説明

流体ドロップレットの合体

本発明は、概して流体種の制御のための方法に関し、特に流体ドロップレットの合体に関する。ある例では、当該方法はマイクロ流体のものである。一局面において、本発明は、チャネル内の2つ以上の流体ドロップレットを合体する方法に関する。流体ドロップレットは、ある場合にはサイズの異なるものであり得る。一部の実施形態において、第1の流体ドロップレット(21)を第1の速度で移動させ得、第2の流体ドロップレット(22)を第1の速度とは異なる、例えば、第1の速度よりも実質的に大きい第2の速度で移動させ得る。次いでドロップレットは例えば電場の印加時に合体し得る。一部の場合には、2系列の流体ドロップレットが合体し得、一方または両方の系列は実質的に均一である。ある場合には、1系列以上のドロップレットはそれぞれ本質的に、実質的に均一な数のその中の種の実体(すなわち、分子、細胞、粒子等)から成り得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して流体種の制御のためのシステムおよび方法に関し、特に、流体ドロップレットの合体に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の送達、製品の製造、分析などの目的に対する、望ましい構成の流体流、すなわち、不連続な流体流、ドロップレット、粒子、分散などを形成するための流体の操作は、比較的よく研究されている分野である。例えば、キャピラリフローフォーカシングと称される技術を使用して、直径100ミクロン未満の高度に単分散の気泡が生成されている。この技術においては、気体はキャピラリチューブから液体槽内へ押し出され、このチューブは小オリフィスの上に配置されており、このオリフィスを通過する外部液体の縮流が、気体を細い噴流に集中させ、それは次いでキャピラリ不安定性によって同じサイズの泡に分裂する。関連技術として、空気中で液体ドロップレットを生成するために同様の配置が使用され得る。
【0003】
非特許文献1の論文は、細かい噴霧を発生させる、層流加速気体流による微細液体糸の形成について記載している。非特許文献2の論文は、マイクロ流体クロスフローを介して、特に2つのマイクロ流体チャネルの間の「T」接合部において、流れている油中に水を導入することによって、連続的な油相内に不連続な水相を形成することについて記載している。
【0004】
2000年9月19日に発行された特許文献1は、例えば生体流体の分析において流体媒体中の微細粒子を分析するために、第1および第2の試料流体流を空間的に閉じ込めるための流体フォーカシングチャンバを有する微細加工デバイスについて記載している。2000年9月12日に発行された特許文献2は、キャピラリマイクロジェットの形成、および当該マイクロジェットの分離による単分散エアロゾルの形成について記載している。2001年2月13日に発行された特許文献3は、2つの不混和流体の相互作用によって生成される、約1ミクロンから約5ミクロンまでのサイズ範囲の霧状粒子について記載している。2001年6月19日に発行された特許文献4は、マイクロジェットおよび当該マイクロジェットが分離する際に形成される単分散エアロゾルを使用する、食品への導入のための粒子の生成について記載している。
【0005】
マイクロ流体システムは、種々の文脈において、代表的にはミニチュアサイズの実験室的(例えば、臨床的)分析の文脈において記載されている。その他の使用法も同様に記載されている。例えば、Andersonらによる、2001年5月25日に出願され、「Patterning of Surfaces Utilizing Microfluidic Stamps Including Three−Dimensionally Arrayed Channel Networks」と題されたPCT/US01/17246号であって、2001年11月29日に特許文献5として公開されたものは、生体材料および細胞などの材料のパターンを表面上に提供するために使用され得る、多階層マイクロ流体システムについて記載している。その他の出版物が、弁、スイッチ、およびその他のコンポーネントを含むマイクロ流体システムについて記載している。
【0006】
マクロまたはマイクロ流体スケールの動力学においては、著しい進歩が遂げられているが、改良された技術およびこれらの技術の成果が必要とされている。
【特許文献1】米国特許第6,120,666号明細書
【特許文献2】米国特許第6,116,516号明細書
【特許文献3】米国特許第6,187,214号明細書
【特許文献4】米国特許第6,248,378号明細書
【特許文献5】国際公開第01/89788号パンフレット
【非特許文献1】Ganan−Calvo、「Generation of Steady Liquid Microthreads and Micron−Sized Monodisperse Sprays and Gas Streams」Phys.Rev.Lett.、80:2、1998年1月12日、285−288
【非特許文献2】Thorsen,et al.、「Dynamic Pattern Formation in a Vesicle−Generating Microfiuidic Device」Phsy.Rev.Lett.、86:18、2001年4月30日
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は概して、流体ドロップレットの合体に関する。本発明の主題は、一部の場合には、相互に関連する生成物、特定の問題に対する代替的な解決策、ならびに/または、1つ以上のシステムおよび/もしくは物品の複数の異なる使用法を含む。
【0008】
本発明は、一局面において、ドロップレットまたはマイクロカプセルを合体させるための技術を含む。一実施形態において、第1の流体ドロップレットおよび第2の流体ドロップレットを収納するチャネルを備えるマイクロ流体システムを提供するステップと、チャネル内において、第1の速度で第1のドロップレットを移動させ、チャネル内において、第1の速度よりも実質的に大きな第2の速度で第2のドロップレットを移動させるステップと、第1の流体ドロップレットと第2の流体ドロップレットとが合体しないように、第2の流体ドロップレットを第1の流体ドロップレットと接触させるステップと、第1のドロップレットと第2のドロップレットとが合体して1つの複合ドロップレットとなるように、第1の流体ドロップレットと第2の流体ドロップレットとのうちの少なくとも1つに電場を印加するステップと、を含む方法が提供される。
【0009】
別の実施形態において、ドロップレットの第1の流体流を提供するステップであって、第1の流体流内のドロップレットは、約100ミクロン未満の平均直径を有し、ドロップレットの約5%以下のものが平均直径の約10%よりも大きい直径を有するような直径の分布を有する、ステップと、ドロップレットの第2の流体流を提供するステップであって、第1の流体流内のドロップレットは、第2の流体流内のドロップレットの平均直径の約125%よりも大きい平均直径を有する、ステップと、ドロップレットの第1の流体流の少なくとも1つのドロップレットとドロップレットの第2の流体流の少なくとも1つのドロップレットとが合体して1つの複合ドロップレットとなるように、ドロップレットの第1の流体流の少なくとも1つのドロップレットおよびドロップレットの第2の流体流の少なくとも1つのドロップレットに電場を印加するステップと、を含む方法が提供される。
【0010】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載の実施形態のうちの1つ以上を作成する方法を対象とする。別の局面において、本発明は、本明細書に記載の実施形態のうちの1つ以上を使用する方法を対象とする。
【0011】
添付の図面と併せて考察するときには、本発明の種々の限定的でない実施形態についての以下の詳細な説明から、本発明のその他の利点および新規な特徴が明らかになる。本明細書と、参考として援用される文書とが相反するおよび/または矛盾する開示を含む場合には、本明細書が優先するものとする。参考として援用される2つの文書が互いに相反するおよび/または矛盾する開示を含む場合には、より遅い発効日を有する文書が優先するものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
添付の図を例として参照し、本発明の限定的でない実施形態が説明されるが、これらの図は概略図であって、縮尺に従って描かれることを意図したものではない。図中、図示されている同一またはほぼ同一の各コンポーネントは、一般に単一の数字によって表されている。明瞭化のために、すべての図においてすべてのコンポーネントに符号が付けられているわけではなく、当業者が本発明を理解する上で図示が必要でない場合には、本発明の各実施形態のすべてのコンポーネントが示されるわけでもない。
【0013】
本発明は概して流体種の制御のためのシステムおよび方法に関し、特に、流体ドロップレットの合体に関する。ある場合には、当該システムおよび方法は、マイクロ流体のものである。一局面において、本発明は、チャネル内の2つ以上の流体ドロップレットを合体させるためのシステムおよび方法に関する。流体ドロップレットは、ある場合には、サイズの異なるものであり得る。一部の実施形態において、第1の流体ドロップレットが、第1の速度で移動させられ、第2の流体ドロップレットが、第1の速度とは異なる、例えば第1の速度よりも実質的に大きな第2の速度で移動させられ得る。次いでドロップレットは、例えば電場の印加時に合体し得る。電場が存在しない場合には、一部の場合において、ドロップレットは合体することができない。一部の場合において、2系列の流体ドロップレットが合体することができ、一方または両方の系列は実質的に均一である。例えば、1系列のドロップレットは、ドロップレットの約5%以下のものが平均直径の約10%よりも大きい直径を有するような、直径の分布を有し得る。ある場合には、1系列以上のドロップレットは、それぞれ本質的に、実質的に均一な数のその中の種の実体(すなわち、分子、細胞、粒子、など)から成り得る。一部の場合には、反応を開始するために、および/または反応を停止するために、流体ドロップレットが合体され得る。例えば、ドロップレット合体後に第1のドロップレット内の種が第2のドロップレット内の種と接触した際に、反応が開始され得、または、第1のドロップレットが進行中の反応を含有し得、第2のドロップレットが当該反応を阻害する種を含有し得る。本発明のその他の実施形態は、流体ドロップレットの合体を促進するためのキットまたは方法を対象とする。
