説明

流量調整装置

【課題】圧力の制御領域を広範囲とし、好適に圧力の調整を行うことが可能な流量調整装置を提供する。
【解決手段】磁性体で構成されたインナーヨーク31と、インナーヨーク31の周囲に設けられたアウターヨーク32と、インナーヨーク31とアウターヨーク32との間に形成された油路Rと、油路R内を流動する可変粘性流体で構成された作動油Sと、インナーヨーク31に対しアウターヨーク32を遠離移動させて油路Rを開放するリターンスプリング34と、アウターヨーク32に設けられ、リターンスプリング34の付勢力に抗して、インナーヨーク31に対しアウターヨーク32を接近移動させて油路Rを閉塞する磁力発生器33と、磁力発生器33を制御可能な磁力制御部35と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を流れる可変粘性流体の吐出圧を調整可能な流量調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流量調整装置として、前進クラッチに潤滑油を供給する潤滑油路の油圧を調圧するクラッチレギュレータバルブが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−324818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クラッチレギュレータバルブとして、例えば、デューティーソレノイドがある。デューティーソレノイドのDUTY−P特性、すなわち、デューティーソレノイドの通電率と圧力(吐出圧)との関係は、図8に示すとおり、通電率(DUTY(%))がD1からD2までの間の部分において線形となる。つまり、通電率がD1−D2間の部分において、圧力が通電率に一次関数的に上昇するため、圧力制御を安定的に行う場合は、圧力が通電率に一次関数的に上昇する部分を制御領域として使用する必要がある。このため、従来のクラッチレギュレータバルブでは、D1−D2間以外の通電率となる場合、圧力制御を安定的に行うことができず、使用可能な圧力の制御領域が狭くなってしまう問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、圧力の制御領域を広範囲とし、好適に圧力の調整を行うことが可能な流量調整装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流量調整装置は、少なくとも一部が磁性体で構成されたインナーヨークと、インナーヨークの周囲に設けられ、インナーヨークに対し相対的に離接移動自在なアウターヨークと、インナーヨークとアウターヨークとの間に形成され、インナーヨークおよびアウターヨークの接近移動に伴って閉塞すると共に、インナーヨークおよびアウターヨークの遠離移動に伴って開放する流路と、流路内を流動する可変粘性流体と、インナーヨークに対しアウターヨークを遠離移動させる付勢手段と、アウターヨークに設けられた磁力発生手段と、磁力発生手段へ通電する電流量を制御して、付勢手段の付勢力に抗して、インナーヨークに対しアウターヨークを接近移動させる磁力制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の別の流量調整装置は、少なくとも一部が磁性体で構成されたインナーヨークと、インナーヨークの周囲に設けられ、インナーヨークに対し相対的に離接移動自在なアウターヨークと、インナーヨークとアウターヨークとの間に形成され、インナーヨークおよびアウターヨークの接近移動に伴って閉塞すると共に、インナーヨークおよびアウターヨークの遠離移動に伴って開放する流路と、流路内を流動する可変粘性流体と、インナーヨークに対しアウターヨークを遠離移動させる付勢手段と、アウターヨークに設けられ、付勢手段の付勢力に抗して、インナーヨークに対しアウターヨークを接近移動させる永久磁石と、アウターヨークに設けられた磁力発生手段と、磁力発生手段へ通電する電流量を制御して、永久磁石の磁界を打ち消す磁界を発生させる磁力制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る流量調整装置は、磁力制御手段により磁力発生手段を制御して、磁力発生手段から発生する磁界の強さを調整することで、インナーヨークとアウターヨークとの間の幅(ギャップ幅)を調整することができ、また、流路内を流動する可変粘性流体の粘度(せん断応力)を調整することができる。これにより、本発明に係る流量調整装置は、使用可能な圧力の制御領域を広範囲とすることできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る流量調整装置について説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0010】
