説明

浴槽システム

【課題】入浴中の事故を未然に防止する。
【解決手段】浴槽本体1の縁部11に配置した枕部54に内蔵された振動検出部5の圧電素子51によって、ユーザ2の心電図に相当する体表面の振動が検出される一方、ユーザ2の指先22に装着した血流検出部6によって脈波が検出される。振動検出部5による振動ピークの検出タイミングから、血流検出部6による脈波ピークの検出タイミングまでの時間差から、脈波伝搬時間解析部7において、血圧に応じて変化する脈波伝搬時間が求められる。血圧変動検知部3は、前記脈波伝搬時間から、例えば10〜20%以上の血圧低下を検知すると、排水手段4の駆動装置42にトリガを与え、排水栓41を駆動して、排水口13を開放する。これにより、浴槽本体1内の湯14は排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴中のユーザの血圧変動を検知する機能を備えた浴槽システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化の進行で、入浴中のユーザの事故が増加し、溺死だけで年間1万人に上るという集計もある。その溺死の要因は、ユーザが熱い湯を張った浴槽に入浴したとき、入浴直後は血圧が上がるものの、その後、末梢血管が開くことで、上がった以上の血圧低下が惹起されることにある。血圧低下状態が長く続くと、意識障害(失神)を発症し、浴槽内への沈降の結果として湯の吸飲が発生し、やがて心停止を招くことになる。
【0003】
そこで、そのような事故を未然に防止するために、たとえば本出願人らによる特許文献1に記載のシステムが提案されている。特許文献1のシステムは、浴槽本体の互いに対向する一対の側壁に電極を設け、入浴中のユーザの呼吸に伴う体表面積の変化や、肺の体積変化による前記電極間のインピーダンス変化から、ユーザの呼吸の有無(心拍停止)を検出するシステムである。
【0004】
また、特許文献2には、脈波計測装置を備えた浴槽血圧計が開示されている。この浴槽血圧計では、入浴中のユーザの臀部における脈波検知用に浴槽本体の底部に受発光素子が設けられると共に、心拍タイミングを求めるために浴槽本体の側壁に一対の電極が設けられる。そして、心拍タイミングと脈波とから、脈波の体内伝搬速度が導出され、その伝搬速度から、所定の関係に基づいて血圧を求めることで、ユーザの血圧がリアルタイムで測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−80088号公報
【特許文献2】特開2003−260032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来技術では、心拍や血圧の異常が生じると、ユーザ自身や家人などに異常を報知する構成を備えている。しかしながら、異常の報知に応答して、ユーザ自身が浴槽から上がるという対応ができなかったり、住居内に他の家人が居なかったりすると、事故が生じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、入浴中の事故を確実に防止することができる浴槽システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に係る浴槽システムは、排水栓を備えた浴槽本体と、閉止状態にある前記排水栓を開放状態とすることが可能な排水手段と、前記浴槽本体へ入浴中のユーザの血圧情報を検知する検知手段と、前記血圧情報に基づいて、予め定める閾値以上の血圧変動が発生したか否かを判定する判定手段と、前記閾値以上の血圧変動が発生したときに、前記排水手段を制御して前記排水栓を開放状態とする制御手段と、を含むことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
この構成によれば、入浴中のユーザにおいて閾値以上の血圧変動が発生した場合には、制御手段により排水栓が開放状態とされる。これにより、浴槽内の湯は強制的に排出され、仮にユーザが急激な血圧低下等で意識を失い浴槽内に沈降した場合でも、ユーザの呼吸が確保できる状態を確保することができる。
【0010】
上記構成において、前記検知手段が、前記入浴中のユーザの生体情報を取得して出力するセンサと、前記センサの出力値を時間解析して血圧変動情報に変換する解析手段と、を含む構成とすることができる(請求項2)。この構成によれば、入浴中のユーザの血圧情報を的確に検知することができる。
【0011】
