説明

海生生物付着防止塗料及びその調製方法

変性エポキシ樹脂に対して、スルファミン酸及びホウ酸の混合液に焼成動物骨粉を溶解させて得られる混合溶液が含浸せしめられた二酸化ケイ素粉末を充填した主剤100重量部と、前記変性エポキシ樹脂に対する硬化剤20〜30重量部と、からなる海生生物付着防止塗料及びその調製方法である。これら主剤及び硬化剤を混合した塗料を所要部位に塗布して塗膜を形成することにより、船体、海中構造物、海水の取・放水管路、港湾施設等に対する海生生物の付着を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、焼成した動物骨粉および無機系酸を混入した水中塗料に関し、特に、その塗装面に対して貝類、海草・海藻類その他動植物性の海生生物の付着を防止する機能を有する海生生物付着防止塗料及びその調製方法に関する。
【背景技術】
海洋を航海する船舶の船底および舷側、鋼鉄製および鉄筋コンクリート製などの橋脚・ドックその他の海中構造物、浮標・灯浮標その他の航路標識(ブイ)等の港湾施設、火力発電所および原子力発電所における復水器冷却水系取・放水管、海上構造物の水没領域等には多種の巻貝、牡蠣、その他多くの付着性貝類、海草・海藻のような各種動植物性海生生物が付着しやすい。
このような海生生物が船舶の船底に付着すると表面の滑らかさが損なわれる結果、航行時の抵抗が増大して船速を鈍らせるばかりでなく、燃料消費が大幅に増大する。また、復水式タービンを使用する汽力発電所や原子力発電所の冷却水系の取・放水管路内面にこれら海生生物が多く付着すると、復水器能力が低下し、それに伴って発電所出力を低下させることになりエネルギー対策上も望ましくない。
さらに、防波堤、波消しブロック、航路標識などの各種港湾施設、橋脚その他の海中構造物、海上構造物の水没部分等に海生生物が多く付着すると、観光地などにあっては干潮時の美観を損ない、極端な場合は構造材自体の寿命を短縮しまたはその機能に悪影響を与える可能性がある。
このような各種海生生物が船底、取・放水管内面、その他の構造物に付着し繁殖した後にこれら海生生物を除去するためには、多大の費用と時間が必要となる上、構造材を損傷する可能性があるために可能な限り各種海生生物の付着を防止する手段が求められている。例えば、各種海生生物が船底に付着する事態を防止するために、例えば有機スズを含有せしめた特殊塗料による船底塗装が世界各国で広く採用されていた。
しかしながら、この有機スズは海水中に溶出して生態系に悪影響を与える、いわゆる内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)の可能性があるため新たな使用は好ましくなく、国際的に使用を禁止するよう提唱されている。また、塗膜表面を平滑化することにより海生生物の付着を防止するためにシリコーン系素材でコーティングする手段も知られているが、その効果は短期間しか持続しないことが多く、耐久性の点で十分な効果は得られていない。
ここに示すような海水中における対象物の表面に物理的ならびに化学的に安定した保護塗膜を形成するための、いわゆる防食塗料としては、エポキシ樹脂を基材として各種硬化剤を添加するタイプのものが広く採用されている。エポキシ樹脂を主剤とする塗料は、接着性、耐水性、耐薬品性、機械的強度に優れた防食塗料または防汚塗料として適していることが知られており、多くの実例が開示されている。
例えば、特開平6−287276号公報は、多官能エポキシ樹脂を主剤とし、カルボキシル基を有するポリエチレンオキサイド類とポリアミンとからなるポリアミドアミンをエポキシ樹脂で変性した化合物を硬化剤として、その配合物を水分散剤とした水性エポキシ樹脂組成物を開示している。また、特開平7−309929号公報は、分子内にポリオキシエチレン鎖を有する多価アルコールと多価カルボン酸またはその酸無水物とを反応させて得られる分子内に2個以上のカルボキシル基を有するポリエステル樹脂のカルボキシル基とエポキシ樹脂のエポキシ基とを反応させることによって得られるエポキシ樹脂が耐水性に優れており、この水溶液に対してポリアミドアミン系その他硬化剤と共に使用することにより耐水性に優れた塗料が得られることを開示している。さらに、特開2001−335740号公報は、変性エポキシ樹脂に対して焼成された動物骨粉を充填した主剤に対して、変性脂肪族ポリアミンまたはポリアミドアミンを硬化剤とすることにより、耐水性に優れかつ微生物類の付着を防止する塗料を開示している。これらの先行技術において船底、冷却水系の取・送水管、橋脚その他海中構造物の表面に、可能な限り海生生物が付着しないような塗料の開発が求められているが、長期間にわたる十分な付着防止効果は得られていない。
