説明

海面廃棄物処分場の遮水浄化システム

【課題】 従来の鋼管矢板壁では、継手部分の施工不良などにより水みちが生じた場合に、継手の深度方向に対してモルタル等が充填されているために、水みちの発生箇所を発見するのが困難であった。また、仮に水みちの発生箇所をセンサー等により特定できたとしても、水みちに対する補修作業が困難であった。
【解決手段】 鋼管継手6を相互に嵌合させて連結し、連結される互いの鋼管継手6の重なり部分に形成される隙間に膨潤性止水材12を充填させた鋼管矢板壁3と、相互に嵌合された鋼管矢板の鋼管継手6の内部に形成された空洞空間11に注入される液体13と、を有し、空洞空間11に注入される液体13の水位は、鋼管矢板壁3と接する廃棄物処分場の廃棄物2の高さより低くしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管相互を鋼管継手により嵌合してなる鋼管矢板を用いた海面廃棄物処分場の遮水浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各鋼管をH形鋼で嵌合する鋼管矢板壁が知られている。
【0003】
この種の鋼管矢板壁は、鋼管の相互を各鋼管の周面にフランジ端縁が結合するH形鋼で一体的に連結するもので、かかる相互連結と反対側には雄継手、雌継手を設けられている。雄継手と雌継手の嵌合は、雌継手のフランジの間に雄継手のフランジが入り込み、さらにフランジの先端は雌継手に近接し、囲繞された密閉空間が形成されるようになっている。そして、この密閉空間にトレミー管を用いてコンクリートやモルタル等の充填材を充填して、雌雄の継手と充填材により雌雄の継手同士の結合力、および継手部分における耐力を向上させるというものであった(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】2008−19608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の鋼管矢板壁では、継手部分の施工不良などにより水みちが生じた場合に、継手の深度方向に対してモルタル等が充填されているために、水みちの発生箇所を発見するのが困難であった。また、仮に水みちの発生箇所をセンサー等により特定できたとしても、水みちに対する補修作業が困難であるという問題もあった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、水みちの発見および補修作業の困難さをなくし、遮水性能の長期的な管理およびそれに伴う補修を容易に行うことができる海面廃棄物処分場の遮水浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様に係るものは、
鋼管相互を鋼管継手により嵌合してなる鋼管矢板を用いた海面廃棄物処分場の遮水浄化システムであって、海面と廃棄物処分場の境界に廃棄物埋立護岸として構築され、鋼管継手を相互に嵌合させて構成され、該構成される互いの鋼管継手の重なり部分に形成される隙間に膨潤性止水材を充填させた鋼管矢板壁と、相互に嵌合された鋼管矢板の鋼管継手の内部に形成された空洞空間に注入される液体と、を有し、空洞空間に注入される液体の水位は、鋼管矢板壁と接する廃棄物処分場の廃棄物の高さより低いことを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、鋼管継手を相互に嵌合させ、該嵌合される互いの鋼管継手の重なり部分に形成される隙間に膨潤性止水材を充填させた鋼管矢板壁を備えているので、従来のように水みちの発見および補修作業の困難さを生ずるものでなく、また仮に鋼管継手の重なり部分に形成される隙間に充填されている膨潤性止水材が劣化し遮水性能が低下しても、その遮水性能の長期的な管理およびそれに伴う補修も容易に行うことができる。すなわち、遮水性能の長期的な管理については、空洞空間の水位をモニタリングし、空洞空間の水位が著しく上昇することにより、鋼管矢板壁の海域側および処分場側の鋼管継手部両方あるいは片方の遮水性能の劣化を発見することができる。さらに、空洞空間に注入される液体の水位を鋼管矢板壁と接する廃棄物処分場の廃棄物の高さより低くしているので、空洞空間に流入する廃棄物層からの浸出水量が増加し、その流入した浸出水をポンプなどで集排水することにより遮水することが可能となるとともに、水溶性有害物質を含有し得る廃棄物層からの浸出水を揚水装置に排水することにより、廃棄物層の有害物質の浄化を図ることができる。
【0009】
本発明のうち第2の態様に係るものは、第1の態様に係る海面廃棄物処分場の遮水浄化システムであって、廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数は、1.0×10−11m/s以上にしたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数を1.0×10−11m/s以上といった高い透水係数にしているので、空洞空間に流入する廃棄物層からの浸出水ともに移流する有害物質量が増加し、廃棄物層からの有害物質の浄化を広い範囲で行うことができるとともに、浄化促進性能も向上させることができる。
