説明

浄水システム

【課題】沈殿汚泥や洗浄排水を膜分離して得た膜透過水を当該浄水システムに還流させた場合でも、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷を殆んど増大させない。
【解決手段】 原水30中の懸濁物質を沈殿汚泥34として分離する沈殿池12と、沈殿池12の上澄水36を砂濾過して処理水38とする砂濾過池14と、沈殿池12から抜き出した沈殿汚泥34を膜分離する第1膜分離装置24と、砂濾過池14の洗浄排水46を膜分離する第2膜分離装置26と、第1膜分離装置24の膜透過水50を酸化処理する酸化手段28と、酸化処理された膜透過水50Aを洗浄排水46に合流させる手段と、第2膜分離装置26の膜透過水58を処理水38に合流させる手段とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浄水システムに係り、特に原水中の懸濁物質を沈殿汚泥として分離する沈殿池と、この沈殿池の上澄水を砂濾過して処理水とする砂濾過池を備えた浄水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の浄水システムの沈殿池では原水量に対して1%未満の沈殿汚泥が発生する。また、砂濾過池では定期的(例えば1日に1回程度)に逆洗などの洗浄操作が必要であり、この洗浄操作の際に原水量の5〜10%程度に相当する量の処理水が使われ、洗浄排水として排出される。これらの沈殿汚泥や洗浄排水は濃縮処理を施すことによって濃縮汚泥と分離水に分け、濃縮汚泥は別系の汚泥処理設備で処理する。また、分離水は沈殿池の入口側に返送し、原水と混合して再び沈殿池に流入させるようにしている。
【0003】
濃縮処理としては一般に沈殿処理が採用されている。しかしながら、沈殿処理によって得られた分離水は懸濁物質を多く含んでおり、これを上記のように沈殿池に還流させると量的にも質的にも沈殿池及び砂濾過池の処理負荷を増大させ、浄水効率を低下させる。
【0004】
このような問題点を改善するために、沈殿汚泥や洗浄排水を濃縮処理する手段として膜分離手段を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1に記載された方法は、沈殿汚泥や洗浄排水を多段処理して最終的に分離した膜透過水を砂濾過池の処理水に合流させる。この方法によれば膜透過水を沈殿池に還流させないので、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷が増大せず、浄水効率の優れた浄水システムを実現できる。
【0006】
また、特許文献2に記載された方法は、同様に沈殿汚泥や洗浄排水を多段処理して最終的に分離した膜透過水を沈殿池に還流させる。このため、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷が量的に増大する欠点は依然として残る。しかしながら、膜透過水は清澄であるため、質的な面では沈殿池及び砂濾過池の処理負荷は殆んど増大しないという、優れた改善効果を達成できる。
【特許文献1】特開平10−165990号公報
【特許文献2】特開2003−236558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の実験によれば、上記特許文献1に記載された方法で分離された膜透過水には溶解性のマンガンが比較的多く含まれていることが判明した。したがって、この膜透過水を砂濾過池の処理水に合流させると、処理水のマンガン濃度を引き上げ、処理水の水質を悪化させることがある。上記特許文献2に記載された方法では、沈殿池に還流させた膜透過水中の溶解性のマンガンは、沈殿池と砂濾過池を経由する過程でその大部分が除去される。したがって、砂濾過池の処理水のマンガン濃度が飲用基準を上回るケースは殆んどない。しかしながら、上記したように、特許文献2に記載された方法は、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷を量的に増大させるという欠点がある。