説明

活性炭のpH調整方法

【課題】活性炭により処理した水のpHが安定するまでに使用する水量を減らすことができる活性炭のpH調整方法を提供する。
【解決手段】活性炭が使用される原水の水質を分析する工程と、分析結果に基づいて、活性炭を酸洗浄する酸溶液を作製する工程と、作製された酸溶液により活性炭のpHを調整する工程と、を有することを特徴とする。水質分析工程において、原水に含まれるアニオンの種類を検出し、これに基づいて、酸溶液に使用する酸の種類が決定されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を浄化するときに使用される活性炭を適切なpHに調整するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
純水製造装置や、排水処理装置等の各種の水処理装置には、原水に含まれる有機物の吸着除去や、残留塩素などの酸化性物質の分解除去などを目的として、活性炭を充填した活性炭塔が使用されている(例えば、下記特許文献1,2)。活性炭を使用するユーザーは、特に飲料用途に使用する場合、活性炭メーカーから活性炭が供給されると、これを活性炭塔に充填し、事前処理として逆洗浄(水洗)や湯殺菌などを行ない、通水を始めるが、この通水は、処理水のpHが目標pH値内に安定するまで行なわれ、pH値が安定した後に初めて処理水を利用できるようになる。この点を説明するために、まず、活性炭の原料について説明を行なう。
【0003】
活性炭の原料について説明すると、活性炭の原料は特に限定されるものではないが、一般的にはヤシガラ、オガクズ、石炭などの天然物を炭材として、これらを炭化及び賦活して製造される。賦活方法としては、水蒸気賦活法や薬品賦活法などがある。この炭化・賦活した活性炭には、数%〜15%の灰分が残存している。この灰分には、アルカリ金属やアルカリ土類金属が含まれているため、通常の活性炭のpHは8以上となる。活性炭製造メーカーは、活性炭を酸溶液により洗浄(酸洗浄)し、活性炭のpHを6〜8に調整した後、活性炭ユーザーに納入している。このときに使用される酸は、一般的に1種類の酸(通常は塩酸)が使用されている。
【0004】
活性炭を使用するユーザーは、活性炭の殺菌のための湯洗浄を行うが、原水を活性炭充填層に通した後の処理水のpH値は、原水のpH値よりも高くなるため直ちに使用することができない。その理由としては、原水中にはCl(塩素イオン)、NO3(硝酸イオン)、SO4(硫酸イオン)などのアニオンと、Na+(ナトリウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)、K+(カリウムイオン)、Mg+(マグネシウムイオン)などのカチオンが存在し、原水を活性炭に通すと、アニオンとカチオンが結合したHNO3やH2SO4のような酸類が活性炭に吸着(加水乖離吸着)され、その結果として、NaOHやCa(OH)2のようなアルカリ類が処理水中に流出し、処理水のpHが高くなるためと考えられる。なお、そのときの反応式は下記の通りである。
【0005】
NaNO3+H2O → HNO3+NaOH
CaSO4+2H2O → H2SO4+Ca(OH)2
【特許文献1】特開2002−172386号公報
【特許文献2】特開2003−183013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、加水乖離吸着現象が起こっている間は処理水のpHは安定せず、吸着現象が終了するまで通水を続ける必要がある。かかる通水量は、上記説明したように、ユーザーの使用する原水の水質(上記アニオンやカチオンの種類など)に依存するものと考えられ、従来のような一律の酸洗浄を行なうと、pHが安定するまでに大量の通水を必要とする場合もあった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、活性炭により処理した水のpHが安定するまでに使用する水量を減らすことができる活性炭のpH調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る活性炭のpH調整方法は、活性炭が使用される原水の水質を分析する工程と、分析結果に基づいて、活性炭を酸洗浄する酸溶液を作製する工程と、作製された酸溶液により活性炭のpHを調整する工程と、を有することを特徴とするものである。
【0009】
かかる構成による活性炭のpH調整方法の作用・効果を説明する。この構成によると、活性炭が使用される原水の水質を分析する。そして、この分析結果に基づいて、酸溶液を作製する。すなわち、画一的に酸洗浄を行なうのではなく、活性炭が使用される原水の水質にふさわしい酸洗浄を行ない、pH調整が行われる。かかる酸洗浄を行うことで、予め活性炭に効果的に酸を吸着させておくことができ、活性炭を使用するユーザー側で湯殺菌後の通水において、加水乖離吸着による酸の吸着を抑制し、加水乖離吸着を早期に終了させることができた。また、後述するように試験によりその効果を確認することもできた。その結果、活性炭により処理した水のpHが安定するまでに使用する水量を減らすことができる活性炭のpH調整方法を提供することができる。