ここで、図1は、実施例1に係る流量調整装置周りを模式的に表した概略図であり、図2は、実施例1に係る開放状態の流量調整装置を模式的に表した構造図である。また、図3は、実施例1に係る閉塞状態移行時の流量調整装置を模式的に表した構造図であり、図4は、実施例1に係る閉塞状態の流量調整装置を模式的に表した構造図である。さらに、図5は、流量調整装置に用いられる磁気粘性流体のせん断応力に係る分布図であり、図6は、実施例1に係る流量調整装置のせん断応力の変化と、ギャップ幅を固定した場合におけるせん断応力の変化とを比較したグラフである。さらに、図7は、ギャップ幅を固定した流量調整装置を模式的に表した構造図であり、図8は、実施例1に係る流量調整装置のDUTY−P特性と、従来のデューティーソレノイドのDUTY−P特性とを比較したグラフである。
【0011】
先ず、図1を参照して、実施例1に係る流量調整装置1周りについて簡単に説明する。この流量調整装置1は、例えば、オイルポンプ4から湿式多板クラッチ機構5に作動油Sを供給する制御油路3に介設されており、制御油路3を介して湿式多板クラッチ機構5の油圧室21の油圧を調整するものである。
【0012】
図1に示すように、湿式多板クラッチ機構5は、軸心に設けられたインナーシャフト11と、インナーシャフト11の径方向外側に設けられたアウターシャフト12と、インナーシャフト11に配設された複数のフリクションプレート13と、アウターシャフト12に配設された複数のセパレータプレート14と、複数のセパレータプレート14の軸方向両側に設けられた一対の端部プレート15a,15bと、を備えている。また、湿式多板クラッチ機構5は、フリクションプレート13とセパレータプレート14とを接触させる押圧部16を備えている。
【0013】
インナーシャフト11は、その外周にスプライン溝が形成されており、複数のフリクションプレート13は、その軸心にスプライン爪が形成されている。このため、インナーシャフト11および複数のフリクションプレート13は一体となって回転すると共に、複数のフリクションプレート13は、インナーシャフト11に対し軸方向に移動自在となっている。
【0014】
アウターシャフト12は、その内周にスプライン溝が形成されており、複数のセパレータプレート14は、その外周にスプライン爪が形成されている。このため、アウターシャフト12および複数のセパレータプレート14は一体となって回転すると共に、複数のセパレータプレート14は、アウターシャフト12に対し軸方向に移動自在となっている。このとき、複数のフリクションプレート13と複数のセパレータプレート14とは、軸方向において交互に配設されている。
【0015】
一対の端部プレート15a,15bは、アウターシャフト12に配設され、複数のセパレータプレート14と同様に、その外周にスプライン爪が形成されている。このため、一対の端部プレート15a,15bおよびアウターシャフト12は一体となって回転すると共に、一対の端部プレート15a,15bは、アウターシャフト12に対し軸方向に移動自在となっている。なお、一方の端部プレート15a(図示左側)は、後述する押圧部16のピストン20に押圧されると共に、他方の端部プレート15b(図示右側)は、アウターシャフト12の端部により軸方向外側への移動が規制されている。
【0016】
押圧部16は、ピストン20と、ピストン20に押圧力を発生させる油圧室21と、を備えている。ピストン20は、軸方向に移動自在となっており、一方の端部プレート15aを押圧可能に構成されている。油圧室21は、アウターシャフト12の内壁面およびピストン20により区画されている。そして、油圧室21には、流量調整装置1を介してオイルポンプ4から作動油Sが供給される。このとき、流量調整装置1は、油圧室21に供給する作動油Sの流量を調整することで、ピストン20の押圧力を調整している。
【0017】
従って、流量調整装置1を介してオイルポンプ4から油圧室21に作動油Sが供給されると、湿式多板クラッチ機構5の油圧室21内の油圧は上昇し、これにより、ピストン20が一方の端部プレート15aを押圧する。すると、ピストン20の押圧力が一方の端部プレート15aを介して各セパレータプレート14および各フリクションプレート13に作用する。このとき、他方の端部プレート15bは、軸方向外側への移動が規制されることから、複数のセパレータプレート14および複数のフリクションプレート13は接触、係合し、これにより、湿式多板クラッチ機構5は、クラッチ状態となる。
【0018】
一方、流量調整装置1を介してオイルポンプ4から油圧室21に供給される作動油Sの供給量が減少すると、湿式多板クラッチ機構5の油圧室21内の油圧は下降し、一方の端部プレート15aを押圧するピストン20の押圧力が減少する。これにより、複数のセパレータプレート14および複数のフリクションプレート13の係合が解除され、これにより、湿式多板クラッチ機構5は、非クラッチ状態となる。
【0019】
