説明

流体噴射装置

【課題】パルス流噴射の停止時における流体の流出を、簡単な構成で防止する。
【解決手段】噴射対象に向けて流体噴射開口部93から流体を噴射する流体噴射装置1であって、流体噴射開口部93と連通する出口流路82を有する流体室80と、流体室80に供給された流体を加減圧して、出口流路82への脈動流を発生する脈動発生部20とを備え、流体噴射開口部93は、出口流路82側の入口開口端93aと、入口開口端93aとは噴射対象側の出口開口端93bとを備え、入口開口端93aの開口面積より出口開口端93bの開口面積が大きく、前記吸引管の内側に前記出口流路を形成する、流体噴射装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射する流体噴射装置、および、流体を噴射することにより生体の切除または切開を行う手術装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織を切開または切除する流体噴射装置として、流体室の容積を容積変更手段により急激に変化させて流体を脈動流に変換し、ノズルから流体をパルス状に高速噴射するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の流体噴射装置では、容積変更手段を停止している際にも、流体室への流体の供給が継続されるため、パルス流噴射の停止時に、流体噴射開口部から流体が流出してしまう虞があった。そこで、流体供給手段から流体室に連通する入口流路にマイクロバルブを設けることにより、容積変更手段の停止時における流体の流出を防止するものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−82202号公報
【特許文献2】特開2009−285116号公報
【0005】
しかしながら、前記従来の技術では、マイクロバルブを設けることによって装置が複雑化する問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、パルス流噴射の停止時における流体の流出を、簡単な構成で低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1] 流体が供給される流体室と、
前記流体室に供給された流体を加圧して、脈動流を発生させる脈動発生部と、
前記流体室と連通し、前記脈動流を伝播させる出口流路と、
前記出口流路と連通し、噴射対象に向けてパルス流を噴射する流体噴射開口部と、
前記流体噴射開口部の近傍に設けられる吸引開口部と、
前記吸引開口部から流体を吸引する流体吸引部と、
を備え、
前記流体噴射開口部は、前記出口流路側の入口開口端の開口面積よりも、前記噴射対象側の出口開口端の開口面積が大きい、流体噴射装置。
【0009】
適用例1の流体噴射装置によれば、流体室に供給された流体が加圧され、脈動流を発生することで、流体噴射開口部から流体がパルス状に噴射される。一方、流体室に供給された流体の加減圧が停止されているとき(以下、「噴射停止時」と呼ぶ)には、流体は、次のように移動することから、流体噴射開口部から流出することはほとんどない。噴射停止時にも、流体供給手段から流体室に流体が継続して供給されるが、流体噴射開口部の出口開口端の開口面積が、流体噴射開口部の入口開口端の開口面積より大きいことから、流体は、流体噴射開口部で流速が遅くなる。このために、流体は流体の凝集力を超える流速でなくなり、液滴状になることから、流体噴射開口部を出た流体は、流体噴射開口部の周辺に貯溜され、吸引開口部から吸引手段により吸引することで、回収することができる。したがって、適用例1の流体噴射装置によれば、噴射停止時における流体の流体噴射装置からの流出を、簡単な構成で低減することができる。
【0010】
[適用例2] 適用例1に記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射開口部は、前記流体噴射開口部から前記吸引開口部へ前記流体を誘導する孔部を備える、流体噴射装置。
【0011】
適用例2の流体噴射装置によれば、流体噴射開口部の内側に存在する流体を、孔部により、吸引開口部側に誘引することができる。したがって、パルス流噴射停止時に留まった流体をより吸引することが可能となる。
【0012】
[適用例3] 適用例1または2に記載の流体噴射装置であって、
前記吸引開口部は、前記流体噴射開口部よりも前記噴射対象側に突出している、流体噴射装置。
【0013】
適用例3の流体噴射装置によれば、流体噴射開口部の出口開口端付近に滞留した流体が、自重で鉛直下方向に垂れたときに、吸引管でその垂れた流体を受けることができる。したがって、パルス流噴射停止時に留まった流体をより吸引することが可能となる。
【0014】
