流体輸送用可撓管、腐食性ガスの抜き取り方法、流体輸送システム
【課題】 内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管等を提供する。
【解決手段】 まず、あらかじめ製造されたインターロック管3の周囲に、必要に応じて座床テープが巻きつけられ、座床層15aが形成される。座床層15aが形成されたインターロック管3に対し、押出機によって、外周に樹脂を押し出し被覆し、樹脂層4が形成される。次に、樹脂層4の外周に樹脂条である樹脂テープ17および流路保持部材18が供給されて巻きつけられ、ガス流層5が形成される。流路保持部材18は、ある程度の強度と耐食性を有すればよく、ステンレス製、アルミニウム製などの金属製である。流路保持部材は、断面において、下面に開口部22が形成され、側面および上面が閉じられた部材である。なお、流路保持部材18は、内面側(樹脂層4側)に開口部22が向くように配置される。
【解決手段】 まず、あらかじめ製造されたインターロック管3の周囲に、必要に応じて座床テープが巻きつけられ、座床層15aが形成される。座床層15aが形成されたインターロック管3に対し、押出機によって、外周に樹脂を押し出し被覆し、樹脂層4が形成される。次に、樹脂層4の外周に樹脂条である樹脂テープ17および流路保持部材18が供給されて巻きつけられ、ガス流層5が形成される。流路保持部材18は、ある程度の強度と耐食性を有すればよく、ステンレス製、アルミニウム製などの金属製である。流路保持部材は、断面において、下面に開口部22が形成され、側面および上面が閉じられた部材である。なお、流路保持部材18は、内面側(樹脂層4側)に開口部22が向くように配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底油田等から産出した石油等を輸送するための流体輸送用可撓管等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海底油田等から産出する高圧の石油等は、流体輸送用可撓管によって浮遊式石油生産設備等まで輸送される。可撓管には、耐内圧特性や液密性、防水性等が要求されている。
【0003】
このような流体輸送用可撓管としては、例えば、最内層に、可撓性に優れ、耐外圧および敷設時の耐側圧補強に優れるステンレス製のインターロック管を用い、その外周に、耐油ガス性に優れ、液密性に優れるプラスチック内管が設けられ、さらにその外周に耐内圧補強としての金属製内圧補強層および軸方向補強としての金属製軸力補強層が設けられ、最外層に防水層としてのプラスチックシースが設けられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−156285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通常、海底から汲み上げる原油成分には、腐食性ガスである硫化水素や二酸化炭素が多量に(数10ppm以上)含まれる場合がある。このような腐食性ガスの含有率が高い原油を、特許文献1のような可撓性流体輸送管で輸送すると、腐食性ガスがプラスチック内管から径方向に漏えいし、プラスチック内管外周の金属製補強層を腐食させる恐れがある。
【0006】
また、輸送管断面内部に腐食性ガスが滞留する問題がある。このような問題は、特に油田の水深が深い場合には、内圧が大きくなり、流体からの透過ガス量が増加することで問題となる。このように、従来の可撓性流体輸送管は、金属補強層を破壊させる場合がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、可撓性を有するインターロック管と、前記インターロック管の外周側に設けられた樹脂層と、前記樹脂層の外周側に設けられ、ガスが流れることが可能な流路を有するガス流層と、前記ガス流層の外周側に設けられた補強層と、前記補強層の外周側に設けられた保護層と、を少なくとも具備し、前記ガス流層は、隙間をあけて螺旋状に巻きつけられた樹脂条と、前記樹脂条同士の隙間に設けられる流路保持部材とから構成されることを特徴とする流体輸送用可撓管である。流路保持部材は、ステンレス、アルミニウムなどの金属製、あるいはガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。
【0009】
前記流路保持部材の厚みと、前記樹脂条の厚みは略同一であることが望ましい。前記流路保持部材は、断面において少なくとも一方の方向に開口部または孔を有する部材であり、断面における前記開口部または前記孔が内方に向くように配置されるか、あるいは断面が中空形状を有するものであることが望ましい。
【0010】
前記ガス流層の外周側には、ガスが前記補強層方向へ透過することを遮蔽する遮蔽層が設けられてもよい。前記遮蔽層は、樹脂で金属層を挟み込んだ複層テープが巻きつけられて形成されてもよい。
【0011】
第1の発明によれば、ガス流層が設けられるため、内部を流れる流体から発生する腐食性ガスをガス流層内部に流すことができる。このため、腐食性ガスが可撓管の内部に滞留し、これにより補強層を構成する金属部材が腐食することを防止することができる。
【0012】
特に、腐食性ガスの流路が流路保持部材で保持されるため、外周からの応力によって流路が塞がれることがない。また、流路保持部材以外の部位は樹脂条で形成されるため、過剰に重量が増加することを防止することができる。
【0013】
また、流路保持部材が内方に向けて開口部または孔を有する部材で構成されるか、あるいは断面が中空形状を有するものであることで、腐食性ガスを確実に流路に導入することができるとともに、流路内の腐食性ガスが流路から外方に漏れ出すことを防止することができる。
【0014】
また、樹脂条と流路保持部材の厚みを略同一とすることで、ガス流層の形成が容易であり、さらにガス流層の外層側の各層を形成することが容易となる。なお、流路保持部材と金属条とが略同一厚みであるとは、製造時において互いに略同一厚みであることを指し、使用時において、樹脂条が外圧でやや潰れて、流路保持部材よりもわずかに薄くなることも含むものである。
【0015】
また、ガス流層の外周に遮蔽層を設けることで、ガス流層を流れる腐食性ガスが、それよりも外周の補強層等へ浸透することを確実に防止することができる。このような遮蔽層としては、金属層を有する複層テープで構成することで、容易に遮蔽層を構成することができる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明にかかる流体輸送用可撓管を海底から海上まで敷設し、前記流体輸送用可撓管により、海底から採取した流体を海上まで輸送し、前記流体から発生し、樹脂層を透過する腐食性ガスを、流路保持部材により形成される流路に導入し、前記流体輸送用可撓管の内部の流体の海底近傍から海上までの圧力分布に応じて生じるガス流層の内部の腐食性ガスの圧力分布を利用して、前記腐食性ガスを前記流体輸送用可撓管の海上側の端部から抜き取ることを特徴とする流体から発生する腐食性ガスの抜き取り方法である。
【0017】
第3の発明は、第1の発明にかかる流体輸送用可撓管と、前記流体輸送用可撓管が接続される海上の浮体施設と、前記流体輸送用可撓管と前記浮体施設との接続部に設けられる端末部と、を具備し、前記端末部には、前記流体輸送用可撓管の前記ガス流層の内部のガスを抜くことが可能なバルブと、前記補強層の内部のガスを抜くことが可能バルブとが設けられることを特徴とする流体輸送システムである。
【0018】
第2、第3の発明によれば、海底から海上に至るまでの内部の流体圧力に応じて生じるガス流層内部の腐食性ガスの圧力差により、腐食性ガスを海底部から海上部までガス流層を用いて移動させ、海上部で容易に腐食性ガスを抜きとることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】可撓管1を示す断面斜視図。
【図2】可撓管1を示す軸方向断面図。
【図3】(a)は、樹脂テープ17および流路保持部材18を巻きつける状態を示す図、(b)は樹脂テープ17および流路保持部材18が巻きつけられた状態の可撓管長手方向拡大断面図。
【図4】巻きつけられた樹脂テープ17および流路保持部材18を示す図。
【図5】樹脂テープ17と流路保持部材18とが一体化した複合テープの実施例を示す図。
【図6】流路保持部材の断面形状を示す図。
【図7】遮蔽帯21を示す図。
【図8】腐食性ガスの流れを示す図。
【図9】石油生産システム30を示す図。
【図10】可撓管1aを示す断面斜視図。
【図11】可撓管1aを示す軸方向断面図。
【図12】ガス流層5aを示す図で、(a)は図10のK部拡大図、(b)は腐食性ガスの流れを示す図。
【図13】可撓管1bを示す軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態にかかる可撓管1について説明する。図1は、可撓管1を示す斜視断面図で、図2は軸方向断面図である。可撓管1は、主に管体であるインターロック管3、樹脂層4、ガス流層5、遮蔽層7、耐内圧補強層9、軸力補強層11、保護層13等から構成される。
【0022】
