説明

活物質粒子およびその利用

【課題】リチウム二次電池の高出力化に適した性能を示し、且つ充放電サイクルによる劣化の少ない活物質粒子を提供する。
【解決手段】本発明により提供される活物質粒子は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子と、その内側に形成された中空部とを有する中空構造であって、上記二次粒子には、外部から上記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている。この活物質粒子のBET比表面積は0.5〜1.9m/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用の活物質粒子とその製造方法、ならびに該活物質粒子を備えるリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)を可逆的に吸蔵および放出し得る材料(活物質)を有する正負の電極を備え、それら電極の間をリチウムイオンが行き来することによって充電および放電するリチウム二次電池が知られている。かかるリチウム二次電池は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として、その重要性がますます高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
【0003】
リチウム二次電池の電極(典型的には正極)に用いられる活物質の代表例として、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物が挙げられる。例えば、上記遷移金属元素として少なくともニッケル(Ni)を含むリチウム複合酸化物(ニッケル含有リチウム複合酸化物)であって層状構造を有するものが好ましく用いられる。リチウム二次電池の活物質に関する技術文献として特許文献1〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−321300号公報
【特許文献2】特開平10−74516号公報
【特許文献3】特開平10−83816号公報
【特許文献4】特開平10−74517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウム二次電池の用途のなかには、ハイレートでの放電(急速放電)を繰り返す態様で使用されることが想定されるものがある。車両の動力源として用いられるリチウムイオン電池(例えば、動力源としてリチウムイオン電池と内燃機関等のように作動原理の異なる他の動力源とを併用するハイブリッド車両に搭載されるリチウムイオン電池)は、このような使用態様が想定されるリチウム二次電池の代表例である。しかし、従来の一般的なリチウムイオン電池は、ローレートでの充放電サイクルに対しては比較的高い耐久性を示すものであっても、ハイレート放電を伴う充放電サイクルに対しては性能劣化(内部抵抗の上昇等)を起こしやすいことが知られていた。
【0006】
特許文献1には、リチウム二次電池の正極または負極を多孔質中空構造の活物質から構成する技術が記載されている。かかる多孔質中空構造の活物質によると、電解液との接触面積が大きくなってリチウムイオンの移動が容易になり、またリチウムの挿入に伴う活物質の体積膨張による歪みが抑えられること等から、急速充電が可能で高容量・長寿命のリチウム電池が得られるとされている。また、特許文献2〜4には、一次粒子が集合した中空球形の二次粒子であってその表面に内部に通じる多数の隙間が存在する複合酸化物粒子(リチウムコバルト複合酸化物粒子またはスピネル型リチウムマンガン複合酸化物粒子)を正極活物質として用いることにより、非水電解液との接触面積を大きくして正極活物質の利用率を向上させ得ることが記載されている。
【0007】
しかしながら、このような多孔質構造の活物質粒子を用いても、実際にリチウム二次電池を作製すると、予期したような電池性能向上効果が得られない場合があった。また、従来の多孔質構造の活物質粒子は、上述のようなハイレート充放電サイクルに対して、殊に性能劣化を起こしやすい傾向にあった。このため、一般的な緻密構造の活物質粒子を用いてなるリチウム二次電池に比べて、電池の使用開始時点では反応抵抗を低減する効果(電池の高出力化にとって有利な効果)が得られても、ハイレート充放電を繰り返すとむしろ性能が悪くなってしまう等、車両電源用等のリチウム二次電池の活物質としては不向きなものであった。
【0008】
そこで本発明は、リチウム二次電池用の活物質粒子であって、該電池の高出力化に適した性能を示し且つ充放電サイクル(特に、ハイレート放電を伴う充放電サイクル)による劣化の少ない活物質粒子を提供することを一つの目的とする。本発明の他の一つの目的は、かかる活物質粒子の製造方法を提供することである。本発明の他の一つの目的は、活物質粒子を用いてなるリチウム二次電池の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、リチウム二次電池用の活物質粒子が提供される。その活物質粒子は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子と、その内側に形成された中空部とを有する中空構造を呈する。前記二次粒子には、外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている。前記活物質粒子のBET比表面積は凡そ0.5〜1.9m/gである。
【0010】
このように貫通孔を有する中空形状(孔開き中空構造)であって上記BET比表面積を満たす活物質粒子は、リチウム二次電池の電極(典型的には正極)に用いられて、より高い性能を安定して発揮する電池を与えるものであり得る。例えば、内部抵抗が低く(換言すれば、出力特性が良く)、且つ充放電サイクル(特に、ハイレートでの放電を含む充放電サイクル)によっても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池が構築され得る。活物質粒子のBET比表面積が小さすぎると、電池性能を向上させる効果(例えば、内部抵抗を低減する効果)が少なくなりがちである。一方、比表面積が大きすぎると、充放電サイクルによる劣化を抑える効果が低下傾向となることがあり得る。ここに開示される好ましい比表面積を満たす孔開き中空活物質粒子によると、ハイレート特性の向上(例えば、後述するハイレートサイクル試験のようなハイレートサイクルによる抵抗上昇の抑制、ハイレート放電性能の向上、等のうちの少なくとも一つ)と磨耗劣化の防止(例えば、後述する耐久性試験のような耐久サイクルに対する抵抗上昇の抑制、容量維持率の向上、等のうち少なくとも一つ)とが同時に実現され得る。
【0011】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0012】
ここに開示される活物質粒子の好ましい一態様では、前記貫通孔の開口幅が平均0.01μm以上である。ここで、貫通孔の開口幅とは、該貫通孔が活物質粒子の外部から二次粒子を貫通して中空部に至る経路のなかで最も狭い部分における差渡し長さをいう。かかる構造の活物質粒子によると、上記貫通孔の開口幅(以下、「開口サイズ」ということもある。)が適切な範囲にあるので、この貫通孔を通して外部から中空部に電解液が入り込みやすい。したがって、該活物質粒子を備えるリチウム二次電池において、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果(例えば、内部抵抗を低減する効果)を適切に発揮することができる。なお、上記開口サイズの平均値(平均開口サイズ)は、例えば、少なくとも10個の活物質粒子について、該活物質粒子の有する貫通孔の一部個数または全個数の開口サイズを把握し、それらの算術平均値を求めることにより得ることができる。
【0013】
ここに開示される活物質粒子の他の好ましい一態様では、該活物質粒子の平均硬度が概ね0.5MPa以上である。ここで、活物質粒子の平均硬度とは、直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック硬度測定により得られる値をいう。このように、孔開き中空構造であって且つ平均硬度の高い(換言すれば、形状維持性の高い)活物質粒子は、リチウム二次電池の電極(典型的には正極)に用いられて、より高い性能を安定して発揮する電池を与えるものであり得る。例えば、内部抵抗が低く(換言すれば、出力特性が良く)、且つ充放電サイクル(特に、ハイレートでの放電を含む充放電サイクル)によっても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池が構築され得る。
【0014】
前記貫通孔の数は、前記活物質粒子の一粒子当たり、平均1〜20個程度であることが好ましい。かかる構造の活物質粒子によると、貫通孔の数が適切な範囲にあるので、該活物質粒子を備えるリチウム二次電池において、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果(例えば、内部抵抗を低減する効果)を適切に発揮しつつ、所望の平均硬度を容易に確保することができる。したがって、良好な電池性能をより安定して(例えば、充放電サイクルによる劣化を抑えて)発揮することができる。なお、上記平均貫通孔数の値は、例えば、少なくとも10個の活物質粒子について一粒子当たりの貫通孔数を把握し、それらの算術平均値を求めることにより得られる。
【0015】
