説明

流体送給機構における回転シール機構およびロータリジョイント

【課題】面圧調整を合理的に行うことが可能な流体送給機構における回転シール機構およびこの回転シール機構に用いられるロータリジョイントを提供することを目的とする。
【解決手段】流体供給源7a、7bから供給される複数種類の流体を軸心廻りに回転する回転部2aへ固定部2bを介して送給する流体送給機構に用いられるロータリジョイント2において、ハウジング部材13の嵌合孔13aに嵌合して軸方向に移動する固定軸部15bの外周面に段差部15gを設け、低いシール面圧値とすることが求められる種類の流体を供給する場合には、加圧開孔20を介して導入された面圧調整流体を段差部15gに作用させて、固定シール部15に流体圧による押圧力と反対方向の力を作用させ、面シール部18のシール面圧を低減させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部に流体を送給するための流体送給機構における回転シール機構およびこの回転シール機構に用いられるロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸など作動時に回転状態にある回転部に冷却用のクーラントなどの流体を送給する流体送給機構において、固定された流体送給配管を回転部の流路と接続する流体継手としてロータリジョイントが用いられる。ロータリジョイントは、回転部に結合されて回転する回転軸と流体送給配管に接続される固定軸とを同軸に配置して軸方向に対向させ、それぞれの対向端面に装着された回転シールのシール面を相互に密着させることにより流体の漏洩を防止する構成となっている。
【0003】
ところで近年、従来一般に用いられていた水系の液体クーラントのほかに、エアを冷却媒体として用いる場合がある。エアを用いることにより、冷却対象に応じた適正な冷却特性が得られること、また使用後の廃液処理などの環境対策が不要で環境負荷を低減することができることなどの利点がある。そして同一装置によって液体クーラントとエアとを使い分ける必要がある場合には、流体継手として用いられるロータリジョイントは、流体としての特性の異なる液体と気体の双方に対して使用可能となるよう考慮がなされたものであることが必要とされ、従来よりこのような用途を想定したタイプのロータリジョイントが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に示す例は、回転軸側に設けられた回転シールを固定シールに摺接させて流体の漏洩を防止する面シール部を形成し、固定シールを保持するフローティングシートを流体圧によって回転軸側に押し付けてシール面圧を発生させる構成において、フローティングシートの外周面に段差部を設け、この段差部に流体圧を作用させるようにしている。そして使用される流体が液体クーラントである場合には、この段差部には液体クーラントの圧力に応じた液圧が作用し、エアである場合には、エア圧に応じた空圧が作用する。これにより、対象とする流体の種類に応じてシール面圧を変更することができ、同一装置によって液体クーラントとエアの使い分けを可能としている。
【特許文献1】特許第3037900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献例に示す先行技術においては、上述の構成に起因して、シール面圧の変更のための構成において以下に述べるような難点があった。すなわちこの先行技術例では、より高いシール面圧値を必要とする液体クーラントを対象とする場合に、シール面圧を調整するためにフローティングシートの外周面に液体クーラントを導入する構成となっていた。このため、液体クーラント中のスラッジなどの異物がハウジングとフローティングシートとの摺動隙間内に噛込み、動作不良を生じやすいものであった。また、液体クーラントを面圧調整用に別途導く必要があることから、ロータリジョイントの装着時の配管作業が複雑で簡便・容易な取付が難しいという難点があった。このように、従来のシール面圧値の異なる複数種類の流体について使用可能なロータリジョイントを用いた回転シール機構においては、面圧調整機構の構成が必ずしも合理的でなく、動作不良や取付時の作業性などに難点があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、面圧調整を合理的に行うことが可能な流体送給機構における回転シール機構およびこの回転シール機構に用いられるロータリジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流体送給機構における回転シール機構は、軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置して成り、複数の流体供給源から供給される複数種類