【0014】
一局面において、本発明は、すべて多種多様なスケールで、他の液体内に流体流(ドロップレットであってもよい)を形成すること、流体を組み合わせること、ドロップレットを組み合わせることなどの目的のための、流体チャネル、制御、および/もしくは制約事項、またはそれらの組み合わせを含む。ある実施形態において、例えば組成、表面張力、サイズなどによって通常は2つのドロップレットを融合または合体させることができない場合に、2つのドロップレットを融合または合体させるためのシステムおよび方法が提供される。例えば、マイクロ流体システムにおいて、流体ドロップレットの表面張力は、それらのサイズと相対的に、流体ドロップレットの融合を防止し得る。流体ドロップレットは、それぞれ独立に気体または液体を含有し得る。
【0015】
1セットの実施形態において、ドロップレットを融合または合体させるために、2つ(以上)の流体ドロップレットに電場が印加され得る。当業者にとって公知である任意の適切な技術を使用して、電荷が生成され得、例えば、ドロップレットを収納するチャネルに電場が与えられ得、ドロップレットがコンデンサを通過し得、化学反応が起こってドロップレットを荷電させ得る、などである。例えば、一実施形態において、電場は、マイクロ流体チャネルのような、チャネルの一部に隣接して生成され得る。電場は、例えば電場発生器、すなわち、例えば実質的にチャネルに向けられた、電場を生み出すことができるシステムから生成され得る。適切な電場を生成するための技術は、当業者にとって公知である。例えば、電場は、例えば図3Bに示すように、チャネルに隣接して配置された電極の間に電圧を印加することによって生成され得る。電極は、当業者にとって公知であるように、例えば銀、金、銅、炭素、プラチナ、銅、タングステン、スズ、カドミウム、ニッケル、インジウム・スズ酸化物(「ITO」)、などのような、任意の適切な電極材料から作られ得る。電極は、同じ材料からでも、または異なる材料からでも形成され得る。一部の場合には、透明なまたは実質的に透明な電極が使用され得る。
【0016】
ある実施形態において、電場発生器は、流体内に少なくとも約0.01V/マイクロメータの電場を、および、一部の場合には、少なくとも約0.03V/マイクロメータ、少なくとも約0.05V/マイクロメータ、少なくとも約0.08V/マイクロメータ、少なくとも約0.1V/マイクロメータ、少なくとも約0.3V/マイクロメータ、少なくとも約0.5V/マイクロメータ、少なくとも約0.7V/マイクロメータ、少なくとも約1V/マイクロメータ、少なくとも約1.2V/マイクロメータ、少なくとも約1.4V/マイクロメータ、少なくとも約1.6V/マイクロメータ、または、少なくとも約2V/マイクロメータの電場を生成するように、構築および配置され得る。一部の実施形態において、例えば、少なくとも約2V/マイクロメータ、少なくとも約3V/マイクロメータ、少なくとも約5V/マイクロメータ、少なくとも約7V/マイクロメータ、または、少なくとも約10V/マイクロメータ以上の、さらに高い電場が使用され得る。
【0017】
印加された電場は、液体によって取り囲まれた流体ドロップレットに、電荷または少なくとも部分電荷を誘起することができる。一部の場合には、流体および液体は、チャネル、マイクロ流体チャネル、または、その他の狭い空間内に存在し得、それは、例えば液体内の流体の動きを制限することによって、電場が当該場に置かれることを助長する。流体ドロップレット内の流体と液体とは、本質的に不混和性、すなわち、問題の時間スケール(例えば、流体ドロップレットが特定のシステムまたはデバイスを貫流するために要する時間)において不混和性であり得る。一部の場合には、流体は、その他の実体、例えば、ある種の分子種(例えば、以下でさらに論じるようなもの)、細胞(例えば、流体によってカプセル化されたもの)、粒子、などを含有し得る。一実施形態において、流体は1系列の流体ドロップレットとして液体内に存在する。
【0018】
液体が当該液体内に1系列の流体ドロップレットを含有する場合には、1セットの実施形態において、ドロップレットの系列は実質的に均質な直径の分布を有し得、例えば、一部の場合において、ドロップレットは、当該ドロップレットの約10%、約5%、約3%、約1%、約0.03%、または約0.01%以下のものが、当該ドロップレットの平均直径の約10%、約5%、約3%、約1%、約0.03%、または約0.01%よりも大きい平均直径を有するような直径の分布を有し得る。1系列を超える流体ドロップレット(例えば、異なる2つの源から発生したもの)が使用される場合には、当該系列のそれぞれは、一部の場合には、実質的に均質な直径の分布を有し得るが、各系列内の流体の平均直径は必ずしも同じでなくてもよい。
【0019】
別セットの実施形態において、一方または両方のドロップレットに、2つのドロップレットを融合または合体させる電荷または部分電荷が誘起され得る。電荷は、任意の適切な技術を使用して、例えば、前述のように電場内に流体を置くことによって、または、流体に電荷を持たせる反応、例えば化学反応、イオン反応、光触媒反応、などを起こさせることによって、液体内の流体ドロップレットに置かれ得る。1セットの実施形態において、流体ドロップレット内の流体は、導電体であり得る。本明細書において使用する場合、「伝導体」は、少なくとも約18MOhmの伝導度の水の伝導度を有する任意の材料である。流体ドロップレットを取り囲んでいる液体は、流体ドロップレットの伝導度に満たない任意の伝導度を有し得る、すなわち、当該液体は、絶縁体または「漏洩絶縁体」であり得る。限定的でない一実施形態において、流体ドロップレットは実質的に親水性であり得、流体ドロップレットを取り囲んでいる液体は、実質的に疎水性であり得る。
【0020】
1セットの実施形態において、流体ドロップレットに置かれる電荷は、少なくとも約10−22C/立方マイクロメートルであり得る。ある場合には、電荷は、少なくとも約10−21C/立方マイクロメートルであり得、他の場合には、電荷は少なくとも約10−20C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−19C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−18C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−17C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−16C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−15C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−14C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−13C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−12C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−11C/立方マイクロメートル、少なくとも約10−10C/立方マイクロメートル、または、少なくとも約10−9C/立方マイクロメートル以上であり得る。別セットの実施形態において、流体ドロップレットに置かれる電荷は、少なくとも約10−21C/平方マイクロメートル(流体ドロップレットの表面積)であり得、一部の場合には、電荷は、少なくとも約10−20C/平方マイクロメートル、少なくとも約10−19C/平方マイクロメートル、少なくとも約10−18C/平方マイクロメートル、少なくとも約10−17C/平方マイクロメートル、少なくとも約10−16C/平方マイクロメートル、少なくとも約10−15C/平方マイクロメートル、少なくとも約10−14C/平方マイクロメートル、または、少なくとも約10−13C/平方マイクロメートル以上であり得る。さらに別セットの実施形態において、電荷は、少なくとも約10−14C/ドロップレット、であり得、一部の場合には、少なくとも約10−13C/ドロップレット、他の場合には少なくとも約10−12C/ドロップレット、他の場合には少なくとも約10−11C/ドロップレット、他の場合には少なくとも約10−10C/ドロップレット、または、さらに他の場合には少なくとも約10−9C/ドロップレット、であり得る。
【0021】
さらに、本発明の一部の実施形態によると、電場の電気的性質により、極めて急速な合体および/または反応速度が実現され得る。例えば、毎秒少なくとも約10ドロップレットが融合または合体され得、他の場合には、毎秒少なくとも約20ドロップレット、毎秒少なくとも約30ドロップレット、毎秒少なくとも約100ドロップレット、毎秒少なくとも約200ドロップレット、毎秒少なくとも約300ドロップレット、毎秒少なくとも約500ドロップレット、毎秒少なくとも約750ドロップレット、毎秒少なくとも約1000ドロップレット、毎秒少なくとも約1500ドロップレット、毎秒少なくとも約2000ドロップレット、毎秒少なくとも約3000ドロップレット、毎秒少なくとも約5000ドロップレット、毎秒少なくとも約7500ドロップレット、毎秒少なくとも約10,000ドロップレット、毎秒少なくとも約15,000ドロップレット、毎秒少なくとも約20,000ドロップレット、毎秒少なくとも約30,000ドロップレット、毎秒少なくとも約50,000ドロップレット、毎秒少なくとも約75,000ドロップレット、毎秒少なくとも約100,000ドロップレット、毎秒少なくとも約150,000ドロップレット、毎秒少なくとも約200,000ドロップレット、毎秒少なくとも約300,000ドロップレット、毎秒少なくとも約500,000ドロップレット、毎秒少なくとも約750,000ドロップレット、毎秒少なくとも約1,000,000ドロップレット、毎秒少なくとも約1,500,000ドロップレット、毎秒少なくとも約2,000,000ドロップレット以上、または、毎秒少なくとも約3,000,000ドロップレット以上が、融合または合体され得る。また、電場は、容易に活性化または不活性化され得、流体ドロップレットのいくつかに、または何割かに印加される、などが可能である。さらに、流体ドロップレットの合体は特定の、所定時刻および/またはチャネル内の場所において起こり得る。例えば、化学反応は、第1の流体ドロップレットと第2の流体ドロップレットが合体または融合すると起こり(および/または起こるのを中止し)得る。
