説明

活物質の製造方法、活物質、電極及びリチウムイオン二次電池

【課題】α―LiVOPOとβ―LiVOPOを兼ね備える活物質の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の活物質の製造方法は、リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含み、pHが7より大きく12.7より小さい混合物を、加圧下で加熱する水熱合成工程と、水熱合成工程において加圧下で加熱した後の混合物を焼成する焼成工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質の製造方法、活物質、電極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
LiVOPOは、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離することができる正極活物質であり、リチウムイオン二次電池の正極が備える活物質層に用いられる。このLiVOPOは、三斜晶(α型結晶)、斜方晶(β型結晶)等の複数の結晶構造を示し、その結晶構造に応じて異なる電気化学特性を有することが知られている(下記特許文献1、2、非特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−303527号公報
【特許文献2】特開2003−68304号公報
【非特許文献1】Solid State Ionics,140,pp.209−221(2001)
【非特許文献2】J. Power Sources,97−98,pp.532−534(2001)
【非特許文献3】J. Electrochem. Soc., 151, A796 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LiVOPOのα型結晶(以下、場合により「α―LiVOPO」と記す。)は、LiVOPOのβ型結晶(以下、場合により「β―LiVOPO」と記す。)に比べて熱力学的に安定である。そのため、活物質としてα―LiVOPOを用いた電池は、β―LiVOPOを用いた電池に比べて、耐熱性に優れる。
【0005】
一方、β―LiVOPOは、α―LiVOPOに比べて、直線的で短いイオン伝導経路を有するため、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離する特性(以下、場合により「可逆性」と記す。)に優れる。そのため、活物質としてβ―LiVOPOを用いた電池は、α―LiVOPOを用いた電池に比べて、大きな充放電容量を有し、レート特性及びサイクル特性に優れる。
【0006】
リチウムイオン二次電池には、耐熱性が要求されると共に、大きな充放電容量、優れたレート特性及びサイクル特性も要求される。したがって、リチウムイオン二次電池用の活物質としては、α―LiVOPOの優れた熱的安定性とβ―LiVOPOの優れた可逆性とを兼ね備えた活物質が要求される。
【0007】
しかしながら、α―LiVOPOはβ―LiVOPOに比べて熱的に安定であることから推測されるように、従来のLiVOPOの合成方法では、β―LiVOPOに比べてα―LiVOPOが生成し易い傾向がある。従って、従来の活物質の製造方法では、熱的安定性に優れるα―LiVOPOと可逆性に優れるβ―LiVOPOとをバランスよく兼ね備えた活物質を得ることが困難であった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、α―LiVOPOとβ―LiVOPOを兼ね備える活物質の製造方法、当該活物質の製造方法により得られ、リチウムイオン二次電池の耐熱性及び放電容量を向上させることが可能な活物質、当該活物質を用いた電極及び当該電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る活物質の製造方法は、リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含み、pHが7より大きく12.7より小さい混合物を、加圧下で加熱する水熱合成工程と、水熱合成工程において加圧下で加熱した後の混合物を焼成する焼成工程と、を備える。
【0010】
上記本発明によればLiVOPOを含む粒子群を得ることが可能となる。また、水熱合成の出発原料である混合物のpHを7より大きくし、且つ12.7より小さくすることによって、LiVOPOを含む粒子群中にLiVOPOのα型結晶相(以下、場合により「α相」と記す。)とLiVOPOのβ型結晶相(以下、場合により「β相」と記す。)が共存することが可能となる。また、水熱合成の出発原料である混合物のpHを7より大きくし、且つ12.7より小さい範囲で調整することによって、LiVOPOを含む粒子群中に存在するLiVOPOのα型結晶相のモル数αと活物質中に存在するLiVOPOのβ型結晶相のモル数βとの比率α/βを、0.1〜10の範囲内で自在に調整することも可能となる。
【0011】
なお、以下では、LiVOPOを含む粒子群であって、粒子群中に存在するLiVOPOのα型結晶相のモル数αと粒子群中に存在するLiVOPOのβ型結晶相のモル数βとの比率α/βが0.1〜10である粒子群を、「αβ粒子群」と記す。
【0012】
上記本発明に係る活物質の製造方法では、水熱合成工程において、加熱前の混合物に塩基性試薬を添加することが好ましい。また、塩基性試薬はアンモニア水溶液であることが好ましい。