この場合、前記センサが、前記ユーザの心臓鼓動に基づく体表面の振動を検出する振動検出手段と、前記ユーザの血管脈波を検出する脈波検出手段とを含み、前記解析手段は、前記振動検出手段による振動ピークの検出タイミングと、前記脈波検出手段による脈波ピークの検出タイミングとの間の時間差から、血圧に応じて変化する脈波伝搬時間を求めることが望ましい(請求項3)。
【0012】
この構成によれば、振動検出手段により振動ピーク(これは心拍タイミングとなる)が求められ、脈波検出手段により脈波が求められ、両者のピークの時間差に基づき血圧が導出される。そして、当該振動検出手段によれば、心拍タイミングを求めるために浴槽内に電極類を設置する必要が無い。このため、浴槽内の湯量が少ない場合にも心拍タイミングを確実に検出できると共に、万が一の漏電の危険性も排除することができる。
【0013】
この構成において、前記浴槽本体の縁部に配置されて前記ユーザの頭部を支え、前記振動検出手段を内蔵する枕部と、前記ユーザの末梢付近の血管の近傍に前記脈波検出手段を装着する装着手段とを備えることが望ましい(請求項4)。
【0014】
この構成によれば、ユーザの頭部において心拍タイミングが検出され、ユーザの末梢(指先等)で脈波が検出される。このため、両測定ポイント間の間隔が比較的長くなり、心拍に起因する振動ピークと、脈波のピークとの差、すなわち脈波伝搬時間を高い分解能で検出し易くなる。また、枕部によってユーザの頭部が支持されるので、ユーザが意識を喪失した場合に体の沈下をある程度は抑止することができる。従って、より一層、安全性の高い浴槽システムを提供することができる。
【0015】
上記構成において、前記振動検出手段は、圧電センサであり、前記脈波検出手段は、前記ユーザの指先の血流を検出する血流検出手段であることは、好ましい態様の一つである(請求項5)。
【0016】
上記構成において、前記浴槽本体に冷水を供給する注水手段をさらに備え、前記制御手段が、前記排水手段を制御して前記排水栓を開放状態とする前に、前記注水手段を制御して前記浴槽内に冷水を注水させる構成とすることができる(請求項6)。
【0017】
この構成によれば、閾値以上の血圧変動が発生したとき、湯の排水の前に冷水が浴槽に注水される。これにより、湯温は低下することになり、ユーザの血圧を正常値に回復させることを試みるステップを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の浴槽システムによれば、入浴中のユーザの血圧変動を監視し、異常な血圧変動が生じた場合に浴槽の湯を排出させることができる。従って、入浴中の事故を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る浴槽システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明者の実験結果を示すグラフであり、被験者の胸に実際に電極を装着して測定した心電図と、圧電素子によって捉えた被験者の振動(体動)とを示す。
【図3】ユーザの心拍に伴う振動(体動)と脈波との検出タイミングによる血圧変動の推定方法を説明するための図である。
【図4】ユーザの振動と脈波との検出タイミング差による脈波伝搬時間の求め方を説明するためのフローチャートである。
【図5】血圧の異常低下の判定から、それによる浴槽の水抜き動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】入浴時の血圧変化の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の変形実施形態に係る浴槽システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る浴槽システムSの構成を示すブロック図である。浴槽システムSは、大略的に、浴槽本体1に入浴中のユーザ2の血圧変動を血圧変動検知部3(判定手段及び制御手段)が検出し、該血圧変動検知部3により予め定める閾値以上の血圧変動、例えば10〜20%以上の血圧低下が検知されると、排水手段4に排水のトリガが与えられ、浴槽本体1の排水栓41が開放される。この排水栓41の開放により、浴槽本体1内に貯留されている湯は排出されることになる。血圧変動検知部3における血圧変動検知のために、浴槽システムSは、振動検出部5(検知手段;振動検出手段)及び血流検出部6(検知手段;脈波検出手段)と、脈波伝搬時間解析部7(解析手段)とを備えている。
【0021】
浴槽本体1は、湯14を貯留し、ユーザ2が入浴するキャビティを有する器であって、その上面開口部の周縁に縁部11と、ユーザ2が入浴時に着座する底部12とを備える。この底部12には、浴槽本体1内に一旦貯留された湯14を配水経路へ排出させるための排水口13が設けられている。そして、当該排水口には、後述する排水手段4が付設されている。このほか、水又は湯を浴槽本体1内に供給する給水栓及び給湯栓(図略)や、ユーザが入浴時に把持する手摺り等(図略)が、浴槽本体1に付設されている。