【0022】
1セットの実施形態によると、流体ドロップレットは、マイクロ流体チャネルなどのチャネル内に収納される。「チャネル」は、本明細書において使用する場合、流体の流れを少なくとも部分的に方向付ける、物品(基質)の上またはその中の形状的特徴を意味する。チャネルは、任意の断面形状(円形、楕円形、三角形、不規則形、正方形、または長方形、など)を有し得、覆われていても覆われていなくてもよい。チャネルが完全に覆われている実施形態においては、当該チャネルの少なくとも一部が、完全に包囲された断面を有し得、または、チャネル全体が、その入口および出口を除く全長にわたって完全に包囲され得る。チャネルはまた、少なくとも2:1、より一般的には少なくとも3:1、5:1、または10:1以上のアスペクト比(長さ対平均断面寸法)を有し得る。開放チャネルは一般に、流体輸送の制御を容易にする特徴、例えば構造的特徴(細長い刻み目)および/または物理的もしくは化学的特徴(疎水性対親水性)、または、流体に力(例えば、封じ込める力)を及ぼし得るその他の特徴を含む。チャネル内の流体は、チャネルを部分的にまたは完全に満たし得る。開放チャネルが使用される一部の場合において、流体は、例えば表面張力(すなわち、凹面または凸面メニスカス)を使用してチャネル内に保持され得る。
【0023】
チャネルは、例えば、約5mmもしくは2mm未満、または約1mm未満、または約500ミクロン未満、約200ミクロン未満、約100ミクロン未満、約60ミクロン未満、約50ミクロン未満、約40ミクロン未満、約30ミクロン未満、約25ミクロン未満、約10ミクロン未満、約3ミクロン未満、約1ミクロン未満、約300nm未満、約100nm未満、約30nm未満、または約10nm未満の、流体流れに垂直な最大寸法を有する任意のサイズのものであり得る。一部の場合には、チャネルの寸法は、流体が物品または基質を自由に貫流するように選ばれる。チャネルの寸法はまた、例えばチャネル内における流体の、ある値の体積流量または線流速を可能にするように選ばれ得る。当然ながら、チャネルの数およびチャネルの形状は、当業者にとって公知である任意の方法によって変更され得る。一部の場合には、1つを超えるチャネルまたはキャピラリが使用され得る。例えば、2つ以上のチャネルが使用され得、この場合、当該チャネルは互いに内側に配置される、互いに隣接して配置される、互いに交差して配置される、などとされる。
【0024】
本発明の別セットの実施形態によると、融合または合体される流体ドロップレットは、同じサイズである必要も、同じ体積または直径を有する必要もない。例えば、第1のドロップレット(例えば、ドロップレットの第1系列からのもの)は、第2の流体ドロップレット(例えば、ドロップレットの第2系列からのもの)よりも大きい体積を有し得、例えば、第1のドロップレットが、第2のドロップレットの約125%よりも大きい平均直径を有し、一部の場合には、第2のドロップレットと比較して、約150%よりも大きい、約200%よりも大きい、約300%よりも大きい、400%よりも大きい、500%よりも大きい、などの平均直径を有する。より小さい流体ドロップレット32がより大きいドロップレット31と融合する限定的でない例が、図3Bに示されている。
【0025】
1セットの実施形態において、ドロップレットの合一が起こり得るように互いに接触させられる2つ(以上)の流体ドロップレットは、「同期して」生成される、すなわち、流体ドロップレットは実質的に同時に生成される。例えば、同じ周波数で生成される2系列の流体ドロップレットは、当該2系列の流体ドロップレットが接触するように配列され得る。しかしながら、他の実施形態において、流体ドロップレットは「非同期的に」生成される、すなわち、実質的に同時には生成されない。例えば、流体ドロップレットの第1の系列と流体ドロップレットの第2の系列とが融合または合体させられ得、この場合、第1の系列および第2の系列は実質的に同時には生成されず、異なる時刻に、不規則な時刻に、などに生成される。流体ドロップレットの第1の系列と流体ドロップレットの第2の系列の速度は、同じであってもよいし、一部の場合には異なってもよい。
【0026】
一例として、1セットの実施形態において、チャネル33内のドロップレットの第1の系列31およびチャネル34内のドロップレットの第2の系列32(チャネル内を流れる流体の方向を矢印37で示す)を有する図3Aに示すように、流体ドロップレットの第1の系列および流体ドロップレットの第2の系列が、異なる速度および/または時刻でチャネルに導入され得る。図3Aにおいて、ドロップレットの第1の系列31は、ドロップレットの第2の系列の速度よりも大きい速度でチャネル35に入る。次いで流体ドロップレットは、チャネル内を異なる速度で前進し得、その結果として、それらは接触させられる。
【0027】
チャネル内において異なる速度で流体ドロップレットを移動させるための限定的でない1つの方法は、チャネル内の流体ドロップレットを放物線状流れに置くこと、すなわち、チャネル内に層流が存在することである。そのようなシステムにおいて、小さい流体ドロップレットは大きい流体ドロップレットが経験するものよりも高い、それを押す流体平均速度を経験するために、小さい流体ドロップレットは大きい流体ドロップレットよりも迅速に移動する。チャネル内において異なる速度で流体ドロップレットを移動させるための限定的でない他の方法は、異なる物理的特徴、例えば、異なる表面張力、粘度、密度、質量、などを有する流体ドロップレットを使用することである。
【0028】
特定の、限定的でない例としてここで図5Aを参照すると、チャネル55(例えば、円形または長方形であり得る)において、当該チャネル内の液体は、放物線状の流れプロファイル56を有し得る。チャネル55内の小さいドロップレット52は、それを押すより高い流体平均速度を受け(例えば、小さいドロップレットは放物線状の流れプロファイル56の「頂点」のみを経験するために)、一方では、チャネル55内の大きいドロップレット51は、より低い流体平均速度を受ける。かくして、生成される流体ドロップレットのサイズを選択する(例えば、チャネル内の流体ドロップレットが異なる平均流速で移動するように)ことによって、小さい流体ドロップレットは大きい流体ドロップレットよりもより大きい速度で移動することができる。したがって、チャネル内において、小さい流体ドロップレットは大きい流体ドロップレットに「追いつく」ことができ、それによって、例えば、それらの融合または合体が起こる前に、2つの流体ドロップレットが物理的に接触する。例えば、小さい流体ドロップレットは、大きい流体ドロップレットの速度の少なくとも約125%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、または少なくとも約500%の速度で移動することができる。
【0029】
限定的でない例が図3Aに示されており、ここで、チャネル34からの流体ドロップレット31は、チャネル31からの流体ドロップレット32よりも先にチャネル35へ入る。流体ドロップレットは、群36によって示すように、分離され、接触してない。しかしながら、流体ドロップレット32は流体ドロップレット31の速度よりも大きい速度で移動するために、流体ドロップレット31は、群39によって示すように、流体ドロップレット32に「追いつく」。しかしながら、ドロップレットは、群39によって示すように物理的に接触しているときにおいても、例えば電場の不在下では、必ずしも合体し得ない。
【0030】
上述のように、2つ以上のドロップレットを融合または合体させる1つの方法は、例えば印加された電場の作用によって、ドロップレットの1つ以上に電荷または部分電荷を付与することである。したがって、ここで図3Bを参照すると、ドロップレット31および32は物理的に接触しているが、それらのサイズおよび/または表面張力などにより、合体も融合もしない。ドロップレットの表面張力を低下させるために界面活性剤が適用されても、ドロップレットは融合し得ない。しかしながら、電圧源40を使用して電極41と42との間に電圧を発生することによって生成され、互いに最も近い表面上に反対の電荷または電気双極子を帯びるようにドロップレットを誘起する、電場の印加時には、ドロップレット31および32は融合して複合ドロップレット38を形成する。ドロップレットは、2つのドロップレット間における流体の「ブリッジ」の生成によって融合することができ、これは、2つの流体間の電荷‐電荷相互作用によって起こり得る。2つのドロップレット間における流体の「ブリッジ」の生成は、かくして当該2つのドロップレットが物質を交換し、および/または1つのドロップレットに合体することを可能にする。「ブリッジ」の一例が図5Bに示されており、ここで、ドロップレット流体51および52は、「ブリッジ」68の形成を介して融合する。このように、一部の実施形態において、本発明は、サイズおよび/または表面張力、などによって通常ならばそのような合体が起こり得ないシステムにおいて、2つの別個のドロップレットの、1つの合体ドロップレットへの合体を提供する。
【0031】
しかしながら、2つのドロップレットが「合体する」ときに、当該2つのドロップレットの完全な混合は、瞬時に起こるものではないことに留意すべきである。むしろ、図5Bに示すように、チャネル65内の複合ドロップレット60は、当初は第1の領域63(第1のドロップレット61からの)および第2の領域64(第2のドロップレット62からの)で形成され得る。一部の場合には、2つの領域は別個の領域として残る場合があり、それにより、例えば第1の流体ドロップレットと第2の流体ドロップレットがそれぞれ異なる組成を有する場合には、不均一な流体ドロップレットをもたらす。一部の場合には、ドロップレット内の2つの領域は、ドロップレット内における流体の流れにより、(さらなる混合要因がなければ)分離したままで残り得る。ドロップレットは、一部の場合には2つの流体が実質的に混合すること妨げ得る、内部の「反回転的」流れを呈する場合もある。例えば、図5Cにおいて、第1のドロップレット71と第2のドロップレット72とが合体して第1の領域73および第2の領域74を有する複合ドロップレット70を形成するが、これらの領域は複合ドロップレット70が方向77に移動する際に混合しない。
【0032】
