説明

消耗電極を用いる短絡アーク溶接方法

【課題】短絡移行を制御する能力を維持しながら、短い短絡移行期間を得ること、金属スパッタを防ぐことを可能にする消耗電極を用いるアーク溶接方法の提供。
【解決手段】溶接サイクルが時間の経過の間、次々に続き、それぞれが、アーク期間及び液体金属が電極端とワークピースの間の短絡を確立する短絡期間を含む。各サイクルは以下の工程を具備する:アーク電流I2を、消耗電極がワークピースに向かって移動されるのと同時に維持すること;電流を、短絡期間の開示時において最小電流I1に達するように減少すること;消耗ワイヤー電極の速度を減少すること;電流を、短絡期間の間、最大値I4に達するように増大すること;及び、次いで、電流を、短絡期間の間、最小値I1に達するように減少すること。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、電流が流れる消耗電極、及び溶接池をシールドするためのガスシールドを用いたアーク溶接の分野に関する。
【0002】
金属不活性ガス及び金属活性ガスのそれぞれについて確立されたMIG又はMAG溶接は、特に、被覆されているか又はされていない金属シート又はプレートのための、消耗電極及びシールドガスを用いるアーク溶接又はアークブレーズ溶接のための技術である。それらの溶接技術は、用語GMAW(ガス金属アーク溶接)によっても知られている。
【0003】
それらのMIG又はMAG方法が行われる場合、電気的アークによって発生した熱は、溶加材、消耗ワイヤーの端を溶融し、また、母材、即ち、溶接されるべきピースの構成金属又は金属合金を溶融する。ガス又はガス混合物は通常、溶接の間、溶接池、即ち、形成されている溶接継手を、大気の混入からシールドするために提供される。
【0004】
MIG又はMAGアーク溶接のための既知のデバイスは、概略的に、電力供給手段、制御回路及び特に上記の、溶接が生じられる溶接されるべき一以上のワークピースに近く位置される金属ワイヤー又は消耗電極を具備する。
【0005】
測定手段は、溶接されるべきワークピースに流れる電流(I)及び溶接されるべきワークピースと電極の間の電圧(U)を測定するために用いられる。それらの測定手段は、電流供給手段及び/又は制御回路を制御するためにも用いられる。
【0006】
消耗電極は、供給手段によって送達された電流が流れる溶融可能なワイヤーである。電流の流れは制御回路によって制御され、ワークピース又は溶接池に直面して(facing)位置されたワイヤーの端を加熱する。ワイヤーの端は溶融し、それによって、溶滴を形成させ、これは、次いで、継手面のワークピース上に溶着される。
【0007】
より正確には、電極から溶接池への金属移行は、既知の標準的な操作様式(operating mode)に従って起こり、短絡移行と呼ばれる。この短絡移行様式は、低アークエネルギーで、典型的には200 A未満の電流及び約14〜20 Vの電圧で得られ、次に液体金属池と接触するワイヤーの端における、溶融金属の溶滴の形成によって特徴付けられる。接触すると、電流Iは急速に増大し、ピンチング(pinching)又はネッキング(necking)の出現を引き起こし、溶融金属の溶滴が切り離されて(detached)溶接池に滴下されることを容易にする。この現象は時間経過とともに繰り返され、それ故、約50〜200 Hzの振動数で溶接継手が形成され続ける。
【0008】
この短絡溶接技術は、溶接池が良く制御されるために、典型的には5 mm未満の薄い厚さを溶接するために用いられるが、しかしそれは短く不安定なアークをもたらし、また、それらの品質を損なう溶接されたワークピース上の金属スパッタをもたらす。
【0009】
さらにその上、入射(incident)エネルギーが高すぎ、従って、過剰溶込み又は金属シートの貫通さえ引き起こすことが起こりうる。溶接エネルギーを減少させるように設計された場合は溶着速度が比較的遅いこと、及び、低電流で安定なアークレジム(arc regime)を確立することは極めて難しいことも留意されるべきである。
【0010】