【0013】
これにより、加熱前の混合物のpHを7より大きく12.7より小さい所望の値に調整し易くなる。特に、塩基性試薬としてアンモニア水溶液を用いることにより、pHの調整が容易となる。
【0014】
上記本発明に係る活物質の製造方法では、リチウム源が、LiCO又はLiNOの少なくともいずれかであり、リン酸源が、HPO又は(NHHPOの少なくともいずれかであり、バナジウム源が、V又はNHVOの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0015】
これらのリチウム源、リン酸源及びバナジウム源を適宜組み合わせて用いることにより、混合物のpHを7より大きく12.7より小さい値に調整し易くなり、αβ粒子群を合成し易くなる。
【0016】
上記本発明では、水熱合成工程において、加熱前の混合物に炭素粒子を添加することが好ましい。
【0017】
これにより、得られる活物質の電気伝導性が向上する。
【0018】
本発明に係る活物質は、LiVOPOを含む粒子群を備え、粒子群中に存在するLiVOPOのα型結晶相のモル数αと粒子群中に存在するLiVOPOのβ型結晶相のモル数βとの比率α/βが、0.1〜10である。すなわち、本発明に係る活物質は、上述したαβ粒子群を備える。
【0019】
本発明に係る電極は、集電体と、上記本発明に係る活物質を含有し、集電体上に設けられた活物質層と、を備える。
【0020】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記本発明に係る電極を備える。
【0021】
本発明に係る活物質が備える粒子群中には、熱的安定性に優れるα相と、可逆性(Liイオンの放出効率及び取り込み効率)に優れるβ相とが上記の比率α/βで共存する。これにより、本発明に係る活物質は熱的安定性及び可逆性をバランスよく兼ね備えることが可能となる。そのため、本発明に係る活物質を用いたリチウムイオン二次電池の耐熱性及び放電容量が向上する。
【0022】
なお、粒子群中にα相とβ相が共存するだけでは、本発明の効果を奏することは困難である。α/βが0.1より小さい場合、リチウムイオン二次電池の耐熱性及び放電容量が低下する。また、α/βが10より大きい場合、リチウムイオン二次電池の放電容量が低下する。一方、本願発明では、α/βを0.1〜10の範囲内に調整することによって初めて耐熱性と放電容量の両立が可能となる。
【0023】
なお、本発明者らは、αβ粒子群中において、α相とβ相とが均一に混在していることも、耐熱性及び放電容量の向上に寄与していると考える。すなわち、従来の活物質の製造方法では、α相とβ相が均一に混在した活物質を合成することが困難であったが、上記本発明に係る活物質の製造方法によれば、α相とβ相が均一に混在したαβ粒子群を合成することが可能となる、と本発明者は考える。
【0024】
上記本発明に係る活物質は、炭素粒子を備え、粒子群の少なくとも一部が炭素粒子に担持されていることが好ましい。
【0025】
これにより活物質の電気伝導性が向上し、リチウムイオン二次電池の放電容量が向上し易くなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、α―LiVOPOとβ―LiVOPOを兼ね備える活物質の製造方法、当該活物質の製造方法により得られ、リチウムイオン二次電池の耐熱性及び放電容量を向上させることが可能な活物質、当該活物質を用いた電極及び当該電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(活物質の製造方法)
以下では、本発明の一実施形態に係る活物質の製造方法について説明する。
【0028】
本実施形態に係る活物質の製造方法は、リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含み、pHが7より大きく12.7より小さい混合物を、加圧下で加熱する水熱合成工程と、水熱合成工程において加圧下で加熱した後の混合物を焼成する焼成工程と、を備える。
【0029】
<水熱合成工程>
水熱合成工程では、まず、内部を加熱、加圧する機能を有する反応容器(例えば、オートクレーブ等)内に、上述したリチウム源、リン酸源、バナジウム源及び水を投入して、これらが分散した混合物(水溶液)を調製する。なお、混合物を調製する際は、例えば、最初に、リン酸源、バナジウム源及び水を混合したものを還流した後、これにリチウム源を加えてもよい。この還流により、リン酸源及びバナジウム源の複合体を形成することができる。
【0030】
混合物のpHは7より大きく12.7より小さい値に調整する。これによりαβ粒子群を合成することが可能となる。また、混合物のpHは7.5〜12.5に調整することが好ましく、9.3〜12.1に調整することがより好ましい。これによりαβ粒子群を合成し易くなり、αβ粒子群を活物質として用いたリチウムイオン二次電池の放電容量を向上させ易くなる。混合物のpHが小さ過ぎる場合、過剰のβ相が生成すると共にα相が生成し難くなる傾向があり、混合物のpHが大き過ぎる場合、過剰のα相が生成すると共にβ相が生成し難くなる傾向がある。
【0031】
混合物のpHを7より大きく12.7より小さい値に調整する方法としては、様々な方法を採用し得るが、混合物に塩基性試薬を添加することが好ましい。塩基性試薬としては、アンモニア水溶液が好ましい。塩基性試薬の添加量は、混合物の量、リチウム源、リン酸源並びにバナジウム源の種類及び配合比に応じて適宜調整すればよい。