【0010】
本発明に係る水質分析工程において、原水に含まれるアニオンの種類を検出し、これに基づいて、酸溶液に使用する酸の種類が決定されることが好ましい。
【0011】
処理水のpH変動の要因物質には、アニオンとカチオンがあるが、本発明においては、加水乖離吸着による処理水pH変動を抑制するものであり、アニオンに着目することで、原水の水質を分析し適切な酸洗浄を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る水浄化用活性炭のpH調整方法の好適な実施形態を図面を用いて説明する。
【0013】
既に説明したように本発明においては、活性炭を使用するユーザーが使用する原水の水質に着目し、原水水質に適した活性炭のpH調整をする。活性炭を使用して水質浄化を行なう活性炭ユーザーでは、活性炭を活性炭塔へ充填した後、活性炭を殺菌処理するために湯洗浄(100℃程度の湯水を使用)を行い、その後通水を行いpHを安定化させる。本発明においては、この通水量を大幅に低減することで、ランニングコストの低減に貢献する。湯殺菌後の初期pH変動は、ユーザーが使用する原水中のイオン濃度に依存するため、この初期pH変動を小さくするように使用する原水に適した性状(例えば、活性炭pH値)を有する活性炭を製造する。
【0014】
そこで、活性炭ユーザーが使用する原水の水質を分析し、この分析結果に基づき活性炭メーカーがpH等を調整し、原水の水質に適した活性炭を当該ユーザーに納入する。従って、個々のユーザー毎に適切な活性炭のpH調整を行うものである。
【0015】
原水の分析にあたっては、ユーザーが使用する原水中のアニオン濃度(塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等をmg/lの単位で測定)と、pH値を分析する。アニオン濃度分析は、JISK0102、及び、pH分析は、JISK1474に定められている測定方法を用いる。本発明においては、加水乖離吸着に着目するものであるため、アニオン濃度を測定し、カチオンに関しては考慮しなくてもよい。
【0016】
次に、活性炭のpH調整方法について説明する。pH調整にあたり使用される装置の概念図を図1に示す。図1に示すように酸洗浄槽1の中に、活性炭と酸溶液を入れて攪拌機2により攪拌・混合する。攪拌せずに放置してもよいが、例えば10〜20分攪拌することで洗浄効果を向上させることができる。酸洗浄に用いる酸溶液は、原水の分析結果に基づいて作製されるものである。すなわち、原水に含まれるアニオンの酸が所定レベル以上含まれる酸溶液を使用する。例えば、塩酸イオンが含まれるのであれば、HCl(塩酸)が少なくとも使用される。
【0017】
従って、酸溶液については、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)のうちの1種または2種以上から選ばれる混合液と、硝酸ナトリウム(NaNO3)あるいは硝酸カリウム(KNO3)の混合液で洗浄する。その後、さらに水洗を行なってもよい。
【0018】
あるいは、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)のうちの1種または2種以上から選ばれる混合液で洗浄し(その後、さらに水洗してもよい)、その後、硝酸ナトリウム(NaNO3)あるいは硝酸カリウム(KNO3)のいずれかで洗浄する。その後、さらに水洗を行なってもよい。
【0019】
酸のうちどれを選択するかについては、水質の分析結果に基づいて決められるものである。上記において、硝酸ナトリウム(NaNO3)あるいは硝酸カリウム(KNO3)の使用量については、活性炭量100kgに対して、硝酸イオン(NO3)を0.1kg以上含有する硝酸ナトリウム(NaNO3)あるいは硝酸カリウム(KNO3)の溶液を使用する。
【0020】
酸洗浄を行った後は、酸洗浄槽1から酸を取り出し、「洗浄水の注入→攪拌逆洗浄→排水」を少なくとも1回以上繰り返して行なう。逆洗浄により、酸洗浄における余剰の酸の除去や酸洗浄等で生じた活性炭微粉を洗い落とす。その後、活性炭を酸洗浄槽1から取り出し、湿潤状態あるいは乾燥させて製品の活性炭とする。
【0021】
活性炭を用いた処理水浄化装置の構成例を図2に示す。活性炭塔10の内部には、原水の浄化作用を行う活性炭充填層11が設けられる。活性炭塔10の上流側と下流側には夫々切り換えバルブ12,13が設けられる。これら切り換えバルブ12,13の間には、循環水配管14が接続されており、湯洗浄を行なうときには、バルブを切り換えて湯水を循環させる。原水及び湯は、上流側から切り換えバルブ12を介して活性炭塔10内へ導かれる。処理水は、下流側の切り換えバルブ13を介して下流側へと送出される。また、洗浄に使用した水は、切り換えバルブ13を切り換えて下方から排水させる。pH測定装置15は、排水あるいは処理水のpHを測定する。
【実施例1】
【0022】
