説明

消防用ポンプ

【課題】軽量で強度・耐蝕性に優れた消防用ポンプを提供することにある。
【解決手段】ポンプ本体に回転可能に支承されたシャフトと、前記シャフトによって回転自在に支承されたアルミニュームを主材料とするインペラと、前記インペラの周囲に配設されたアルミニュームを主材料とするカバー部材と、前記インペラの半径方向外周に配設されたアルミニュームを主材料とするガイドベーンと、アルミニュームを主材料とする給水管ライナーと、前記インペラの前段に配設されたアルミニュームを主材料とする予備羽根とを備えた消防用ポンプであって、前記インペラおよび予圧羽根の表面にセラミックス被膜を形成したので、軽量で強度・耐蝕性に優れた消防用ポンプを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防用ポンプの軽量化を図るとともに、強度および耐蝕性を向上して製品寿命を確保した消防用ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、消防用ポンプは、火災現場での操作性、運搬容易性を想定して、軽量化が要望されております。
しかし、アルミニューム合金等を基材とした消防用ポンプは、耐久性、耐摩耗性等の問題から実現が難しく、多くは銅合金を基材とした消防用ポンプが使用されております。
また、消防用ポンプ以外では、アルミニューム合金等を基材としたポンプが広く使用されております。例えば、特許文献1には、シリンダおよびサイドブロックにアルミニューム合金を使用したベーンポンプが開示されております。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−125328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような構成の従来の消防ポンプにあっては、アルミニューム等の軽量金属を使用して消防用ポンプを製造した場合、その耐久性、耐摩耗性が問題となります。例えば、消防用ポンプの主要部品であるガイドベーン、低・高圧側カバー、給水管ライナー、低・高圧側インペラ、予圧羽根の材料にアルミニュームが使用されておりますが、低・高圧側インペラおよび予圧羽根を支持するとともに高速回転させるシャフトには、強度・剛性を確保するためにニッケルクロム鋼またはステンレス鋼が使用されております。
この為、シャフトと低・高圧側インペラおよび予圧羽根との嵌合部に於いて、異種金属間に生じる電位差により腐食が避けられなかった。
また、アルミニューム材料は、ニッケルクロム鋼またはステンレス鋼に比べて硬度が低く、嵌合部におけるキー溝の経年変化による隙間(ガタ)の発生の虞れも存在した。
本発明は、上記実情に鑑み提案されたもので、アルミニューム素材から成るインペラおよび予圧羽根等の表面にセラミックス被膜を形成し、表面硬度を高めるとともに、絶縁素材によって電位差による腐食を防止することのできる消防用ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明はポンプ本体に回転可能に支承されたシャフトと、前記シャフトによって回転自在に支承されたアルミニュームを主材料とするインペラと、前記インペラの周囲に配設されたアルミニュームを主材料とするカバー部材と、前記インペラの半径方向外周に配設されたアルミニュームを主材料とするガイドベーンと、アルミニュームを主材料とする給水管ライナーと、前記インペラの前段に配設されたアルミニュームを主材料とする予備羽根とを備えた消防用ポンプであって、前記インペラおよび予圧羽根の表面にセラミックス被膜を形成したことを特徴としている。
【0006】
また、本発明において、前記セラミックス被膜は、膜厚10μm以上で表面硬度がHv1000〜1200であることを特徴とするものである。
また、本発明において、前記インペラは、低圧側インペラと高圧側インペラの二段構成であることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明において、前記インペラは、複数枚から構成された多段構成であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は前記した構成からなるので、以下に説明するような効果を奏することができる。
【0009】
請求項1に記載の発明では、ポンプ本体に回転可能に支承されたシャフトと、前記シャフトによって回転自在に支承されたアルミニュームを主材料とするインペラと、前記インペラの周囲に配設されたアルミニュームを主材料とするカバー部材と、前記インペラの半径方向外周に配設されたアルミニュームを主材料とするガイドベーンと、アルミニュームを主材料とする給水管ライナーと、前記インペラの前段に配設されたアルミニュームを主材料とする予備羽根とを備えた消防用ポンプであって、前記インペラおよび予圧羽根の表面にセラミックス被膜を形成したので、インペラおよび予圧羽根の表面硬度が向上し、嵌合部のキー溝に於ける経年変化によるガタ(隙間)の発生を防止することができる。また、セラミックス被膜は、絶縁性を有するためにシャフト等の異種金属間における電位差による腐食を防止することができる。
【0010】
また、本発明では、前記セラミックス被膜は、膜厚10μm以上で表面硬度がHv1000〜1200であるので、インペラおよび予圧羽根の表面硬度が向上し、製造時において組み付けの際に表面処理被膜が削れたり剥がれることがない。また、消防用ポンプの耐用寿命、例えば、18年の間、セラミックス被膜が摩耗に対して、充分耐えることができる。更に、セラミックス被膜の絶縁性により、アルミニュームを基材とするインペラおよび予圧羽根とシャフトとの間での異種金属間における電位差による腐食を防止することができる。
