説明

流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法及びチューブポンプの駆動方法

【課題】装置構成を複雑化することなく、メンテナンス動作ごとの吸引量のバラつきを抑制すること。
【解決手段】一のメンテナンス動作として実吸引動作を複数回行わせる場合において、実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に空吸引動作を行わせることで実吸引動作を行う際のローラー部材の始動位置を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法及びチューブポンプの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を噴射する液体噴射装置として、例えば記録媒体に文字や画像等を記録するインクジェット式記録装置などが知られている。インクジェット式記録装置は、記録媒体を搬送しつつ、噴射ヘッドに設けられたノズルから当該記録媒体にインクを噴射することで、記録媒体に文字や画像等を形成する構成になっている。インクジェット式記録装置には、噴射ヘッドの噴射領域を覆うキャップが設けられている。
【0003】
インクジェット式記録装置においては、インクの増粘や固化、塵埃の付着、さらには気泡の混入などにより噴射ヘッドのノズルに目詰まりが生じ、印刷不良を引き起こす場合がある。また、噴射ヘッドにインクを初期充填する際に、ヘッド内の液体をノズルから排出する必要がある。このため、記録媒体に対しての噴射とは別に、ノズル内の液体を強制的に排出させるクリーニング動作などのメンテナンス動作を行うように構成されている。
【0004】
クリーニング動作では、噴射ヘッドから排出される液体を例えばキャップ部などの液体受部を用いて受けるようにしている。キャップ部には、例えば受けたインクを流出させる流出口が設けられている。流出口には、例えばチューブポンプなどの吸引機構が接続されている。
【0005】
チューブポンプは、キャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、当該チューブ部材を押圧して変形させながら湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、ローラー部材の転動によってキャップ部上の空間の圧力を変動させる構成になっている。
【0006】
チューブポンプは、その構造上、ローラー部材の始動位置によって吸引量が変化してしまう。特に湾曲部に、ローラー部材の押圧による変形量が不十分となるリーク部が含まれる場合には、吸引量(回転量)の設定値が小さいと、ローラー部材の始動位置が変わることによって実際の吸引量にバラツキが生じてしまうという問題があった。
【0007】
これに対して、例えば特許文献1に記載のチューブポンプは、位相検出手段を用いることによりローラー部材の転動動作の位相を検出し、当該検出結果に基づいてローラー部材を所定位置に停止させるようにしている。これにより、クリーニング動作ごとの吸引量のバラつきを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−51226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、位相検出手段を別途設ける必要があるため、チューブポンプの構成がやや複雑化してしまうという問題があった。
【0010】
上記のような事情に鑑み、本発明は、装置構成を複雑化することなく、メンテナンス動作ごとの吸引量のバラつきを抑制することができる流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法及びチューブポンプの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る流体噴射装置は、流体を噴射する噴射面を有する噴射ヘッドと、前記噴射ヘッドの前記噴射面を覆うキャップ部と、前記キャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、前記ローラー部材の転動によって前記キャップ部上の空間の圧力を変動させるチューブポンプと、前記キャップ部が前記噴射面を覆った状態で前記ローラー部材を転動させる実吸引動作、及び、前記キャップ部が前記噴射面を覆っていない状態で前記ローラー部材を転動させる空吸引動作、を含む吸引動作を行わせ、前記噴射ヘッドをメンテナンスさせる制御装置とを備え、前記制御装置は、一のメンテナンス動作として前記実吸引動作を複数回行わせる場合において、前記実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に前記空吸引動作を行わせることで前記実吸引動作を行う際の前記ローラー部材の始動位置を調整することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、一のメンテナンス動作として実吸引動作を複数回行わせる場合において、当該実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に空吸引動作を行わせることで実吸引動作を行う際のローラー部材の始動位置を調整することとしたので、ローラー部材の位相を検出することなく、当該ローラー部材の始動位置を調整することができる。これにより、装置構成を複雑化することなく、メンテナンス動作ごとの吸引量のバラつきを抑制することができる。
