説明

流体封入式防振装置及び該流体封入式防振装置の製造方法

【課題】アウタ側取付筒金具に対する前処理ひいてはアウタ側取付筒金具へのシールゴム層の被着成形を高い信頼性をもって行うことが出来る、新規な構造の流体封入式防振装置および流体封入式防振装置の新規な製造方法を提供することを、目的とする。
【解決手段】テーパ筒状部48の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具14の嵌まり込みが、テーパ筒状部48の内周面58において径方向内方に突出するように形成された係合突起60,60によって阻止され得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、例えば、自動車用のエンジンマウント等として好適に採用される流体封入式防振装置及び該流体封入式防振装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体として、内部に封入された非圧縮性流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置が知られている。
【0003】
また、かくの如き流体封入式防振装置の一種として、特許文献1(特開2002−327788号公報)に示されているように、本体ゴム弾性体の中央部分に第一の取付金具を固着する一方、本体ゴム弾性体の外周面に筒状の第二の取付金具を外嵌固定したものがある。このような構造の流体封入式防振装置では、本体ゴム弾性体の外周面に開口形成されたポケット部を第二の取付金具で覆蓋することにより流体室を形成することが出来る。
【0004】
ここにおいて、ポケット部の開口を覆蓋して形成された流体室の液密性を確保するために、一般に、本体ゴム弾性体の外周面に嵌着スリーブを加硫接着すると共に、第二の取付金具の内周面にシールゴム層を加硫接着し、第二の取付金具を嵌着スリーブに外挿した後に縮径加工せしめて、嵌着スリーブと第二の取付金具の間でシールゴム層を挟圧している。
【0005】
さらに、第二の取付金具を嵌着スリーブに対して速やかに外挿できるようにするために、第二の取付金具をテーパ角度付きのテーパ筒形状としたものが、好適に採用される。
【0006】
ところが、本発明者が検討したところ、このようにテーパ筒形状を有する第二の取付金具を採用すると、その内周面へのシールゴム層の加硫成形に際して問題が発生し易いことが明らかとなった。
【0007】
すなわち、第二の取付金具に対してシールゴム層を加硫成形するに際しては、シールゴム層を加硫成形する前の処理として、第二の取付金具の単体に対して、例えば洗浄処理やブラスト処理,化成皮膜処理(リン酸亜鉛皮膜処理)等の前処理を施すことが必要とされる。また、その際には、処理効率向上の目的で、第二の取付金具の複数個を集めて、それらに対して同時に前処理を施すことが多い。具体的には、例えば、数十個の第二の取付金具を一つの籠に入れて、かかる籠を一単位として工程間で搬送したり、処理液に沈めたり、洗浄したりすることが行われている。
【0008】
このように複数個の第二の取付金具を一つの籠に入れて扱っていると、前述の如くテーパ筒形状とされているために、その小径側端部が別の第二の取付金具の大径側開口部に嵌まり込んでしまうことがある。このように二つの取付金具が相互に嵌まり合ってしまうと、相互に密着した部分に対して洗浄や皮膜形成等の処理を施すことが出来なくなってしまう。そのために、未処理部分において、その後に加硫成形したシールゴム層において、接着不良の不具合が発生し易いという問題を内在していたのである。
【0009】
特に、第二の取付金具に施される各種前処理は、処理後に人眼で観察しても良否の確認が困難である。
【0010】
しかも、複数の第二の取付金具を一つの籠に入れたままで前処理を施すことから、処理の前に嵌まり合っていなかったものが処理中に嵌まり合ってしまうことがあると共に、処理の際に嵌まり合っていた二つの第二の取付金具が処理後に外れてしまうこともある。それ故、単に、処理前や処理後に嵌まり合っている第二の取付金具があるか否かの確認を行うだけでは、十分な信頼性や確実性を得ることが難しいのである。
【0011】
【特許文献1】特開2002−327788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、アウタ側取付筒金具に対する前処理ひいてはアウタ側取付筒金具へのシールゴム層の被着成形を高い信頼性をもって行うことが出来る、新規な構造の流体封入式防振装置および流体封入式防振装置の新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0014】
本発明は、防振連結される一方の部材に取り付けられるインナ側取付金具に固着された本体ゴム弾性体の外周面に嵌着スリーブが固着されていると共に、防振連結される他方の部材に取り付けられるアウタ側取付筒金具が嵌着スリーブに対して外嵌固定されており、本体ゴム弾性体に設けられたポケット部の開口がアウタ側取付筒金具で覆蓋されて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されていると共に、アウタ側取付筒金具と嵌着スリーブの嵌着部分にシールゴム層が設けられている流体封入式防振装置において、嵌着スリーブに対するアウタ側取付筒金具の外嵌固定部分が、アウタ側取付筒金具に設けられたテーパ筒状部をその大径開口部から嵌着スリーブに外挿して縮径することで固定せしめた構造とされている一方、アウタ側取付筒金具の内周面には径方向内方に突出する係合突起が形成されていると共に、係合突起の突出高さよりも厚肉のシールゴム層がアウタ側取付筒金具の内周面に被着形成されて係合突起がシールゴム層で覆われており、アウタ側取付筒金具における係合突起が、アウタ側取付筒金具におけるシールゴム層の形成前で且つ嵌着スリーブへの固定前のテーパ筒状部において、テーパ筒状部の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の嵌まり込みを阻止し得る位置および突出高さで形成されていることを、特徴とする。
【0015】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、テーパ筒状部の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の嵌まり込みが、テーパ筒状部の内周面において径方向内方に突出するように形成された係合突起によって阻止され得るようになっていることから、前処理の処理効率を向上するために、複数のアウタ側取付筒金具を一つの籠に入れて、この状態で、複数のアウタ側取付筒金具に対して同時に前処理を施す場合であっても、一つの籠に入れられた複数のアウタ側取付筒金具の全てに対して確実に前処理を施すことが可能となる。
