説明

浸出液から酸およびアルカリを製造する方法および装置

【課題】産業廃棄物処分場からの浸出水を処理し有価物を回収する。
【解決手段】浸出水から酸およびアルカリを回収する方法であって、
(1)浸出水をアルカリで中和処理して、前記浸出水から金属類を沈殿させろ過分離する第1工程と、
(2)第1工程で得たろ液中に二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムを添加して沈殿物をろ過分離する第2工程と、
(3)第2工程で得たろ液からバイポーラ膜電気透析に適用ことができる塩化ナトリウムを主体とする塩溶液を得る第3工程と、
(4)該塩溶液をバイポーラ膜電気透析により酸溶液とアルカリ溶液を得る第4工程、を含む浸出水から酸およびアルカリの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質、金属イオンなどを含有する産業廃棄物処分場などから排出される浸出水やこれに類する環境有害物質含有排水を有効利用する方法およびその装置に関するものであり、さらに詳しくは、管理型最終処分場の浸出汚水などに含有されている塩化ナトリウムを回収しバイポーラ膜電気透析処理により酸およびアルカリを製造する方法および装置に関するものである。本発明は、浸出汚水などに含まれるマグネシウム、カルシウム、鉄などの金属類を沈殿除去することによる浸出水を精製し浸出水から有価物回収するとともに、浸出水の浄化処理の一環として有用な新しい技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、経済成長、国民生活の向上などにともない固形廃棄物の排出量は増大し、その廃棄物処理はその廃棄物に応じて安定型最終処分場、管理型最終処分場、しゃ断型最終処分場への処理または海洋投棄が行なわれている。しかし、海洋投棄については国際的な規制が強化され、投棄できるものは非常に限定されるようになった。また、従来、問題が少ないと考えられていた種類の廃棄物類については、構造が簡単で建設費も安い安定型最終処分場での処理が認められていたが、安定型最終処分場での処理の規制が強化されたことにより、ますます管理型最終処分場で処理される廃棄物が多くなってきているのが現状である。
【0003】
管理型最終処分場はその構造上その排水処理をするために浸出水集排水設備を備えた管理型最終処分場である。通常、コンクリート製の堰堤とゴムシートなどからなる遮水層とで囲まれた廃棄物貯留部を有し、これらの周囲には廃棄物の飛散を防止する囲いを設けた貯留施設である。廃棄物貯留部の底部には、この底部に達した浸出水を滞留することなく自然流下して集水でき浸出水処理施設へ導くための浸出水集排水設備が設けられている。
【0004】
こうした管理型最終処分場から排出される環境有害物質を含む浸出水を化学的および/又は物理化学的分解手段と生物処理手段とを組み合せて無害化する方法がいくつか提示されている。これらの提案から判るように、最終処分場からの浸出水の無害化には複雑な組み合せの処理工程が必要であり、満足なレベルまでの浄化を行なうには極めて高コストを要している(特許文献1参照)。
【0005】
廃棄物処分場の周辺の汚染された土壌の含有水を広域電解処理によって浄化する方法が提示されている(特許文献2参照)。しかしながら、電解酸化処理で環境に無害な形態に変化し得る物質は限られているので、基本的には、汚染が周辺土壌に拡散してから汚染土壌を広域にわたって除害するよりは、土壌汚染に至る前に廃棄物浸出水を無害化処理することが本来の対応であり、かつ実際的である。
【0006】
そこで、例えば、金属電極を用いた電気分解装置を用いて、埋め立て地浸出排水中のダイオキシン、PCBなどの難分解性の有機化合物を分解する方法が提示された(特許文献3参照)。本発明者らの検討では、金属電極による電解効率は十分高いとは言えず、なお改良が必要である。実際には、難分解性物の分解物が電解処理済み廃液中には残存しておりそのまま排出することは出来ないため、二次的な排水処理を必要としている。また、これらの技術では、浸出液中に含有されている有価物の回収、再利用に注意が向けられることはなかった。
【0007】
一方、各種の廃液、排水などを処理して有価物を回収再利用することがなされ、それらの処理技術のなかに電気透析を利用する方法が提案されてきた。
例えば、フッ化カリウムなどの中性塩を含有する廃液中から、フッ酸などの酸と、水酸化カリウムなどのアルカリを別々に回収再生する廃液などの処理技術において、酸、アルカリの濃度調整、両者のバランスの調整が容易であり、また故障やメンテナンスの必要性も少なく連続運転を可能である処理方法として、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置により酸とアルカリに分離し再生回収する廃液の被処理液の処理方法(特許文献4参照)、また、使用済みの銅/コバルトメッキ液中に含まれる硫酸イオンを効果的に除去し、銅/コバルトメッキ液の更新頻度を低減させることのできる銅/コバルトメッキ液再生技術において、陰極と陽極との間にアニオン交換膜とバイポーラ膜とで区画された脱塩室と濃縮室とを有する電気透析装置と、電気透析装置の脱塩室に連通したメッキ液循環機構と、濃縮室に連通した硫酸イオン回収機構を備えるメッキ液再生装置(特許文献5参照)が提案されている。
【0008】
また、他に、2価金属化合物を再利用することを可能ならしめることを課題として、排煙脱硫処理後の廃液を濃縮装置により濃縮した濃縮液を中和脱水した後、マグネシウムやカルシウムなどの2価金属陽イオンを除去し、その後、バイポーラ膜装置に供給して酸とアルカリ溶液とを分離して酸を回収する排煙処理廃液の処理方法(特許文献6参照)や、硝フッ酸などの混合酸を含有する廃液中から、電気透析装置により硝酸とフッ酸とをそれぞれ別々に分離回収する二種類の酸の分離回収方法(特許文献7参照)が提案されている。
【0009】
さらに、バイポーラ膜および陽イオン交換膜を使用した電気透析の例としては、高電流効率で中性塩から高濃度の水酸化アルカリを製造するにあたり、陽イオン交換膜として製造する濃度となどしい濃度の水酸化アルカリ水溶液中の含水率が3.0〜8.0重量%の膜およびバイポーラ膜を使用した電気透析により、芒硝などの中性塩から濃度20重量%以上の水酸化アルカリを80%以上の高電流効率で製造する水酸化アルカリの製造方法(特許文献8参照)、金属塩を含有する酸廃液から高濃度の酸および該金属の水酸化物を回収するにあたり、
拡散透析、機械的分離および陽イオン交換樹脂部分の固定イオン濃度が10N以上であるバイポーラ膜と陰・陽イオン交換膜を用いる電気透析の3工程を組合せた酸廃液の再生方法(特許文献9参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−354892号公報