上記活物質粒子の平均粒径としては、凡そ3μm〜10μm程度の範囲が好ましい。また、上記貫通孔の平均開口サイズは、活物質粒子の平均粒径の1/2以下であることが好ましい。かかる構造の活物質粒子は、上記平均開口サイズが適切な範囲にあるので、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果(例えば、内部抵抗を低減する効果)を適切に発揮しつつ、所望の平均硬度を容易に確保することができる。したがって、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。
【0016】
ここに開示される活物質粒子の典型的な態様では、上記孔開き中空形状の二次粒子を構成する一次粒子が互いに焼結している。かかる活物質粒子によると、所望の平均硬度を容易に確保することができる。したがって、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。例えば、二次粒子のうち中空部を囲む部分では、貫通孔の部分を除いて一次粒子の粒界に実質的に隙間が存在しないように、上記二次粒子を構成する一次粒子が緻密に焼結していることが好ましい。例えば、該活物質粒子の断面を、走査型顕微鏡(SEM)により、上記貫通孔の開口サイズを測定可能な拡大率で観察した場合において、貫通孔の部分以外では一次粒子の粒界に実質的に隙間が観察されない活物質粒子が好ましい。かかる活物質粒子によると、より良好なハイレート特性を安定して発揮するリチウム二次電池が構築され得る。
【0017】
前記リチウム遷移金属酸化物としては、ニッケルを構成元素として含む層状構造の化合物(以下、「Ni含有Li酸化物」ともいう。)が好ましい。かかる組成の活物質粒子によると、より高性能なリチウム二次電池が構築され得る。例えば、ニッケル、コバルトおよびマンガンを構成元素として含む層状構造の化合物(以下、「LiNiCoMn酸化物」ともいう。)を好ましく採用し得る。
【0018】
本発明によると、また、ここに開示されるいずれかの活物質粒子を用いてなるリチウム二次電池が提供される。かかるリチウム二次電池は、典型的には、正極と負極と非水電解液とを備える。そして、前記正極および負極のうち少なくとも一方(好ましくは正極)は、ここに開示されるいずれかの活物質粒子を有する中空活物質含有電極である。かかる構成のリチウム二次電池は、内部抵抗が低く、且つ充放電サイクル(特に、ハイレートでの放電を含む充放電サイクル)によっても抵抗の上昇の少ないものであり得る。
【0019】
ここに開示される活物質粒子を備えるリチウム二次電池は、出力特性およびその耐久性に優れたものとなり得ることから、車両に搭載されるリチウム二次電池として好適である。例えば、上記リチウム二次電池の複数個を直列に接続した組電池の形態で、自動車等の車両のモータ(電動機)用の電源として好適に利用され得る。したがって本発明によると、ここに開示されるいずれかの活物質粒子(ここに開示されるいずれかの方法により製造された活物質粒子であり得る。)を有するリチウム二次電池を備えた車両が提供される。
【0020】
本発明によると、また、リチウム二次電池等の非水二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)の構成材料として用いられる孔開き中空構造の活物質粒子を製造する方法が提供される。その活物質粒子は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子と、その内側に形成された中空部とを有する。前記二次粒子には、外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている。上記活物質粒子製造方法は、遷移金属化合物の水性溶液(典型的には水溶液)にアンモニウムイオンを供給して、前記遷移金属水酸化物の粒子を前記水性溶液から析出させる工程(原料水酸化物生成工程)を含む。ここで、前記水性溶液は、前記リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素の少なくとも一つを含む。上記製造方法は、また、前記遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して未焼成の混合物を調製する工程(混合工程)を含む。さらに、前記混合物を焼成して前記活物質粒子を得る工程(焼成工程)を含む。ここで、前記原料水酸化物生成工程は、pH12以上かつアンモニウムイオン濃度25g/L以下で前記水性溶液から前記遷移金属水酸化物を析出させる段階(核生成段階)と、その析出した遷移金属水酸化物をpH12未満かつアンモニウムイオン濃度3g/L以上で成長させる段階(粒子成長段階)とを含む。かかる製造方法によると、孔空き中空構造の活物質粒子を適切に製造することができる。この製造方法は、例えば、ここに開示されるいずれかの活物質粒子を製造する方法として好適に採用され得る。
【0021】
上記焼成工程は、最高焼成温度が800℃〜1100℃となるように行うことが好ましい。このことによって、上記一次粒子を十分に焼結させることができるので、所望の平均硬度を有する活物質粒子が好適に製造され得る。この焼成工程は、例えば、中空部および貫通孔以外の部分では一次粒子の粒界に実質的に隙間が存在しない二次粒子が形成されるように行うことが好ましい。
【0022】
ここに開示される活物質粒子製造方法の好ましい一態様では、前記焼成工程が、前記混合物を700℃以上900℃以下の温度T1で焼成する第一焼成段階と、その第一焼成段階を経た結果物を800℃以上1100℃以下であって且つ前記第一焼成段階における焼成温度T1よりも高い温度T2で焼成する第二焼成段階とを含む。これら第一および第二の焼成段階を含む態様で上記混合物を焼成することにより、ここに開示される好ましい孔開き中空構造を有する活物質粒子が適切に製造され得る。
【0023】
本発明によると、また、シート状の集電体に電極合材層が保持された構成のリチウム二次電池用電極を製造する方法が提供される。その方法は、ここに開示されるいずれかの活物質粒子と該活物質粒子を分散させる溶媒とを含む電極合材組成物を用意する工程を含む。また、前記電極合材組成物を集電体に付与する工程を含む。また、前記付与された組成物を乾燥させた後、プレスして電極合材層を形成する工程を含む。ここに開示される活物質粒子は、孔開き中空構造でありながら、上記プレスに耐える強度を有するものであり得る。かかる活物質粒子によると、上記方法で製造された電極(好ましくは正極)および該電極を用いて構築されたリチウム二次電池において、電池性能の向上に適した孔開き中空構造がよりよく維持され得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池が提供され得る。
【0024】
なお、この明細書により開示される事項には以下のものが含まれる。
正極と負極と非水電解液とを備えるリチウム二次電池であって、
前記正極は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が集合した二次粒子と、その内側に形成された中空部とを有し、前記二次粒子には外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている孔開き中空構造の活物質粒子を有し、
以下の特性:
(1)後述する実験例に記載の条件で行われるハイレートサイクル試験において、抵抗上昇率が3倍以下(好ましくは2倍以下、より好ましくは1.2倍以下)である;
(2)後述する実験例に記載の条件で行われる耐久サイクル試験において、低温(−30℃)反応抵抗の上昇率が2倍以下(好ましくは1.1倍以下、より好ましくは1.05倍以下、さらに好ましくは1.03倍以下)である;および、
(3)後述する実験例に記載の条件で行われる耐久サイクル試験において、容量維持率が90%以上である;
(4)後述する実験例に記載の条件で測定される低温(−30℃)初期反応抵抗が3Ω以下(好ましくは2Ω以下)である;
のうち一または二以上を満たす、リチウム二次電池。
上記孔開き中空構造の活物質粒子としては、ここに開示されるいずれかの活物質粒子を好ましく採用することができる。特性(1)〜(4)のうち少なくとも(1)を満たす電池が好ましく、少なくとも(1)および(2)を満たす電池がより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態に係る円筒型リチウム二次電池の構成を模式的に示す部分断面図である。
【図2】一実施形態に係る角型リチウム二次電池の構成を模式的に示す部分断面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】一実施形態に係る組電池の構成を模式的に示す部分断面図である。
【図5】孔開き中空構造を有する活物質粒子の一例を示す表面SEM像である。
【図6】孔開き中空構造を有する活物質粒子の一例を示す断面SEM像である。
【図7】リチウム二次電池を搭載した車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0027】
ここに開示される活物質粒子は、該粒子が電極活物質として機能し得るように構成された各種のリチウム二次電池に適用され得る。液状の非水電解質(すなわち非水電解液)を備えたリチウム二次電池への適用が特に好ましい。上記活物質粒子は、対極の活物質との組み合わせによって、正極活物質としても負極活物質としても利用され得る。これらのうち、正極活物質としての利用がより好ましい。
【0028】
以下、主としてリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)の正極活物質に適用する場合を例として本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲を限定する意図ではない。
【0029】
