説明

液中プラズマ発生装置及びそれに使用する電極装置

【課題】廃液処理現場にあるような大型の処理施設で使用する場合にも、効率よく被処理液中で放電によるプラズマを生起させる液中プラズマ発生電極装置を提供する。
【解決手段】液中プラズマ発生電極装置は、液体中でプラズマを生起させるものであり、主管(10)と、主管(10)に気体を送る給気管(102)と、主管(10)の開口部を閉鎖しており主管(10)の中を通過した気体を液中に微細気泡として排出する多孔質素材で形成された閉鎖体(12)と、先端部(22)が主管(10)と閉鎖体(12)で形成される空間(120)に位置し閉鎖体(12)に近接して設けられている線材電極(20)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中でプラズマを生起させる液中プラズマ発生装置及びそれに使用する電極装置に関するものである。更に詳しくは、液体中でパルス放電を起こしてプラズマを生起させ、プラズマの生起により生成されたOHラジカルやオゾン等を被処理液中に効率よく分散させることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
水中でパルス放電を起こしてOHラジカルやオゾンを生成させ、これを利用して活性汚泥の減容化、異臭を放つ有機排水の消臭、排出される化学薬品を含む廃液の処理などを行うことが、既に実施化されている。
【0003】
水中でパルス放電を起こす水中放電プラズマ装置としては、下記の特許文献1に記載された装置がある。この装置は、多孔質誘電体パイプの内側に高電圧電極を貼り付けて、多孔質誘電体パイプ及び高電圧電極の内部にガス通路を形成し、また、多孔質誘電体パイプの外部と囲んだ接地電極の間に処理すべき水通路を形成し、両電極に高電圧高周波電源又は高電圧パルス電源を接続することで、多孔質誘電体パイプを通過した微細気泡に水中放電プラズマを生起させ、これによって高濃度のOHラジカル及びオゾンを効率よく得ることができるとともに、金属電極の溶出を防止することとしている。
【0004】
特許文献1記載の電極では、前記のように多孔質誘電体パイプ及び高電圧電極の内部にガス通路を形成し、また、多孔質誘電体パイプの外部と囲んだ接地電極の間に処理すべき水通路を形成した構成を採用しており、空気、アルゴン、酸素ガスなどを、微細気泡の形で水に供給し、ガス入り口により多孔質誘電体パイプと高電圧電極の内部に供給するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−268003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、水に供給されたガスは水中で浮遊しながらガス入り口により多孔質誘電体パイプと高電圧電極の内部に供給されるものであり、前記特許文献1の図2に示すような、実験室における小型の装置の場合にはガスの供給が十分だとしても、廃液処理現場にあるような大型の処理施設では、廃液中に供給されたガスが水中で浮遊するため、多孔質誘電体パイプと高電圧電極の内部に効率よく且つ安定して供給されにくく、実際的とは言い難い。
【0007】
また、処理される廃液は、多孔質誘電体パイプの外部と囲んだ接地電極の間に形成されている水通路を通過させる必要があるために、廃液を水通路に送り出すポンプが必要で、装置の設置場所もポンプから排出される廃液の排出口近傍に限定される。
【0008】
更には、廃液処理を効率よく行うためには、水中放電プラズマの生起によって生成されたOHラジカル及びオゾン等を廃液中に効率よく分散させる必要があるが、装置の排出口は一方向にしか排出できないために、電極又は電極近傍で生成されたOHラジカル及びオゾン等を効率よく広域に分散させることができない。
【0009】
本発明者は、被処理液中に供給したガスを水通路に供給するのではなく、電極を多孔質素材で被処理液から隔離し、該多孔質素材から気体を水中に噴出して微細気泡を発生させ、発生した微細気泡に隔離した電極にパルス電圧を印加してパルス放電を起こしてプラズマを生起させることにより、プラズマの生起により生成されたOHラジカルやオゾン等は、微細気泡と共に被処理液中に効率よく分散されることを知見した。
本発明はこの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
(本発明の目的)
そこで、本発明の目的は、廃液処理現場にあるような大型の処理施設で使用する場合にも、効率よく被処理液中で放電によるプラズマを生起させることにある。
また、本発明の他の目的は、プラズマの生起により生成されたOHラジカルやオゾン等を被処理液中に効率よく分散させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、
液中に正電極と負電極を配置し、正電極に電圧を印加して液中にプラズマを生起させる液中プラズマ発生装置であって、