【0016】
要するに、一つのアウタ側取付筒金具の大径側開口部に対して別のアウタ側取付筒金具の小径側端部が嵌まり込んだ場合でも、かかる大径側開口部付近に形成された係合突起に当該別のアウタ側取付筒金具の小径側端部が当たってそれ以上の嵌まり込みが阻止される。それ故、たとえ嵌まり込んだとしても、係合突起のない従来構造のように全周に亘って線当たりや面当たりとなってしまうことがなく、係合突起による略点当たりの状態で止められる。その結果、相互に嵌まり合うことに起因して前処理が施され得ない領域を、殆ど無くすることができるのであり、処理前後における嵌まり込みの有無のチェック等の作業を行わなくすることも可能となるのである。
【0017】
従って、本発明の流体封入式防振装置においては、前処理の後に加硫成形したシールゴム層の接着において、接着不良の不具合の発生を有利に回避することが可能となり、その結果、アウタ側取付筒金具に対する前処理、延いては、アウタ側取付筒金具へのシールゴム層の被着成形を高い信頼性をもって行うことが可能となる。
【0018】
また、本発明においては、シールゴム層が係合突起の突出高さよりも厚肉とされていることにより、かかるシールゴム層がアウタ側取付筒金具の内周面に被着形成されると、係合突起がシールゴム層で覆われるようになっていることから、アウタ側取付筒金具の前処理後にシールゴム層が被着形成された状態では、アウタ側取付筒金具の内周面は、係合突起が形成されていないのと同様に滑らかな円筒面形状とされ得る。これにより、シールゴム層が被着形成されたアウタ側取付筒金具のテーパ筒状部を、その大径開口部から嵌着スリーブに外挿する際に、係合突起が嵌着スリーブに引っ掛かる等の不具合が問題となることもない。
【0019】
そこにおいて、本発明では、アウタ側取付筒金具がプレス加工によって成形されていると共に、係合突起がテーパ筒状部に対してプレス加工が施されることによって形成されていることが望ましい。これにより、テーパ筒状部が設けられていると共に、このテーパ筒状部の内周面において径方向内方に突出する係合突起が形成されたアウタ側取付筒金具を有利に製造することが可能となる。尤も、本発明では、その他、例えば平板形状の素板を巻き加工して溶接すること等によって製作されたアウタ側取付筒金具を利用することも、勿論、可能である。
【0020】
また、本発明においては、係合突起がアウタ側取付筒金具の中心軸線を挟んだ径方向で対向位置して形成されていることが望ましい。これにより、係合突起の数が少なくても、テーパ筒状部の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の嵌まり込みを有利に阻止することが可能となる。また、一対の係合突起を径方向で対向位置せしめることにより、一つの係合突起の突出高さを小さく抑えつつ、アウタ側取付筒金具同士の嵌まり込みを効果的に防止することが可能となる。なお、係合突起は一対形成されていても良いし、複数対形成されていても良い。また、複数対の係合突起が形成されている場合には、周方向で隣り合う二つの係合突起の周方向での離隔距離が同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0021】
さらに、本発明においては、テーパ筒状部がテーパ角度の異なる複数のテーパ部分で構成されており、その大径側開口部分が最も大きなテーパ角度の付けられた大テーパ部分とされていると共に、大テーパ部分に係合突起が形成されていることが望ましい。これにより、テーパ筒状部の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の嵌まり込みを有利に阻止することが可能になると共に、アウタ側取付筒金具の軸方向での係合突起の形成位置の選択幅を広げることが可能になる。
【0022】
すなわち、テーパ筒状部が一定のテーパ角度を有する形状である場合、テーパ筒状部の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の嵌まり込みを阻止するためには、テーパ筒状部における大径側の開口端の直ぐ近くに係合突起を形成する必要があるが、上述の如く、テーパ角度の異なる複数のテーパ部分によってテーパ筒状部が構成されていると共に、その大径側開口部分が最も大きなテーパ角度の付けられた大テーパ部分とされている場合には、かかる大テーパ部分の何れの軸方向位置に対しても係合突起を形成することが可能となり、開口端の直ぐ近くに係合突起を形成する必要がなくなることから、係合突起の形成位置を選択することが可能となるのである。その結果、嵌着スリーブに対するアウタ側取付筒金具の外嵌固定部位を避ける位置に係合突起を形成して、嵌着スリーブに対するアウタ側取付筒金具の外嵌固定部位に係合突起が形成されていることに起因する流体室の液密性低下等の不具合を有利に回避することが可能となる。また、嵌着スリーブに対してアウタ側取付筒金具が外嵌固定された状態で、嵌着スリーブの外周面とアウタ側取付筒金具の内周面との間に他の部材(例えば、嵌着スリーブに対してアウタ側取付筒金具が外嵌固定された状態で、流体室が二つ形成されるようになっている場合に、これら二つの流体室を相互に連通するオリフィス通路を形成するためのオリフィス通路形成部材等)が配されているのであれば、かかる部材を避ける位置に係合突起を形成し、嵌着スリーブに対してアウタ側取付筒金具が外嵌固定された際の部材の破損等を有利に回避することも可能となる。そして、このような効果を得るためには、アウタ側取付筒金具において、ポケット部の開口部に位置せしめられてポケット部を覆蓋する位置に係合突起を形成することが望ましい。
【0023】
また、上述の如き構成を採用する場合、係合突起は、大テーパ部分の小径端に形成されていることが望ましい。これにより、係合突起の突出高さを小さくして、シールゴム層の厚さ寸法を小さくすることが可能となる。なお、本発明において、「係合突起の形成される大テーパ部分の小径端」は、アウタ側取付筒金具における大テーパ部分の小径側端縁部だけに限定解釈されるものでなく、そこから多少軸方向に離れた「小径側端部近く」までも含む。
【0024】
さらに、本発明においては、アウタ側取付筒金具が嵌着スリーブに対して外嵌固定された状態で、アウタ側取付筒金具におけるテーパ筒状部がストレートな円筒形状とされていることが望ましい。これにより、例えば、アウタ側取付筒金具を筒状ブラケットに圧入状態で組み付けて、かかるブラケットを介して、アウタ側取付筒金具を防振連結される他方の部材に取り付ける場合、アウタ側取付筒金具の筒状ブラケットに対する圧入力を有利に確保することが可能となる。