【0013】
上記の流体噴射装置は、前記制御装置は、前記実吸引動作を行うごとに前記ローラー部材の転動方向に前記始動位置を等角度ずつずらすことを特徴とする。
本発明によれば、実吸引動作を行うごとにローラー部材の転動方向に始動位置が等角度ずつずれていくことになるため、ローラー部材の始動位置をチューブ部材の湾曲部全体に分散させることができる。これにより、一のメンテナンス動作全体においては、吸引量のバラつきが出にくくなる。
【0014】
上記の流体噴射装置は、前記制御装置は、前記実吸引動作と前記空吸引動作とで、前記ローラー部材を同一の転動方向に転動させることを特徴とする。
本発明によれば、実吸引動作と空吸引動作とで、ローラー部材が同一の転動方向に転動するため、ローラー部材の始動位置の調整を容易に行うことができる。
【0015】
上記の流体噴射装置は、前記制御装置は、前記一のメンテナンス動作における最後の前記吸引動作が完了したときの前記ローラー部材の位置を、当該一のメンテナンス動作における初回の前記吸引動作の前記始動位置に一致させることを特徴とする。
本発明によれば、一のメンテナンス動作が完了したときに、ローラー部材を最初の位置に戻すこととしたので、メンテナンス動作を開始する際のローラー部材の位置を一定にすることができる。これにより、メンテナンス動作間の吸引量のバラつきを抑えることができる。
【0016】
上記の流体噴射装置は、前記湾曲部には、前記ローラー部材の押圧による変形量が不十分となるリーク部が含まれることを特徴とする。
本発明によれば、リーク部を含むチューブポンプを用いる場合であっても、メンテナンス動作ごとの吸引量のバラつきを抑えることができる。リーク部を含むチューブポンプの具体例としては、例えば、円環状に湾曲させた可撓性チューブの両端を同方向に引き出して同一平面内で束ねる構成(オメガタイプ)や、円環状に湾曲させたチューブ同士を互いに逆方向に引き出して交差させる構成(アルファタイプ)などが挙げられる。オメガタイプではチューブの両端が束ねられた部分にリーク部が含まれ、アルファタイプではチューブ同士が交差する部分にリーク部が含まれる。
【0017】
本発明に係る流体噴射装置のメンテナンス方法は、流体を噴射する噴射面を有する噴射ヘッドと、前記噴射ヘッドの前記噴射面を覆うキャップ部と、前記キャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、前記ローラー部材の転動によって前記キャップ部上の空間の圧力を変動させるチューブポンプとを備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、一のメンテナンス動作として、前記キャップ部が前記噴射面を覆った状態で前記ローラー部材を転動させる実吸引動作を複数回行う場合、当該実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に、前記キャップ部が前記噴射面を覆っていない状態で前記ローラー部材を転動させる空吸引動作を行わせることで、前記実吸引動作を行う際の前記ローラー部材の始動位置を調整することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、一のメンテナンス動作として実吸引動作を複数回行う場合において、当該実吸引動作の前及び後のうち少なくとも一方に空吸引動作を行うことで実吸引動作を行う際のローラー部材の始動位置を調整することとしたので、ローラー部材の位相を検出することなく、当該ローラー部材の始動位置を調整することができる。これにより、装置構成を複雑化することなく、メンテナンス動作ごとの吸引量のバラつきを抑制することができる。
【0019】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記メンテナンス動作は、前記噴射ヘッドのクリーニング動作を含むことを特徴とする。
本発明によれば、噴射ヘッドのクリーニング動作において吸引量のバラつきが抑えられるため、所期の噴射特性を維持することができる。
【0020】