インターロック管3は、可撓管1の最内層に位置し、外圧に対する座屈強度に優れ、耐食性も良好なステンレス製である。インターロック管3はテープを断面S字形状に成形させてS字部分で互いに噛み合わせて連結されて構成され、可撓性を有する。なお、インターロック管3に代えて、同様の可撓性を有し、座屈強度等に優れる管体であれば、他の態様の管体を使用することも可能である。
【0023】
インターロック管3の外周には、樹脂層4が設けられる。樹脂層4は、インターロック管3内を流れる流体を遮蔽する。樹脂層4は耐油性を有すればよく、例えばナイロン等の樹脂製である。なお、インターロック管3と樹脂層4との間に座床層15aを設けてもよい。座床層15aは、必要に応じて設けられ、インターロック管3の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。すなわち、座床層15aは、例えば不織布等のようにある程度の厚みを有し、インターロック管3外周の凹凸のクッションとしての役割を有する。
【0024】
なお、座床層については、必要に応じて設けられるものであり、以下の説明においては座床層を有する場合について説明するが、必ずしも必要なものではないので省くことができる。したがって、以下の図においては、座床層の図示を省略する。
【0025】
なお、インターロック管3の外周に樹脂層4が設けられるとは、必ずしもインターロック管3と樹脂層4とが接触していることを要せず、例えば、座床層15aのような他層が間に挟まれて設けられたとしても、樹脂層4は、インターロック管3の「外周に」設けられていると称する。以下の説明においては、同様にして「外周」なる用語を用いる。
【0026】
樹脂層4の外周には、ガス流層5が設けられる。ガス流層5は、内部にガスが流れる流路が形成されており、ガスが可撓管1の軸方向に対して移動することができる。ガス流層5は、樹脂テープ17および流路保持部材18が螺旋状に巻きつけられて形成される。ガス流層5の詳細は後述する。
【0027】
ガス流層5の外周には必要に応じて遮蔽層7が設けられる。遮蔽層7は、インターロック管3内を流れる流体から生じる腐食性ガス等を遮蔽する。なお、遮蔽層7としては、腐食性ガスの浸透を防止するものであることが望ましく、金属テープ等を有する複層テープや、硫化物トラップ材などの金属粒子を有する樹脂を用いることができる。また、このような特殊な構造を有する遮蔽層7に変えて、通常の樹脂のみの樹脂層を用いることもできる。図1の例では、ガス流層は1条の複合テープが短ピッチで螺旋巻きされている。樹脂テープと流路保持部材とで構成される複合テープの幅に比べて、螺旋巻きのピッチを複合テープの幅とほぼ一致させる必要がある(なお、正確には、複合テープの幅とは、複合テープの巻き付け角度を考慮して、複合テープの幅をテープ巻き時の傾き角のSinで割ったものになるが、以下の説明では簡単のため単にテープ幅と称する。)。ここで、数条の複合テープを組み合わせて、可撓管の樹脂層に、組み合わせたテープのテープ幅に合わせて、短ピッチで数条の複合テープを螺旋巻きしても良い。また、この場合に巻きつける数条のテープには、流路保持部材を有する複合テープと樹脂テープを組み合わせて、同様に巻きつけることもできる。
【0028】
遮蔽層7の外周には、耐内圧補強層9が設けられる。耐内圧補強層9は、主にインターロック管3内を流れる流体の内圧等に対する補強層である。耐内圧補強層9は、例えば断面C形状または断面Z形状等の金属製のテープ等を互いに向かい合うように、かつ、互いに軸方向に重なり合うように短ピッチ(金属製のテープの幅と巻きつけピッチが略同じ)で巻きつけられて形成される。なお、耐内圧補強層9は、上述のように金属テープが所定ピッチで巻きつけられた構成であり、インターロック管3の曲げ変形等に追従可能である。
【0029】
耐内圧補強層9の外周には、軸力補強層11が設けられる。軸力補強層11は、主にインターロック管3が可撓管1の軸方向へ変形する(伸びる)ことを抑えるための補強層である。軸力補強層11は、平型断面形状の金属製の補強条をロングピッチで(補強条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように)2層交互巻きして形成される。補強条は耐内圧補強層の外周において、周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。軸力補強層11は、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。
【0030】
なお、必要に応じて、耐内圧補強層9と軸力補強層11の間にポリエチレン製等の樹脂テープである座床層15bを設けてもよく、また、逆向きに螺旋状に巻きつけられる2層の補強条の間に、座床層15cを設けてもよい。座床層15b、15cは、補強部材同士が可撓管1の変形に追従する際に擦れて、摩耗することを防止するためである。この場合でも、座床層の有無を問わず、耐内圧補強層9の外周に軸力補強層11が設けられると称する。なお、以下の説明において、耐内圧補強層9と軸力補強層11とを総称して補強層と称する。
【0031】
軸力補強層11の外周には、保護層13が設けられる。保護層13は、例えば海水等が補強層へ浸入することを防止するための層である。保護層13は、例えばポリエチレン製やポリアミド系合成樹脂製等が使用できる。なお、軸力補強層11の外周には、必要に応じて座床層15dが設けられる。座床層15dは、軸力補強層11の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。以上のように、可撓管1を構成する各層は、それぞれ可撓管1の曲げ変形等に追従し、可撓性を有する。
【0032】
次に、可撓管1の製造方法について概略を説明する。まず、あらかじめ製造されたインターロック管3の周囲に、必要に応じて座床テープが巻きつけられ、座床層15a(図1)が形成される。座床層15aが形成されたインターロック管3に対し、押出機によって、外周に樹脂を押し出し被覆し、樹脂層4が形成される。
【0033】
次に、図3(a)に示すように、樹脂テープ供給機および流路保持部材供給部から、樹脂層4の外周に樹脂条である樹脂テープ17および流路保持部材18が供給されて巻きつけられ、ガス流層5が形成される。なお、本発明では、テープ状の部材のみではなく、樹脂条体であればその態様は問わないが、以下の例では樹脂テープ17について説明する。樹脂テープ17の材質としては、ある程度の硬度とある程度の耐熱性を有すれば良く、例えばフッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが使用できる。また、ガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。
【0034】
また、流路保持部材18は、ある程度の強度と耐食性を有すればよく、ステンレス製、アルミニウム製などの金属製が望ましいが、また、ガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。流路保持部材は、断面において、下面に開口部22が形成され、側面および上面が閉じられた部材である。流路保持部材18は、板材をフォーミングして形成しても良く、押出材等であってもよい。なお、流路保持部材18は、内面側(樹脂層4側)に開口部22が向くように配置される。
【0035】
樹脂テープ17および流路保持部材18は、少なくとも1層、互いに隣接するように相互に隣合わせて螺旋状に巻きつけられる。
流路保持部材18で保持される空間が流路19となる。すなわち、ガス流層5の内部に形成される流路19内を腐食性ガスが流れる。
【0036】
図4は、樹脂テープ17および流路保持部材18が巻きつけられた状態を示す図である。図4(a)に示すように、樹脂テープ17および流路保持部材18は、可撓管1の軸方向(図中矢印A方向)に対して角度θで螺旋巻きされる(図中矢印B方向)。
【0037】
図4(b)は図4(a)のC部における断面図である。樹脂テープ17の幅をD(図4(a))とすると、可撓管の軸方向に平行な断面における樹脂テープの断面幅Eは、L/sinθとなる。また、可撓管の軸方向に平行な断面における流路保持部材18の幅をFとすると、F/Eは、0.05〜0.1であることが望ましい。流路保持部材18が小さすぎると、流路の断面積を十分に取ることができず、流路保持部材18が大きすぎると、重量増となる。
【0038】
なお、ガスの流路を確実に確保するためには、流路保持部材18の厚みGは、流路19の高さが1mm以上確保できる程度の厚みであることが望ましく、例えば6mm以下が望ましい、最大でも10mm程度である。薄すぎると、流路の確保が困難となり、厚すぎると、可撓管1の外径が大きくなり、コスト増にもなるため望ましくない。また、樹脂テープ17と流路保持部材18の厚みは略同一であることが望ましい。樹脂テープ17と流路保持部材18との間に段差が形成されると、外層側の形成が困難となるためである。なお、流路保持部材18は、使用される条件(水深に応じた外圧)に耐えるだけの強度が必要である。この際、樹脂テープ17が潰れるため、外圧を流路保持部材18のみで受け持つことが可能な程度の圧縮強度が必要である。
【0039】