の流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して選択的に送給する流体送給機構における回転シール機構であって、前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成された固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、前記固定部の本体を構成するハウジング部材に設けられ前記固定軸部が前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する嵌合孔と、前記固定軸部を、前記嵌合孔に嵌合する軸径で設けられた大径部およびこの大径部よりも小さい軸径で前記第2のシール面側に近接して設けられた小径部に区分する段差部と、前記嵌合孔に前記固定軸部が嵌合した状態において前記嵌合孔の内周面と前記小径部および大径部との間の隙間をそれぞれ密封する第1の軸シール部および第2の軸シール部と、前記第1の軸シール部および第2の軸シール部の間において前記小径部と前記嵌合孔の内周面との間の隙間に開孔し、前記隙間内に面圧調整流体を送給する加圧開孔と、前記複数の流体供給源から前記複数種類の流体のうちのいずれかを前記嵌合孔内へ選択的に供給して前記固定流路を介して前記回転流路へ送給するとともに、前記加圧開孔に面圧調整用流体を送給する流体供給手段とを備え、前記固定軸部の他方側の側端面に前記供給された流体の流体圧を作用させて前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成し、前記加圧開孔を介して前記面圧調整流体を前記隙間内に送給して前記段差部に面圧調整流体圧を作用させることにより、前記固定シール部に前記流体圧による押圧力と反対方向の力を作用させ、前記面シール部のシール面圧を低減させるように構成されている。
【0008】
本発明のロータリジョントは、軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置して成り、流体供給源から供給される流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して送給する流体送給機構に用いられるロータリジョイントであって、前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成された固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、前記固定部の本体を構成するハウジング部材に設けられ前記固定軸部が前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する嵌合孔と、前記固定軸部を、前記嵌合孔に嵌合する軸径で設けられた大径部およびこの大径部よりも小さい軸径で前記第2のシール面側に近接して設けられた小径部に区分する段差部と、前記嵌合孔に前記固定軸部が嵌合した状態において前記嵌合孔の内周面と前記小径部および大径部との間の隙間をそれぞれ密封する第1の軸シール部および第2の軸シール部と、前記第1の軸シール部および第2の軸シール部の間において前記小径部と前記嵌合孔の内周面との間の隙間に開孔し、前記隙間内に面圧調整流体を送給する加圧開孔とを備え、前記流体供給源から前記嵌合孔内へ前記流体を供給して前記固定軸部の他方側の側端面に流体圧を作用させて、前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成し、前記加圧開孔を介して前記面圧調整流体を前記隙間内に送給して前記段差部に面圧調整流体圧を作用させることにより、前記固定シール部に前記流体圧による押圧力と反対方向の力を作用させ、前記面シール部のシール面圧を低減させるように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハウジング部材の嵌合孔に嵌合して軸方向に移動する固定軸部の外周面に段差部を設け、加圧開孔を介して導入された面圧調整流体をこの段差部に面圧調整流体圧を作用させて、固定シール部に流体圧による押圧力と反対方向の力を作用させ、面シール部のシール面圧を低減させるように構成することにより、面圧調整は供給される流体がエアなどのように低いシール面圧値とすることが求められる種類の流体についてのみ行えばよい。このような種類の流体は配管が容易で異物混入が少なく、したがって面圧調整を合理的に行って、取付時の作業性に優れ使用時の動作不良が少ない流体送給機構における回転シール機構およびこの回転シール機構に用いられるロータリジョイントを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態における流体送給機構の構成説明図、図2は本発明の一実施の形態における流体送給機構の回転シール機構に用いられるロータリジョイントの断面図、図3は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントのハウジング部材の構造説明図、図4は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントのフローティングシートの構造説明図、図5,図6は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントの動作説明図である。