【特許文献2】特開2000−167559号公報
【特許文献3】特開2003−126860号公報
【特許文献4】特開平7−185559号公報
【特許文献5】特開2007−63617号公報
【特許文献6】特開平9−253457号公報
【特許文献7】特開平9-10557号公報
【特許文献8】特開平5-70984号公報
【特許文献9】特開平9-887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、特に、管理型最終処分場に設置される浸出水の有効利用技術に関し、浸出水や浸出水を浄化する際に生成した濃縮液から酸とアルカリを回収する方法および回収装置を提供することを課題とするものである。
【0012】
従来の水処理装置で浸出水を処理した場合に、カルシウムなどの一部の塩類、一部の有機物は除去できるものの、塩化ナトリウム(NaCl)や、生物難分解性の有機物、活性炭吸着の難しい有機物などを完全に除去することはできない。したがって、このまま処理水として河川などに排出した場合には、これらの塩類および未分解の有機物によって河川や土壌が汚染されるおそれがあるという問題が生じていた。そこで、この種の水処理装置で除去できない原水中の塩類および難分解性有機物を除去することのできる膜流下式蒸発装置や逆浸透膜装置などにより汚水処理をすることが提案された。
【0013】
しかしながら、これらの装置では、塩類と有機物を含んだ原水を処理すると、原水は塩類および有機物を濃縮した濃縮液と塩類が除去された処理水とに分離される。この分離された処理水は、再利用またはそのまま放流されるにしてもその処理が容易であるが、原水中に有機物が含まれていると、有機物は分解されずに濃縮液に混入され、塩類を高濃度で含む濃縮液はそのままでは排出、再利用のいずれも困難であり、この後処理をいかに行うかは、重要な課題となっていた。
【0014】
本発明は、管理型最終処分場からの浸出水の処理には、従来の無害化手段を組み合せても、コストや目的充足性の点で満足な方法が得られていないという従来技術の問題に鑑みて発明者らが鋭意研究を積み重ねることにより開発されたものであり、その目的は、産業廃棄物処分場、特に管理型最終処分場からの浸出水やこれに類する汚染した排水(以下、両者を含めて浸出水と呼ぶ)を低コストでかつ高度に無害化するとともに、浸出水から有用物質を回収することができる新しい技術を提供することである。
【0015】
本発明は、管理型最終処分場から浸出する水(浸出水)を水処理施設で水処理を行い、処理水とともに生成する不純物を含む液体(濃縮液)の処理および有用物質の回収、製造を目的とするものである。この濃縮液の成分は、主に塩化ナトリウムを主体とする無機塩類であり処理するのには相当なリスクを伴うことが知られている。そこで、本発明では、濃縮液中に含まれるマグネシウム、カルシウム、鉄などの金属を除去した後、濃縮液に含有されている塩化ナトリウムを利用して、アルカリ液(主成分苛性ソーダ)、酸液(主成分塩酸)を製造し、再利用する技術に係る新しい技術を開発し提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される浸出水から酸およびアルカリの回収方法に関するものである。
(1)浸出水から酸およびアルカリを回収する方法であって、
(a)浸出水をアルカリで中和処理して、前記浸出水から金属類を沈殿させろ過分離する第1工程と、
(b)第1工程で得たろ液中に二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムを添加して沈殿物をろ過分離する第2工程と、
(c)第2工程で得たろ液からバイポーラ膜電気透析に適用ことができる塩化ナトリウムを主体とする塩溶液を得る第3工程と、
(d)該塩溶液をバイポーラ膜電気透析により酸溶液とアルカリ溶液を得る第4工程、
を含むことを特徴とする浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(2)第1工程において、前記浸出水をアルカリでpH10以上に中和処理する上記(1)に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(3)第1工程において、アルカリで中和した浸出水からアンモニアを回収する上記(1)または(2)に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(4)第1工程において、浸出水をアルカリで中和して金属類を沈殿分離するにあたりケイ酸含有無機物を混和する上記(1)から(3)のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(5)第3工程において、二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムで処理したろ液を脱炭酸する上記(1)から(4)のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(6)第3工程において、二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムで処理した後のろ液に含有されている微細粒子を除去する上記(1)から(5)のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(7)第3工程において、第2工程で得たろ液から再結晶または蒸発固化により塩化ナトリウムを回収することを含む上記(1)から(6)のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(8)第4工程のバイポーラ膜電気透析により得た水酸化ナトリウム溶液を濃縮して高濃度の水酸化ナトリウム溶液とする上記(1)から(7)のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
(9)浸出水が濃縮液である上記(1)から(8)のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【0017】
本発明は以下に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収装置に関するものである。
(10)浸出水から酸およびアルカリを回収する装置であって、
(a)浸出水をアルカリ性に調整するpH調整装置、(b)生成した沈殿を浸出液から分離するろ過装置、(c)二酸化炭素または炭酸ナトリウムをろ液へ添加する添加装置、(d)生成した沈殿物を分離するろ過装置、(e)ろ液中の塩化ナトリウムを主体とする塩の回収装置、(f)回収した塩を溶液とする溶解装置、(g)塩水溶液からバイポーラ膜電気透析により酸溶液とアルカリ溶液を製造するバイポーラ膜電気透析装置、