ある場合には、アークが安定なパルス移行におけるように、関わる高エネルギーが最終ワークピースのかなりの変形をもたらす。これは、パルス移行の固有の操作の結果起こり、約450 Aの極めて高い電流ピークのために得られ、消耗ワイヤーがワークピースと接触する前にそれから溶滴を切り離させるが、しかしこれは次いで、溶滴の切り離しに必要なエネルギーがワークピースには高すぎるために変形を引き起こす。
【0011】
電流をよりよく制御すること、及び特に、ネック(neck)が壊れたときに生じるスパッタリングを制限することを試みるために、種々の方法が提案されてきた。
【0012】
例えば、CSC又はCSC-MIG溶接(制御された短絡を意味するCSC)と呼ばれる最初の溶接方法が提案された。
【0013】
このCSC方法は、特に文献EP-A-1 384 546に説明されており、アークを与えるためのエネルギーを減少し、そしてそれ故、金属スパッタの量を減少するために、消耗電極を構成するワイヤーの繰り出しにおいて、往復移動、即ち、機械的な前方及び後方への移動を用いる。しかしながら、この方法は、それが低い移行頻度によって制限されるため、及び短絡移行様式が維持されなければならないために、理想的ではない。さらにその上、移行頻度が比較的低く、換言すれば、移行期間が比較的長いため、形成される溶滴が大きい。これは、薄いシートを溶接するときに困難をもたらす。よって、実際には、CSC方法を用いて、0.8 mmより薄いシートにおいて、良好な品質の溶接を得ることは考えられない。CSC方法を実行するのに適したデバイスは、特に、消耗ワイヤー電極に「負の」速度を適用するための手段が用意される必要があるために、比較的複雑で且つ高価であることにも留意されるべきである。
【0014】
さらに、STT(表面張力移行(surface tension transfer))溶接方法と呼ばれる他の溶接方法が提案されている。
【0015】
このSTT方法、特に、文献FR-A-2 666 261により説明された方法は、液体金属ブリッジのネッキング(necking)を開始し、一方でアークが高電流下で再構成(restruck)されることを防ぐために、アークが再点弧される前、従って短絡期間の間に発生した電流パルスを用いる。
【0016】
それは金属溶滴の切り離しのためのエネルギーを完全に正確に制御することを可能にするという利点があるが、この方法は、適切に制御されない場合、頻繁に望ましくないスパッタをもたらす。さらにそれは実行が複雑であり、また、多くのパラメーターが正確に制御されることを要求する。これは、制御及び使用の範囲を制限する。
【0017】
本発明の目的は、短絡移行を制御する能力をなお維持しながら、GMAW、CSC及びSTT方法の上述した欠点を改善することである。
【0018】
換言すれば、生じる問題は、溶接の質が改善されるように、短い移行期間を得ること及び金属スパッタを防ぐことを可能にする、電流が流れる消耗電極を用いたアーク溶接方法を提供することである。
【0019】
本発明に従った一つの解決策は、それ故、電極に供給される電流によって一端が連続的に溶融される消耗電極を用いたアーク溶接方法であって、溶接サイクル(A-C-A)が時間(t)の経過の間、次々に続き、それぞれが、アーク期間(Ua;瞬間A-C)及び液体金属が該電極の溶融端と溶接されるべき少なくとも一つのワークピースの間の短絡(SC)を確立する短絡期間(C-A)を含み、各サイクルが、以下の工程を具備する方法である:
a) アーク期間(A-C)の期間(A3〜A4)のアーク電流I2を、該消耗電極が溶接されるべきワークピースに向かって速度V1で、好ましくはほぼ一定速度V1で移動されるのと同時に維持すること;
b) 該電流を、該短絡期間の開示時(C)において、最小電流I1に達するように減少すること、ここでI1<I2である;
c) 少なくとも短絡期間(C-A)の一部の間、消耗ワイヤー電極の速度を、最小速度V3に達するように減少すること、ここでV3<V1である;
d) 該電流を、最大値I4に達するように、短絡期間(C-A)の間増大すること、ここでI4≧I2である;及び
e) 次いで、工程d)の後、最小値I1に達するように、該電流を短絡期間(C-A)の間減少すること、ここで、I1<I2である。
【0020】