ここに開示される活物質粒子の材質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な各種のリチウム遷移金属酸化物であり得る。例えば、一般的なリチウム二次電池の正極に用いられる層状構造のリチウム遷移金属酸化物、スピネル構造のリチウム遷移金属酸化物等であり得る。層状構造のリチウム遷移金属酸化物としては、上記遷移金属として少なくともニッケルを含む酸化物(ニッケル含有リチウム複合酸化物)、少なくともコバルトを含む酸化物、少なくともマンガンを含む酸化物等が例示される。
【0030】
層状構造のリチウム遷移金属酸化物の一好適例として、ニッケル含有リチウム複合酸化物(Ni含有Li酸化物)が挙げられる。かかるNi含有Li酸化物は、LiおよびNi以外に、他の一種または二種以上の金属元素(すなわち、リチウムおよびニッケル以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含むものであり得る。例えば、LiおよびNi以外に、Al,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Mo,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上を含むものであり得る。遷移金属元素のうちの主成分がNiであるか、あるいは遷移金属元素としてNiと他の一種または二種以上の遷移金属元素(例えばCoおよびMn)とを概ね同程度の割合で含有するNi含有Li酸化物が好ましい。
【0031】
ここに開示される活物質粒子の好ましい組成として、下記一般式(I):
Li1+mNipCoqMnrs2 (I);
で表される層状Ni含有Li酸化物が例示される。ここで、上記式(I)において、Mは、Al,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,Ta,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上であり、0≦m≦0.2、0.1≦p≦0.9、0≦q≦0.5、0≦r≦0.5、0≦s≦0.02、p+q+r+s=1である。好ましい一態様では、0≦s<pであり、sが実質的に0(すなわち、Mを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。
【0032】
Ni含有Li酸化物の好適例として、少なくともCoおよびMnを含む酸化物(LiNiCoMn酸化物)が挙げられる。例えば、上記式(I)において0<q≦0.5かつ0<r≦0.5であるLiNiCoMn酸化物が好ましい。Ni,Co,Mnのうちの第一元素(原子数換算で最も多く含まれる元素)は、Ni,CoおよびMnのいずれであってもよい。好ましい一態様では、上記第一元素がNiである。好ましい他の一態様では、原子数換算で、Ni,CoおよびMnの含有量が概ね同程度である。
【0033】
ここに開示される活物質粒子は、二次粒子とその内側に形成された中空部とを有する中空構造であって、その二次粒子に外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成された孔開き中空活物質粒子である。上記二次粒子は、上述のようなリチウム遷移金属酸化物(好ましくは層状構造の酸化物、例えば層状Ni含有Li酸化物)の一次粒子が集合した形態を有する。
【0034】
ここに開示される活物質粒子の好ましい一態様では、該活物質粒子の平均硬度が概ね5MPa以上である。ここで、活物質粒子の平均硬度とは、直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック硬度測定により得られる値をいう。上記平均硬度としては、少なくとも10個の活物質粒子について上記測定を行って得られた結果の算術平均値を好ましく採用することができる。かかる平均硬度を有する活物質粒子によると、より高い性能を安定して発揮するリチウム二次電池が構築され得る。
【0035】
活物質粒子の硬度(該粒子の圧縮強度としても把握され得る。)が不足すると、電池の製造過程(例えば、後述する電極合材組成物の調整、電極合材層のプレス、電極シートの搬送、捲回等の際)において加わり得る応力や、電池の充放電に伴って電極合材層が体積変化することで加わり得る応力(圧縮力)等によって該活物質粒子の構造が崩れてしまい、所望の効果が発揮されなくなることがあり得る。上記充放電に起因して加わる応力により活物質粒子の構造が崩れる事象は、従来の多孔質構造の活物質粒子を用いた電池が充放電サイクルにより劣化しやすいことの一因であり得る。シート状の電極が緊密に捲回(例えば、円筒状に捲回)された捲回電極体を備える電池や、その捲回軸に対して横方向に応力を加えて拘束した形態で使用される電池では、上記充放電に起因する応力が電池の劣化に対して特に大きな影響を及ぼし得る。ここに開示される好ましい平均硬度を有する活物質粒子によると、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果(例えば、内部抵抗を低減する効果)を良好に発揮し、且つその効果の維持性(耐久性)に優れたリチウム二次電池が構築され得る。
【0036】
上記二次粒子の有する貫通孔の数は、該活物質粒子の一粒子当たりの平均として、凡そ20個以下(例えば1〜20個)であることが好ましく、凡そ1〜10個程度(例えば1〜3個)であることがより好ましい。このような平均貫通孔数を有する孔開き中空構造の活物質粒子は、従来の多孔質構造(すなわち、多数の孔を有する構造)の活物質粒子、例えば多孔質の外殻を有する多孔質中空粒子や、粒子全体が多孔質状(スポンジ状)に形成された多孔質粒子とは、構造上、明らかに区別されるものである。
【0037】
上記平均貫通孔数が多すぎると、二次粒子が脆くなって、中空形状を維持し難くなることがある。ここに開示される好ましい平均貫通孔数の活物質粒子によると、二次粒子の(ひいては活物質粒子の)強度を確保しつつ、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果(例えば、内部抵抗を低減する効果)を良好に、且つ安定して発揮することができる。
【0038】
上記貫通孔は、活物質粒子の外部と中空部とを比較的短い経路で連絡するように形成されていることが好ましい。好ましい一態様では、活物質粒子の断面に表れた貫通孔のうち50個数%以上(より好ましくは70個数%以上、例えば80個数%以上であり、90個数%であってもよい。)が、該貫通孔を通して活物質粒子の外部と中空部とを直線で結び得るように、活物質粒子の外殻(外部と中空部とを仕切る箇所)を貫通している。このような経路形状の貫通孔は、流路抵抗が小さいことから、該貫通孔を通して電解液が中空部に出入りしやすいので好ましい。活物質粒子の外殻をほぼ垂直に貫いて中空部に至る経路形状の貫通孔が50個数%以上(より好ましくは75個数%以上、例えば90個数%以上)であることが好ましい。
【0039】
ここに開示される活物質粒子の典型的な態様では、上記貫通孔が、平均で、最も狭い部分でも凡そ0.01μm以上の差渡し長さ(すなわち開口サイズ)を有する。この平均開口サイズが凡そ0.02μm以上であることが好ましく、凡そ0.05μm以上であることが更に好ましい。かかる開口サイズの貫通孔を有することにより、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果を適切に発揮することができる。一方、平均開口サイズが大きすぎると、活物質粒子の強度が低下しやすくなる場合がある。好ましい平均開口サイズの上限は、活物質粒子の平均粒径によっても異なり得る。通常は、平均開口サイズが上記活物質粒子の平均粒径の凡そ1/2以下であることが好ましく、凡そ1/3以下(例えば凡そ1/4以下)であることがより好ましい。また、活物質粒子の平均粒径に関わらず、貫通孔の平均開口サイズが凡そ2.5μmを超えないことが好ましい。このような平均開口サイズは、平均貫通孔数が凡そ1〜20個程度(好ましくは1〜10個程度)の活物質粒子において特に好適である。
【0040】
なお、上記平均貫通孔数、貫通孔の経路形状、平均開口サイズ等の特性値は、例えば、活物質粒子の断面をSEMで観察することにより把握することができる。例えば、活物質粒子または該活物質粒子を含む材料を適当な樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)で固めたサンプルを、適当な断面で切断し、その切断面を少しづつ削りながらSEM観察を行うとよい。あるいは、通常は上記サンプル中において活物質粒子の向き(姿勢)は概ねランダムであると仮定できることから、単一の断面または2〜10箇所程度の比較的少数の断面におけるSEM観察結果を統計的に処理することによっても上記特性値を算出し得る。
【0041】
ここに開示される活物質粒子の典型的な態様では、上記二次粒子を構成する一次粒子が互いに焼結している。かかる活物質粒子は、形状維持性が高い(崩れにくいこと;例えば平均硬度が高いこと、圧縮強度が高いこと等に反映され得る。)ものとなり得る。したがって、かかる活物質粒子によると、良好な電池性能を、より安定して発揮することができる。
【0042】
好ましい一態様では、二次粒子のうち中空部を囲む部分では、貫通孔の部分を除き、該二次粒子を構成する一次粒子が緻密に焼結している。例えば、SEM観察において上記一次粒子の粒界に実質的に隙間が存在しないように焼結していることが好ましい。かかる活物質粒子は、特に形状維持性の高いものとなり得るので好ましい。
【0043】