【0011】
また、本発明では、前記インペラは、低圧側インペラと高圧側インペラの二段構成であるので、吐出圧を高めることができる。また、本発明では、前記インペラは、複数枚から構成された多段構成であるので、吐出圧を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る消防用ポンプの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】図2は、同消防用ポンプにおけるインペラ穴径とシャフト軸径との隙間を示す断面図である。
【図3】図3は、同消防用ポンプの塩水噴霧機による複合サイクル試験(CCT)の手順を示す説明図である。
【図4】図4は、同消防用ポンプに使用されるインペラ本体とその試験サンプルを示す斜視図である。
【図5】図5は、同消防用ポンプにおける複合サイクル試験を終了したサンプルを切断した側面図および縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の消防用ポンプは、アルミニューム素材から成るインペラおよび予圧羽根等の表面にセラミックス被膜を形成し、表面硬度を高めるとともに絶縁素材によって構成したので、経年変化による隙間(ガタ)の発生を防止できるとともに、異種金属間の電位差による腐食を防止することができる。
【実施例1】
【0014】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係る消防用ポンプの一実施の形態を示す断面図である。ここで、消防用ポンプ10は、ポンプ本体に回転可能に支承されたシャフト11と、前記シャフト11によって回転自在に支承されたアルミニュームを主材料とする低圧側インペラ12と、高圧側インペラ13と、前記低圧側インペラ12の周囲に配設されたアルミニュームを主材料とする低圧側カバー部材14と、高圧側カバー部材15と、前記インペラ12、13の半径方向外周に配設されたアルミニュームを主材料とするガイドベーン16と、アルミニュームを主材料とする給水管ライナー17と、前記低圧側インペラ12、高圧側インペラ13の前段に配設されたアルミニュームを主材料とする予備羽根18とを備えたものであって、前記インペラ12、13および予圧羽根18の表面にセラミックス被膜19が形成されている。
【0015】
シャフト11は、必要な強度、剛性を確保するためにニッケルクロム鋼またはステンレス鋼等で構成されており、軸受によってポンプ本体に回転可能に支承されている。ポンプ本体は、給水管ライナー17、低圧側カバー部材14、ガイドベーン16、高圧側カバー部材15等が複数のボルトによって一体的に結合されて構成されている。
【0016】
低圧側インペラ12および高圧側インペラ13は、シャフト11に形成されたキー溝20にキー21によってシャフトに固定され、その周囲は低圧側カバー部材14、ガイドベーン16、高圧側カバー部材15で囲蔽されている。
また、予圧羽根18もシャフト11に形成されたキー溝22にキー23によってシャフトに固定されており、その周囲を低圧側カバー部材14が囲蔽している。低圧側カバー部材14の側部には、給水管ライナー17が接続されており、ポンプに給水される構造となっている。
【0017】
低圧側インペラ12、高圧側インペラ13および予圧羽根18は、アルミニュームを主材料として製造されており、表面にセラミックス被膜19が10μmの厚さに形成されている。また、表面硬度は、Hv1000〜1200となるようにセラミックス被膜を調製する。更に、セラミックス被膜は絶縁性を有している。
【0018】
次に、以上のように構成された消防用ポンプ10の耐久試験の方法および試験結果について説明する。先ず、評価項目として
1)ポンプシャフトへのインペラ圧入時に、表面処理が損傷しない強度を有しているか。
2)表面処理の膜厚は、製品寿命に達するのに適正であるか。
3)腐食の許容限度を設定し、腐食の進行の度合いから製品寿命を算出する。
図2に示すようにインペラ・ポンプシャフト嵌合部に腐食が発生し進行した場合、腐食による隙間がガタとなりインペラが中心軸から外れカバーと干渉を起こす。したがって、腐食の許容限界はインペラとカバーが干渉までとする。
【0019】
図3は、本発明の消防用ポンプの塩水噴霧機による複合サイクル試験(CCT)の手順を示す説明図である。ここで、塩水噴霧機による複合サイクル試験(CCT)を実施した。試験条件は、JASO M609−91に準じたもので試験サイクルは、図3に示すように先ず、塩水噴霧を2時間、温度35℃、塩水濃度5%の条件で実施する。次に、温度60℃、湿度30%の条件で4時間乾燥する。続いて、温度50℃、湿度95%の条件で2時間湿潤する。以上の工程、合計8時間を1サイクルとする。この複合サイクル試験は、塩水噴霧試験に対し乾燥、湿潤の加わる過酷条件となり、実環境の暴露に近い状態で腐食を短時間で促進することができる。
【0020】
次に、腐食の計測結果と隙間拡大予測について表1に従って説明する。表1は、インペラ・シャフト嵌合部の隙間の計測結果と、それによる隙間拡大の傾向予測を示すものである。測定箇所は、図5に示すように試験サンプル24を軸方向に切断し、その切断面を観察し腐食によって生じた隙間T1、T2、T3の3箇所測定した。また、インペラにアルマイト処理をした例と本発明のセラミックスコーティング処理を行った例の比較を示し、試験終了時点での隙間の値から、嵌合時の隙間の値(嵌合公差の範囲)とを結び時系列方向へ延長した。隙間の許容限界に到達するまでの時間は、アルマイト処理では2.6〜2.8年(平均2.7年)、セラミックスコーティング処理では、6.4〜9.3年(平均7.5年)であった。