【0022】
浴槽本体1の縁部11上には枕部54が配置されている。この枕部54は、入浴しているユーザ2が、その後頭部を載置することを想定したものである。枕部54は、頭部の形状に倣った凹形状を備え、ユーザ2を後頭部において支える役目を果たす。枕部54に後頭部を据えた状態のユーザ2は、その臀部及び後頭部で体が支持されるようになり、仮に虚脱状態となったとしても、入浴体位を維持できる可能性が高くなる。
【0023】
血圧変動検知部3は、入浴中のユーザ2の血圧情報に基づいて、予め定める閾値以上の血圧変動が発生したか否かを判定すると共に、前記閾値以上の血圧変動が発生したときに、排水手段4を制御して排水栓13を開放状態とする制御を行う。この血圧変動検知部3については、後記で詳述する。
【0024】
排水手段4は、浴槽本体1の排水口13に設けられる排水栓41と、その排水栓41を駆動するソレノイドなどの駆動装置42とを含む。駆動装置42は、血圧変動検知部3によりその動作が制御され、排水栓41を、排水口13を閉栓する閉止状態(浴槽本体1への貯湯時)と、排水口13を開放する開放状態(浴槽本体1からの湯水の排水時)との間で移動させる。
【0025】
振動検出部5は、入浴中のユーザ2の心臓鼓動に基づく体表面の振動(ユーザの生体情報の一つ)を検出するために配置され、圧電素子51、増幅器52及び演算装置53を備える。圧電素子51は、振動を電圧信号に変換するセンサ要素であって、ユーザ2の体表面に直接又は間接的に当接され、心臓鼓動に基づく体表面の振動を検出して電圧信号を出力する。本実施形態では、圧電素子51は、浴槽本体1の縁部11に配置された枕部54に内蔵されている。従って、本実施形態では、ユーザ2の後頭部における振動(心臓鼓動に基づく体表面の振動)を検出する。
【0026】
増幅器52は、圧電素子51から出力される微弱な電圧信号の振幅レベルを増幅する。増幅された電圧信号は、演算装置53に与えられる。演算装置53は、入力された電圧信号を適宜処理し、心電図におけるR波(収縮時の信号)を抽出する。例えば演算装置53は、前記電圧信号を時間軸に展開して当該電圧信号波形のピーク値(振動ピーク)を求める処理を行う。図1において参照符号α1で示す波形は、増幅器52の出力波形の一例であって、演算装置53は当該出力波形において○印を付与しているピーク値及びその時刻情報を検出する演算を行う。かかる振動ピークは、心電図におけるR波(心臓収縮時の信号)の発生タイミングに対応して発生する。
【0027】
図2は、本発明者の実験結果を示すグラフであり、図2(a)は、ユーザの胸に実際に電極を装着して測定した心電図であり、図2(b)は、圧電素子51によって捉えた体表面の振動である。両者の振幅レベルは、比較がし易いように、最大振幅がほぼ一致する程度にスケール調整している。これらの図2(a)と図2(b)とを比較して明らかなように、心電図においてR波が検出されてから、一定時間経過後に、体振動にもピークが検出されている。従って、圧電素子51によって検出される振動から、心電図におけるR波に相当する情報を抽出可能であることが理解される。
【0028】
血流検出部6は、ユーザ2の指先(ユーザの末梢部)の血流を検出するための血流検出手段であって、センサ部61、増幅器62及び演算装置63を備える。センサ部61は、クリップ等(図略)の装着手段によってユーザ2の指先22に装着され、発光素子64と受光素子65とを含む。発光素子64は指先22に向けて投光し、受光素子65はその反射光を受光する。ここで、筋や組織、静脈は容積に変化がないため光の吸収は一定であるが、動脈は心臓鼓動に基づき拍動し容積が変化することから、光の吸収量が時間軸上で変化する。従って、受光素子65の光電変換出力信号の時間変化に基づき、ユーザ2の脈波を検出することができる。
【0029】
増幅器62は、センサ部61から出力される微弱な電圧信号の振幅レベルを増幅する。増幅された電圧信号は、演算装置63に与えられる。演算装置63は、入力された電圧信号を適宜処理して脈波を抽出する。例えば演算装置63は、前記電圧信号を時間軸に展開することで脈波のピーク値(脈波ピーク)を求める処理を行う。図1において参照符号α2で示す波形は、増幅器62の出力波形の一例であって、演算装置63は当該出力波形におけるピーク値及びその時刻情報を検出する演算を行う。かかる脈波ピークも、心電図におけるR波(心臓収縮時の信号)の発生タイミングに対応して発生する。
【0030】