また、樹脂テープ17および流路保持部材18の巻き付け角度θは、製造性を考慮すると85°以下15°以上が望ましい。この理由は、巻き付け角度はテープ幅と巻き付け径に依存するが、85°以上では、巻き付け後にテープが軸方向にほとんど進まず、ガス流路には適さず、また15°以下では、巻き付け性が悪化するからである。また、図4(b)の破線で示したように、樹脂テープ17を複数層形成しても良い。この場合、上層側の樹脂テープ17は、下層側の樹脂テープ17に対して、逆方向に螺旋巻きされることが望ましい。
【0040】
なお、樹脂テープ17および流路保持部材18は、別々に巻きつけても良いが、あらかじめ一体化して同時に巻きつけても良い。例えば、図5(a)に示すように、樹脂テープ17の一方の側端に流路保持部材18を接合した複合テープ20を用いても良い。複合テープ20は、流路保持部材18に対して樹脂テープ17を融着させても良く、接着剤等で接着しても良い。
【0041】
また、図5(b)に示すように、一対の樹脂テープ17で流路保持部材18を挟み込むように形成した複合テープ20aを用いても良い。複合テープ20aを用いた場合には、可撓管に巻きつけた際、両側部の樹脂テープ17の端部同士が接触するように螺旋巻きされる。
【0042】
また、図5(c)に示すように、一対の流路保持部材18で樹脂テープ17を挟み込むように形成した複合テープ20bを用いても良い。複合テープ20bを用いた場合には、可撓管に巻きつけた際、両側部の流路保持部材18の端部同士が接触するように螺旋巻きされる。
【0043】
なお、本実施の形態では、流路保持部材18の厚みが樹脂テープ17の厚みと略同一である例を示すが、樹脂テープ17の厚みを流路保持部材18よりも厚くして、流路保持部材18を樹脂テープ17に埋設するようにしても良い。この場合には、樹脂テープの一方の表面側に流路保持部材18の開口部が露出するように配置すればよい。
【0044】
また、本発明では、流路保持部材18の断面形状は限定されない。例えば、図6(a)に示す流路保持部材18aのように、断面における下面側の全面に開口部22が形成されず、下面の一部に開口部が形成されても良い。
【0045】
また、図6(b)に示す流路保持部材18bのように、内部の空間に側面と略平行な仕切りを設け、開口部22が複数形成されても良い。
【0046】
また、図6(c)に示す流路保持部材18cのように、略矩形断面の部材の下面側に、内部の空間と連通する孔24が、流路保持部材18cの長手方向の所定間隔に複数形成されても良い。孔24は、流路保持部材18cの長手方向に複数の切欠き状に形成された長孔であっても良い。
【0047】
また、図6(d)に示す流路保持部材18dのように、略楕円形断面の部材の下面側に、内部の空間と連通する孔24が、流路保持部材18cの長手方向の所定間隔に複数形成されても良い。孔24は、流路保持部材18cの長手方向に複数の切欠き状に形成された長孔であっても良い。すなわち、流路保持部材の断面形状は、管体に巻き付け可能であり、流路を保持できる形状であればいずれでも良く、少なくとも一方の面にガスが流入するための開口部、孔などを有すれば、その形状は問わない。
【0048】
樹脂テープ17および流路保持部材18が巻きつけられてガス流層5が形成された後、ガス流層5の外周に必要に応じて遮蔽層7が形成される。図7は、遮蔽層7を構成する遮蔽帯21を示す図である。遮蔽帯21は、金属フィルム25が樹脂フィルム23により挟み込まれる複層テープである。ガス流層5が形成された後、遮蔽帯供給機からあらかじめ製造された遮蔽帯が供給される。なお、遮蔽帯は、螺旋巻きされるか、または、遮蔽帯の長手方向がインターロック管3の軸方向と略同方向になるように供給され、フォーミング機内でフォーミングされ、縦巻きされる。以上により遮蔽層7が形成される。
【0049】
なお、金属フィルム25は、フィルム上に薄く加工が容易であるものであり、耐食性に優れるものであれば良い。たとえば、ステンレス、アルミニウム、外面に耐食性の良い材質でクラッドしたクラッド鋼等が使用できる。なお、金属フィルム25は例えば0.05mm程度の厚さであり、遮蔽帯21全体としては、例えば0.2〜0.3mm程度であればよい。また、樹脂フィルム23は、樹脂製の部材であり、遮蔽層7の構築時に、金属フィルム25の折れ曲がりや破れ、しわなどの発生を防止できる。
【0050】
以上のようにして遮蔽層7が形成されたインターロック管3は、さらに補強テープ巻き機等により耐内圧用補強条である金属条が短ピッチで巻きつけられ、耐内圧補強層9が形成される。金属条は、互いの断面C型の凹部が向かい合うように2重に形成される。その外周には、必要に応じて座床テープ等が巻きつけられ、その外周に補強条がロングピッチで巻きつけられる。補強条は、巻きつけ面の周方向に複数並列した状態から、螺旋状に巻きつけられる。さらに最外周に押出機によって保護層13が形成され、所定長さに巻き取られる。以上により、可撓管1が製造される。
【0051】
次に、ガス流層5の機能について説明する。図8は、可撓管1の断面を示す図である。前述の通り、インターロック管3内には、石油等の流体が流れている。石油等には、腐食性ガスである硫化水素等の腐食性ガスが含まれている場合がある。
【0052】
インターロック管3内部の流体は、樹脂層4によって遮蔽されるため、直接樹脂層4の外周に漏れ出すことはない。一方、腐食性ガスは樹脂層4を透過する恐れがある。特に内圧の大きな部位では、多くの腐食性ガスが樹脂層4を透過する(図中矢印I方向)。樹脂層4の外周には、流路保持部材18によって形成される流路19を有するガス流層5が形成される。したがって、樹脂層4を透過した腐食性ガスは、ガス流層5に流入する。
【0053】
流路保持部材18の開口部より流路19に流入した腐食性ガスは、流路19を通り、可撓管1の軸方向に移動する(図中矢印H方向)。なお、流路19が螺旋状に形成されるため、腐食性ガスは流路19を螺旋状に移動する。ここで、可撓管1内部の流体圧力は、海底油田等における生産井側で最も高く、海上の石油等の回収部において最も低くなる。腐食性ガスの透過量は、内圧に依存するため、内圧の大きな海底側で最も多くの腐食性ガスがガス流層5に流れ込む。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスの圧力分布としては、生産井側から回収部側に向かって圧力が低下する。また、海底から回収部までの鉛直方向高さに応じた静圧変化を考慮しても、上方である回収部側の圧力は低下する。
【0054】
したがって、ガス流層5に流入した腐食性ガスは、より圧力の低い上方の回収部側に向かって流れる。すなわち、ガス流層5内部での腐食性ガスは、必ず、石油等の回収部側である例えば海上設備側に向かって自然に流れる。このため、腐食性ガスが可撓管1の内部に滞留することがない。
【0055】
なお、ガス流層5の外周に遮蔽層7を形成することで、ガス流層5を流れる際に、腐食性ガスが補強層側にさらに浸透することがなく、確実に腐食性ガスを所望の方向に流して、補強層等の腐食を防止することができる。
【0056】
図9は、石油生産システム30を示す図である。前述の通り、可撓管1の一方の端部は、海底油田等に設けられる生産井35と接続され、他方の端部が海上の浮遊式石油精製設備31と接続される。前述の通り、生産井35から生産される石油等は可撓管1内部を通って、浮遊式石油精製設備31まで輸送される。
【0057】
この際、生産井35側から浮遊式石油精製設備31側に向かって、内部の流体の圧力は低下する。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスの内圧も、生産井35側から浮遊式石油精製設備31側に向かって低下する。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスを、この圧力差を利用して浮遊式石油精製設備31側に向かって流すことができる(図中矢印J方向)。なお、浮遊式石油精製設備31においては、腐食性ガスは大気に開放してもよく、または、吸引装置等で回収してもよい。いずれにしても、可撓管1の端部側から、内部の腐食性ガスを抜き取ることができる。
【0058】
なお、可撓管1と浮体設備である浮遊式石油精製設備31とは、可撓管1の端部に形成される端末部において接続される。端末部は、可撓管1内部を流れる流体を浮遊式石油精製設備31の所定の貯蔵部に輸送するとともに、可撓管1のガス流層5の内部のガスを回収または大気解放可能なバルブが設けられることが望ましい。なお、バルブによって、ガス流層5内部のガスを所定の間隔で開閉して抜いてもよく、または、ガス流層5内部の圧力が所定値以上となった際に開放してガスを抜いてもよい。
【0059】
また、可撓管1の補強層(耐内圧補強層11、軸力補強層13)内に浸透したガスを抜き取ることが可能なように、補強層の内部のガスを回収または大気解放可能なバルブをさらに設けてもよい。
【0060】
以上、本実施の形態によれば、ガス流層5が形成されるため、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスが、可撓管1の断面における径方向に透過することにより、腐食性ガスが可撓管1の内部に滞留することがなく、また、腐食性ガスが補強層等に浸透して補強層を腐食させることがない。