[適用例4] 適用例1ないし3のいずれかに記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射開口部は、前記入口開口端から前記出口開口端に向かって開口面積が大きくなる形状である、流体噴射装置。
【0015】
適用例4の流体噴射装置によれば、流体噴射開口部内で流体の流速を徐々に遅くすることができることから、流体噴射開口部の周辺に流体を留めることがより容易となる。
【0016】
[適用例5] 適用例1ないし4のいずれかに記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射開口部は、
開口面積が一様な直管部分と、
前記直管部分の一方端から前記出口開口端に向かって開口面積が大きくなる錐部分と、
を備える流体噴射装置。
【0017】
適用例5の流体噴射装置によれば、流体噴射開口部における直管部分でパルス流の噴射方向を一方向に定め易いことから、噴射方向の直進性が高い。
【0018】
[適用例6] 適用例1ないし5のいずれかに記載の流体噴射装置であって、前記流体請求項1ないし5のいずれかに記載の流体噴射装置であって、
前記脈動発生部による前記流体室の加減圧を繰り返し実行させるパルス流噴射制御と、前記脈動発生部による前記流体室の加減圧を停止させるパルス流噴射停止制御とを選択実行する制御部と、
を備える流体噴射装置。
【0019】
適用例6の流体噴射装置によれば、制御部により、パルス流噴射時の制御とパルス流噴射停止時の制御とが実行される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係る手術具としての流体噴射装置を示す構成説明図である。
【図2】本実施形態に係る脈動発生部20および2重管90を流体の噴射方向に沿って切断した切断面を示す断面図である。
【図3】2重管90の断面と正面を示す説明図である。
【図4】パルス流噴射停止時とパルス流噴射時との流体Wの様子を示す説明図である。
【図5】2重管90において流体Wが吸引される様子を示す説明図である。
【図6】パルス流噴射停止時とパルス流噴射時とにおいて、流体噴射開口部から噴射する流体の流量の変化を示すグラフである。
【図7】実施形態2における2重管190を示す説明図である。
【図8】実施形態3における2重管290の先端側から見た正面図である。
【図9】実施形態3における2重管290の横断面を示す説明図である。
【図10】実施形態4における2重管390の横断面を示す説明図である。
【図11】実施形態5における2重管490の横断面を示す説明図である。
【図12】実施形態6における2重管590の横断面を示す説明図である。
【図13】流体噴射開口部の変形例を種々示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明による流体噴射装置は、インク等を用いた描画、細密な物体及び構造物の洗浄、手術用メス等様々に採用可能であるが、生体組織を切開または切除することに好適な流体噴射装置を例示して説明する。従って、実施形態にて用いる流体は、水または生理食塩水等の流体である。
【0022】
A.実施形態1:
A−1.全体の構成:
図1は、実施形態1に係る手術装置としての流体噴射装置を示す構成説明図である。図1において、流体噴射装置1は、流体を収容する流体容器(以下、「流体供給容器」と呼ぶ)2と、流体供給容器2に連通する、流体供給手段としての第1のポンプ10と、第1のポンプ10から供給される流体を脈動流に変換させる脈動発生部20と、脈動発生部20に接続される細いパイプ状の2重管90とを備えている。第1のポンプ10と脈動発生部20とは、流体供給チューブ12によって接続されている。
【0023】
また、流体噴射装置1は、2重管90から流体を吸引する流体吸引部としての第2のポンプ14と、第2のポンプ14により吸引された流体を収容する流体容器(以下、「流体回収容器」と呼ぶ)4とを備えている。第2のポンプ14と2重管90とは、流体回収チューブ16によって接続されている。
【0024】
2重管90は、大径の円筒管(外側の管)91に小径の円筒管(内側の管)92を入れ込んだ2重円筒管構造となっている。小径の円筒管92の先端部には、流体を噴射するための流体噴射開口部93が形成されている。大径の円筒管91と小径の円筒管92との間の先端部には、流体を吸引するための吸引開口部96が形成されている。小径の円筒管92の内側の領域が脈動発生部20と連通しており、大径の円筒管91と小径の円筒管92との間の領域が流体回収チューブ16と連通している。
【0025】
なお、2重管90は、流体噴射時において変形しない程度の剛性を有している。流体供給チューブ12および流体回収チューブ16は、柔軟で可撓性があるものが好ましい。
【0026】
また、流体噴射開口部93は、親液性であることが好ましい。流体噴射開口部93が、親液性であることにより、流体噴射開口部93に液滴が溜まっても流体噴射開口部93から液滴が落下しにくく、詳しくは後述するが、流体噴射開口部93に溜まった流体を吸引開口部96から吸引することができる。