【0011】
まず図1を参照して、流体送給機構1の全体構成を説明する。図1において、流体送給機構1は、工作機械のスピンドルなどの回転軸へ流体供給部7から供給される冷却用の流体を送給する機能を有するものであり、軸方向の回転流路が設けられた回転部2aおよび軸方向の固定流路が設けられた固定部2bを同軸配置して成るロータリジョイント2を主体としている。
【0012】
回転部2aはスピンドル軸4の締結孔4aに締結されており、スピンドル軸4は、スピンドルに内蔵されたモータによって回転駆動されてフレーム5に設けられた挿通孔5a内で軸心A廻りに回転するとともに、クランプ/アンクランプシリンダによって軸方向の進退動作を行う。また固定部2bは、円筒ブロック形状のケーシング3に設けられた装着孔3aに嵌合して装着されており、ケーシング3をボルトなどの締結手段(図示省略)によってフレーム5に着脱自在に締結することにより、固定部2bは回転部2aと同軸に配置される。
【0013】
流体供給部7は第1の流体供給源7a、第2の流体供給源7bを備えており、第1の流体供給源7aは液体クーラントを、第2の流体供給源7bはエアをそれぞれ供給する。ここで、第2の流体供給源7bから供給されるエアは、一般の工場用エア、工場用エアをドライヤによって処理したドライエア、または所定量のオイルミストが混入されたオイルミスト含有エアなど、供給対象に応じて各種の形態のものを選択できるようになっている。
【0014】
流体供給部7から供給される流体は、第1の開閉バルブ6a、第2の開閉バルブ6bおよび逆止弁6cを備えた流体供給回路6によって選択的に送給される。すなわち、第1の流体供給源7aは耐圧配管よりなるクーラント配管8aによって第1の開閉バルブ6aを介してケーシング3の流路孔3bに接続されており、第1の開閉バルブ6aを開閉することにより、第1の流体供給源7aから供給される液体クーラントの固定部2bへの送給をオンオフすることができる。
【0015】
また第2の流体供給源7bは樹脂チューブなどよりなるエア配管8bによって第2の開閉バルブ6b、逆止弁6cを介してクーラント配管8aにつなぎ込まれており、同様に第2の開閉バルブ6bを開閉することにより、第2の流体供給源7bから供給されるエアの固定部2bへの送給をオンオフすることができる。ここで、逆止弁6cはクーラント配管8a側からエア配管8bへの流体の逆流を防止するために設けられている。さらに、第2の開閉バルブ6bの下流側において分岐したエア配管8cは、固定部2bに設けられた加圧開孔20(図2参照)に接続されており、供給対象の流体がエアである場合には、後述するように固定部2bに面圧調整用流体としてのエアを送給するようになっている。
【0016】
すなわち上記構成において、工作機械における加工対象物に応じて第1の開閉バルブ6a、第2の開閉バルブ6bを切り換えることにより、送給される冷却用の流体の種類を選択して切り換えることができるとともに、特定の流体については、固定部2bに面圧調整用流体を送給することができる。したがって、図1に示す流体供給回路6は、複数の流体供給源から複数種類の流体のうちのいずれかを嵌合孔13a内へ選択的に供給して固定流路15dを介して回転流路10aへ送給するとともに、加圧開孔20に面圧調整用流体を送給する流体供給手段となっている。そしてロータリジョイント2および流体供給回路6は、複数の流体供給源から供給される複数種類の流体を、軸心廻りに回転する回転部2aの回転流路へ固定部2bの固定流路を介して選択的に送給する機能を有する回転シール機構を構成する。
【0017】
次に、図2,図3,図4を参照して、ロータリジョイント2の詳細構造を説明する。図2において回転部2aは、軸心部に軸方向に貫通して回転流路10aが設けられ、外面に締結ねじ部10bが設けられたロータ10を主体としている。締結ねじ部10bを締結孔4aに螺合させることによりロータ10はスピンドル軸4にねじ締結され、Oリング12によってねじ締結部が密封される。これにより、回転流路10aはスピンドル軸4の流路孔4bと連通する。
【0018】