【0061】
また、ガス流層5には、腐食性ガスが流れる流路19が形成されるため、腐食性ガスを確実に可撓管1に形成された流路に沿ってスパイラル状に軸方向に移動させることができ、可撓管1の端部から抜き取ることができる。
【0062】
また、ガス流層5は、金属製の流路保持部材18と樹脂テープ17によって構成される。このため、流路保持部材18によって、外圧に対して流路19が潰れてしまうことがない。また、樹脂テープ17と組み合わせることで、ガス流層5の形成に伴う重量増を最低限に抑えることができる。なお、樹脂テープ17は外圧によって変形(潰れる)恐れがあるが、仮に樹脂テープ17が変形しても、前述の通り、流路保持部材18によって流路19の流路断面積を確実に確保することができる。
【0063】
また、ガス流層5の外周側に遮蔽層7を設けることで、より確実に腐食性ガスが補強層に浸透することを防止することができる。
【0064】
次に、第2の実施形態について説明する。図10は、第2の実施形態にかかる可撓管1aを示す斜視断面図で、図11は軸方向断面図である。なお、以下の説明において、可撓管1と同様の機能を奏する構成については、図1〜図2等と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0065】
可撓管1aは可撓管1と略同様の構成であるが、ガス流層の態様が異なる。ガス流層5aは、複数の樹脂部材である平条体(樹脂条)により形成される。樹脂条は、前述した軸力補強層11を構成する補強条と同様に、樹脂層4の外周の周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。すなわち、樹脂条は、樹脂条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように形成される。なお、樹脂条の巻き付け層数は、少なくても1層あればよいが、2層、4層・・(2の倍数)とすることが望ましい。この場合、下層側の樹脂条と上層側の樹脂条とは、逆方向に向けて螺旋巻きされる。なお、樹脂条の巻き付け角度は、軸力補強条と略同様の20°〜45°(例えば35°程度)であることが望ましい。
【0066】
図12(a)は、図11のK部拡大図である。前述の通り、樹脂条17aは周方向に複数配置される。この際、隣り合う樹脂条17a同士の間には、流路保持部材18が設けられる。それぞれの流路保持部材18の流路19がガスの流路となる。ここで、樹脂条の隣に必ず流体保持部材を配置するのではなく、各層に少なくとも1本の流路保持部材が存在すればよいため、複合テープ20、20a,20bに隣接して、樹脂テープ17のみを巻きつけても良い。このように、可撓管断面の円周上に巻き付ける複合テープと樹脂テープの組み合わせを調整することにより、可撓管断面における流路保持部材の本数を調整することができる。
【0067】
図12(b)は、ガス流層5aの透視図であり、2層の樹脂条17aが巻き付けられる場合の下層側の樹脂条17aを示す図である(なお、上層側の樹脂条17aは波線で示す)。前述の通り、内部から浸透したガスは、ガス流層5aに導入され、流路19を通り、可撓管の軸方向に螺旋状に流れる(図中矢印L方向)。この際、複数の樹脂条17aがロングピッチで巻き付けられるため、可撓管1の長さに対して、ガス流路長を可撓管1と比較して短くすることができる。
【0068】
すなわち、可撓管1aによれば、可撓管1と同様の効果を得ることができる。また、可撓管の長手方向に対して、ガスの流路長を短くすることができるため、ガスをより効率良く流すことができる。
【0069】
次に、第3の実施形態について説明する。図13は、第3の実施形態にかかる可撓管1bを示す軸方向断面図である。可撓管1bは、可撓管1に対して、ガス流層5および遮蔽層7の配置が異なる。可撓管1bでは、ガス流層5および遮蔽層7は、軸力補強層11の内周側に配置される。すなわち、可撓管1bでは、ガス流層5および遮蔽層7は、耐内圧補強層9と軸力補強層11の間に配置される。
【0070】
このように、ガス流層を耐内圧補強層の外周に設けることにより、耐内圧補強層により、ガス流層5に作用する内圧からガス流層5が保護される。このため、ガス流層5を構成する流路保持部材や樹脂テープの剛性を低下させることができる。
【0071】
すなわち、可撓管1bによれば、可撓管1と同様の効果を得ることができる。また、確実にガス流層5を保護することができる。
【0072】
尚、図13のガス流層を構成するテープの巻き方としては、図13のように、複数の複合テープのみを組み合わせて、樹脂層の外周全体を覆いロングピッチで螺旋巻きする構成とすることできるが、複数の複合テープと樹脂テープを組み合わせて、樹脂層の外周全体を覆い、これをロングピッチで螺旋巻きする構成とすることもできる。また、1条または数条の複合テープを用いて、これらのテープ幅と合わせて短ピッチで螺旋巻きを行うこともできる。
【0073】
したがって、本発明には、図10の可撓管の構成で、ガス流層を複数の複合テープで樹脂層外周全体を覆いロングピッチで螺旋巻きを行う構成や、複数の流路部材を有する複合テープと複数の樹脂テープを組み合わせて、これらを組み合わせたテープで樹脂層の全周を覆いロングピッチで螺旋巻きを行う構成、さらには、図1の1条の複合テープを、複合テープのテープ幅とほぼ同等のピッチで螺旋巻きする構成の他、数条の複合テープを組み合わせて、組み合わせたテープのテープ幅とほぼ同ピッチで数条の複合テープを並列して螺旋巻きする構成なども含まれることは言うまでもない。また、ガス流層の直下の層は、樹脂層以外の他の層でも良い。
【0074】
以上の、ガス流層を構成する複合テープ等の巻き方やピッチはガス流層の可撓管断面における配置に関係なく、適宜選択できるが、ガス流層の流路断面積を多くし、流路長を短くするためには、ロングピッチの多条巻きが好ましい。
【0075】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0076】
1、1a、1b………可撓管
3………インターロック管
4………樹脂層
5、5a………ガス流層
7………遮蔽層
9………耐内圧補強層
11………軸力補強層
13………保護層
15a、15b、15c、15d………座床層
17………樹脂テープ
17a………樹脂条
18、18a、18b、18c、18d………流路保持部材
19………流路
20、20a、20b………複合テープ
21………遮蔽帯
23………樹脂フィルム
25………金属フィルム
30………石油生産システム
31………浮遊式石油精製設備
35………生産井
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底油田等から産出した石油等を輸送するための流体輸送用可撓管等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海底油田等から産出する高圧の石油等は、流体輸送用可撓管によって浮遊式石油生産設備等まで輸送される。可撓管には、耐内圧特性や液密性、防水性等が要求されている。
【0003】
このような流体輸送用可撓管としては、例えば、最内層に、可撓性に優れ、耐外圧および敷設時の耐側圧補強に優れるステンレス製のインターロック管を用い、その外周に、耐油ガス性に優れ、液密性に優れるプラスチック内管が設けられ、さらにその外周に耐内圧補強としての金属製内圧補強層および軸方向補強としての金属製軸力補強層が設けられ、最外層に防水層としてのプラスチックシースが設けられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−156285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通常、海底から汲み上げる原油成分には、腐食性ガスである硫化水素や二酸化炭素が多量に(数10ppm以上)含まれる場合がある。このような腐食性ガスの含有率が高い原油を、特許文献1のような可撓性流体輸送管で輸送すると、腐食性ガスがプラスチック内管から径方向に漏えいし、プラスチック内管外周の金属製補強層を腐食させる恐れがある。
【0006】
また、輸送管断面内部に腐食性ガスが滞留する問題がある。このような問題は、特に油田の水深が深い場合には、内圧が大きくなり、流体からの透過ガス量が増加することで問題となる。このように、従来の可撓性流体輸送管は、金属補強層を破壊させる場合がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、可撓性を有するインターロック管と、前記インターロック管の外周側に設けられた樹脂層と、前記樹脂層の外周側に設けられ、ガスが流れることが可能な流路を有するガス流層と、前記ガス流層の外周側に設けられた補強層と、前記補強層の外周側に設けられた保護層と、を少なくとも具備し、前記ガス流層は、隙間をあけて螺旋状に巻きつけられた樹脂条と、前記樹脂条同士の隙間に設けられる流路保持部材とから構成されることを特徴とする流体輸送用可撓管である。流路保持部材は、ステンレス、アルミニウムなどの金属製、あるいはガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。