本発明に係るチューブポンプの駆動方法は、流体を噴射する噴射ヘッドの噴射面を覆うキャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、前記ローラー部材の転動によって前記キャップ部上の空間の圧力を変動させるチューブポンプの駆動方法であって、前記噴射ヘッドに対する一のメンテナンス動作として、前記キャップ部が前記噴射面を覆った状態で前記ローラー部材を転動させる実吸引動作を複数回行う場合、当該実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に、前記キャップ部が前記噴射面を覆っていない状態で前記ローラー部材を転動させる空吸引動作を行わせることで、前記実吸引動作を行う際の前記ローラー部材の始動位置を調整することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、噴射ヘッドに対する一のメンテナンス動作として実吸引動作を複数回行う場合において、当該実吸引動作の前及び後のうち少なくとも一方に空吸引動作を行うことで実吸引動作を行う際のローラー部材の始動位置を調整することとしたので、ローラー部材の位相を検出することなく、当該ローラー部材の始動位置を調整することができる。これにより、装置構成を複雑化することなく、メンテナンス動作ごとの吸引量のバラつきを抑制することができる。これにより、所期の噴射特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット式記録装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】本実施形態に係るインクジェット式記録装置の要部拡大図。
【図3】本実施形態に係るチューブポンプの内部構造を示す図。
【図4】本実施形態に係るチューブポンプの概観を示した斜視図。
【図5】インクジェット式記録装置の制御系を概略的に示すブロック図。
【図6】インクジェット式記録装置の動作を示す工程図。
【図7】インクジェット式記録装置の動作を示す工程図。
【図8】インクジェット式記録装置におけるチューブポンプの特性を説明する図。
【図9】インクジェット式記録装置におけるチューブポンプの他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による液体噴射装置の一実施形態としてのインクジェット式記録装置について図面を参照して説明する。
本実施形態によるインクジェット式記録装置IJは、複数のノズル開口のそれぞれに連通する各圧力室に対応して設けられた各圧力発生素子により、各圧力室内のインクに圧力変動を生じさせて各ノズル開口からインク滴(液滴)を吐出させるインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッドの一例)を備えている。圧力発生素子としては、例えば圧電振動子を用いることができる。
【0024】
図1は、本実施形態によるインクジェット式記録装置IJの概略構成を示した斜視図である。図1中符号1はキャリッジであり、このキャリッジ1はキャリッジモータ2により駆動されるタイミングベルト3を介して、ガイド部材4に案内されてプラテン5の軸方向に往復移動されるように構成されている。プラテン5は、記録紙6(記録媒体の一例)をその裏面から支持して記録ヘッド12に対する記録紙6の位置を規定する。
【0025】
記録ヘッド12は、キャリッジ1の記録紙6に対向する側に搭載されている。また、キャリッジ1には、記録ヘッド12にインクを供給するインクカートリッジ7が着脱可能に装着されている。
【0026】
図2に示したように記録ヘッド12には複数のノズル開口14及びこれらに連通する複数の圧力室15が形成されており、圧力室15内のインクに圧力変動を生じさせてノズル開口14からインク滴を吐出させることができる。
【0027】
図1に示したように、インクジェット式記録装置IJの非印刷領域であるホームポジション(図1中、右側)にはキャッピング部13が配置されている。このキャッピング部13は、キャリッジ1に搭載された記録ヘッド12がホームポジションに移動した時に、図2に示した位置から上昇して記録ヘッド12のノズル形成面12aに押し当てられ、ノズル形成面12aとの間に密閉空間を形成するように構成されている。そして、キャッピング部13の下方には、キャッピング部13により形成された密閉空間に負圧を与えてインクを吸引するためのチューブポンプ10が配置されている。なお、キャッピング部13の底部などには、チューブポンプ10とは異なる位置に大気開放機構(不図示)が設けられていても構わない。
【0028】
キャッピング部13の印刷領域側の近傍には、ゴムなどの弾性板を備えたワイピング部11が記録ヘッド12の移動軌跡に対して例えば水平方向に進退できるように配置されている。このワイピング部11は、キャリッジ1がキャッピング部13上を移動するに際して、必要に応じて記録ヘッド12のノズル形成面12aを払拭することができるように構成されている。
【0029】
このインクジェット式記録装置IJは、さらに、記録ヘッド12により印刷(記録)が行われる記録紙6をヘッド走査方向に対して直交する紙送り方向に間欠的に搬送する紙送り機構を備えている。
【0030】