外部から液中へ気体を直接供給して微細な気泡を発生させる微細気泡発生手段を備え、前記正電極と負電極の何れか一方又は双方を、気体の通過要素を備える隔離要素の中に配設して液から隔離し、前記隔離要素は微細気泡発生手段を構成し、前記隔離要素から気体を液中に放出して液中に微細気泡を発生しながら正電極に電圧を印加して液中にプラズマを生起させる、液中プラズマ発生装置である。
【0012】
本発明は、
液体中でプラズマを生起させる液中プラズマ用電極装置であって、
主管と、
該主管に気体を送る送気要素と、
該主管の開口部を閉鎖しており、主管の中を通過した気体を液中に微細気泡として排出する多孔質閉鎖要素と、
前記主管と多孔質閉鎖要素で形成される空間に位置しており、前記多孔質閉鎖要素に近接して設けられている線材電極と、
を備えている、液中プラズマ発生電極装置である。
【0013】
本発明に係る装置の電極としては、タングステンを使用した線材電極が好ましい。線材電極(針状、棒状を含む)は、電極表面積が小さく、電界集中が発生し、しかも電極損傷量が少なく、低電圧でプラズマを生起させることが可能である。
【0014】
本発明に係る装置の電源としては、商用電源(AC100V)、車載用電源(DC24V)、太陽光発電装置からの電源が利用できる。
微細気泡をつくる気体としては、空気の他、酸素ガス、或いは酸素とアルゴン等、他の気体との混合ガスを使用することができる。
【0015】
(作用)
被処理液中に負電極(30)を配置すると共に、主管(10)の先端部を被処理液中に沈め、正電極である線材電極(20)の先端部と負電極(30)とを対向させる。
外部より被処理液中へ直接気体を送り、被処理液中で気泡を発生させる。即ち、外部より気体を給気管(102)を介して主管(10)へ送り、主管(10)下端の多孔質閉鎖要素(12)から微細気泡を被処理液中に放出する。
【0016】
放出された微細気泡によって主管(10)下端部が囲繞された後、線材電極(20)にパルス電圧を印加すると、線材電極(20)の先端と負電極(30)との間でアーク放電を生じ、プラズマが生起されてOHラジカルやオゾンを生成する。
パルス電圧の印加直後は、電極(20,30)間には急激に高電圧が加わる。その後、電圧の急激な低下が生じ、パルス電圧が印加されている間は、アーク放電と共にプラズマが生起される。
【0017】
生成されたOHラジカルやオゾンは、放出されている微細気泡と共に被処理液中で拡散し、被処理液を処理する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、装置自体に微細気泡発生手段を備えているので、装置自体と微細気泡発生手段とが一体として設置できる。したがって廃液処理現場にあるような大型の処理施設に使用する場合にも、設置場所に限定されることなく効率よく水中放電プラズマを生起させることができる。
【0019】
また、生成されたOHラジカルやオゾン等は、微細気泡の放出圧力により、気相領域の体積が拡大し、微細気泡と共に被処理液中に効率よく拡散される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電極装置の全体と使用状態を示す概略説明図である。
【図2】電極装置の先端側を拡大した部分概略説明図である。
【図3】電極装置の基部側を拡大した部分概略説明図である。
【図4】印加電圧としてのパルス電圧を送る装置の一実施の形態を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を図に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
〔実施の形態〕
液中プラズマ発生装置は、主管10を備える。主管10の基部側は二股に分岐している。第1の分岐部は、主管10に気体を送る送気要素である給気管102である。第2の分岐部は、主管10に線材電極20を通している電極側管104である。
主管10は可視光線を通し、耐腐食性に富むガラス管を使用している。
【0023】
主管10の先端部はじょうご状の末広がり部11が形成されており、末広がり部11下端の開口部には、多孔質閉鎖要素である多孔質の閉鎖体12が設けられている。
閉鎖体12は、外形が半球形状に形成され、内部に半球形状の中空部120を有する。閉鎖体12は、多孔質セラミックで構成されている。具体的にはアルミナを主体としたもので、粒度はJIS No.2に準じ、微細孔の径は、40〜50μ程度である。なお、微細孔の径がナノレベルの多孔質素材を採用することもできる。
【0024】
閉鎖体12は、主管10を通った気体を微細孔から微細気泡として液中に放出する。
閉鎖体12は、セラミックやガラスなどの無機多孔質で、空気などの気体を通過させることができれば、前記素材に限定されるものではない。また、閉鎖体12としては、いわゆる多孔質素材ではなく、例えば非通気素材に多数の細孔を形成したものを採用してもよい。
【0025】