ロータ10の右側(固定部2bと対向する側)の側端面には、回転流路10aの開孔面を囲む配置で、円環状の環状凸部10cが形成されている。環状凸部10cの内側に形成された凹部には、第1のシールリング11が固定されている。第1のシールリング11はセラミックなどの耐摩耗性に富む硬質材料を、中央部に開口部11aを有する円環形状に成形したものであり、平滑面に仕上げられた第1のシール面11bを外面側にした状態で環状凸部10cに固定される。そしてこの状態では、回転流路10aは開口部11aと連通して第1のシール面11bに開口する。すなわち第1のシールリング11が固定されたロータ10は、回転部2aに設けられ側端面に回転流路10aが開口した第1のシール面11aを有する回転シール部となっている。
【0019】
次に、ケーシング3に装着される固定部2bの構造を説明する。ケーシング3の装着面3cには流路孔3bと連通して設けられた装着孔3aが開口しており、装着孔3aには固定部2bの本体を構成する円筒形状のハウジング部材13に設けられた装着凸部13bが嵌合する。そして図3に示すように、等配された複数のボルト14を装着面3cに設けられたねじ孔3dに螺合させることにより、ハウジング部材13はケーシング3にボルト締結され、Oリング16によって装着凸部13bの嵌合部が密封される。ハウジング部材13の中心部には軸方向に貫通する嵌合孔13aが設けられており、さらに嵌合孔13aの内周面には、Oリング溝13c、13dが設けられている。
【0020】
図2においてフローティングシート15は、一方側(図において回転部2aと対向する側)に円板形状のフランジ部15aが設けられ、他方側に固定流路15dが軸方向に貫通して形成された固定軸部15bを有する形状となっている。そして固定軸部15bは、ハウジング部材13の嵌合孔13aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する。
【0021】
フランジ部15aの左側(回転部2aと対向する側)の側端面には、固定流路15dの開孔面を囲む配置で、円環状の環状凸部15cが形成されており、環状凸部15cの内側に形成された凹部には第2のシールリング17が固定されている。第2のシールリング17は第1のシールリング11と同様の硬質材料を中央部に開口部17aを有する円環形状に成形したものであり、平滑面に仕上げられた第2のシール面17bを外面側にした状態で環状凸部15cに固定される。そしてこの状態では、固定流路15dは開口部17aと連通して第2のシール面17bに開口する。すなわち第2のシールリング17が固定されたフローティングシート15は、固定流路15dが軸方向に貫通して形成された固定軸部15bを有し、側端面に回転流路15dが開口した第2のシール面17bを有する固定シール部となっている。
【0022】
図4を参照して、フローティングシート15の詳細形状を説明する。フランジ部15aは図3に示すボルト14の位置に対応して等配位置で切欠き部15jが設けられており、フローティングシート15をハウジング部材13に装着した状態で、ハウジング部材13のケーシング3へのボルト締結が可能となっている。また第2のシールリング17の第2のシール面17bには、複数のシール面潤滑用の凹部17cが形成されている。凹部17cは、第2のシール面17bが第1のシール面11bと密着して面シール部を形成した状態において、開口部17a内の流体を第1のシール面11bと第2のシール面17b相互の摺動面に導いて潤滑性を向上させる機能を有している。なお凹部17cは必須ではなく、対象とする流体の特性やシール面圧値、使用回転数などの摺動条件によっては設ける必要がない場合がある。
【0023】
固定軸部15bは、長手方向の中間部に設けられた段差部15gによって、第2のシールリング17に近接した位置に設けられた外径D1の小径部15eと、外径D1よりも大きく嵌合孔13aに嵌合するサイズの外径D2で設けられた大径部15fとに区分されている。ここで大径部15fの側端面15hにおける側面積、すなわち外径D2の円から内径dの固定流路15dの部分を除いた側面積はA1となっており、また段差部15gにおいて外径D2の円から小径部15eの断面積を除いた側面積はA2となっている。
【0024】
図2に示すように、固定軸部15bを嵌合孔13aに嵌合させた状態において、Oリング溝13c、13d(図3参照)はそれぞれ固定軸部15bにおける小径部15e、大径部15fの位置に有り、Oリング21a、Oリング22aがそれぞれOリング溝13c、13d内に装着された状態では、第1の軸シール部21、第2の軸シール部22を構成する。第1の軸シール部21、第2の軸シール部22は、嵌合孔13aに固定軸部15bが嵌合した状態において、嵌合孔13aの内周面と小径部15eおよび大径部15fとの間の隙間をそれぞれ密封する。この状態において、嵌合孔13a内の流体の圧力は、受圧面積がA1の側端面15hに作用する。
【0025】