また、上記のように一次粒子が緻密(典型的には、少なくとも一般的な非水電池用電解液を通過させない程度に緻密に)に焼結された孔開き中空活物質粒子によると、該粒子の外部と中空部との間で電解液が流通し得る箇所が、貫通孔のある箇所に制限される。このことは、ここに開示される活物質粒子によってリチウム二次電池のハイレートサイクル特性向上効果が発揮される一つの要因となり得る。すなわち、例えば活物質を主成分とする正極合材層がシート状の集電体に保持された構成の正極がシート状のセパレータおよび負極とともに捲回された電極体を備える電池において、該電池の充放電を繰り返すと、充放電に伴う活物質の膨張収縮によって電極体(特に正極合材層)から電解液が絞り出され、これにより電極体の一部で電解液が不足して電池性能(例えば出力性能)が低下することがあり得る。上記構成の活物質粒子によると、貫通孔以外の部分では中空部内の電解液の流出が阻止されるので、正極合材層における電解液の不足を防止または軽減することができる。これにより、ハイレートサイクルにおける抵抗上昇を抑制することができる。一粒子当たりの平均貫通孔数が1〜20個(好ましくは1〜10個)程度である活物質粒子によると、かかる効果が特によく発揮され得る。
【0044】
ここに開示される活物質粒子は、BET比表面積が凡そ0.5〜1.9m/gの範囲にあることが好ましい。比表面積が小さすぎると、該活物質粒子を備えるリチウム二次電池において、電池性能を向上させる効果が少なくなりやすい。例えば、反応抵抗(特に、低温における反応抵抗)を向上させる効果が少なくなりがちである。一方、上記範囲よりも比表面積が小さすぎると、充放電サイクル(特に、ハイレートでの放電を含む充放電サイクル)による劣化の程度が大きくなりやすい。BET比表面積が1.2〜1.9m/gの範囲にある孔開き中空活物質粒子によると、より良好な電池性能を示すリチウム二次電池が構築され得る。例えば、ハイレートサイクルによる抵抗上昇率が低いこと、初期反応抵抗(特に、低温における初期反応抵抗)が低いこと、該反応抵抗が充放電サイクルを経ても上昇しにくいこと、充放電サイクルに対する容量維持率が高いこと、のうちの少なくとも一つの効果が実現され得る。なお、比表面積の値としては、一般的な窒素吸着法による測定値を採用することができる。
【0045】
活物質粒子の平均粒径は、凡そ2μm以上(例えば凡そ2μm〜25μm)であることが好ましい。平均粒径が小さすぎると、中空部の容積が小さいため電池性能を向上させる効果が少なくなりやすく、中空部の容積を確保しようとすると活物質粒子の外殻が薄くなって活物質粒子の強度が低下しやすくなる場合がある。平均粒径が凡そ3μmであることがより好ましい。また、活物質粒子の生産性等の観点からは、平均粒径が凡そ25μm以下であることが好ましく、凡そ15μm以下(例えば凡そ10μm以下)であることがより好ましい。好ましい一態様では、活物質粒子の平均粒径が凡そ3μm〜10μmである。なお、活物質粒子の平均粒径の値としては、一般的なレーザ回折式粒度分布測定による測定値を採用することができる。
【0046】
特に限定するものではないが、ここに開示される活物質粒子は、TAP密度が凡そ0.7〜2.5g/cmの範囲にあるものであり得る。上記TAP密度が凡そ1〜2g/cmである活物質粒子が好ましい。かかる活物質粒子によると、より良好なハイレートサイクル特性を示すリチウム二次電池が構築され得る。なお、TAP密度の値としては、JIS K5101に準拠して測定される値を採用することができる。
【0047】
ここに開示されるいずれかの孔開き中空活物質粒子は、例えば、該活物質粒子を構成するリチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属元素の少なくとも一つ(好ましくは、該酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の全部)を含む水性溶液から、該遷移金属の水酸化物を適切な条件で析出させ、その遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して焼成する方法により製造され得る。以下、かかる活物質粒子製造方法の一実施態様につき、層状構造のLiNiCoMn酸化物からなる孔開き中空活物質粒子を製造する場合を例として詳しく説明するが、この製造方法の適用対象をかかる組成の孔開き中空活物質粒子に限定する意図ではない。
【0048】
ここに開示される活物質粒子製造方法は、遷移金属化合物の水性溶液にアンモニウムイオン(NH)を供給して、該水性溶液から遷移金属水酸化物の粒子を析出させる工程(原料水酸化物生成工程)を含む。上記水性溶液を構成する溶媒(水性溶媒)は、典型的には水であり、水を主成分とする混合溶媒であってもよい。この混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール等)が好適である。上記遷移金属化合物の水性溶液(以下、「遷移金属溶液」ともいう。)は、製造目的たる活物質粒子を構成するリチウム遷移金属酸化物の組成に応じて、該リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素(ここではNi,CoおよびMn)の少なくとも一つ(好ましくは全部)を含む。例えば、水性溶媒中にNiイオン,CoイオンおよびMnイオンを供給し得る一種または二種以上の化合物を含む遷移金属溶液を使用する。これらの金属イオン源となる化合物としては、該金属の硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を適宜採用することができる。例えば、水性溶媒(好ましくは水)に硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが溶解した組成の遷移金属溶液を好ましく使用し得る。
【0049】
上記NHは、例えば、NHを含む水性溶液(典型的には水溶液)の形態で上記遷移金属溶液に供給されてもよく、該遷移金属溶液にアンモニアガスを直接吹き込むことにより供給されてもよく、これらの供給方法を併用してもよい。NHを含む水性溶液は、例えば、NH源となり得る化合物(水酸化アンモニウム、硝酸アンモニウム、アンモニアガス等)を水性溶媒に溶解させることにより調製することができる。本実施態様では、水酸化アンモニウム水溶液(すなわちアンモニア水)の形態でNHを供給する。
【0050】
上記原料水酸化物生成工程は、pH12以上(典型的にはpH12以上14以下、例えばpH12.2以上13以下)かつNH濃度25g/L以下(典型的には3〜25g/L)の条件下で上記遷移金属溶液から遷移金属水酸化物を析出させる段階(核生成段階)を含み得る。上記pHおよびNH濃度は、上記アンモニア水とアルカリ剤(液性をアルカリ性に傾ける作用のある化合物)との使用量を適切にバランスさせることにより調整することができる。アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を、典型的には水溶液の形態で用いることができる。本実施態様では水酸化ナトリウム水溶液を使用する。なお、本明細書中において、pHの値は、液温25℃を基準とするpH値をいうものとする。
【0051】
上記原料水酸化物生成工程は、さらに、上記核生成段階で析出した遷移金属水酸化物の核(典型的には粒子状)を、pH12未満(典型的にはpH10以上12未満、好ましくはpH10以上11.8以下、例えばpH11以上11.8以下)かつNH濃度3g/L以上(典型的には3〜25g/L)で成長させる段階(粒子成長段階)を含み得る。通常は、核生成段階のpHに対して、粒子成長段階のpHを0.1以上(典型的には0.3以上、好ましくは0.5以上、例えば0.5〜1.5程度)低くすることが適当である。上記pHおよびNH濃度は、核生成段階と同様にして調整することができる。この粒子成長段階は、上記pHおよびNH濃度を満たすように行われることにより、好ましくは上記pHにおいてNH濃度を15g/L以下(例えば1〜15g/L、典型的には3〜15g/L)、より好ましくは10g/L以下(例えば1〜10g/L、典型的には3〜10g/L)の範囲とすることにより、遷移金属水酸化物(ここでは、Ni,CoおよびMnを含む複合水酸化物)の析出速度が大きくなり、ここに開示されるいずれかの孔開き中空活物質粒子の形成に適した原料水酸化物粒子(換言すれば、孔開き中空構造の焼成物を形成しやすい原料水酸化物粒子)が生成し得る。上記NH濃度を7g/L以下(例えば1〜7g/L、より好ましくは3〜7g/L)としてもよい。粒子成長段階におけるNH濃度は、例えば、核生成段階におけるNH濃度と概ね同程度としてもよく、核生成段階におけるNH濃度より低くしてもよい。なお、遷移金属水酸化物の析出速度は、例えば、反応液に供給される遷移金属溶液に含まれる遷移金属イオンの合計モル数に対して、反応液の液相中に含まれる遷移金属イオンの合計モル数(合計イオン濃度)の推移を調べることにより把握され得る。
【0052】
核生成段階および粒子成長段階のそれぞれにおいて、反応液の温度は、凡そ30℃〜60℃の範囲のほぼ一定温度(例えば、所定の温度±1℃)となるように制御することが好ましい。核生成段階と粒子成長段階とで反応液の温度を同程度としてもよい。また、反応液および反応槽内の雰囲気は、核生成段階および粒子成長段階を通じて非酸化性雰囲気に維持することが好ましい。また、反応液に含まれるNiイオン,CoイオンおよびMnイオンの合計モル数(合計イオン濃度)は、核生成段階および粒子成長段階を通じて、例えば凡そ0.5〜2.5モル/Lとすることができ、凡そ1.0〜2.2モル/Lとすることが好ましい。かかる合計イオン濃度が維持されるように、遷移金属水酸化物の析出速度に合わせて遷移金属溶液を補充(典型的には連続供給)するとよい。反応液に含まれるNiイオン,CoイオンおよびMnイオンの量は、目的物たる活物質粒子の組成(すなわち、該活物質粒子を構成するLiNiCoMn酸化物におけるNi,Co,Mnのモル比)に対応する量比とすることが好ましい。
【0053】
