説明

浸漬限外ろ過膜又は精密ろ過膜を使用して産業廃水から重金属を除去するための方法

開示された膜分離工程により産業廃水から1つ又は複数の重金属を除去するための方法。具体的には、下記ステップ:すなわち、(a)重金属を含有する産業廃水を容器に収集するステップと、(b)pHを調節して、そのため当該系が当該産業廃水中の当該重金属の水酸化物沈殿を達成するステップと、(c)5から50モルパーセントまでのジチオカルバマートソルト基を含有し、500から10,000ダルトンまでの分子量を有する水溶性二塩化エチレン−アンモニアポリマーの有効量を添加し、当該産業廃水系中の当該重金属と反応させるステップと、(d)浸漬膜を介して当該処理済み産業廃水を通過させるステップであり、当該浸漬膜が限外ろ過膜又は精密ろ過膜であるステップと、(e)自由選択的に当該膜を逆流洗浄し、膜表面から固形物を除去するステップとである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬限外ろ過システム又は精密ろ過膜システムの使用を介して産業廃水から重金属を除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厳格な環境規制及び/又は水不足のため、産業界は、排出又は再利用の前に廃水から重金属を除去しなければならない。ほとんどの廃水は、汎用DTC/TTC化学物質又は特殊ポリマー性DTC化合物により処理され、その後、沈殿した金属は清澄装置中で分離される。限外ろ過膜(UF)/精密ろ過膜(MF)工程は、清澄装置より更に小型でよりいっそう高品質の水に帰着し、特に浮遊固体がほとんどなく、濁度は無視できるほどであるため、清澄装置の代わりに限外ろ過(UF)膜又は精密ろ過(MF)膜が、近年、固液分離においてますます使用されつつある。UF又はMF透過液は、再利用の目的に依存して、任意の更なる処理をして又は処理をしないで再使用できる。したがって、産業廃水は、ポリマー性キレート剤で処理され、引き続きUF膜又はMF膜を介してろ過された場合、高度の金属除去に帰着し、汎用DTC/TTC/TMT化学物質で処理されたものより高い膜フラックスにも帰着する。
【0003】
クロスフローUF又はMF工程はこの応用に使用されてきたが、膜汚損を最小限に抑えるのに必要なクロスフローエネルギーが高いため、通常、これらの工程の操業コストは高い。この10年ほどで、浸漬UF及びMF膜は、膜型バイオリアクタ(MBR)におけるような高浮遊物質分離への応用、又は原水処理及び三次処理におけるような低浮遊物質への応用に使用され成功を収めている。膜はより高フラックスにすると汚損するため、これらの応用では、浸漬膜は低フラックス(10〜60LMH)で稼働させる。膜汚損を最小限に抑えるため、エアレーションを使用して、連続的に(例えば、MBRおいて)又は断続的に(例えば、MBR、原水及び三次処理において)膜表面を洗い流す。したがって、これらの比較的低操業コストの浸漬膜システムを、金属錯化剤としてだけでなく膜フラックス増強剤としても機能するポリマー性キレート剤を併用する重金属除去等の他の高固形物応用に適応させることは興味深い。ポリマー性キレート剤のろ過システムにおける応用は、米国特許第5,346,627号明細書及び第6,258,277号明細書で考察されており、それらは参照により本明細書中に組み込まれる。
【特許文献1】米国特許第5,346,627号
【特許文献2】米国特許第6,258,277号
【発明の概要】
【0004】
本発明は、(a)重金属を含有する産業廃水を、当該産業廃水を保持するのに好適な容器に収集するステップと、(b)当該系のpHを調節して、当該産業廃水内の当該重金属の水酸化物沈殿を形成するステップと、(c)約5から約50モルパーセントまでのジチオカルバマートソルト基を含有した約500から約10,000ダルトンまでの分子量を有する水溶性二塩化エチレンアンモニアポリマーの有効量を添加し、当該産業廃水系内の当該重金属と反応させるステップと、(d)浸漬膜を介して当該処理済み産業廃水を通過させるステップであり、当該浸漬膜が限外ろ過膜又は精密ろ過膜であるステップと、(e)自由選択的に当該膜を逆流洗浄し、膜表面から固形物を除去するステップとを含む膜分離工程の使用により、産業廃水から1種又は複数種の重金属を除去するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、重金属を含有する産業廃水を処理するための一般的な工程スキームを例示する図であり、浸漬精密ろ過膜/限外ろ過膜だけでなく、当該浸漬精密ろ過膜/限外ろ過膜からの透過液を更に処理するための追加的な膜も含まれる。
【図2】図2は、15ppmのCu++を含有する処理済み産業廃水について、フラックスの関数としてのTMPを示す図である。
【図3】図3は、773ppmのCu++を含有する処理済み産業廃水について、フラックスの関数としてのTMPを示す図である。