【0027】
流体噴射装置1は、さらに、第1のポンプ10と第2のポンプ14と脈動発生部20を駆動制御する制御部100を備える。脈動発生部20には、パルス流噴射をオン/オフ制御するパルス流噴射スイッチ22が設けられている。制御部100には、流体噴射装置1をオン/オフ制御するメインスイッチ24が設けられている。パルス流噴射スイッチ22およびメインスイッチ24は、流体噴射装置1の使用者によって操作される。
【0028】
制御部100は、メインスイッチ24とパルス流噴射スイッチ22からのオン/オフの指示を入力し、これら指示に応じて、第1のポンプ10、第2のポンプ14、および脈動発生部20を駆動/停止する。詳しくは、制御部100は、メインスイッチ24がオンされると、第1のポンプ10と第2のポンプ14とを駆動し、メインスイッチ24がオフされると、第1のポンプ10と第2のポンプ14とを停止する。メインスイッチ24がオンされた状態で、パルス流噴射スイッチ22がオンされると、脈動発生部20を駆動し、パルス流噴射スイッチ22がオフされると、脈動発生部20の駆動を停止する。言い換えると、パルス流噴射スイッチ22は、脈動発生部20の駆動(パルス流噴射制御)と停止(パルス流噴射停止制御)とを選択実行する。
【0029】
第1のポンプ10が駆動されると、流体供給容器2に収容された流体は、接続チューブ6を介して第1のポンプ10によって吸引され、一定の圧力で流体供給チューブ12を介して脈動発生部20に供給される。脈動発生部20には、流体室80(図2参照)と、この流体室80の容積を変更する容積変更手段(後述する)とを備えており、脈動発生部20が駆動されると、流体室80は脈動流を発生して、2重管90の小径の円筒管92、流体噴射開口部93を通して流体をパルス状に噴射する。容積変更手段を含む脈動発生部20の詳しい構成については、後述する。このパルス流噴射時には、第2のポンプ14も駆動されており、2重管90における吸引開口部96の先の流体は、流体回収チューブ16を介して第2のポンプ14によって吸引され、流体回収容器4に回収される。
【0030】
ここで「脈動流」とは、流体の流れる方向が一定で、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動を伴った流体の流動を意味する。脈動流には、流体の流動と停止とを繰り返す間欠流も含むが、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動をしていればよいため、必ずしも間欠流である必要はない。
【0031】
同様に、「流体をパルス状に噴射する」とは、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動した流体の噴射を意味し、本明細書では、これを「パルス流噴射」とも呼ぶ。パルス状の噴射の一例として、流体の噴射と非噴射とを繰り返す間欠噴射が挙げられるが、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動していればよいため、必ずしも間欠噴射である必要はない。
【0032】
一方、第1のポンプ10および第2のポンプ14が駆動された状態で、制御部100により脈動発生部20の駆動が停止されると、流体噴射開口部93からのパルス流噴射は止まるものの、第1のポンプ10が駆動されていることから、流体噴射開口部93から流体は流出する。その流出した流体は、流体噴射開口部93の先端付近に滞留し、第2のポンプ14が駆動されることで、吸引開口部96から流体回収チューブ16を介して第2のポンプ14によって吸引され、流体回収容器4に回収される。
【0033】
制御部100は、本実施例では、CPU、ROM、RAM(図示せず)等を備えた周知のマイクロコンピューターによって構成している。制御部100は、マイクロコンピューターに換えて、ディスクリートな電子部品により構成してもよい。
【0034】
また、第1のポンプ10を用いることなく、輸液バッグをスタンド等によって脈動発生部20よりも高い位置に保持するようにして、脈動発生部20への流体の流量を発生する構成としもよい。この場合、第1のポンプ10は不要となり、構成を簡素化することができる他、消毒等が容易になる利点がある。なお、輸液バッグを用いることと、第1のポンプ10を用いることとを併用する構成とすることもできる。
【0035】
この流体噴射装置1を用いて手術をする際には、2重管90を生体組織に向け、流体噴射開口部93から流体をパルス状に噴射することで、その生体組織を切開または切除することができる。
【0036】
A−2.脈動発生部20および2重管90の構造:
図2は、本実施形態に係る脈動発生部20および2重管90を流体の噴射方向に沿って切断した切断面を示す断面図である。なお、図2は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。脈動発生部20は、第1のポンプ10(図1)から流体供給チューブ12を介して流体室80に流体を供給する入口流路81と、容積変更手段としての圧電素子30およびダイアフラム40と、流体室80に連通する出口流路82とを有して構成されている。
【0037】
ダイアフラム40は、円盤状の金属薄板からなり、ケース50とケース70によって密着されている。圧電素子30は、本実施形態では積層型圧電素子を例示しており、両端部の一方がダイアフラム40に、他方が底板60に固着されている。
【0038】
流体室80は、ケース70のダイアフラム40に対向する面に形成される凹部とダイアフラム40とによって形成される空間である。流体室80の略中央部には出口流路82が開口されている。
【0039】
ケース70とケース50とは、それぞれ対向する面において接合一体化されている。ケース70には、出口流路82に連通する接続流路95を有する2重管90が嵌着される。尚、本実施例では、出口流路82が接続流路95と流路断面が異なる形状となっているが、出口流路82が接続流路95と流路断面が同じ形状となっていてもよい。すなわち、出口流路82と接続流路95とを合わせて出口流路とみなしてもよい。
【0040】
2重管90は、先に説明したように、大径の円筒管91に小径の円筒管92を入れ込んだ2重円筒管構造となっており、小径の円筒管92の内側が接続流路95となっている。大径の円筒管91の中心軸と小径の円筒管92の中心軸とは一致している(すなわち、同心の2重円筒管構造となっている)。
【0041】
小径の円筒管92の先端に流体噴射開口部93が形成されており、流体噴射開口部93は接続流路95における一方側の端部と接続されている。接続流路95における他方側の端部は出口流路82と接続されている。
【0042】
流体噴射開口部93は、出口流路82側の入口開口端93aと外側の出口開口端93bとを有する孔形状であり、孔の中心軸方向が接続流路95の中心軸方向(すなわち、小径の円筒管92の中心軸方向)と一致するように配置されている。さらに、流体噴射開口部93は、入口開口端93aから出口開口端93bに向かって広がった形状をしており、入口開口端93aの開口面積より出口開口端93bの開口面積が大きくなっている。
【0043】
図3は、2重管90の断面と正面を示す説明図である。図3(a)は図2におけるA−A線矢視方向断面図であり、図3(b)は2重管90の先端側から見た正面図である。図3(a)、図3(b)からも、入口開口端93aの開口面積より出口開口端93bの開口面積が大きいことが判る。本実施形態1では、入口開口端93aの直径が0.1mm〜0.3mmであり、出口開口端93bの直径が1mm〜3mmである。流体噴射開口部93の中心軸方向の長さは1mm〜5mmである。
【0044】
図2に示すように、入口開口端93aと接続流路95の一方側の端部との間の連結面94は、接続流路95の中心軸方向に対して垂直に立ち上がるのではなく、接続流路95の内部壁面との間の角度が鈍角となるように形成されている。これにより、気泡が隅部に滞留することを防止することができる。また、連結面94と接続流路95の内部壁面とでなす隅部はアールを有するものとしてもよく、同様に隅部に気泡が滞留することを防止することができる。これにより、接続流路95内の脈動流の圧力伝播が、気泡によって減衰することを回避できる。
【0045】
圧電素子30に山と谷が交互に繰り返される駆動信号が入力されると、駆動信号の駆動波形に従って、圧電素子30は伸縮を繰り返す。圧電素子30が伸びると流体室80の容積を減らし、圧電素子30が縮むと流体室80の容積を増やし、この繰り返しにより、流体室80は脈動流を発生する。この結果、流体は、パルス状の液滴となって出口流路82から継続して高速で噴射し、接続流路95を介して流体噴射開口部93から噴射する。すなわち、パルス流噴射がなされる。本実施形態1では、圧電素子30伸縮の周波数を1Hzから10kHzまでとしている。
【0046】
A−3.流体噴射開口部93からの流体の様子と、実施形態1の効果:
図4は、パルス流噴射停止時とパルス流噴射時との流体の様子を示す説明図である。図4(a)がパルス流噴射停止時を示し、図4(b)がパルス流噴射時を示す。
【0047】