を備えてなることを特徴とする浸出水から酸およびアルカリの回収装置。
(11)該浸出水が、濃縮液である上記(10)に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収装置。
(12)(a)のpH調整装置には、pHを調整した浸出液からアンモニアを回収する装置および/またはケイ酸含有無機物の投入装置が付属している上記(10)または(11)に記載の浸出液から酸およびアルカリの回収装置。
(13)(c)の二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムをろ液へ添加する添加装置には、ろ液中のpHを調整して炭酸イオンを減少させる装置および/または微細粒子濾過装置が付属している上記(10)から(12)のいずれかに記載の浸出液から酸およびアルカリの回収装置。
(14)(e)の塩の回収装置が、ろ液からの再結晶またはろ液の蒸発固化により塩化ナトリウムを回収する装置である上記(10)から(13)のいずれかに記載の酸およびアルカリの回収装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明により次のような効果が奏される。
(1)産業廃棄物処分場などから排出される有害物質などを含有する浸出水やこれに類する環境有害物質含有排水から有用物を回収する方法およびその装置を提供することができる。
(2)浸出水などに含まれるマグネシウム、カルシウム、鉄などの金属類を沈殿除去などの処理により、バイポーラ膜電気透析処理に適合した塩化ナトリウム水溶液を製造することができる。
(3)浸出水にバイポーラ膜電気透析技術を適用することにより酸およびアルカリを製造することができる。
(4)金属類のアルカリ処理にフライアッシュを利用することにより、約1,000万トンに達するものと予測されているフライアッシュの有用な利用技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】フライアッシュの添加量と沈殿形成量の時間的変化を示す。
【図2】濃縮液中の窒素化合物を回収する実験装置を示す。
【図3】フライアッシュの添加時期の相違による沈殿形成量の変化を示す。
【図4】バイポーラ膜電気透析法の原理を示す。
【図5】2.0N−HClを酸液とした場合の電導度とpHの経時変化を示す。
【図6】2.0N−HClを酸液とした場合のNaとCl濃度の経時変化を示す。
【図7】1.0N−HClを酸液とした場合の電導度とpHの経時変化を示す。
【図8】1.0N−HClを酸液とした場合のNaとCl濃度の経時変化を示す。
【図9】アルカリ中へのClイオンの総リーク量の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
現在、廃棄物は処理することなくまたは焼却処理などの中間処理後に最終処分場に埋め立て処分することが一般的に行われている。この最終処分場において発生する浸出水は、例えば、表1に示す水質分析結果を示すものであり、廃棄物から浸出される塩類、有機物などの汚染物が含まれているため高度な水処理を必要としていた。かかる最終処分場においては、埋め立てられた廃棄物から浸出してくる種々の塩を含む浸出水が、電気透析、逆浸透膜、薄膜流下式蒸発装置などにより脱塩されまた各種処理されているが、なかでも、逆浸透膜、薄膜流下式蒸発装置を用いた脱塩によれば、浸出水を効率よく処理することができ水質が極めて良好な処理水を得ることができる。
【0021】
〔浸出水・濃縮水について〕
本発明において浸出水とは、「埋立処分場などにおいて雨水などの水が浸透し、廃棄物に触れてしみ出した廃水のこと」であり、浸出水を何らかの処理に付して生成した液状物、例えば、濃縮液などをも含む。以下、浸出水を処理して生成した濃縮液を具体例としてについて本発明を説明する。浸出水の分析値の一例を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
しかしながら、浸出水を処理した場合、水質が極めて良好な処理水が得られるものの、有機物、種々の金属類などが濃縮液中に濃縮されるため、その処理には高度な水処理技術が必要とされるばかりか、多大な処理設備や処理用の吸着剤、薬品類を必要としていた。本発明はこうした従来技術の問題点を解決し、特に、浸出液を処理することにより生成した濃縮液中に含有される金属類を除去することにより濃縮液を浄化、精製し、濃縮液をさらに処理して有用物質の回収工程や自然界への放出を可能とする技術の開発に大きく貢献するものである。
【0024】
浸出水は、例えば、蒸発法(多重効用法、多段フラッシュ蒸発法、蒸気圧濃縮法)冷凍法、透析気化法、逆浸透法など、具体的には、薄膜流下式蒸発装置、逆浸透膜装置などによって処理され、浄化水と残液(濃縮液)に転換されるが、薄膜流下式蒸発装置は、例えば、内部に多数の円形チューブを有し、該円形チューブの内壁を廃水が流下している間にチューブの外部より蒸気で加熱する蒸発缶から構成される。廃水は原水槽に一旦貯留された後、原水ポンプにて薄膜流下式蒸発缶に至る。廃水は薄膜流下式蒸発缶内の円形チューブの内壁を伝わりながら流下する間に、チューブ外部の蒸気により加熱されて水分は蒸発し、発生した蒸気は気液分離器に入る。気液分離器では、流下した蒸気と一緒に持ち込まれた濃縮液を分離する。蒸発缶下部に留った濃縮液と気液分離器で分離された濃縮液は排出される。気液分離器より出た蒸気は、凝縮器で冷却水と熱交換し凝縮液となる。
【0025】
また、逆浸透膜装置としては、例えば、複数のスペーサーが配され、それぞれのスペーサー間に平膜状の逆浸透膜が介装された逆浸透膜モジュールを用いたものが挙げられ、それぞれのスペーサー間に逆浸透膜(平膜)が介装された逆浸透膜モジュール挙げられる。逆浸透膜モジュールは、ディスクタイプの平膜と、ディンプルの付いたスペーサーとが、交互に積層された構造からなるものである。逆浸透膜モジュールは、円筒状の逆浸透膜モジュール本体内に、円板状の平膜(逆浸透膜)が同じく円板状のスペーサーの間に設けられた逆浸透膜部が複数組積層されて構成されている。逆浸透膜モジュールのモジュール本体の内周面には被処理水を導入する被処理水流路が設けられ、被処理水流路から逆浸透膜の表面に被処理水が導入される。透過水パイプにより、逆浸透膜によって分離された処理水が排出される。また、濃縮液パイプにより、各逆浸透膜によって濃縮された濃縮液がモジュール本体外へ排出される。
【0026】