短絡期間の間、電流の増大、及び同時に、消耗ワイヤー電極の速度の減少のために、同時に比較的短期の、特に、ワイヤーが機械的に溶接池から退かれないCSC方法によって得られるものより短い期間の、短絡期間を有することが可能である。よって、溶融金属の溶滴が急速に及び極めて制御可能移行されることができ、スパッタの発生が防がれる。換言すれば、工程d)とe)の間、電流ピークは、短絡期間の一部の間に生じ、ワイヤー減速の効果が、同時に、電流パルスの効果と組合されて、金属溶滴が短絡の間に切り離されることを可能にする。
【0021】
より正確には、短絡の間、電位差がゼロであるため、電圧は自然に低下する。この瞬間に、電流は溶接ジェネレータの電気の取得(acquisition)/調節制御システムを通して、定義された時間、増加され、そして、同様に、溶接ジェネレータは、ワイヤー供給モーターがワイヤーを繰り出すことを停止させる。溶滴はそれ故、電流の上昇及びワイヤーの停止によって助けられる毛細管効果によって、移行される、即ち、切り離される。次いで、アークは、溶接ジェネレータによって制御された低い電流で再確立され、与えられた時間の後、次の短絡のための液体金属溶滴を形成するための電流を発生する。この同じ期間の間、ジェネレータは、ワイヤーが次の短絡まで繰り出される(paid out)されるようにワイヤー供給モーターを制御する。
【0022】
種々の態様に従って、本発明は、以下の特徴の一以上を含む:
−最小速度V3がおよそゼロである、換言すれば、ゼロ(V3=0)又はほとんどゼロ(V3は0に極めて近い)である;
−最小速度V3は、アーク期間の開始時(A)に維持される;
−工程d)において、短絡期間の間の電流の増大(I1からI4へ)が生じ、一方、工程c)において、消耗ワイヤー電極の速度が減少される(V1からV3へ);
−短絡期間の間の電流の増大(I1からI4へ)及びワイヤー電極の速度の最小速度V3(好ましくはV3=0)までの減少が、少なくとも一つの溶融金属の溶滴を、電極の溶融端から引き離させる;
−最大電流I4が、保持期間(hold period)(C2〜C3)の間維持され、一方、消耗ワイヤー電極の速度は、最小速度V3で維持される;
−アークの再確立(re-established)される前に電流に低下を開始させる(trigger the drop in current)ために電圧が測定され、一方、消耗ワイヤー電極の速度が最小速度V3で維持される;及び
−溶接の間、ガスシールドが用いられ、被覆又は非被覆の炭素鋼、被覆又は非被覆のステンレス鋼及び被覆又は非被覆のアルミニウム又はチタンから選択される金属又は金属合金から作られた一以上の金属ワークピースが溶接される。
【0023】
また、本発明の対象は、消耗電極を用いる短絡金属移行アーク溶接ジェネレータへの電力供給を制御するためのデバイスであって、前記ジェネレータは、電流を供給するための手段及び上記方法を実行できる制御回路を具備する。
【0024】
また、本発明の対象は、データ処理手段のためのコンピュータープログラム産物(program product)であって、該コンピュータープログラム産物は、それらがデータ処理手段にインプットされたとき、データ処理手段に、上記方法の一以上の工程を実行させることが可能な、一連の指示を含む。
【0025】
また、本発明の対象は、コンピューターが読取り可能な媒体であって、上記のコンピュータープログラム産物のための指示の一以上の連続(sequences of instructions)を含む。
【0026】
また、本発明は、電流を供給する手段、及び上記デバイスに従う前記電力供給手段を制御するための及び/又は上記コンピュータープログラム産物を用いるためのデバイス及び/又は連続した指示を含む上記媒体を具備する、MIG/MAG溶接電流ジェネレータに関する。
【0027】
本発明は、付属の説明図を参照してさらに詳細に以下に説明され、それらはそれぞれ、以下のものが得られる、時間(t、x軸上にプロットされる)の経過による、電流サイクル、電圧サイクル及びワイヤー速度サイクルを示す:
−図1a〜1cの場合、従来技術に従ったCSC溶接方法が実行されている;
−図2a〜2cの場合、従来技術に従ったSTT溶接方法が実行されている;及び
