説明

浮力型磁気方位検知素子

【課題】 所定の傾斜補正角度を満足する良好な傾斜補正特性を有し、信頼性が高い小型の浮力型磁気方位検知素子を提供すること。
【解決手段】 環状の空間を持つ非磁性の環状ボビン11内に、その空間のほぼ半分を占める液体を封入し、その液体面に所要の浮力を持たせて環状磁性コアを環状コアケース14に収納して浮かせ、環状ボビン11の中心孔の内周面から外側の外周面を通って励磁巻線を巻き、環状ボビン11の中心と外側の外周面を通り径方向に直交する二つの検出巻線を巻回し、環状コアケース14の外側の外周面とその外周面に対向する環状ボビン11の内面との間に、環状コアケース14の環状ボビン11内での回転を防止する構造体として、環状コアケースの外側の外周面に4個の凸部19を設け、凸部19に対向する環状ボビン11の内面に、凸部19の形状に対応する形状の凹部20を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気を検出して方位を検出するフラックスゲート方式方位計により構成した磁気方位検出素子に関し、特に、環状ボビン内の液体上に、環状コアケースに収納した環状磁性コアが浮いている浮力型磁気方位検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
地磁気の南北東西を検出するように構成したフラックスゲート方式磁気方位計の一つに、特許文献1に記載されているような浮力型磁気方位検知素子がある。この浮力型磁気方位検知素子の従来の構成の一例を図4、図5、図6に示す。図4は内部の上面図、図5は素子全体の斜視図、図6は正面半断面図である。図6に示すように、環状コアケース34に収納した環状磁性コア12を、非磁性の環状ボビン31の内部空間に、ほぼ半分を占める液体13を封入して浮かし、図5に示すように、環状ボビン31の中心孔の内周面から外側の外周面を通ってエナメル等で絶縁された金属線を用いて励磁巻線22を巻回し、さらにその上に環状ボビン31の中心と外側の外周面を通り径方向に直交する二つの検出巻線21を巻回し形成したものである。このような構造の磁気方位検知素子は、特に動揺が激しい装置内で使用する方位検出器で用いられている。
【0003】
方位検出器は様々な装置で用いられているが、装置の小型化に対する市場要求は大きく、この要求に対応するために浮力型磁気方位検知素子についても小型化が必要となっている。浮力型磁気方位検知素子の場合、その形状は液体を収納した環状ボビン31の形状でほぼ決定されており、小型化のためには環状ボビン31の形状を小型化する必要がある。
【0004】
【特許文献1】特開平8−219791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浮力型磁気方位検知素子の主要性能の一つに傾斜補正特性がある。図7は、浮力型磁気方位検知素子の傾斜時の環状ボビン31の内部の様子を示す断面図である。浮力型磁気方位検知素子の特徴は、図7のように浮力型磁気方位検知素子が傾いたときでも環状磁性コア12は水平を保つため、水平時のコンパス方位精度と比較して傾斜時のコンパス方位精度がほとんど変わらないことである。例えば、水平から±10°傾斜させたときの方位精度が、水平時の方位精度に対して1°以内のずれである場合、このずれの角度が傾斜補正角度である。
【0006】
しかし、従来の浮力型磁気方位検出素子では、環状ボビン、環状コアケースの小型化を実施すると、環状ボビン内の環状コアケースも小型・軽量化されることにより、環状コアケースが浮く位置のばらつきや、回転による位置のばらつきが発生しやすく、特に、上記の装置が動揺し傾斜したときの傾斜補正特性に影響を与えるという問題が生じている。すなわち、所定の傾斜補正角度を満足できなくなり、所定の範囲内の動揺でも計測した方位に誤差が生じるという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、これらの問題を解決し、所定の傾斜補正角度を満足する良好な傾斜補正特性を有し、信頼性が高い小型の浮力型磁気方位検知素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の浮力型磁気方位検知素子は、環状の空間を持つ非磁性の環状ボビン内に、該空間のほぼ半分を占める液体を封入し、該液体面に所要の浮力を持たせて環状磁性コアを環状コアケースに収納して浮かせ、前記環状ボビンの中心孔の内周面から外側の外周面を通って励磁巻線を巻き、前記環状ボビンの中心と外側の外周面を通り径方向に直交する二つの検出巻線を巻回してなる浮力型磁気方位検知素子において、前記環状コアケースの外側の外周面と該外周面に対向する前記環状ボビンの内面との間に、該環状コアケースの前記環状ボビン内での回転を防止する構造体を設けたことを特徴とする。
【0009】
具体的には、前記環状コアケースの外側の外周面に複数個の凸部を設け、該凸部に対向する前記環状ボビンの内面に、該凸部の形状に対応する形状の凹部を設けてもよい。
【0010】
また、前記凸部が前記環状コアケースの中心軸に平行な半円筒形状であり、前記凹部は前記環状ボビンの中心軸に平行な半円筒形状であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、環状コアケースの環状ボビン内での回転を防止することにより、取り付けた装置が所定範囲内でどのように動揺しても、環状コアケースの位置のばらつきを抑え、所定の傾斜補正角度を満足する良好な傾斜補正特性を有し、信頼性が高い小型の浮力型磁気方位検知素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1、図2、図3は、本発明による浮力型磁気方位検知素子の一実施の形態を示す図であり、図1は浮力型磁気方位検知素子の内部の上面図、図2は浮力型磁気方位検知素子の斜視図、図3は浮力型磁気方位検知素子の正面半断面図である。
【0014】