本発明の課題は、海生生物の付着を効果的に防止することができる塗装面を形成するための海生生物付着防止塗料及びその調整方法を提供することにある。
【発明の開示】
本発明は、変性エポキシ樹脂に対して、スルファミン酸およびホウ酸の混合液に焼成動物骨粉(アパタイト)を溶解させて得られる混合溶液が含浸せしめられた二酸化ケイ素(SiO)粉末を充填した主剤100重量部と、前記変性エポキシ樹脂に対する硬化剤20〜30重量部と、からなることを特徴とする海生生物付着防止塗料を提供するものである。本発明に係る前記エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型液状エポキシ樹脂とすることができる。また、エポキシ樹脂に代えてシリコン樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂等も適用できる。このようなエポキシ樹脂に充填される二酸化ケイ素粉末(シリカ)に対して含浸せしめられる前記焼成動物骨粉(アパタイト)は、動物生骨、例えば牛骨を煮沸し、900℃〜1100℃前後の高温で焼成し、破砕することにより得ることができる。
このようにして得られる動物骨粉を、80〜100℃程度に加熱されたスルファミン酸70重量部とホウ酸1〜3重量部の混合液に投入し、約10〜30分程度撹拌して得られる混合溶液を二酸化ケイ素に含浸させた後、温風乾燥または自然乾燥することによって塗料主剤が得られる。この場合の動物骨粉が混合溶解した混合溶液と二酸化ケイ素の混合比は100対90、90対100あるいは100対100程度である。さらに、前記硬化剤は、変性脂肪族ポリアミン及び/又はポリアミドアミンとすることができ、その硬化剤10〜40重量部、好ましくは20〜30重量部を前記塗料主剤100重量部に混合して塗装される。
本発明は、前記変性エポキシ樹脂に対して、スルファミン酸およびホウ酸の混合液に焼成された動物骨粉を混入して得られる混合溶液を二酸化ケイ素に含浸させた粉末を充填した主剤と、変性脂肪族ポリアミン及び/又はポリアミドアミンのような硬化剤と、の2液混合型の塗料として使用することができる。なお、スルファミン酸に代えて硫酸、塩酸、硝酸等の無機系の酸も適用できる。本発明に係る塗料の主剤に充填せしめられる二酸化ケイ素粉末は、スルファミン酸70重量部と、ホウ酸1〜3重量部とを混合して80〜100℃程度に加熱し、その結果得られた混合溶液に対して焼成動物骨粉約10〜40部を混入して十分に撹拌して得られた混合液を含浸せしめられた後乾燥されたものである。なお、スルファミン酸はpH1〜2の強酸、焼成動物粉はpH10〜11である。
本発明に係る海生生物付着防止塗料は、塗料主剤に二酸化ケイ素粉末を充填したことにより耐水性、接着性、表面硬度が向上し、無機系強酸であるスルファミン酸を含む焼成動物骨粉が含まれていることから海生生物の付着を効果的に排除することができる。したがって、船底、送・配水管内部、汽力発電所・原子力発電所等の復水器冷却水の取・放水施設などに塗布することにより貝類、海草・海藻等のような各種海生生物の付着を長期間にわたって大幅に低減することができる。その他橋脚、各種港湾施設、波消しブロック、海上構造物の基礎部分などの表面に塗布することにより同様の効果が期待できる。
本発明に係る海生生物付着防止塗料の使用にあたっては、主剤と硬化剤とを、前述のような所定割合で混合し、十分に攪拌して均一化せしめ、通常の塗料と同様に被塗装部位に塗布する。なお、耐久性を特に高めるには、数次に分けて下塗り、中塗り、上塗り等のように多層塗膜を形成することにより強固で、かつ海生成物付着防止効果の良好な塗膜を形成することができる。
本発明に係る塗料は、充填されている二酸化ケイ素ならびに含浸せしめられる動物骨粉の粒度の影響や、主剤・硬化剤混合後の粘度が高いこともあり、刷毛塗りやローラー塗りが適している。なお、本発明に係る塗料をエアガンにより塗布する場合には、硬化速度を調整するために、例えばトルエン、キシレン等の硬化遅延剤を適宜混入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明に係る海生生物付着防止塗料の主剤に充填される二酸化ケイ素の調製法について開示するが、本発明の精神と技術範囲を越えない限り、これら実施例によってその技術的範囲が限定されるものではない。