図3はチューブポンプ10の内部構造を示し、図3に示したようにこのチューブポンプ10は、円環状に湾曲させた可撓性チューブの両端を同方向に引き出して同一平面内で束ねる形式のものである。チューブポンプ10は、円環状部20aを含むチューブ部材20と、チューブ部材20の円環状部20aの内周を転動するローラー部材21と、このローラー部材21を回転可能に支持すると共に回転軸25a周りに回転する回転板25と、回転板25を回転させることによりローラー部材21を公転させて、チューブ部材20の円環状部20aの内周に沿ってローラー部材21を転動させるモータ(駆動源)22と、有する。このモータ22は、紙送り機構のモータ等で兼用することができる。このチューブポンプ10は、チューブ部材20の束ねられた部分において、ローラー部材21による押圧変形量が不十分となるリークポイントXを含んでいる。
【0031】
図4は、本実施形態におけるチューブポンプ10の概観を示した斜視図であり、図4中の符号24はポンプフレームを示している。このポンプフレーム24の内部に、図3に示したチューブ部材20の円環状部20aが収納されている。即ち、ポンプフレーム24の内面に、可撓性のチューブ部材20の外形を円環状に規制する支持面が形成されている。
【0032】
図5は、本実施形態によるインクジェット式記録装置IJにおけるクリーニング操作(吸引操作)を制御する制御回路等を示したブロック図である。図5に示したようにチューブポンプ10を構成するチューブ部材20の一端はキャッピング部13に連通しており、他端は廃液タンク23に連通している。これにより、キャッピング部13の内部空間に排出されたインク廃液は、チューブポンプ10を介して廃液タンク23に廃棄することができる。
【0033】
図5中の符号30はホストコンピュータであり、このホストコンピュータ30にはプリンタドライバ31が搭載されている。そして、プリンタドライバ31のユーティリティ上で、入力装置およびディスプレイを利用して、既知の用紙サイズ、印刷モードの選択、フォント等のデータおよび印刷指令等が入力されるように構成されている。
【0034】
プリンタドライバ31から印刷制御部32に対して印刷データが送出され、印刷制御部32は受け取った印刷データに基づいてビットマップデータを生成し、このビットマップデータに基づいてヘッド駆動部33により駆動信号を発生させて、記録ヘッド12からインクを吐出させるように構成されている。
【0035】
ヘッド駆動部33は、印刷データに基づく駆動信号の他に、クリーニング制御部34の一部を構成するフラッシング制御部35からのフラッシング指令信号を受けてフラッシングのための駆動信号を記録ヘッド12に出力するようにも構成されている。
【0036】
クリーニング制御部34は、さらに、インク吸引制御部36を有しており、このインク吸引制御部36は、クリーニング操作としてインク吸引を実施する際にチューブポンプ10の駆動を制御する。また、クリーニング制御部34は、キャッピング部13による記録ヘッド12のノズル形成面12aの封止状態/非封止状態を切換操作する。また、キャリッジ駆動制御部37は、印刷制御部32及びクリーニング制御部34からの駆動信号に基づいて、キャリッジ1を所定のポジションに移動させる。
【0037】
このクリーニング制御部34は、例えばキャッピング部13がノズル形成面12Aを覆った状態でローラー部材21を所定方向に転動させる実吸引動作、及び、キャッピング部13がノズル形成面12aを覆っていない状態でローラー部材21を同方向に転動させる空吸引動作、をそれぞれ行わせる。
【0038】
実吸引動作は、キャッピング部13がノズル形成面12aを覆った状態でキャッピング部13とノズル形成面12aとの間を吸引する動作である。実吸引動作により、例えばノズル形成面12aからインクを排出されることになる。クリーニング制御部34は、1回のクリーニング動作の中で、例えば複数回の実吸引動作を行わせる。
【0039】
空吸引動作は、キャッピング部13がノズル形成面12aを覆っていない状態でキャッピング部13とノズル形成面12aとの間を吸引する動作である。空吸引動作は、ローラー部材21を所定角度転動させる複数の単位吸引ステップを含んでいる。例えばキャッピング部13内のインクを吸引して除去する場合などに用いられるモードである。勿論、キャッピング部13内にインクが存在しない状態において空吸引を行っても構わない。クリーニング制御部34は、例えば実行する単位吸引ステップの数を設定することで、空吸引動作における吸引量を設定することができると共に、ローラー部材21の位置を調整できるようにもなっている。
【0040】
次に、上記のように構成されたインクジェット式記録装置IJの動作を説明する。以下の説明では、チューブポンプ10を用いたクリーニング動作を中心に説明する。本実施形態では、1回のクリーニング動作の中で、上記実吸引動作を例えば3回行わせる場合を例に挙げて説明する。また、1回の実吸引動作においては、ローラー部材21を例えば時計回りに180°転動させるものとする。なお、本実施形態では、複数回の実吸引動作のそれぞれ、また、複数回の空吸引動作のそれぞれにおいて、ローラー部材21の移動方向は全て同一方向(時計回り)としている。