図3に示すように、環状の空間を持つ非磁性の環状ボビン11内に、その空間のほぼ半分を占める液体13を封入し、その液体面に所要の浮力を持たせて環状磁性コア12を環状コアケース14に収納して浮かせ、図2に示すように、環状ボビン11の中心孔の内周面から外側の外周面を通って励磁巻線22を巻き、環状ボビン11の中心と外側の外周面を通り径方向に直交する二つの検出巻線21を巻回している。また、図1に示すように、環状コアケース14の外側の外周面とその外周面に対向する環状ボビン11の内面との間に、環状コアケース14の環状ボビン11内での回転を防止する構造体を設けており、本実施の形態においては、環状コアケース14の外側の外周面に4個の凸部19を設け、凸部19に対向する環状ボビン11の内面に、凸部19の形状に対応する形状の凹部20を設けている。
【0015】
本実施の形態の浮力型磁気方位検知素子の具体的な一実施例を以下に述べる。環状磁性コア12は高透磁率磁性材料の金属板で作られ、樹脂製で、外径φ20mm、内径φ10mm、高さ3mmの環状コアケース14に収納されている。さらに、環状コアケース14は、樹脂製で、外径φ28mm、内径φ24mm、高さ20mmで、中央にφ8mmの中心孔15を有する環状ボビン11の中に封入された液体13に浮かせて保持される。環状ボビン内の液体には、フッ素化合物からなる、電気絶縁性を持ち、比重が2程度の液体を用いている。
【0016】
環状コアケース14の凸部19は環状コアケース14の中心軸に平行な半円筒形状であり、凹部20は環状ボビン11の中心軸に平行な半径1mmの半円筒形状としている。
【0017】
本実施例の浮力型磁気方位検知素子を実際に作製して傾斜補正特性を測定した。傾斜角を0°(水平)、+10°、−10°としたときの検知素子の出力から方位角度を算出した結果を図8に示す。ここでは、浮力型磁気方位検知素子を旋回せず、方位角を0°の方向で固定して傾斜させている。比較例として、本実施例と同様な形状で凸部19、凹部20を設けていない従来の構造の浮力型磁気方位検知素子も作製して同様に測定した。その結果を図9に示す。図9に示す通り、従来型の環状コアケースを使用した浮力型磁気方位検知素子は、環状ボビンの内部では回転する方向に対しては自由度があるため、位置が定まることがない。そのことによりデータに再現性がなく、繰り返し測定による特性のばらつきが大きい。
【0018】
一方、本発明による浮力型磁気方位検知素子は、図8に示す通り、環状ボビン内部での回転が防げるため、特性のばらつきが小さい。この結果、常に0.1度の傾斜補正角度を満足する良好な傾斜補正特性を有し、信頼性が高い小型の浮力型磁気方位検知素子が得られた。
【0019】
なお、凸部、凹部の設置個数は、例えば1箇所や2箇所の場合には、全体的な重量のバランスが崩れ、ある方向に傾くような傾向をもってしまうため、どの方向に対してもバランスの良い設置数が良い。このためには環状ボビンや環状コアケースの中心軸に対称に3箇所以上設置することが望ましい。
【0020】
また、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、環状ボビンやコアの形状・構造、構成及び材質などは目的とする浮力型磁気方位検知素子の特性、形状などに合わせて設計することができる。凸部、凹部の形状も実施の形態に限られるものではなく、例えば環状ボビンに凸部を設け環状コアケースに凹部を設けることも可能であり、また、凸部の形状は半球形状などの中心軸方向の長さが短い形状でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態の浮力型磁気方位検知素子の内部の上面図。
【図2】本発明の一実施の形態の浮力型磁気方位検知素子の斜視図。
【図3】本発明の一実施の形態の浮力型磁気方位検知素子の正面半断面図。
【図4】従来の浮力型磁気方位検知素子の内部の上面図。
【図5】従来の浮力型磁気方位検知素子の斜視図。
【図6】従来の浮力型磁気方位検知素子の正面半断面図。
【図7】浮力型磁気方位検知素子の傾斜時の環状ボビンの内部の様子を示す断面図。
【図8】本発明の浮力型磁気方位検知素子の実施例の傾斜補正特性の測定結果。
【図9】従来の浮力型磁気方位検出素子の比較例の傾斜補正特性の測定結果。
【符号の説明】
【0022】
11、31 環状ボビン
12 環状磁性コア
13 液体
14、34 環状コアケース
15 中心孔
19 凸部
20 凹部
21 検出巻線
22 励磁巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の空間を持つ非磁性の環状ボビン内に、該空間のほぼ半分を占める液体を封入し、該液体面に所要の浮力を持たせて環状磁性コアを環状コアケースに収納して浮かせ、前記環状ボビンの中心孔の内周面から外側の外周面を通って励磁巻線を巻き、前記環状ボビンの中心と外側の外周面を通り径方向に直交する二つの検出巻線を巻回してなる浮力型磁気方位検知素子において、
前記環状コアケースの外側の外周面と該外周面に対向する前記環状ボビンの内面との間に、該環状コアケースの前記環状ボビン内での回転を防止する構造体を設けたことを特徴とする浮力型磁気方位検知素子。
【請求項2】
前記環状コアケースの外側の外周面に複数個の凸部を設け、該凸部に対向する前記環状ボビンの内面に、該凸部の形状に対応する形状の凹部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の浮力型磁気方位検知素子。
【請求項3】
前記凸部が前記環状コアケースの中心軸に平行な半円筒形状であり、前記凹部は前記環状ボビンの中心軸に平行な半円筒形状であることを特徴とする請求項2に記載の浮力型磁気方位検知素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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