【図4】図4は、100ppmのCu++を含有する模擬廃水について、時間及び体積濃縮の関数としてのTMPを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
用語の定義:
「UF」とは、限外ろ過を意味する。
【0007】
「MF」とは、精密ろ過を意味する。
【0008】
「DTC」とは、ジメチルジチオカルバマートを意味する。
【0009】
「TTC」とは、トリチオカルボナートを意味する。
【0010】
「TMT」とは、トリメルカプトトリアジンを意味する。
【0011】
「TMP」とは、膜間圧力を意味する。
【0012】
「LMH」とは、毎時1平方メートル当たりのリットル数を意味する。
【0013】
「キレート剤スカベンジャー」とは、キレート剤と錯体を形成可能な化合物を意味する。これらのスカベンジャーは、通常は塩の形態であるが、それに制限されない。
【0014】
「浸漬膜」とは、ろ過しようとする液体の下に完全に浸漬している膜を意味する。
【0015】
「ポリマー性キレート剤」とは、重金属と反応する及び/又は重金属と錯体を形成するポリマー性分子を意味する。
【0016】
「両性ポリマー」とは、陽イオン性モノマー及び陰イオン性モノマーの両方、並びに場合により他の非イオン性モノマー(複数可)から誘導されるポリマーを意味する。両性ポリマーは、正味の正電荷又は負電荷を有していてよい。両性ポリマーは、ツビッターイオン性モノマー及び陽イオン性又は陰イオン性モノマー並びに場合により非イオン性モノマーから誘導されてもよい。両性ポリマーは水溶性である。
【0017】
「陽イオン性ポリマー」とは、全体的に正電荷を有するポリマーを意味する。本発明の陽イオン性ポリマーは、1種又は複数種の陽イオン性モノマーを重合させることにより、1種又は複数種の非イオン性モノマー及び1種又は複数種の陽イオン性モノマーを共重合させることにより、エピクロロヒドリン及びジアミン又はポリアミンを縮合、或いは二塩化エチレン並びにアンモニア又はホルムアルデヒド及びアミン塩を縮合させることにより調製される。陽イオン性ポリマーは水溶性である。
【0018】
「ツビッターイオン性ポリマー」とは、ツビッターイオン性モノマー及び場合により他の非イオン性モノマー(複数可)から構成されるポリマーを意味する。ツビッターイオン性ポリマーにおいては、全てのポリマー鎖及びそれらの鎖内セグメントは、電気的に厳密に中性である。したがって、ツビッターイオン性ポリマーは、両性ポリマーのサブセットを表わし、陰イオン性電荷及び陽イオン性電荷の両方が同一のツビッターイオン性モノマー内に導入されているため、必然的に全ポリマー鎖及びセグメントにわたって電荷的中性が維持される。ツビッターイオン性ポリマーは水溶性である。
【0019】
「陰イオン性ポリマー」とは、全体的に負電荷を有するポリマーを意味する。本発明の陰イオン性ポリマーは、1種又は複数種の陰イオン性モノマーを重合させることにより、或いは1種又は複数種の非イオン性モノマー及び1種又は複数種の陰イオン性モノマーを共重合させることにより調製される。陰イオン性ポリマーは、水溶性である。
【0020】
好ましい実施形態:
上述したように、本発明は、浸漬精密ろ過膜又は浸漬限外ろ過膜のいずれかの使用により、産業廃水から1種又は複数種の重金属を除去するための方法を提供する。
【0021】
キレート剤が産業廃水に存在する場合、pHを調節して産業廃水中のキレート剤から金属を脱錯体化する必要があり、そのすぐ後又は同時に、1種又は複数種のキレート剤スカベンジャーを添加する必要がある。通常、キレート剤は、pHが4未満、好ましくはpHが約3から約4までの範囲に調節されると、金属から脱錯体化する。
【0022】
一実施形態では、キレート剤スカベンジャーは、Ca若しくはMg又はAl若しくはFeを含有する。
【0023】
別の実施形態では、Feを含有するキレート剤スカベンジャーは、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、又はその組み合わせからなる群から選択される。
【0024】
様々な種類及び量の酸及び塩基を使用して、産業廃水のpHを調節することができる。一実施形態では、塩基は、塩化物及び水酸化物等のマグネシウム及びカルシウム塩からなる群から選択できる。別の実施形態では、塩基は、ナトリウム、カリウム、及びアンモニウム等の水酸化物からなる群から選択される。様々な鉄化合物及び投入量を使用して、pHを調整した産業廃水を更に処理できる。更に別の実施形態では、使用される鉄化合物の投入量は、産業廃水中に存在するキレート剤のレベルに依存して、約100ppmから約10,000ppmまであってよい。
【0025】
産業廃水系から重金属を除去する1つのステップは、系のpHを調節して、当該産業廃水中の当該重金属の水酸化物沈殿を形成するステップである。金属水酸化物が最小の溶解度を有するような廃水pHである場合、水酸化物沈殿が生じる。
【0026】