【0041】
(クリーニング動作・その1)
クリーニング制御部34は、記録ヘッド12のノズル形成面12aとキャッピング部13とを対向させた後、キャッピング部13によってノズル形成面12aを密閉させる。このとき、図6に示すように、チューブポンプ10のローラー部材21は、例えば位置aに配置されているものとする。
【0042】
この状態から、クリーニング制御部34は、ローラー部材21を例えば180°転動させることで、1回目の実吸引動作を行わせる。この結果、ローラー部材21は、図6の位置bまで時計回りに移動する。
【0043】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13をノズル形成面12aから一旦外し、空吸引動作を行わせる。この動作では、例えば空吸引動作の単位吸引ステップの実行ステップ数を調整することにより、ローラー部材21を位置bから位置cまで時計回りに移動させる。この位置cは、2回目の実吸引動作の始動位置となる。
【0044】
ここで、位置cについて説明する。位置cは、位置aに対して時計回りに120°ずれた位置である。位置aは、1回目の実吸引動作におけるローラー部材21の始動位置である。このため、2回目の実吸引動作の始動位置(位置c)は、1回目の実吸引動作の始動位置(位置a)に対して120°転動方向にずれた位置に設定されることになる。したがって、クリーニング制御部34は、位置bからローラー部材21を時計回りに300°(180°+120°)転動させるようにする。
【0045】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13によってノズル形成面12aを密閉した後、ローラー部材21を位置cから例えば180°転動させることで、2回目の実吸引動作を行わせる。この結果、ローラー部材21は、図6の位置dまで時計回りに移動する。
【0046】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13をノズル形成面12aから再度外し、空吸引動作を行わせる。この動作では、ローラー部材21を位置dから位置eまで時計回りに移動させる。この位置eは、3回目の実吸引動作の始動位置であり、位置cに対して120°時計回りにずれた位置である。
【0047】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13によってノズル形成面12aを密閉した後、ローラー部材21を位置eから例えば180°転動させることで、3回目の実吸引動作を行わせる。この結果、ローラー部材21は、図6の位置fまで時計回りに移動する。
【0048】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13をノズル形成面12aから再度外し、空吸引動作を行わせる。この動作では、ローラー部材21を位置fから位置aまで時計回りに移動させる。この位置aは、一連のクリーニング動作における1回目の実吸引動作の始動位置であり、位置eに対して120°時計回りにずれた位置である。以上の動作により、1回のクリーニング動作が終了する。
【0049】
ここで、クリーニング動作におけるローラー部材21の移動に着目する。ローラー部材21は、1回目の実吸引動作においては180°移動し、その後の空吸引動作において300°移動する。また、2回目の実吸引動作においては180°移動し、その後の空吸引動作において300°移動する。更に、3回目の実吸引動作においては180°移動し、その後の空吸引動作において300°移動する。このように、ローラー部材21は、実吸引動作における180°の移動と、その後の空吸引動作における300°の移動とを繰り返している。
【0050】
また、1回目の実吸引動作、2回目の実吸引動作、3回目の実吸引動作のそれぞれについて、ローラー部材21の始動位置は、位置a、位置c、位置eと、120°ずつ時計回りに移動している。また、1回のクリーニング動作におけるローラー部材21の転動終了位置は、位置aである。このため、次回のクリーニング動作においては、再び位置aからローラー部材21が転動開始することになる。
【0051】
(クリーニング動作・その2)
次に、各実吸引動作を行う前に空吸引動作を行う場合を説明する。この場合、クリーニング制御部34は、記録ヘッド12のノズル形成面12aとキャッピング部13とを対向させた後、キャッピング部13とノズル形成面12aとを離した状態にしておく。このとき、図7に示すように、チューブポンプ10のローラー部材21は、例えば位置hに配置されているものとする。
【0052】