エポキシ樹脂を主成分とする主剤に充填される焼成された動物骨粉の粒度は、100〜400メッシュ程度が適している。このような微細な動物骨粉を均等に充填するため、無機強酸であるスルファミン酸に混合して溶解させる必要がある。pH2程度となるように水で希釈されたスルファミン酸70部とホウ酸1〜3部とによる混合液の温度を80〜100℃とし、焼成動物骨粉を少量ずつ順次混入して溶解せしめる。
次いで、スルファミン酸及びホウ酸に焼成動物骨粉を溶解した液状体を二酸化ケイ素に含浸せしめ、その後、温風乾燥、自然乾燥等により水分その他揮発成分を除去する。このようにして得られた二酸化ケイ素粉末をエポキシ樹脂液中に充填して分散度が均等になるように撹拌することにより、塗料主剤が形成される。この場合のエポキシ樹脂液は、前述のようにビスフェノールA型液状エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型液状エポキシ樹脂とすることができる。
本発明で用いる動物骨粉は、従来屠殺場等でほとんど廃棄されており、通常は厄介視されている骨、特に牛、馬、羊等の硬骨を主体とする動物の骨であり、ここでは生骨を次のように処理して得たものを使用した。生骨を焼成しやすい大きさに切断し、煮沸し、900℃〜1100℃前後で焼成する。骨に骨成分以外のゼラチン、脂肪、淡白質、にかわ等の有機物が残存すると酸化腐敗の原因となるので、これらを確実に除去する必要がある。上記煮沸工程によって、骨の外側のみならず気孔内に付着している有機物が骨から大方分離除去される。その上で上記焼成工程を行うことによって、残存する有機物を完全に除去することができ、同時に骨中の湿度(水分)を数%以下、好ましくはほぼ0%にまで低下させた焼成動物骨粉を得る、これがいわゆるアパタイトとなる。
上記焼成条件によれば、骨は完全に白骨化して無数の気孔を有する原形組織状態を維持する。焼成冷却後、この骨を破砕して骨粉とする。このようにして得られた骨粉は、生骨の場合、原料の生骨に比して重量比約40%の収量が得られる。粒子は、カルシウム(約33重量%)を主成分とし、リン(約16.7重量%)、バリウ厶(約1.03重量%)、ナトリウ厶(約0.76重量%)、イオウ(約0.64重量%)、他にマグネシウム、カリウム、塩素、アミン、鉄等からなっており、粒子の内外にわたって無数微小気孔が連通存在しており、アルカリ性であって、イオン交換作用を発揮する。
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、変性脂肪族ポリアミン、ポリアミドアミン等が使用可能である。
このような主剤および硬化剤は、使用に先立ち、作業時間30〜40分程度で使い切る程度の分量を考慮して主剤100重量部に対して20〜30重量部の割合で混合し、十分に攪拌することにより本発明に係る所期の塗料が得られる。このようにして得られる塗料は、主剤に充填されている二酸化ケイ素および焼成動物骨粉により耐久性が向上し、さらにこの主剤に含まれている酸成分により海生生物付着防止効果が長期間にわたり持続する。
さらに、主剤を構成するエポキシ樹脂の特性から、被塗装物との間に介在する水分の影響を受け難く、水分の存在下、極端な場合には水中でも塗布することが可能で、介在する水分は硬化過程において外部に排出され、塗膜と被塗装面との密着性が得られる。
本発明に係る海生生物付着防止塗料の具体的適用箇所例を列挙すれば以下のようなものが挙げられ、船舶や送水管等の抵抗増大の防止、構造材劣化の防止、美観の維持等に効果がある。なお、これらは単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
1.海水使用施設関係 汽力発電所および原子力発電所等における復水器冷却用海水取・放水管路の内壁面、高潮防止用その他水門およびそれらの付属施設、水族館、海洋レジャーセンター、製塩施設、海水淡水化装置、海水温度差発電施設等の海水流通路等。
2.船舶関係 客船、貨物船、各種タンカー等大形船舶の喫水下部分および船底、船具・漁具類、漁船・プレジャーボート・ヨット・水上バイク等の船底および外周部等。
3.港湾施設 浮標、灯浮標等、桟橋、護岸、波消しブロック等。
4.海上・海中構造物の基礎部分 橋脚、展望塔・観覧・遊覧施設、記念構造物、海中展望施設の外部等。
