流体動圧軸受装置
【課題】ハブの円盤部の径方向略中央部に環状突出部を有する流体動圧軸受装置において、ハブと軸部との締結強度及び組付精度を確保すると共に、製造を容易化して生産性を高める。
【解決手段】ハブ3の円盤部3aのうち、少なくとも環状突出部3dよりも内径側の第1領域3a1を軸部2と一体形成してフランジ一体軸Aを構成し、該フランジ一体軸Aにこれと別体に形成した環状突出部3dを固定する。
【解決手段】ハブ3の円盤部3aのうち、少なくとも環状突出部3dよりも内径側の第1領域3a1を軸部2と一体形成してフランジ一体軸Aを構成し、該フランジ一体軸Aにこれと別体に形成した環状突出部3dを固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部材の内周面と軸部の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用により軸部を回転自在に支持する流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、優れた回転精度および静粛性を有するため、例えば、各種ディスク駆動装置(HDDの磁気ディスク駆動装置や、CD−ROM等の光ディスク駆動装置等)のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ用、あるいはプロジェクタのカラーホイールモータ用として好適に使用されている。
【0003】
例えば特許文献1に示されている流体動圧軸受装置は、軸部と、軸部の上端に設けられたハブと、内周に軸部が挿入された軸受部材(スリーブ)とを備える。ハブは、軸部の外周面の上端に固定された円盤部と、円盤部の外周部から下方に延びた円筒部と、円筒部の下端から外径に張り出した鍔部と、円盤部の径方向略中央部から下方に突出した環状突出部とを備える。軸部が回転すると、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、軸受部材の上端面とハブの円盤部の下側端面との間にスラスト軸受隙間が形成され、これらのラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で、軸部及びハブが回転自在に支持される。また、ハブの環状突出部の内周面と軸受部材の外周面との間には断面楔形のシール空間が形成され、このシール空間の内部に油面を保持することで、軸受部材の内部に満たされた油の外部への漏れ出しを防止している。
【0004】
近年、HDD等の小型化、薄型化、及び軽量化が進み、HDD等に組み込まれる流体動圧軸受装置にも上記の特性が強く要求されている。例えば、ハブを薄肉化すれば、材料減による軽量化が図られると共に、減じた肉厚の分だけ流体動圧軸受装置の小型化及び薄型化が図られる。しかし、上記の流体動圧軸受装置では、軸部とハブとが別体に形成され、軸部の外周面にハブの円盤部の内周面が嵌合固定されているため、ハブを薄肉化すると軸部とハブとの嵌合面積が減少し、両者の締結強度及び組付精度(直角度等)が低下する恐れがある。
【0005】
例えば、特許文献2に示されている流体動圧軸受装置のように、軸部とハブとを鍛造により一体成形すれば、これらを別体に形成する場合と比べて両者の締結強度(境界部における強度)や直角度等を高めることができる。これにより、ハブの薄肉化が可能となり、流体動圧軸受装置の小型化、薄型化、及び軽量化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−45876号公報
【特許文献2】特開2005−45924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の流体動圧軸受装置のハブは、円盤部の径方向略中央部に下方に突出した環状突出部が設けられるため、円盤部及び環状突出部を鍛造で一体成形することは極めて困難である。
【0008】
また、上記の流体動圧軸受装置では、軸部とその外周を囲む環状突出部とが一体形成されるため、軸部の外周面に研削加工を施す際に様々な不具合が生じる。具体的には、軸部の外周面の一部が環状突出部で囲まれた状態となるため、軸部の外周面への砥石のアクセスが困難となり、生産性が低下する。また、砥石の大きさが、軸部と環状突出部の間の隙間に挿入可能な大きさに制限されるため、非常に小さな砥石しか使用することができず、摩耗により頻繁に交換する必要が生じて生産性がさらに低下する。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ハブの円盤部の径方向略中央部に環状突出部を有する流体動圧軸受装置において、ハブと軸部との締結強度及び組付精度を確保すること、及び、製造を容易化して生産性を高めることを解決すべき技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、研削加工が施された軸受面を外周に有する軸部と、前記軸部の一端から外径側に延びる円盤部、及び、前記円盤部の半径方向中間部から軸方向他端側に突出した環状突出部を有するハブと、内周に前記軸部が挿入された軸受部材と、前記軸部の軸受面と前記軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部を回転自在に支持するラジアル軸受部と、前記環状突出部の内周面と前記軸受部材の外周面との間に形成され、前記軸受部材の内部に満たされた流体と外気との界面を保持するシール空間とを備えた流体動圧軸受装置において、前記円盤部のうち、少なくとも前記環状突出部よりも内径側の第1領域を前記軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した前記環状突出部を固定したことを特徴とするものである。
【0011】
このように、本発明に係る流体動圧軸受装置では、ハブの円盤部のうち、少なくとも環状突出部よりも内径側の第1領域を軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した環状突出部を固定した。具体的には、例えば、円盤部のうち、環状突出部よりも外径側の第2領域を環状突出部と一体形成して環状部材を構成し、フランジ一体軸のフランジ部(円盤部の第1領域)の外周面に環状部材を嵌合固定した構成とすることができる。このように、円盤部を環状突出部を境界として分割し、環状突出部を第2領域の内径端に設けることにより、円盤部の半径方向中間部から一体に突出させる場合と比べて、ハブの形成を容易化することができる。これにより、例えばフランジ一体軸及び環状部材を、それぞれ塑性加工で形成した素形材に研削加工を施すことにより製作することが可能となる。
【0012】
また、上記のようにフランジ一体軸と環状突出部とを別体に形成することで、フランジ一体軸に環状突出部を組み付ける前に軸部の外周の軸受面に研削加工を施すことができるため、環状突出部により軸受面の研削加工が妨げられず、生産性が向上する。
【0013】
また、フランジ一体軸のフランジ部の外周面と環状部材の内周面とを嵌合固定することで、例えば軸部の外周にハブを嵌合固定する場合と比べ、嵌合部の径が大きくなって両者の嵌合面積が増大するため、両者の締結強度及び組付精度を高めることができる。
【0014】
環状部材とフランジ一体軸との組付精度を考慮すると、環状部材の内周面とフランジ一体軸のフランジ部の外周面とを圧入することが好ましい。
【0015】
環状部材の内周面とフランジ一体軸のフランジ部の外周面との嵌合部をレーザ溶接や接着剤により封止すれば、両者の締結強度がさらに高められると共に、嵌合部からの潤滑流体の漏れ出しを確実に防止できる。
【0016】
環状部材の内周面及びフランジ一体軸のフランジ部の外周面の双方に段部を設け、両者をインロー嵌合させれば、円筒面同士で嵌合させる場合と比べて嵌合面積を大きくして締結強度をさらに高めることができる。また、環状部材の内周面及びフランジ一体軸のフランジ部の外周面に設けた段部(平坦面)同士を軸方向に当接させることで、環状部材と円盤部の第1領域とを軸方向で位置決めすることができるため、組付精度をさらに高めることができる。
【0017】
ハブの構成は上記に限らず、例えば、円盤部全体と軸部とを一体形成することによりフランジ一体軸を構成し、このフランジ一体軸のフランジ部を構成する円盤部の端面に環状突出部を固定した構成とすることもできる。このように、円盤部と環状突出部とを別体に形成することで、ハブの形状が単純化されて形成を容易化することができ、例えば塑性加工で形成した素形材に研削加工を施すことによりハブ一体軸を製作することが可能となる。また、このように軸部及びハブの円盤部を一体形成することで、これらを別体に形成する場合と比べて、軸部と円盤部との締結強度(境界部における強度)及び直角度等を高めることができる。
【0018】
上記の場合、フランジ一体軸に対する環状突出部の固定強度及び固定精度が問題となる。例えば、環状突出部、及び、環状突出部の一端から内径に延びる延在部を有するシール部材を設け、延在部の内周面を軸部の外周面に嵌合すれば、軸部の外周面に対する環状突出部の位置精度(同軸度等)を高めることができる。また、シール部材の延在部の端面をフランジ一体軸のフランジ部の端面に固定すれば、固定面積を十分に確保することができ、固定強度が高められる。
【0019】
シール部材の延在部の端面とフランジ一体軸のフランジ部の端面との間に、接着剤で満たされた環状の接着剤溜りを形成すれば、シール部材とフランジ部との固定強度をさらに高めることができると共に、シール部材の延在部とフランジ一体軸のフランジ部との間の隙間を接着剤で封止することができるため、この隙間を伝って潤滑流体が外部へ漏れ出す事態を確実に防止できる。
【0020】