クリーニング制御部34は、ローラー部材21が位置hにある状態から、空吸引動作を先に行わせる。この空吸引動作では、クリーニング制御部34は、ローラー部材21を位置hから位置iへ時計回りに300°転動させる。その後、クリーニング制御部34は、キャッピング部13によってノズル形成面12aを密閉させた後、1回目の実吸引動作を行わせる。この動作では、クリーニング制御部34は、ローラー部材21を位置iから位置jへ時計回りに180°転動させる。
【0053】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13をノズル形成面12aから一旦外し、空吸引動作を行わせる。この動作では、ローラー部材21を位置jから位置kまで時計回りに300°転動させる。
【0054】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13によってノズル形成面12aを密閉した後、2回目の実吸引動作を行わせる。この動作では、クリーニング制御部34は、ローラー部材21を位置kから位置lへ180°時計回りに転動させる。
【0055】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13をノズル形成面12aから再度外し、空吸引動作を行わせる。この動作では、クリーニング制御部34は、ローラー部材21を位置lから位置mまで300°時計回りに移動させる。
【0056】
次に、クリーニング制御部34は、キャッピング部13によってノズル形成面12aを密閉した後、3回目の実吸引動作を行わせる。この動作では、クリーニング制御部34は、ローラー部材21を位置lから位置hまで180°時計回りに転動させる。以上の動作により、1回のクリーニング動作が終了する。
【0057】
空吸引動作を先に行う場合において、1回目の実吸引動作を行う際には位置iがローラー部材21の始動位置となり、2回目は位置k、3回目は位置mがそれぞれローラー部材21の始動位置となる。このように、空吸引動作を先に行う場合であっても、ローラー部材21の始動位置は、位置h、位置j、位置lと、120°ずつ時計回りに移動している。また、1回のクリーニング動作におけるローラー部材21の転動終了位置は、位置hである。このため、次回のクリーニング動作においては、再び位置hからローラー部材21が転動開始(空吸引動作)することになる。
【0058】
本実施形態では、2種類のクリーニング動作について、1回のクリーニング動作における実吸引動作の回数を3回行う場合を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、2回以下であっても4回以上であっても本発明の適用は可能である。
【0059】
具体的には、実吸引動作の回数を3回としたとき、各実吸引動作を行う際のローラー部材21の始動位置が120°ずつ時計回りに移動するようにローラー部材21の位置を調整しているため、3回の実吸引動作を終了させたときには、ローラー部材21を元の位置(クリーニング動作の開始時の位置)に戻すことができる。次回のクリーニング動作を行う際には、前回のクリーニング動作と同一の状態で行うことができるため、クリーニング動作ごとの吸引量を均一にすることができる。
【0060】
これを踏まえて、実吸引動作をn回(nは2以上の自然数)行う場合を考えると、各実吸引動作を行う際、ローラー部材21の始動位置が(360/n)°ずつ例えば時計回りに移動するように当該始動位置を調整することが好ましいといえる。つまり、
(1)実吸引動作によるローラー部材21の転動角度+空吸引動作によるローラー部材21の転動角度=m×360°±(360/n)°
(2)空吸引動作によるローラー部材21の転動角度+次回の実吸引動作によるローラー部材21の転動角度=m×360°±(360/n)°
の少なくとも1つを満たすことが好ましいといえる。ただし、mは自然数である。
【0061】
この場合、n回の実吸引動作を終了させたときには、ローラー部材21はクリーニング動作の開始時の位置に戻った状態となる。したがって、実吸引動作を複数回行う場合においては、異なるクリーニング動作の間で吸引量を均一にすることができる。また、ローラー部材21の始動位置がチューブ部材20の円環状部20aの全体に分散されることになるため、その分吸引量のバラつきも少なくなる。
【0062】
このように、本実施形態によれば、クリーニング動作として実吸引動作を複数回行わせる場合において、当該実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に空吸引動作を行わせることで実吸引動作を行う際のローラー部材21の始動位置を調整することとしたので、ローラー部材21の位相を検出することなく、当該ローラー部材21の始動位置を調整することができる。これにより、装置構成を複雑化することなく、例えばチューブポンプ10に位相検出装置などを設けることなく、クリーニング動作ごとの吸引量のバラつきを抑えることができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、複数回の実吸引動作のそれぞれにおいて、また、複数回の空吸引動作のそれぞれにおいて、ローラー部材21を同一の転動方向(例えば、時計回り)に転動することとしたので、ローラー部材21の始動位置の調整を容易に行うことができる。なお、この場合、キャッピング部13には、チューブポンプ10とは異なる大気開放機構を設けておくことが好ましい。