薄膜流下式蒸発装置により処理された浄化水および処理に伴って生成した濃縮液の水質分析結果の一例を次の表2および表3に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
表3に記載されているように、濃縮液には各種の化合物が含有されていて、なかでも、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、硝酸イオン、硫酸イオンなどは高濃度で存在している。濃縮液における金属含有量は、廃棄物の種類、廃棄施設の運転方法などにより変動するが、金属含有量の上限値は、カルシウムが約1800ppm、マグネシウムが約7500ppm、鉄が約20ppmであり、通常は、カルシウム約800ppm以内、マグネシウム約1000ppm以内、鉄約10ppm以内の範囲にあることが多い。これらの金属イオンを回収して有効利用し、また無害化するには特殊な処理が必要となる。例えば、濃縮液のような各種の不純物を有する溶液を電気透析法により処理し、塩化物イオンとアルカリ金属イオンを酸とアルカリに分離するには、濃縮液中に存在する、マグネシウム、カルシウムおよび鉄成分などの無機物が存在すると電気透析装置内にスケールング成分として付着し、膜自体に大きな負荷を与え、たとえ分離ができても製品自体の品質が悪化するため、装置の維持管理費が通常の何倍もかかるなど経済的ではないことを本願発明者らは見出した。本発明は、濃縮液中のマグネシウム、カルシウム、鉄成分など金属イオン成分を効率よく除去してバイポーラ膜電気透析が適用できる溶液とした後酸およびアルカリを回収する新しい技術を開発し提案するものである。
【0030】
〔浸出水のアルカリ中和工程(第1工程)〕
一般に溶液中に存在する金属成分のほとんどは溶液のpHをアルカリ側に調整することにより、水酸化物として沈殿除去することが考えられるが、濃縮液に水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリを加えて、溶液を単にアルカリ側に調整することによって濃縮液から金属類を除去することがきることは、表6に記載のフライアッシュ投入量比較データにおけるフライアッシュ0%のデータをより明らかである。
濃縮液中に溶存または懸濁などの状態で存在しているカルシウム、マグネシウム、鉄などの金属類は、アルカリの添加により水酸化物の形に変化させて生成した金属類の水酸化物を、沈殿、ろ過操作により効率よく分離するにはケイ酸含有無機物を添加することが好適であり、例えば、ケイ酸含有物質であるフライアッシュを共存させることにより沈殿ろ過操作が迅速に行なえることが判明した。フライアッシュは火力発電所などで大量に生成する一種の廃棄物でありこれを有効利用することができる。
【0031】
濃縮液のpHは通常4付近であるが、これにアルカリ、例えば、水酸化ナトリウムを添加して、濃縮液のpHをアルカリ側に調整することにより溶存する金属類を水酸化物に転換することができる。濃縮液のpHをアルカリ側、例えばpH10以上とすることが好適であるが、さらにpH12以上の範囲に調整することで金属類の水酸化物への転換が進められる。アルカリの添加量は、濃縮液のpH、共存する化合物の種類、含有量などにより変化するが、濃縮液のpHを指標にアルカリを添加するとよい。アルカリの添加時における濃縮液の温度は高温、例えば、80℃以上とするのが沈殿形成の点では望ましいが特に限定されない。アルカリを添加して沈殿物を除去した後の濃縮液は、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオンを含有し、さらに、アンモニウムイオン、硝酸イオン含有していることが判明した。
【0032】
〔ケイ酸含有無機物を加えることにより沈殿の分離促進〕
しかしながら、アルカリ処理した濃縮液の迅速な沈殿ろ過処理は困難なことがあり、例えば、沈殿を含む約5Lの濃縮液のろ過に数時間を要し、場合によればろ過不能となることがあった。そこで、濃縮液をアルカリ側に調整するとともに濃縮液中にフライアッシュを添加することにより、ろ過時間が大幅に短縮されることが明らかとなった。フライアッシュを濃縮液へ添加するのは、濃縮液のpH調整の前または後、さらにはアルカリとフライアッシュの同時のどの時点でも良い。フライアッシュの濃縮液への添加混合には特殊な操作は必要ではなく、通常の混合攪拌装置が適用される。フライアッシュの添加時の液温度に関しても特に制限はないが、沈殿粒子の形成状態や、アンモニアの回収工程を設ける場合などを考慮すると70℃以上での操作が好適である。
【0033】
フライアッシュには、発生箇所により、部粉炭燃焼ボイラの燃焼ガスから集塵器で採取されたもの(狭義のフライアッシュ)、微粉炭燃焼ボイラの燃焼ガスが空気予熱器、節炭器などを通過する際に落下採取されたもの(シンク)、微粉炭燃焼ボイラの炉底に落下したもの(クリンカ)などが含まれ、ボイラから発生したままの原粉、集塵機の後段集塵区で回収したものあるいは原粉を分級して粒度調整した細かい細粉や粗粉、粉砕分級処理を施した粉砕粉などが含まれる。本発明で用いるフライアッシュはこれらのものから適宜選択し、また混合して使用することができるし、市販のフライアッシュを使用することもできる。市販のフライアッシュとしては、例えば、ファイナッシュ(JIS1種)、四電フライアッシュ(JIS2種、エコアッシュ(JIS4種)などが挙げられる。 典型的なフライアッシュの主成分はシリカ(SiO)とアルミナ(Al)であり、この2種の無機物質で全体の70〜80%を占め、その他少量の酸化第二鉄(Fe)、酸化マグネシウム(Mg0)、酸化カルシウム(CaO)を含むみ、粒度分布で0.1mm以下の粒径が8割以上を占める微細な球形粒子の集まりである。
【0034】
濃縮液をアルカリ側に調整しアルカリ土類金属、鉄などの各種金属類を沈殿させるためには、濃縮液のpHを約10以上に調整するのが好適であるが、pHが10付近では濃縮液中の硝酸態窒素成分が気化し難い。したがって、濃縮液からアンモニア態または硝酸態窒素成分を回収する工程を設ける場合には濃縮液のpHを12以上とすることが好適である。
【0035】
濃縮液をフライアッシュにより処理するにあたり、その最適添加量の範囲を求めるために、アルカリによりpHを12に調整した濃縮液に1.0から4.0重量%のフライアッシュを添加処理した後の濃縮液の金属含有量を測定したところ、処理後の濃縮液の金属濃度は、マグネシウムイオンでは0.48〜1.6mg/Lの範囲にまで減少し、カルシウムイオンでは265〜411mg/Lの範囲にまで減少し、鉄イオンでは0.18〜0.22mg/Lの範囲にまで減少することが分かった。こうしたフライアッシュの添加量を変えた試験によって、濃縮液に対するフライアッシュの添加量は、濃縮液に対して0.5から6重量%が好適であり、さらに好適には2から4重量%の範囲が挙げられることが分かった。フライアッシュの添加量が下限値より少なくなると沈殿促進効果が減少し実用的でなくなり、上限値を超えるとフライアッシュの均一な添加混合が困難となるばかりか、フライアッシュの価格による処理費の上昇や、処理した濃縮液への不純物の増加などの現象が生じることとなり望ましくない。