【0009】
前記流路保持部材の厚みと、前記樹脂条の厚みは略同一であることが望ましい。前記流路保持部材は、断面において少なくとも一方の方向に開口部または孔を有する部材であり、断面における前記開口部または前記孔が内方に向くように配置されるか、あるいは断面が中空形状を有するものであることが望ましい。
【0010】
前記ガス流層の外周側には、ガスが前記補強層方向へ透過することを遮蔽する遮蔽層が設けられてもよい。前記遮蔽層は、樹脂で金属層を挟み込んだ複層テープが巻きつけられて形成されてもよい。
【0011】
第1の発明によれば、ガス流層が設けられるため、内部を流れる流体から発生する腐食性ガスをガス流層内部に流すことができる。このため、腐食性ガスが可撓管の内部に滞留し、これにより補強層を構成する金属部材が腐食することを防止することができる。
【0012】
特に、腐食性ガスの流路が流路保持部材で保持されるため、外周からの応力によって流路が塞がれることがない。また、流路保持部材以外の部位は樹脂条で形成されるため、過剰に重量が増加することを防止することができる。
【0013】
また、流路保持部材が内方に向けて開口部または孔を有する部材で構成されるか、あるいは断面が中空形状を有するものであることで、腐食性ガスを確実に流路に導入することができるとともに、流路内の腐食性ガスが流路から外方に漏れ出すことを防止することができる。
【0014】
また、樹脂条と流路保持部材の厚みを略同一とすることで、ガス流層の形成が容易であり、さらにガス流層の外層側の各層を形成することが容易となる。なお、流路保持部材と金属条とが略同一厚みであるとは、製造時において互いに略同一厚みであることを指し、使用時において、樹脂条が外圧でやや潰れて、流路保持部材よりもわずかに薄くなることも含むものである。
【0015】
また、ガス流層の外周に遮蔽層を設けることで、ガス流層を流れる腐食性ガスが、それよりも外周の補強層等へ浸透することを確実に防止することができる。このような遮蔽層としては、金属層を有する複層テープで構成することで、容易に遮蔽層を構成することができる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明にかかる流体輸送用可撓管を海底から海上まで敷設し、前記流体輸送用可撓管により、海底から採取した流体を海上まで輸送し、前記流体から発生し、樹脂層を透過する腐食性ガスを、流路保持部材により形成される流路に導入し、前記流体輸送用可撓管の内部の流体の海底近傍から海上までの圧力分布に応じて生じるガス流層の内部の腐食性ガスの圧力分布を利用して、前記腐食性ガスを前記流体輸送用可撓管の海上側の端部から抜き取ることを特徴とする流体から発生する腐食性ガスの抜き取り方法である。
【0017】
第3の発明は、第1の発明にかかる流体輸送用可撓管と、前記流体輸送用可撓管が接続される海上の浮体施設と、前記流体輸送用可撓管と前記浮体施設との接続部に設けられる端末部と、を具備し、前記端末部には、前記流体輸送用可撓管の前記ガス流層の内部のガスを抜くことが可能なバルブと、前記補強層の内部のガスを抜くことが可能バルブとが設けられることを特徴とする流体輸送システムである。
【0018】
第2、第3の発明によれば、海底から海上に至るまでの内部の流体圧力に応じて生じるガス流層内部の腐食性ガスの圧力差により、腐食性ガスを海底部から海上部までガス流層を用いて移動させ、海上部で容易に腐食性ガスを抜きとることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスを、確実に可撓管の外部に抜き取ることが可能な流体輸送用可撓管等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】可撓管1を示す断面斜視図。
【図2】可撓管1を示す軸方向断面図。
【図3】(a)は、樹脂テープ17および流路保持部材18を巻きつける状態を示す図、(b)は樹脂テープ17および流路保持部材18が巻きつけられた状態の可撓管長手方向拡大断面図。
【図4】巻きつけられた樹脂テープ17および流路保持部材18を示す図。
【図5】樹脂テープ17と流路保持部材18とが一体化した複合テープの実施例を示す図。
【図6】流路保持部材の断面形状を示す図。
【図7】遮蔽帯21を示す図。
【図8】腐食性ガスの流れを示す図。
【図9】石油生産システム30を示す図。
【図10】可撓管1aを示す断面斜視図。
【図11】可撓管1aを示す軸方向断面図。
【図12】ガス流層5aを示す図で、(a)は図10のK部拡大図、(b)は腐食性ガスの流れを示す図。
【図13】可撓管1bを示す軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態にかかる可撓管1について説明する。図1は、可撓管1を示す斜視断面図で、図2は軸方向断面図である。可撓管1は、主に管体であるインターロック管3、樹脂層4、ガス流層5、遮蔽層7、耐内圧補強層9、軸力補強層11、保護層13等から構成される。
【0022】
インターロック管3は、可撓管1の最内層に位置し、外圧に対する座屈強度に優れ、耐食性も良好なステンレス製である。インターロック管3はテープを断面S字形状に成形させてS字部分で互いに噛み合わせて連結されて構成され、可撓性を有する。なお、インターロック管3に代えて、同様の可撓性を有し、座屈強度等に優れる管体であれば、他の態様の管体を使用することも可能である。
【0023】
インターロック管3の外周には、樹脂層4が設けられる。樹脂層4は、インターロック管3内を流れる流体を遮蔽する。樹脂層4は耐油性を有すればよく、例えばナイロン等の樹脂製である。なお、インターロック管3と樹脂層4との間に座床層15aを設けてもよい。座床層15aは、必要に応じて設けられ、インターロック管3の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。すなわち、座床層15aは、例えば不織布等のようにある程度の厚みを有し、インターロック管3外周の凹凸のクッションとしての役割を有する。
【0024】
なお、座床層については、必要に応じて設けられるものであり、以下の説明においては座床層を有する場合について説明するが、必ずしも必要なものではないので省くことができる。したがって、以下の図においては、座床層の図示を省略する。
【0025】
なお、インターロック管3の外周に樹脂層4が設けられるとは、必ずしもインターロック管3と樹脂層4とが接触していることを要せず、例えば、座床層15aのような他層が間に挟まれて設けられたとしても、樹脂層4は、インターロック管3の「外周に」設けられていると称する。以下の説明においては、同様にして「外周」なる用語を用いる。
【0026】
樹脂層4の外周には、ガス流層5が設けられる。ガス流層5は、内部にガスが流れる流路が形成されており、ガスが可撓管1の軸方向に対して移動することができる。ガス流層5は、樹脂テープ17および流路保持部材18が螺旋状に巻きつけられて形成される。ガス流層5の詳細は後述する。
【0027】
ガス流層5の外周には必要に応じて遮蔽層7が設けられる。遮蔽層7は、インターロック管3内を流れる流体から生じる腐食性ガス等を遮蔽する。なお、遮蔽層7としては、腐食性ガスの浸透を防止するものであることが望ましく、金属テープ等を有する複層テープや、硫化物トラップ材などの金属粒子を有する樹脂を用いることができる。また、このような特殊な構造を有する遮蔽層7に変えて、通常の樹脂のみの樹脂層を用いることもできる。図1の例では、ガス流層は1条の複合テープが短ピッチで螺旋巻きされている。樹脂テープと流路保持部材とで構成される複合テープの幅に比べて、螺旋巻きのピッチを複合テープの幅とほぼ一致させる必要がある(なお、正確には、複合テープの幅とは、複合テープの巻き付け角度を考慮して、複合テープの幅をテープ巻き時の傾き角のSinで割ったものになるが、以下の説明では簡単のため単にテープ幅と称する。)。ここで、数条の複合テープを組み合わせて、可撓管の樹脂層に、組み合わせたテープのテープ幅に合わせて、短ピッチで数条の複合テープを螺旋巻きしても良い。また、この場合に巻きつける数条のテープには、流路保持部材を有する複合テープと樹脂テープを組み合わせて、同様に巻きつけることもできる。
【0028】
遮蔽層7の外周には、耐内圧補強層9が設けられる。耐内圧補強層9は、主にインターロック管3内を流れる流体の内圧等に対する補強層である。耐内圧補強層9は、例えば断面C形状または断面Z形状等の金属製のテープ等を互いに向かい合うように、かつ、互いに軸方向に重なり合うように短ピッチ(金属製のテープの幅と巻きつけピッチが略同じ)で巻きつけられて形成される。なお、耐内圧補強層9は、上述のように金属テープが所定ピッチで巻きつけられた構成であり、インターロック管3の曲げ変形等に追従可能である。
【0029】