パルス流噴射停止時に、第1のポンプ10により一定の流量で流体が送り込まれると、図4(a)に示すように、流体噴射開口部93が入口開口端93aから出口開口端93bに向かって円錐状に徐々に広がった形状をしていることから、流体の連続の法則より、流体は、流体噴射開口部93で出口開口端93bに近づくに従って流速が遅くなる。このとき、流速が液体の凝集力を超える大きさでなければ、流体には分子間力による凝集力、すなわち表面張力が働くため、流体は凝集して流体噴射開口部93から飛んでいかない。ここで言う「飛ぶ」とは、流体が噴射された後に2重管90から離れて、2重管90の外側に飛び出すことである。このため、出口開口端93b付近で噴射速度を失った流体が滞留し、また流体噴射開口部93の内部壁面に液滴が付着したりする。さらに、出口開口端93b付近で滞留した流体や流体噴射開口部93の内部壁面に付着した流体が核となり、噴射できない流体をさらに集めて、より流体が溜め込まれる。これらの結果、図4(a)に示すように、流体噴射開口部93の出口開口端93b付近で流体Wが溜まってしまう。
【0048】
なお、パルス流噴射停止時に、第2のポンプ14は駆動されていることから、流体噴射開口部93の出口開口端93b付近に溜まった流体Wは、図5に示すように、吸引開口部96から大径の円筒管91と小径の円筒管92との間を通して吸引される。
【0049】
一方、パルス流噴射時には、駆動波形の立ち上がりの際に、流体室80から流体噴射開口部93に送られる流量は急激に増加するため、図4(b)に示すように、流体は流体噴射開口部93の内部壁面を沿わずに、流体噴射開口部93の内部壁面から流体が剥離する。その後、駆動波形の立ち下がりの際に、噴射した流体の分だけ流体噴射開口部93に流体が満たされるまで流体は流体噴射開口部93から流体は噴射されない。こうして、図示するように、流体Wは、パルス状の液滴となって、流体噴射開口部93から継続して噴射する。
【0050】
なお、流体噴射開口部93が入口開口端93aから出口開口端93bに向かって円錐状に徐々に広がった形状をしていることから、出口開口端93bの開口面積を大きくしながらも、パルス流噴射時に流体が飛んでいくことに大きく関わる入口開口端93aの開口面積を小さく維持することができ、流体をパルス状に噴射することが損なわれることもない。
【0051】
したがって、実施形態1の流体噴射装置1によれば、簡単な構成で、i)パルス流噴射停止時には、流体噴射開口部93から流体が飛ばないようにして流体Wを液溜まりさせることができ、ii)パルス流噴射停止時には、流体をパルス状に噴射することが損なわれることもない、という効果を奏する。
【0052】
さらに、パルス流噴射時とパルス流噴射停止時とにおいて、流体噴射開口部93から噴射する流体の流量がどのように変化するかを、図6のグラフを用いて説明する。図6(a)がパルス流噴射停止時における前記流量の時間変化を示し、図6(b)がパルス流噴射時における前記流量の時間変化を示す。図6(a)および図6(b)の各グラフの縦軸は流体噴射開口部93における単位面積あたりの流量であり、横軸は時間である。
【0053】
流体噴射開口部93における出口開口端93bの開口面積をS2、第1のポンプ10の供給流量をQとすると、図6(a)に示すように、パルス流停止時には、流量は、実線で示すように、QをS2で割った一定値(=Q/S2)となる。グラフ中のU0は、流体噴射開口部93から流体が飛んでいくことのできる流速の閾値である。グラフに示すように、閾値U0よりもQ/S2が小さいことから、第1のポンプ10による供給流量がありながらも、流体噴射開口部93から流体が飛んでいくことはない。本実施形態1では、U0>Q/S2となるように、第1のポンプ10による供給流量Qの値と流体噴射開口部93の出口開口端93bの開口面積が、適宜定められている。
【0054】
図6(a)中の鎖線は、従来例における流量(パルス流噴射停止時における流体噴射開口部から噴射される単位面積当たりの流量)を示す。ここで言う従来例は、流体噴射開口部がどの部位でも一様な内径を有する構成である。この内径は、本実施形態1の入口開口端93aの入口面積S1と同じ大きさであるとする。この場合の流量は、QをS1で割った一定値(=Q/S1)となる。図示するように、流体噴射開口部から流体が飛んでいくことのできる流速の閾値U0よりもQ/S1は大きいことから、従来例では、パルス流噴射停止時においても流体噴射開口部から流体が噴射してしまう。
【0055】
一方、パルス流噴射時には、図6(b)に示すように、流量は瞬間的に大きくなり、流体噴射開口部93から流体が飛んでいく。このときの流量のピークは、前記閾値U0よりも遙かに大きい。第1のポンプ10により供給される流量Q以上の流量が瞬間的に噴射される(流体の慣性力に引張られて出て行く流体の量も含む)ため、流体噴射開口部93に流体は無くなる。よって、噴射した流体の分だけ流体噴射開口部93に流体が満たされるまで、流体は流体噴射開口部93からの流量は零となる。こうしてパルス流となって流体Wが噴射される。
【0056】