ハウジング部材13には、図1に示すエア配管8cと接続される加圧開孔20が設けられており、加圧開孔20は、第1の軸シール部21および第2の軸シール部22の間において、小径部15eと嵌合孔13aの内周面との間の円環状隙間23に開孔する。そしてこの状態で、第2の流体供給源7bからエア配管8cを介してエアを送給することにより、円環状隙間23内に面圧調整流体としてのエアが送給される。そして円環状隙間23内の流体の圧力は、受圧面積がA2の段差部15gに作用する。
【0026】
流路孔3b内に供給対象の流体が送給されることにより、この流体圧は固定軸部15bの他方側(第2のシールリング17の反対側)の側端面15hに作用する。これにより、固定軸部15bは嵌合孔13a内で回転部2a側へスライドし、第2のシールリング17は第1のシールリング11に対して押圧される。この押圧力は第2のシール面17bと第1のシール面11bとを相互に密着させ、これにより固定流路15dから軸廻りに回転状態の回転流路10aへ送給される流体の漏洩を防止する面シール部18が形成される。このフローティングシート15のスライドにおいて、フランジ部15aのねじ孔15i(図4)に螺設されたボルト24およびボルト24を外包する円筒カラー25が、ハウジング部材13に軸方向に設けられたガイド孔13f内を摺動することにより、フローティングシート15の軸方向の移動がガイドされるとともに、軸廻りの廻り止めが行われる。
【0027】
ロータリジョイント2の作動状態においては、送給される流体の圧力によるフローティングシート15の進出と、スピンドル軸4の進退動作によって、面シール部18のシール面の接離が行われる。すなわちフローティングシート15が後退して第1のシール面11bと第2のシール面17bとが相互に離隔した状態において、嵌合孔13a内に流路孔3bを介して流体が送給されることによりフローティングシート15が前進(矢印a方向)し、第1のシール面11bが第2のシール面17bに当接して面シール部18が形成される。
【0028】
そしてスピンドル軸4が固定部2bに対して相対的に前進(矢印d方向)することにより、フローティングシート15は後退(矢印b方向)し、フランジ部15aがハウジング部材13に近接した位置に復帰する。そしてこの状態からスピンドル軸4を相対的に後退(矢印c方向)させることにより、第1のシール面11bと第2のシール面17bとが相互に離隔した状態に戻る。
【0029】
次に、図5,図6を参照して、複数種類の流体を送給する場合におけるロータリジョイント2の動作を説明する。図5、図6は送給される流体がそれぞれ液体クーラント、エアーである場合を示している。まず、供給される流体が液体クーラントである場合について説明する。
【0030】
図5において、第1の開閉バルブ6aを開にすることにより、嵌合孔13a内には第1の流体供給源7aから液体クーラント(圧力P1)が送給される。この液体クーラントは固定流路15dを介して回転流路10aへ流通するが、このとき嵌合孔13a内において圧力P1が側端面15hに作用し、側端面15hの受圧面積A1(図4参照)に見合った流体力F(L)が固定軸部15bに作用する。そして面シール部18には、流体力F(L)から第1の軸シール部21、第2の軸シール部22による摺動抵抗f1,f2を減じた押圧力F1が作用し、この押圧力F1を第1のシール面11bと第2のシール面17bが接触するシール面積で除した値が、面シール部18のシール面圧値となる。
【0031】
次に供給される流体がエアである場合について説明する。図6において、第2の開閉バルブ6bを開にすることにより、嵌合孔13a内には、第2の流体供給源7bから逆止弁6cを通過してエア(圧力P2)が送給されるとともに、加圧開孔20にも同様にエア(圧力P2)が送給される。嵌合孔13a内に送給されたエアは固定流路15dを介して回転流路10aへ流通するが、このとき嵌合孔13a内において圧力P2が側端面15hに作用し、受圧面積A1(図4参照)に見合った流体力F(G1)が固定軸部15bに作用する。
【0032】
また加圧開孔20に送給されたエアは円環状隙間23内において段差部15gに作用し、受圧面積A2(図4参照)に見合った流体力F(G2)が、流体力F(G1)と反対方向に作用する。そして面シール部18には、流体力F(G1)から前述の摺動抵抗f1,f2および流体力F(G2)を減じた押圧力F2が作用する。この場合には押圧力F2を前述のシール面積で除した値がシール面圧値となる。
【0033】
ここでロータリジョイントにおけるシール面圧について説明する。回転摺動面を密着させて流体のシールを行う回転シール機構においては、対象となる流体の特性や供給圧に応じた適正なシール面圧値を設定する必要がある。例えば本実施の形態に示すように比較的高い供給圧(例えば1Mpa〜20Mpa)で供給される場合が多い液体クーラントが対象である場合には、シール面からのリークを極力防止するため、供給圧とほぼ同レベルの圧力のシール面圧値が設定される。