好ましい実施形態では、産業廃水のpHは、約pH7から約pH10まで上昇される。産業廃水のpHレベルは、金属の存在に依存する。所望の範囲へのpH調整を可能にする任意の塩基が起想される。例えば、pH調整用に選択される塩基は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、及びアンモニウム等の水酸化物からなる群から選択される。
【0027】
一実施形態では、重金属を含有する産業廃水は、半導体製造;回路基板製造;金属表面処理;金属めっき;電力産業;精錬業;自動車産業からなる群から選択される工業的工程からのものである。
【0028】
別の実施形態では、産業廃水から除去しようとする重金属は、Pb、Cu、Zn、Cd、Ni、Hg、Ag、Co、Pd、Sn、Sb、及びその組み合わせからなる群から選択される。
【0029】
二塩化エチレンアンモニアポリマーは、二塩化エチレンとアンモニアとの反応により調製される。開始二塩化エチレンアンモニアポリマーは、一般に500〜100,000の分子量範囲を有する。好ましい実施形態では、分子量は1,500〜10,000であり、最も好ましい分子量範囲は1,500〜5,000である。これらのポリマーを生成するための典型的な反応は、米国特許第5,346,627号明細書に記載されており、それは参照により本明細書中に組み込まれる。これらのポリマーは、Nalco Company社、1601 West Diehl Road、Naperville、ILからも入手できる。
【0030】
一実施形態では、産業廃水に添加される水溶性二塩化エチレン−アンモニアポリマーの有効量は、10ppmから約10,000ppmまでの活性固形物である。
【0031】
別の実施形態では、産業廃水に添加される水溶性二塩化エチレンアンモニアポリマーは、約2,000〜約2,000,000ダルトンの分子量を有する。別の実施形態では、浸漬膜を介して処理済み産業廃水を通過させるための推進力は、正圧又は負圧である。
【0032】
別の実施形態では、浸漬精密ろ過膜又は限外ろ過膜を介して通過する処理済み産業廃水は、1種又は複数種の膜を介して更に処理されてもよい。なおまた更なる実施形態では、追加的な膜は、逆浸透膜又はナノろ過膜のいずれかである。
【0033】
重金属を含有する産業廃水を処理するために利用される浸漬膜は、様々な種類の物理的及び化学的な特性を有していてよい。物理的な特性に関して、一実施形態では、限外ろ過膜は、0.003〜0.1μmの範囲の孔径を有する。別の実施形態では、精密ろ過膜は、0.1〜10μmの範囲の孔径を有する。別の実施形態では、浸漬膜は、中空繊維構造、平板構造、又はその組み合わせからなる群から選択される構造を有する。別の実施形態では、膜は、らせん状に巻かれた構造を有する。別の実施形態では、浸漬膜は、毛細管構造を有する。
【0034】
化学的な特性に関して、一実施形態では、浸漬膜はポリマー性である。別の実施形態では、膜は無機性である。更に別の実施形態では、膜はステンレス鋼である。
【0035】
請求項に記載の発明のために実施され得る他の物理的及び化学的な膜特性は他にもある。
【0036】
産業廃水を水溶性二塩化エチレンアンモニアポリマーで処理した後、粒子径を更に増大させ膜フラックスを増強するために、1種又は複数種の水溶性ポリマーで廃水を更に処理してもよい。
【0037】
一実施形態では、水溶性ポリマーは、両性ポリマー、陽イオン性ポリマー、陰イオン性ポリマー、及びツビッターイオン性ポリマーからなる群から選択される。
【0038】
別の実施形態では、水溶性ポリマーは、100,000から約2,000,000ダルトンまでの分子量を有する。
【0039】
別の実施形態では、両性ポリマーは、ジメチルアミノエチルアクリラートメチルクロリド第四級塩(DMAEA.MCQ)/アクリル酸コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/アクリル酸コポリマー、ジメチルアミノエチルアクリラートメチルクロリド塩/N,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタインコポリマー、アクリル酸/N,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタインコポリマー及びDMAEA.MCQ/アクリル酸/N,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタインターポリマーからなる群から選択される。
【0040】
別の実施形態では、両性ポリマーの投入量は、約1ppmから約2000ppmまでの活性固形物である。
【0041】
別の実施形態では、両性ポリマーは、約5,000から約2,000,000ダルトンまでの分子量を有する。
【0042】
別の実施形態では、両性ポリマーは、約3.0:7.0〜約9.8:0.2の陽イオン性電荷当量対陰イオン性モル電荷当量の比を有する。