【0032】
リチウム源としては、LiNO、LiCO、LiOH、LiCl、LiSO及びCHCOOLiからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0033】
リン酸源としては、HPO、NHPO、(NHHPO及びLiPOからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0034】
バナジウム源としては、V及びNHVOからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0035】
上記の化合物の中でも、LiCO又はLiNOの少なくともいずれかを用い、リン酸源としてHPO又は(NHHPOの少なくともいずれかを用い、バナジウム源としてV又はNHVOの少なくともいずれかを用いることが好ましい。これらのリチウム源、リン酸源及びバナジウム源を組み合わせて混合物に含有させることにより、混合物のpHを7より大きく12.7より小さい値に調整し易くなり、αβ粒子群を合成し易くなる。なお、二種以上のリチウム源、二種以上のリン酸源又は二種以上のバナジウム源を併用してもよい。
【0036】
混合物におけるリチウム源、リン酸源及びバナジウム源の配合比は、得られる粒子群が、LiVOPOで表される組成となるように調整すればよい。例えば、LiCO、V及びHPOは1:1:2のバランスで配合すればよい。
【0037】
混合物には、炭素粒子を添加することが好ましい。これにより、αβ粒子群の少なくとも一部が炭素粒子表面に生成し、炭素粒子にαβ粒子群を担持させることが可能となる。その結果、得られる活物質の電気伝導性を向上させることが可能となる。
【0038】
炭素粒子を構成する物質としては、活性炭、カーボンブラック(黒鉛)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられるが、これらの中でも活性炭又はカーボンブラックを用いることが好ましい。これにより活物質の電気伝導性が向上し易くなる。なお、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用いることにより、活物質の電気伝導性が向上し易くなる。
【0039】
次に、反応容器を密閉して、混合物を加圧しながら加熱することにより、混合物の水熱反応を進行させる。これにより、αβ粒子群の前駆体が水熱合成される。
【0040】
水熱合成工程において混合物に加える圧力は、0.2〜1MPaとすることが好ましい。混合物に加える圧力が低過ぎると、最終的に得られるαβ粒子群の結晶性が低下し、活物質の容量密度が減少する傾向がある。混合物に加える圧力が高過ぎると、反応容器に高い耐圧性が求められ、活物質の製造コストが増大する傾向がある。混合物に加える圧力を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0041】
水熱合成工程における混合物の温度は、150〜200℃とすることが好ましい。混合物の温度が低過ぎると、最終的に得られるαβ粒子群の結晶性が低下し、活物質の容量密度が減少する傾向がある。混合物の温度が高過ぎると、反応容器に高い耐熱性が求められ、活物質の製造コストが増大する傾向がある。混合物の温度を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0042】
<焼成工程>
焼成工程では、水熱合成工程において加圧下で加熱した後の混合物(αβ粒子群の前駆体)を焼成する。これにより、αβ粒子群が得られる。
【0043】
焼成工程における混合物の焼成温度は400〜700℃とすることが好ましい。焼成温度が低過ぎる場合、α相及びβ相の結晶成長が不十分となり、活物質の容量密度が低下する傾向がある。焼成温度が高過ぎる場合、α相及びβ相の成長が過剰に進み、αβ粒子群の粒径が増加する結果、活物質におけるリチウムの拡散が遅くなり、活物質の容量密度が減少する傾向がある。焼成温度を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0044】
混合物の焼成時間は、3〜20時間とするこが好ましい。また、混合物の焼成雰囲気は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、又は空気雰囲気とすることが好ましい。
【0045】
なお、水熱合成工程で得られる混合物を、焼成工程で焼成する前に60〜150℃程度で1〜30時間程度、加熱処理してもよい。この加熱処理により、混合物が粉体となる。この粉体状の混合物を焼成してもよい。これにより、混合物から余計な水分や有機溶媒が除去され、α相及びβ相に不純物が取り込まれることを防ぎ、粒子形状を均一化することが可能となる。
【0046】
本実施形態に係る活物質の製造方法では、水熱合成工程と焼成工程との組合せによりαβ粒子群を合成するため、αβ粒子群の体積平均一次粒径を50〜1000nmとし、粒度分布をシャープにすることも可能となる。
【0047】
なお、従来の活物質の製造方法としては、例えば、LiVOPOの原料となる固体を混合、粉砕したものを焼成して、LiVOPOの粒子を形成し、これを炭素とを混合する方法や、LiVOPOの原料を水に溶かし、蒸発乾固してLiVOPOの粒子を形成し、これを炭素とを混合する方法が知られている。しかし、これらの方法では、α/βが0.1〜10の範囲内である粒子群を合成することは困難であり、ましてや、αβ粒子群の体積平均一次粒径を50〜1000nmの範囲に微小化することも困難である。