【0011】
本発明のうち第3の態様に係るものは、第1の態様に係る海面廃棄物処分場の遮水浄化システムであって、廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数は、廃棄物処分場の廃棄物の透水係数と略同一以下にしたことを特徴とするものである。
【0012】
廃棄物層からの空洞空間に流入する浸出水量は、鋼管継手の透水係数と廃棄物層の透水係数の高い方の影響を受ける。本発明によれば、廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数を廃棄物処分場の廃棄物の透水係数と略同一以下にしているので、廃棄物層からの有害物質の浄化促進性能を向上させることができる。
【0013】
本発明のうち第4の態様に係るものは、第1〜第3のいずれかの態様に係る海面廃棄物処分場の遮水浄化システムであって、廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数は、1.0×10−10m/s以下にしたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数を1.0×10−10m/s以下といった低い透水係数にしているので、廃棄物底部の粘土層から移流する有害物質が低減するため、有害物質を廃棄物処分場に封じ込めることができる。これにより、廃棄物底部から移流する有害物質が少ない場合は、廃棄物層に存在する有害物質は唯一の流出経路となる鋼管継手に集中するので、結果として、浄化促進性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、空洞空間に注入される液体の水位を鋼管矢板壁と接する廃棄物処分場の廃棄物の高さより低くしているので、空洞空間に流入する廃棄物層からの浸出水量が増加し、その流入した浸出水をポンプなどで集排水することにより遮水することが可能となるとともに、水溶性有害物質を含有し得る廃棄物からの浸出水を揚水装置に排水することにより、廃棄物層の有害物質の浄化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における海面廃棄物処分場の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における鋼管矢板壁の鋼管と鋼管の連結部分の上面図である。
【図3】同連結部分の鋼管継手の重なり部分に形成される隙間に充填された膨潤性止水材の説明図である。
【図4】図2のA−A断面を示す図である。
【図5】鋼管矢板の鋼管継手の内部に形成された空洞空間に保持される水位と有害物質の質量フラックスの関係を示す図である。
【図6】廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数を変化させた場合の廃棄物の有害物質の濃度分布時刻暦を示す図である。
【図7】廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数と有害物質の質量フラックスの関係を示す図である。
【図8】廃棄物層の透水係数と浄化断面における有害物質の質量フラックスの関係を示すである。
【図9】廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数と有害物質の質量フラックスの関係を示すである。
【図10】廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数と濃度測定断面における有害物質の濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の海面廃棄物処分場の遮水浄化システムの一実施形態について図面を参照にしながら説明する。図1は本発明の一実施形態における海面廃棄物処分場の斜視図である。
【0018】
廃棄物処分場1は、海面と隣接する位置に建設され、廃棄物2の周囲を鋼管矢板壁3で包囲している(図1参照)。廃棄物処分場1の底部には粘土層4が堆積され、この廃棄物処分場1の廃棄物底部の粘土層4により底面が遮水されている。鋼管矢板壁3は、円柱形状した鋼管5相互を鋼管継手6により連結させている。ここで
鋼管5と鋼管継手6とは溶接により結合されている。なお、本実施形態では、H形鋼とH形鋼を用いた鋼管継手について説明するが、これに限らず、P形鋼とT形鋼と用いた鋼管継手、L形鋼とT形鋼と用いた鋼管継手などであってもよい。
【0019】