【0034】
これに対し、低い供給圧(例えば0.1Mpa〜1Mpa)で用いられるエアを対象とする場合には、シール面の摺動による損耗を極力防ぐため、シール面圧を供給圧の半分以下とすることが求められる。これは液体を供給対象とする場合には、シール面に侵入した液体の薄膜が摺動面を潤滑する潤滑膜として作用するのに対し、エアの場合には、オイルミストを混入するなどの潤滑対策が施されている場合を除き、一般にはこのような潤滑作用がないことによる。
【0035】
このように、供給圧や所望のシール面圧値が異なる流体を供給対象とする場合には、供給圧に対するシール面圧値の比を流体に応じて変更する必要がある。ここで、面シール部のシール面積はいずれの流体についても共通であることから、供給圧に対するシール面圧値の比を変更するには、流体圧が作用する受圧面積を流体の種類に応じて異ならせる必要がある。本実施の形態においては、図6に示すように、低いシール面圧値が求められるエアを対象とする場合において面シール部18に作用する押圧力を発生させる実質的な受圧面積は(A1−A2)であり、液体クーラントを対象とする場合における受圧面積A1と異なるものとなっている。
【0036】
すなわち、図6に示す場合においては、加圧開孔20を介して面圧調整流体としてのエアを円環状隙間23内に送給して段差部15gにエア圧(面圧調整流体圧)を作用させることにより、固定シール部であるフローティングシート15に、側端面15hに作用する流体圧による押圧力F(G1)と反対方向の流体力F(G2)を作用させ、面シール部18のシール面圧を低減させるようにしている。
【0037】
そしてロータリジョイント2の設計に際しては、図5に示す押圧力F1による面シール部18のシール面圧値が、圧力P1の液体クーラントについての適正値となるように、また図6に示す押圧力F2による面シール部18のシール面圧値が、圧力P2のエアについての適正値となるように、各部寸法を設定する。すなわち、所与の設計数値データとしての前述の圧力P1,P2,各流体についての適正なシール面圧値、前述の摺動抵抗f1,f2などに基づき、小径部15e、大径部15fの径寸法D1,D2、固定流路15dの径寸法dなどが決定される。
【0038】
なお実設計上では、供給圧がそれぞれ(1Mpa〜20Mpa)、(0.1Mpa〜1Mpa)の範囲である液体クーラントおよびエアを対象とする場合が、本発明を適用する上で最も適している。この場合の供給圧に対するシール面圧値の比の推奨値は、それぞれ(0.6〜1.2)、(0.1〜0.5)が望ましい。
【0039】
換言すれば、本実施の形態に示すロータリジョイント2においては、対象となる複数種類の流体のうち、低いシール面圧値とすることが求められる流体を対象とする場合にのみ、面圧調整流体による面圧調整を行う。例えば本実施の形態に示すように、供給される流体が液体クーラントおよびエアである場合において、供給される流体が液体クーラントのときには面圧調整を必要とせず、供給される流体が液体クーラントよりも低いシール面圧値とすることが求められるエアであるときにのみ、面圧調整流体としてエアを加圧開孔20内に供給する形態を採用する。そしてこの面圧調整により、前述のように潤滑性を有しないエアを対象とする場合においても、外部から面シール部18の摺動面へオイルなどの潤滑剤を供給することなく、回転シール機能を確保することができる。
【0040】
このように、ロータリジョイント2における面シール部18の面圧調整において、低いシール面圧値とすることが求められる流体を対象とする場合にのみ、面圧調整流体による面圧調整を行う構成を採用することにより、以下に述べる効果を有する。
【0041】
高いシール面圧値が求められるような流体は一般に圧力が高く、このような流体を送給する配管系には耐圧配管が必要となる。また工作機械のクーラント液が対象となる場合には循環使用による異物混入が避けがたいことから、面圧調整用流体として用いることには難点がある。このような流体を供給対象に含む場合にあっても、本発明によれば高いシール面圧値の流体については面圧調整を行う必要がないことから、従来より液体クーラントを面圧調整流体として用いる従来技術において生じていた不具合の発生がない。
【0042】
すなわち、特許文献1に示す先行技術例のように、シール面圧を調整するためにフローティングシートの外周面に液体クーラントを導入する構成においては、液体クーラント中のスラッジなどの異物が摺動隙間内に噛込みやすいという難点がある。これに対し、本実施の形態に示す例では液体クーラントを面圧調整に使用する必要がなく、シール面圧値が低いエアを対象とする場合にのみエアを用いて面圧調整を行うようにしていることから、異物噛込みによる動作不良を防止することができる。さらに、面圧調整用流体としてエアを用いることにより、液体クーラント用の耐圧配管を必要とせずに、作業容易・簡便なエア配管を追加するのみでよく、ロータリジョイントの装着時の配管作業を容易にして作業性を向上させることができる。