上記図6(a)、図6(b)を用いた説明から判るように、パルス流噴射停止時に、流体噴射開口部から流体が飛んでいかないようにするには、流体噴射開口部の開口部を大きくする必要がある。本実施形態では、流体噴射開口部93を、入口開口端93aから出口開口端93bに向かって円錐状に徐々に広がった形状とすることで、パルス流噴射停止時には、流体の流出に関わる出口開口端93bの開口面積を広くして流体噴射開口部93から流体が飛ばないようにし、パルス流噴射時には、流体が飛び出すことに関わる入口開口端93aの開口面積を小さくして、容積変更手段である圧電素子の伸縮能力を高めることなく、流体をパルス状に高速噴射することができる。
【0057】
B.実施形態2:
以下、実施形態2〜6および変形例1〜5について説明するが、上述した実施形態1と異なる部分のみ説明し、実施形態1と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
図7は、実施形態2の流体噴射装置における2重管190を示す説明図である。実施形態2の流体噴射装置は、実施形態1の流体噴射装置1と比較して、流体噴射開口部193の形状が相違するだけであり、流体噴射開口部193以外の構成は同一である。
【0059】
図示するように、2重管190は、実施形態1と同様に、同心の2重円筒管構造となっており、小径の円筒管192の先端部に、流体噴射開口部193が形成されている。流体噴射開口部193は、内径が一様な直管部分198と、直管部分198の一方端から流体噴射開口部193の出口開口端193bに向かって円錐状に徐々に広がった円錐部分199(錘部分)とを備える。直管部分198の中心軸方向は円錐部分199の中心軸方向と一致しており、両中心軸方向は、接続流路195の中心軸方向(すなわち、小径の円筒管192の中心軸方向)と一致している。直管部分198における円錐部分199と反対側の端部が、流体噴射開口部193の入口開口端193aとなる。
【0060】
以上のように構成された実施形態2の流体噴射装置によれば、実施形態1の流体噴射装置1と同様に、第1のポンプ10を完全に停止させないで、流体噴射開口部193から流体が飛ばないようにして流体を液溜まりさせることができる。さらに、実施形態2の流体噴射装置では、流体噴射開口部193における直管部分198でパルス流の噴射方向を一方向に定め易いことから、噴射方向の直進性が高いという効果を奏する。
【0061】
C.実施形態3:
図8は、実施形態3の流体噴射装置における2重管290の先端側から見た正面図である。実施形態3の流体噴射装置は、実施形態1の流体噴射装置1と比較して、2重管290の形状が相違するだけであり、2重管90以外の構成は同一である。実施形態1の2重管90は、同心の2重円筒管構造となっていたが、これに換えて、実施形態3の2重管290は、図示するように、偏心の2重円筒管構造となっている。すなわち、2重管290は、外側の円筒管291の中心軸と、内側の円筒管292の中心軸とがずれた構成となっている。その上で、内側の円筒管292の先端部に、実施形態1と同一形状の流体噴射開口部293が形成されている。
【0062】
図9は、実施形態3における2重管290の横断面を示す説明図である。実施形態3の流体噴射装置によれば、実施形態1の流体噴射装置1と同様に、流体噴射停止時において、流体噴射開口部293の出口開口端293b付近で流体Wが溜まる。このとき、この実施形態3では、外側の円筒管291と内側の円筒管292とが偏心していることから、外側の円筒管291と内側の円筒管292との間が狭い方に毛管現象が発生し、毛管現象により外側の円筒管291と内側の円筒管292との間が狭い方に流体が入り込み易くなるため、留まった流体Wをより吸引しやすいという効果を奏する。
【0063】
D.実施形態4:
図10は、実施形態4の流体噴射装置における2重管390の横断面を示す説明図である。実施形態4の流体噴射装置は、実施形態1の流体噴射装置1と比較して、流体噴射開口部393とその周りの形状が相違するだけであり、これ以外の構成は同一である。
【0064】
図示するように、2重管390は、実施形態1と同様に、同心の2重円筒管構造となっており、内側の円筒管392の先端部に、流体噴射開口部393が形成されている。流体噴射開口部393は、実施形態1と同様に、入口開口端393aから出口開口端393bに向かって円錐状に徐々に広がった形状をしており、入口開口端393aの開口面積より出口開口端393bの開口面積が大きくなっている。さらに、本実施形態4では、流体噴射開口部393の内部壁面の途中に、内側の円筒管392の外部壁面まで貫通する複数の貫通孔399(孔部)が形成されている。貫通孔399は、内側の円筒管392の中心軸に対して垂直な方向に伸びている。この実施形態4では、内側の円筒管392の中心軸に対して垂直な一面に4方向に放射状に伸びる4つ(図示は2つ)の貫通孔399が形成されている。
【0065】
以上のように構成された実施形態4では、流体噴射開口部393の内側に存在する流体を、貫通孔399により、吸引開口部396側に誘引することができる。したがって、パルス流噴射停止時に留まった流体Wをより吸引しやすいという効果を奏する。
【0066】