しかしながら、他の場合には、複合ドロップレット内の2つの領域が、混合、反応、あるいは互いに相互作用することが可能となり得、均一に(すなわち、完全に)混合された、または少なくとも部分的に混合された流体ドロップレットをもたらす。混合は、自然過程によって、例えば、拡散(例えば、2つの領域間の界面を通じて)によって、2つの流体の互いの反応によって、または、ドロップレット内における流体流れ(すなわち、対流)によって起こり得る。しかしながら、一部の場合には、流体ドロップレット内における混合は、何らかの方式で促進され得る。例えば、ドロップレットは、何らかの方法で当該ドロップレットに方向を変えさせる1つ以上の領域を通過し得る。方向の変化は、液体内の対流パターンを変更し、2つの流体が混合されることを可能にし、少なくとも部分的に混合されたドロップレットをもたらし得る。
【0033】
1セットの実施形態において、2つ(以上)の流体ドロップレットの合体は、流体ドロップレットの1つ以上の中に含有される1つ以上の反応物を伴う反応を制御するために使用され得る。一例として、第1の流体ドロップレットが第1の反応物を含有し、第2の流体ドロップレットが第2の反応物を含有し得、ここで、第1の反応物と第2の反応物が接触したときに反応が起こる。したがって、第1および第2の流体ドロップレットの合体前には、第1および第2の反応物は直接接触しておらず、したがって反応することができない。例えば電場の印加によって、合体後に、第1および第2の反応物は接触し、反応が進行し得る。かくして、反応は、例えば印加された電場によって決定されるような、ある一定の時刻および/またはチャネル内のある一定の地点において反応が起こるように、制御され得る。反応が何らかの方法で(例えば、色変化を使用して)測定可能なものである場合には、当該反応は、時間またはチャネル内における移行距離の関数として測定され得る。一実施形態において、反応は、沈殿反応であり得る(例えば、2つ以上の反応物が反応して、粒子、例えば量子ドットを生成し得る)。2つの反応物は、例えば、2つの反応性化学物質、2つのタンパク質、酵素と基質、2つの核酸、タンパク質と核酸、酸と塩基、抗体と抗原、配位子と受容体、化学物質と触媒、などであり得る。
【0034】
別の例として、一方または両方のドロップレットが細胞であり得る。例えば、両方のドロップレットが細胞である(または、それを含有する)場合には、2つの細胞が融合され、例えばハイブリドーマを作成し得る。別の例においては、一方のドロップレットが細胞であり、他方のドロップレットが、細胞に送達される物質、例えば核酸(例えば、遺伝子治療用のDNA)、タンパク質、ホルモン、ウイルス、ビタミン、抗酸化物質、などを含有し得る。
【0035】
さらに別の例として、融合または合体される2つのドロップレットのうちの一方が、進行中の化学反応(例えば、酵素と基質との)を含有し得、一方では、他方のドロップレットが当該化学反応に対する阻害物質を含有し、当該阻害物質は、競争または非競争阻害により、反応を部分的にまたは完全に阻害することができる(すなわち、第2の反応物が第1の反応物と反応し、第1の反応物がその他の反応に関与することを阻害する)。このようにして、ドロップレットの合体は、例えば部分的または完全に、進行中の化学反応を阻害することができる。一部の実施形態において、2つの元のドロップレットの混合の前後に、合体ドロップレットに対してさらなる反応および/またはその他のステップが実行され得る。
【0036】
一部の場合には、反応は極めて厳密に制御され得る。例えば、流体ドロップレットは本質的に、実質的に均一な数の、その中の種の実体(すなわち、分子、細胞、粒子など)から成り得る。例えば、ドロップレットの90%、93%、95%、97%、98%、または99%以上が、それぞれ同数の特定の種の実体を含有し得る。例えば、そのようにして生成される相当数のドロップレットは、それぞれ1個の実体、2個の実体、3個の実体、4個の実体、5個の実体、7個の実体、10個の実体、15個の実体、20個の実体、25個の実体、30個の実体、40個の実体、50個の実体要素、60個の実体要素、70個の実体、80個の実体、90個の実体、100個の実体、などを含有し得、ここで、実体は、分子または巨大分子、細胞、粒子、などである。一部の場合には、ドロップレットは、例えば、20個未満の実体、15個未満の実体、10個未満の実体、7個未満の実体、5個未満の実体、または3個未満の実体、などの、ある範囲の実体を含有し得る。このようにして、各流体ドロップレット内の反応物の数または量を制御することによって、反応の高度な制御が実現され得る。
【0037】
別のセットの実施形態において、合体された流体ドロップレットは、硬化されて固体にされ得る。本明細書において使用する場合、流体流の「硬化」は、それによって流体流の少なくとも一部分が、固体または少なくとも半固体状態(例えば、ゲル、粘弾性固体、など)に変換される過程をいう。そのような硬化は、ドロップレットの融合または合体が起こった後に起こり得る。
【0038】
本発明の1セットの実施形態にしたがって、システムのコンポーネントを形成するために、多種多様な材料および方法が使用され得る。一部の場合には、選択された種々の材料が、種々の方法に役立つ。例えば、本発明のコンポーネントは固体材料から形成され得、その中において、チャネルが、マイクロマシニング、スピンコーティングおよび化学気相成長法のような膜堆積プロセス、レーザ加工、フォトリソグラフィ技術、湿式化学的またはプラズマ処理を含むエッチング法、などによって形成され得る。例えば、Angellらの、「Scientific American」、248:44−55(1983年)を参照されたい。一実施形態において、当該システムの少なくとも一部は、シリコンチップ内に形状的特徴をエッチングすることによって、シリコンで形成される。シリコンから本発明のデバイスを正確かつ効率的に加工するための技術は公知である。別の実施形態において、当該セクション(またはその他のセクション)はポリマーから形成され得、また、弾性ポリマーまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE;Teflon(登録商標))、などであり得る。
【0039】
異なるコンポーネントは、異なる材料で加工され得る。例えば、底壁および側壁を含む基部は、シリコンまたはPDMSのような不透明材料から加工され得、頂部は、流体プロセスの観察および制御のために、ガラスまたは透明ポリマーのような透明材料から加工され得る。内部チャネル壁と接触する流体に対して、望ましい化学的機能性を露出するために、コンポーネントは被覆され得、ここで、基部を支持する材料は、正確な望ましい機能性を有さない。例えば、コンポーネントは図示のように加工され得、内部チャネル壁は別の材料で被覆される。
【0040】
本発明のデバイスを加工するために使用される材料、または流体チャネルの内壁を被覆するために使用される材料は、望ましくは、デバイスを貫流する流体に悪影響を及ぼすことも、それによって悪影響を及ぼされることもない材料、例えば、デバイス内で使用される流体の存在下で化学的に不活性な材料から選択され得る。
【0041】
一実施形態において、本発明のコンポーネントは、ポリマー性および/または可撓性および/または弾性材料から加工され、好都合にも、硬化可能な流体から形成され得、成形(例えば、レプリカ成形、射出成形、注型成形、など)による加工を容易にする。硬化可能な流体は、本質的に、ネットワーク構造内において、およびそれと共に使用することが意図される流体を含有および輸送することができる固体になるように、固体化を誘起され得る、または自発的に固体化する、任意の流体アートであり得る。一実施形態において、硬化可能な流体は、高分子液体または液状ポリマー前駆体(すなわち、「プレポリマー」)を含む。適切な高分子液体は、例えば、それらの融点を超えて加熱された熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、またはそのようなポリマーの混合物を含み得、あるいは、適切な溶媒中の1つ以上のポリマーの溶液であって、例えば蒸発によって溶媒を除去すると固体ポリマー材料を形成する、ポリマーの溶液を含み得る。例えば溶融状態から、または溶媒の蒸発によって固体化され得るそのようなポリマー材料は、当業者にとっては周知である。その多くが弾性的である種々のポリマー材料が適切であり、鋳型原型の一方または両方が弾性材料から構成される実施形態のために、鋳型または鋳型原型を形成するのにも適している。そのようなポリマーの限定的でないリストは、シリコンポリマー、エポキシポリマー、およびアクリレートポリマーの一般等級のポリマーを含む。エポキシポリマーは、一般にエポキシ基、1,2‐エポキシド、またはオキシランと称される三員環エーテル基の存在を特徴とする。例えば、芳香族アミン、トリアジン、および脂環式骨格に基づく化合物に加えて、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルが使用され得る。別の例は、周知のノボラックポリマーを含む。本発明による使用に適したシリコンエラストマーの例は、メチルクロロシラン、エチルクロロシラン、およびフェニルクロロシラン、などのクロロシラン類を含む前駆体から形成されたものを含む。
【0042】
1セットの実施形態において、シリコンポリマー、例えばシリコンエラストマーポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。例示的なポリジメチルシロキサンポリマーは、Dow Chemical Co.(ミシガン州ミッドランド)によってSylgardの商標名で販売されているもの、特に、Sylgard182、Sylgard184、およびSylgard186を含む。PDMSを含むシリコンポリマーは、本発明のマイクロ流体構造体の加工を簡略化するいくつかの有益な特性を有する。例えば、そのような材料は、安価で、容易に入手可能であり、かつ、熱による硬化によってプレポリマー液から固体化され得る。例えば、PDMSは一般に、例えば約1時間の曝露時間の間、例えば約65℃から約75℃の温度にプレポリマー液を曝露することによって硬化される。また、PDMSのようなシリコンポリマーは弾性的であり得、したがって、本発明のある実施形態において必要な、比較的高いアスペクト比を有する極めて小型の形状的特徴を形成するために有用であり得る。可撓性(例えば、弾性的)の鋳型または原型は、この点で有利となり得る。
【0043】