【0025】
更にまた、本発明においては、嵌着スリーブをインナ側取付金具の軸直角方向に所定距離を隔てて配すると共に、嵌着スリーブとインナ側取付金具を本体ゴム弾性体で軸直角方向に連結する一方、嵌着スリーブに対してインナ側取付金具を挟んだ軸直角方向両側にそれぞれ窓部を形成し、軸直角方向で対向位置するように形成されて本体ゴム弾性体の外周面に開口するポケット部を、それぞれ、嵌着スリーブの窓部を通じて外周面に開口させて、アウタ側取付筒金具を嵌着スリーブに外挿した後に縮径して固定することにより、嵌着スリーブの窓部をアウタ側取付筒金具で流体密に覆蓋して、流体室を、インナ側取付金具を軸直角方向で挟んで対向位置するように一対設ける構成が好適に採用される。
【0026】
また、流体封入式防振装置の製造方法に関する本発明は、本体ゴム弾性体の中央部分にインナ側取付金具が固着されている一方、本体ゴム弾性体の外周面に嵌着スリーブが固着されていると共に嵌着スリーブの外周面に開口するポケット部が設けられた防振装置本体を準備し、この防振装置本体にアウタ側取付筒金具を外挿して嵌着スリーブに外嵌固定せしめ、ポケット部の開口をアウタ側取付筒金具で覆蓋すると共に、アウタ側取付筒金具の内周面に被着したシールゴム層でアウタ取付筒金具と嵌着スリーブの嵌着面間をシールせしめて非圧縮性流体が封入された流体室を備えた流体封入式防振装置を製造するに際して、アウタ側取付筒金具として、嵌着スリーブに対する外嵌固定部分がテーパ角度の付されたテーパ筒状部とされると共に、テーパ筒状部の内周面にシールゴム層が被着されたアウタ側取付筒金具を採用し、アウタ側取付筒金具におけるテーパ筒状部をその大径開口部から嵌着スリーブに外挿して縮径することにより嵌着固定せしめる一方、アウタ側取付筒金具に対してシールゴム層を被着形成するための前処理を、各別の流体封入式防振装置を構成する複数のアウタ側取付筒金具を集めて同時に施すようにすると共に、アウタ側取付筒金具の内周面には径方向内方に突出する係合突起を形成して、一つのアウタ側取付筒金具の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の小径部側端部の嵌まり込みを係合突起で防止せしめつつ前処理を施し、かかる前処理の後にアウタ側取付金具の内周面に対して係合突起の突出高さより大きな厚さでシールゴム層を被着形成せしめて、シールゴム層で係合突起を覆うようにすることを、特徴とする。
【0027】
このような流体封入式防振装置の製造方法に従えば、アウタ側取付筒金具に対してシールゴム層を被着形成するための前処理を、各別の流体封入式防振装置を構成する複数のアウタ側取付筒金具を集めて同時に施したとしても、アウタ側取付筒金具の内周面において径方向内方に突出するように形成された係合突起によって、一つのアウタ側取付筒金具の大径側開口部に対する別のアウタ側取付筒金具の小径部側端部の嵌まり込みが防止されることから、複数のアウタ側取付筒金具の全てに対して確実に前処理を施すことが可能となり、その結果、アウタ側取付筒金具に対する前処理、延いては、アウタ側取付筒金具へのシールゴム層の被着成形を高い信頼性をもって行うことが可能となる。
【0028】
また、前処理の後にアウタ側取付筒金具の内周面に対して被着形成されるシールゴム層によってアウタ側取付筒金具の内周面に形成された係合突起が覆われるようになっていることから、アウタ側取付筒金具を嵌着スリーブに外挿する際に、係合突起が嵌着スリーブに引っ掛かってしまう不具合を回避することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0030】
図1及び図2には、本発明の一実施形態の流体封入式防振装置としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、インナ側取付金具としてのインナ軸金具12とアウタ側取付筒金具としてのアウタ筒金具14が離隔配置されていると共に、それらインナ軸金具12とアウタ筒金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされており、インナ軸金具12が自動車のパワーユニットに取り付けられる一方、アウタ筒金具14が自動車のボデーに取り付けられることによって、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、本実施形態のエンジンマウント10は、図1中の上下方向が略鉛直上下方向となる状態で装着されるようになっている。また、以下の説明中、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向をいうものとする。
【0031】
より詳細には、インナ軸金具12は、中実小径のロッド形状を有する支持軸部18を備えており、上下方向にストレートに延びた支持軸部18の軸方向上端に対して取付固定部20が一体形成されている。また、支持軸部18の軸方向中間部分には、テーパ部22が設けられており、このテーパ部22を挟んで支持軸部18の軸方向下部が小径部24とされている一方、支持軸部18の軸方向上部が大径部26とされている。
【0032】
また、インナ軸金具12の外周側には、薄肉の大径円筒形状を有する嵌着スリーブとしての金属スリーブ28が、径方向に所定距離を隔てて略同一中心軸上に配されている。そこにおいて、この金属スリーブ28には、軸方向中央よりも上方に偏倚した位置に段差部30が形成されており、この段差部30を挟んで軸方向下側が小径部32とされている一方、軸方向上側が大径部34とされている。また、金属スリーブ28の軸方向中間部分には、径方向一方向で対向位置する部分に一対の窓部36,36が形成されている。そこにおいて、本実施形態では、各窓部36は、周方向に半周弱の長さで開口せしめられている。
【0033】
このような構造とされたインナ軸金具12と金属スリーブ28は、インナ軸金具12が金属スリーブ28に対して軸方向上側の開口部から差し込まれるようにして配置されており、このようにインナ軸金具12が金属スリーブ28に対して配置されることによって、インナ軸金具12における小径部24の全体を径方向に離隔して囲む状態で、金属スリーブ28が配置されることとなる。なお、このようにインナ軸金具12が金属スリーブ28に対して配置された状態下において、インナ軸金具12の取付固定部20は、金属スリーブ28の軸方向上方に突出して位置せしめられている一方、小径部24の軸方向下端部は,金属スリーブ28の軸方向下端部まで至らない軸方向中間部分に位置せしめられている。