シール部材と軸部との固定精度を高めるためには、シール部材の延在部の内周面を軸部の外周面に圧入(軽圧入)することが望ましい。しかし、軸部の一端にはフランジ部(ハブの円盤部)が一体形成されているため、シール部材を軸部の他端側から軸受面と摺動させながら圧入せざるを得ず、軸受面を傷つける恐れがある。そこで、軸部の外周面の一端に、軸受面よりも大径なガイド部を設け、このガイド部にシール部材の延在部の内周面を圧入すれば、シール部材の延在部の内周面と軸部の軸受面との間に隙間を設けることができるため、軸受面の損傷を防止できる。このガイド部に研削加工を施しておけば、軸部に対するシール部材の固定精度がさらに高められる。
【0021】
フランジ一体軸のフランジ部の端面のうち、少なくともシール部材の延在部の端面と対向する領域に研削加工を施しておけば、両者の密着性を高めることができるため、フランジ一体軸に対するシール部材の固定精度が高められる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の流体動圧軸受装置によれば、ハブの円盤部のうち、少なくとも環状突出部よりも内径側の第1領域を軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した環状突出部を固定することで、円盤部の径方向略中央部に環状突出部を有するハブを一体形成する場合と比べて、ハブと軸部との締結強度及び組付精度を確保することができ、且つ、製造を容易化して生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置を備えたHDD用スピンドルモータの断面図である。
【図2】上記流体動圧軸受装置の断面図である。
【図3】上記流体動圧軸受装置のフランジ一体軸と環状部材との嵌合部の拡大断面図である。
【図4】上記流体動圧軸受装置の軸受スリーブの断面図である。
【図5】上記軸受スリーブの上面図である。
【図6】上記軸受スリーブの下面図である。
【図7】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置のフランジ一体軸と環状部材との嵌合部の拡大断面図である。
【図8】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置のフランジ一体軸と環状部材との嵌合部の拡大断面図である。
【図9】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【図10】図9の流体動圧軸受装置のシール部材付近の拡大断面図である。
【図11】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1に、例えば2.5インチHDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示す。このスピンドルモータは、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1が取り付けられたブラケット6と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に取り付けられ、ロータマグネット5は流体動圧軸受装置1のハブ3に取り付けられる。ハブ3には、回転体としてのディスク(図示省略)が所定の枚数搭載される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これによりハブ3、軸部2、及びディスクが一体となって回転する。
【0026】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、軸部2と、軸部2の一端に設けられたハブ3と、軸部2を回転自在に支持する軸受部材とで構成される。本実施形態では、軸受部材が、内周に軸部2を挿入した軸受スリーブ8と、内周に軸受スリーブ8を保持する有底筒状のハウジング7とで構成される。軸部2の下端には、抜け止め部材9が設けられる。尚、以下では、説明の便宜上、軸方向でハウジング7の開口側を上側、閉塞側を下側とする。
【0027】
軸部2は、外径が2〜4mm程度に設定される。軸部2は、凹凸の無いストレートな円筒面状の外周面2aと、軸心に設けられた軸方向穴2bとを有する。軸方向穴2bは、軸部2を軸方向に貫通して設けられ、その内周面にネジ溝が形成される。軸部2の外周面2aはラジアル軸受面として機能する。
【0028】
ハブ3は、軸部2の上端から外径に延びた円盤部3aと、円盤部3aの外周部から軸方向下方に延びた円筒部3bと、円筒部3bの下端部からさらに外径に延びた鍔部3cと、円盤部3aの半径方向中間部(図示例では半径方向略中央部)から下方に延びた円筒状の環状突出部3dとで構成される。鍔部3cの上側端面にはディスク搭載面3eが形成され、円筒部3bの外周面にはディスク嵌合面3fが形成される。ディスクの内孔をディスク嵌合面3fに嵌合させると共に、ディスクをディスク搭載面3eの上に載置し、この状態で図示しないクランパによってディスクの上面を押さえてディスク搭載面3e上に押し付けることにより、ディスクがハブ3に保持される。尚、軸部2の軸方向穴2bの上部は、クランパを固定するためのネジ穴として機能する。
【0029】
本実施形態では、ハブ3の円盤部3aが、環状突出部3dよりも内径側の第1領域3a1と、環状突出部3dよりも外径側の第2領域3a2とに分割して形成される。そして、円盤部3aの第1領域3a1と軸部2とが一体形成されてフランジ一体軸Aを構成すると共に、円盤部3aの第2領域3a2、円筒部3b、鍔部3c、及び環状突出部3dが一体形成されて環状部材Bを構成する。
【0030】
このように、円盤部3aの半径方向中間部から環状突出部3dが突出したハブ3を、環状突出部3dを境界として分割して形成することにより、円盤部3aの半径方向中間部から環状突出部3dを一体に突出させる場合と比べて、各部材(フランジ一体軸A及び環状部材B)の形状を簡略化して形成を容易化することができる。これにより、フランジ一体軸A及び環状部材Bを、金属の塑性加工(例えば金属板のプレス加工)で形成した素形材に研削加工を施すことで製造することができる。尚、フランジ一体軸A及び環状部材Bの素形材は、塑性加工に限らず、例えば旋削等の機械加工で形成することもできる。
【0031】
フランジ一体軸A及び環状部材Bの金属材料としては、例えば鋼材(ステンレス鋼、一般構造用鋼など)、アルミ合金、あるいはチタン合金等を使用することができる。また、フランジ一体軸A及び環状部材Bを異なる材料で形成することもできる。例えば、フランジ一体軸Aは耐摩耗性に優れた金属(例えばマルテンサイト系ステンレス鋼)で形成し、環状部材Bはロータマグネット5を取り付けるために磁性を有する金属(例えばフェライト系ステンレス鋼)で形成することができる。また、回転トルクの低減を図るために、環状部材Bをフランジ一体軸Aよりも軽い(低密度の)材料で形成してもよい。
【0032】
フランジ一体軸Aのうち、ラジアル軸受面として機能する軸部2の外周面2a、スラスト軸受面として機能するフランジ部A1(円盤部3aの第1領域3a1)の下側端面3a10、及び、スラスト軸受面を有する抜け止め部材9のフランジ部9aと当接する軸部2の下端面2cには研削加工(好ましくは1つの砥石による同時研削)が施される。これに加えて、環状部材Bのうち、ディスク搭載面3e及びディスク嵌合面3fに研削加工を施してもよい。
【0033】
軸部2の外周面2aには、表面硬化処理又はコーティング処理、あるいはこれらの双方を施してもよい。表面硬化処理としては、例えば真空焼入れ、真空浸炭処理、真空窒化処理、ガス軟窒化処理、あるいはイオン窒化処理等による表面硬化処理が挙げられる。コーティング処理としては、例えば無電解Niめっき、DLC、TiN、TiAlN、あるいはTiCによるコーティング処理が挙げられる。尚、表面処理やコーティング処理は、軸部2の外周面2aだけでなく、他の領域、例えばスラスト軸受隙間に面するハブ3の円盤部3aの下側端面3a10に施しても良い。あるいは、軸部2の外周面2aの耐摩耗性が十分であれば、表面効果処理やコーティング処理を省略してもよい。
【0034】
環状部材Bは、フランジ一体軸Aのフランジ部A1(円盤部3aの第1領域3a1)の外周面に嵌合固定(例えば圧入固定)される。本実施形態では、図3に示すように、環状部材Bの内周面及びフランジ一体軸Aのフランジ部の外周面にそれぞれ段部を設け、両者をインロー嵌合させている。詳しくは、フランジ一体軸Aのフランジ部の外周面に、大径外周面3a11、小径外周面3a12、及びこれらの間に設けられ、軸方向と直交する平坦面3a13を形成すると共に、環状部材Bの内周面の上端に、大径内周面3a21、小径内周面3a22、及びこれらの間に設けられ、軸方向と直交する平坦面3a23を形成する。そして、フランジ一体軸Aの大径外周面3a11及び小径外周面3a12がそれぞれ環状部材Bの大径内周面3a21及び小径内周面3a22に圧入され、これによりフランジ一体軸Aと環状部材Bの同軸度、特に、軸部2の外周面2a(軸受面)と環状突出部3dの内周面3d1(シール面)との同軸度が精度良く設定される。また、フランジ一体軸Aの平坦面3a13と環状部材Bの平坦面3a23とが当接し、これによりフランジ一体軸Aに対する環状部材Bの軸方向の位置精度、特に、円盤部3aの第1領域3a1の下側端面3a10(スラスト軸受面)に対するディスク搭載面3eの軸方向の位置精度が精度良く設定される。
【0035】
フランジ一体軸Aと環状部材Bとの嵌合部は、レーザ溶接あるいは接着剤により封止される。図示例では、嵌合部の上端を全周にわたって封止する環状の封止部Gが設けられる。これにより、嵌合部の固定強度が高められると共に、嵌合部からの油漏れを確実に防止できる。
【0036】