次に、鋼管矢板壁3について、図2および図3を用いて詳述する。図2は本発明の一実施形態における鋼管矢板壁の鋼管と鋼管の連結部分の上面図であり、図3は同連結部分の鋼管継手の重なり部分に形成される隙間に充填された膨潤性止水材の説明図である。
【0020】
鋼管矢板壁3は、海面と廃棄物処分場1の境界に構築され、鋼管継手6を相互に嵌合させて鋼管5が連結されたものである(図2参照)。具体的には、一方の鋼管5の周辺には鋼管継手6の雌継手8(幅300mm、高さ300mm(図3参照))が溶接により結合され、また他方の鋼管5の周辺には鋼管継手6の雌継手8より小形の雄継手9(幅250mm、高さ250mm(図3参照))が溶接により結合され、その雄継手9の端縁が雌継手8の端縁に嵌入することにより、鋼管5が相互に結合される。そして、この連結された互いの鋼管継手6の重なり部分の隙間には、膨潤性止水材12が充填させている(図3参照)。この膨潤性止水材12は、鋼管継手6の重なり部分に塗布した後膨潤する。これにより、重なり部分の隙間が膨潤性止水材12により充填される。このように、雌継手8と雄継手9との重なり部分の隙間のそれぞれの接触面に膨潤性止水材12を塗布することにより遮水機能が担保されている。そして、雌継手8と雄継手9により、相互に嵌合された鋼管継手6の内部に空洞空間11が形成される。このように、鋼管継手6を相互に嵌合させて連結され、該連結される互いの鋼管継手6の重なり部分に形成される隙間に膨潤性止水材12を充填させた鋼管矢板壁3を備えているので、従来のように水みちの発見および補修作業の困難さを生ずるものでなく、また仮に鋼管継手6の重なり部分に形成される隙間に充填されている膨潤性止水材12が劣化し遮水性能が低下しても、その遮水性能の長期的な管理およびそれに伴う補修も容易に行うことができる。すなわち、遮水性能の長期的な管理については、空洞空間11の水位をモニタリングし、空洞空間11の水位が著しく上昇することにより、鋼管矢板壁3の海域側および処分場側の鋼管継手6の両方あるいは片方の遮水性能の劣化を発見することができる。
【0021】
次に、空洞空間11を活用した遮水・浄化技術について、図4および図5を用いて説明する。図4は図2のA−A断面を示す図であり、図5は鋼管矢板の鋼管継手の内部に形成された空洞空間に保持される水位と有害物質の質量フラックスの関係を示す図である。なお、図5は廃棄物層の影響が粘土層に及ばないモデルを用いて行ったものである。ここで、鋼管矢板とは2本の鋼管を鋼管継手で連結した建材のことである.
【0022】
水溶性有害物質を含んだ廃棄物浸出水が廃棄物処分場1から鋼管矢板壁3を通過して廃棄物処分場外(海など)へ流出する場合、鋼管継手内(鋼管継手)の空洞空間11を必ず通過することになる。空洞空間11の内部には、液体13(たとえば、水)が注入されている。そして、この空洞空間11の内部に注入された液体13の水位は、鋼管矢板壁3と接する廃棄物処分場1の廃棄物2の高さより低く設定されている。これは、空洞空間11の内部に注入された液体13の水位を鋼管矢板壁3と接する廃棄物処分場1の廃棄物2の高さより低く設定するほうが、鋼管矢板の鋼管継手6の継手の浄化促進性能が高くなるからである(図5参照)。これについて図5を用いて説明する。図5に示すように、鋼管継手6の内部に形成された空洞空間11に保持する水位が−10mの場合、経過時間に関わらず浄化断面を通過する有害物質の質量フラックスは約0.15 l/m・yearである。一方、鋼管継手6の内部に形成された空洞空間11に保持する水位を−5mあるいは−1mに保持した場合、浄化断面を通過する有害物質の質量フラックスは各々約0.095 l/m・year、約0.0055 l/m・yearであり、空洞空間11内に保持する水位の上昇に伴って浄化性能は低下している。これは、空洞空間11の水位が高くなることによって空洞空間11へ流入する廃棄物層からの浸出水量が低減し、結果として、浸出水とともに移流する有害物質量も減少するためである。このように、空洞空間11に注入された液体13の水位を鋼管矢板壁3と接する廃棄物処分場1の廃棄物2の高さより低くしているので、空洞空間11に流入する廃棄物層からの浸出水量が増加し、その流入した浸出水をポンプ(図示略)などで集排水することにより遮水することできる。また、水溶性有害物質を含有し得る廃棄物層からの浸出水を揚水装置(図示略)に排水することにより、廃棄物層の有害物質の浄化を図ることができる。
【0023】
次に、鋼管矢板壁3の有害物質の封じ込め性能および浄化促進性能について、図6および図7を用いて説明する。図6は廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数を変化させた場合の廃棄物の有害物質の濃度分布時刻暦を示す図であり、図7は廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手の透水係数と有害物質の質量フラックスの関係を示す図である。なお、図6および図7は、廃棄物層の影響が粘土層に及ばないモデルを用いて行ったものである。