【0034】
そして、このような配置関係にあるインナ軸金具12と金属スリーブ28の径方向対向面間には、本体ゴム弾性体16が配されており、かかる本体ゴム弾性体16によって、インナ軸金具12と金属スリーブ28が軸直角方向で弾性的に連結されている。この本体ゴム弾性体16は、全体として円形のブロック形状を呈しており、その上端面中央から中心軸上に延びるようにしてインナ軸金具12の小径部24とテーパ部22が差し込まれて、これら小径部24とテーパ部22の外周面が本体ゴム弾性体16に加硫接着されている。更に、本体ゴム弾性体16の外周面には、金属スリーブ28が重ね合わされて加硫接着されている。要するに、本実施形態では、本体ゴム弾性体16は、インナ軸金具12と金属スリーブ28を備えた防振装置本体としての一体加硫成形品38として形成されているのである。
【0035】
また、本体ゴム弾性体16には、軸方向下端面中央において、下方に向かって開口する大径のすり鉢形状を有するポケット部としての円形凹所40が形成されていると共に、軸方向中間部分において、外周面に開口するポケット部としての凹部42が、インナ軸金具12を径方向一方向で挟んだ両側に形成されている。これら一対の凹部42,42は、それぞれ、開口端に近づくに従って軸方向開口幅が次第に大きくなる拡開形状をもって、周方向に半周弱の長さで形成されており、金属スリーブ28に形成された一対の窓部36,36を通じて外周面に開口せしめられている。そして、上述の如く一対の凹部42,42が周方向に半周弱の長さで形成されていることにより、一対の凹部42,42の対向方向に直交する方向で、インナ軸金具12と金属スリーブ28を弾性連結する一対の連結部44,44が存在するようになっている。また、一対の凹部42,42は、何れも、本体ゴム弾性体16の軸方向中央部分から軸方向上方に所定量だけ偏倚して形成されており、それによって、各凹部42における軸方向上壁部よりも軸方向下壁部のほうが全体に亘って厚肉とされている。
【0036】
一方、本実施形態のアウタ筒金具14は、図3乃至6に単品図が示されているように、底壁46と周壁48を備えた大径の略有底円筒形状とされており、特に本実施形態では、底壁46の中央部分に大径の透孔50が形成されていると共に、この透孔50の開口周縁部に対して軸方向下方に向かって突出する保持筒部52が一体形成されている。
【0037】
そこにおいて、本実施形態では、周壁48が、軸方向全長に亘って、底壁46側から開口側へ行くに従って次第に拡径するテーパ筒状部とされており、特に本実施形態では、周壁48が、底壁46側に位置する第一のテーパ部分54と、第一のテーパ部分54よりも大きなテーパ角度を有しており、第一のテーパ部分54の大径端に対して小径端が接続された第二のテーパ部分56によって構成されている。即ち、本実施形態では、図7に示されているように、テーパ筒状部としての周壁48がテーパ角度の異なる複数のテーパ部分(テーパ角度がα1とされた第一のテーパ部分54と、テーパ角度がα2(ただし、α2>α1)とされた第二のテーパ部分56)で構成されており、大径側開口部分を構成する第二のテーパ部分56によって大テーパ部分が構成されているのである。
【0038】
また、アウタ筒金具14の周壁48の内周面58には、径方向内方に突出する係合突起60が形成されており、特に本実施形態では、一対の係合突起60,60が、アウタ筒金具14の中心軸線を挟んだ径方向で対向位置せしめられるように形成されている。
【0039】
そこにおいて、係合突起60のアウタ筒金具14の軸方向での形成位置は、周壁48の小径端の外径寸法、即ち、周壁48における最小外径寸法よりも大きな内径寸法を有する軸方向位置とされており、かかる軸方向位置に係合突起60が形成されることによって、周壁48の大径側開口部への他のアウタ筒金具14の嵌まり込みを阻止することが可能となる。因みに、本実施形態の係合突起60は、図7にも示されているように、第二のテーパ部分56の小径端に形成されている。
【0040】
また、係合突起60の突出高さは、アウタ筒金具14の軸方向での投影において、その先端が周壁48の小径端の開口外周縁よりも径方向内方に位置する大きさとされており、このような突出高さで係合突起60が形成されることによって、周壁48の大径側開口部への他のアウタ筒金具14の嵌まり込みを阻止することが可能となる。因みに、本実施形態の係合突起60は、図7に示されているように、アウタ筒金具14の軸方向での投影において、その先端が周壁48の小径端の開口外周縁よりも僅かに径方向内方にあるような突出高さで形成されている。
【0041】
なお、このようなアウタ筒金具14は、平板に深絞りや打ち抜き等のプレス加工を施して基本的な形状を作り、その後、周壁48の外周面を押さえる曲げ加工等のプレス加工を施して係合突起60を形成したプレス金具によって有利に構成される。
【0042】
また、上述の如きアウタ筒金具14には、図8及び図9にも示されているように、底壁46に形成された透孔50内において、可撓性膜としての薄肉ゴム膜で形成されたダイヤフラム62が配設されている。このダイヤフラム62は、外周縁部が保持筒部52に加硫接着されており、それによって、アウタ筒金具14の底壁46に形成された透孔50が、ダイヤフラム62によって流体密に閉塞されている。なお、ダイヤフラム62は、容易に変形が許容されるように弛みをもって配設されている。
【0043】
更にまた、周壁48の内周面58には、薄肉のシールゴム層64が係合突起60の突出高さよりも大きな厚さ寸法で被着されており、それによって、係合突起60がシールゴム層64で覆われている。なお、本実施形態のシールゴム層64は、ダイヤフラム62と一体形成されている。
【0044】
このようなアウタ筒金具14は、その軸方向一方の端部から本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38に外挿されて、軸方向一方の端部、即ち、第二のテーパ部分56が金属スリーブ28の大径部34の径方向外方に位置せしめられた状態で八方絞り加工等によって縮径されることにより、大径部34に嵌着固定されるようになっており、特に本実施形態では、アウタ筒金具14の周壁48は、金属スリーブ28の大径部34に外嵌固定された状態で、ストレートな円筒形状を呈するようになっている。
【0045】
また、本実施形態では、このようにしてアウタ筒金具14が金属スリーブ28の大径部34に外嵌固定された状態で、アウタ筒金具14に形成された係合突起60が、凹部42の開口部分に位置せしめられている。
【0046】