次に、図2を参照して、流量調整装置1について説明する。この流量調整装置1は、吐出される作動油Sの流量を調整するものである。流量調整装置1は、軸心に配設されたインナーヨーク31と、インナーヨーク31の径方向外側の周囲に配設されたアウターヨーク32と、アウターヨーク32内部に配設された磁力発生器33(磁力発生手段)と、インナーヨーク31とアウターヨーク32とを遠離方向に付勢する複数のリターンスプリング34(付勢手段)と、を備えている。また、流量調整装置1には、磁力発生器33に接続されると共にこれを制御可能な磁力制御部35(磁気制御手段)が設けられている。
【0020】
インナーヨーク31は、フランジ部41と、フランジ部41の一方(図示右側)の端面に形成されたヨーク本体42とを有しており、ヨーク本体42は磁性体で構成されている。フランジ部41は、円板状に形成され、その一方の端面の縁部に複数のリターンスプリング34が当接している。ヨーク本体42は、フランジ部41側から順に、基端テーパー部45と、円柱部46と、先端テーパー部47と、で構成されており、フランジ部41、基端テーパー部45、円柱部46および先端テーパー部47は、同軸上に配設されている。基端テーパー部45は、先端側へ向かって先細りとなるテーパー形状に形成されている。また、円柱部46は、基端側から先端側に亘って同径に形成されている。さらに、先端テーパー部47は、先端側へ向かって先細りとなるテーパー形状に形成されている。
【0021】
アウターヨーク32は、インナーヨーク31のフランジ部41と略同径となる円筒状に形成され、磁性体で構成されている。つまり、アウターヨーク32の軸心には、貫通孔50が形成されており、貫通孔50は、ヨーク本体42と相補的形状となるように形成されている。アウターヨーク32は、フランジ部41側から順に、基端テーパー許容部51と、円柱許容部52と、先端テーパー許容部53と、で構成されている。基端テーパー許容部51は、その内周面が径方向内側へ向かう漏斗形状に形成され、基端テーパー部45を許容している。また、円柱許容部52は、その内周面が円柱部46の径よりも大径となるストレート孔に形成され、円柱部46を許容している。さらに、先端テーパー許容部53は、その内周面が径方向内側へ向かう漏斗形状に形成され、先端テーパー部47を許容している。また、アウターヨーク32の内周面には、磁力発生器33を収容するための収容溝54が周方向に沿って環状に形成されている。
【0022】
これにより、インナーヨーク31の外周面とアウターヨーク32の内周面との間には、隙間(ギャップ)が形成され、このギャップが作動油Sの油路R(流路)となる。このとき、油路Rの流入口60は、インナーヨーク31のフランジ部41とアウターヨーク32の基端テーパー許容部51との間に形成され、周方向に環状に形成される。また、油路Rの流出口61は、先端テーパー許容部53の軸心、つまり、アウターヨーク32の外側端面の軸心に形成される。これにより、オイルポンプ4から供給された作動油Sは、流入口60を介して流量調整装置1の内部に流入し、流量調整装置1の内部の油路Rを通過して、流出口61から吐出される。
【0023】
ここで、作動油Sは、可変粘性流体で構成され、例えば、磁界の強さに応じて粘性(せん断応力)が変化する磁気粘性流体で構成されている。この磁気粘性流体は、磁界が強くなると粘性が増す一方で、磁界が弱くなると粘性が低下する。
【0024】
磁力発生器33は、アウターヨーク32の収容溝54に収容されており、いわゆる空心の着磁コイル33で構成されている。着磁コイル33は、環状に形成された収容溝54に対し、コイルの巻き方向が周方向と同方向となるように収容されており、着磁コイル33の空心部分には、インナーヨーク31の円柱部46が挿入される。また、この着磁コイル33には、磁力制御部35が接続されている。
【0025】
磁力制御部35は、着磁コイル33に通電する電流量を調整することにより着磁コイル33から発生する磁界の強さを調整している。具体的に、磁力制御部35は、着磁コイル33に通電する電流量を大きくすると、着磁コイル33から発生する磁力は強くなる。一方で、磁力制御部35は、着磁コイル33に通電する電流量を小さくすると、着磁コイル33から発生する磁力は弱くなる。
【0026】
複数のリターンスプリング34は、圧縮バネで構成されており、その一方の端部をインナーヨーク31のフランジ部41の端面縁部に当接させ、その他方の端部をアウターヨーク32の基端テーパー許容部51の端面に当接させている。そして、各リターンスプリング34は、インナーヨーク31とアウターヨーク32とを軸方向において遠離移動するように付勢している。
【0027】