【0048】
(活物質)
次に、本発明の一実施形態に係る活物質について説明する。本実施形態に係る活物質は、上述した本実施形態に係る活物質の製造方法によって製造することができる。
【0049】
本実施形態に係る活物質は、LiVOPOを含む粒子群を備え、粒子群中に存在するα相のモル数αと粒子群中に存在するβ相のモル数βとの比率α/βが、0.1〜10である。すなわち、本実施形態に係る活物質は、上述したαβ粒子群を備える。なお、α/βは粉末X線回折(XRD)に基づくリートベルト解析により求めることができる。α/βは9.3〜12.1であることが好ましい。α/βが9.3〜12.1であるαβ粒子群をリチウムイオン二次電池の正極用活物質として用いることにより、リチウムイオン二次電池の放電容量を向上させる効果が顕著となる。
【0050】
αβ粒子群の体積平均一次粒径は50〜1000nmであることが好ましく、100〜500nmであることがより好ましい。なお、αβ粒子群の体積平均一次粒径は、レーザー散乱法で測定すればよい。体積平均一次粒径が50〜1000nmであるαβ粒子群は、従来のLiVOPOの粒子群に比べて微小である。そのため、従来の活物質に比べて、αβ粒子群におけるイオンの伝導経路の密度が増加すると共に、各粒子内でのLiイオンの拡散距離が短縮され、Liイオンの拡散能が高くなる。また、αβ粒子群を微小化することにより、αβ粒子群の比表面積が従来に比べて大きくなる。そのため、可逆性が向上すると共に、集電体とαβ粒子群との接触面積、及び炭素粒子(導電剤)と炭素粒子に担持されたαβ粒子群との接触面積が増加し、活物質の電子の伝導経路の密度が増加する。
【0051】
以上の理由から、αβ粒子群の体積平均一次粒径が50〜1000nmである場合、従来の活物質に比べて、活物質におけるイオン及び電子の伝導性が向上する共に活物質の容量密度が向上する。その結果、リチウムイオン二次電池では、従来のLiVOPOの粒子群を用いた場合に比べて、放電容量、レート特性及びサイクル特性が向上し易くなる。
【0052】
αβ粒子群の体積平均一次粒径が小さ過ぎる場合、放電容量が低下する傾向がある。αβ粒子群の体積平均一次粒径が大き過ぎる場合、可逆性、Liイオンの拡散能、及びイオン並びに電子の伝導経路の密度が低下する傾向がある。本実施形態では、αβ粒子群の体積平均一次粒径を上記の範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制できる。
【0053】
αβ粒子群の比表面積は1〜10m/gであることが好ましい。比表面積が小さ過ぎる場合、可逆性、Liイオンの拡散能、及びイオン並びに電子の伝導経路の密度が低下する傾向があり、比表面積が大き過ぎる場合、活物質及び電池の耐熱性が低下する傾向がある。本実施形態では、αβ粒子群の比表面積を上記の範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制できる。なお、比表面積はBET法により求めればよい。
【0054】
(リチウムイオン二次電池)
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、互いに対向する板状の負極及び板状の正極と、負極と正極との間に隣接して配置される板状のセパレータと、を備える発電要素と、リチウムイオンを含む電解質溶液と、これらを密閉した状態で収容するケースと、負極に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される負極リードと、正極に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される正極リードとを備える。
【0055】
負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層と、を有する。また、正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層と、を有する。セパレータは、負極活物質層と正極活物質層との間に位置している。
【0056】
正極活物質層は、αβ粒子群を含有する。
【0057】
本実施形態では、熱的安定性に優れるα相と可逆性に優れるβ相とが上記の比率α/βで共存するαβ粒子群が正極活物質層に含まれるため、リチウムイオン二次電池が、耐熱性及び放電容量、レート特性並びにサイクル特性を兼ね備えることが可能となる。
【0058】
正極活物質層におけるαβ粒子群の含有率は、80〜97質量%であることが好ましい。αβ粒子群の含有率が小さ過ぎる場合、電池の耐熱性及び放電容量が低下する傾向がある。αβ粒子群の含有率が大き過ぎる場合、正極活物質層に占める導電剤の割合が小さくなり、正極活物質層の電子伝導性が低下する傾向がある。本実施形態では、正極活物質層におけるαβ粒子群の含有率の上記の範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制できる。
【0059】
以上、本発明の活物質及び活物質の製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0060】