上述のような各適用箇所にあっては、それぞれの用途・目的に応じて、海中に常時没しまたは時間的に水没する船底、管路ない外壁、壁・床・柱等の被塗装面への全面塗布または所要部分のみへの選択的塗布のいずれであってもよい。また、それぞれの目的が効率低下防止、美観の維持、構造物構成材の保護、耐久性向上等のいずれであるか、あるいはいずれを重点とするか等により、形成塗膜の厚さ、塗装回数・塗膜層数等も適宜選定されるべきである。
なお、本発明に係る動物骨粉を含有する塗料の基剤であるエポキシ樹脂は硬化剤との相互作用によって極めて強力でかつ密着性の高い塗膜を形成する特徴がある。したがって、上述の海生生物付着防止作用はもとより、各種塗装対象のひび割れや破損・穴開き箇所を補修するような効果も期待できる。そのため、タンク類、管路類、排水溝等の漏水や漏油、汚水等の滲出・流出等を防止する効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
本発明に係る海生生物付着防止塗料によれば、塗料から徐放される酸の作用により海生生物付着忌避効果を発揮する結果、船底・舷側、海水の取・放水管内部のように海水流と構造物の間における相対的な流動抵抗の増大を防止することができる。さらに、海中構造物または海上構造物の基礎等に対する海生生物の付着を長期間にわたり防止することができ、美観の維持、構造材劣化の保護等に多大の効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性エポキシ樹脂に対して、スルファミン酸およびホウ酸の混合液に焼成動物骨粉を溶解させて得られる混合溶液が含浸せしめられた二酸化ケイ素粉末を充填した主剤100重量部と、前記変性エポキシ樹脂に対する硬化剤20〜30重量部と、からなることを特徴とする海生生物付着防止塗料。
【請求項2】
前記スルファミン酸およびホウ酸の混合比が、スルファミン酸70重量部に対しホウ酸が1〜3重量部であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の海生生物付着防止塗料。
【請求項3】
前記動物骨粉が、動物生骨として牛骨を煮沸し、900℃〜1100℃前後で焼成し、破砕して得られたものであることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項のいずれかに記載の海生生物付着防止塗料。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型液状エポキシ樹脂であることを特徴とする請求の範囲第1項または第3項のいずれかに記載の海生生物付着防止塗料。
【請求項5】
前記主剤に対する硬化剤は、変性脂肪族ポリアミン及び/又はポリアミドアミンであることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載の海生生物付着防止塗料。
【請求項6】
前記主剤と前記硬化剤とを、塗装前に混合する2液混合形であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第5項のいずれかに記載の海生生物付着防止塗料。
【請求項7】
スルファミン酸70重量部に対してホウ酸1〜3重量部を投入した混合液に動物骨粉10〜40重量部を混入して、80〜100℃において10〜30分間加熱しつつ溶解し、
前記混合溶解した混合溶液100重量部を二酸化ケイ素100重量部に含浸させ、
前記混合溶液を含浸させた二酸化ケイ素を乾燥および粉砕し、
前記乾燥および粉砕した二酸化ケイ素20〜30重量部を、変性エポキシ樹脂100重量部に対して混合および撹拌することにより得られる塗料主剤と、該塗料主剤100重量部に対して、塗装直前に硬化剤20〜30重量部を練り合わせる、
ことを特徴とする海生生物付着防止塗料の調製方法。

【国際公開番号】WO2005/080516
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510300(P2006−510300)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002969
【国際出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【特許番号】特許第3899119号(P3899119)
【特許公報発行日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000224329)
【Fターム(参考)】