−図3a〜3cの場合、本発明に従った溶接方法が実行されている。
【0028】
より正確には、図1a〜1c、2a〜2c及び3a〜3cの各シリーズは、CSC方法、STT方法及び本発明に従う方法のそれぞれについて、x軸上に同じスケールでプロットした時間(t)の関数として、電流(I)、電圧(U)及びワイヤー速度(Vw)における変化を示す。しかしながら、各シリーズの図の時間(t)のスケールは、互いに必ずしも比較できるとは限らないことに留意されるべきである。
【0029】
さらにその上、アーク期間に伴われる短絡期間(SC)は、所望の溶接を行うために必要である多くの時間の間、換言すれば、完全に溶接継手を産生するまで、繰り返されることは言うまでもない。
【0030】
図1、2及び3の全てにおいて、移行期間は一つの瞬間Aと次の瞬間Aの間を実質的に経過し、短絡期間(SC)は瞬間CとAの間を経過する。
【0031】
図1a〜1cは、従来技術のCSC方法についての時間tの関数として、主なパラメーターにおける変化の遷移を図示し、特に、ワークピースを流れる電流I(図1a)、溶接されるワークピースと消耗電極の間の電圧u(図1b)、及び消耗ワイヤー電極の速度Vw(図1c)における変化の遷移を図示している。
【0032】
用語「移行サイクル(transfer cycle)」は、二つの連続的な金属溶滴の溶着の間の工程の遷移を称する。上述したように、及び、一般に、金属溶滴の溶着(deposition)は、短絡の終わりに生じる。
【0033】
図1bにおいて、電圧Ua(アーク電圧)は瞬間AとCの間はほぼ一定且つゼロでなく、また、短絡が生じている間の期間に相当する瞬間CとAの間はほぼゼロに等しいと見られる。
【0034】
図1aに示したように、電流I1は、瞬間CとAの間では低く、A1まで低く維持される。これは次いで増大して値I2に達し、ワイヤー電極の溶融をもたらし、次いで、次の瞬間Cの前に再び下降する。
【0035】
さらに、図1cに図示したように、ワイヤーは、前後に(forward-and-back)往復する機構的移動を受けている。その速度は、ほぼ一定の速度V1から変化し、ゼロまで降下した後、負の速度V2に達し、溶滴が溶接池へ機械的に溶着されることを可能にする。次いで、保持値(hold value)V2から上昇した後、速度は再び正になり、その後、速度V1に達する。
【0036】
CSC方法に従うと、V2の絶対値は、V1のものと同じオーダーである。速度の減少は、短絡期の開始によって制御され、短絡期の終わりの前に、負の速度V2に達する。
【0037】
まとめると、CSC方法は、ワイヤー供給の往復移動によって、アークを与える(strike)ためのエネルギーを減少し、従って、金属スパッタを排除することを可能にする。
【0038】
しかしながら、この方法は、短絡移行様式における残存の要求のため、及び、上記で説明したように比較的低い移行頻度のために、特に溶着量に関して、即ち、溶着したワイヤー電極の金属の容量に関して、制限される。
【0039】
図2a〜2cは、図1a〜1cと同様に、従来技術に従うSTT方法の時間tの関数として主なパラメーターの変化の遷移を図示する。
【0040】
STT溶接方法に従うと、消耗ワイヤー電極の速度V1(図2cを参照)は一定で、標準的なGMAW方法のものとほぼ等しい。図2aに示すように、STT方法の特別な特徴は、本質的に、瞬間AとCの間の短絡期間の間の電流パルスIの存在であり、この電流は、アーク期間の電流I2より大きいI3の値に達する。これを行うため、特異的な検出手段は、高電流下でアークが与えられる(striking)ことにより引き起こされるスパッタを防ぐ目的のため、消耗電極と溶接池の間で形成された液体金属ブリッジのネッキングを開始するために、アークが再点弧される直前に電流パルスを送る。
【0041】
さらに、図2bに見られるように、電圧uはCSC方法におけるものと同様に変化する。
【0042】
しかしながら、このSTT方法は実行が複雑であり、また、上記のように、多くのパラメーターを正確に制御することが要求される。
【0043】
図3a〜3cは、先の図と同じように、本発明の方法について、主なパラメーターの変化の遷移を時間tの関数として説明する。