例えば、本発明の活物質は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子の電極材料としても用いることができる。このような、電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(カソードに本発明の複合粒子を含む電極を用い、アノードに金属リチウムを用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
<水熱合成工程>
23.11g(0.2mol)のHPO水溶液(分子量:98.00、ナカライテスク社製、特級、純度:85重量%)、503gのHO(ナカライテスク社製、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)用)、18.37g(0.1mol)のV(分子量:181.88、ナカライテスク社製、特級、純度:99重量%)、及び7.39g(0.1mol)のLiCO(分子量:73.89、ナカライテスク社製、特級、純度:99重量%)を、この順序で1.5Lオートクレーブ容器に導入した後、容器内に36.60g(0.6mol)のNH水溶液(分子量:17.03、ナカライテスク社製、特級、純度:28重量%)をスポイトで徐々に滴下することにより、混合物を調整した。これらの原料の量は、化学量論的に約30g(0.2mol)のLiVOPO(分子量:168.85)を生成させる量に相当する。なお、NH水溶液の滴下によって、容器内の温度は20.8℃から約6℃上昇して26.5℃になった。
【0063】
容器を密閉して、混合物を室温下で約30分攪拌した後に、容器内の圧力を0.5MPaにし、160℃/200rpmで16時間還流し、水熱合成反応を進行させた。
【0064】
16時間の還流後、加熱を停止してから混合物を約4時間容器内に保持することにより、容器内の温度を36.4℃まで冷却した。冷却後の混合物に約300mlの水を加えた後に、混合物をバットに開けて、オーブンを用いて90℃で約25時間蒸発乾固させた。蒸発乾固後の混合物を粉砕して、橙色の粉体(活物質の前躯体)を44.84g得た。
【0065】
<焼成工程>
アルミナ坩堝に入れた5.00gの前駆体を、加熱炉を用いて600℃で4時間焼成した後、炉内で自然冷却させた。なお、粉体の焼成は空気雰囲気中で行った。また、焼成工程では、焼成温度を60分かけて室温から600℃まで昇温させた。この焼成工程により、緑色の粒子群(実施例1の活物質)を3.77g得た。
【0066】
[結晶構造の測定]
粉末X線回折(XRD)に基づくリートベルト解析の結果から、実施例1の活物質は、LiVOPOの粒子群であり、粒子群中に存在するα相のモル数αと前記粒子群中に存在するβ相のモル数βとの比率α/βが、0.1であることが確認された(表1参照)。
【0067】
[放電容量の測定]
実施例1の活物質と、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とアセチレンブラックを混合したものを、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。なお、スラリーにおいて活物質とアセチレンブラックとPVDFとの重量比が84:8:8となるように、スラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、実施例1の活物質を含む活物質層が形成された電極(正極)を得た。
【0068】
次に、得られた電極と、その対極であるLi箔とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(素体)を得た。この積層体を、アルミラミネーターパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF溶液を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0069】
[放電容量の測定]
実施例1の評価用セルを用いて、放電レートを0.1C(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)とした場合の放電容量(単位:mAh/g)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0070】
[耐熱性の評価]
実施例1の評価セルにおいて、電流値3Cで10Vまで過充電を行い、発煙の有無を確認した。実施例1では発煙がなかった(表1参照)。
【0071】
(実施例2)
実施例2では、水熱合成反応前の混合物に、LiCOの代わりとして、14.07g(0.2mol)のLiNO(分子量:68.95、ナカライテスク社製、特級、純度:98重量%)を含有させた。また、実施例2では、水熱合成反応後の混合物を約23時間蒸発乾固させた。蒸発乾固後の混合物を粉砕して、黄色の粉体(活物質の前躯体)を60.23g得た。活物質の前躯体の焼成後にくすんだ緑色の粒子群(活物質)を2.86g得た。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の活物質及び評価用セルを得た。
【0072】
(実施例3)
実施例3では、水熱合成反応前の混合物に、48.80g(0.8mol)のNH水溶液を含有させた。また、実施例3では、水熱合成反応後の混合物を約22時間蒸発乾固させた。蒸発乾固後の混合物を粉砕して、橙色の粉体(活物質の前躯体)を45.76g得た。活物質の前躯体の焼成後に緑色の粒子群(活物質)を3.75g得た。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の活物質及び評価用セルを得た。