【0024】
廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手6の透水係数は、1.0×10−11m/s以上にしている。これは、廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手6の透水係数を1.0×10−11m/s以上といった高い透水係数にすることにより、空洞空間11に流入する廃棄物層からの浸出水ともに移流する有害物質量が増加し、廃棄物層からの有害物質の浄化を広い範囲で行うことができるとともに、浄化促進性能も向上させることができるからである。以下で具体的に説明する。
【0025】
図6に示すように、鋼管継手6の内部の空洞空間11に低水位環境を形成した場合、鋼管継手6の透水係数に関らず、鋼管継手6の継手近傍から廃棄物層における有害物質の浄化が進行している。また鋼管継手6の透水係数が高いほうが浄化範囲は広くなる。すなわち、鋼管継手6の透水係数が高いほうが広い範囲を浄化することができる。ここで、図6の処分場側鋼管継手の初期濃度は「0」で全水頭は−10mとし、廃棄物層の初期濃度は「1」で全水頭は2mとしている。また、図7に示すように、浄化断面を通過する有害物質の質量フラックスは経過時間に関らず、廃棄物処分場側の鋼管継手6の透水係数がk=1.0×10−7m/s、k=1.0×10−9m/sおよびk=1.0×10−11m/sのとき、各々約3.4 l/m・year、約0.15 l/m・year、約0.027 l/m・yearとなる。このように、鋼管継手6の透水係数が高いほうは浄化促進性能が優れている。これは、鋼管継手6の透水係数の上昇に伴って移流の影響が卓越し、結果として鋼管継手6の継手の浄化促進性能が飛躍的に向上するからである。よって、鋼管継手6の継手は、鋼管継手6の透水係数を高めることにより優れた浄化促進性能を発揮させることができる。
【0026】
次に、鋼管継手6の透水係数と廃棄物層の透水係数との関係について説明する。図8は廃棄物層の透水係数と浄化断面における有害物質の質量フラックスの関係を示すである。なお、図8は廃棄物層の影響が粘土層に及ばないモデルを用いて行ったものである。
【0027】
廃棄物処分場1の鋼管矢板の鋼管継手6の透水係数は、廃棄物処分場1の廃棄物2の透水係数と略同一以下にしている。これについて以下で具体的に説明する。
【0028】
図8に示すように、廃棄物層の透水係数がk=1.0×10−5m/s、およびk=1.0×10−8m/sで、廃棄物処分場側の鋼管継手6の透水係数がk=1.0×10−9m/sの場合、経過時間に関らず浄化断面を通過する有害物質の質量フラックスは約0.15 l/m・yearであり、一方、廃棄物層の透水係数がk=1.0×10−11m/sまで低下すると、経過時間に関らず浄化断面を通過する有害物質の質量フラックスは約0.055 l/m・yearとなる。このように、廃棄物層の透水係数が鋼管継手6の透水係数より低くなると、鋼管継手6の継手の浄化促進性能も低減することがわかる。これは、廃棄物処分場1から鋼管継手6の内部の空洞空間11への流入量は、廃棄物層の透水係数と鋼管継手6の透水係数が低い方に影響を受けるためである。すなわち、廃棄物層の透水係数が鋼管継手6の透水係数より高い場合は、廃棄物層を流れる水の流速は廃棄物処分場側の鋼管継手6の透水係数によって決まる。一方、廃棄物層の透水係数が鋼管継手6の透水係数より低い場合は、廃棄物層を流れる水の流速は廃棄物処分場側の鋼管継手6を流れる水の流速より緩慢となる。その結果、鋼管継手6を通過して空洞空間11に流入する流量が減少し、移流に伴う有害物質の浄化促進が抑制されるようになる。このように、本実施形態では、廃棄物処分場側の鋼管矢板の鋼管継手6の透水係数を廃棄物処分場1の廃棄物2の透水係数と略同一以下にしているので、廃棄物層からの有害物質の浄化促進性能を向上させることができる。
【0029】
次に、粘土層4の透水係数と浄化促進性能および封じ込め性能との関係について説明する。ここで、図9は廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数(鋼管継手6の透水係数はk=1.0×10−9m/s)と有害物質の質量フラックスの関係を示すであり、図10は廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数と濃度測定断面における有害物質の濃度の関係を示す図である。
【0030】
廃棄物処分場1の廃棄物底部の粘土層4の透水係数を1.0×10−10m/s以下にしている。これについて以下で具体的に説明する。
【0031】