さらに、上述の如くアウタ筒金具14が金属スリーブ28に外嵌固定されることによって、インナ軸金具12がアウタ筒金具14の開口部から入り込むようにして配設されることとなり、それによって、インナ軸金具12とアウタ筒金具14が同一中心軸上に位置せしめられている。
【0047】
また、上述の如くアウタ筒金具14が金属スリーブ28に外嵌固定された状態下において、金属スリーブ28の軸方向下端面は、アウタ筒金具14の底壁46に当接せしめられており、それによって、金属スリーブ28がアウタ筒金具14に対して軸方向で位置決めされている。更にまた、金属スリーブ28とアウタ筒金具14の嵌着面間には、シールゴム層64が圧縮状態で介在せしめられている。
【0048】
さらに、上述の如くアウタ筒金具14が金属スリーブ28に外嵌固定されることにより、アウタ筒金具14の大径側開口部が本体ゴム弾性体16によって流体密に閉塞されており、それによって、アウタ筒金具14の底部分には、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム62との対向面間において、非圧縮性流体が封入された流体室としての液室66が形成されている。なお、封入流体としては、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いは、それらを混合したものなどが採用可能であり、特に、後述する連通流路84等を通じての流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0049】
また、かかる液室66には、全体として略円板形状を有する仕切部材68が軸直角方向に広がって配設されている。この仕切部材68は、厚肉円板形状の仕切金具70の上面に、薄肉円板形状の蓋金具72が重ね合わせられることによって形成されており、それら仕切金具70と蓋金具72の外周縁部が、密着状態で重ね合わせられて、アウタ筒金具14の底壁46と本体ゴム弾性体16の外周縁部の軸方向下端面との間で挟圧保持されることによって、ダイヤフラム62と本体ゴム弾性体16の対向面間に収容配置されている。
【0050】
そして、このように仕切部材68がダイヤフラム62と本体ゴム弾性体16の対向面間に収容配置されることによって、ダイヤフラム62と本体ゴム弾性体16の対向面間に形成された液室66が、仕切部材68によって上下に二分されるようになっている。これにより、仕切部材68の上側において、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて圧力変動が生ぜしめられる主液室74が形成されている一方、仕切部材68の下側において、壁部の一部がダイヤフラム62によって構成されてダイヤフラム62の変形に基づいて容積変化が容易に許容される副液室76が形成されている。
【0051】
また、仕切金具70には、外周面に開口して周方向に延びる凹溝78が略3/4周程度の長さで形成されており、この凹溝78の開口がアウタ筒金具14で流体密に閉塞されている。これにより、仕切部材68の外周部分を周方向に延び、周方向の一端部が連通孔80を通じて主液室74に接続されると共に、周方向の他端部が連通孔82を通じて副液室76に接続される連通流路84が形成されており、かかる連通流路84を通じて、主液室74と副液室76の間での流体流動が許容されるようになっている。なお、本実施形態では、かかる連通流路84を流動せしめられる流体の共振作用等に基づいてエンジンシェイクに相当する低周波数域の振動に対して高減衰効果が発揮されるように、連通流路84の流路長さや流路断面積等が調節されている。
【0052】
さらに、仕切金具70の中央部分には、上方に開口する円形の中央凹所86が形成されており、かかる中央凹所86の開口が蓋金具72によって覆蓋されるようになっている。この中央凹所86には、所定厚さの円板形状を有する可動ゴム板88が収容配置されている。この可動ゴム板88には、中央部分よりも厚肉の環状支持部90が外周縁部に形成されており、かかる環状支持部90が仕切金具70と蓋金具72によって挟圧保持されている。これにより、可動ゴム板88が中央凹所86内において中央部分に所定量の軸方向弾性変形が許容される状態で配設されている。
【0053】
また、仕切金具70と蓋金具72によって形成された、中央凹所86の上下両壁部には、複数の透孔92が設けられており、これらの透孔92を通じて、主液室74と副液室76の液圧が中央凹所86内に配設された可動ゴム板88の上面と下面に及ぼされるようになっている。そして、可動ゴム板88の上面に及ぼされる主液室74の液圧と可動ゴム板88の下面に及ぼされる副液室76の液圧との差に基づいて可動ゴム板88が弾性変形せしめられることにより、可動ゴム板88の弾性変形量に対応した量だけ、仕切金具70と蓋金具72にそれぞれ形成された透孔92と中央凹所86を通じての主液室74と副液室76の間での流体流動が、実質的に生ぜしめられることとなり、それによって、主液室74の圧力変動が軽減乃至は吸収されるようになっている。
【0054】
特に、本実施形態では、こもり音等の高周波小振幅の振動入力時において、主液室74の圧力変動が可動ゴム板88の弾性変形に基づいて有利に吸収乃至は軽減され得る一方、エンジンシェイク等の低周波大振幅の振動入力時において、可動ゴム板88の弾性変形量が可動ゴム板88の中央凹所86内面への当接によって制限されることにより、主液室74に有効な圧力変動が惹起されるようになっている。
【0055】
更にまた、アウタ筒金具14が金属スリーブ28に外嵌固定されることによって、金属スリーブ28の窓部36,36がアウタ筒金具14で流体密に覆蓋されるようになっており、それによって、一対の凹部42,42の開口がアウタ筒金具14によって覆蓋されて、非圧縮性流体が封入された流体室としての作用液室94が径方向一方向で対向位置するように一対形成されている。なお、これら一対の作用液室94,94には、何れも、液室66に封入されている非圧縮性流体と同様な非圧縮性流体が封入されている。
【0056】
また、アウタ筒金具14と金属スリーブ28の軸直角方向対向面間には、筒状オリフィス部材96が配設されている。この筒状オリフィス部材96は、半周以上の周方向長さ(本実施形態では、略3/4周の周方向長さ)を有する略筒形状を呈しており、合成樹脂材や金属材等の硬質材により形成されている。また、筒状オリフィス部材96の内径寸法は、金属スリーブ28における小径部32の外径寸法よりも僅かに大きくされている一方、筒状オリフィス部材96の外径寸法は、金属スリーブ28における大径部34の外径寸法と略同じとされている。更にまた、筒状オリフィス部材96は、金属スリーブ28における小径部32のほうから軸方向上方に向かって外挿されることによって金属スリーブ28に組み付けられており、このように筒状オリフィス部材96が金属スリーブ28に組み付けられた状態下において、筒状オリフィス部材96の上端部分は、窓部36に延び出して該窓部36の軸方向中間部分に位置決めされている。一方、筒状オリフィス部材96の下端部分は、アウタ筒金具14の底壁46に当接されて位置決めされていると共に、金属スリーブ28における小径部32の開口側端縁部とアウタ筒金具14の周壁48の間で全周に亘って挟圧保持されている。