抜け止め部材9は金属あるいは樹脂で形成され、円盤形状のフランジ部9aと、フランジ部9aの軸心から上方に延びた固定部9bとを有する。固定部9bの外周にはネジ溝が形成され、軸部2の軸方向穴2bの内周面に形成されたネジ穴の下端にネジ固定される。フランジ部9aは軸部2の外周面2aよりも外径に突出し、その上側端面9a1が軸部2の下端面2cと当接している。フランジ部9aは、軸受スリーブ8の下側端面8cとハウジング7の底部7bの上側端面7b1との軸方向間に配され、軸受スリーブ8と軸方向で係合することにより、軸部2の軸受スリーブ8からの抜け止めを行う。
【0037】
フランジ部9aの上側端面9a1は、スラスト軸受面として機能する。軸部2の下端面2cは研削により高精度な平坦面に仕上げられているため、フランジ部9aの上側端面9a1は軸部2の下端面2cの全面と良好に密着し、これにより、軸部2に対してフランジ部9aを高精度に位置決めすることができる。また、フランジ部9aの上側端面9a1と軸部2の下端面2cとを全周で密着させることにより、軸部2の軸方向穴2bへの潤滑油の侵入を抑えることができるため、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油が軸方向穴2bを介して外部に漏れだす恐れを低減できる。
【0038】
軸受スリーブ8は、金属や樹脂で円筒状に形成され、本実施形態では、例えば銅あるいは銅及び鉄を主成分とする焼結金属で形成される。軸受スリーブ8の内周面8aには、図4に示すように、ラジアル動圧発生部として、例えば軸方向に離隔した2つの領域にヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2がそれぞれ形成される(クロスハッチングは丘部)。図示例では、上側の動圧溝8a1は軸方向非対称に形成されており、具体的には、軸方向中央部mより上側の領域の軸方向寸法X1が、下側の領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成されている。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が軸方向全長にわたって形成され、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向に等配される。
【0039】
軸受スリーブ8の上側端面8b及び下側端面8cには、図5及び図6に示すように、それぞれスラスト動圧発生部として、例えばポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8b1,8c1が形成される(クロスハッチングは丘部)。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が形成される。軸方向溝8d1の本数は任意であり、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向等間隔に配される。
【0040】
ハウジング7は、金属や樹脂で形成され、本実施形態では例えば樹脂の射出成形で形成される。ハウジング7は、図2に示すように、側部7a及び底部7bを一体に有する有底円筒状に形成される。側部7aの内周面7a1は、ストレートな円筒面状に形成され、軸受スリーブ8の外周面8dが隙間接着、圧入、接着剤介在下の圧入等により固定される。側部7aの外周面の上端には、図2に示すように、上方に向かって漸次拡径するテーパ状のシール面7a3が形成される。このシール面7a3は、ハブ3の環状突出部3dの円筒面状内周面3d1との間に、上方に向けて半径方向寸法が漸次縮小した環状のシール空間Sを形成する。シール空間Sは、軸部2の回転時、ハブ3の円盤部3aの下側端面3a10とハウジング7の上端面7a2との間の隙間を介して、第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側、及び、軸方向溝8d1の上端と連通している。このシール空間Sの毛細管力により、ハウジング7の内部に充満された潤滑油の漏れ出しを防止する。
【0041】
上記構成を組み立てた後、軸受スリーブ8の内部気孔を含めたハウジング7の内部の空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。このとき、油面はシール空間Sの内部に保持される。
【0042】
軸部2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1,8a2)により上記ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部2及びハブ3をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が構成される。
【0043】
これと同時に、ハブ3の円盤部3aの第1領域3a1の下側端面3a10と軸受スリーブ8の上側端面8bとの間、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aの上側端面9a1と軸受スリーブ8の下側端面8cとの間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成されると共に、スラスト動圧発生部(動圧溝8b1,8c1)により各スラスト軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部2及びハブ3をスラスト方向一方(持ち上げる方向)に回転自在に非接触支持する第1のスラスト軸受部T1と、軸部2及びハブ3をスラスト方向他方(押し下げる方向)に回転自在に非接触支持する第2のスラスト軸受部T2とが構成される。
【0044】
このとき、軸受スリーブ8の外周面8dに形成された軸方向溝8d1により、潤滑油が流通可能な連通路が形成される。この連通路により、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油に局部的な負圧が発生する事態を防止できる。特に本実施形態では、図4に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された上側の動圧溝8a1が軸方向非対称な形状に形成されているため、軸部2の回転に伴ってラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に押し込まれ、上記の連通路を介して潤滑油が循環し、これにより局部的な負圧の発生を確実に防止できる。
【0045】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
例えば、フランジ一体軸Aと環状部材Bとの嵌合状態は上記の実施形態に限られない。図7に示す実施形態では、大径外周面3a11と大径内周面3a21との嵌合部が、小径外周面3a12と小径内周面3a22との嵌合部よりも下方に位置し、環状部材Bの平坦面3a23がフランジ一体軸Aの平坦面3a13により下方から支持された状態となる。これにより、環状部材Bのディスク搭載面3eに搭載されるディスクの重量を、フランジ一体軸Aの平坦面3a13で支持することができる。
【0047】
図8に示す実施形態では、フランジ一体軸Aのフランジ部の外周面3a14、及び、これと対向する環状部材Bの内周面3a24を何れも円筒面とし、これらを嵌合固定(例えば圧入固定)している。
【0048】
フランジ一体軸Aと環状部材Bとの嵌合部を封止する封止部Gは、図3に示すように嵌合部の上端に設ける場合に限らず、図7に示すようにフランジ一体軸Aのフランジ部A1と環状部材Bとの嵌合部の下端に設けたり、図8に示すように嵌合部の上端及び下端に設けたりすることもできる。
【0049】
また、上記の実施形態では、ハブ3の円盤部3aを第1領域3a1と第2領域3a2とに分割した場合を示したが、これに限られない。例えば、図9に示す実施形態では、円盤部3a全体と軸部2とを一体形成してフランジ一体軸Aを構成している。具体的には、軸部2、円盤部3a、円筒部3b、及び鍔部3cが一体形成され、円盤部3aの下側端面3a10に環状突出部3dが固定されている。環状突出部3dの上端からは略円盤状の延在部3gが内径に向けて延び、この環状突出部3d及び延在部3gでシール部材10を構成している。
【0050】
シール部材10は、例えば金属の機械加工(旋削など)や塑性加工(プレス成形や鍛造など)で一体に形成される。シール部材10は、図10に示すように、延在部3gの内周面3g1を軸部2の外周面2aに嵌合すると共に、延在部3gの上側端面3g2を円盤部3aの下側端面3a10に固定している。図示例では、軸部2の外周面2aに、小径外周面2a1及びその上側に大径外周面2a2を設け、小径外周面2a1がラジアル隙間に面するラジアル軸受面として機能する。大径外周面2a2は、シール部材10の延在部3gの内周面3g1が圧入されるガイド部として機能し、これにより、軸部2に対するシール部材10の位置精度が高められ、具体的には、軸部2の外周面2aの軸受面に対するシール部材10の環状突出部3dの内周面3d1(シール面)の同軸度が精度良く設定されるため、シール空間Sの容積が高精度に設定される。また、シール部材10は、軸部2の下方から外挿されるが、シール部材10の延在部3gの内周面3g1は軸部2の小径外周面2a1よりも大径であるため、シール部材10で軸部2の小径外周面2a1(ラジアル軸受面)を傷つける事態を回避できる。
【0051】
シール部材10の延在部3gの上側端面3g2と円盤部3aの下側端面3a10との間には、接着剤で満たされた環状の接着剤溜り11が設けられる。図示例では、延在部3gの上側端面3g2に設けた凹部3g20と円盤部3aの平坦な下側端面3a10とで接着剤溜り11が構成される。こうして環状の接着剤溜り11を設けることで、シール部材10と円盤部3aとの固定強度が高められると共に、シール部材10の延在部3gと円盤部3aとの間の隙間を全周で封止することができるため、この隙間を介しての油漏れを確実に防止できる。尚、接着剤溜り11を形成するための凹部は、シール部材10の延在部3gに設ける場合に限らず、円盤部3aの下側端面3a10や、これらの双方に形成することもできる。