【0044】
他の方法の場合のように、本発明のアーク溶接方法は、時間(t)の経過とともに、次々に連続する溶接サイクルを含み、それぞれ、アーク期間又はレジーム(regime)(瞬間AとCの間の電圧Ua)及び短絡期間又はレジーム(瞬間AとCの間のゼロ電圧)を含み、ここで、液体金属は、消耗電極と一つの(又は複数の)溶接されるべきワークピースとの間の短絡(SC)を確立する。
【0045】
しかしながら、本発明の方法に従うと、消耗電極の端における溶融金属溶滴を得るために、アーク電流I2は、ワイヤーがほぼ一定の速度V1でワークピースに向かって移動されるのと同時に、アークレジームの期間(A3からA4)の間、維持される。
【0046】
次に、短絡(SC)の開始時に、高すぎる電流のために溶融金属移行における不安定性によって通常は引き起こされるスパッタリングを防ぐ目的で、電流は減少され(I2から)、短絡期間の開始時(瞬間C)において最小値I1に達する(瞬間A5)。
【0047】
さらに、図3cに示すように、液体ブリッジのネッキング又は溶加ワイヤーと溶接池の間のネックを開始又は改善するために、ワイヤーの速度が減少され(V1から)、短絡期間(SC)の間、V1より低い最小値V3に達する。
【0048】
図3aに示すように、次いで電流は、短絡期間SC(瞬間CとAの間)の間増大され、アーク電流I2と等しいか又はそれより大きい最大値I4に達し(好ましくはI4>I2である)、これによって、液体ブリッジのネッキング又は溶加ワイヤーと溶接池の間のネックを引き起こし、これは、溶接池の表面張力のために完成される。
【0049】
最後に、短絡期間の間に電流が減少され(I4から)、その後、アーク電流I2以下の最小値I1に達し(Aで)、このように、低電流下で金属移行サイクルが終わり、結果的に、次のサイクルの開始時にアークが再点弧するときに、溶融金属移行における不安定性を排除する。
【0050】
他の方法に言及すると、I1までの電流の急速な低下と組み合わされた、極めて短時間の電流ピークI4は、低電流でのアークの再点弧を可能にし、それ故、この期間に特有の如何なるスパッタリングも排除する。
【0051】
さらに、短絡期間(SC)の間のワイヤーの停止により、図3cに見られるように、例えば、STT方法の場合のように、この期間の間にワイヤーの繰り出し(paid out)が継続されるシステムと比較して、電流ピークを減少させることができる。
【0052】
さらに、STT方法では、電流ピークの従来の操作は、短絡の間、溶加材のネッキングを局在化させるために、そして、アークの再点弧の前に電流を減少可能なように、電圧の特異的な検出のための手段の使用を必要とする。この検出は、短絡期間の間、ワイヤーが前進することを継続するという事実のために複雑にされる。
【0053】
しかしながら、この問題は、短絡期間の間、ワイヤーが停止され(ゼロVw)、溶加材のネッキングを検出することを容易にする、本発明の方法によれば生じない。
【0054】
加えて、短絡期間の間、高い繰り出し速度(及びそれ故、高い平均電流)が適用される場合に引き起こされる不安定性のために、STT方法におけるような、電流ピークの従来の使用は、最大操作電流に関して制限を受ける。
【0055】
ここで、再び、それらの負の効果は、短絡の間、ワイヤーが停止され、それによって、電流制限が緩和されることが可能になるため、本発明の方法を用いると存在しない。
【0056】
短絡期間の間の電流I4は、アーク期間の間に発生する上記電流I2として図3に示される。しかしながら、試験はそれらの値が実質的に同じオーダーであり、また、基本的に溶融金属溶滴の切り離しを開始するために必要なエネルギーに依存し得ることを示しており、これは、溶接される材料に依存して変化する。
【0057】
換言すれば、本発明の方法に従えば、電流I3が一般に電流I2より極めて著しく大きい(図2aを参照)STT方法と異なり、電流I4を電流I2により著しく増大させる必要がない。これは、短絡の間のワイヤー供給速度を減少することによって導入される慣性(inertia)のためである。
【0058】