【0043】
また本発明に示す構成では、液体クーラントを対象とする場合には面圧調整流体の作用を必要としない構成となっていることから、本質的に単一流体を対象とした従来の専用のロータリジョイントと異なるところがない。したがって面圧調整流体の配管回路等に不具合が発生した場合においても、液体クーラントを対象とする動作には何ら影響せず、安定したシール性能が確保され、液体のリークによる工作機械本体へのダメージを防止することができる。そして面圧調整流体を作用させながら動作させるのは、面シール部からのリークによる影響が少ないエアであり、この場合に前述の不具合が発生してもシール部品の早期損耗を招くのみで、工作機械本体へのダメージを招くことがない。
【0044】
上記説明したように、本実施の形態に示す構成を採用することにより、従来のシール面圧値の異なる複数種類の流体について使用可能なロータリジョイントを用いた回転シール機構において、面圧調整機構の構成に起因して生じていた不具合を解消して、面圧調整を合理的に行うことができる、
【0045】
なお、本実施の形態においては、流体供給部7から供給される流体が液体クーラントまたはエアのいずれかである場合を示しており、供給される流体としてエアを用いる場合のみ、面圧調整流体としてエアを加圧開孔20に送給する例を示している。もちろん流体の種類としては液体クーラントまたはエアのみに限定されるものではなく、供給圧と面シール部18に求められる適正なシール面圧値との比が異なる流体を複数種類組み合わせて用いる場合であれば、本発明の適用対象となる。
【0046】
このような流体の種類および組み合わせとしては、例えばエア/純水、エア/真空、エア/スラリ、スラリ/純水などがある。これらの組み合わせにおいても、低いシール面圧値が求められる方の流体を面圧調整流体として用いる。さらに、供給対象とする流体以外の流体を面圧調整用流体として用いてもよい。すなわち、供給対象となる流体を加圧開孔20から導入することが流体の特性上、例えばスラリ成分の摺動隙間への噛込みなど、面圧調整機構の正常な動作を妨げるような場合には、水など取り扱いが容易でリークによるダメージが少ない流体を、面圧調整用のみの目的で面圧調整流体として用いることも可能である。この場合には、面圧調整流体の圧力は所望の調整範囲に応じて任意に設定して用いる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の流体送給機構における回転シール機構およびロータリジョイントは、面圧調整を合理的に行うことができるという特徴を有し、工作機械の主軸などの回転部に液体クーラントやエアなど複数種類の流体を送給する用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施の形態における流体送給機構の構成説明図
【図2】本発明の一実施の形態における流体送給機構の回転シール機構に用いられるロータリジョイントの断面図
【図3】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントのハウジング部材の構造説明図
【図4】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントのフローティングシートの構造説明図
【図5】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントの動作説明図
【図6】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイントの動作説明図
【符号の説明】
【0049】
1 流体送給機構
2 ロータリジョイント
2a 回転部
2b 固定部
4 スピンドル軸
6 流体供給手段
7 流体供給部
7a 第1の流体供給源
7b 第2の流体供給源
10 ロータ
10a 回転流路
11 第1のシールリング
11b 第1のシール面
13 ハウジング部材
13b 嵌合孔
15 フローティングシート
15a フランジ部
15b 固定軸部
15d 固定流路
15e 小径部
15f 大径部
15g 段差部
17 第2のシールリング
17b 第2のシール面
18 面シール部
20 加圧開孔
21 第1の軸シール部
22 第2の軸シール部
23 円環状隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置して成り、複数の流体供給源から供給される複数種類の流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して選択的に送給する流体送給機構における回転シール機構であって、