脈波伝搬時間解析部7は、振動検出部5による振動ピークの検出タイミングと、血流検出部6による脈波ピークの検出タイミングとの間の時間差から、血圧に応じて変化する脈波伝搬時間を求める。つまり、脈波伝搬時間解析部7は、振動検出部5及び血流検出部6の出力を時間解析して血圧変動情報に変換する。具体的には、図3に示すように、振動検出部5により検出される振動波形α1における振動ピークの検出タイミングP1から、血流検出部6により検出される脈波波形α2の立ち上がりタイミングP2(脈波ピーク)までの時間差Tを求める。
【0031】
図4は、脈波伝搬時間解析部7による時間差Tの求め方を説明するためのフローチャートである。脈波伝搬時間解析部7は、振動検出部5において、振動波形α1における振動ピーク(R波)が検出されるまで待機する(ステップS1)。振動ピークが検出されると(ステップS1でYES)、その検出タイミングP1においてタイマをリセットし、スタートさせる(ステップS2)。
【0032】
次に脈波伝搬時間解析部7は、血流検出部6において、脈波波形α2の立ち上がりが検出されるまで待機する(ステップS3)。立ち上がりが検出されると(ステップS3でYES)、その検出タイミングP2において前記タイマをストップさせる(ステップS4)。脈波伝搬時間解析部7は、このタイマのカウント値を前記時間差Tとして取得する。その後、ステップS1に戻り、次の振動ピークが検出されるまで前記カウント値が保持され、検出されると処理を繰返し、カウント値が更新される。
【0033】
こうして求められた時間差Tは、脈波の体内伝搬時間(速度)τを示すことになる。すなわち、心臓から比較的近い後頭部において心臓振動を検出する振動検出部5が導出する振動ピークと、心臓から比較的遠い指先において脈波を検出する血流検出部6が導出する脈波ピークとは、同じ心臓R波に起因するものではあるが、血流距離に応じて所定の時間差Tを持って検出されることになる。
【0034】
そして、この時間差Tは、図3において参照符号α3で示すグラフのように、ユーザの血圧に応じて変化する。すなわち、脈波伝搬時間τが、長いと相対的に血圧が低く、短いと相対的に血圧が高いと判断することができる。このように、脈波が末梢血管に伝わる速度と血圧との間には強い相関があるので、血圧計を直接用いることなく、脈波伝搬時間τに基づき血圧を求めることができる。
【0035】
血圧変動検知部3は、演算部31、判定部32(判定手段)及び制御部33(制御手段)を備える。図3では、血圧変動検知部3がパーソナルコンピュータとして図示しているが、実際には、解析プログラムや制御プログラムが搭載されているマイクロプロセッサ等で実現することができる。
【0036】
演算部31は、脈波伝搬時間解析部7によって求められる脈波伝搬時間τを、所定時間毎、或いはR波の検出の度にサンプリングし、図3において参照符号α4のグラフにおいて示すような、血圧の変動波形α5を取得する。さらに演算部31は、この変動波形α5に対して平滑化等の所定の信号処理を行うことで、血圧変動の推定波形α6を求める。
【0037】
ここで、図3の参照符号α4のグラフでは、縦軸には最高血圧の絶対値が示されているが、前記脈波伝搬時間τから求められるのは最高血圧の相対変動値である。絶対値を求める場合には、入浴前(時刻t=0)などにおいて、別途血圧計などで実際の血圧値を求め、前記相対変動値の初期値として設定すればよい。なお、振動検出部5によって検出される振動波形α1は、相対変動値であるので、心臓から圧電素子51までの距離、すなわちユーザ2の身長などの差による到達時間差を、特に考慮する必要はない。
【0038】
判定部32は、演算部31により求められる推定波形α6(血圧情報)に基づいて、入浴中のユーザ2において、予め定める閾値以上の血圧低下(血圧変動)が発生したか否かを判定する。前記閾値は、ユーザの年齢、性別、平常時血圧等に応じて適宜設定することができるが、例えば10〜20%以上の血圧低下が短時間(数分〜十数分程度)で生じた場合を例示することができる。
【0039】
制御部33は、前記閾値以上の血圧変動が発生したと判定部32は判定したときに、排水手段4の駆動装置42にトリガ信号を与え、排水栓41を開放状態とさせる。上記の如き急激な血液低下が生じた場合、ユーザ2において重大な疾病、例えば血圧低下による意識障害(失神)が発生したと推定し、制御部33は浴槽本体1内の湯を強制排出させる動作を行わせる。
【0040】