【0052】
軸部2の大径外周面2a2には研削加工を施しておくことが好ましく、これにより、軸部2とシール部材10との位置精度がさらに高められる。また、円盤部3aの下側端面3a10のうち、少なくともシール部材10の延在部3gの上側端面3g2と対向する領域には研削加工を施しておくことが好ましく、これにより、円盤部3aに対するシール部材10の位置精度が高められる。特に、図示例では、シール部材10の延在部3gの下側端面3g3がスラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面として機能するため、軸部2の外周面2a(軸受面)に対する直角度等の位置精度が重要となる。従って、軸部2の外周面2a(小径外周面2a1及び大径外周面2a2)及び円盤部3aの下側端面3a10の内周部に研削加工(好ましくは1つの砥石による同時研削)を施して、これらの面を高精度に仕上げておくことにより、軸部2に対するシール部材10の位置精度、特に、ラジアル軸受面に対するスラスト軸受面及びシール面の位置精度が高められるため、軸受性能及びシール性能の向上が図られる。
【0053】
また、ディスク搭載面3eに搭載されるディスクの回転精度を高めるためには、ディスク搭載面3eに対するラジアル軸受面(軸部2の小径外周面2a1)及びスラスト軸受面(シール部材10の延在部3gの下側端面3g3、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aの上側端面9a1)の精度が重要となる。このため、ディスク搭載面3e(あるいはこの面と同時研削された面)を基準として支持しながら、ラジアル軸受面となる軸部2の外周面2a、シール部材10が当接する円盤部3aの下側端面3a10、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aが当接する軸部2の下端面2cを1つの砥石で同時研削することが好ましい。
【0054】
上記の実施形態では、軸部2の下端面2cにフランジ部9aがネジ固定されているが、これに限らず、例えば溶接や接着、溶着により固定することもできる。この場合、軸部2の下端面2cとフランジ部9aの上側端面9a1との間の隙間を接着剤等で完全に封止すれば、軸部2の軸方向穴2bを介した油漏れを確実に防止できる。
【0055】
また、上記の実施形態では、抜け止め部材9を軸部2の下端に固定した場合を示したが、これに限らず、例えば図11に示すように、軸部2の下端の抜け止め部材9を省略し、ハブ3の環状突出部3dの内周に抜け止め部材12を設けることもできる。抜け止め部材12は、環状、あるいは円周方向に離隔した複数箇所に設けることができる。軸部2は、軸方向穴2bの下端が閉塞され、コップ状に形成される。抜け止め部材12とハウジング7の外周が軸方向で係合することにより、軸部2及びハブ3の軸受部材からの抜け止めが行われる。尚、この実施形態では、第2のスラスト軸受部T2は設けられない。
【0056】
また、上記の実施形態では、軸受スリーブ8の上側端面8bとハブ3の円盤部3aの下側端面3a10との間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間が形成されているが、これに限られない。例えば、ハウジング7の上端面7a2とハブ3の円盤部3aの下側端面3a10との間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成してもよい。
【0057】
また、上記の実施形態では、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1、8a2)及びスラスト動圧発生部(動圧溝8b1、8c1)がそれぞれ軸受スリーブ8の内周面8a及び上下端面8b、8cに形成される場合を示したが、これに限らず、これらの面と対向する面、すなわち軸部2の外周面2a、ハブ3の円盤部3aの下側端面3a10、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aの上側端面9a1に動圧発生部を形成してもよい。
【0058】
また、上記の実施形態では、潤滑流体が潤滑油である場合を示しているが、これに限らず、例えば磁性流体を使用することも可能である。
【0059】
また、上記の実施形態では、本発明に係る流体動圧軸受装置1をHDDのスピンドルモータに組み込んだ例を示しているが、これに限られない。例えば、ポリゴンスキャナモータや、カラーホイールモータに本発明の流体動圧軸受装置1を適用することもできる。
【符号の説明】
【0060】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部
3 ハブ
3a 円盤部
3a1 第1領域
3a2 第2領域
3b 円筒部
3c 鍔部
3d 環状突出部
3e ディスク搭載面
3f ディスク嵌合面
3g 延在部
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
10 シール部材
11 抜け止め部材
A フランジ一体軸
A1 フランジ部
B 環状部材
G 封止部
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部
S シール空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部材の内周面と軸部の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用により軸部を回転自在に支持する流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、優れた回転精度および静粛性を有するため、例えば、各種ディスク駆動装置(HDDの磁気ディスク駆動装置や、CD−ROM等の光ディスク駆動装置等)のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ用、あるいはプロジェクタのカラーホイールモータ用として好適に使用されている。
【0003】
例えば特許文献1に示されている流体動圧軸受装置は、軸部と、軸部の上端に設けられたハブと、内周に軸部が挿入された軸受部材(スリーブ)とを備える。ハブは、軸部の外周面の上端に固定された円盤部と、円盤部の外周部から下方に延びた円筒部と、円筒部の下端から外径に張り出した鍔部と、円盤部の径方向略中央部から下方に突出した環状突出部とを備える。軸部が回転すると、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、軸受部材の上端面とハブの円盤部の下側端面との間にスラスト軸受隙間が形成され、これらのラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で、軸部及びハブが回転自在に支持される。また、ハブの環状突出部の内周面と軸受部材の外周面との間には断面楔形のシール空間が形成され、このシール空間の内部に油面を保持することで、軸受部材の内部に満たされた油の外部への漏れ出しを防止している。
【0004】
近年、HDD等の小型化、薄型化、及び軽量化が進み、HDD等に組み込まれる流体動圧軸受装置にも上記の特性が強く要求されている。例えば、ハブを薄肉化すれば、材料減による軽量化が図られると共に、減じた肉厚の分だけ流体動圧軸受装置の小型化及び薄型化が図られる。しかし、上記の流体動圧軸受装置では、軸部とハブとが別体に形成され、軸部の外周面にハブの円盤部の内周面が嵌合固定されているため、ハブを薄肉化すると軸部とハブとの嵌合面積が減少し、両者の締結強度及び組付精度(直角度等)が低下する恐れがある。
【0005】
例えば、特許文献2に示されている流体動圧軸受装置のように、軸部とハブとを鍛造により一体成形すれば、これらを別体に形成する場合と比べて両者の締結強度(境界部における強度)や直角度等を高めることができる。これにより、ハブの薄肉化が可能となり、流体動圧軸受装置の小型化、薄型化、及び軽量化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−45876号公報
【特許文献2】特開2005−45924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の流体動圧軸受装置のハブは、円盤部の径方向略中央部に下方に突出した環状突出部が設けられるため、円盤部及び環状突出部を鍛造で一体成形することは極めて困難である。
【0008】
また、上記の流体動圧軸受装置では、軸部とその外周を囲む環状突出部とが一体形成されるため、軸部の外周面に研削加工を施す際に様々な不具合が生じる。具体的には、軸部の外周面の一部が環状突出部で囲まれた状態となるため、軸部の外周面への砥石のアクセスが困難となり、生産性が低下する。また、砥石の大きさが、軸部と環状突出部の間の隙間に挿入可能な大きさに制限されるため、非常に小さな砥石しか使用することができず、摩耗により頻繁に交換する必要が生じて生産性がさらに低下する。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ハブの円盤部の径方向略中央部に環状突出部を有する流体動圧軸受装置において、ハブと軸部との締結強度及び組付精度を確保すること、及び、製造を容易化して生産性を高めることを解決すべき技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、研削加工が施された軸受面を外周に有する軸部と、前記軸部の一端から外径側に延びる円盤部、及び、前記円盤部の半径方向中間部から軸方向他端側に突出した環状突出部を有するハブと、内周に前記軸部が挿入された軸受部材と、前記軸部の軸受面と前記軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部を回転自在に支持するラジアル軸受部と、前記環状突出部の内周面と前記軸受部材の外周面との間に形成され、前記軸受部材の内部に満たされた流体と外気との界面を保持するシール空間とを備えた流体動圧軸受装置において、前記円盤部のうち、少なくとも前記環状突出部よりも内径側の第1領域を前記軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した前記環状突出部を固定したことを特徴とするものである。