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を改善し、沈殿池と砂濾過池を備えた浄水システムにおいて、沈殿汚泥や洗浄排水を膜分離して得た膜透過水を当該浄水システムに還流させた場合でも、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷を殆んど増大させず、かつ、処理水中の溶解性のマンガン濃度を低く抑えることが可能な浄水システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る第1の浄水システムは、原水中の懸濁物質を沈殿汚泥として分離する沈殿池と、前記沈殿池の上澄水を砂濾過して処理水とする砂濾過池と、前記沈殿池から抜き出した沈殿汚泥を膜分離する第1膜分離装置と、前記砂濾過池の洗浄排水を膜分離する第2膜分離装置と、前記第1膜分離装置の膜透過水を酸化処理する酸化手段と、前記酸化手段によって酸化処理された前記膜透過水を前記洗浄排水に合流させる手段と、前記第2膜分離装置の膜透過水を前記処理水に合流させる手段とを具備したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る第2の浄水システムは、原水中の懸濁物質を沈殿汚泥として分離する沈殿池と、前記沈殿池の上澄水を砂濾過して処理水とする砂濾過池と、前記沈殿池から抜き出した沈殿汚泥を膜分離する第1膜分離装置と、前記砂濾過池の洗浄排水を膜分離する第2膜分離装置と、前記第1膜分離装置の膜透過水を前記沈殿池の入口側に返送する手段と、前記第2膜分離装置の膜透過水を前記処理水に合流させる手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る第1の浄水システムによれば、沈殿汚泥や洗浄排水を膜分離して最終的に得られた膜透過水は清澄であり、溶解性のマンガンもほとんど含まず、砂濾過池の処理水と同等レベルの水質を維持している。したがって、膜透過水を沈殿池の入口側に還流させることなく、直接に砂濾過池の処理水に合流させることができる。このため、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷を増大させず、かつ、処理水中の溶解性のマンガン濃度を低く抑えることができる。
【0012】
本発明に係る第2の浄水システムによれば、第1膜分離装置の膜透過水を沈殿池の入口側に返送するようにした。この膜透過水は清澄であるが溶解性のマンガンを比較的多く含んでいる。ただし、膜透過水の水量は原水量に対して多くとも1%未満であり、このような清澄かつ少量の膜透過水を原水に混合しても、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷は殆んど増大しない。また、膜透過水に含まれる溶解性のマンガンは沈殿池での凝集沈殿や砂濾過池での砂濾過を受ける過程でその大部分が除去されるので、処理水中の溶解性のマンガン濃度を低く抑えることができる。また、この第2の浄水システムでは酸化手段を省略することが可能であり、第1の浄水システムに比べてシステムの簡略化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明に係る第1の浄水システムの実施形態を示す系統図である。当該浄水システムは浄水製造系Aと汚泥・洗浄排水処理系Bに区分される。浄水製造系Aは、主に着水井10と沈殿池12と砂濾過池14と処理水貯槽18とによって構成される。汚泥・洗浄排水処理系Bは、主に沈殿汚泥貯槽20と洗浄排水貯槽22と第1膜分離装置24と第2膜分離装置26と酸化手段28とによって構成される。
【0014】
着水井10を経て沈殿池12へ供給された原水30に凝集剤32を添加することによって、原水30中の懸濁物質が凝集してフロックを形成する。これらのフロックは沈殿池12の底部に沈殿し、沈殿汚泥34として抜き出される。沈殿池12の上澄水36は後段の砂濾過池14に送られる。砂濾過池14では上澄水36に含まれる微細な懸濁物質を砂濾過し、処理水38とする。この砂濾過池14では上澄水36に含まれる溶解性の鉄やマンガンの除去作用もある。処理水38は処理水貯槽18に一旦貯えられた後に塩素系の消毒剤を添加されて、水道水42として配水される。
【0015】
砂濾過池14では長時間の運転によって、砂濾材の表面及びその間隙に微細な懸濁物質が付着、蓄積して目詰まりを起こす。このため、定期的に(例えば1日に1回程度の頻度)で砂濾材層の洗浄を行う。洗浄に使用する洗浄水44は処理水貯槽18に貯えた処理水を充当する。この砂濾過池14の洗浄操作によって多量の洗浄排水46が発生する。
【0016】
汚泥・洗浄排水処理系Bでは、前記沈殿池12の底部から抜き出した沈殿汚泥34と上記砂濾過池14の洗浄操作によって発生した洗浄排水46を処理する。すなわち、沈殿汚泥貯槽20には沈殿池12からの沈殿汚泥34が一時的に貯えられる。この沈殿汚泥貯槽20には後述する第2膜分離装置26からの濃縮液48が合流する。沈殿汚泥貯槽20に貯えられた沈殿汚泥34は第1膜分離装置24に送られ、膜分離を受ける。第1膜分離装置24としては特許文献2に開示されている回転平膜分離装置が好ましく用いられる。回転平膜分離装置は高価であるが過酷な条件でも安定した運転を長時間継続できる長所がある。したがって、沈殿汚泥34のように高濃度な汚泥の濃縮に好適である。また、背景技術の項で述べたように、沈殿汚泥34の発生量は原水量に対して1%未満と少量であるから、回転平膜分離装置を採用した際の費用負担もそれほど重荷にはならない。
