Perkin Trans.1 1985,4,765−8
【非特許文献6】Bull.Soc.Chem.Jpn 1986,59(8),2505−8
【非特許文献7】Coll.Czech.Chem.Comm.1985,50(12),2925−2936
【非特許文献8】Tetrahedron Letters 1979,49,4745−4746
【非特許文献9】Biochem.J.1978,173,723−737
【非特許文献10】JACS2003,125(30),8994−8995
【発明の概要】
【0014】
本発明は、式(I)の活性化エステルの調製方法に関する:
【0015】
【化2】

式中、Rは線状または分岐状(C−C)アルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル基であり、Alkは、線状または分岐状(C−C)アルキレン基であり、この方法は、溶媒中、ジシクロヘキシルアミン塩Pと:
【0016】
【化3】

ジスクシンイミジルカルボナート(DSC)との反応で構成され、溶媒中でN−ヒドロキシスクシンイミドのジシクロヘキシルアミン塩Pが沈殿する。
【0017】
【化4】

本発明はまた、次式Pの生成物
【0018】
【化5】

より詳細には次式の生成物:
【0019】
【化6】

に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
・アルキル基:アルカンから水素原子を取り除くことによって得られる線状または分岐状の飽和脂肪族炭化水素系基。特に次の基を挙げることができる:メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルブチル、2−メチルペンチルおよび1−メチルペンチル;
・アルキレン基:アルカンから2個の水素原子を取り除くことによって得られる二価の基。特に次の基を挙げることができる:メチレン(−CH−)、エチレン(−CHCH−)、n−プロピレン(−CHCHCH−)およびブチレン(−CHCHCHCH−);
・シクロアルキル基:環状構造に関与する3から10個の炭素原子を含有する環状アルキル基。特に次の基を挙げることができる:シクロプロピル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル;
・アリール基:6から10個の炭素原子を含有する芳香族基。特に次の基を挙げることができる:フェニル、ナフチル、インデニルおよびフルオレニル;
・ヘテロアリール基:環を形成する原子として、O、SまたはNから選択される1個以上のヘテロ原子を含む5から10員環の芳香族基;
・ヘテロシクロアルキル基:同様に、環を形成する原子として、N、OまたはSから選択される1個以上のヘテロ原子を含む、上記で定義されたようなシクロアルキル基。
【0021】
調製は、溶媒中、ジシクロヘキシルアミン塩Pおよびジスクシンイミジルカルボナート(DSC)の反応に基づき、ここでN−ヒドロキシスクシンイミドのジシクロヘキシルアミン塩Pが沈殿する(スキーム1)。
【0022】
【化7】

【0023】
Rは:
・(C−C)アルキル基:例えば任意に分岐している、メチル、エチル、プロピル、ブチルまたはペンチル基;
・(C−C)シクロアルキル基:例えばシクロプロピル基;
・アリール基:例えばフェニル基;
・ヘテロアリール基:例えば2−ピリジニル基:
【0024】
【化8】

・ヘテロシクロアルキル基:例えばピペリジニル基。
【0025】
Alkは、任意に分岐している、(C−C)アルキレン基、例えばプロピレン、ブチレンまたはペンチレン基である。より詳細には、Alkは(CHであり、nは1から6の範囲の整数を示す。
【0026】
ジシクロヘキシルアミンの機能は、反応を促進すること、および放出されるN−ヒドロキシスクシンイミドを不溶性にすることである。この反応は、次の利点を有する:
・実施の容易性:簡便な接触、加熱なし、遅く制御されたCOの放出;
・化合物Pがカルボキシラート形態であるので、反応を活性化するために付加塩の添加を必要としない;
・放出される化合物Pは、使用される溶媒に対してごく僅かな溶解性を有し、沈殿する。そのため、Pの大部分は、簡便な機械的分離、例えばろ過によって容易に除去できる;
・この反応により、良好な収率および良好な純度を有する活性化エステルを容易に得ることができる。
【0027】
は、ジシクロヘキシルアミンを用いて対応する酸の中和によって調製される。DSCは、市販の製品である。
【0028】
溶媒は、ケトンが有利であり、このタイプの反応に通常必要な溶媒(ジクロロメタンまたはジメチルホルムアミド)よりも毒物的な問題が少ない。ケトンは、例えばアセトンまたはメチルイソブチルケトン(MIBK)であってもよい。MIBKは、水混和性であるため(20℃で1.55%w/w)、生成物の水性洗浄を可能にするので、残留Pの除去を促進するという理由から好ましい。MIBKは、また、共沸蒸留による残留水の除去を可能にする。最後に、MIBKは、化合物PおよびPならびにDSCのためではなく、活性化エステルのための良好な溶媒であり、PとDSCとの遅く制御された反応を可能にする:故に反応体は、最初にこれら全体を混合させることができ、安全性の観点からの問題を生じない(未制御のCO放出を伴う迅速な反応がない。)。
【0029】
反応は、周囲温度(約20℃)にて行われる。Pは、特定の溶媒中で自発的に沈殿し得る。Pの沈殿を促進するために、PおよびDSCが反応した後で、反応混合物を冷却することができる(例えば、0℃に近い温度まで)。
【0030】
この反応により、特に、対応する酸の塩から、次の活性化エステル、即ち以下のものを調製できる:N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジニルジチオ)プロピオナート(SPDP)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)ブチラート(SPDB)またはN−スクシンイミジル−[4−メチル−4−(メチルジチオ)]ペンタノアート:
【0031】
【化9】