【0043】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(polyDADMAC)、ポリエチレンイミン、ポリエピアミン(polyepiamine)、アンモニア又はエチレンジアミンで架橋されたポリエピアミン、二塩化エチレン及びアンモニアの縮合ポリマー、トリエタノールアミン及びトール油脂肪酸の縮合ポリマー、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリラート硫酸塩)、並びにポリ(ジメチルアミノエチルアクリラートメチルクロリド第四級塩)からなる群から選択される。
【0044】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノエチルアクリラートメチルクロリド第四級塩、ジメチルアミノエチルメタクリラートメチルクロリド第四級塩、及びジメチルアミノエチルアクリラートベンジルクロリド第四級塩(DMAEA.BCQ)からなる群から選択される、アクリルアミド(AcAm)及び1種又は複数種の陽イオン性モノマーのコポリマーである。
【0045】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーの投入量は、約0.1ppm〜約1000ppmの活性固形物である。
【0046】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、少なくとも2モルパーセントの陽イオン性電荷を有する。
【0047】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、少なくとも100モルパーセントの陽イオン性電荷を有する。
【0048】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、約2,000〜約10,000,000ダルトンの分子量を有する。
【0049】
別の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、約20,000〜約2,000,000ダルトンの分子量を有する。
【0050】
別の実施形態では、ツビッターイオン性ポリマーは、約1〜約99モルパーセントのN,N−ジメチル−N−メタクリルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン及び約99〜約1モルパーセントの1種又は複数種の非イオン性モノマーから構成される。
【0051】
別の実施形態では、膜分離工程は、膜洗浄用の連続的エアレーションを伴う、すなわちクロスフロー式膜分離工程;膜洗浄用の断続的エアレーションを伴う、すなわち半デッドエンドフロー式膜分離工程;及び膜洗浄用のエアレーションを伴わない、すなわちデッドエンドフロー式膜分離工程からなる群から選択される。
【0052】
可能性のある産業廃水処理スキームを図1に示す。
【0053】
図1において、重金属を含有する産業廃水は容器(1)に収集され、そこにライン(3)を介して酸又は塩基が添加され、pHを3〜4に調節する。その後、鉄化合物等のキレート剤スカベンジャーがライン(3A)を介して添加される。その後、この水は容器(2)に流れ込み、インライン(4)を介して又は直接的(5)に塩基が容器(2)に添加され、pHが8〜10に調節される。その後、水は容器(2)から、限外ろ過膜又は精密ろ過膜(10)が浸漬している容器(8)へと流れ込む。限外ろ過膜又は精密ろ過膜には、エアレーションを適用できる。二塩化エチレン−アンモニアポリマー等のポリマー性キレート剤は、インライン(6)により又は直接的(9)に膜タンク(8)へ添加できる。二塩化エチレンアンモニアポリマーが添加された後、水が膜タンク(8)へ流れ込む前に、1種又は複数種の水溶性ポリマーを自由選択的にインライン(7)で添加できる。浸漬限外ろ過又は精密ろ過膜工程からの透過液(11)は、透過液を付加的な膜(12)を介して通過させることにより自由選択的に処理でき、廃棄物(濃縮物)(13)は、更なる脱水又は廃棄のために送出できる。
【0054】
以下の実施例は、請求項に記載の発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0055】
本発明は、0.4μmの孔径及び0.1mの膜面積を有する浸漬平板精密ろ過膜と産業廃水とを用いて実験を行うことにより試験された。膜性能は、膜間圧力、すなわちTMPの経時的な変化率を、異なるフラックスにおいて測定した限界フラックス調査を行うことにより決定した。TMPが突然増加する際のフラックスは、限界フラックスと定義される。限界フラックスが高いほど、所定の処理能力に必要な膜面積は低くなり、したがって、資本コストはより低くなる。供給液及び透過液中の金属濃度は、パーキンエルマー社製原子吸光分析装置(モデルAA200、Boston、(MA))を使用して測定した。透過液の濁度は、0.06NTU(比濁計濁度単位)まで感度性のあるハッチ社製濁度計(Hach、Ames、IA)で測定した。