PDMSのようなシリコンポリマーから、本発明のマイクロ流体構造体のような構造体を形成することの1つの利点は、そのようなポリマーの、例えば空気プラズマのような酸素含有プラズマに対する曝露によって酸化する能力であり、その結果として、酸化した構造体はその表面に、その他の酸化したシリコンポリマー表面と、または、多種多様なその他のポリマー材料および非ポリマー材料の酸化した表面と架橋することができる化学基を含有する。このようにして、コンポーネントが加工され、次いで酸化されて、別個の接着剤またはその他の密閉手段を必要とせずに、その他のシリコンポリマー表面に対して、または、酸化したシリコンポリマー表面と反応するその他の基質の表面に対して、本質的に不可逆的に密封され得る。ほとんどの場合に、密封を形成するために補助的な圧力を印加する必要なしに、単に酸化したシリコン表面を別の表面と接触させることによって密封が完成され得る。すなわち、予め酸化されたシリコン表面は、適切な結合面に対して接触接着剤として作用する。具体的には、それ自体に対して不可逆的に密封可能であることに加えて、酸化したPDMSのような酸化したシリコンはまた、例えば、PDMS表面と同様の方式で(例えば、酸素含有プラズマに対する曝露によって)酸化した、ガラス、シリコン、酸化ケイ素、石英、窒化ケイ素、ポリエチレン、ポリスチレン、ガラス状炭素、およびエポキシポリマーを含む、それ自体以外の酸化した材料の範囲に対して、不可逆的に密封され得る。本発明の文脈において有用な酸化および密封方法、ならびに全般的な成形技術は、本明細書において参考として援用される、Duffyらの、「Rapid Prototyping of Microfluidic Systems and Polydimethylsiloxane」、Analytical Chemistry、Vol.70、474−480頁、1998年、に記載されている。
【0044】
酸化したシリコンポリマーから本発明のマイクロ流体構造体(または、内部の、流体接触面)を形成することの別の利点は、これらの表面が、一般的な弾性ポリマーの表面よりもはるかに親水性であることである(親水性の内面が望ましい場合)。したがって、そのような親水性のチャネル表面は、一般的な、酸化されてない弾性ポリマーまたはその他の疎水性材料で構成された表面よりも、より容易に水溶液で満たされ、湿らされ得る。
【0045】
一実施形態において、底壁は、1つ以上の側壁もしくは頂壁、またはその他のコンポーネントとは異なる材料で形成される。例えば、底壁の内面は、シリコンウエハもしくはマイクロチップ、またはその他の基質の表面を含み得る。その他のコンポーネントは、上述のように、そのような代替基質に対して密封され得る。異なる材料の基質(底壁)に対して、シリコンポリマー(例えば、PDMS)を含むコンポーネントを密封することが望ましい場合には、酸化したシリコンポリマーが不可逆的に密封することができる材料の群(例えば、酸化されたガラス、シリコン、酸化ケイ素、石英、窒化ケイ素、ポリエチレン、ポリスチレン、エポキシポリマー、およびガラス状炭素表面)のうちから、基質が選択されることが好ましい。代替案として、当業者にとって明らかなように、別個の接着剤の使用、熱結合、溶媒結合、超音波溶接、などを含むがこれらに限定されない、その他の密封技術が使用され得る。
【0046】
以下の定義は、本発明の理解を助ける。本明細書において使用する場合、「細胞」は、生物学において使用されるような普通の意味が与えられている。細胞は、任意の細胞または細胞型であり得る。例えば、細胞は、細菌もしくはその他の単細胞生物、植物細胞、または動物細胞であり得る。細胞が単細胞生物である場合には、当該細胞は、例えば原生動物、トリパノソーマ、アメーバ、酵母細胞、藻類、などであり得る。細胞が動物細胞である場合には、当該細胞は、例えば無脊椎動物細胞(例えば、ミバエに由来する細胞)、魚細胞(例えば、ゼブラフィッシュ細胞)、両生類細胞(例えば、カエル細胞)、爬虫類細胞、鳥類細胞、または、霊長類細胞、ウシ細胞、ウマ細胞、ブタ細胞、ヤギ細胞、イヌ細胞、ネコ細胞、もしくはラットもしくはマウスのようなげっ歯類に由来する細胞のような哺乳類細胞であり得る。細胞が多細胞生物に由来する場合には、当該細胞は当該生物の任意の部分に由来するものであり得る。例えば、細胞が動物に由来する場合には、当該細胞は、心臓細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、肝細胞、軟骨細胞、神経細胞、骨細胞、筋細胞、血液細胞、内皮細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、好塩基球、肥満細胞、好酸球)、幹細胞、などであり得る。一部の場合には、細胞は、遺伝子組み換え細胞であり得る。ある実施形態において、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞または3T3細胞であり得る。
【0047】
すべてではなく一部の実施形態において、本明細書に記載するシステムおよび方法のすべてのコンポーネントは、マイクロ流体のものである。「マイクロ流体」は、本明細書において使用する場合、1mm未満の断面寸法および少なくとも3:1の長さ対最大断面寸法の比率を有する、少なくとも1つの流体チャネルを含むデバイス、装置、またはシステムをいう。「マイクロ流体チャネル」は、本明細書において使用する場合、これらの基準を満たすチャネルである。
【0048】
チャネルの「断面寸法」は、流体流れの方向に対して垂直に計測される。本発明のコンポーネント内にあるほとんどの流体チャネルは、2mm未満、一部の場合においては1mm未満の最大断面寸法を有する。1セットの実施形態において、本発明の実施形態を含むすべての流体チャネルは、マイクロ流体のものであるか、または2mmもしくは1mm以下の最大断面寸法を有する。別の実施形態において、流体チャネルは、部分的に単一のコンポーネント(例えば、エッチングされた基質または成形されたユニット)で形成され得る。当然ながら、流体を大量に貯蔵するために、および流体を本発明のコンポーネントへ送達するために、より大きいチャネル、チューブ、チャンバ、容器などが使用され得る。1セットの実施形態において、本発明の実施形態を含むチャネルの最大断面寸法は、500ミクロン未満、200ミクロン未満、100ミクロン未満、50ミクロン未満、または25ミクロン未満である。
【0049】
チャネル内の流体ドロップレットは、チャネルの平均断面寸法の約90%よりも小さい断面寸法を有し得、またある実施形態においては、チャネルの平均断面寸法の約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約3%、約1%、約0.5%、約0.3%、約0.1%、約0.05%、約0.03%、または約0.01%よりも小さい断面寸法を有し得る。
【0050】
本明細書において使用する場合、「一体型」は、コンポーネントの部分が、コンポーネントを互いに切断または壊さずには、互いに分離されることができないような手法で接合されていることを意味する。
【0051】
「ドロップレット」は、本明細書において使用する場合、第2の流体によって完全に取り囲まれた第1の流体の単離部分である。ドロップレットは必ずしも球形ではなく、例えば外部環境に応じてその他の形状をとり得ることに留意されたい。一実施形態において、ドロップレットは、当該ドロップレットが位置する流体流れに垂直なチャネルの最大寸法と実質的に等しい最小断面寸法を有する。
【0052】
ドロップレットの集団の「平均直径」は、ドロップレットの直径の算術平均である。当業者であれば、例えばレーザ光散乱またはその他の公知の技術を使用して、ドロップレットの集団の平均直径を測定することができる。非球形のドロップレットにおいて、ドロップレットの直径は、表面全体にわたって一体化されたドロップレットの数学的に定義された平均直径である。限定的でない例として、ドロップレットの平均直径は、約1mm未満、約500マイクロメートル未満、約200マイクロメートル未満、約100マイクロメートル未満、約75マイクロメートル未満、約50マイクロメートル未満、約25マイクロメートル未満、約10マイクロメートル未満、または約5マイクロメートル未満であり得る。ある場合において、ドロップレットの平均直径はまた、少なくとも約1マイクロメートル、少なくとも約2マイクロメートル、少なくとも約3マイクロメートル、少なくとも約5マイクロメートル、少なくとも約10マイクロメートル、少なくとも約15マイクロメートル、または少なくとも約20マイクロメートルであり得る。
【0053】
本明細書において使用する場合、「流体」にはその普通の意味が与えられている、すなわち、液体または気体である。流体は、流動を可能にする任意の適切な粘度を有し得る。2つ以上の流体が存在する場合には、各流体は、流体間の関係を考慮することによって、当業者によって基本的に任意の流体(液体、気体、など)から独立に選択され得る。流体はそれぞれ混和性または不混和性であり得る。例えば、2つの流体は、流体流の形成の期間内において、または反応もしくは相互作用の期間内において不混和性となるように選択され得る。その部分がかなりの時間のあいだ液体のままである場合には、流体は著しく不混和性でなければならない。接触および/または形成後に、分散した部分が重合などによって迅速に硬化される場合には、流体は不混和性である必要がない。当業者であれば、本発明の技術を実行するために、接触角計測などを使用して、適切な混和流体または不混和流体を選択することができる。
【0054】
本明細書において使用する場合、第2の実体のみによって第1の実体の周囲に閉ループが描かれ得る場合には、第1の実体は第2の実体によって「取り囲まれている」という。方向に関係なく、第2の実体のみを経由する閉ループが第1の実体の周囲に描かれ得る場合には、第1の構成要素は「完全に取り囲まれている」。一局面において、第1の実体は、細胞、例えば、媒体によって取り囲まれた媒体中に懸濁された細胞であり得る。別の局面において、第1の実体は粒子である。本発明のさらに別の局面において、実体はどちらも流体であり得る。例えば、親水性液体が疎水性液体中に懸濁されていてもよいし、疎水性液体が親水性液体中に懸濁されていてもよいし、気泡が液体中に懸濁されていてもよい、などである。一般に、疎水性液体と親水性液体とは互いに対して実質的に不混和性であり、この場合、親水性液体は疎水性液体よりも大きな、水に対する親和力を有する。親水性液体の例は、水、および、細胞もしくは生体媒質、エタノール、食塩水、などのような水を含むその他の水溶液を含むが、これらに限定されない。疎水性液体の例は、炭化水素、シリコン油、フルオロカーボン油、有機溶媒などのような油を含むが、これらに限定されない。
【0055】