図5は、血圧変動検知部3による処理動作を説明するためのフローチャートである。演算部31は、脈波伝搬時間解析部7で新たな脈波伝搬時間τのサンプリングデータが得られるまで待機する(ステップS11)。図3に示す脈波伝搬時間の変動波形α5のようなデータが得られると(ステップS11でYES)、そのデータが初期値として設定されるべきタイミングで取得されたか否かが判定される(ステップS12)。初期値設定タイミングである場合(ステップS12でYES)、その脈波伝搬時間τのデータが初期値として設定される(ステップS13)。その後、ステップS11に戻る。
【0041】
一方、初期値設定タイミングでない場合(ステップS12でNO)、脈波伝搬時間τのサンプルデータが初期値設定以降、所定数蓄積されているか否かが判定される(ステップS14)。所定数のデータが蓄積されていない場合(ステップS14でNO)、その脈波伝搬時間τのデータが図略のメモリに格納される(ステップS15)。その後、ステップS11に戻る。
【0042】
これに対し、所定数のデータが蓄積されている場合(ステップS14でYES)、演算部31は、蓄積されたデータに基づいて平滑化等の信号処理を行い(ステップS16)、図3に示した血圧変動の推定波形α6を求める。この推定波形α6は、予め定められた時間内(例えば数分〜十数分程度)における血圧変動を示すデータとなる。そして、判定部32により、推定波形α6においてステップS13で設定した初期値との比較において、予め定める閾値以上の血圧低下(図5では20%を例示)が生じているか否かを判定する(ステップS17)。
【0043】
判定部32が、閾値以上の血圧低下が発生していると判定した場合(ステップS17でYES)、これを受けて制御部33は、排水手段4の駆動装置42に排水トリガ信号を出力する(ステップS18)。これにより、浴槽本体1内の湯が排出される。一方、閾値以上の血圧低下が発生していない場合(ステップS17でNO)、ステップS11に戻って処理が繰り返される。この際、ステップS13で設定された初期値をリセットさせても良い。
【0044】
図6は、あるユーザの入浴時における血圧変化の一例を示すグラフである。参照符号α11は湯温38℃の温めのお湯の場合であり、参照符号α12は湯温42℃の熱めのお湯の場合を示す。温めのお湯の場合は、元々体温に近く、入浴開始から暫くすれば血圧の低下は収まり、その後安定していることが理解される。これに対して、熱めのお湯の場合は、体温と差が大きいので、かなりの時間、血圧が低下し続け、最終的に温めのお湯の場合よりも血圧は大きく低下することが理解される。この図6において、前記20%の閾値を参照符号α13で示す(初期値は0分時点の血圧)。そのような閾値を用いた場合、この図6の例では、7分の時点で浴槽本体1の排水が行われることになる。
【0045】
以上のように、本実施形態の浴槽システムSによれば、ユーザ2の血圧変動を監視し、その変動が所定値、たとえば10〜20%以上の血圧低下を示す場合に、排水手段4の排水栓41が駆動され、浴槽本体1の湯が排水される。従って、入浴中の事故において多くの割合を占める、血圧低下による意識障害による溺れ事故を未然に防止することができる。
【0046】
また、浴槽システムSは、ユーザ2の指先22に血流検出部6を装着するものの、浴槽本体1には心臓鼓動に基づく体表面の振動を検出する圧電素子51を内蔵した枕部54を配置する構成であるので、浴槽本体1内において露出した電極の設置を不要にすることができる。これによって、湯14の量に拘わらず(半身浴などでも)、正確な検知を行うことができるとともに、排水しながらもユーザ2の血圧を検出し続けることができる。また、ユーザ2に違和感を与える等の意匠上の問題や、汚れが蓄積する等のメンテナンス上の問題も解消することができる。さらに、漏電等でユーザ2に負担を掛ける虞もない。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採ることができる。
【0048】
(1)上記実施形態では、血圧変動検知部3は、血圧が予め定める閾値以上低下した場合に、排水栓41を操作して湯14の排水を行なわせる例を示した。その変形実施形態として、強制排水を実行させる閾値よりも小さなもう1つの閾値を設定し、そのもう1つの閾値となった時点で、浴槽本体1内に冷水を供給させるようにしても良い。これは、冷水の供給により湯温を低下させ、ユーザの血圧を正常値に回復させることを試みるステップを設定するためである。
【0049】
図7は、変形実施形態に係る浴槽システムSAの構成を示すブロック図である。図1に示した浴槽システムSと相違する点は、浴槽本体1に冷水を供給する冷水栓81(注水手段)が備えられている点である。この冷水栓81への給水系統には開閉弁82が備えられ、該開閉弁82の開閉動作は血圧変動検知部3によって制御される。
【0050】