図3bに見られるように、本発明の方法における電圧uは、CSC及びSTT方法におけるものと同様に変化することは留意されるべきである。
【0059】
単なる実施例の目的で、本発明の方法を以下の条件下で実行する:
I1:5〜100 A;
I2:50〜200 A;
I4:100〜300 A;
A-C 持続時間:5〜20 ms;
C-A 持続時間:2〜7 ms;
SC 持続時間:7〜27 ms;
Ua:5〜30 V;
−アーク期間の間のワイヤー速度V1は、約15〜40 m/min;及び
−最小ワイヤー速度V3は±1 m/minのオーダー。
【0060】
実施例
本発明の溶接方法をうまく実行し、0.6 mm厚さの二枚の金属シートを約2.5 m/minの溶接速度で、共に突合せ溶接した。用いたシールドガスは、ATAL 5の名称でAir Liquideより販売されているアルゴン/CO2ガス混合物であった。
【0061】
溶接条件は、以下の通りであった:
−I1=40 A;I2=130 A;I4=250 A;V1=10m/min;V3=0 m/min;Ua=20 V;及び
−材料:P 265 GH、黒鋼板、A42。
【0062】
得られた溶接ビードは良質であり、極めてコンパクトであり、ポロシティがなく、シートの変形は極めて小さかった。
【0063】
そのような結果を得ることは、CSC方法が約0.8〜1 mmの最小厚さのシートの溶接に限定され、また、その達成可能な溶接スピードが1〜1.5 m/minを超えないことが知られているために特に驚かれる。
【0064】
本発明を実行するためのデバイスは、消耗ワイヤー電極の負の速度を課すための手段が免じられる(dispense)ことを可能にするために、往復ワイヤー移動を備えるデバイスのものと比較して単純であることにも留意されるべきである。
【0065】
該デバイスは、特に以下のものから作られる:
−電気的な溶接パラメーター及び供給モーターを制御し調節するため、及び、溶接ガスを回収(recovering)し、それを所望の時間、アセンブリに送るための、溶接ジェネレータ;
溶接トーチに貯蔵されるスプール又はドラムから該ワイヤーを供給するためのワイヤー電極繰り出し(pay-out)システム;
−情報を供給モーターから溶接ジェネレータに、及びその逆で送るための、また、溶接ジェネレータからトーチへのガス及び電気を移行するためのトーチアセンブリ(torch assembly);及び
−溶接の実行のために及び電気を消耗ワイヤーに移行するために必要なガスシールドを提供し、一方、それをガイドする、溶接トーチ。
【0066】
本発明は、実施例の態様に限定されず、むしろ非限定的な様式で解釈され、すべての相当な態様を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1a】CSC溶接方法におけるグラフ。
【図1b】CSC溶接方法におけるグラフ。
【図1c】CSC溶接方法におけるグラフ。
【図2a】STT溶接方法におけるグラフ。
【図2b】STT溶接方法におけるグラフ。
【図2c】STT溶接方法におけるグラフ。
【図3a】本発明に従った溶接方法におけるグラフ。
【図3b】本発明に従った溶接方法におけるグラフ。
【図3c】本発明に従った溶接方法におけるグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極に供給される電流によって一端が連続的に溶融される消耗電極を用いるアーク溶接方法であって、溶接サイクル(A-C-A)が時間(t)の経過の間、次々に続き、それぞれが、アーク期間(Ua;瞬間A-C)及び液体金属が該電極の溶融端と溶接されるべき少なくとも一つのワークピースの間の短絡(SC)を確立する短絡期間(C-A)を含み、各サイクルが、以下の工程を具備する方法:
a) アーク期間(A-C)の期間(A3〜A4)のアーク電流I2を、該消耗電極が溶接されるべきワークピースに向かって速度V1で移動されるのと同時に維持すること;
b) 該電流を、該短絡期間の開示時(C)において、最小電流I1に達するように減少すること、ここでI1<I2である;
c) 少なくとも短絡期間(C-A)の一部の間、消耗ワイヤー電極の速度を、最小速度V3に達するように減少すること、ここでV3<V1である;