【0057】
さらに、筒状オリフィス部材96には、周方向に延びる凹溝98が外周面に開口して形成されており、この凹溝98の一方の端部が凹溝98の底壁部に貫設された通孔100を通じて一方の作用液室94に接続されていると共に、凹溝98の周方向他方の端部が、凹溝98の底壁部に貫設された通孔102を通じて他方の作用液室94に接続されている。そして、この凹溝98がアウタ筒金具14の周壁48で流体密に覆蓋されることによって、一対の作用液室94,94を相互に連通するオリフィス通路104がアウタ筒金具14の周壁48の内周面58に沿って延びるように形成されており、本実施形態では、かかるオリフィス通路104を通じて一対の作用液室94,94の間を流動せしめられる流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等の低周波数振動に対して高減衰効果が発揮されるように、オリフィス通路104の通路長さや通路断面積等が調節されている。
【0058】
なお、本実施形態では、筒状オリフィス部材96の金属スリーブ28への外挿に際して、予め金属スリーブ28に八方絞り等の縮径加工が施されており、それによって、本体ゴム弾性体16に予圧縮が加えられている。その結果、本体ゴム弾性体16の加硫成形に際して、本体ゴム弾性体16に惹起される引張応力が軽減乃至は解消されて、本体ゴム弾性体16の耐荷重性能や耐久性の向上が図られている。
【0059】
このような構造とされたエンジンマウント10には、そのアウタ筒金具14の周壁48に対して、図示しない筒状取付ブラケットが外嵌固定されるようになっている。そして、筒状取付ブラケットが組み付けられたエンジンマウント10は、インナ軸金具12の取付固定部20が、取付固定部20に形成された取付孔106に挿通されるボルト(図示せず)によって、図示しないパワーユニットに固定される一方、アウタ筒金具14が、取付ブラケットを介して、自動車のボデーに固定されるようになっており、それによって、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。そこにおいて、本実施形態では、一対の作用液室94,94が対向する径方向が車両の略前後方向となる状態で、エンジンマウント10が車両に装着されるようになっている。
【0060】
そして、上述の如くエンジンマウント10が車両に装着された状態下において、インナ軸金具12とアウタ筒金具14の間に略鉛直方向の振動が入力されると、主液室74と副液室76の間に相対的な圧力差が生ぜしめられることとなる。そこにおいて、インナ軸金具12とアウタ筒金具14の間に略鉛直方向に入力される振動が、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の場合には、連通流路84を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて高減衰効果が発揮されるようになっており、また、インナ軸金具12とアウタ筒金具14の間に略鉛直方向に入力される振動が、こもり音等の高周波小振幅振動の場合には、可動ゴム板88の弾性変形に基づいて主液室74の圧力変動が吸収乃至は軽減されて、低動ばね作用による振動絶縁効果が発揮されるようになっている。
【0061】
一方、上述の如くエンジンマウント10が車両に装着された状態下において、インナ軸金具12とアウタ筒金具14の間に略水平方向(略車両前後方向)に振動が入力されると、一対の作用液室94,94の間に圧力差が生ぜしめられることとなる。そこにおいて、インナ軸金具12とアウタ筒金具14の間に略水平方向(略車両前後方向)に入力される振動が、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動の場合には、オリフィス通路104を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて高減衰効果が発揮されるようになっている。
【0062】
続いて、上述の如き構造とされたエンジンマウント10の製造方法について説明する。先ず、平板に対して深絞りや打ち抜き等のプレス加工を施して、基本的な形状、即ち、周壁48と底壁46と保持筒部52を備えた形状のアウタ筒金具14を作り、このアウタ筒金具14の周壁48における第二のテーパ部分56の小径端に対して径方向外方から力を加えることにより、第二のテーパ部分56の小径端において径方向一方向で対向位置せしめられている部分を径方向内方に突出させて係合突起60,60を形成し、目的とする形状のアウタ筒金具14を得る。
【0063】
このようなアウタ筒金具14を複数個まとめて一つの籠に入れて、内周面58にシールゴム層64を被着形成するための前処理を、これら複数のアウタ筒金具14に対して同時に施す。
【0064】
そこにおいて、本実施形態では、アウタ筒金具14における第二のテーパ部分56の小径端の内周面58に対して一対の係合突起60,60が形成されていることから、図11に示されているように、一つのアウタ筒金具14における第二のテーパ部分56に形成された一対の係合突起60,60に対して他のアウタ筒金具14の小径端が当接することにより、一つのアウタ筒金具14の大径側開口部に対して他のアウタ筒金具14の小径端が嵌まり込むことが阻止されるようになっている。
【0065】
そして、前処理が終了したアウタ筒金具14を成形型内にセットして、シールゴム層64を加硫成形と同時に内周面58に対して接着すると共に、ダイヤフラム62も、加硫成形と同時に、その外周縁部を保持筒部52に接着する。その際、シールゴム層64は、係合突起60の突出高さよりも大きくされており、それによって、シールゴム層64がアウタ筒金具14の内周面58に被着形成された状態で、係合突起60がシールゴム層64に覆われるようになっている。
【0066】
このようにしてシールゴム層64とダイヤフラム62が固着されたアウタ筒金具14は、筒状オリフィス部材96が組み付けられた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品38に対して、大径側開口部から外挿されて八方絞り等で縮径されることで嵌着固定されるようになっている。なお、このような嵌着固定作業は、内部に封入される非圧縮性流体が収容されている液槽内で行われるようになっており、それによって、アウタ筒金具14の金属スリーブ28への嵌着固定と内部への非圧縮性流体の封入が同時に行われるようになっている。