閉鎖体12の中空部120には、主管10内を通っている細長の線材電極20の先端部22が位置している。線材電極20の先端側には、位置決め用絶縁体が装着されている。先端側が揺動するのを防止する位置決め用絶縁体24が装着されている。線材電極20は正電極を構成し、タングステン(融点3380℃)を使用して放電による消耗の抑制を図っている。線材電極20は絶縁チューブ26で覆われており、基端側は、主管10の中を通り、主管10から分岐した電極側管104の中を通っており、基端には接続端子28が取り付けられている。
【0026】
被処理液L中には、負電極を構成する板状電極30を配置している。本実施の形態では板状電極30の素材として、強度があり耐腐食性に富むステンレス板(SUS304)を使用している。
【0027】
図4は、液中プラズマ発生装置に、気体としてのオゾンと、印加電圧としてのパルス電圧を送る装置の一実施の形態を示したブロック図である。
図において、DC電源40はAC100Vを入力することによってDC1KVを出力する。エアーポンプ41はオゾン発生器(オゾナイザー)42に空気を送り、オゾンを生成する。オゾン発生器42で生成されたオゾン及び窒素、酸素、アルゴン等の空気成分は、給気管102を介して主管10に送られ、閉鎖体12から、微細気泡として被処理液L中に送られる。なお、オゾンを含まない空気又は酸素を含むその他の気体を送る構造とすることもできる。
【0028】
マイクロコンピュータ43からゲート回路44に制御用のクロック信号が送られ、ゲート回路44を介して線材電極20にパルスが送られる。
マイクロコンピュータ43からゲート回路44に制御用のクロック信号が送られ、電極に電圧を印加するパルス信号が出力される。
なお、パルス電圧の発生装置は前記装置に限定されるものではなく、公知の各種装置が好適に使用される。
【0029】
(作用)
工場廃液などの被処理液を処理する処理槽の槽底に板状電極30を配置すると共に、主管10の先端部を被処理液中に沈め、線材電極20の先端部22と板状電極30とを対向させる。
【0030】
エアーポンプ41を作動させてオゾン発生器42に空気を送り、オゾンを生成させる。生成されたオゾンは給気管102を介して主管10に送られ、主管10下端の閉鎖体12からオゾンの微細気泡として被処理液中に放出される。
【0031】
放出されたオゾンが微細気泡となって主管10下端部が微細気泡で囲繞された後、線材電極20にパルス電圧を印加すると、線材電極20の先端部22と板状電極30との間でアーク放電を生じ、プラズマが生起されてOHラジカルやオゾンを生成する。
【0032】
生成されたOHラジカルやオゾンは、オゾンの微細気泡と共に被処理液中で拡散し、被処理液を処理する。
【0033】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、液中で放電を起こしてOHラジカルやオゾンを生成させ、これを利用する各種の分野に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
10 主管
11 末広がり部
12 閉鎖体
20 線材電極
22 先端部
24 位置決め用絶縁体
26 絶縁チューブ
28 接続端子
30 板状電極
40 電源
41 エアーポンプ
42 オゾン発生器
43 マイクロコンピュータ
44 ゲート回路
102 給気管
104 電極側管
120 中空部
L 被処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中に正電極と負電極を配置し、正電極に電圧を印加して液中にプラズマを生起させる液中プラズマ発生装置であって、
外部から液中へ気体を直接供給して微細な気泡を発生させる微細気泡発生手段(102,10,12)を備え、前記正電極(20)と負電極(30)の何れか一方又は双方を、気体の通過要素を備える隔離要素(12)の中に配設して液から隔離し、前記隔離要素(12)は微細気泡発生手段を構成し、前記隔離要素(12)から気体を液中に放出して液中に微細気泡を発生しながら正電極(20)に電圧を印加して液中にプラズマを生起させる、
液中プラズマ発生装置。
【請求項2】
液体中でプラズマを生起させる液中プラズマ用電極装置であって、
主管(10)と、
該主管(10)に気体を送る送気要素(102)と、
該主管(10)の開口部を閉鎖しており、主管(10)の中を通過した気体を液中に微細気泡として排出する多孔質閉鎖要素(12)と、
前記主管(10)と多孔質閉鎖要素(12)で形成される空間(120)に位置しており、前記多孔質閉鎖要素(12)に近接して設けられている線材電極(20)と、
を備えている、
液中プラズマ発生電極装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−152712(P2012−152712A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15545(P2011−15545)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(511025134)NSS九州株式会社 (1)
【Fターム(参考)】