【0021】
【表1】

【0022】
図4は、本発明の消防用ポンプに使用されるインペラ本体とその試験サンプルを示す斜視図である。試験サンプル24は、インペラ中央のボス部25にシャフト26とキー27を圧入した部品を用意し、シャフト用キー27はアルミニュームに対し、より電位差の大きいステンレス(SUS)材を使用した。インペラ中央部28の部品には、表面処理が異なる2種類をコーティングし、それぞれにシャフトキーを圧入した状態とする。サンプル1では、耐食・硬化処理として硬質アルマイトを5〜8μmの膜厚に形成し、硬度を350〜450Hvとし、表面塗装を20μmの膜厚のカチオン電着塗装とした。また、サンプル2では、耐食・硬化処理としてセラミックスコーティングを10μmの膜厚に形成し、硬度を800〜1200Hvとし、表面塗装を20μmの膜厚のカチオン電着塗装とした。今回セラミックスコーティングは、水溶液中の処理であり着き回り性に優れ、インペラの様に複雑な形状の部品に適しており、被膜表面の平滑性も高く、機械加工面の表面粗さを反映する特性を有している。
【0023】
腐食における実環境との相関関係は、複合サイクル試験にて許容限界に設定した隙間の値に達するには、表2に示すようにアルマイト処理で約2.7年、セラミックスコーティング処理で約7.5年となりアルマイト処理と比べ約2.8倍の製品寿命となった。しかし、複合サイクル試験の環境は平均的な消防自動車用ポンプの使用環境に比べて過酷であり、この年数を製品寿命と推定する事は妥当でない。したがって、ISO規格の大気環境を引用し、腐食性をC1(非常に小さい)〜C5(非常に大きい)までの5段階で区別すると、表3に示すように複合サイクル試験の環境はC5に相当すると考えられる。腐食環境係数は、C1で1倍、C2で2倍、C3で3倍、C4で4倍、C5で5倍である。また、国内の腐食区分は、沿岸部を含め大半がC2(小さい)またはC3(普通)に分類される。消防自動車の殆どが屋内保管され、使用・整備の状態を考慮すると、その使用環境はC2に相当すると考えられる。試験結果と実環境との相関を時系列における隙間の拡大を換算し表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
表2に示すように、アルマイト処理の場合、腐食性区分C5(複合サイクル試験)で約2.7年、腐食性区分C2(実環境)で約6.7年となった。
また、セラミックスコーティング処理の場合、腐食性区分C5(複合サイクル試験)で約7.5年、腐食性区分C2(実環境)で約18.8年となり、消防用ポンプに求められる寿命18年に充分耐えることが判明した。
【0027】
なお、上記説明は、タービンポンプ等の消防用ポンプについて説明したが、他の形式のアルミニューム素材を使用した遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプ、ボリュートポンプ、ベーンポンプ等に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 消防用ポンプ
11 シャフト
12 低圧側インペラ
13 高圧側インペラ
14 低圧側カバー部材
15 高圧側カバー部材
16 ガイドベーン
17 給水管ライナー
18 予圧羽根
19 セラミックス被膜
20 キー溝
21 キー
22 キー溝
23 キー
24 試験サンプル
25 ボス部
26 シャフト
27 キー
28 インペラ中央部
29 ライナーリング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体に回転可能に支承されたシャフトと、前記シャフトによって回転自在に支承されたアルミニュームを主材料とするインペラと、前記インペラの周囲に配設されたアルミニュームを主材料とするカバー部材と、前記インペラの半径方向外周に配設されたアルミニュームを主材料とするガイドベーンと、アルミニュームを主材料とする給水管ライナーと、前記インペラの前段に配設されたアルミニュームを主材料とする予備羽根と、を備えた消防用ポンプであって、
前記インペラおよび予圧羽根の表面にセラミックス被膜を形成したことを特徴とする消防用ポンプ。
【請求項2】
前記セラミックス被膜は、膜厚10μm以上で表面硬度がHv1000〜1200であることを特徴とする請求項1に記載の消防用ポンプ。
【請求項3】
前記インペラは、低圧側インペラと高圧側インペラの二段構成であることを特徴とする請求項1または2に記載の消防用ポンプ。
【請求項4】
前記インペラは、複数枚から構成された多段構成であることを特徴とする請求項1または2に記載の消防用ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−80414(P2011−80414A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233221(P2009−233221)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(391043240)日本機械工業株式会社 (14)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】