耐内圧補強層9の外周には、軸力補強層11が設けられる。軸力補強層11は、主にインターロック管3が可撓管1の軸方向へ変形する(伸びる)ことを抑えるための補強層である。軸力補強層11は、平型断面形状の金属製の補強条をロングピッチで(補強条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように)2層交互巻きして形成される。補強条は耐内圧補強層の外周において、周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。軸力補強層11は、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。
【0030】
なお、必要に応じて、耐内圧補強層9と軸力補強層11の間にポリエチレン製等の樹脂テープである座床層15bを設けてもよく、また、逆向きに螺旋状に巻きつけられる2層の補強条の間に、座床層15cを設けてもよい。座床層15b、15cは、補強部材同士が可撓管1の変形に追従する際に擦れて、摩耗することを防止するためである。この場合でも、座床層の有無を問わず、耐内圧補強層9の外周に軸力補強層11が設けられると称する。なお、以下の説明において、耐内圧補強層9と軸力補強層11とを総称して補強層と称する。
【0031】
軸力補強層11の外周には、保護層13が設けられる。保護層13は、例えば海水等が補強層へ浸入することを防止するための層である。保護層13は、例えばポリエチレン製やポリアミド系合成樹脂製等が使用できる。なお、軸力補強層11の外周には、必要に応じて座床層15dが設けられる。座床層15dは、軸力補強層11の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、インターロック管3の可撓性に追従して変形可能である。以上のように、可撓管1を構成する各層は、それぞれ可撓管1の曲げ変形等に追従し、可撓性を有する。
【0032】
次に、可撓管1の製造方法について概略を説明する。まず、あらかじめ製造されたインターロック管3の周囲に、必要に応じて座床テープが巻きつけられ、座床層15a(図1)が形成される。座床層15aが形成されたインターロック管3に対し、押出機によって、外周に樹脂を押し出し被覆し、樹脂層4が形成される。
【0033】
次に、図3(a)に示すように、樹脂テープ供給機および流路保持部材供給部から、樹脂層4の外周に樹脂条である樹脂テープ17および流路保持部材18が供給されて巻きつけられ、ガス流層5が形成される。なお、本発明では、テープ状の部材のみではなく、樹脂条体であればその態様は問わないが、以下の例では樹脂テープ17について説明する。樹脂テープ17の材質としては、ある程度の硬度とある程度の耐熱性を有すれば良く、例えばフッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが使用できる。また、ガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。
【0034】
また、流路保持部材18は、ある程度の強度と耐食性を有すればよく、ステンレス製、アルミニウム製などの金属製が望ましいが、また、ガラス繊維などを入れた繊維強化プラスチック(FRP)、フィラー強化プラスチックなども使用できる。流路保持部材は、断面において、下面に開口部22が形成され、側面および上面が閉じられた部材である。流路保持部材18は、板材をフォーミングして形成しても良く、押出材等であってもよい。なお、流路保持部材18は、内面側(樹脂層4側)に開口部22が向くように配置される。
【0035】
樹脂テープ17および流路保持部材18は、少なくとも1層、互いに隣接するように相互に隣合わせて螺旋状に巻きつけられる。
流路保持部材18で保持される空間が流路19となる。すなわち、ガス流層5の内部に形成される流路19内を腐食性ガスが流れる。
【0036】
図4は、樹脂テープ17および流路保持部材18が巻きつけられた状態を示す図である。図4(a)に示すように、樹脂テープ17および流路保持部材18は、可撓管1の軸方向(図中矢印A方向)に対して角度θで螺旋巻きされる(図中矢印B方向)。
【0037】
図4(b)は図4(a)のC部における断面図である。樹脂テープ17の幅をD(図4(a))とすると、可撓管の軸方向に平行な断面における樹脂テープの断面幅Eは、L/sinθとなる。また、可撓管の軸方向に平行な断面における流路保持部材18の幅をFとすると、F/Eは、0.05〜0.1であることが望ましい。流路保持部材18が小さすぎると、流路の断面積を十分に取ることができず、流路保持部材18が大きすぎると、重量増となる。
【0038】
なお、ガスの流路を確実に確保するためには、流路保持部材18の厚みGは、流路19の高さが1mm以上確保できる程度の厚みであることが望ましく、例えば6mm以下が望ましい、最大でも10mm程度である。薄すぎると、流路の確保が困難となり、厚すぎると、可撓管1の外径が大きくなり、コスト増にもなるため望ましくない。また、樹脂テープ17と流路保持部材18の厚みは略同一であることが望ましい。樹脂テープ17と流路保持部材18との間に段差が形成されると、外層側の形成が困難となるためである。なお、流路保持部材18は、使用される条件(水深に応じた外圧)に耐えるだけの強度が必要である。この際、樹脂テープ17が潰れるため、外圧を流路保持部材18のみで受け持つことが可能な程度の圧縮強度が必要である。
【0039】
また、樹脂テープ17および流路保持部材18の巻き付け角度θは、製造性を考慮すると85°以下15°以上が望ましい。この理由は、巻き付け角度はテープ幅と巻き付け径に依存するが、85°以上では、巻き付け後にテープが軸方向にほとんど進まず、ガス流路には適さず、また15°以下では、巻き付け性が悪化するからである。また、図4(b)の破線で示したように、樹脂テープ17を複数層形成しても良い。この場合、上層側の樹脂テープ17は、下層側の樹脂テープ17に対して、逆方向に螺旋巻きされることが望ましい。
【0040】
なお、樹脂テープ17および流路保持部材18は、別々に巻きつけても良いが、あらかじめ一体化して同時に巻きつけても良い。例えば、図5(a)に示すように、樹脂テープ17の一方の側端に流路保持部材18を接合した複合テープ20を用いても良い。複合テープ20は、流路保持部材18に対して樹脂テープ17を融着させても良く、接着剤等で接着しても良い。
【0041】
また、図5(b)に示すように、一対の樹脂テープ17で流路保持部材18を挟み込むように形成した複合テープ20aを用いても良い。複合テープ20aを用いた場合には、可撓管に巻きつけた際、両側部の樹脂テープ17の端部同士が接触するように螺旋巻きされる。
【0042】
また、図5(c)に示すように、一対の流路保持部材18で樹脂テープ17を挟み込むように形成した複合テープ20bを用いても良い。複合テープ20bを用いた場合には、可撓管に巻きつけた際、両側部の流路保持部材18の端部同士が接触するように螺旋巻きされる。
【0043】
なお、本実施の形態では、流路保持部材18の厚みが樹脂テープ17の厚みと略同一である例を示すが、樹脂テープ17の厚みを流路保持部材18よりも厚くして、流路保持部材18を樹脂テープ17に埋設するようにしても良い。この場合には、樹脂テープの一方の表面側に流路保持部材18の開口部が露出するように配置すればよい。
【0044】
また、本発明では、流路保持部材18の断面形状は限定されない。例えば、図6(a)に示す流路保持部材18aのように、断面における下面側の全面に開口部22が形成されず、下面の一部に開口部が形成されても良い。
【0045】
また、図6(b)に示す流路保持部材18bのように、内部の空間に側面と略平行な仕切りを設け、開口部22が複数形成されても良い。
【0046】
また、図6(c)に示す流路保持部材18cのように、略矩形断面の部材の下面側に、内部の空間と連通する孔24が、流路保持部材18cの長手方向の所定間隔に複数形成されても良い。孔24は、流路保持部材18cの長手方向に複数の切欠き状に形成された長孔であっても良い。
【0047】
また、図6(d)に示す流路保持部材18dのように、略楕円形断面の部材の下面側に、内部の空間と連通する孔24が、流路保持部材18cの長手方向の所定間隔に複数形成されても良い。孔24は、流路保持部材18cの長手方向に複数の切欠き状に形成された長孔であっても良い。すなわち、流路保持部材の断面形状は、管体に巻き付け可能であり、流路を保持できる形状であればいずれでも良く、少なくとも一方の面にガスが流入するための開口部、孔などを有すれば、その形状は問わない。
【0048】
樹脂テープ17および流路保持部材18が巻きつけられてガス流層5が形成された後、ガス流層5の外周に必要に応じて遮蔽層7が形成される。図7は、遮蔽層7を構成する遮蔽帯21を示す図である。遮蔽帯21は、金属フィルム25が樹脂フィルム23により挟み込まれる複層テープである。ガス流層5が形成された後、遮蔽帯供給機からあらかじめ製造された遮蔽帯が供給される。なお、遮蔽帯は、螺旋巻きされるか、または、遮蔽帯の長手方向がインターロック管3の軸方向と略同方向になるように供給され、フォーミング機内でフォーミングされ、縦巻きされる。以上により遮蔽層7が形成される。
【0049】