次に、図2ないし図4を参照して、実施例1に係る流量調整装置1の一連の動作について説明する。先ず、インナーヨーク31とアウターヨーク32とが最も遠離した最遠離位置において、流入口60から流出口61へ至る油路Rは、開放状態となっている。この状態において、磁力制御部35により磁力発生器33から磁力を発生させると、磁性体で構成されたインナーヨーク31は、磁力発生器33から発生した磁力により、リターンスプリング34の付勢力に抗して、アウターヨーク32へ向けて相対的に接近移動する。このとき、磁気粘性流体で構成された作動油Sは、磁力発生器33から発生した磁力により、そのせん断応力が増大する。これにより、流量調整装置1の流出口61から吐出される作動油Sの流量は減少する。
【0028】
そして、さらに磁力発生器33から発生する磁力を強くし、アウターヨーク32に対しインナーヨーク31を相対的に接近移動させると、インナーヨーク31の基端テーパー部45の外周面とアウターヨーク32の基端テーパー許容部51の内周面とが当接し、また、インナーヨーク31の先端テーパー部47の外周面とアウターヨーク32の先端テーパー許容部53の内周面とが当接する。つまり、基端テーパー部45の外周面とアウターヨーク32の基端テーパー許容部51の内周面との間のギャップ幅、および先端テーパー部47の外周面とアウターヨーク32の先端テーパー許容部53の内周面との間のギャップ幅がゼロとなる。これにより、インナーヨーク31とアウターヨーク32とは最も接近した最接近位置となり、流入口60から流出口61へ至る油路Rは、閉塞状態となる。これにより、流量調整装置1の流出口61から吐出される作動油Sの流量はゼロとなる。
【0029】
このとき、流量調整装置1は、磁力制御部35により磁力発生器33に通電する電流量を調整し、磁力の強さを適宜調整することで、リターンスプリング34の付勢力と磁力とをバランスさせ、油路Rのギャップ幅を適宜調整することが可能となっている。また、油路Rのギャップ幅を適宜調整することで、作動油Sのせん断応力を適宜調整することができる。具体的に、作動油Sのせん断応力は、図5に示すように、油路Rのギャップ幅および着磁コイル33に通電する電流量に基づいて変化する。図5に示す分布図は、そのX軸方向がギャップ幅、そのY軸方向が電流量、そのZ軸方向が作動油Sのせん断応力となっており、3次元マップとなっている。この分布図を見るに、作動油Sのせん断応力は、ギャップ幅が狭ければ狭いほど大きくなり、また、電流量が多ければ多いほど大きくなる。
【0030】
ここで、図5および図6を参照して、実施例1に係る流量調整装置1によるせん断応力の変化と、油路のギャップ幅を所定の位置に固定した流量調整装置100によるせん断応力の変化と、を比較する。この比較に先立ち、図7を参照して、比較例(後者)の構成における流量調整装置100について簡単に説明する。この流量調整装置100は、円柱状のインナーヨーク101と、インナーヨーク101の周囲に配設された円筒状のアウターヨーク102と、アウターヨーク102の内部に設けられた空心の着磁コイル103とを備えた構成となっている。後者の構成において、着磁コイル103に通電する電流量を変化させると、作動油Sのせん断応力は、着磁コイル103から発生する磁力の強さに応じて変化する。一方、実施例1(前者)の構成において、着磁コイル33に通電する電流量を変化させると、油路Rのギャップ幅が変化する。このため、作動油Sのせん断応力は、着磁コイル33から発生する磁力の強さのみならず、油路Rのギャップ幅に応じて変化する。これにより、実施例1に係る流量調整装置1は、着磁コイル33に通電する電流量を変化させることにより、後者の構成に比して、作動油Sのせん断応力を、より広範囲に亘って設定することが可能となる。
【0031】
また、後者の流量調整装置100では、ギャップ幅を所定の位置に固定しているため、油路を閉塞することができない。このため、流量調整装置100からの作動油Sの吐出を停止させるべく、着磁コイル103に通電する電流量を増大させて作動油Sのせん断応力を増加させたとしても、磁気粘性流体を構成する強磁性微粒子の間を縫ってベース液が漏れてしまう。これにより、後者の流量調整装置100では、作動油Sの漏れを抑制し、作動油Sの吐出を完全に停止させることは困難である。しかしながら、実施例1の流量調整装置1では、インナーヨーク31およびアウターヨーク32により油路R内のギャップ幅をゼロとすることができるため、流出口61からの作動油Sの漏れを容易に抑制することが可能となる。
【0032】
次に、図8を参照して、実施例1に係る流量調整装置1のDUTY−P特性と、従来のデューティーソレノイドのDUTY−P特性とを比較する。上記したように、従来のデューティーソレノイドのDUTY−P特性は、通電率がD1−D2間の部分において線形となることがわかる。すなわち、通電率がD1−D2間の部分において、吐出圧が通電率に一次関数的に上昇していることがわかる。一方、実施例1に係る流量調整装置1のDUTY−P特性は、通電率が0%から100%までの間の部分において略線形となることがわかる。すなわち、通電率が0%−100%間の部分において、作動油Sの吐出圧が通電率に一次関数的に上昇していることがわかる。以上により、実施例1に係る流量調整装置1は、従来のデューティーソレノイドに比して、作動油Sの吐出圧の制御領域をより広範囲に亘って設定することができる。