本実施態様では、このようにして生成した遷移金属水酸化物粒子(ここでは、Ni,CoおよびMnを含む複合水酸化物粒子)を反応液から分離し、洗浄して乾燥させる。そして、この遷移金属水酸化物粒子とリチウム化合物とを所望の量比で混合して未焼成の混合物を調製する(混合工程)。この混合工程では、典型的には、目的物たる活物質粒子の組成(すなわち、該活物質粒子を構成するLiNiCoMn酸化物におけるLi,Ni,Co,Mnのモル比)に対応する量比で、Li化合物と遷移金属水酸化物粒子とを混合する。上記リチウム化合物としては、加熱により溶解し、酸化物となり得るLi化合物、例えば炭酸リチウム,水酸化リチウム等を好ましく用いることができる。
【0054】
そして、上記混合物を焼成して活物質粒子を得る(焼成工程)。この焼成工程は、典型的には酸化性雰囲気中(例えば大気中)で行われる。この焼成工程における焼成温度は、例えば700℃〜1100℃とすることができる。最高焼成温度が800℃以上(好ましくは800℃〜1100℃、例えば800℃〜1050℃)となるように行われることが好ましい。この最高焼成温度によると、リチウム遷移金属酸化物(好ましくはNi含有Li酸化物、ここではLiNiCoMn酸化物)の一次粒子の焼結反応を適切に進行させることができる。
【0055】
好ましい一態様では、上記混合物を700℃以上900℃以下の温度T1(すなわち700℃≦T1≦900℃、例えば700℃≦T1≦800℃、典型的には700℃≦T1<800℃)で焼成する第一焼成段階と、その第一焼成段階を経た結果物を800℃以上1100℃以下の温度T2(すなわち800℃≦T2≦1100℃、例えば800℃≦T2≦1050℃)で焼成する第二焼成段階とを含む態様で行う。このことによって、孔空き中空構造の活物質粒子をより効率よく形成することができる。T1およびT2は、T1<T2となるように設定することが好ましい。
【0056】
第一焼成段階と第二焼成段階とは、連続して(例えば、上記混合物を第一焼成温度T1に保持した後、引き続き第二焼成温度T2まで昇温して該温度T2に保持することにより)行ってもよく、あるいは、第一焼成温度T1に保持した後、いったん冷却(例えば、常温まで冷却)し、必要に応じて解砕や篩い分けを行ってから第二焼成段階に供してもよい。
【0057】
なお、ここに開示される技術において、上記第一焼成段階は、目的とするリチウム遷移金属酸化物の焼結反応が進行し且つ融点以下の温度域であって第二焼成段階よりも低い温度T1で焼成する段階として把握することができる。また、上記第二焼成段階は、目的とするリチウム遷移金属酸化物の焼結反応が進行し且つ融点以下の温度域であって第一焼成段階よりも高い温度T2で焼成する段階として把握することができる。T1とT2との間には50℃以上(典型的には100℃以上、例えば150℃以上)の温度差を設けることが好ましい。
【0058】
ここに開示される技術は、上述のような孔開き中空構造を有する活物質粒子を正極活物質として利用することによって特徴づけられる。したがって、本発明の目的を実現し得る限り、他の電池構成要素の材質や形状等は特に制限されず、従来のリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)と同様のものを用いることができる。上記正極活物質の好ましい利用態様の一例として、上記正極活物質を主成分(すなわち50質量%以上を占める成分、典型的には75質量%以上を占める成分)とする正極合材が集電体に保持された構成の正極、および該正極を備えるリチウム二次電池が挙げられる。
【0059】
上記集電体(正極集電体)の構成材料としては、従来の一般的なリチウム二次電池と同様、アルミニウム等の導電性金属材料を好ましく採用することができる。正極集電体の形状は、上記正極を用いて構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、例えば棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。ここに開示される技術は、シート状もしくは箔状の集電体上に正極合材の層が設けられた形態のリチウム二次電池用正極、および、該正極を構成要素とするリチウム二次電池に好ましく適用することができる。かかるリチウム二次電池の好ましい一態様として、シート状の正極および負極を典型的にはシート状のセパレータとともに捲回してなる電極体(捲回電極体)が、適当な非水電解質(典型的には液状の電解質、すなわち電解液)とともに外装ケースに収容された構成の電池が挙げられる。電池の外形は特に限定されず、例えば直方体状、扁平形状、円筒状等であり得る。
【0060】
正極合材は、ここに開示される孔開き中空構造の活物質粒子の他に、導電材、バインダ(結着剤)等の任意成分を必要に応じて含有し得る。上記導電材としては、一般的なリチウム二次電池の正極に使用される導電材と同様のもの等を適宜採用することができる。かかる導電材として、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうちアセチレンブラックおよび/またはファーネスブラックを好ましく採用することができる。
【0061】
正極合材全体に占める正極活物質の割合は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95質量%(例えば75〜90質量%)であることがより好ましい。また、正極合材全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、通常は凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、正極合材全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10質量%とすることができ、通常は凡そ2〜5質量%とすることが好ましい。
【0062】
なお、ここに開示される技術は、孔開き中空構造の活物質粒子と、他の粒子状または非粒子状の活物質材料(例えば、一般的な緻密構造の活物質粒子)とを併用する態様で実施され得る。例えば、一方の電極に具備される活物質材料全体のうち凡そ5質量%以上を上記孔開き中空構造の活物質粒子とすることにより、該孔開き中空活物質粒子の使用による効果が発揮され得る。通常は、上記孔開き中空活物質粒子を凡そ10質量%以上(好ましくは凡そ25質量%以上、例えば50質量%以上)用いることが適当である。上記活物質材料全体のうち75質量%以上(例えば90質量%以上)を上記孔開き中空活物質粒子とすることがより好ましい。好ましい一態様では、一方の電極(典型的には正極)に具備される活物質材料全体の実質的に全部を上記孔開き中空活物質粒子とする。
【0063】
正極集電体上に正極合材層を形成する操作は、例えば、上記正極活物質と、他の任意成分(導電材、バインダ等)とが適当な溶媒に分散した態様の正極合材組成物を用意(購入、調製等)し、その組成物(典型的にはペーストまたはスラリー状の組成物)を集電体の表面に付与(典型的には塗布)して乾燥させるとよい。溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒のいずれも使用可能である。非水溶媒の好適例として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0064】
上記バインダとしては、一般的なリチウム二次電池の正極に使用されるバインダと同様のもの等を適宜採用することができる。使用する溶媒に溶解または分散可溶なポリマーを選択することが好ましい。例えば、水性溶媒を用いた正極合材組成物においては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類;等の水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合材組成物においては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等のポリマーを好ましく採用することができる。なお、上記で例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、上記組成物の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0065】
正極合材組成物をシート状集電体に付与する操作は、従来公知の適当な塗布装置(スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を使用して好適に行うことができる。集電体の少なくとも片面(典型的には両面)の所定範囲に適当量の正極合材組成物を塗布して乾燥させた後、必要に応じて厚み方向にプレスすることにより、目的とする性状のシート状正極(正極シート)が得られる。上記プレスを行う方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等を適宜採用することができる。
【0066】
以下、ここに開示される孔開き中空構造の活物質粒子を正極に用いてなるリチウムイオン電池のいくつかの実施形態につき、図面を参照しつつ説明する。
【0067】
<第一実施形態>
本実施形態に係るリチウムイオン電池の概略構成を図1に示す。このリチウムイオン電池10は、正極12および負極14を具備する電極体11が、図示しない非水電解液とともに、該電極体を収容し得る形状の電池ケース15に収容された構成を有する。電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、上記開口部を塞ぐ蓋体154とを備える。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって相互に絶縁されており、それぞれ正負極の集電体122,142と電気的に接続されている。すなわち、このリチウムイオン電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子を兼ねている。