【0011】
このように、本発明に係る流体動圧軸受装置では、ハブの円盤部のうち、少なくとも環状突出部よりも内径側の第1領域を軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した環状突出部を固定した。具体的には、例えば、円盤部のうち、環状突出部よりも外径側の第2領域を環状突出部と一体形成して環状部材を構成し、フランジ一体軸のフランジ部(円盤部の第1領域)の外周面に環状部材を嵌合固定した構成とすることができる。このように、円盤部を環状突出部を境界として分割し、環状突出部を第2領域の内径端に設けることにより、円盤部の半径方向中間部から一体に突出させる場合と比べて、ハブの形成を容易化することができる。これにより、例えばフランジ一体軸及び環状部材を、それぞれ塑性加工で形成した素形材に研削加工を施すことにより製作することが可能となる。
【0012】
また、上記のようにフランジ一体軸と環状突出部とを別体に形成することで、フランジ一体軸に環状突出部を組み付ける前に軸部の外周の軸受面に研削加工を施すことができるため、環状突出部により軸受面の研削加工が妨げられず、生産性が向上する。
【0013】
また、フランジ一体軸のフランジ部の外周面と環状部材の内周面とを嵌合固定することで、例えば軸部の外周にハブを嵌合固定する場合と比べ、嵌合部の径が大きくなって両者の嵌合面積が増大するため、両者の締結強度及び組付精度を高めることができる。
【0014】
環状部材とフランジ一体軸との組付精度を考慮すると、環状部材の内周面とフランジ一体軸のフランジ部の外周面とを圧入することが好ましい。
【0015】
環状部材の内周面とフランジ一体軸のフランジ部の外周面との嵌合部をレーザ溶接や接着剤により封止すれば、両者の締結強度がさらに高められると共に、嵌合部からの潤滑流体の漏れ出しを確実に防止できる。
【0016】
環状部材の内周面及びフランジ一体軸のフランジ部の外周面の双方に段部を設け、両者をインロー嵌合させれば、円筒面同士で嵌合させる場合と比べて嵌合面積を大きくして締結強度をさらに高めることができる。また、環状部材の内周面及びフランジ一体軸のフランジ部の外周面に設けた段部(平坦面)同士を軸方向に当接させることで、環状部材と円盤部の第1領域とを軸方向で位置決めすることができるため、組付精度をさらに高めることができる。
【0017】
ハブの構成は上記に限らず、例えば、円盤部全体と軸部とを一体形成することによりフランジ一体軸を構成し、このフランジ一体軸のフランジ部を構成する円盤部の端面に環状突出部を固定した構成とすることもできる。このように、円盤部と環状突出部とを別体に形成することで、ハブの形状が単純化されて形成を容易化することができ、例えば塑性加工で形成した素形材に研削加工を施すことによりハブ一体軸を製作することが可能となる。また、このように軸部及びハブの円盤部を一体形成することで、これらを別体に形成する場合と比べて、軸部と円盤部との締結強度(境界部における強度)及び直角度等を高めることができる。
【0018】
上記の場合、フランジ一体軸に対する環状突出部の固定強度及び固定精度が問題となる。例えば、環状突出部、及び、環状突出部の一端から内径に延びる延在部を有するシール部材を設け、延在部の内周面を軸部の外周面に嵌合すれば、軸部の外周面に対する環状突出部の位置精度(同軸度等)を高めることができる。また、シール部材の延在部の端面をフランジ一体軸のフランジ部の端面に固定すれば、固定面積を十分に確保することができ、固定強度が高められる。
【0019】
シール部材の延在部の端面とフランジ一体軸のフランジ部の端面との間に、接着剤で満たされた環状の接着剤溜りを形成すれば、シール部材とフランジ部との固定強度をさらに高めることができると共に、シール部材の延在部とフランジ一体軸のフランジ部との間の隙間を接着剤で封止することができるため、この隙間を伝って潤滑流体が外部へ漏れ出す事態を確実に防止できる。
【0020】
シール部材と軸部との固定精度を高めるためには、シール部材の延在部の内周面を軸部の外周面に圧入(軽圧入)することが望ましい。しかし、軸部の一端にはフランジ部(ハブの円盤部)が一体形成されているため、シール部材を軸部の他端側から軸受面と摺動させながら圧入せざるを得ず、軸受面を傷つける恐れがある。そこで、軸部の外周面の一端に、軸受面よりも大径なガイド部を設け、このガイド部にシール部材の延在部の内周面を圧入すれば、シール部材の延在部の内周面と軸部の軸受面との間に隙間を設けることができるため、軸受面の損傷を防止できる。このガイド部に研削加工を施しておけば、軸部に対するシール部材の固定精度がさらに高められる。
【0021】
フランジ一体軸のフランジ部の端面のうち、少なくともシール部材の延在部の端面と対向する領域に研削加工を施しておけば、両者の密着性を高めることができるため、フランジ一体軸に対するシール部材の固定精度が高められる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の流体動圧軸受装置によれば、ハブの円盤部のうち、少なくとも環状突出部よりも内径側の第1領域を軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した環状突出部を固定することで、円盤部の径方向略中央部に環状突出部を有するハブを一体形成する場合と比べて、ハブと軸部との締結強度及び組付精度を確保することができ、且つ、製造を容易化して生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置を備えたHDD用スピンドルモータの断面図である。
【図2】上記流体動圧軸受装置の断面図である。
【図3】上記流体動圧軸受装置のフランジ一体軸と環状部材との嵌合部の拡大断面図である。
【図4】上記流体動圧軸受装置の軸受スリーブの断面図である。
【図5】上記軸受スリーブの上面図である。
【図6】上記軸受スリーブの下面図である。
【図7】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置のフランジ一体軸と環状部材との嵌合部の拡大断面図である。
【図8】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置のフランジ一体軸と環状部材との嵌合部の拡大断面図である。
【図9】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【図10】図9の流体動圧軸受装置のシール部材付近の拡大断面図である。
【図11】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1に、例えば2.5インチHDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示す。このスピンドルモータは、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1が取り付けられたブラケット6と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に取り付けられ、ロータマグネット5は流体動圧軸受装置1のハブ3に取り付けられる。ハブ3には、回転体としてのディスク(図示省略)が所定の枚数搭載される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これによりハブ3、軸部2、及びディスクが一体となって回転する。
【0026】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、軸部2と、軸部2の一端に設けられたハブ3と、軸部2を回転自在に支持する軸受部材とで構成される。本実施形態では、軸受部材が、内周に軸部2を挿入した軸受スリーブ8と、内周に軸受スリーブ8を保持する有底筒状のハウジング7とで構成される。軸部2の下端には、抜け止め部材9が設けられる。尚、以下では、説明の便宜上、軸方向でハウジング7の開口側を上側、閉塞側を下側とする。
【0027】
軸部2は、外径が2〜4mm程度に設定される。軸部2は、凹凸の無いストレートな円筒面状の外周面2aと、軸心に設けられた軸方向穴2bとを有する。軸方向穴2bは、軸部2を軸方向に貫通して設けられ、その内周面にネジ溝が形成される。軸部2の外周面2aはラジアル軸受面として機能する。
【0028】
ハブ3は、軸部2の上端から外径に延びた円盤部3aと、円盤部3aの外周部から軸方向下方に延びた円筒部3bと、円筒部3bの下端部からさらに外径に延びた鍔部3cと、円盤部3aの半径方向中間部(図示例では半径方向略中央部)から下方に延びた円筒状の環状突出部3dとで構成される。鍔部3cの上側端面にはディスク搭載面3eが形成され、円筒部3bの外周面にはディスク嵌合面3fが形成される。ディスクの内孔をディスク嵌合面3fに嵌合させると共に、ディスクをディスク搭載面3eの上に載置し、この状態で図示しないクランパによってディスクの上面を押さえてディスク搭載面3e上に押し付けることにより、ディスクがハブ3に保持される。尚、軸部2の軸方向穴2bの上部は、クランパを固定するためのネジ穴として機能する。