【0036】
フライアッシュの添加量と析出物の沈殿作用の関係を示したのが図1である。図1より、フライアッシュの添加量を増加するに従い析出物の沈降は早くなるが、フライアッシュを3重量%添加するのが最適であることが判明した。フライアッシュを添加しないと析出物の沈降は停止して、以後、析出物は沈降しなくなることがあった。
【0037】
フライアッシュには不純物として、砒素およびセレンを含有することは周知であり、例えば、乾燥部物1kg中に、砒素17.2mg、セレン2.2mgを含有するが、フライアッシュで処理した後の濃縮液中への残留濃度は、例えば、表4に示すごとく微量であることが判明した。
【0038】
【表4】

【0039】
〔浸出水からアンモニアの回収〕
アルカリ性に調整しアルカリ金属化合物や鉄などの金属類を沈殿除去する工程処理された濃縮液には多量の窒素含有物を含んでいる。アンモニア態窒素や硝酸態窒素などは強アルカリの添加により揮散させ回収できる。濃縮液中には、例えば、アンモニア態窒素を6960mg/L、硝酸態窒素を1390mg/L含んでいる。この濃縮液のpHを12に調整した後、容器中で86から96℃に加熱するとともに空気を吹き込むことにより空気とともに含有されている窒素成分を放出させて窒素成分を回収することができる。濃縮液中に含まれていたアンモニウム態窒素は4時間後にはその約99%が放出され、硝酸態窒素は約98%が放出されたことが判明した。このことは、濃縮液中に含まれている窒素成分の98%はこうした方法により回収できることを示している。
【0040】
〔二酸化炭素または炭酸ナトリウムの添加による金属などの沈殿除去工程(第2工程)
濃縮液をアルカリ性とする処理によりマグネシウム、カルシウム、鉄などの金属を除去でき、濃縮液の浄化が可能であることは上記記載より明らかであるが、同時に、カルシウムイオンなどのかなりの量が除去できないで残存していることが判明した。カルシウムイオンの挙動が異なることの原因は明確ではないが、水酸化カルシウムが微細な沈殿となりろ過されにくいことも考えられる。アルカリ処理した濃縮液を次に何らかの工程で処理し有効利用するにあたり、カルシウムイオンをマグネシウムイオンと同程度の濃度にする必要性のある場合には、カルシウムイオンなどをさらに除去する。
【0041】
そこで、金属類をさらに除去することを試みた。濃縮液をアルカリ処理してマグネシウムイオンや鉄イオンを除去処理した後のろ液(pH13:カルシウムイオン201ppm含有)に、炭酸ガスの吹き込み処理または炭酸水素ナトリウムの投入処理によるカルシウムイオン濃度の変化を検討した。その結果、炭酸ガスの吹込みによりカルシウムイオン濃度は1.2〜1.8ppmに減少することが判明した。一方、炭酸水素ナトリウムを20%過剰量添加した場合には、カルシウムイオン濃度は1.0ppmと低下したが処理後の炭酸イオンの濃度が大きな値を示した。炭酸ガス投入後の液の静置時間は30分で上澄み液中のカルシウム濃度は1.0〜2.0ppmとなり、水酸化物の沈殿は迅速に行なわれることが判明した。
【0042】
〔第3工程(ろ液から塩化ナトリウムを主体とする塩溶液を得る工程)〕
第2工程で得た金属イオンを沈殿除去したろ液中には高濃度の塩化ナトリウムが含有されているので、このろ液中の塩化ナトリウムをバイポーラ膜電気透析に適用して酸およびアルカリを回収できる形態に変換する。第2工程で得たろ液がバイポーラ膜電気透析に直接適用できることができるならば、そのままで、または濃度を調整した後バイポーラ膜電気透析処理するが、第2工程で得たろ液中には浸出水からの微細な粒子が除去されずに混入していることが多く、この粒子がバイポーラ膜の目詰まりの原因になることがあるため、1μm以下の微粒子はろ過除去しておくことが好適である。また、バイポーラ膜電気透析により処理する溶液中の炭酸イオン濃度は、約10,000ppmが上限であるといわれているところから、第2工程で得たろ液中の炭酸イオン濃度がこの値を超えている場合は、ろ液を酸性領域に調整するなどして炭酸イオンを除去する必要が生じる場合がある。しかしながら、炭酸イオンはできるだけ減少させて、例えば、20ppmpp以下とすることが最も好適である。微細粒子の除去におけるろ過処理は、例えば、ウルトラフィルタなどの公知の操作および装置を使用することにより行なうことができる。
【0043】
第2工程で得たろ液には、塩化物イオンを、例えば165g/L程度含有しているので、このろ液を加熱濃縮して、例えば、比重を1.18になるように調整した後、冷却して塩化ナトリウムを析出させることができる。この比重の溶液は固形塩として243g/L程度を含有する。第2工程で得たろ液から塩化ナトリウムの結晶を得るには、従来の晶析技術を利用することが可能である。析出した塩化ナトリウムは、溶液からの結晶化により硫酸イオンなどの不純物の少ない結晶が得られ、この結晶塩化ナトリウムを、例えば脱イオン水などに溶解して、バイポーラ膜電気透析が適用できる濃度の溶液を調製することが好適である。また、第2工程で得たろ液の水分を蒸発固化させて結晶状態の塩化ナトリウムを調整しこれを脱イオン水などに溶解してバイポーラ膜電気透析により処理してもよい。蒸発固化操作により、ろ液中の塩化ナトリウムは、水の飛散後には熱処理を受けることになり、含有されている不純物類が熱分解され、また飛散することによりバイポーラ膜電気透析処理することができる純度となる。得た蒸発固化物は、上記結晶と同様に濃度を調整した溶液としてバイポーラ膜電気透析処理する。
【0044】
〔第4工程(バイポーラ膜電気透析)〕
第3工程で得た塩化ナトリウムを主体とする塩溶液をバイポーラ膜電気透析により酸およびアルカリを製造する。バイポーラ膜電気透析は、低い分解電圧で水を分解することが可能であり酸化還元作用が起こらないという優れた特質も持っているため、有機塩酸から有機酸を精製するワインなどの製造工程に用いられ、また、有機酸塩から有機酸を生成することや、塩を一工程で酸、アルカリに変換することに利用されている技術である。
【0045】