【0056】
実施例1
15ppmの銅、界面活性剤、及びキレート剤を含有する産業廃水を、回路基板製造会社から取得し、オーバーヘッドミキサを装備したタンクに収納した。硫酸でpHを3.0に調節した。その後、190ppmの硫酸第二鉄を添加し、2分間混合した。その後、25%の水酸化ナトリウムでpHを8.0に調節し、Nalco Company、1601 West Diehl Road、Naperville、ILから入手可能な、二硫化炭素で官能化された180ppmの二塩化エチレン−アンモニアポリマーを添加し、3分間混合した。その後、この処理済み廃水を膜タンクに収納した。始めは、より低い30LMHのフラックスを適用し、その間TMPをモニタした。10分後、フラックスを59LMHに増加させ、再びTMPを測定した。300LMHフラックスまで、この工程を続けた。これらの測定中は、透過液を供給タンクへ戻して再利用し濃縮物は取り除かなかったが、それは膜タンク中の金属濃度及び固形物濃度が一定だったことを意味する。各フラックスにおいて、透過液の金属濃度及び濁度も測定した。フラックス−TMPデータを図2に示す。透過液の濁度は、全フラックスにおいて0.09〜0.12NTUであった。透過液のCu++濃度は、この実験中、0.1〜1ppm間を維持した。これらの金属濃度は、水塊中への放出に望ましいか、又はそれより低い。
【0057】
図2で示されているように、TMPは、最も高い320LMHのフラックスにおいてでさえ、1psi未満だった。第2に、TMPは、いかなるフラックスにおいても著しい経時的増加を示さなかった。参考として、浸漬膜は、膜型バイオリアクタ等における高固形物応用ではわずか10〜40LMHで稼働され、最大許容TMPは4〜5psiであり、それより高い圧力で膜を洗浄しなければならない。したがって、この実施例は、当該二塩化エチレン−アンモニアポリマー処理が浸漬膜をより高フラックスで稼働させることを可能にし、透過液は非常に低い金属レベル及び濁度に帰着することを例示した。そのような高水質は、更なる処理をする又は更なる処理をしない水の再利用選択肢に適格である。
【0058】
実施例2
実施例1と同様の手順を使用したが、773ppmのCu並びに界面活性剤及びキレート剤も含有する産業廃水を用いた。この廃水も回路基板製造会社から取得した。この実施例で使用した硫酸第二鉄及び当該二塩化エチレン−アンモニアポリマーの投入量は、それぞれ3000ppm及び2100ppmだった。TMP−フラックスのデータを図3に示す。遥かに高いレベルの金属、他の付着物(foulants)及び処理用化学物質が存在するにも関わらず、限界フラックスは、300LMHフラックスで稼働させた後でさえ検出されなかった。透過液の濁度は、再び0.09〜0.12NTUであり、透過液のCu++は、0.09〜14ppmの間で推移した。より高フラックスで安定した稼働、つまり膜汚損がないことが可能になる一方で、773ppmから実に14ppmまでのCu++の低減は、98%を超えた低減であり、それは特筆すべきことである。
【0059】
実施例3
この実施例では、100ppmのCu++及び590ppmのEDTA−Na(エチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩)を含有する24Lの擬似廃水を、実施例1と同様の方法で処理した。硫酸第二鉄及び当該二塩化エチレン−アンモニアポリマーは、それぞれ1300ppm及び300ppmだった。ポリマー性キレート剤処理の後に、50モル%の陽イオン性電荷を有する、5ppmのDMAEA.MCQ−AcAmコポリマーを添加し、2分間混合した。ここでは、透過液及び廃棄物/濃縮物の両方を排出する一方で、処理済み供給液を膜タンクに絶えず添加して7Lのレベルを維持した。図4における最終濃縮ファクターとは、最初の供給体積(24L)/最終的な濃縮水の体積(7L)の率を意味し、つまり供給液中の固形物は、検査した両フラックスの各々において実験終了時には3.4倍に濃縮された。
【0060】
図4で示したように、3.4倍濃縮の後でさえ、TMPは、266LMH及び317LMHの両フラックスにおいて、低いままであり、時間が経過しても(又は体積濃縮が変化しても)ほとんど一定のままだった。この実施例においても同様に、濁度は<0.1NTUであり、透過液のCu++レベルは20〜24ppmだった。このCu++レベルは、化学処理の最適化により更に低減でき、膜性能に影響しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離工程の使用により、産業廃水から1種又は複数種の重金属を除去するための方法であって、
a.重金属を含有する産業廃水を、前記産業廃水を保持するのに好適な容器に収集するステップと、
b.この系のpHを調節して、前記産業廃水中の前記重金属の水酸化物沈殿を形成するステップと、