E.実施形態5:
図11は、実施形態5の流体噴射装置における2重管490の横断面を示す説明図である。実施形態5の流体噴射装置は、実施形態1の流体噴射装置1と比較して、流体噴射開口部493の形状が相違するだけであり、流体噴射開口部493以外の構成は同一である。
【0067】
図示するように、2重管490に備えられる流体噴射開口部493は、実施形態1と比較して、入口開口端493aから出口開口端493bまでの内部壁面に凹凸が形成されている点が相違する。こうした構成の実施形態5では、入口開口端493aから出口開口端493bまでの内部壁面の凹に流体を滞留させることができるため、流体噴射開口部493に流体を滞留し易いという効果を奏する。
【0068】
F.実施形態6:
図12は、実施形態6の流体噴射装置における2重管590の横断面を示す説明図である。実施形態6の流体噴射装置は、実施形態1の流体噴射装置1と比較して、2重管590の形状が相違するだけであり、2重管590以外の構成は同一である。
【0069】
図示するように、2重管590は、実施形態1と同様に、同心の2重円筒管構造となっており、内側の円筒管592の先端部に、流体噴射開口部593が形成されている。流体噴射開口部593は、実施形態1と同一である。実施形態6では、実施形態1と比較して、外側の円筒管591の先端部が、内側の円筒管592の先端部よりも流体噴射方向側に突出している点が相違する。こうした構成の実施形態6では、流体噴射開口部593の出口開口端593b付近に滞留した流体Wが、自重で鉛直下方向yに垂れたときに、外側の円筒管591でその垂れた流体Wを受けることができる。この流体Wは、外側の円筒管591と内側の円筒管592との間を通して吸引される。したがって、実施形態6によれば、パルス流噴射停止時によって確実に流体の漏れを防止することができる。
【0070】
G.変形例:
この発明は前記の実施形態1〜6やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0071】
・変形例1:
前記実施形態1では、流体噴射開口部93は、入口開口端93aから出口開口端93bに向かって円錐状に徐々に広がった形状をしていたが、これに限らず、入口開口端93aの開口面積より出口開口端93bの開口面積が大きい構成であれば他の形状でも構わない。図13(a)ないし(d)に、流体噴射開口部の他の形状を種々例示した。
【0072】
図13(a)に示すように、流体噴射開口部693は、内径の相違する2つの直管部分698、699が接続されたものであってもよい。このとき、入口開口端693a側の第1の直管部分698より出口開口端693b側の第2の直管部分699の方が、内径が大きい。
【0073】
図13(b)に示すように、流体噴射開口部793は、実施形態2と同様な、直管部分(第1の直管部分)797と円錐部分798とを備え、さらに、円錐部分798の流体噴射方向側に第2の直管部分799を備えたものであってもよい。このとき、第1の直管部分797より第2の直管部分799の方が、内径が大きい。
【0074】
さらに、流体噴射開口部の円錐部分の母線の中心軸に対する傾きを一定とするのではなく、図13(c)に示すように、流体噴射方向側ほどより変化率が大きい形状の流体噴射開口部893としてもよいし、図13(d)に示すように、流体噴射方向側ほどより変化率が小さい形状の流体噴射開口部993としてもよい。
【0075】
・変形例2:
前記各実施形態および各変形例では、ダイアフラム40を圧電素子30により押圧し脈動流を発生させる構成としたが、これに限らず、脈動流を発生させる構成であれば他の形態でも構わない。例えばピストン(プランジャー)を、圧電素子を用いて駆動することによって流体室80の容積を縮小させ、脈動流を発生させてもよい。また、流体室80の容積を必ずしも変更する必要はなく、流体室80に供給された流体を加減圧可能であればよい。例えば、流体室80内の流体をレーザー誘起やヒーター電極によって泡状(バブル)にし、発生するバブルにて流体を加圧することによって脈動流を発生するようにしてもよい。
【0076】
・変形例3:
前記各実施例および各変形例では、流体噴射開口部93の周辺に滞留する流体を吸引するための構成として、2重管90は2重円筒管構造となっているが、これに換えて、流体噴射開口部93の近傍に吸引開口部を備えるノズルを設け、このノズルを介して吸引する構成としてもよく、要は、吸引開口部が流体噴射開口部の近傍に設けられるようにして、流体噴射開口部の周辺に滞留する流体を吸引開口部から吸引することができれば、いずれの構成とすることもできる。換言すれば、吸引開口部は、流体噴射開口部の周辺に滞留した流体を吸引可能な程度に近い位置であれば、いずれの位置に設けられる構成であってもよい。
【0077】
・変形例4:
前記各実施例および各変形例では、2重管90を構成する円筒管91、92は円筒状であったが、これに換えて、角筒状としてもよい。