バイポーラ膜電気透析法の原理は、通常型電気透析の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の間にバイポーラ膜を挿入し、図4に示すように3室構造にした電気透析法である。バイポーラ膜とは、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜を貼り合わせた構造をしており、図4に示すように、陽極側が陰イオン交換体面、陰極側面が陽イオン交換体面で、直流電流を流すとバイポーラ膜中に拡散した水が陰イオン交換体、陽イオン交換体界面で解離され、陽極、陰極側に其々OHイオン、Hイオンが発生する。バイポーラ膜電気透析はこのようなイオンの性質を利用したものであり、例えば、塩化ナトリウム水溶液の場合では、Naイオンは陽イオン交換膜を通過し、Clイオンは陰イオン交換膜を通過し、水はバイポーラ膜で分解され、NaClの塩から酸であるHClとアルカリであるNaOHを作ることができる。その装置は、隔室ごとに、塩基、酸、塩の部屋が並んでいる。パイポーラ膜電気透析はこの原理を利用して塩を分解して目的とする酸、アルカリを製造することができる。市販のバイポーラ膜電気透析装置の正面外観を図5に、背面外観を図6に示す。
【0046】
バイポーラ膜電気透析において原液中に炭酸イオンを多量に含んでいる可能性がある場合には、炭酸イオンを除去して、透析工程中に二酸化炭素ガスが発生し透析が阻害されることがないようにすることが好適である。また、バイポーラ膜電気透析による塩化ナトリウムの塩酸と水酸化ナトリウムへの転換においては、アルカリ液中にClイオンがリークする現象や、酸液からの水素イオンのリークによる塩液のpH値の低下現象が発生することがある。アルカリの純度を向上するためには、酸液濃度を2.0Nから1.0Nの範囲に調整すること、酸液濃度とアルカリ液濃度は、規定値で1:2となるように組み合わせとすることが更に好適である。本発明で使用されるバイポーラ膜電気透析装置としては、市販の装置およびバイポーラ膜から適宜選択して用いることができる。例えば、アシライザーEX−3B型(株式会社アストム社製)は、層有効膜面積550cm、バイポーラ膜:BP−1E、カチオン交換膜:CMX、アニオン交換膜:ACMを使用する。透析条件は、透析を適用する溶液の組成性状などに応じて設定される。
次に、上記の各工程についてさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0047】
〔第1工程(アルカリによる金属類の沈殿除去)〕
濃縮液にアルカリを添加して濃縮液中の金属イオンの沈殿除去を行なった。使用する濃縮液は表2に記載の成分を有するものを使用し、この濃縮液500mLを容器に入れ水酸化ナトリウム溶液(6N)を投入してpH12に調整した後に所定量のフライアッシュ(四電ビジネス株式会社製:商品名 エコアッシュ(JIS4種)を投入して均一に分散されるよう撹拌した。フライアッシュを投入した後、濃縮液の容器を静置して所定時間ごとに液面からの沈殿の上面までの距離を測定した。また測定毎に、上澄み液を採取して含有される金属イオンの濃度を測定した。沈殿の沈降速度については表5に示し、上澄み液中の金属イオン濃度の測定値については表6に示した。なお、上記金属イオンの分析には、上澄み液をろ紙ワットマン41番によりろ過した後試料とした。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
表5から、フライアッシュを添加することにより生成した沈殿の沈降が促進されることが明らかとなった。フライアッシュの添加量としては1重量%以上添加することにより沈降促進効果が認められたが、3時間放置した時点ではフライアッシュの添加量による効果の差はなくなっていた。フライアッシュによる沈降促進効果は約0.5重量%の添加から有効であった。表6の金属イオン分析結果からは、濃縮液中の鉄イオンおよびマグネシウムイオンの除去効果が顕著であった。カルシウムイオンについても除去効果が認められた。また、フライアッシュ含まれている砒素、セレン成分の濃縮物中への溶出はほとんど認められなかった。
以上の結果から、濃縮液のアルカリ側へのpH調整とフライアッシュの添加により、濃縮液中に含まれる金属イオン類の沈殿除去と沈殿の沈降促進が行なわれることが判明した。
【実施例2】
【0051】
〔アンモニウムの回収工程の実例〕
濃縮液の成分分析により、濃縮液中にはアンモニウム態窒素および硝酸態窒素を多量に含有することが判明したので、窒素成分の除去または回収を試みた。撹拌装置とエアレーション装置を備えた5Lビーカー中に濃縮液を3L入れ、水酸化ナトリウム溶液(6N)を投入してpHを12に調整した。試験装置は図2に示した。pHを調整した濃縮液を80℃以上に加熱して窒素化合物の揮散を促進させながら1時間ごとの窒素化合物の含有量の変化を4時間に亘って測定した。試験結果を表7に示す。濃縮液中に約7000mg/L含有されていたアンモニウム態窒素4時間後には約100mg/Lに減少し、約1400mg/L含有されていた硝酸態窒素は4時間後には約34mg/Lに減少していた。この試験結果は、アンモニウム態窒素および硝酸態窒素はほぼ99%が回収可能であり、濃縮液の浄化が行なえることを示している。
【0052】
【表7】

【0053】
以上の結果から明らかなように、濃縮液をアルカリ側にpH調整するとともに、フライアッシュを投入した処理によりカルシウムイオンが除去されるが、処理後の液中にはカルシウムイオンが約200mg/Lないし約400mg/L残存することがあることが判明した。マグネシウムイオンがほぼ完全に除去されるのに対してカルシウムイオンの異なる挙動は、如何なる理由によるかは明確ではないが、濃縮液中にカルシウムイオンが存在していることが、濃縮液の有効利用を行うにあたり障害となることが考えられるので、カルシウムイオン濃度を低下させるための処理について検討した。例えば、濃縮液を電気透析処理するにあったては、濃縮液中のマグネシウムイオンおよび鉄イオンが特に障害となるが、さらに、液中のカルシウムイオン濃度を低下させておくことが好ましい。
【実施例3】
【0054】
フライアッシュの添加時点の相違による析出物の沈降状態および処理後の金属含有量の関係を試験した。試験方法は、実施例1と同様であり、濃縮液にフライアッシュを3%の割合で添加した。試験は、(1)濃縮液に直接フライアッシュを添加した場合(pH調整なし)、(2)濃縮液をpH12に調整した後にフライアッシュを添加した場合、および(3)濃縮液をアンモニア除去処理した後にフライアッシュを添加しpH調整をした場合に分けて実施した。その結果を図3に示す。(2)と(3)では析出物の沈降が始まり約20分後には安定した沈降状態となった。そのろ過作業は容易に行なうことができた。しかしながら、(1)の場合には、初期沈降速度は三者の中で一番速い結果が得られたが、生成した沈殿物はろ紙(ワットマン41)の目つまりを起こして全液のろ過作業を終了することはできなかった。したがって、フライアッシュの添加とpHの調整は必須であることが判明した。