まず、粘土層4の透水係数と浄化促進性能との関係について説明する。図9に示すように、粘土層4の透水係数がk=1.0×10−8m/sの場合およびk=1.0×10−12m/sの場合のいずれも、廃棄物処分場側の鋼管継手6の内部の空洞空間11の処分場側端を通過する有害物質の質量フラックスは約0.12 l/m・yearであり、同等の浄化促進性能を示している。このことから、粘土層4の浄水係数が変化しても、鋼管継手6の継手の浄化促進性能に影響しないといえる。これは、粘土層4の透水係数に関わらず、鋼管継手6の内部の空洞空間11に流入する廃棄物層からの浸出水量は同じであるため、浸出水に含有される有害物質も同じとなっているからである。しかしながら、図8に示す通り、廃棄物層の影響が粘土層4に及ばない場合の浄化促進性能は約0.15 l/m・yearであることから、粘土層4を不透明水かつ不拡散である場合のほうが浄化促進性能は優れているといえる。これは、粘土層4へ廃棄物層の影響が及ばない場合は廃棄物層に存在する有害物質は唯一の流出経路である鋼管継手6の継手に集中することから、鋼管継手6の継手の浄化促進性能が高くなることが要因である。
【0032】
次に、粘土層4の透水係数と封じ込め性能との関係について説明する。図10に示すように、粘土層4の透水係数がk=1.0×10−8m/sの場合、100年経過後の濃度測定断面における有害物質の濃度は約18%であり、一方、粘土層4の透水係数がk=1.0×10−12m/sの場合、100年経過後の濃度測定断面における有害物質の濃度は約1.8%である。これは、底部粘土層4の透水係数の上昇に従って移流に伴う有害物質の流出が促進されるからである。さらに、粘土層4の透水係数がk=1.0×10−10m/sの場合とk=1.0×10−12m/sの場合は、100年経過後の濃度測定断面における有害物質の濃度はいずれも約1.8%である。これは、粘土層4の透水係数がk=1.0×10−10m/s以下であれば、移流の影響はほとんど受けず有害物質の拡散によって流出が発生するためである。このように、粘土層4の透水係数をk=1.0×10−10m/s以下にすることにより優れた水溶性有害物質の封じ込め機能を発揮することができる。 本実施形態では、廃棄物処分場1の廃棄物底部の粘土層4の透水係数を1.0×10−10m/s以下といった低い透水係数にしているので、廃棄物底部の粘土層4から移流する有害物質が低減するため、有害物質を廃棄物処分場に封じ込めることができる。これにより、廃棄物底部から移流する有害物質が少ない場合は、廃棄物層に存在する有害物質は唯一の流出経路となる鋼管継手6に集中するので、結果として、浄化促進性能を向上させることができる。
【0033】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
1 廃棄物処分場
2 廃棄物
3 鋼管矢板壁
4 粘土層
5 鋼管
6 鋼管継手
8 雌継手
9 雄継手
11 空洞空間
12 膨潤性止水材
13 液体






【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管相互を鋼管継手により嵌合する鋼管矢板を用いた海面廃棄物処分場の遮水浄化システムであって、
海面と廃棄物処分場の境界に廃棄物埋立護岸として構築され、前記鋼管継手を相互に嵌合させて連結し、嵌合される互いの鋼管継手の重なり部分に形成される隙間に膨潤性止水材を接着させた鋼管矢板壁と、
相互に嵌合された前記鋼管矢板の鋼管継手の内部に形成された空洞空間に注入される液体と、を有し、
前記空洞空間に注入される液体の水位は、前記鋼管矢板壁と接する廃棄物処分場の廃棄物の高さより低いことを特徴とする海面廃棄物処分場の遮水浄化システム。
【請求項2】
廃棄物処分場側の前記鋼管矢板の鋼管継手の透水係数は、1.0×10−11m/s以上にしたことを特徴とする請求項1記載の海面廃棄物処分場の遮水浄化システム。
【請求項3】
廃棄物処分場側の前記鋼管矢板の鋼管継手の透水係数は、廃棄物処分場の廃棄物の透水係数と略同一以下にしたことを特徴とする請求項1記載の海面廃棄物処分場の遮水浄化システム。
【請求項4】
廃棄物処分場の廃棄物底部の粘土層の透水係数は、1.0×10−10m/s以下にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の海面廃棄物処分場の遮水浄化システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−87512(P2013−87512A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229800(P2011−229800)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年5月20日 公益社団法人土木学会発行の「土木学会論文集C (地圏工学) Vol.67 No.2」に発表
【出願人】(511253117)
【出願人】(511253128)
【出願人】(511253139)
【Fターム(参考)】