【0033】
以上の構成によれば、磁力制御部35は、磁力発生器33へ通電する電流量を調整することで、磁力発生器33から発生する磁力の強さおよび油路R内のギャップ幅を調整することができるため、作動油Sの吐出圧を広範囲に亘って制御することができる。また、磁力制御部35は、インナーヨーク31およびアウターヨーク32を最接近位置に移動させることで、油路R内のギャップ幅をゼロとすることができるため、流量調整装置1の流出口61からの作動油Sの漏れを容易に抑制することができる。さらに、磁力制御部35は、磁力発生器33へ通電する電流量をゼロとすることで、インナーヨーク31およびアウターヨーク32を最遠離位置に移動させることができるため、油路Rの開放を容易に行うことができる。また、実施例1に係る流量調整装置1を用いることで、湿式多板クラッチ機構5の油圧室21の油圧を保持することができる。
【実施例2】
【0034】
次に、図9を参照して、実施例2に係る流量調整装置200について説明する。なお、重複した記載を避けるべく異なる部分についてのみ説明する。図9は、実施例2に係る開放状態の流量調整装置を模式的に表した構造図である。実施例1に係る流量調整装置1は、磁力発生器33により磁界を発生させることで、インナーヨーク31とアウターヨーク32とを軸方向に接近させたが、実施例2に係る流量調整装置200は、磁力発生器203により磁界を発生させることで、インナーヨーク31とアウターヨーク32とを軸方向に遠離させる。以下、実施例2に係る流量調整装置200について具体的に説明する。
【0035】
この流量調整装置200では、アウターヨーク32の基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202を永久磁石で構成している。具体的に、基端テーパー許容部201は、一方の磁極(例えば、N極)を径方向内側にして配設すると共に、他方の磁極(例えば、S極)を径方向外側にして配設する。一方、先端テーパー許容部202は、他方の磁極を径方向内側にして配設すると共に、一方の磁極を径方向外側にして配設する。これにより、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202が形成する磁力線は、N極からS極へ向かう方向となり、具体的に、磁力線は、アウターヨーク32の貫通孔50内において流入口60から流出口61へ向かう方向になると共に、アウターヨーク32の外周側において流出口61から流入口60へ向かう方向になる。このとき、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202の磁力は、最接近位置におけるリターンスプリング34の付勢力よりも大きく構成されている。
【0036】
また、この流量調整装置200において、磁力発生器203は、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202から発生する磁力を打ち消している。つまり、磁力発生器203は、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202が形成する磁力線と逆方向に磁力線を形成することで、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202が発生する磁力を打ち消している。
【0037】
従って、磁力発生器203により磁界を生じさせていない場合、インナーヨーク31およびアウターヨーク32は、リターンスプリング34の付勢力に抗して、最接近位置へ移動する。これにより、流入口60から流出口61へ至る油路Rは、閉塞状態となり、流量調整装置200の流出口61から作動油Sは吐出されない。
【0038】
一方、磁力制御部35により磁力発生器203から磁界を発生させると、磁力発生器203は、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202が形成する磁界を打ち消すため、基端テーパー許容部201および先端テーパー許容部202の磁力は弱くなる。これにより、インナーヨーク31およびアウターヨーク32は、リターンスプリング34の付勢力により、相対的に遠離移動して、最遠離位置へ移動する。これにより、流入口60から流出口61へ至る油路Rは、開放状態となり、流量調整装置200の流出口61から作動油Sが吐出される。
【0039】
なお、実施例1と同様に、実施例2に係る流量調整装置200は、磁力制御部35により磁力発生器203に通電する電流量を調整し、磁力の強さを適宜調整することで、リターンスプリング34の付勢力と永久磁石の磁力とをバランスさせ、油路Rのギャップ幅を適宜調整することが可能となっている。
【0040】