【0067】
従って、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、アウタ筒金具14に対して、シールゴム層64を被着形成するための前処理を確実に施すことが可能となり、その結果、前処理の後に加硫成形したシールゴム層64の接着において、接着不良の不具合の発生を有利に回避することが可能となり、その結果、アウタ筒金具14に対する前処理、延いては、アウタ筒金具14へのシールゴム層64の被着成形を高い信頼性をもって行うことが可能となる。
【0068】
また、係合突起60がシールゴム層64によって覆われるようになっていることから、アウタ筒金具14の金属スリーブ28への外挿に際して、係合突起60が金属スリーブ28に引っ掛かることを有利に回避することが可能となる。
【0069】
そこにおいて、本実施形態では、アウタ筒金具14がプレス金具によって形成されていると共に、係合突起60が基本的形状を備えたプレス金具に対してプレス加工が施されることによって形成されていることから、係合突起60が内周面58に形成されたアウタ筒金具14を有利に製造することが可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、係合突起60が、アウタ筒金具14の中心軸を挟んで径方向一方向で対向位置せしめられるようにして、一対形成されていることから、アウタ筒金具14に形成する係合突起60の数を少なくしつつ、周壁48の大径側開口部への他のアウタ筒金具14の嵌まり込みを有利に阻止することが可能となる。
【0071】
さらに、本実施形態では、周壁48が、第一のテーパ部分54とかかる第一のテーパ部分54よりも大きなテーパ角度を有する第二のテーパ部分56を備えた形状とされていると共に、その第二のテーパ部分56に対して係合突起60が形成されていることから、係合突起60のアウタ筒金具14の軸方向での形成位置を選択することが可能となる。これにより、係合突起60を凹部42の開口部分に位置せしめると共に、筒状オリフィス部材96から離れた場所に位置せしめることが可能となる。その結果、係合突起60が嵌着固定部分に位置することに起因する一対の作用液室94,94の液密性低下等の不具合や、係合突起60が筒状オリフィス部材96に押し付けられることに起因する筒状オリフィス部材96の破損等を有利に回避することが可能となる。
【0072】
特に本実施形態では、係合突起60が第二のテーパ部分56の小径端に形成されていることから、係合突起60の突出高さを小さくすることが可能となり、その結果、シールゴム層64の厚さ寸法を小さくすることが可能となる。
【0073】
また、本実施形態では、金属スリーブ28に対してアウタ筒金具14が外嵌固定された状態で、アウタ筒金具14の周壁48がストレートに延びる円筒形状を有するようになっていることから、アウタ筒金具14の周壁48を筒状ブラケットに嵌着固定した際の保持力(アウタ筒金具14が筒状ブラケットから抜けてしまうことを阻止する力)を周壁48の軸方向全長に亘って有利に確保することが可能となる。
【0074】
さらに、本実施形態では、アウタ筒金具14の内周面58に係合突起60が形成されていることから、アウタ筒金具14の周壁48を筒状ブラケットに嵌着固定することが有利に実現され得ることとなる。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0076】
例えば、前記実施形態では、本体ゴム弾性体の外周面と軸方向端面にそれぞれ開口するポケット部がアウタ側取付筒金具によって覆蓋されることで流体室が形成される流体封入式防振装置について、本発明を適用した一具体例が示されていたが、特公平8−6777号公報に記載の流体封入式防振装置に対しても、本発明を適用することは可能である。即ち、特公平8−6777号公報に記載の流体封入式防振装置においては、取付金具の嵌着部に対して、一体加硫成形品の連結金具を挿入した後、取付金具の嵌着部に八方絞り等の縮径加工を施すことにより、取付金具の嵌着部を一体加硫成形品の連結金具に嵌着するようになっていることから、取付金具の嵌着部に対して軸方向外方に向かって拡径する外向きテーパが付されている。また、取付金具の嵌着部を一体加硫成形品の連結金具に対して嵌着することによって、内部に非圧縮性流体が封入された受圧室と平衡室が形成されるようになっていることから、取付金具の嵌着部の内周面に対して、シールゴム層が被着されており、取付金具の嵌着部を一体加硫成形品の連結金具に対して嵌着した状態で、取付金具の嵌着部と一体加硫成形品の連結金具の間にシールゴム層が挟圧状態で位置せしめられるようになっている。従って、このような構造の流体封入式防振装置においても、取付金具の嵌着部の内周面にシールゴム層を被着するための前処理を、複数の取付金具に対して同時に施した場合、取付金具同士が相互に嵌まり込むことにより、取付金具において未処理部分ができてしまうが、本発明を適用することにより、取付金具に対して確実に前処理を施すことが可能となるのである。
【0077】
また、本発明は、特開2000−120761号公報等に記載の所謂ブッシュタイプの流体封入式防振装置に対しても、勿論適用可能である。
【0078】
さらに、アウタ側取付筒金具を嵌着スリーブに外嵌固定した状態で、テーパ筒状部がストレートな円筒形状ではなく、テーパ角度を有するテーパ筒形状のままであっても良い。
【0079】
更にまた、軸方向に離隔配置される一対のリング金具で嵌着スリーブを構成するようにしても良い。そして、この場合には、一対のリング金具の軸方向間の隙間によって窓部が構成されることとなる。
【0080】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態の流体封入式防振装置としてのエンジンマウントを示す縦断面図であって、図2のI−I方向での縦断面図。
【図2】図1におけるII−II断面図。
【図3】図1のエンジンマウントで採用されているアウタ筒金具の斜視図。
【図4】同アウタ筒金具の上面図。
【図5】同アウタ筒金具の側面図。
【図6】図4におけるVI−VI断面図。
【図7】係合突起を拡大して示す断面図。
【図8】シールゴム層とダイヤフラムが固着されたアウタ筒金具を示す上面図。
【図9】図8におけるIX−IX断面図。
【図10】係合突起がシールゴム層で覆われた状態を拡大して示す断面図。