なお、金属フィルム25は、フィルム上に薄く加工が容易であるものであり、耐食性に優れるものであれば良い。たとえば、ステンレス、アルミニウム、外面に耐食性の良い材質でクラッドしたクラッド鋼等が使用できる。なお、金属フィルム25は例えば0.05mm程度の厚さであり、遮蔽帯21全体としては、例えば0.2〜0.3mm程度であればよい。また、樹脂フィルム23は、樹脂製の部材であり、遮蔽層7の構築時に、金属フィルム25の折れ曲がりや破れ、しわなどの発生を防止できる。
【0050】
以上のようにして遮蔽層7が形成されたインターロック管3は、さらに補強テープ巻き機等により耐内圧用補強条である金属条が短ピッチで巻きつけられ、耐内圧補強層9が形成される。金属条は、互いの断面C型の凹部が向かい合うように2重に形成される。その外周には、必要に応じて座床テープ等が巻きつけられ、その外周に補強条がロングピッチで巻きつけられる。補強条は、巻きつけ面の周方向に複数並列した状態から、螺旋状に巻きつけられる。さらに最外周に押出機によって保護層13が形成され、所定長さに巻き取られる。以上により、可撓管1が製造される。
【0051】
次に、ガス流層5の機能について説明する。図8は、可撓管1の断面を示す図である。前述の通り、インターロック管3内には、石油等の流体が流れている。石油等には、腐食性ガスである硫化水素等の腐食性ガスが含まれている場合がある。
【0052】
インターロック管3内部の流体は、樹脂層4によって遮蔽されるため、直接樹脂層4の外周に漏れ出すことはない。一方、腐食性ガスは樹脂層4を透過する恐れがある。特に内圧の大きな部位では、多くの腐食性ガスが樹脂層4を透過する(図中矢印I方向)。樹脂層4の外周には、流路保持部材18によって形成される流路19を有するガス流層5が形成される。したがって、樹脂層4を透過した腐食性ガスは、ガス流層5に流入する。
【0053】
流路保持部材18の開口部より流路19に流入した腐食性ガスは、流路19を通り、可撓管1の軸方向に移動する(図中矢印H方向)。なお、流路19が螺旋状に形成されるため、腐食性ガスは流路19を螺旋状に移動する。ここで、可撓管1内部の流体圧力は、海底油田等における生産井側で最も高く、海上の石油等の回収部において最も低くなる。腐食性ガスの透過量は、内圧に依存するため、内圧の大きな海底側で最も多くの腐食性ガスがガス流層5に流れ込む。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスの圧力分布としては、生産井側から回収部側に向かって圧力が低下する。また、海底から回収部までの鉛直方向高さに応じた静圧変化を考慮しても、上方である回収部側の圧力は低下する。
【0054】
したがって、ガス流層5に流入した腐食性ガスは、より圧力の低い上方の回収部側に向かって流れる。すなわち、ガス流層5内部での腐食性ガスは、必ず、石油等の回収部側である例えば海上設備側に向かって自然に流れる。このため、腐食性ガスが可撓管1の内部に滞留することがない。
【0055】
なお、ガス流層5の外周に遮蔽層7を形成することで、ガス流層5を流れる際に、腐食性ガスが補強層側にさらに浸透することがなく、確実に腐食性ガスを所望の方向に流して、補強層等の腐食を防止することができる。
【0056】
図9は、石油生産システム30を示す図である。前述の通り、可撓管1の一方の端部は、海底油田等に設けられる生産井35と接続され、他方の端部が海上の浮遊式石油精製設備31と接続される。前述の通り、生産井35から生産される石油等は可撓管1内部を通って、浮遊式石油精製設備31まで輸送される。
【0057】
この際、生産井35側から浮遊式石油精製設備31側に向かって、内部の流体の圧力は低下する。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスの内圧も、生産井35側から浮遊式石油精製設備31側に向かって低下する。したがって、ガス流層5内部の腐食性ガスを、この圧力差を利用して浮遊式石油精製設備31側に向かって流すことができる(図中矢印J方向)。なお、浮遊式石油精製設備31においては、腐食性ガスは大気に開放してもよく、または、吸引装置等で回収してもよい。いずれにしても、可撓管1の端部側から、内部の腐食性ガスを抜き取ることができる。
【0058】
なお、可撓管1と浮体設備である浮遊式石油精製設備31とは、可撓管1の端部に形成される端末部において接続される。端末部は、可撓管1内部を流れる流体を浮遊式石油精製設備31の所定の貯蔵部に輸送するとともに、可撓管1のガス流層5の内部のガスを回収または大気解放可能なバルブが設けられることが望ましい。なお、バルブによって、ガス流層5内部のガスを所定の間隔で開閉して抜いてもよく、または、ガス流層5内部の圧力が所定値以上となった際に開放してガスを抜いてもよい。
【0059】
また、可撓管1の補強層(耐内圧補強層11、軸力補強層13)内に浸透したガスを抜き取ることが可能なように、補強層の内部のガスを回収または大気解放可能なバルブをさらに設けてもよい。
【0060】
以上、本実施の形態によれば、ガス流層5が形成されるため、内部を流れる流体から生じる腐食性ガスが、可撓管1の断面における径方向に透過することにより、腐食性ガスが可撓管1の内部に滞留することがなく、また、腐食性ガスが補強層等に浸透して補強層を腐食させることがない。
【0061】
また、ガス流層5には、腐食性ガスが流れる流路19が形成されるため、腐食性ガスを確実に可撓管1に形成された流路に沿ってスパイラル状に軸方向に移動させることができ、可撓管1の端部から抜き取ることができる。
【0062】
また、ガス流層5は、金属製の流路保持部材18と樹脂テープ17によって構成される。このため、流路保持部材18によって、外圧に対して流路19が潰れてしまうことがない。また、樹脂テープ17と組み合わせることで、ガス流層5の形成に伴う重量増を最低限に抑えることができる。なお、樹脂テープ17は外圧によって変形(潰れる)恐れがあるが、仮に樹脂テープ17が変形しても、前述の通り、流路保持部材18によって流路19の流路断面積を確実に確保することができる。
【0063】
また、ガス流層5の外周側に遮蔽層7を設けることで、より確実に腐食性ガスが補強層に浸透することを防止することができる。
【0064】
次に、第2の実施形態について説明する。図10は、第2の実施形態にかかる可撓管1aを示す斜視断面図で、図11は軸方向断面図である。なお、以下の説明において、可撓管1と同様の機能を奏する構成については、図1〜図2等と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0065】
可撓管1aは可撓管1と略同様の構成であるが、ガス流層の態様が異なる。ガス流層5aは、複数の樹脂部材である平条体(樹脂条)により形成される。樹脂条は、前述した軸力補強層11を構成する補強条と同様に、樹脂層4の外周の周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。すなわち、樹脂条は、樹脂条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように形成される。なお、樹脂条の巻き付け層数は、少なくても1層あればよいが、2層、4層・・(2の倍数)とすることが望ましい。この場合、下層側の樹脂条と上層側の樹脂条とは、逆方向に向けて螺旋巻きされる。なお、樹脂条の巻き付け角度は、軸力補強条と略同様の20°〜45°(例えば35°程度)であることが望ましい。
【0066】
図12(a)は、図11のK部拡大図である。前述の通り、樹脂条17aは周方向に複数配置される。この際、隣り合う樹脂条17a同士の間には、流路保持部材18が設けられる。それぞれの流路保持部材18の流路19がガスの流路となる。ここで、樹脂条の隣に必ず流体保持部材を配置するのではなく、各層に少なくとも1本の流路保持部材が存在すればよいため、複合テープ20、20a,20bに隣接して、樹脂テープ17のみを巻きつけても良い。このように、可撓管断面の円周上に巻き付ける複合テープと樹脂テープの組み合わせを調整することにより、可撓管断面における流路保持部材の本数を調整することができる。
【0067】
図12(b)は、ガス流層5aの透視図であり、2層の樹脂条17aが巻き付けられる場合の下層側の樹脂条17aを示す図である(なお、上層側の樹脂条17aは波線で示す)。前述の通り、内部から浸透したガスは、ガス流層5aに導入され、流路19を通り、可撓管の軸方向に螺旋状に流れる(図中矢印L方向)。この際、複数の樹脂条17aがロングピッチで巻き付けられるため、可撓管1の長さに対して、ガス流路長を可撓管1と比較して短くすることができる。
【0068】
すなわち、可撓管1aによれば、可撓管1と同様の効果を得ることができる。また、可撓管の長手方向に対して、ガスの流路長を短くすることができるため、ガスをより効率良く流すことができる。
【0069】
次に、第3の実施形態について説明する。図13は、第3の実施形態にかかる可撓管1bを示す軸方向断面図である。可撓管1bは、可撓管1に対して、ガス流層5および遮蔽層7の配置が異なる。可撓管1bでは、ガス流層5および遮蔽層7は、軸力補強層11の内周側に配置される。すなわち、可撓管1bでは、ガス流層5および遮蔽層7は、耐内圧補強層9と軸力補強層11の間に配置される。
【0070】
このように、ガス流層を耐内圧補強層の外周に設けることにより、耐内圧補強層により、ガス流層5に作用する内圧からガス流層5が保護される。このため、ガス流層5を構成する流路保持部材や樹脂テープの剛性を低下させることができる。