【0068】
電極体11は、ここに開示されるいずれかの正極活物質を含む正極合材層124が長尺シート状の正極集電体122上に設けられた正極(正極シート)12と、長尺シート状の負極集電体(例えば銅箔)142上に負極合材層144を有する負極(負極シート)14とを、二枚の長尺シート状セパレータ13と重ね合わせ、これらを円筒状に捲回することにより形成される。
【0069】
負極合材層144を構成する負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適例として、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好ましい。例えば、天然黒鉛等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。
【0070】
このような負極活物質を、典型的にはバインダ(正極側の合材層と同様のもの等を使用することができる。)および必要に応じて用いられる導電材(正極側の合材層と同様のもの等を使用することができる。)と混合してなる負極合材組成物を負極集電体142に塗布して乾燥させることにより、集電体142の所望する部位に負極合材層144を形成することができる。特に限定するものではないが、負極合材全体に占める負極活物質の割合は凡そ80質量%以上(例えば80〜99質量%)とすることができ、凡そ90質量%以上(例えば90〜99質量%、より好ましくは95〜99質量%)であることが好ましい。バインダを使用する組成では、負極合材全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ0.5〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1〜5質量%とすることが好ましい。
【0071】
正負極シート12,14と重ね合わせて使用されるセパレータ13としては、従来のリチウムイオン電池と同様の材料を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム)を好ましく使用し得る。
【0072】
正極集電体122の長手方向に沿う一方の縁には、正極合材層が設けられずに集電体122が露出した部分(正極合材層非形成部)が設けられている。同様に、負極集電体142の長手方向に沿う一方の縁には、負極合材層が設けられずに集電体142が露出した部分(負極合材層非形成部)が設けられている。正負極シート12,14は、図1に示すように、両合材層142,144を重ね合わせるとともに両電極シートの合材層非形成部がセパレータ13の長手方向に沿う一方の端部と他方の端部からそれぞれはみ出すように、幅方向にやや位置をずらして重ね合わされている。このはみ出し部に蓋体154およびケース本体152がそれぞれ接続されている。
【0073】
電解液としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。また、上記支持塩(支持電解質)としては、例えば、LiPF,LiBF,LiAsF,LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO等のリチウム塩を用いることができる。
【0074】
<第二実施形態>
本実施形態に係るリチウムイオン電池の概略構成を図2,3に示す。このリチウムイオン電池20は、偏平な角型形状の容器21(典型的には金属製であり、樹脂製であってもよい。)を備える。この容器21の中に捲回電極体30が収容されている。本実施形態の電極体30は、第一実施形態と同様の材料を用いてなる正極シート32、負極シート34および二枚のセパレータ33を、両電極シート32,34の合材層非形成部がセパレータ33の長手方向に沿う一方の端部と他方の端部からそれぞれはみ出すように重ね合わせて捲回し、その捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることにより、容器21の形状に合わせた扁平形状に形成されている。
【0075】
電極シート32,34には、外部接続用の正極端子24および負極端子26が電気的に接続されている。この接続は、両電極シート32,34の正極合材層非形成部のうちセパレータ33からはみ出した部分をそれぞれ捲回電極体30の径方向に寄せ集め、その寄せ集めた部分に正極端子24および負極端子26をそれぞれ接続(例えば溶接)することにより好適に行うことができる。端子24,26が接続された電極体30を容器21に収容し、その内部に適当な非水電解液(第一実施形態と同様のものを使用し得る。)を供給した後、容器21を封止することにより、本実施形態に係るリチウムイオン電池20が構築される。
【0076】
<第三実施形態>
本実施形態に係る組電池の概略構成を図4に示す。この組電池60は、第二実施形態に係る電池20の複数個(典型的には10個以上、好ましくは10〜30個程度、例えば20個)を用いて構築されている。これらの電池(単電池)20は、それぞれの正極端子24および負極端子26が交互に配置されるように一つづつ反転させつつ、容器21の幅広な面(すなわち、容器21内に収容される捲回電極体30の扁平面に対応する面)が対向する方向に配列されている。当該配列する単電池20間ならびに単電池配列方向(積層方向)の両アウトサイドには、所定形状の冷却板61が、容器21の幅広面に密接した状態で配置されている。この冷却板61は、使用時に各単電池内で発生する熱を効率よく放散させるための放熱部材として機能するものであって、単電池20間に冷却用流体(典型的には空気)を導入可能な形状(例えば、長方形状の冷却板61の一辺から垂直に延びて対向する辺に至る複数の平行な溝が表面に設けられた形状)を有する。熱伝導性の良い金属製もしくは軽量で硬質なポリプロピレンその他の合成樹脂製の冷却板61が好適である。
【0077】
上記配列させた単電池20および冷却板61(以下、これらを総称して「単電池群」ともいう。)の両アウトサイドに配置された冷却板61のさらに外側には、一対のエンドプレート68,69が配置されている。このように単電池20の積層方向に配列された単電池群およびエンドプレート68,69を含む全体(以下「被拘束体」ともいう。)が、両エンドプレート68,69間を架橋するように取り付けられた締め付け用の拘束バンド71によって、該被拘束体の積層方向(すなわち、捲回電極体30の軸に対して横方向)に、規定の拘束圧Pで拘束されている。より詳しくは、拘束バンド71の端部をビス72によりエンドプレート68に締め付け且つ固定することによって、上記積層方向に規定の拘束圧Pが加わるように(例えば、容器21の幅広面が受ける面圧として、上記拘束圧Pが0.1MPa〜10MPa程度となるように)拘束されている。そして、隣接する単電池20間において、一方の正極端子24と他方の負極端子26とが接続具67によって電気的に接続されている。このように各単電池20を直列に接続することにより、所望する電圧の組電池60が構築されている。
【0078】
以下、本発明に関するいくつかの実験例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0079】
<孔開き中空構造を有する活物質粒子(サンプル1〜12)の製造>
槽内温度40℃に設定された反応槽内にイオン交換水を入れ、攪拌つつ窒素ガスを流通させて、該イオン交換水を窒素置換するとともに反応槽内を酸素ガス(O)濃度2.0%の非酸化性雰囲気に調整した。次いで、25%水酸化ナトリウム水溶液と25%アンモニア水とを、液温25℃を基準として測定するpHが12.5となり且つ液中NH濃度が5g/Lとなるように加えた。
【0080】
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、Ni:Co:Mnのモル比が0.33:0.33:0.33となり且つこれら金属元素の合計モル濃度が1.8モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液を調整した。この混合水溶液と25%NaOH水溶液と25%アンモニア水とを上記反応槽内に一定速度で供給することにより、反応液をpH12.5、NH濃度5g/Lに制御しつつ、該反応液からNiCoMn複合水酸化物を晶析させた(核生成段階)。
【0081】
上記混合水溶液の供給開始から2分30秒経過したところで、25%NaOH水溶液の供給を停止した。上記混合水溶液および25%アンモニア水については引き続き一定速度で供給を行った。反応液のpHが11.6まで低下した後、25%NaOH水溶液の供給を再開した。そして、反応液をpH11.6且つNH濃度5g/Lに制御しつつ、上記混合水溶液、25%NaOH水溶液および25%アンモニア水を供給する操作を4時間継続してNiCoMn複合水酸化物粒子を成長させた(粒子成長段階)。その後、生成物を反応槽から取り出し、水洗して乾燥させた。このようにして、Ni0.33Co0.33Mn0.33(OH)2+α(ここで、式中のαは0≦α≦0.5である。)で表わされる組成の複合水酸化物粒子を得た。
【0082】
上記複合水酸化物粒子に対し、大気雰囲気中、150℃で12時間の熱処理を施した。次いで、リチウム源としてのLi2CO3と上記複合水酸化物粒子とを、リチウムのモル数(MLi)と上記複合水酸化物を構成するNi,CoおよびMnの総モル数(MMe)との比(MLi:MMe)が1.15:1となるように混合した。この混合物を760℃で4時間焼成し(第一焼成段階)、次いで950℃で10時間焼成した(第二焼成段階)。その後、焼成物を解砕し、篩分けを行った。このようにして、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.332で表わされる組成の活物質粒子サンプルを得た。