【0064】
また、本実施形態によれば、実吸引動作を行うごとにローラー部材21の転動方向に始動位置が等角度ずつずれていくことになるため、ローラー部材21の始動位置をチューブ部材20の円環状部20a全体に分散させることができる。これにより、一のクリーニング動作全体において、吸引量のバラつきが出にくくなる。
【0065】
加えて、一のクリーニング動作が完了したときに、ローラー部材21を最初の位置(クリーニング開始時の位置)に戻すこととしたので、クリーニングを開始する際のローラー部材21の位置を一定にすることができる。これにより、メンテナンス動作間の吸引量のバラつきを抑えることができる。
【0066】
なお、一般的に、チューブポンプにおいては、その構造上、可撓性チューブ50をローラ部材51によって押しつぶすことができない位置、即ちリークポイントが存在し、このリークポイントにローラ部材51が停止した場合には、チューブポンプにおいて流体の漏洩が生じ得る。具体的には、図8(a)に示したチューブポンプにおいては可撓性チューブ50同士を束ねた部分Xがリークポイントとなる。
【0067】
吸引操作の開始時において、図8(a)に示したようにリークポイントXから遠い位置からローラ部材51が始動した場合には、始動開始位置からリークポイントXまでの距離が長いので、それに応じて吸引量が増大する。一方、図8(b)に示したようにリークポイントXに近い位置からローラ部材51が始動した場合には、回転開始後に少し負圧が生じた時点でリークポイントXに達し、そこでのリークによって負圧の大きさが減少し、それに応じて吸引量が減少してしまう。
【0068】
図8(c)は、ポンプ回転時間[秒]と負圧の大きさ[−Pa]との関係を示したグラフであり、同グラフ中の符号Aは図8(a)の状態から吸引操作を開始した場合の負圧曲線を示し、符号Bは図8(b)の状態から吸引操作を開始した場合の負圧曲線を示している。さらに、図8(c)のグラフでは、リークポイントを持たないポンプにおける負圧曲線を比較のために示している。
【0069】
図8(c)から分かるように、ケースA及びケースBのいずれにおいても、ローラ部材51がリークポイントXに達した時点で負圧の大きさが減少してしまうので、リークポイントを持たないポンプに比べると吸引量が低下している。そして、リークポイントXでのリークに伴う吸引量の低下の度合いが、ケースA(図8(a))の場合よりもケースB(図8(b))の場合の方が大きい。
【0070】
このように、リークポイントXを有するチューブポンプにおいては、ローラ部材51の始動位置が変わることによって実際の吸引量にバラツキが生じてしまい、吸引量の設定値が小量の場合には±30%程度のバラツキが発生し、吸引量の設定値が中量の場合には±10%程度のバラツキが発生する。これに対して、本実施形態では、リークポイントXを含むチューブポンプ10を用いる場合であっても、クリーニング動作ごとの吸引量のバラつきを抑えることができる。
【0071】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態では、チューブポンプ10として、チューブポンプの構造としては、チューブ部材20の両端を同方向に引き出して例えば同一平面内で束ねる構成を挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば図9に示すように、円環状に湾曲させたチューブ部材20の端部同士を互いに逆方向に引き出して交差させる構造を用いたチューブポンプであっても本発明の適用は可能である。なお、この場合、チューブ部材20の端部同士の交差する部分がリークポイントXとなる。
【0072】
また、上記実施形態においては、空吸引動作を行わせる際、クリーニング制御部34が実行する単位吸引ステップの数を設定することで始動位置を調整する構成としたが、これに限られることは無く、他の要素に基づいて調整する構成としても構わない。
【0073】
また、上記実施形態においては、クリーニング動作において実吸引動作及び空吸引動作を行わせる際、例えばローラー部材21を一方向(例えば、時計回り)に転動させる場合を例に挙げて説明したが、実際にはこれに限られることは無く、必要に応じて逆方向(例えば、反時計回り)に転動させる構成であっても勿論構わない。
【符号の説明】
【0074】