d) 該電流を、最大値I4に達するように、短絡期間(C-A)の間増大すること、ここでI4≧I2である;及び
e) 次いで、工程d)の後、最小値I1に達するように、該電流を短絡期間(C-A)の間減少すること、ここで、I1<I2である。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、該最小速度V3がおよそゼロであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1及び2の何れかに記載の方法であって、該最小速度V3がアーク期間(A)の開始時において維持されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の方法であって、工程d)における短絡期間の間の電流の増大(I1からI4へ)が、工程c)において消耗ワイヤー電極の速度が減少している間(V1からV3へ)に起こることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の方法であって、短絡期間の間の電流の増大(I1からI4へ)及びワイヤー電極の速度の最小速度V3までの減少が、溶融金属の少なくとも一つの溶滴を切り離させることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の方法であって、最大電流I4が保持期間(C2〜C3)の間、維持され、一方、消耗ワイヤー電極の速度が最小速度V3で維持されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の方法であって、アークが再確立(re-established)される前に電流の低下を開始させるために電圧が測定され、一方、消耗ワイヤー電極の速度が最小速度V3で維持されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の方法であって、溶接の間ガスシールドが用いられ、被覆又は非被覆の炭素鋼、被覆又は非被覆のステンレス鋼及び被覆又は非被覆のアルミニウム又はチタンから選択される金属又は金属合金から作られた一以上の金属ワークピースが溶接されることを特徴とする方法。
【請求項9】
消耗電極を用いる短絡金属移行アーク溶接ジェネレータへの電力供給を制御するためのデバイスであって、前記ジェネレータが、電流を供給するための手段及び請求項1〜8の何れか一項又はその幾つかに記載の方法を実行することができる制御回路を具備することを特徴とするデバイス。
【請求項10】
データ処理手段のためのコンピュータープログラム産物であって、該コンピュータープログラム産物が、それらがデータ処理手段にインプットされたときに、該データ処理手段に請求項1〜8の一項に記載の方法の一以上の工程を実行させることができる一連の指示を含む、コンピュータープログラム産物。
【請求項11】
先行する請求項に記載されたコンピュータープログラム産物のための指示の一以上の連続を含む、コンピューターが読取り可能な媒体。
【請求項12】
電流を供給する手段及び請求項9に記載の前記電力供給手段を制御するための及び/又は請求項10に記載のコンピュータープログラム産物を用いるためのデバイス及び/又は請求項11に記載の媒体を具備する、MIG/MAG溶接電流ジェネレータ。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図1c】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate


【公開番号】特開2009−113117(P2009−113117A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284664(P2008−284664)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(506390328)エール・リキード・ウェルディング・フランス (11)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】