以上の構成においても、磁力制御部35は、磁力発生器203へ通電する電流量を調整することで、永久磁石から発生する磁力の強さおよび油路R内のギャップ幅を調整することができるため、作動油Sの吐出圧を広範囲に亘って制御することができる。また、永久磁石により、インナーヨーク31およびアウターヨーク32が最接近位置に移動することで、油路R内のギャップ幅をゼロとすることができるため、流量調整装置200の流出口61からの作動油Sの漏れを容易に抑制することができる。さらに、磁力制御部35は、磁力発生器203へ通電する電流量をゼロとすることで、油路Rの閉塞を容易に行うことができる。
【0041】
なお、上記した実施例1および2において、流量調整装置1,200の下流側に湿式多板クラッチ機構5を配設したが、流量を調整して作動する機構であれば限定する必要はない。また、作動油Sを磁気粘性流体で構成したが、電気粘性流体で構成してもよい。さらに、実施例1および2において、基端テーパー部45および先端テーパー部47をテーパー形状としたが、円柱状に形成してもよい。つまり、ヨーク本体42を段付き円柱形状にしてもよい。このとき、アウターヨーク32の貫通孔50は、ヨーク本体42と相補的形状となるように形成することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明は、可変粘性流体を用いた流量調整装置において有用であり、特に、広範囲に亘って圧力制御を行う場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1に係る流量調整装置周りを模式的に表した概略図である。
【図2】実施例1に係る開放状態の流量調整装置を模式的に表した構造図である。
【図3】実施例1に係る閉塞状態移行時の流量調整装置を模式的に表した構造図である。
【図4】実施例1に係る閉塞状態の流量調整装置を模式的に表した構造図である。
【図5】流量調整装置に用いられる磁気粘性流体のせん断応力に係る分布図である。
【図6】実施例1に係る流量調整装置のせん断応力の変化と、ギャップ幅を固定した場合におけるせん断応力の変化とを比較したグラフである。
【図7】ギャップ幅を固定した流量調整装置を模式的に表した構造図である。
【図8】実施例1に係る流量調整装置のDUTY−P特性と、従来のデューティーソレノイドのDUTY−P特性とを比較したグラフである。
【図9】実施例2に係る開放状態の流量調整装置を模式的に表した構造図である。
【符号の説明】
【0044】
1 流量調整装置
31 インナーヨーク
32 アウターヨーク
33 磁力発生器
34 リターンスプリング
35 磁力制御部
S 作動油
R 油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が磁性体で構成されたインナーヨークと、
前記インナーヨークの周囲に設けられ、前記インナーヨークに対し相対的に離接移動自在なアウターヨークと、
前記インナーヨークと前記アウターヨークとの間に形成され、前記インナーヨークおよび前記アウターヨークの接近移動に伴って閉塞すると共に、前記インナーヨークおよび前記アウターヨークの遠離移動に伴って開放する流路と、
前記流路内を流動する可変粘性流体と、
前記インナーヨークに対し前記アウターヨークを遠離移動させる付勢手段と、
前記アウターヨークに設けられた磁力発生手段と、
前記磁力発生手段へ通電する電流量を制御して、前記付勢手段の付勢力に抗して、前記インナーヨークに対し前記アウターヨークを接近移動させる磁力制御手段と、を備えたことを特徴とする流量調整装置。
【請求項2】
少なくとも一部が磁性体で構成されたインナーヨークと、
前記インナーヨークの周囲に設けられ、前記インナーヨークに対し相対的に離接移動自在なアウターヨークと、
前記インナーヨークと前記アウターヨークとの間に形成され、前記インナーヨークおよび前記アウターヨークの接近移動に伴って閉塞すると共に、前記インナーヨークおよび前記アウターヨークの遠離移動に伴って開放する流路と、
前記流路内を流動する可変粘性流体と、
前記インナーヨークに対し前記アウターヨークを遠離移動させる付勢手段と、
前記アウターヨークに設けられ、前記付勢手段の付勢力に抗して、前記インナーヨークに対し前記アウターヨークを接近移動させる永久磁石と、
前記アウターヨークに設けられた磁力発生手段と、
前記磁力発生手段へ通電する電流量を制御して、前記永久磁石の磁界を打ち消す磁界を発生させる磁力制御手段と、を備えたことを特徴とする流量調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−38193(P2010−38193A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198909(P2008−198909)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】