【0029】
本実施形態では、ハブ3の円盤部3aが、環状突出部3dよりも内径側の第1領域3a1と、環状突出部3dよりも外径側の第2領域3a2とに分割して形成される。そして、円盤部3aの第1領域3a1と軸部2とが一体形成されてフランジ一体軸Aを構成すると共に、円盤部3aの第2領域3a2、円筒部3b、鍔部3c、及び環状突出部3dが一体形成されて環状部材Bを構成する。
【0030】
このように、円盤部3aの半径方向中間部から環状突出部3dが突出したハブ3を、環状突出部3dを境界として分割して形成することにより、円盤部3aの半径方向中間部から環状突出部3dを一体に突出させる場合と比べて、各部材(フランジ一体軸A及び環状部材B)の形状を簡略化して形成を容易化することができる。これにより、フランジ一体軸A及び環状部材Bを、金属の塑性加工(例えば金属板のプレス加工)で形成した素形材に研削加工を施すことで製造することができる。尚、フランジ一体軸A及び環状部材Bの素形材は、塑性加工に限らず、例えば旋削等の機械加工で形成することもできる。
【0031】
フランジ一体軸A及び環状部材Bの金属材料としては、例えば鋼材(ステンレス鋼、一般構造用鋼など)、アルミ合金、あるいはチタン合金等を使用することができる。また、フランジ一体軸A及び環状部材Bを異なる材料で形成することもできる。例えば、フランジ一体軸Aは耐摩耗性に優れた金属(例えばマルテンサイト系ステンレス鋼)で形成し、環状部材Bはロータマグネット5を取り付けるために磁性を有する金属(例えばフェライト系ステンレス鋼)で形成することができる。また、回転トルクの低減を図るために、環状部材Bをフランジ一体軸Aよりも軽い(低密度の)材料で形成してもよい。
【0032】
フランジ一体軸Aのうち、ラジアル軸受面として機能する軸部2の外周面2a、スラスト軸受面として機能するフランジ部A1(円盤部3aの第1領域3a1)の下側端面3a10、及び、スラスト軸受面を有する抜け止め部材9のフランジ部9aと当接する軸部2の下端面2cには研削加工(好ましくは1つの砥石による同時研削)が施される。これに加えて、環状部材Bのうち、ディスク搭載面3e及びディスク嵌合面3fに研削加工を施してもよい。
【0033】
軸部2の外周面2aには、表面硬化処理又はコーティング処理、あるいはこれらの双方を施してもよい。表面硬化処理としては、例えば真空焼入れ、真空浸炭処理、真空窒化処理、ガス軟窒化処理、あるいはイオン窒化処理等による表面硬化処理が挙げられる。コーティング処理としては、例えば無電解Niめっき、DLC、TiN、TiAlN、あるいはTiCによるコーティング処理が挙げられる。尚、表面処理やコーティング処理は、軸部2の外周面2aだけでなく、他の領域、例えばスラスト軸受隙間に面するハブ3の円盤部3aの下側端面3a10に施しても良い。あるいは、軸部2の外周面2aの耐摩耗性が十分であれば、表面効果処理やコーティング処理を省略してもよい。
【0034】
環状部材Bは、フランジ一体軸Aのフランジ部A1(円盤部3aの第1領域3a1)の外周面に嵌合固定(例えば圧入固定)される。本実施形態では、図3に示すように、環状部材Bの内周面及びフランジ一体軸Aのフランジ部の外周面にそれぞれ段部を設け、両者をインロー嵌合させている。詳しくは、フランジ一体軸Aのフランジ部の外周面に、大径外周面3a11、小径外周面3a12、及びこれらの間に設けられ、軸方向と直交する平坦面3a13を形成すると共に、環状部材Bの内周面の上端に、大径内周面3a21、小径内周面3a22、及びこれらの間に設けられ、軸方向と直交する平坦面3a23を形成する。そして、フランジ一体軸Aの大径外周面3a11及び小径外周面3a12がそれぞれ環状部材Bの大径内周面3a21及び小径内周面3a22に圧入され、これによりフランジ一体軸Aと環状部材Bの同軸度、特に、軸部2の外周面2a(軸受面)と環状突出部3dの内周面3d1(シール面)との同軸度が精度良く設定される。また、フランジ一体軸Aの平坦面3a13と環状部材Bの平坦面3a23とが当接し、これによりフランジ一体軸Aに対する環状部材Bの軸方向の位置精度、特に、円盤部3aの第1領域3a1の下側端面3a10(スラスト軸受面)に対するディスク搭載面3eの軸方向の位置精度が精度良く設定される。
【0035】
フランジ一体軸Aと環状部材Bとの嵌合部は、レーザ溶接あるいは接着剤により封止される。図示例では、嵌合部の上端を全周にわたって封止する環状の封止部Gが設けられる。これにより、嵌合部の固定強度が高められると共に、嵌合部からの油漏れを確実に防止できる。
【0036】
抜け止め部材9は金属あるいは樹脂で形成され、円盤形状のフランジ部9aと、フランジ部9aの軸心から上方に延びた固定部9bとを有する。固定部9bの外周にはネジ溝が形成され、軸部2の軸方向穴2bの内周面に形成されたネジ穴の下端にネジ固定される。フランジ部9aは軸部2の外周面2aよりも外径に突出し、その上側端面9a1が軸部2の下端面2cと当接している。フランジ部9aは、軸受スリーブ8の下側端面8cとハウジング7の底部7bの上側端面7b1との軸方向間に配され、軸受スリーブ8と軸方向で係合することにより、軸部2の軸受スリーブ8からの抜け止めを行う。
【0037】
フランジ部9aの上側端面9a1は、スラスト軸受面として機能する。軸部2の下端面2cは研削により高精度な平坦面に仕上げられているため、フランジ部9aの上側端面9a1は軸部2の下端面2cの全面と良好に密着し、これにより、軸部2に対してフランジ部9aを高精度に位置決めすることができる。また、フランジ部9aの上側端面9a1と軸部2の下端面2cとを全周で密着させることにより、軸部2の軸方向穴2bへの潤滑油の侵入を抑えることができるため、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油が軸方向穴2bを介して外部に漏れだす恐れを低減できる。
【0038】
軸受スリーブ8は、金属や樹脂で円筒状に形成され、本実施形態では、例えば銅あるいは銅及び鉄を主成分とする焼結金属で形成される。軸受スリーブ8の内周面8aには、図4に示すように、ラジアル動圧発生部として、例えば軸方向に離隔した2つの領域にヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2がそれぞれ形成される(クロスハッチングは丘部)。図示例では、上側の動圧溝8a1は軸方向非対称に形成されており、具体的には、軸方向中央部mより上側の領域の軸方向寸法X1が、下側の領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成されている。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が軸方向全長にわたって形成され、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向に等配される。
【0039】
軸受スリーブ8の上側端面8b及び下側端面8cには、図5及び図6に示すように、それぞれスラスト動圧発生部として、例えばポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8b1,8c1が形成される(クロスハッチングは丘部)。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が形成される。軸方向溝8d1の本数は任意であり、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向等間隔に配される。
【0040】
ハウジング7は、金属や樹脂で形成され、本実施形態では例えば樹脂の射出成形で形成される。ハウジング7は、図2に示すように、側部7a及び底部7bを一体に有する有底円筒状に形成される。側部7aの内周面7a1は、ストレートな円筒面状に形成され、軸受スリーブ8の外周面8dが隙間接着、圧入、接着剤介在下の圧入等により固定される。側部7aの外周面の上端には、図2に示すように、上方に向かって漸次拡径するテーパ状のシール面7a3が形成される。このシール面7a3は、ハブ3の環状突出部3dの円筒面状内周面3d1との間に、上方に向けて半径方向寸法が漸次縮小した環状のシール空間Sを形成する。シール空間Sは、軸部2の回転時、ハブ3の円盤部3aの下側端面3a10とハウジング7の上端面7a2との間の隙間を介して、第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側、及び、軸方向溝8d1の上端と連通している。このシール空間Sの毛細管力により、ハウジング7の内部に充満された潤滑油の漏れ出しを防止する。
【0041】
上記構成を組み立てた後、軸受スリーブ8の内部気孔を含めたハウジング7の内部の空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。このとき、油面はシール空間Sの内部に保持される。
【0042】
軸部2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1,8a2)により上記ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部2及びハブ3をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が構成される。
【0043】