【図11】一つのアウタ筒金具の係合突起に他のアウタ筒金具の小径端が当接した状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0082】
10:エンジンマウント,12:インナ軸金具,14:アウタ筒金具,16:本体ゴム弾性体,28:金属スリーブ,40:円形凹所,42:凹部,48:周壁,58:内周面,60:係合突起,64:シールゴム層,66:液室,94:作用液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振連結される一方の部材に取り付けられるインナ側取付金具に固着された本体ゴム弾性体の外周面に嵌着スリーブが固着されていると共に、防振連結される他方の部材に取り付けられるアウタ側取付筒金具が該嵌着スリーブに対して外嵌固定されており、該本体ゴム弾性体に設けられたポケット部の開口が該アウタ側取付筒金具で覆蓋されて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されていると共に、該アウタ側取付筒金具と該嵌着スリーブの嵌着部分にシールゴム層が設けられている流体封入式防振装置において、
前記嵌着スリーブに対する前記アウタ側取付筒金具の外嵌固定部分が、該アウタ側取付筒金具に設けられたテーパ筒状部をその大径開口部から該嵌着スリーブに外挿して縮径することで固定せしめた構造とされている一方、
該アウタ側取付筒金具の内周面には径方向内方に突出する係合突起が形成されていると共に、該係合突起の突出高さよりも厚肉の前記シールゴム層が該アウタ側取付筒金具の内周面に被着形成されて該係合突起が該シールゴム層で覆われており、
該アウタ側取付筒金具における該係合突起が、該アウタ側取付筒金具における該シールゴム層の形成前で且つ該嵌着スリーブへの固定前の該テーパ筒状部において、該テーパ筒状部の大径側開口部に対する別の該アウタ側取付筒金具の嵌まり込みを阻止し得る位置および突出高さで形成されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記アウタ側取付筒金具がプレス加工によって成形されていると共に、前記係合突起が前記テーパ筒状部に対してプレス加工が施されることによって形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記係合突起が前記アウタ側取付筒金具の中心軸線を挟んだ径方向で対向位置して形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記テーパ筒状部がテーパ角度の異なる複数のテーパ部分で構成されており、その大径側開口部分が最も大きなテーパ角度の付けられた大テーパ部分とされていると共に、該大テーパ部分に前記係合突起が形成されている請求項1乃至3の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記係合突起が前記大テーパ部分の小径端に形成されている請求項4に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記アウタ側取付筒金具において、前記ポケット部の開口部に位置せしめられて該ポケット部を覆蓋する位置に前記係合突起が形成されている請求項1乃至5の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記アウタ側取付筒金具が前記嵌着スリーブに対して外嵌固定された状態で、該アウタ側取付筒金具における前記テーパ筒状部がストレートな円筒形状とされている請求項1乃至6の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記嵌着スリーブを前記インナ側取付金具の軸直角方向に所定距離を隔てて配すると共に、該嵌着スリーブと該インナ側取付金具を前記本体ゴム弾性体で軸直角方向に連結する一方、該嵌着スリーブに対して該インナ側取付金具を挟んだ軸直角方向両側にそれぞれ窓部を形成し、軸直角方向で対向位置するように形成されて該本体ゴム弾性体の外周面に開口する前記ポケット部を、それぞれ、該嵌着スリーブの該窓部を通じて外周面に開口させて、前記アウタ側取付筒金具を該嵌着スリーブに外挿した後に縮径して固定することにより、該嵌着スリーブの該窓部を該アウタ側取付筒金具で流体密に覆蓋して、前記流体室を、該インナ側取付金具を軸直角方向で挟んで対向位置するように一対設けた請求項1乃至7の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
本体ゴム弾性体の中央部分にインナ側取付金具が固着されている一方、該本体ゴム弾性体の外周面に嵌着スリーブが固着されていると共に該嵌着スリーブの外周面に開口するポケット部が設けられた防振装置本体を準備し、この防振装置本体にアウタ側取付筒金具を外挿して該嵌着スリーブに外嵌固定せしめ、該ポケット部の開口を該アウタ側取付筒金具で覆蓋すると共に、該アウタ側取付筒金具の内周面に被着したシールゴム層で該アウタ取付筒金具と該嵌着スリーブの嵌着面間をシールせしめて非圧縮性流体が封入された流体室を備えた流体封入式防振装置を製造するに際して、
該アウタ側取付筒金具として、前記嵌着スリーブに対する外嵌固定部分がテーパ角度の付されたテーパ筒状部とされると共に、該テーパ筒状部の内周面に前記シールゴム層が被着された前記アウタ側取付筒金具を採用し、該アウタ側取付筒金具におけるテーパ筒状部をその大径開口部から前記嵌着スリーブに外挿して縮径することにより嵌着固定せしめる一方、
該アウタ側取付筒金具に対して該シールゴム層を被着形成するための前処理を、各別の流体封入式防振装置を構成する複数の該アウタ側取付筒金具を集めて同時に施すようにすると共に、該アウタ側取付筒金具の内周面には径方向内方に突出する係合突起を形成して、一つの該アウタ側取付筒金具の大径側開口部に対する別の該アウタ側取付筒金具の小径部側端部の嵌まり込みを該係合突起で防止せしめつつ該前処理を施し、
かかる前処理の後に該アウタ側取付筒金具の内周面に対して該係合突起の突出高さより大きな厚さで前記シールゴム層を被着形成せしめて、該シールゴム層で該係合突起を覆うようにすることを特徴とする流体封入式防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−249063(P2008−249063A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93182(P2007−93182)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】