【0083】
上記の活物質粒子サンプル作製過程において、pH、NH濃度等の条件を調節することにより、より具体的には、核生成段階におけるpHを12〜13の間で異ならせ、また粒子成長段階におけるNH濃度を3〜10g/Lの間で異ならせることにより、表1に示す平均粒径(D50)およびBET比表面積を有するサンプル1〜12の活物質粒子を作製した。これらの活物質粒子サンプルの平均硬度を上記方法により測定したところ、いずれも0.5MPa〜10MPaの範囲にあることが確認された。
【0084】
サンプル1〜12の活物質粒子につき表面SEM観察を行った。その結果、いずれの活物質粒子サンプルにおいても、一次粒子が複数集合した二次粒子にいくつかの貫通孔が形成され、その貫通孔以外の部分では上記一次粒子が緻密に焼結していることが確認された。一例として、サンプル8の表面SEM像を図5に示す。図5中、丸で囲んだ部分は、このSEM像において貫通孔の存在が認められる箇所である。
【0085】
<多孔質構造を有する活物質粒子(サンプル13,14)の製造>
硝酸リチウム、硝酸ニッケル、硝酸コバルトおよび硝酸マンガンを、Li:Ni:Co;Mnのモル比が1.15:0.33:0.33:0.33となり且つこれら金属元素の合計モル濃度が1.5モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液を調整した。
この混合水溶液のミストを700℃の加熱炉中に導入して熱分解させることにより、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.332で表わされる組成の複合酸化物粒子を得た(噴霧熱分解法)。この粒子を950℃で10時間加熱(アニール)して、表1に示す平均粒径、比表面積および平均硬度を有するサンプル13,14の活物質粒子を得た。なお、サンプル13と14とは、上記ミストの平均液滴径を互いに異ならせて製造したものである。
【0086】
得られた活物質粒子サンプル13,14につき、サンプル1〜12と同様に平均粒径および比表面積を測定した。また、これらのサンプルの外観を上記走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、いずれのサンプルについても、粒子表面に多数の孔が存在する多孔質構造であることが確認された。また、これらの活物質粒子サンプルの平均硬度を上記方法により測定したところ、いずれも0.05MPa〜0.1MPaの範囲にあることが確認された。
【0087】
<中実構造の活物質粒子(サンプル15〜21)の製造>
オーバーフローパイプを備え槽内温度40℃に設定された反応槽内に、イオン交換水を入れ、攪拌しつつ窒素ガスを流通させて、該イオン交換水を窒素置換するとともに反応槽内を酸素ガス(O)濃度2.0%の非酸化性雰囲気に調整した。次いで、25%水酸化ナトリウム水溶液と25%アンモニア水とを、液温25℃を基準として測定するpHが12.0となり且つ液中NH濃度が15g/Lとなるように加えた。
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、Ni:Co:Mnのモル比が0.33:0.33:0.33となり且つこれら金属元素の合計モル濃度が1.8モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液を調整した。この混合水溶液と25%NaOH水溶液と25%アンモニア水とを上記反応槽内に、該反応槽内に析出するNiCoMn複合水酸化物粒子の平均的な滞留時間が10時間となる一定速度で供給し、且つ反応液をpH12.0、NH濃度15g/Lになるように制御して連続的に晶析をさせ、反応槽内が定常状態になった後に、上記オーバーフローパイプよりNiCoMn複合水酸化物(生成物)を連続的に採取し、水洗して乾燥させた。このようにして、Ni0.33Co0.33Mn0.33(OH)2+α(ここで、式中のαは0≦α≦0.5である。)で表わされる組成の複合水酸化物粒子を得た。
【0088】
上記複合水酸化物粒子に対し、大気雰囲気中、150℃で12時間の熱処理を施した。次いで、リチウム源としてのLi2CO3と上記複合水酸化物粒子とを、リチウムのモル数(MLi)と上記複合水酸化物を構成するNi,CoおよびMnの総モル数(MMe)との比(MLi:MMe)が1.15:1となるように混合した。この混合物を760℃で4時間焼成し、次いで950℃で10時間焼成した。その後、焼成物を解砕し、篩分けを行った。このようにして、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.332で表わされる組成の活物質粒子サンプルを得た。
【0089】
上記の活物質粒子サンプル作製過程において、滞留時間、pH等の条件を調節することにより、表1に示す平均粒径(D50)およびBET比表面積を有するサンプル15〜21の活物質粒子を作製した。得られた活物質粒子サンプル15〜21につき、サンプル1〜12と同様に平均粒径および比表面積を測定した。また、これらのサンプルの外観を上記走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、いずれのサンプルについても緻密構造であることが確認された。また、これらの活物質粒子サンプルの平均硬度を上記方法により測定したところ、いずれも5MPa〜30MPaの範囲にあることが確認された。
【0090】
<正極シートの作製>
上記で得られた活物質粒子サンプルと、導電材としてのアセチレンブラックと、PVDFとを、これら材料の質量比が85:10:5となり且つ固形分濃度(NV)が約50質量%となるようにNMPと混合して、各活物質粒子サンプルに対応する正極合材組成物を調製した。
【0091】
これらの正極合材組成物を厚さ15μmの長尺状アルミニウム箔(集電体)の両面に塗布した。上記組成物の塗布量(固形分基準)は、両面合わせて約12.8mg/cmとなるように調整した。その塗布物を乾燥させた後、ロールプレスを行って、集電体の両面に正極合材層を有するシート状正極(正極シート)を得た。該正極シートの全体の厚みは約70μmであった。このようにして、各活物質粒子サンプルに対応する計21種の正極シートを作製した。
【0092】
この正極シートを厚み方向に切断し、アルゴンイオンビームを用いたクロスセクションポリッシュ法にて切断面を研摩し、上記走査型電子顕微鏡で断面観察を行った。その観察結果から、各サンプルにおける貫通孔の平均開口サイズを求めた。それらの結果を表1に示す。また、上記観察結果から求めた平均貫通孔数は、サンプル1〜12のいずれについても一粒子当たり1〜10個であった。なお、この断面観察において、いずれのサンプルについても、貫通孔の50個数%以上は、該貫通孔を通して活物質粒子の外部と中空部とを直線で結び得るように、且つ二次粒子を外部から中空部までほぼ垂直に貫通していることが確認された。また、いずれのサンプルについても、中空部および貫通孔以外の箇所では、二次粒子を構成する一次粒子が緻密に焼結していることが確認された。一例として、サンプル8の断面SEM像を図6に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
<リチウムイオン電池の作製>
天然黒鉛粒子とSBRとCMCとを、これら材料の質量比が98:1:1であり且つNVが45質量%となるようにイオン交換水と混合して、水系の活物質組成物(負極合材組成物)を調製した。この組成物を厚さ約10μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥させ、ロールプレスを行った。このようにして、集電体の両面に負極合材層を有するシート状負極(負極シート)を作製した。該負極シートの全体の厚みは約50μmであった。
【0095】
上記で作製した各正極シートと負極シートとを二枚の長尺状セパレータ(ここでは、厚さ20μmの多孔質ポリエチレンシートを用いた。)とともに積層し、その積層シートを長尺方向に捲回して捲回電極体を作製した。この電極体を非水電解液とともに外装ケースに収容して、18650型リチウムイオン電池を構築した。非水電解液としては、ECとDMCとEMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に1mol/Lの濃度でLiPFを溶解した組成のものを使用した。その後、上記で構築した各電池に対し、1/10Cの充電レートで3時間の定電流充電を行い、さらに1/3Cの充電レートで4.1Vまで定電流で充電する操作と、1/3Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電させる操作とを2〜3回繰り返す初期充放電処理を行って、各活物質粒子サンプルに対応する計21種のリチウムイオン電池を得た。なお、これらの電池の定格容量は、いずれも300mAhである。
【0096】
<ハイレートサイクルによる抵抗上昇率>
上記で作製した各電池をSOC(State of Charge)60%に調整し、25℃の温度下にて20Cの定電流で放電させ、その電圧降下から初期IV抵抗を求めた。
【0097】
次に、各電池を再びSOC60%に調整し、25℃において、以下の(I)〜(VI)からなる充放電サイクルを1万回繰り返すハイレートサイクル試験を行った。その間、100サイクル毎に、SOCを60%に調整する操作を行った。
(I).20C(ここでは6Ah)の定電流で10秒間放電させる。
(II).5秒間休止する。
(III).5Cの定電流で40秒間充電する。
(IV).5秒間休止する。
【0098】