これと同時に、ハブ3の円盤部3aの第1領域3a1の下側端面3a10と軸受スリーブ8の上側端面8bとの間、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aの上側端面9a1と軸受スリーブ8の下側端面8cとの間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成されると共に、スラスト動圧発生部(動圧溝8b1,8c1)により各スラスト軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部2及びハブ3をスラスト方向一方(持ち上げる方向)に回転自在に非接触支持する第1のスラスト軸受部T1と、軸部2及びハブ3をスラスト方向他方(押し下げる方向)に回転自在に非接触支持する第2のスラスト軸受部T2とが構成される。
【0044】
このとき、軸受スリーブ8の外周面8dに形成された軸方向溝8d1により、潤滑油が流通可能な連通路が形成される。この連通路により、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油に局部的な負圧が発生する事態を防止できる。特に本実施形態では、図4に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された上側の動圧溝8a1が軸方向非対称な形状に形成されているため、軸部2の回転に伴ってラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に押し込まれ、上記の連通路を介して潤滑油が循環し、これにより局部的な負圧の発生を確実に防止できる。
【0045】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
例えば、フランジ一体軸Aと環状部材Bとの嵌合状態は上記の実施形態に限られない。図7に示す実施形態では、大径外周面3a11と大径内周面3a21との嵌合部が、小径外周面3a12と小径内周面3a22との嵌合部よりも下方に位置し、環状部材Bの平坦面3a23がフランジ一体軸Aの平坦面3a13により下方から支持された状態となる。これにより、環状部材Bのディスク搭載面3eに搭載されるディスクの重量を、フランジ一体軸Aの平坦面3a13で支持することができる。
【0047】
図8に示す実施形態では、フランジ一体軸Aのフランジ部の外周面3a14、及び、これと対向する環状部材Bの内周面3a24を何れも円筒面とし、これらを嵌合固定(例えば圧入固定)している。
【0048】
フランジ一体軸Aと環状部材Bとの嵌合部を封止する封止部Gは、図3に示すように嵌合部の上端に設ける場合に限らず、図7に示すようにフランジ一体軸Aのフランジ部A1と環状部材Bとの嵌合部の下端に設けたり、図8に示すように嵌合部の上端及び下端に設けたりすることもできる。
【0049】
また、上記の実施形態では、ハブ3の円盤部3aを第1領域3a1と第2領域3a2とに分割した場合を示したが、これに限られない。例えば、図9に示す実施形態では、円盤部3a全体と軸部2とを一体形成してフランジ一体軸Aを構成している。具体的には、軸部2、円盤部3a、円筒部3b、及び鍔部3cが一体形成され、円盤部3aの下側端面3a10に環状突出部3dが固定されている。環状突出部3dの上端からは略円盤状の延在部3gが内径に向けて延び、この環状突出部3d及び延在部3gでシール部材10を構成している。
【0050】
シール部材10は、例えば金属の機械加工(旋削など)や塑性加工(プレス成形や鍛造など)で一体に形成される。シール部材10は、図10に示すように、延在部3gの内周面3g1を軸部2の外周面2aに嵌合すると共に、延在部3gの上側端面3g2を円盤部3aの下側端面3a10に固定している。図示例では、軸部2の外周面2aに、小径外周面2a1及びその上側に大径外周面2a2を設け、小径外周面2a1がラジアル隙間に面するラジアル軸受面として機能する。大径外周面2a2は、シール部材10の延在部3gの内周面3g1が圧入されるガイド部として機能し、これにより、軸部2に対するシール部材10の位置精度が高められ、具体的には、軸部2の外周面2aの軸受面に対するシール部材10の環状突出部3dの内周面3d1(シール面)の同軸度が精度良く設定されるため、シール空間Sの容積が高精度に設定される。また、シール部材10は、軸部2の下方から外挿されるが、シール部材10の延在部3gの内周面3g1は軸部2の小径外周面2a1よりも大径であるため、シール部材10で軸部2の小径外周面2a1(ラジアル軸受面)を傷つける事態を回避できる。
【0051】
シール部材10の延在部3gの上側端面3g2と円盤部3aの下側端面3a10との間には、接着剤で満たされた環状の接着剤溜り11が設けられる。図示例では、延在部3gの上側端面3g2に設けた凹部3g20と円盤部3aの平坦な下側端面3a10とで接着剤溜り11が構成される。こうして環状の接着剤溜り11を設けることで、シール部材10と円盤部3aとの固定強度が高められると共に、シール部材10の延在部3gと円盤部3aとの間の隙間を全周で封止することができるため、この隙間を介しての油漏れを確実に防止できる。尚、接着剤溜り11を形成するための凹部は、シール部材10の延在部3gに設ける場合に限らず、円盤部3aの下側端面3a10や、これらの双方に形成することもできる。
【0052】
軸部2の大径外周面2a2には研削加工を施しておくことが好ましく、これにより、軸部2とシール部材10との位置精度がさらに高められる。また、円盤部3aの下側端面3a10のうち、少なくともシール部材10の延在部3gの上側端面3g2と対向する領域には研削加工を施しておくことが好ましく、これにより、円盤部3aに対するシール部材10の位置精度が高められる。特に、図示例では、シール部材10の延在部3gの下側端面3g3がスラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面として機能するため、軸部2の外周面2a(軸受面)に対する直角度等の位置精度が重要となる。従って、軸部2の外周面2a(小径外周面2a1及び大径外周面2a2)及び円盤部3aの下側端面3a10の内周部に研削加工(好ましくは1つの砥石による同時研削)を施して、これらの面を高精度に仕上げておくことにより、軸部2に対するシール部材10の位置精度、特に、ラジアル軸受面に対するスラスト軸受面及びシール面の位置精度が高められるため、軸受性能及びシール性能の向上が図られる。
【0053】
また、ディスク搭載面3eに搭載されるディスクの回転精度を高めるためには、ディスク搭載面3eに対するラジアル軸受面(軸部2の小径外周面2a1)及びスラスト軸受面(シール部材10の延在部3gの下側端面3g3、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aの上側端面9a1)の精度が重要となる。このため、ディスク搭載面3e(あるいはこの面と同時研削された面)を基準として支持しながら、ラジアル軸受面となる軸部2の外周面2a、シール部材10が当接する円盤部3aの下側端面3a10、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aが当接する軸部2の下端面2cを1つの砥石で同時研削することが好ましい。
【0054】
上記の実施形態では、軸部2の下端面2cにフランジ部9aがネジ固定されているが、これに限らず、例えば溶接や接着、溶着により固定することもできる。この場合、軸部2の下端面2cとフランジ部9aの上側端面9a1との間の隙間を接着剤等で完全に封止すれば、軸部2の軸方向穴2bを介した油漏れを確実に防止できる。
【0055】
また、上記の実施形態では、抜け止め部材9を軸部2の下端に固定した場合を示したが、これに限らず、例えば図11に示すように、軸部2の下端の抜け止め部材9を省略し、ハブ3の環状突出部3dの内周に抜け止め部材12を設けることもできる。抜け止め部材12は、環状、あるいは円周方向に離隔した複数箇所に設けることができる。軸部2は、軸方向穴2bの下端が閉塞され、コップ状に形成される。抜け止め部材12とハウジング7の外周が軸方向で係合することにより、軸部2及びハブ3の軸受部材からの抜け止めが行われる。尚、この実施形態では、第2のスラスト軸受部T2は設けられない。
【0056】
また、上記の実施形態では、軸受スリーブ8の上側端面8bとハブ3の円盤部3aの下側端面3a10との間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間が形成されているが、これに限られない。例えば、ハウジング7の上端面7a2とハブ3の円盤部3aの下側端面3a10との間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成してもよい。
【0057】
また、上記の実施形態では、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1、8a2)及びスラスト動圧発生部(動圧溝8b1、8c1)がそれぞれ軸受スリーブ8の内周面8a及び上下端面8b、8cに形成される場合を示したが、これに限らず、これらの面と対向する面、すなわち軸部2の外周面2a、ハブ3の円盤部3aの下側端面3a10、及び、抜け止め部材9のフランジ部9aの上側端面9a1に動圧発生部を形成してもよい。
【0058】
また、上記の実施形態では、潤滑流体が潤滑油である場合を示しているが、これに限らず、例えば磁性流体を使用することも可能である。
【0059】
また、上記の実施形態では、本発明に係る流体動圧軸受装置1をHDDのスピンドルモータに組み込んだ例を示しているが、これに限られない。例えば、ポリゴンスキャナモータや、カラーホイールモータに本発明の流体動圧軸受装置1を適用することもできる。
【符号の説明】
【0060】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部
3 ハブ