【実施例】
【0032】
(実施例1)
N−スクシンイミジル−[4−メチル−4−(メチルジチオ)]ペンタノアートの調製
反応は次の通りである:
【0033】
【化10】

4−メチル−4−(メチルジチオ)ペンタン酸のジシクロヘキシルアミン塩(23g)およびDSC(18.2g、1.1当量)のMIBK161ml中の懸濁液を、約20℃で5時間撹拌する。次いで懸濁液を約0℃まで冷却し、この温度で1時間撹拌し、次いでろ過する。
【0034】
固体を2×23mlのMIBKで洗浄する。有機相を合わせ、2×58mlのHCl6N水溶液、次いで92mlの脱塩水で洗浄する。次いで、有機相を減圧下で濃縮して乾燥させる。得られた固体を、ジクロロメタン(DCM)230ml中に溶解させ、得られた溶液をシリカ46gで処理し、10分間撹拌し、次いでシリカをろ過し、2×69mlのDCMで洗浄する。この操作を2回繰り返す。次いで有機相を、約半分の体積まで濃縮し、次いで約20℃にて、n−ヘプタン391mlを約30分で添加する。得られた白色懸濁液を、この温度で約1時間撹拌し、約1時間かけて約−10℃まで冷却し、次いでこの温度にて約1時間撹拌する。次いで固体をろ過し、2×23mlのn−ヘプタンで洗浄し、約−10℃まで冷却し、次いで減圧下で40℃にて15時間乾燥する。4−N−ヒドロキシスクシンイミジル−[4−メチル−4−(メチルジチオ)]ペンタノアートを、収率70.6%で単離する。HPLCによって決定されるこの純度は、99.65%である(溶媒を除く)。
【0035】
(実施例2)
N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)ブチラート(SPDB)の調製
反応は次の通りである:
【0036】
【化11】

ジシクロヘキシルアミン塩(40g、1当量)およびDSC(28.7g、1.1当量)を、MIBK280mlに懸濁させる。混合物を20±3℃で4時間撹拌する。懸濁液を0±3℃に冷却し、この温度で30分間放置し、ろ過し、得られた固体を、氷冷MIBK(120ml)で洗浄する。母液を水(3×176ml)で洗浄し、MIBKの量が≦2.5%になるまで、50℃の浴を有するロータリーエバポレーターにて減圧下でエバポレートし、乾燥する。粗SPDBを黄色オイルの形態で得る。
【0037】
次いでSPDB(32.5g)を、エタノール(455ml)中、35±2℃で溶解させる。得られた溶液を18±2℃まで冷却する:純粋なSPDBが結晶化し始める。n−ヘプタン90mlを10分かけて添加し、結晶化を高める。混合物を0±3℃まで冷却し、n−ヘプタン820mlを20分かけて添加する。混合物を0±3℃で1時間撹拌する。純粋なSPDBをろ過により単離し、2×90mlの氷冷n−ヘプタンで洗浄し、オーブン(30℃、50mBar)中で乾燥する。収率:84.8%、HPLC純度:98.7%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の活性化エステルの調製方法であって:
【化1】

式中、Rは線状または分岐状(C−C)アルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル基であり、ならびにAlkは、線状または分岐状(C−C)アルキレン基であり、
前記方法が、溶媒中、ジシクロヘキシルアミン塩Pと:
【化2】

ジスクシンイミジルカルボナート(DSC)との反応で構成され、溶媒中でN−ヒドロキシスクシンイミドのジシクロヘキシルアミン塩Pが沈殿する、方法。
【化3】

【請求項2】
Rが、任意に分岐している、メチル、エチル、プロピル、ブチルまたはペンチル基、または2−ピリジニル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Alkが、任意に分岐している、プロピレン、ブチレンまたはペンチレン基である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Alkが、(CHであり、nが1から6の範囲の整数を示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
反応がケトン中で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ケトンがMIBKである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
およびDSCが反応した後、Pの沈殿を促進するために反応混合物を冷却する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
が機械的分離によって除去される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
機械的分離がろ過である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式Pの生成物:
【化4】

(式中、RおよびAlkは、請求項1から4のいずれか一項に記載の通りである。)。
【請求項11】

【化5】


の、請求項10に記載の生成物。

【公表番号】特表2012−512234(P2012−512234A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541550(P2011−541550)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052528
【国際公開番号】WO2010/076474
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】