次に、本発明による方法でpH調整した活性炭を用いて通水テストを行った。まず、原水の水質を分析し、前述の酸溶液を用いてpH値の異なる複数水準の活性炭サンプルを作製した。処理水のpHは活性炭のpHに影響を受け、また、活性炭から溶出するアニオンの量によっても影響を受ける。そこで、どの程度のレベルの活性炭が適切であるかを確認するために、複数水準を用意した。
【0023】
試作した活性炭サンプルについて、活性炭ユーザーが使用する原水を用いて、ユーザーの使用条件(例えば、逆洗浄→通水→湯殺菌→通水)に合った通水テストを行い、その処理水のpH変動(連続分析)から活性炭の好適な酸洗浄条件を決定することができる。酸洗浄条件とは、例えば、洗浄時間、使用する酸の種類、活性炭に対する酸の量、酸洗浄後に余分な酸を洗い落とす水洗時間、洗浄回数などである。
【0024】
湯殺菌後の活性炭処理水のpH値変動を連続分析し、処理水pHの変動終了を確認する。合わせて、処理水の水質分析を行い、加水乖離吸着の終了を確認し、処理水pH値変動終了の裏づけとする。加水乖離吸着とは、原水にあるアニオンを酸の形として活性炭に吸着される現象であり、吸着が平衡に達すればアニオンが処理水中に検出されてくる。原水のアニオン濃度に近い値が検出されれば、平衡に近づいたものと見なすことができる。なお、厳密な平衡点ではなく、処理水pH変動が問題ないレベルであれば、ほぼ終了と見なすことができる。
【0025】
複数水準の活性炭サンプルの通水テスト結果より、処理水pH変動が小さく、ユーザーの使用基準pH値内に速やかに安定化するサンプルを選出し、そのサンプルの酸洗浄条件を当該ユーザーに納入すべき活性炭の酸洗浄方法として決定する。すなわち、活性炭性状の確認指標として、活性炭のpH値を用いる。
【0026】
図3は、本発明による効果を示す通水倍量の低減ラボテスト結果である。横軸は通水倍量を示す。通水倍量Wとは、
W=湯洗浄に使用する水量(m3)÷活性炭量(kg)÷活性炭充填密度(kg/m3)で表される数値である。縦軸は、活性炭処理水のpH値である。逆洗浄、湯殺菌を行った後、通水を行う。湯殺菌直後は、酸の溶出量が酸の吸着量よりも大きいため、pH値は低下していくが、その後は、逆に酸の吸着量のほうが大きくなりpH値が上がっていき、酸の吸着が平衡に達し、pHは安定化する。処理水の使用可能なpH値の範囲を6〜8とすれば、一般的なpH調整を行った活性炭の場合は、安定領域に入るまでのかなりの通水倍量が必要である。本発明の場合は、原水の水質に適したpH調整を行っており、加水乖離吸着が抑制されるため、処理水のpH変動を早期に抑制できる。従って、図3に示すように、早期にpH値が安定領域に入る。
【0027】
図4は、A工場における活性炭塔の湯洗浄後の処理水のpH変動と、ラボテストを行ったときの湯洗浄後のpH変動を比較したものである。これをみるとラボテストを行なったのとほぼ同じ通水倍量でA工場の活性炭塔での処理水が使用可能な状態になっていることが分かる。図5は、別のB工場で同様のpH変動とラボテストを行なったときの湯洗浄後の処理水のpH変動を比較したものである。従って、現場(工場)においても、ラボテストの結果どおり、ほぼ同じ通水倍量で処理水が使用可能な状態になったことが確認された。
【0028】
また、これら本発明による場合の通水倍量は、従来の通水倍量の1/5以下のレベルに大幅低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】酸洗浄装置を示す概念図
【図2】処理水浄化装置
【図3】本発明の効果を示す通水倍量の低減ラボテスト結果
【図4】A工場における活性炭塔の湯洗浄後の処理水のpH変動と、ラボテストによる湯洗浄後の処理水のpH変動を比較したグラフ
【図5】B工場における活性炭塔の湯洗浄後のpH変動と、ラボテストによる湯洗浄後の処理水のpH変動を比較したグラフ
【符号の説明】
【0030】
10 活性炭塔
11 活性炭充填層
12 切り換えバルブ
13 切り換えバルブ
14 循環水配管
15 pH測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭が使用される原水の水質を分析する工程と、
分析結果に基づいて、活性炭を酸洗浄する酸溶液を作製する工程と、
作製された酸溶液により活性炭のpHを調整する工程と、を有することを特徴とする活性炭のpH調整方法。
【請求項2】
水質分析工程において、原水に含まれるアニオンの種類を検出し、これに基づいて、酸溶液に使用する酸の種類が決定されることを特徴とする請求項1に記載の活性炭のpH調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−152197(P2007−152197A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349204(P2005−349204)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(505447766)カーボンテック株式会社 (9)
【出願人】(503007760)三菱化学カルゴン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】