3a 円盤部
3a1 第1領域
3a2 第2領域
3b 円筒部
3c 鍔部
3d 環状突出部
3e ディスク搭載面
3f ディスク嵌合面
3g 延在部
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
10 シール部材
11 抜け止め部材
A フランジ一体軸
A1 フランジ部
B 環状部材
G 封止部
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部
S シール空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削加工が施された軸受面を外周に有する軸部と、前記軸部の一端から外径側に延びる円盤部、及び、前記円盤部の半径方向中間部から軸方向他端側に突出した環状突出部を有するハブと、内周に前記軸部が挿入された軸受部材と、前記軸部の軸受面と前記軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部を回転自在に支持するラジアル軸受部と、前記環状突出部の内周面と前記軸受部材の外周面との間に形成され、前記軸受部材の内部に満たされた流体と外気との界面を保持するシール空間とを備えた流体動圧軸受装置において、
前記円盤部のうち、少なくとも前記環状突出部よりも内径側の第1領域を前記軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した前記環状突出部を固定したことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記円盤部のうち、前記環状突出部よりも外径側の第2領域を前記環状突出部と一体形成して環状部材を構成し、前記フランジ一体軸のフランジ部を構成する前記円盤部の第1領域の外周面に、前記環状部材の内周面を嵌合固定した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記フランジ一体軸及び前記環状部材が何れも塑性加工により形成した素形材に研削加工を施してなるものである請求項2記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記環状部材の内周面と前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面とを圧入した請求項2又は3記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記環状部材の内周面と前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面との嵌合部をレーザ溶接により封止した請求項2〜4の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記環状部材の内周面と前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面との嵌合部を接着剤で封止した請求項2〜4の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記環状部材の内周面及び前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面の双方に段部を設け、両者をインロー嵌合させた請求項2〜6の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
前記円盤部全体と前記軸部とを一体形成して前記フランジ一体軸を構成し、前記フランジ一体軸のフランジ部を構成する前記円盤部の端面に前記環状突出部を固定した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項9】
前記フランジ一体軸が塑性加工により形成した素形材に研削加工を施してなるものである請求項8記載の流体動圧軸受装置。
【請求項10】
前記環状突出部と、前記環状突出部の一端から内径に延びる延在部とを有するシール部材を設け、前記延在部の内周面を前記軸部の外周面に嵌合すると共に、前記延在部の端面を前記フランジ一体軸のフランジ部の端面に固定した請求項8又は9記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
前記シール部材の延在部の端面と前記フランジ一体軸のフランジ部の端面との間に、接着剤で満たされた環状の接着剤溜りを形成した請求項10記載の流体動圧軸受装置。
【請求項12】
前記軸部の外周面の一端に、前記軸受面よりも大径なガイド部を設け、このガイド部に前記シール部材の延在部の内周面を圧入した請求項10又は11記載の流体動圧軸受装置。
【請求項13】
前記ガイド部に研削加工が施された請求項12記載の流体動圧軸受装置。
【請求項14】
前記フランジ一体軸のフランジ部の端面のうち、少なくとも前記シール部材の延在部の端面と対向する領域に研削加工が施された請求項10〜13の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項1】
研削加工が施された軸受面を外周に有する軸部と、前記軸部の一端から外径側に延びる円盤部、及び、前記円盤部の半径方向中間部から軸方向他端側に突出した環状突出部を有するハブと、内周に前記軸部が挿入された軸受部材と、前記軸部の軸受面と前記軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部を回転自在に支持するラジアル軸受部と、前記環状突出部の内周面と前記軸受部材の外周面との間に形成され、前記軸受部材の内部に満たされた流体と外気との界面を保持するシール空間とを備えた流体動圧軸受装置において、
前記円盤部のうち、少なくとも前記環状突出部よりも内径側の第1領域を前記軸部と一体形成してフランジ一体軸を構成し、該フランジ一体軸にこれと別体に形成した前記環状突出部を固定したことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記円盤部のうち、前記環状突出部よりも外径側の第2領域を前記環状突出部と一体形成して環状部材を構成し、前記フランジ一体軸のフランジ部を構成する前記円盤部の第1領域の外周面に、前記環状部材の内周面を嵌合固定した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記フランジ一体軸及び前記環状部材が何れも塑性加工により形成した素形材に研削加工を施してなるものである請求項2記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記環状部材の内周面と前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面とを圧入した請求項2又は3記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記環状部材の内周面と前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面との嵌合部をレーザ溶接により封止した請求項2〜4の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記環状部材の内周面と前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面との嵌合部を接着剤で封止した請求項2〜4の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記環状部材の内周面及び前記フランジ一体軸のフランジ部の外周面の双方に段部を設け、両者をインロー嵌合させた請求項2〜6の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
前記円盤部全体と前記軸部とを一体形成して前記フランジ一体軸を構成し、前記フランジ一体軸のフランジ部を構成する前記円盤部の端面に前記環状突出部を固定した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項9】
前記フランジ一体軸が塑性加工により形成した素形材に研削加工を施してなるものである請求項8記載の流体動圧軸受装置。
【請求項10】
前記環状突出部と、前記環状突出部の一端から内径に延びる延在部とを有するシール部材を設け、前記延在部の内周面を前記軸部の外周面に嵌合すると共に、前記延在部の端面を前記フランジ一体軸のフランジ部の端面に固定した請求項8又は9記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
前記シール部材の延在部の端面と前記フランジ一体軸のフランジ部の端面との間に、接着剤で満たされた環状の接着剤溜りを形成した請求項10記載の流体動圧軸受装置。
【請求項12】
前記軸部の外周面の一端に、前記軸受面よりも大径なガイド部を設け、このガイド部に前記シール部材の延在部の内周面を圧入した請求項10又は11記載の流体動圧軸受装置。
【請求項13】
前記ガイド部に研削加工が施された請求項12記載の流体動圧軸受装置。
【請求項14】
前記フランジ一体軸のフランジ部の端面のうち、少なくとも前記シール部材の延在部の端面と対向する領域に研削加工が施された請求項10〜13の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−247052(P2012−247052A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121762(P2011−121762)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]