【0055】
ろ過した液のカルシウム、マグネシウム、および鉄の分析結果を表8に示す。その結果、試料中のこれらの金属は(2)(3)では期待どおりの除去率が得られた。(3)のケースでは、特に、カルシウムとマグネシウムの除去が優れていた。フライアッシュの添加のみの(1)では金属の除去効果は全く得られなかった。
【0056】
【表8】

【実施例4】
【0057】
〔第2行程(二酸化炭素または炭酸ナトリウムによる金属類の沈殿除去)〕
炭酸ガスを使用して、カルシウムイオンが炭酸カルシウムとなり除去されることを確認するための試験を行なった。実施例1と同様にして、濃縮液をアルカリpH調整およびフライアッシュ投入して生成した沈殿を除去した液を試料とした。試料400mLに対して以下の処理を行なった後のカルシウムイオン濃度と炭酸イオン濃度を測定した。
1:無処理
2:炭酸ガスを1リットル/min投入し、1分間隔で炭酸ガスの投入を停止し、pHの変動がなくなるまでバッチ式で通した。
3:炭酸ガスを1リットル/min投入し、pHの変動がなくなるまで炭酸ガスを連続で通した。
4:炭酸ガスを1リットル/min投入し、8分間連続投入した。
5:炭酸水素ナトリウムを40g投入し、30分間攪拌した。
処理した試料をろ紙(ワットマン41番を使用)でろ過した後ろ液を分析した結果を表9に示す。
【0058】
【表9】

【0059】
この結果、炭酸ガスを使用して濃縮液中のカルシウムイオンが炭酸カルシウムになり溶液中から除去できることが分かった。また、カルシウムイオンを除去した後の溶液中に残る炭酸イオン濃度は、炭酸ガス投入条件によりが約2倍〜約5倍まで違いがあり、終了時点の、炭酸ガスの量とpHには関係があることが分かった。
【0060】
さらに、炭酸ガスの投入量とカルシウムイオン除去率との関係、および溶液中に炭酸イオンの残留量を確認する実験を行った。実施例1と同様にしてマグネシウムイオンなどを除去したサンプル溶液を作成し、これを炭酸ガスで処理するにあたり、炭酸ガスの投入時間と攪拌を行う時間と静置時間とを変えて試験を行った。溶液をろ紙(ワットマン5Bを使用)でろ過した後分析に供した。その結果を表10に示す。
【0061】
【表10】

【0062】
試験の結果、炭酸ガスをアルカリ調整した濃縮液中に投入することで、間違いなくカルシウムイオンは炭酸カルシウムに変わり、固体として除去できることが分かった。そして、ある一定のpHまでは、炭酸イオンのまま存在するが、pH7.2〜pH6.7ぐらいまでで炭酸イオンが残りにくく、攪拌をすることで、カルシウムイオンは炭酸カルシウムになりやすいということも分かった。 また、今回の実験で、炭酸ガスと炭酸塩を比較すると、あきらかに、炭酸ガスによるカルシウムイオンの沈殿分離操作がメリット大であることが分かった。
【0063】
カルシウムイオン除去のランニングコストを炭酸ガスと炭酸ナトリウムとで比較すると、500mlのサンプル溶液を処理するに必要とされる炭酸塩は約100g、炭酸ガスは約60リットルであった。炭酸塩が110円/kg、炭酸ガスが50円/kgであるとすると、炭酸塩が11円では11円、炭酸ガスでは6円となり、炭酸ガスによるとランニングコストもかなり軽減できることが分かった。
【実施例5】
【0064】
〔第3工程(炭酸イオンの除去)〕
炭酸ガスと炭酸塩を比べたときにあきらかに、炭酸ガスのほうが大きなメリットがあることが分かった。しかし、炭酸イオンは通常に比べると、かなりの量が溶液中には存在してしまう。そこで、第7工程の晶析処理を行うことによって、さらに炭酸イオンがなくなる。それは、炭酸はアルカリ側に残り(濃縮側)、炭酸塩(NaCO)としての不純物となるのではないかと考えられる。ただし、炭酸イオンとして溶液中に存在する濃度の上限値が10000ppmだと言われている。今回、溶存する炭酸イオンはこの値以下なので、問題なく処理される。
【実施例6】
【0065】
〔第4工程(バイポーラ膜電気透析その1)〕
バイポーラ膜電気透析による塩化ナトリウムの塩酸と水酸化ナトリウムへの転換処理を行なった。
1.実験装置
透析装置型式 ; アシライザーEX−3B型
総有効膜面積 ; 550cm
膜種 ; バイポーラ膜 ; BP−1E
カチオン交換膜 ; CMX
アニオン交換膜 ; ACM
2.透析条件
通電方法 ; 5.5A の定電流で運転。
運転温度 ; 40℃以下として運転。
3. 実験条件
(1) 実験溶液
a)塩液 ; 御社製サンプル溶液 1.3L
酸液 ; 2.0N−塩酸溶液 0.5L
アルカリ液 ; 2.0N−水酸化ナトリウム溶液 0.5L
電極液 ; 1.0N−水酸化ナトリウム溶液 0.5L
b)塩液 ; 御社製サンプル溶液 1.2L
酸液 ; 1.0N−塩酸溶液 0.5L
アルカリ液 ; 2.0N−水酸化ナトリウム溶液 0.5L
電極液 ; 1.0N−水酸化ナトリウム溶液 0.5L
(2) 終了条件
塩液濃度を原液の1/10までの脱塩を目標とし、塩液濃度電導度が40mS/cmになった時点で終了とした。
(3) 酸液、アルカリ液濃度調整
酸液、アルカリ液の濃度を一定に制御するため、適宜純水を添加した。
【0066】
4.実験結果
実験結果を表11、12および図5〜11に示す。通電を行うことにより、塩液電導度は240mS/cm程度から40mS/cm程度まで低下しており、このとき塩液中のNa、Cl濃度は、0.1〜0.2Nまで低下した。酸液濃度を2.0Nから1.0Nに変更する事により、アルカリ液中のClイオン濃度は0.8Nから0.3Nに低下し、約半分に低減できることが確認された。これ以上酸液濃度を低下させることは困難であり、本バイポーラ膜電気透析においては、アルカリ液中へのClイオンのリーク量は0.3N程度が限界であると考えられる。アニオン交換膜の顕著な伸び(シワの発生)はそれほど見られなかった。
生成した、水酸化ナトリウム水溶液は2N(約7重量%)の濃度を有し、これを25重量%の水酸化ナトリウムに濃縮して製品とした。
【0067】
【表11】

【0068】
【表12】

【実施例7】
【0069】
〔第4工程(バイポーラ膜電気透析その2)〕
バイポーラ膜電気透析による塩化ナトリウムの塩酸と水酸化ナトリウムへの転換処理を行なった。
実験は、株式会社アストムのTS3B−02型の装置を使用した。晶析工程から得た塩化ナトリウムを主成分とする固形塩を蒸留水に溶解して比重が1.15の溶液とし塩液タンクに投入した。このときアルカリ液には水酸化ナトリウム溶液(2.0N)、酸液には塩酸溶液(1.0N)を投入した。電極液には水酸化ナトリウム(1.0N)を使用した。実験の終了は塩液タンクの電導率が85%まで下がった時点を終了とした。実験の過程を表13に示す。
【0070】
【表13】

【0071】