【0078】
・変形例5:
前記各実施例および各変形例では、パルス流噴射時、パルス流噴射停止時ともに、流体供給手段である第1のポンプ10を同じ供給流量で駆動するようにしていたが、これに換えて、パルス流噴射停止時の第1のポンプ10による流体の供給流量を、パルス流噴射時の第1のポンプ10による流体の供給流量よりも減少させる構成としてよい。この構成によれば、パルス流噴射停止時における流体の流出を、より低減することができる。
【0079】
・変形例6:
前記各実施例および各変形例において、流体噴射開口部の入口開口端から出口開口端までの内部壁面を親水処理してもよい。親水処理することにより、内部壁面に滞留する流体が内部壁面から剥離しにくくなるため、パルス流噴射停止時における流体の流出を、より低減することができる。
【0080】
なお、前述した各実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…流体噴射装置
2…流体供給容器
4…流体回収容器
6…接続チューブ
8…接続チューブ
10…第1のポンプ
12…流体供給チューブ
14…第2のポンプ
16…流体回収チューブ
20…脈動発生部
22…パルス流噴射スイッチ
24…メインスイッチ
30…圧電素子
40…ダイアフラム
50…ケース
60…底板
70…ケース
80…流体室
81…入口流路
82…出口流路
90…2重管
91、92…円筒管
93…流体噴射開口部
93a…入口開口端
93b…出口開口端
94…連結面
95…接続流路
100…制御部
190…2重管
192…円筒管
193…流体噴射開口部
193a…入口開口端
193b…出口開口端
195…接続流路
198…直管部分
199…円錐部分
290…2重管
291…円筒管
292…円筒管
293…流体噴射開口部
293b…出口開口端
390…2重管
392…円筒管
393…流体噴射開口部
393a…入口開口端
393b…出口開口端
396…吸引開口部
399…貫通孔
490…2重管
493…流体噴射開口部
493a…入口開口端
590…2重管
591…円筒管
592…円筒管
593…流体噴射開口部
593b…出口開口端
693…流体噴射開口部
693a…入口開口端
693b…出口開口端
698、699…直管部分
793…流体噴射開口部
797、799…直管部分
798…円錐部分
893…流体噴射開口部
993…流体噴射開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が供給される流体室と、
前記流体室に供給された流体を加圧して、脈動流を発生させる脈動発生部と、
前記流体室と連通し、前記脈動流を伝播させる出口流路と、
前記出口流路と連通し、噴射対象に向けてパルス流を噴射する流体噴射開口部と、
前記流体噴射開口部の近傍に設けられる吸引開口部と、
前記吸引開口部から流体を吸引する流体吸引部と、
を備え、
前記流体噴射開口部は、前記出口流路側の入口開口端の開口面積よりも、前記噴射対象側の出口開口端の開口面積が大きい、流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射開口部は、前記流体噴射開口部から前記吸引開口部へ前記流体を誘導する孔部を備える、流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体噴射装置であって、
前記吸引開口部は、前記流体噴射開口部よりも前記噴射対象側に突出している、流体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射開口部は、前記入口開口端から前記出口開口端に向かって開口面積が大きくなる形状である、流体噴射装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射開口部は、
開口面積が一様な直管部分と、
前記直管部分の一方端から前記出口開口端に向かって開口面積が大きくなる錐部分と、
を備える流体噴射装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の流体噴射装置であって、
前記脈動発生部による前記流体室の加減圧を繰り返し実行させるパルス流噴射制御と、前記脈動発生部による前記流体室の加減圧を停止させるパルス流噴射停止制御とを選択実行する制御部と、
を備える流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−176159(P2012−176159A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41140(P2011−41140)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】