IJ…インクジェット式記録装置(流体噴射装置) X…リークポイント(リーク部) a〜m…位置 10…チューブポンプ 12…記録ヘッド(噴射ヘッド) 12a…ノズル形成面(噴射面) 13…キャッピング部 20…チューブ部材 20a…円環状部(環状部) 21…ローラー部材 22…モータ 34…クリーニング制御部(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する噴射面を有する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッドの前記噴射面を覆うキャップ部と、
前記キャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、前記ローラー部材の転動によって前記キャップ部上の空間の圧力を変動させるチューブポンプと、
前記キャップ部が前記噴射面を覆った状態で前記ローラー部材を転動させる実吸引動作、及び、前記キャップ部が前記噴射面を覆っていない状態で前記ローラー部材を転動させる空吸引動作、を含む吸引動作を行わせ、前記噴射ヘッドをメンテナンスさせる制御装置と
を備え、
前記制御装置は、一のメンテナンス動作として前記実吸引動作を複数回行わせる場合において、前記実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に前記空吸引動作を行わせることで前記実吸引動作を行う際の前記ローラー部材の始動位置を調整する
流体噴射装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記実吸引動作を行うごとに前記ローラー部材の転動方向に前記始動位置を等角度ずつずらす
請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記実吸引動作と前記空吸引動作とで、前記ローラー部材を同一の転動方向に転動させる
請求項1又は請求項2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記一のメンテナンス動作における最後の前記吸引動作が完了したときの前記ローラー部材の位置を、当該一のメンテナンス動作における初回の前記吸引動作の前記始動位置に一致させる
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記湾曲部には、前記ローラー部材の押圧による変形量が不十分となるリーク部が含まれる
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
流体を噴射する噴射面を有する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッドの前記噴射面を覆うキャップ部と、
前記キャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、前記ローラー部材の転動によって前記キャップ部上の空間の圧力を変動させるチューブポンプと
を備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、
一のメンテナンス動作として、前記キャップ部が前記噴射面を覆った状態で前記ローラー部材を転動させる実吸引動作を複数回行う場合、当該実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に、前記キャップ部が前記噴射面を覆っていない状態で前記ローラー部材を転動させる空吸引動作を行わせることで、前記実吸引動作を行う際の前記ローラー部材の始動位置を調整する
流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記メンテナンス動作は、前記噴射ヘッドのクリーニング動作を含む
請求項6に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項8】
流体を噴射する噴射ヘッドの噴射面を覆うキャップ部に接続され可撓性を有し湾曲部が形成されたチューブ部材と、前記チューブ部材を押圧して変形させながら前記湾曲部の内周を転動するローラー部材とを有し、前記ローラー部材の転動によって前記キャップ部上の空間の圧力を変動させるチューブポンプの駆動方法であって、
前記噴射ヘッドに対する一のメンテナンス動作として、前記キャップ部が前記噴射面を覆った状態で前記ローラー部材を転動させる実吸引動作を複数回行う場合、当該実吸引動作のそれぞれの前及び後のうち少なくとも一方に、前記キャップ部が前記噴射面を覆っていない状態で前記ローラー部材を転動させる空吸引動作を行わせることで、前記実吸引動作を行う際の前記ローラー部材の始動位置を調整する
チューブポンプの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−161855(P2011−161855A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28878(P2010−28878)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】