血圧変動検知部3においては、強制排水させる血圧低下レベルである第1閾値(例えば初期値に対する20%の血圧低下)と、強制冷水注水させる第2閾値(例えば10%)との2つの閾値が設定される。血圧変動検知部3は、第2閾値を超過する血圧低下が検出された場合、開閉弁82を所定期間だけ開状態として、冷水栓81から冷水を浴槽本体1内へ注水させる。その後、血圧低下が改善されず、第1閾値を超過する血圧低下が検出された場合、血圧変動検知部3は、排水栓41を開状態とし、浴槽本体1内の湯を強制排出させるものである。
【0051】
(2)上記実施形態では、振動検出部5を、心臓鼓動の検出用に専ら利用する例を示した。この振動検出部5を、さらに、ユーザ2の体動や呼吸の検出用に利用して、ユーザ2において何らかの異常が生じていないかを判定するようにしてもよい。
【0052】
(3)上記実施形態では、ユーザの血圧情報を検知する検知手段として、圧電センサと脈波検出センサとを用い、脈波伝搬時間τに基づき血圧を求める例を示した。このような検知手段は一例であり、血圧変動を検出可能な他の用法を用いても良い。
【0053】
(4)上記実施形態では、脈波測定手段として、指先に装着した発光素子64及び受光素子65により光電脈波を測定する例を示した。これに代えて、浴槽縁など手掌部が届く部分あるいは浴槽壁など後背部が接する部分に圧電素子を設置し、指や手掌部または後背部を前記圧電素子に接触させて得られる動脈拍動に基づく電圧信号を、脈波信号として測定することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 浴槽本体
11 縁部
12 底部
13 排水口
2 ユーザ
3 血圧変動検知部
31 演算部(解析手段)
32 判定部(判定手段)
33 制御部(制御手段)
4 排水手段
41 排水栓
42 駆動装置
5 振動検出部(振動検出手段)
51 圧電素子
54 枕部
6 血流検出部(脈波検出手段:血流検出手段)
7 脈波伝搬時間解析部
81 冷水栓(注水手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水栓を備えた浴槽本体と、
閉止状態にある前記排水栓を開放状態とすることが可能な排水手段と、
前記浴槽本体へ入浴中のユーザの血圧情報を検知する検知手段と、
前記血圧情報に基づいて、予め定める閾値以上の血圧変動が発生したか否かを判定する判定手段と、
前記閾値以上の血圧変動が発生したときに、前記排水手段を制御して前記排水栓を開放状態とする制御手段と、
を含むことを特徴とする浴槽システム。
【請求項2】
前記検知手段が、
前記入浴中のユーザの生体情報を取得して出力するセンサと、
前記センサの出力値を時間解析して血圧変動情報に変換する解析手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の浴槽システム。
【請求項3】
前記センサが、前記ユーザの心臓鼓動に基づく体表面の振動を検出する振動検出手段と、前記ユーザの血管脈波を検出する脈波検出手段とを含み、
前記解析手段は、前記振動検出手段による振動ピークの検出タイミングと、前記脈波検出手段による脈波ピークの検出タイミングとの間の時間差から、血圧に応じて変化する脈波伝搬時間を求めることを特徴とする請求項2に記載の浴槽システム。
【請求項4】
前記浴槽本体の縁部に配置されて前記ユーザの頭部を支え、前記振動検出手段を内蔵する枕部と、
前記ユーザの末梢付近の血管の近傍に前記脈波検出手段を装着する装着手段と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の浴槽システム。
【請求項5】
前記振動検出手段は、圧電センサであり、
前記脈波検出手段は、前記ユーザの指先の血流を検出する血流検出手段であることを特徴とする請求項3又は4に記載の浴槽システム。
【請求項6】
前記浴槽本体に冷水を供給する注水手段をさらに備え、
前記制御手段が、前記排水手段を制御して前記排水栓を開放状態とする前に、前記注水手段を制御して前記浴槽内に冷水を注水させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の浴槽システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−125281(P2012−125281A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276688(P2010−276688)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】