「測定」という用語は、本明細書において使用する場合、概して、例えば定量的もしくは定性的に種を分析もしくは計測すること、または、種の有無を検出することをいう。「測定」は、2つ以上の種の間の相互作用を例えば定量的もしくは定性的に分析もしくは計測すること、または、相互作用の有無を検出することもいう。例示的な技術は、赤外線、吸光、蛍光、UV/可視、FTIR(「フーリエ変換赤外分光」)、もしくはラマンのような分光法、重量法、偏光解析法、圧電測定、免疫学的検定、電気化学的測定、光学密度測定のような光学的測定、円偏光二色性、擬電光散乱のような光散乱測定、偏光分析法、屈折率測定、または濁度測定を含むが、これらに限定されない。
【0056】
以下の文献は、本明細書において、参考として援用される:Kumarらによる、1993年10月4日に出願され、「Formation of Microstamped Patterns on Surfaces and Derivative Articles」と題された米国特許出願第08/131,841号であって、1996年4月30日に米国特許第5,512,131号として発行されているもの;Whitesidesらによる、1996年3月1日に出願され、「Microcontact Printing on Surfaces and Derivative Articles」と題された国際特許出願第PCT/US96/03073号に基づく優先権を主張するものであって、1996年6月26日にWO 96/29629号として公開されているもの;Kimらによる、1998年1月8日に出願され、「Method of Forming Articles Including Waveguides via Capillary Micromolding and Microtransfer Molding」と題された米国特許出願第09/004,583号であって、2002年3月12日に米国特許第6,355,198号として発行されているもの;Andersonらによる、2001年5月25日に出願され、「Microfluidic Systems including Three−Dimensionally Arrayed Channel Networks」と題された国際特許出願第PCT/US01/16973号であって、2001年11月29日にWO 01/89787号として公開されているもの;Stoneらによる、2002年6月28日に出願され、「Multiphase Microfluidic System and Method」と題された米国仮特許出願第60/392,195号;Linkらによる、2002年11月5日に出願され、「Method and Apparatus for Fluid Dispersion」と題された米国仮特許出願第60/424,042号;Linkらによる、2003年4月10日に出願され、「Formation and Control of Fluidic Species」と題された米国仮特許出願第60/461,954号;Stoneらによる、2003年6月30日に出願され、「Method and Apparatus for Fluid Dispersion」と題された国際特許出願第PCT/US03/20542号であって、2004年1月8日にWO 2004/002627号として公開されているもの;Linkらによる、2003年8月27日に出願され、「Electronic Control of Fluidic Species」と題された米国仮特許出願第60/498,091号;Linkらによる、2004年4月9日に出願され、「Formation and Control of Fluidic Species」と題された国際特許出願第PCT/US2004/010903号であって、2004年10月28日にWO 2004/091763号として公開されているもの;Linkらによる、2004年8月27日に出願され、「Electronic Control of Fluidic Species」と題された国際特許出願第PCT/US2004/027912号であって、2005年3月10日にWO 2005/021151号として公開されているもの;Stoneらによる、2004年12月28日に出願され、「Method and Apparatus for Fluid Dispersion」と題された米国特許出願第11/024,228号であって、2005年8月11日に米国特許出願公開第2005−0172476号として公開されているもの;Weitzらによる、2005年3月4日に出願され、「Method and Apparatus for Forming Multiple Emulsions」と題された米国仮特許出願第60/659,045号;Garsteckiらによる、2005年3月4日に出願され、「Systems and Methods of Forming Particles」と題された米国仮特許出願第60/659,046号;および、Linkらによる、2005年10月7日に出願され、「Formation and Control of Fluidic Species」と題された米国特許出願第11/246,911号。
【0057】
以下の実施例は、本発明のある実施形態を説明することを意図するものであって、本発明の全範囲を例証するものではない。
【実施例1】
【0058】
本実施例は、マイクロ流体デバイス内での、ドロップレットの制御された高速合体を実証するものである。マイクロ流体デバイスの中のような低レイノルズ数流れにおいて、チャネル内の放物線状の流速分布のために、小さいドロップレットは大きいドロップレットよりも高い速度で流れることができる。本実施例に記載の方法は、この特性を使用して非同期ドロップレットの同期化を提供し、それによって合体の時間および場所の正確な制御を可能にするものである。
【0059】
異なるサイズの2つの流体ドロップレットの流れを、異なる時間スケール、サイズ、および組成で独立に作製し、単一のマイクロ流体チャネル内に併合して、小さいドロップレットが大きいドロップレットに「追いつく」ことができ、接触することができるようにした。界面活性剤の存在下および外力の不在下では、ドロップレットは合体せずに触れ合う。しかしながら、互いに接触している一対のドロップレットが局限された電場を通過すると、界面活性剤の安定化特性が克服され、ドロップレットは合体することができる。本実施例においては、実証として、基質を含有するドロップレットを酵素を含有する第2のドロップレットに添加した後の正確な時点から、反応速度を計測した。
【0060】
本実施例において使用したマイクロ流体デバイスは、標準的なソフトリソグラフィ法を使用して加工したものである。簡潔に述べると、シリコンウエハ上にUVフォトリソグラフィによって、厚さ25マイクロメートル、幅50マイクロメートルのネガティブフォトレジストの2チャネルのパターンを生成した(図3A参照)。5:1の重量比を有するPDMSエラストマーと架橋剤との混合物をチャネル上に成形し、部分的に硬化させた後に剥離した。20:1の重量比を有する別の混合物を、その上にインジウムスズ酸化物(ITO)電極がパターン化されたガラス基板上で、30マイクロメートルの薄膜になるように3000rpmでスピンキャストし、また部分的に硬化させた。PDMS鋳型をPDMSで被覆されたITOガラス基板と結合し、完全に硬化させて2つの層間の結合を強化した。加工されたマイクロ流体デバイスの選別領域の概略断面を図1に示す。
【0061】
本実施例において、ヘキサデカン(粘度ηoil(イータ)=3.4×10−3Pa秒、密度0.773g/ml)中に水のドロップレットを生成するようにデバイスを調製した。合体を防止するために、5wt%の界面活性剤(SPAN80)を添加した。シリンジポンプ(Harvard Apparatus社製)を使用して油および水の流速を調整することによって、水滴のサイズを制御した。5〜80マイクロリットル/時の水流速および100〜200マイクロリットル/時の油流速を使用して、13〜50マイクロメートルの半径を有する水のドロップレットを生成した。ドロップレットの動きを高速度カメラによって10kHzのフレームレートで記録し、ドロップレットのサイズと速度との間の関係を計測した。
【0062】
表面張力により、本実施例における水滴は、25マイクロメートルのチャネル高さよりも小さい直径を有する略円形状であった。ドロップレットの直径が25マイクロメートルを超えて大きくなると、流体ドロップレットは長方形チャネルの頂面および底面に触れ、それらの形状はチャネル形状によって「パンケーキ」のように圧縮され、50マイクロメートルを超えると、ドロップレットは長方形チャネルの4面に触れて「栓」となった(図1の下部に挿入)。
【0063】
長方形チャネル内のドロップレットの流れは、軸対称のためにドロップレットが円形および栓のような形状のみを有し、円筒チューブ内の放物線状流れパターンを受けてそれらの速度は概してそれらのサイズの二乗に比例して減少する、円筒チューブの場合と同様であるように見えた。第1の近似として、いかなる理論に束縛されることも望まないが、このサイズに依存するドロップレット速度の分散は、ドロップレットがその背後にある連続相液体によって押されるために、ドロップレットのある一定の断面積を通過する液体フラックスを考慮することによって理解され得る。かくして、ドロップレット速度は、ドロップレット断面全体にわたる放物線状速度プロファイルの平均速度として近似され得る。ドロップレットの不在下において
【0064】
【数1】

の速度プロファイルを有するとき、ドロップレット速度は
【0065】
【数2】

として計算され、ここで、dはチャネルの半径であり、Aは圧力勾配および粘度に関する定数である。この結果は、ドロップレット速度がドロップレットのサイズに対して放物線状に依存することを、良好に近似することが見られた。したがって、例えば連続相粒子サイズの小さいドロップレットは最大速度を有し、チャネルと同じ直径を有する大きいドロップレットは、ポアズイユの流れの平均流速で流れ、それは最大速度の半分である。
【0066】
同じ類推を、長方形チャネル内のドロップレット流れに使用し得る。ドロップレットの不在下での長方形チャネルにおけるポアズイユプロファイルu(x,y)から、当該チャネルの中心に位置するドロップレットの速度は
【0067】
【数3】

によって、ドロップレット長さlの関数として求められ、ここで、A(l)はドロップレットの断面積である。
【0068】
この結果は解析式を有さないが、数値計算を実線として図1に描画する。長さ(l)の関数としてのドロップレット速度(V)の実験結果と比較すると、この近似は長方形チャネルにおけるドロップレット速度のサイズ依存性を説明していると考えられる。しかしながら、上記の近似は、せん断力によるドロップレット形状の変化およびドロップレットの存在による速度プロファイルの変化を考慮していない。