c.約5から約50モルパーセントまでのジチオカルバマートソルト基を含有した約500から約10,000ダルトンまでの分子量を有する水溶性二塩化エチレンアンモニアポリマーの有効量を添加して、前記産業廃水系中の前記重金属と反応させるステップと、
d.浸漬膜を介して前記処理済み産業廃水を通過させるステップであり、前記浸漬膜が限外ろ過膜又は精密ろ過膜であるステップと、
e.自由選択的に前記膜を逆流洗浄し、前記膜の表面から固形物を除去するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記水溶性二塩化エチレンアンモニアポリマーの前記有効量が、10ppmから約10,000ppmまである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップaの後且つステップbの前に、前記産業廃水系のpHを調節して、もし存在する場合には前記廃水系中のキレート剤から金属を脱錯体化し、そのすぐ後に又は同時に1種又は複数種のキレート剤スカベンジャーを添加するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理済み産業廃水を前記浸漬膜を介して通過させるための推進力が正圧又は負圧である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップcの後且つ前記浸漬膜を介して通過する前に、1種又は複数種の水溶性ポリマーで前記産業廃水を処理することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性二塩化エチレンアンモニアポリマーが、約2,000から約2,000,000ダルトンの分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマーが、両性ポリマー、陽イオン性ポリマー、又はツビッターイオン性ポリマー、陰イオン性ポリマー及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記浸漬膜分離工程が、クロスフロー式膜分離工程、半デッドエンドフロー式膜分離工程、及びデッドエンドフロー式膜分離工程からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記膜からのろ過液を追加的な膜を介して通過させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記追加的な膜が逆浸透膜である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記追加的な膜がナノろ過膜である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記浸漬膜が、中空繊維構造、平板構造、又はその組み合わせからなる群から選択される構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶性ポリマーが、100,000から約2,000,000ダルトンまでの分子量を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記産業廃水中の前記重金属が、Pb、Cu、Zn、Cd、Ni、Hg、Ag、Co、Pd、Sn、及びSb又はその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記産業廃水が、半導体製造、回路基板産業、金属表面処理、金属めっき、電力産業、精錬業、自動車産業からなる群から選択される工業工程からのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ステップbの後及びステップbの前での前記pH調整が4未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
前記キレート剤スカベンジャーが、Ca若しくはMg又はAl若しくはFeを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項18】
前記Feを含有するキレート剤スカベンジャーが、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、又はその組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−502436(P2010−502436A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527473(P2009−527473)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/071855
【国際公開番号】WO2008/030652
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(507248837)ナルコ カンパニー (91)
【Fターム(参考)】