【0017】
この第1膜分離装置24によって沈殿汚泥34は膜透過水50と濃縮汚泥52とに分離される。濃縮汚泥52は系外の処理設備に送られ、例えば脱水処理を受けた後に適当な手段によって処理処分される。一方、膜透過水50は酸化手段28に送られる。酸化手段28では膜透過水50に対して酸化処理が施される。酸化処理として例えば酸化剤54を添加する場合にはオゾンガスや次亜塩素酸ソーダ水溶液などを好ましく用いるが、これらの酸化剤に替えて空気を曝気することも可能である。
【0018】
膜透過水50を酸化処理する目的は、膜透過水50に溶存しているマンガンを酸化して、不溶性の酸化マンガンにすることにある。すなわち、本発明者の実験によれば膜透過水50には溶解性のマンガンが比較的多く、例えば1mg/L前後、含まれていることが判明した。この溶解性のマンガンは元々、河川や地下から取水した原水30に依拠するものである。前記沈殿池12での凝集剤32の添加によって溶解性のマンガンの一部は不溶化して除去されるが、大部分は溶解性のマンガンのままで残存する。また、上記不溶化したマンガンも不安定であり、沈殿汚泥貯槽20や第1膜分離装置24で長時間、嫌気条件下で滞留する過程で再溶出することも考えられる。したがって、酸化手段28では溶存マンガンの除去を目的として、膜透過水50を酸化処理し、溶存マンガンを酸化して、不溶性の酸化マンガンにする。酸化手段28としては上記した酸化剤54を添加する手段以外に、マンガン砂塔のような接触酸化式の手段を用いることができる。
【0019】
また、砂濾過池14の洗浄操作によって発生した洗浄排水46は洗浄排水貯槽22に貯えられる。洗浄排水は前記したように1日に1回程度の頻度で定期的に発生するが、その水量は原水量の5〜10%程度に相当する多大な量である。このため、洗浄排水貯槽22は1回の洗浄操作で発生する多量の洗浄排水46を一時的に貯留可能な容量を備える。そして、貯留した洗浄排水46を小出しに後段の第2膜分離装置26に供給し、次の洗浄操作までに洗浄排水貯槽22内の洗浄排水46がほぼなくなるような運転がなされる。この洗浄排水貯槽22に前記酸化手段28を経由した膜透過水50Aが投入され、膜透過水50Aは洗浄排水46に合流する。
【0020】
洗浄排水46と膜透過水50Aが合流した合流水56は第2膜分離装置26に供給され、膜分離を受ける。この合流水56は比較的清澄であり、かつ水量が多い。このような合流水56を処理する第2膜分離装置26の膜モジュールとしては精密濾過膜からなる中空糸膜モジュール又は静置型浸漬平膜モジュールが好適である。第2膜分離装置26での膜分離によって、洗浄排水46中の微細懸濁物質及び膜透過水50A中の不溶性の酸化マンガンが分離された膜透過水58は清澄であり、溶解性のマンガンもほとんど含まず、砂濾過池14の処理水38と同等レベルの水質を維持している。したがって、膜透過水58は沈殿池12の入口側に還流させることなく、直接に砂濾過池14の処理水38に合流させる。微細懸濁物質及び不溶性の酸化マンガンを含む第2膜分離装置26での濃縮液48は前記したように沈殿汚泥貯槽20に導き、沈殿汚泥34と合流させて第1膜分離装置24での膜分離を受ける。したがって、第1膜分離装置24から排出される濃縮汚泥52には沈殿池12で凝集沈殿させた沈殿物、砂濾過池14の洗浄操作で分離された微細懸濁物、酸化手段28での酸化処理によって生成した不溶性の酸化マンガンなど本浄化システムで発生したすべての固形物が集合されて含まれる。
【0021】
上述のとおり、本発明に係る第1の浄水システムの実施形態によれば、沈殿汚泥34や洗浄排水46を膜分離して最終的に得られた膜透過水58は清澄であり、溶解性のマンガンもほとんど含まず、砂濾過池14の処理水38と同等レベルの水質を維持している。したがって、膜透過水58を沈殿池12の入口側に還流させることなく、直接に砂濾過池14の処理水38に合流させることができる。このため、沈殿池及び砂濾過池の処理負荷を増大させず、かつ、処理水中の溶解性のマンガン濃度を低く抑えることができる。
【0022】