前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、
前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成された固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、
前記固定部の本体を構成するハウジング部材に設けられ前記固定軸部が前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する嵌合孔と、
前記固定軸部を、前記嵌合孔に嵌合する軸径で設けられた大径部およびこの大径部よりも小さい軸径で前記第2のシール面側に近接して設けられた小径部に区分する段差部と、
前記嵌合孔に前記固定軸部が嵌合した状態において前記嵌合孔の内周面と前記小径部および大径部との間の隙間をそれぞれシールする第1の軸シール部および第2の軸シール部と、
前記第1の軸シール部および第2の軸シール部の間において前記小径部と前記嵌合孔の内周面との間の隙間に開孔し、前記隙間内に面圧調整流体を送給する加圧開孔と、
前記複数の流体供給源から前記複数種類の流体のうちのいずれかを前記嵌合孔内へ選択的に供給して前記固定流路を介して前記回転流路へ送給するとともに、前記加圧開孔に面圧調整用流体を送給する流体供給手段とを備え、
前記固定軸部の他方側の側端面に前記供給された流体の流体圧を作用させて前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成し、
前記加圧開孔を介して前記面圧調整流体を前記隙間内に送給して前記段差部に面圧調整流体圧を作用させることにより、前記固定シール部に前記流体圧による押圧力と反対方向の力を作用させ、前記面シール部のシール面圧を低減させることを特徴とする流体送給機構における回転シール機構。
【請求項2】
前記供給される流体は、液体クーラントまたはエアのいずれかであり、前記供給される流体としてエアを用いる場合のみ、前記面圧調整流体としてエアを前記加圧開孔に送給することを特徴とする請求項1記載の流体送給機構における回転シール機構。
【請求項3】
軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置して成り、流体供給源から供給される流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して送給する流体送給機構に用いられるロータリジョイントであって、
前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、
前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成された固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、
前記固定部の本体を構成するハウジング部材に設けられ前記固定軸部が前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する嵌合孔と、
前記固定軸部を、前記嵌合孔に嵌合する軸径で設けられた大径部およびこの大径部よりも小さい軸径で前記第2のシール面側に近接して設けられた小径部に区分する段差部と、
前記嵌合孔に前記固定軸部が嵌合した状態において前記嵌合孔の内周面と前記小径部および大径部との間の隙間をそれぞれ密封する第1の軸シール部および第2の軸シール部と、
前記第1の軸シール部および第2の軸シール部の間において前記小径部と前記嵌合孔の内周面との間の隙間に開孔し、前記隙間内に面圧調整流体を送給する加圧開孔とを備え、
前記流体供給源から前記嵌合孔内へ前記流体を供給して前記固定軸部の他方側の側端面に流体圧を作用させて、前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成し、
前記加圧開孔を介して前記面圧調整流体を前記隙間内に送給して前記段差部に面圧調整流体圧を作用させることにより、前記固定シール部に前記流体圧による押圧力と反対方向の力を作用させ、前記面シール部のシール面圧を低減させることを特徴とするロータリジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−64274(P2008−64274A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245378(P2006−245378)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000179328)リックス株式会社 (33)
【Fターム(参考)】