【0073】
(実施例4)
実施例4では、水熱合成反応前の混合物にNH水溶液を加えることにより、水熱合成反応前の混合物のpHを12.1に調整した。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の活物質及び評価用セルを得た。
【0074】
(実施例5)
実施例5では、水熱合成反応前の混合物にNH水溶液を加えることにより、水熱合成反応前の混合物のpHを12.3に調整した。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の活物質及び評価用セルを得た。
【0075】
(比較例1)
比較例1では、水熱合成反応前の混合物に塩酸を加えることによって、水熱合成反応前の混合物のpHを7.0に調整した。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の活物質及び評価用セルを得た。
【0076】
(比較例2)
比較例2では、7.3gのNH水溶液を用いて混合物を調製した。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の活物質及び評価用セルを得た。
【0077】
(比較例3)
比較例3では、60.8gのNH水溶液を用いて混合物を調製した。以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の活物質及び評価用セルを得た。
【0078】
上述した実施例1〜5、及び比較例1〜3では、水熱合成反応前後の混合物のpHをそれぞれ測定した。結果を表1に示す。また、実施例1と同様の方法で、実施例2〜5、及び比較例1〜3の活物質の結晶構造を解析したところ、いずれの組成もLiVOPOであった。さらに、実施例1と同様の方法で、実施例2〜5、及び比較例1〜3の活物質のα/βをそれぞれ求めた。結果を表1に示す。また、実施例1と同様の方法で、実施例2〜5及び比較例1〜3の評価用セルの放電容量をそれぞれ求めた。また、実施例1と同様の方法で、実施例2〜5、及び比較例1〜3の評価セルにおける発煙の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、水熱合成反応前の混合物のpHが7より大きく12.7より小さい実施例1〜5の活物質では、α/βが0.1〜10の範囲内であることが確認された。一方、水熱合成反応前の混合物のpHが7以下である比較例1、2の活物質では、α/βが0.1未満であることが確認された。また、pHが12.7である比較例3では、α/βが10より大きいことが確認された。
【0081】
実施例1〜5の評価セルは、比較例1〜3より大きな放電容量を有することが確認された。また、実施例1〜5の評価セルでは発煙がなかったことから、実施例1〜5の評価セルは耐熱性に優れることが確認された。
【0082】
比較例2の評価セルは発熱して発煙した。このことから、比較例2の評価セルの耐熱性は実施例1〜5より劣ることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源とリン酸源とバナジウム源と水とを含み、pHが7より大きく12.7より小さい混合物を、加圧下で加熱する水熱合成工程と、
前記水熱合成工程において加圧下で加熱した後の前記混合物を焼成する焼成工程と、
を備える、活物質の製造方法。
【請求項2】
前記水熱合成工程において、加熱前の前記混合物に塩基性試薬を添加する、請求項1に記載の活物質の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性試薬がアンモニア水溶液である、請求項2に記載の活物質の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム源が、LiCO又はLiNOの少なくともいずれかであり、
前記リン酸源が、HPO又は(NHHPOの少なくともいずれかであり、
前記バナジウム源が、V又はNHVOの少なくともいずれかである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の活物質の製造方法。
【請求項5】
前記水熱合成工程において、加熱前の前記混合物に炭素粒子を添加する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の活物質の製造方法。
【請求項6】
LiVOPOを含む粒子群を備え、
前記粒子群中に存在するLiVOPOのα型結晶相のモル数αと前記粒子群中に存在するLiVOPOのβ型結晶相のモル数βとの比率α/βが、0.1〜10である、活物質。
【請求項7】
炭素粒子を備え、
前記粒子群の少なくとも一部が前記炭素粒子に担持されている、請求項6に記載の活物質。
【請求項8】
集電体と、
請求項6又は7に記載の活物質を含有し、前記集電体上に設けられた活物質層と、を備える、電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を備える、リチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2010−218824(P2010−218824A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62990(P2009−62990)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】