図2は本発明に係る第2の浄水システムの実施形態を示す系統図である。図2において、図1と同一の符号を付した要素は上記第1の浄水システムで説明した要素と実質的に同一であるので、その説明を省略する。この実施形態は上記第1の浄水システムに係る酸化手段28を省略した構成であり、第1膜分離装置24の膜透過水50を沈殿池12の入口側である着水井10に返送するようにしている。この膜透過水50は清澄であるが前記したように溶解性のマンガンが比較的多く、例えば1mg/L前後、含まれている。ただし、膜透過水50の水量は前記したように原水量に対して多くとも1%未満である。したがって、このような清澄かつ少量の膜透過水50を着水井10に返送し、原水30に混合しても、沈殿池12及び砂濾過池14の処理負荷は殆んど増大しない。また、膜透過水50に含まれる溶解性のマンガンは沈殿池12での凝集沈殿や砂濾過池14での砂濾過を受ける過程でその大部分が除去される。すなわち、膜透過水50を原水30に混合したことによる悪影響は無視できるレベルである。この第2の浄水システムによれば、前記第1の浄水システムと同様に、沈殿池12及び砂濾過池14の処理負荷を量的に殆んど増大させず、かつ、処理水38中の溶解性のマンガン濃度を低く抑えることができる。この第2の浄水システムの実施形態によれば、前記第1の浄水システムに比べシステムの簡略化を図ることができる。なお、第2の浄水システムでは膜透過水50の酸化処理を完全に排除することを意図するものではなく、膜透過水50を酸化処理した後に沈殿池12の入口側に返送する形態をも含む。
【0023】
前記各実施形態では、第2膜分離装置26で膜分離された濃縮液48を沈殿汚泥34に合流し、第1膜分離装置24によって再度、膜分離する構成であった。しかしながら、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、濃縮液48を沈殿汚泥34に合流させずに独立して抜き出し、第1膜分離装置24の濃縮汚泥52と併行して系外の処理設備に送るようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る第1の浄水システムの実施形態を示す系統図である。
【図2】本発明に係る第2の浄水システムの実施形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0025】
10………着水井、12………沈殿池、14………砂濾過池、16………活性炭吸着池、18………処理水貯槽、20………沈殿汚泥貯槽、22………洗浄排水貯槽、24………第1膜分離装置、26………第2膜分離装置、28………酸化手段、30………原水、32………凝集剤、34………沈殿汚泥、36………上澄水、38………処理水、40………処理水、42………水道水、44………洗浄水、46………洗浄排水、48………濃縮液、50………(第1膜分離装置の)膜透過水、52………濃縮汚泥、54………酸化剤、56………合流水、58………(第2膜分離装置の)膜透過水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水中の懸濁物質を沈殿汚泥として分離する沈殿池と、前記沈殿池の上澄水を砂濾過して処理水とする砂濾過池と、前記沈殿池から抜き出した沈殿汚泥を膜分離する第1膜分離装置と、前記砂濾過池の洗浄排水を膜分離する第2膜分離装置と、前記第1膜分離装置の膜透過水を酸化処理する酸化手段と、前記酸化手段によって酸化処理された前記膜透過水を前記洗浄排水に合流させる手段と、前記第2膜分離装置の膜透過水を前記処理水に合流させる手段とを具備したことを特徴とする浄水システム。
【請求項2】
原水中の懸濁物質を沈殿汚泥として分離する沈殿池と、前記沈殿池の上澄水を砂濾過して処理水とする砂濾過池と、前記沈殿池から抜き出した沈殿汚泥を膜分離する第1膜分離装置と、前記砂濾過池の洗浄排水を膜分離する第2膜分離装置と、前記第1膜分離装置の膜透過水を前記沈殿池の入口側に返送する手段と、前記第2膜分離装置の膜透過水を前記処理水に合流させる手段とを具備したことを特徴とする浄水システム。
【請求項3】
前記第2膜分離装置で膜分離された濃縮液を前記沈殿汚泥に合流させる手段を具備したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浄水システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−167611(P2006−167611A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364216(P2004−364216)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】