上記ハイレートサイクル試験後の各電池につき、初期IV抵抗の測定と同様にして、ハイレートサイクル後IV抵抗を測定した。そして、ハイレートサイクル後のIV抵抗値を初期のIV抵抗値で除すことにより、上記ハイレートサイクル試験による抵抗上昇率(倍)を算出した。
【0099】
<低温初期反応抵抗>
上記で作製した各電池につき、測定温度−30℃において、測定周波数範囲0.001〜10000Hz、振幅5mVの条件で交流インピーダンス測定を行い、Cole−Coleプロットの等価回路フィッティングにより直流抵抗Rsolおよび反応抵抗Rct(初期反応抵抗)を求めた。
【0100】
<耐久性評価>
上記低温初期反応抵抗測定後の電池に対し、60℃において、SOC0%〜100%(上限電圧4.1V、下限電圧3.0V)の範囲で4C(1.2Ah)の定電流充電と4Cの定電流放電とを500回繰り返す耐久サイクル試験を行った。上記耐久サイクル試験後の各電池につき、低温初期反応抵抗の測定と同様にして、耐久サイクル後の低温反応抵抗を測定した。そして、耐久サイクル後の反応抵抗値を初期の反応抵抗値で除すことにより、上記耐久サイクル試験による抵抗上昇率(倍)を算出した。
【0101】
また、上記で作製した各電池を、25℃の温度条件下にて4.1Vまで1Cの定電流で充電し、続いて合計充電時間が2時間となるまで定電圧で充電した。かかるCC−CV充電後の電池を25℃に24時間保持した後、25℃において、4.1Vから3.0Vまで1Cの定電流で放電させ、続いて合計放電時間が2時間となるまで定電圧で放電させて、このときの放電容量(初期容量)を測定した。この初期容量測定後の電池に対して上記耐久サイクル試験を行った。その耐久サイクル後の電池を、25℃において4.1Vから3.0Vまで1Cの定電流で放電させ、続いて合計放電時間が2時間となるまで定電圧で放電させて、このときの放電容量(サイクル後容量)を測定した。そして、次式:{(サイクル後容量)/(初期容量)}×100;により、上記500回の充放電サイクルにおける容量維持率(%)を求めた。
以上の結果を表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
表1,2に示されるように、孔開き中空構造(ただし多孔質構造ではない)を有するサンプル1〜12の活物質粒子を用いた電池によると、20Cのハイレート放電を伴う1万回のハイレートサイクルを経ても、抵抗上昇率は3倍以下(ここでは2倍以下、より詳しくは1.6倍以下)に抑えられていた。BET比表面積が1.2m/g以上(より詳しくは1.2m/g以上1.9m/g以下)であるサンプル6〜12によると、上記ハイレートサイクルによる抵抗上昇率が1.2倍以下という、特に良好な結果が得られた。また、これらサンプル6〜12を用いた電池は、低温(−30℃)における初期反応抵抗の値がいずれも2Ω以下と低く、出力性能(特に、低温における出力性能)に優れるものであった。さらに、上記低温反応抵抗上昇率のデータからわかるように、サンプル1〜12の活物質粒子を用いた電池は、上記耐久試験による低温反応抵抗の上昇率が5%以下であり、極めて高い耐久性性能を示した。また、上記耐久試験における容量維持率はいずれも90%以上と良好であった。
【0104】
一方、多孔質構造の活物質粒子(サンプル13,14)や緻密構造の活物質粒子(サンプル15〜21)は、上記ハイレートサイクルによる抵抗上昇率がいずれも3倍以上であり、耐久性に欠けるものであった。また、多孔質構造の活物質粒子では、緻密構造の活物質粒子に比べて初期の低温反応抵抗を低下させる効果は認められたものの、その効果の耐久性に欠けることが確認された。すなわち、サンプル13,14の活物質粒子を用いた電池は、上記耐久試験によって低温反応抵抗がいずれも2倍以上に増大した。さらに、サンプル13,14に係る電池はいずれも容量維持率が80%未満であった。
【0105】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
ここに開示される技術により提供されるリチウム二次電池は、上記のように優れた性能を示すことから、各種用途向けのリチウム二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適に使用され得る。かかるリチウム二次電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。したがって、ここに開示される技術によると、図7に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池(組電池の形態であり得る。)10を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1が提供され得る。
【符号の説明】
【0107】
1 自動車(車両)
10 リチウムイオン電池
11 電極体
12 正極(正極シート)
13 セパレータ
14 負極(負極シート)
122 正極集電体
124 正極合材層
142 負極集電体
144 負極合材層
20 リチウムイオン電池(単電池)
24 正極端子
26 負極端子
30 電極体
32 正極シート
33 セパレータ
34 負極シート
60 組電池
61 冷却板
67 接続具
68,69 エンドプレート
71 拘束バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用の活物質粒子であって、
リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子と、その内側に形成された中空部とを有する中空構造を構成しており、
前記二次粒子には、外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されており、
BET比表面積が0.5〜1.9m/gである、活物質粒子。
【請求項2】
前記貫通孔の開口幅が平均0.01μm以上である、請求項1に記載の活物質粒子。
【請求項3】
直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック硬度測定において、平均硬度が0.5MPa以上である、請求項1または2に記載の活物質粒子。
【請求項4】
前記貫通孔の数は、前記活物質粒子の一粒子当たり平均1〜20個である、請求項1から3のいずれか一項に記載の活物質粒子。
【請求項5】
平均粒径が3μm〜10μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の活物質粒子。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属酸化物は、ニッケルを構成元素として含む層状構造の化合物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の活物質粒子。
【請求項7】
前記リチウム遷移金属酸化物は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを構成元素として含む層状構造の化合物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の活物質粒子。
【請求項8】
正極と負極と非水電解液とを備えるリチウム二次電池であって、
前記および負極のうち少なくとも一方は、請求項1から7のいずれか一項に記載の活物質粒子を有する中空活物質含有電極である、リチウム二次電池。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の電池を備える、車両。
【請求項10】
リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子と、その内側に形成された中空部とを有し、前記二次粒子には外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている孔開き中空構造の活物質粒子を製造する方法であって:
遷移金属化合物の水性溶液にアンモニウムイオンを供給して、前記遷移金属水酸化物の粒子を前記水性溶液から析出させる原料水酸化物生成工程、ここで、前記水性溶液は、前記リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素の少なくとも一つを含む;
前記遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して未焼成の混合物を調製する混合工程;および、
前記混合物を焼成して前記活物質粒子を得る焼成工程;
を包含し、
ここで、前記原料水酸化物生成工程は、pH12以上かつアンモニウムイオン濃度25g/L以下で前記水性溶液から前記遷移金属水酸化物を析出させる核生成段階と、その析出した遷移金属水酸化物をpH12未満かつアンモニウムイオン濃度3g/L以上で成長させる粒子成長段階とを含む、非水電池用活物質粒子製造方法。
【請求項11】
前記焼成工程は、最高焼成温度が800℃〜1100℃となるように行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記焼成工程は、前記混合物を700℃以上900℃以下の温度T1で焼成する第一焼成段階と、その第一焼成段階を経た結果物を800℃以上1100℃以下であって且つ前記第一焼成段階における焼成温度T1よりも高い温度T2で焼成する第二焼成段階とを含む、請求項10または11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−119092(P2011−119092A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274381(P2009−274381)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】