【0069】
このサイズ依存性のドロップレット速度分散を、2つの異なるサイズのドロップレットの同期化の受動的手法として使用した。それらのドロップレットを同期化すると、容易に合体することができた。これは、図2に示すドロップレットを組み合わせるためのマイクロ流体デバイスにおいて見られたものであり、流体の流れの方向は矢印27によって示されている。ドロップレット21(チャネル28内)および22(チャネル29内)の2つの流れは、それぞれT接合部23、24において独立に形成され、単一のチャネル25の中に併合された。混合されたドロップレットは、2つのドロップレットの1つの流れとして同期化され、サイズ依存性のドロップレット速度分散のために接触して流れ、すなわち、小さいドロップレット22はチャネル25内で大きいドロップレット21よりも急速に移動し、その結果として、小さいドロップレットは大きいドロップレットに「追いつき」、群29によって示すように、ドロップレットが接触する。接触しているドロップレットは合体せず、油中に添加された界面活性剤によって安定化された。
【0070】
本実施例において、約50および25マイクロメータの2つの異なる直径を有するドロップレットが生成され、単一のチャネルに併合された。ドロップレット形成速度は、T接合部のそれぞれに注入される水および油の流速(例えば、100マイクロリットル/時、10マイクロリットル/時、1マイクロリットル/時、など)を調整することによって、毎秒約100個に固定された。直径25マイクロメートルの小さいドロップレットは、チャネル25内を下流に約1mm以内を流れるあいだに、50マイクロメートルのドロップレットに「追いつく」が、「追いつく」までの実際の距離は、ドロップレット間の初期間隔とそれらの速度差に依存した(図3A)。本実施例において要したのは100ms未満であった。
【0071】
その後、電圧源40を使用して電極41と42との間に電圧を作成することによって生成された電場を、電極を使用して印加することによって、2つのドロップレットは1つの複合ドロップレット20に合体された。電極は平行に、チャネル28および29の交点から約1cmの位置に配置され、流れ方向と平行な電場を生成するように、当該流れ方向に対して垂直であった。するとドロップレットは、電極領域を通過するときに合体した(図3B)。本実施例において、通過するすべてのドロップレットの合体を確実にするには、少なくとも100V(AC)が必要であった。
【0072】
本実施例において、このデバイスをバイオアッセイに使用するために、酵素β‐ガラクトシダーゼと、基質FDG(フルオレセインdi‐b‐D‐ガラクトピラノシド)との間の、酵素の反応速度を計測した。一方のT接合部において、ピコモル濃度を有するβ‐ガラクトシダーゼ溶液を含有する流体ドロップレットの系列が生成された。他方のT接合部において、FDG溶液を含有する流体ドロップレットの系列が生成された。3つの異なるFDGの基質濃度(240、120、および60マイクロモル)と、50Mの対照フルオレセイン溶液とを使用して、酵素による代謝回転生成物の量、すなわち、酵素反応速度を較正した。図4Aに示すように、蛍光イメージング(挿入部分は、蛍光画像の一例を示す)から、3つの異なる基質濃度に対するβ‐ガラクトシダーゼの反応速度を測定した。このデータをミカエリス・メンテン式と比較して、図4Bに示すように、kcatおよびKを測定することができた。
【0073】
本明細書において、本発明のいくつかの実施形態が説明および図示されたが、当業者は、それらの機能を実行するための、ならびに/または本明細書に記載した結果および/もしくは利点の1つ以上を得るための、多種多様なその他の手段および/または構造を容易に構想し、そのような変形形態および/または修正形態のそれぞれは、本発明の範囲内であると考えられる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成は例示的なものであることを意図されており、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の用途次第であることを容易に理解する。当業者であれば、慣用的な実験程度のものを使用して、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態に対する多数の均等物を認識し、または確認することができる。したがって、前述の実施形態は、例としてのみ提示されるものであり、添付の請求項およびその均等物の範囲内で、本発明は具体的に記載および特許請求されているものとは別様に実践され得ることを理解されたい。本発明は、本明細書に記載される、それぞれ個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法を対象としている。また、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾するものでない場合には、本発明の範囲内に含まれる。
【0074】
本明細書において定義および使用されるすべての定義は、辞書の定義、参考として援用される文献中の定義、および/または定義された用語の普通の意味に優先することを理解すべきである。
【0075】
単数形は、本明細書および特許請求の範囲において使用する場合、そうでない旨が明瞭に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味するものとして理解すべきである。
【0076】
語句「および(ならびに)/または(もしくは)」は、本明細書および特許請求の範囲において使用する場合、そのように等位結合された要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、一部の場合には結合的に存在する要素を、その他の場合には離接的に存在する要素を意味するものとして理解すべきである。「および/または」を用いて列挙される複数の要素は、同じ方式で、すなわち、そのように等位結合された要素の「1つ以上」として解釈すべきである。具体的に同定されたそれらの要素に関連するかしないかにかかわらず、「および/または」節によって具体的に同定された要素以外の要素が任意で存在し得る。したがって、限定的でない例として、「を備える」のような開放的な語と併せて使用される場合には、「Aおよび/またはB」への言及は、一実施形態においてはAのみ(任意で、B以外の要素を含む)、別の実施形態においてはBのみ(任意で、A以外の要素を含む)、さらに別の実施形態においては、AおよびBの両方(任意で、その他の要素を含む)、などを参照し得る。
【0077】
本明細書および特許請求の範囲において使用する場合、「または(もしくは)」は、上記で定義した「および/または」と同じ意味を有するものとして理解すべきである。例えば、リスト内の項目を分離する場合、「または」または「および/または」は包括的なものとして、すなわち、多数の要素または要素のリストのうちの少なくとも1つを含み、それだけではなく1つを超えるものを含み、また任意でリストにないさらなる項目をも含むものとして、解釈すべきである。「のうちの1つのみ」もしくは「のうちのまさに1つ」のような、明らかにそうでなく指示している用語、または特許請求項において使用される場合の「から成る」だけは、多数の要素または要素のリストのうちの、まさに1つの要素を含むことを示す。一般に、「または」という用語は、本明細書において使用する場合、「いずれか」「のうちの1つ」「のうちの1つのみ」または「のうちのまさに1つ」のような排他性を表す用語が先行する場合には、排他的な代替(すなわち、「一方または他方であるが両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈すべきである。「本質的に〜から成る」は、特許請求の範囲において使用する場合、特許法の分野において使用されるような普通の意味を有するものとする。
【0078】
本明細書および特許請求の範囲において使用する場合、1つ以上の要素のリストを参照する語句「少なくとも1つの」は、要素のリスト中の要素のうちの任意の1つ以上から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素のリスト内に具体的に列挙されたありとあらゆる要素のうちの少なくとも1つを必ずしも含まず、要素のリスト中の要素の任意の組み合わせをも除外しないことを意味するとして理解すべきである。この定義は、具体的に同定されたそれらの要素に関連するかしないかにかかわらず、「少なくとも1つ」という語句が指す要素のリスト内において具体的に同定された要素以外にも任意で要素が存在し得ることを可能にする。したがって、限定的でない例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または同等なものとして、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または同等なものとして「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、Bが存在しない(かつ任意でB以外の要素を含む)ときに、少なくとも1つのAであって、任意で1つを超えるAを含む、Aを参照し得、別の実施形態において、Aが存在しない(かつ任意でA以外の要素を含む)ときに、少なくとも1つのBであって、任意で1つを超えるBを含む、Bを参照し得、さらに別の実施形態において、少なくとも1つのAであって、任意で1つを超えるAを含む、Aと、少なくとも1つのBであって、任意で1つを超えるBを含む、B(かつ任意でその他の要素を含む)と、を参照し得る、などである。
【0079】
そうでない旨が明瞭に示されていない限り、本出願で特許請求される任意の方法であって、1つよりも多いステップまたは行為を含む方法において、当該方法のステップまたは行為の順序は、当該方法のステップまたは行為が挙げられている順序に必ずしも限定されるものではないことを、理解すべきである。
【0080】
特許請求の範囲において、ならびに上記明細書において、「を備える」、「を含む」、「を担持する」、「を有する」、「を含有する」、「を伴う」、「を保持する」「から構成される」のような、すべての移行句は、開放的であるとして、すなわち、含むが限定しないことを意味するものとして、理解すべきである。移行句「から成る」および「本質的に〜から成る」のみは、米国特許庁の特許審査手続便覧のセクション2111.03において説明されているように、それぞれ、限定的または準限定的移行句であるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にしたがって、チャネル内の流体ドロップレットの速度が当該流体ドロップレットのサイズの関数として変動し得ることを示す。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の概略図である。