その結果得た水酸化ナトリウム液の分析値は、水酸化ナトリウム5.8wt%、塩化ナトリウム0.064wt%、鉄および炭酸ナトリウムは定量限界値以下であった。この水酸化ナトリウム液を濃縮した溶液の分析値は、水酸化ナトリウム17.3wt%、塩化ナトリウム0.067wt%、鉄および炭酸ナトリウムは定量限界値以下であった。生成した酸液の分析値は、塩酸3.4wt%、鉄定量限界値以下、強熱残分0.008wt%であった。
本実施例で製造した水酸化ナトリウム溶液、塩酸溶液ともに純度は良好であり、工業原料として利用することができる品質であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、有害物質などを含有する産業廃棄物処分場などから排出される浸出水やこれに類する環境有害物質含有排水を処理する方法およびその装置に係るものであり、特に、管理型最終処分場の浸出水からの有価物の回収に係る技術に関するものである。本発明は、産業廃棄物処理場から排出される浸出汚水から有価物を回収することにより、処理場の健全な運営、環境汚染の防止、産業廃棄物処理の促進に貢献する有用な技術を提供するものである。さらに、本発明は、浸出水などに含まれる金属類、マグネシウム、カルシウム、鉄などの金属類を沈殿除去することによる浸出水の浄化、ならびに浸出水から有価物である酸およびアルカリの回収を行なう処理方法および装置を提供することにより、産業全般に亘る円滑な生産活動を行なう上で有益な技術を開発し提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸出水から酸およびアルカリを回収する方法であって、
(1)浸出水をアルカリで中和処理して、前記浸出水から金属類を沈殿させろ過分離する第1工程と、
(2)第1工程で得たろ液中に二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムを添加して沈殿物をろ過分離する第2工程と、
(3)第2工程で得たろ液からバイポーラ膜電気透析に適用ことができる塩化ナトリウムを主体とする塩溶液を得る第3工程と、
(4)該塩溶液をバイポーラ膜電気透析により酸溶液とアルカリ溶液を得る第4工程、
を含むことを特徴とする浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項2】
第1工程において、前記浸出水をアルカリでpH10以上に中和処理する請求項1に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項3】
第1工程において、アルカリで中和した浸出水からアンモニアを回収する請求項1または2に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項4】
第1工程において、浸出水をアルカリで中和して金属類を沈殿分離するにあたりケイ酸含有無機物を混和する請求項1から3のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項5】
第3工程において、二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムで処理したろ液を脱炭酸する請求項1から4のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項6】
第3工程において、二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムで処理した後のろ液に含有されている微細粒子を除去する請求項1から5のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項7】
第3工程において、第2工程で得たろ液から再結晶または蒸発固化により塩化ナトリウムを回収することを含む請求項1から6のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項8】
第4工程のバイポーラ膜電気透析により得た水酸化ナトリウム溶液を濃縮して高濃度の水酸化ナトリウム溶液とする請求項1から7のいずれかに記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項9】
浸出水が濃縮液である請求項1から8に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収方法。
【請求項10】
浸出水から酸およびアルカリを回収する装置であって、
(1)浸出水をアルカリ性に調整するpH調整装置、(2)生成した沈殿を浸出液から分離するろ過装置、(3)二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムをろ液へ添加する添加装置、(4)生成した沈殿物の分離ろ過装置、(5)ろ液中の塩化ナトリウムを主体とする塩の回収装置、(6)回収した塩を溶液とする溶解装置、(7)塩水溶液からバイポーラ膜電気透析により酸溶液とアルカリ溶液を製造するバイポーラ膜電気透析装置、
を備えてなることを特徴とする浸出水から酸およびアルカリの回収装置。
【請求項11】
該浸出水が、濃縮液である請求項10に記載の浸出水から酸およびアルカリの回収装置。
【請求項12】
(1)のpH調整装置には、pHを調整した浸出液からアンモニアを回収する装置および/またはケイ酸含有無機物の投入装置が付属している請求項10または11に記載の浸出液から酸およびアルカリの回収装置。
【請求項13】
(3)の二酸化炭素および/または炭酸ナトリウムをろ液へ添加する添加装置には、ろ液中のpHを調整して炭酸イオンを減少させる装置および/または微細粒子濾過装置が付属している請求項10から12のいずれかに記載の浸出液から酸およびアルカリの回収装置。
【請求項14】
(5)の塩の回収装置が、ろ液からの再結晶またはろ液の蒸発固化により塩化ナトリウムを回収する装置である請求項10から13のいずれかに記載の酸およびアルカリの回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−522(P2011−522A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144365(P2009−144365)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【特許番号】特許第4428582号(P4428582)
【特許公報発行日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(509002280)株式会社富士クリーン (3)
【Fターム(参考)】