【0071】
すなわち、可撓管1bによれば、可撓管1と同様の効果を得ることができる。また、確実にガス流層5を保護することができる。
【0072】
尚、図13のガス流層を構成するテープの巻き方としては、図13のように、複数の複合テープのみを組み合わせて、樹脂層の外周全体を覆いロングピッチで螺旋巻きする構成とすることできるが、複数の複合テープと樹脂テープを組み合わせて、樹脂層の外周全体を覆い、これをロングピッチで螺旋巻きする構成とすることもできる。また、1条または数条の複合テープを用いて、これらのテープ幅と合わせて短ピッチで螺旋巻きを行うこともできる。
【0073】
したがって、本発明には、図10の可撓管の構成で、ガス流層を複数の複合テープで樹脂層外周全体を覆いロングピッチで螺旋巻きを行う構成や、複数の流路部材を有する複合テープと複数の樹脂テープを組み合わせて、これらを組み合わせたテープで樹脂層の全周を覆いロングピッチで螺旋巻きを行う構成、さらには、図1の1条の複合テープを、複合テープのテープ幅とほぼ同等のピッチで螺旋巻きする構成の他、数条の複合テープを組み合わせて、組み合わせたテープのテープ幅とほぼ同ピッチで数条の複合テープを並列して螺旋巻きする構成なども含まれることは言うまでもない。また、ガス流層の直下の層は、樹脂層以外の他の層でも良い。
【0074】
以上の、ガス流層を構成する複合テープ等の巻き方やピッチはガス流層の可撓管断面における配置に関係なく、適宜選択できるが、ガス流層の流路断面積を多くし、流路長を短くするためには、ロングピッチの多条巻きが好ましい。
【0075】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0076】
1、1a、1b………可撓管
3………インターロック管
4………樹脂層
5、5a………ガス流層
7………遮蔽層
9………耐内圧補強層
11………軸力補強層
13………保護層
15a、15b、15c、15d………座床層
17………樹脂テープ
17a………樹脂条
18、18a、18b、18c、18d………流路保持部材
19………流路
20、20a、20b………複合テープ
21………遮蔽帯
23………樹脂フィルム
25………金属フィルム
30………石油生産システム
31………浮遊式石油精製設備
35………生産井
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するインターロック管と、
前記インターロック管の外周側に設けられた樹脂層と、
前記樹脂層の外周側に設けられ、ガスが流れることが可能な流路を有するガス流層と、
耐内圧補強層と軸力補強層からなる補強層と
前記補強層の外周側に設けられた保護層と、
を少なくとも具備し、
前記ガス流層は、螺旋状に巻きつけられた樹脂条と、前記樹脂条とともに巻きつけられ、前記樹脂条と略同一の厚みを有する流路保持部材とから構成され、
さらに、少なくとも前記ガス流層が前記軸力補強層の内周側に設けられている
ことを特徴とする流体輸送用可撓管。
【請求項2】
前記ガス流層が前記軸力補強層の内周側で、さらに前記耐内圧補強層の外周側の、前記耐内圧補強層と前記軸力補強層の中間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の流体輸送用可撓管。
【請求項3】
前記流路保持部材は、金属製あるいは、繊維強化樹脂製、繊維強化プラスチック製(FRP製)、フィラー強化プラスチック製の少なくともいずれか1つからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体輸送用可撓管。
【請求項4】
前記流路保持部材は、少なくとも一方の方向に開口部または孔を有し、断面における前記開口部または前記孔が内方に向くように配置される部材であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体輸送用可撓管。
【請求項5】
前記ガス流層の外周側には、ガスが外周方向へ透過することを遮蔽する遮蔽層が設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の流体輸送用可撓管。
【請求項6】
前記遮蔽層は、樹脂で金属層を挟み込んだ複層テープが巻きつけられて形成されることを特徴とする請求項5に記載の流体輸送用可撓管。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体輸送用可撓管を海底から海上まで敷設し、
前記流体輸送用可撓管により、海底から採取した流体を海上まで輸送し、
前記流体から発生し、樹脂層を透過する腐食性ガスを、流路保持部材により形成される流路に導入し、
前記流体輸送用可撓管の内部の流体の海底近傍から海上までの圧力分布に応じて生じるガス流層の内部の腐食性ガスの圧力分布を利用して、前記腐食性ガスを前記流体輸送用可撓管の海上側の端部から抜き取ることを特徴とする流体から発生する腐食性ガスの抜き取り方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体輸送用可撓管と、
前記流体輸送用可撓管が接続される海上の浮体施設と、
前記流体輸送用可撓管と前記浮体施設との接続部に設けられる端末部と、
を具備し、
前記端末部には、前記流体輸送用可撓管の前記ガス流層の内部のガスを抜くことが可能なバルブと、前記補強層の内部のガスを抜くことが可能バルブとが設けられることを特徴とする流体輸送システム。
【請求項1】
可撓性を有するインターロック管と、
前記インターロック管の外周側に設けられた樹脂層と、
前記樹脂層の外周側に設けられ、ガスが流れることが可能な流路を有するガス流層と、
耐内圧補強層と軸力補強層からなる補強層と
前記補強層の外周側に設けられた保護層と、
を少なくとも具備し、
前記ガス流層は、螺旋状に巻きつけられた樹脂条と、前記樹脂条とともに巻きつけられ、前記樹脂条と略同一の厚みを有する流路保持部材とから構成され、
さらに、少なくとも前記ガス流層が前記軸力補強層の内周側に設けられている
ことを特徴とする流体輸送用可撓管。
【請求項2】
前記ガス流層が前記軸力補強層の内周側で、さらに前記耐内圧補強層の外周側の、前記耐内圧補強層と前記軸力補強層の中間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の流体輸送用可撓管。
【請求項3】
前記流路保持部材は、金属製あるいは、繊維強化樹脂製、繊維強化プラスチック製(FRP製)、フィラー強化プラスチック製の少なくともいずれか1つからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体輸送用可撓管。
【請求項4】
前記流路保持部材は、少なくとも一方の方向に開口部または孔を有し、断面における前記開口部または前記孔が内方に向くように配置される部材であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体輸送用可撓管。
【請求項5】
前記ガス流層の外周側には、ガスが外周方向へ透過することを遮蔽する遮蔽層が設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の流体輸送用可撓管。
【請求項6】
前記遮蔽層は、樹脂で金属層を挟み込んだ複層テープが巻きつけられて形成されることを特徴とする請求項5に記載の流体輸送用可撓管。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体輸送用可撓管を海底から海上まで敷設し、
前記流体輸送用可撓管により、海底から採取した流体を海上まで輸送し、
前記流体から発生し、樹脂層を透過する腐食性ガスを、流路保持部材により形成される流路に導入し、
前記流体輸送用可撓管の内部の流体の海底近傍から海上までの圧力分布に応じて生じるガス流層の内部の腐食性ガスの圧力分布を利用して、前記腐食性ガスを前記流体輸送用可撓管の海上側の端部から抜き取ることを特徴とする流体から発生する腐食性ガスの抜き取り方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の流体輸送用可撓管と、
前記流体輸送用可撓管が接続される海上の浮体施設と、
前記流体輸送用可撓管と前記浮体施設との接続部に設けられる端末部と、
を具備し、
前記端末部には、前記流体輸送用可撓管の前記ガス流層の内部のガスを抜くことが可能なバルブと、前記補強層の内部のガスを抜くことが可能バルブとが設けられることを特徴とする流体輸送システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−36574(P2013−36574A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174606(P2011−174606)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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