【図3】図3Aおよび図3Bは、本発明の他の実施形態による、流体ドロップレットを収納する種々のマイクロ流体デバイスの顕微鏡写真である。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、本発明のさらに他の実施形態による、流体ドロップレットを合体することによって制御される、ある反応を示す。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、本発明のさらに他の実施形態による、流体ドロップレットを合体することによって制御される、ある反応を示す。
【図5】図5A〜図5Cは、本発明のあるその他の実施形態を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体ドロップレットおよび第2の流体ドロップレットを収納するチャネルを
備える、マイクロ流体システムを提供するステップと、
該チャネル内において、第1の速度で該第1のドロップレットを移動させ、かつ、該
チャネル内において、該第1の速度よりも実質的に大きい第2の速度で該第2のドロッ
プレットを移動させる、ステップと、
該第1の流体ドロップレットと該第2の流体ドロップレットとが合体しないように、
該第2の流体ドロップレットを該第1の流体ドロップレットと接触させるステップと、
該第1のドロップレットと該第2のドロップレットとが合体して1つの複合ドロッ
プレットとなるように、該第1の流体ドロップレットと該第2の流体ドロップレットと
のうちの少なくとも1つに電場を印加するステップと、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記第2の速度は、少なくとも前記第1の速度の約150%である、請求項1に記載
の方法。
【請求項3】
前記第2の速度は、少なくとも前記第1の速度の約200%である、請求項1に記載
の方法。
【請求項4】
前記第2の速度は、少なくとも前記第1の速度の約300%である、請求項1に記載
の方法。
【請求項5】
前記第2の速度は、少なくとも前記第1の速度の約500%である、請求項1に記載
の方法。
【請求項6】
前記第1の流体ドロップレットの体積は、前記第2の流体ドロップレットの体積より
も大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記チャネルは、約5mm未満の平均断面寸法を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の流体ドロップレットは、約100ミクロン未満の断面寸法を有する、請求
項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の流体ドロップレットは、約30ミクロン未満の断面寸法を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の流体ドロップレットは、約10ミクロン未満の断面寸法を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の流体ドロップレットは、約3ミクロン未満の断面寸法を有する、請求項1
に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の流体ドロップレット内の流体と前記第2の流体ドロップレット内の流体
とを、前記複合ドロップレット内において混合させるステップをさらに包含する、請求
項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の流体と前記第2の流体とは均一に混合される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の流体ドロップレットと前記第2の流体ドロップレットとは、それぞれ異な
る組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の流体ドロップレットと前記第2の流体ドロップレットとのうちの少なく
とも1つは、酵素を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の流体ドロップレットおよび前記第2の流体ドロップレットのうちの一方
は、化学反応において相互作用する2つの反応物を備え、かつ、他方の流体ドロップレ
ットは、該化学反応に対する阻害物質を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の流体ドロップレットは液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の流体ドロップレットは液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記マイクロ流体チャネルは、前記第1の流体ドロップレットおよび前記第2の流体
ドロップレットを含有する液体を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記複合ドロップレットの少なくとも一部分を硬化させるステップをさらに包含す
る、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ドロップレットの第1の流体流を提供するステップであって、該第1の流体流内の該
ドロップレットが、約100ミクロン未満の平均直径と、該ドロップレットの約5%以
下のものが該平均直径の約10%よりも大きい直径を有するような直径の分布とを有
する、ステップと、
ドロップレットの第2の流体流を提供するステップであって、該第1の流体流内の該
ドロップレットは、該第2の流体流内の該ドロップレットの平均直径の約125%より
も大きい平均直径を有する、ステップと、
ドロップレットの該第1の流体流の少なくとも1つのドロップレットと、ドロップレ
ットの該第2の流体流の少なくとも1つのドロップレットとが、合体して1つの複合ド
ロップレットとなるように、ドロップレットの該第1の流体流の該少なくとも1つのド
ロップレットおよびドロップレットの該第2の流体流の該少なくとも1つのドロップ
レットに、電場を印加するステップと、
を包含する、方法。
【請求項22】
前記第1の流体ドロップレットの体積は、前記第2の流体ドロップレットの体積より
も大きい、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記電場を印加する行為は、ドロップレットの前記第1の流体流およびドロップレッ
トの前記第2の流体流を収納するチャネルに、前記電場を印加するステップを包含する、
請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記チャネルは、約5mm未満の平均断面寸法を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の流体ドロップレットは、約100ミクロン未満の断面寸法を有する、請求
項23に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の流体ドロップレットは、約30ミクロン未満の断面寸法を有する、請求項
23に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の流体ドロップレットは、約10ミクロン未満の断面寸法を有する、請求項
23に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の流体ドロップレットは、約3ミクロン未満の断面寸法を有する、請求項2
1に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の流体ドロップレット内の流体と前記第2の流体ドロップレット内の流体
とを、前記複合ドロップレット内において混合させるステップをさらに包含する、請求
項21に記載の方法。
【請求項30】
前記第1の流体と前記第2の流体とは均一に混合される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の流体ドロップレットと前記第2の流体ドロップレットとは、それぞれ異な
る組成を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の流体ドロップレットと前記第2の流体ドロップレットとのうちの少なく
とも1つは、酵素を備える、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
前記第1の流体ドロップレットおよび前記第2の流体ドロップレットのうちの一方
は、化学反応において相互作用する2つの物質を備え、かつ、他方の流体ドロップレッ
トは、該化学反応に対する阻害物質を備える、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の流体ドロップレットは液体である、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の流体ドロップレットは液体である、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
前記マイクロ流体チャネルは、前記第1の流体ドロップレットおよび前記第2の流体
ドロップレットを含有する液体を備える、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
前記複合ドロップレットの少なくとも一部分を硬化させるステップをさらに包含す
る、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公表番号】特表2009−524825(P2009−524825A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552412(P2008−552412)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/002063
【国際公開番号】WO2007/089541
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】