説明

液体エリスロポエチン製剤

本発明は、保存上安定な液体エリスロポエチン製剤ならびにその製造方法に関する。本発明は特に、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびフェニルアラニンからなる群から選択される少なくとも4種のアミノ酸を含有し、保存剤、尿素またはヒト血清アルブミンを添加する必要がないことを特徴とする液体エリスロポエチン製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存上安定な液体エリスロポエチン製剤およびその調製方法に関する。特に、本発明は、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびフェニルアラニンからなる群から選択される少なくとも4種のアミノ酸を含有し、保存剤、尿素またはヒト血清アルブミンを添加する必要がないことを特徴とする液体エリスロポエチン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン、略称EPOは、骨髄における赤血球産生を刺激する糖タンパク質である。EPOは主に腎臓で生産され、腎臓から血液循環を介して目的地に到達する。腎不全の場合、損傷を受けた腎臓は十分なEPOを産生できないかまたはEPOを全く産生できず、その結果として骨髄の幹細胞からは赤血球がごくわずかしか生産されない。このような腎性貧血は、骨髄における赤血球産生を刺激する生理学的な量のEPOを投与することによって治療可能である。投与に使用されるEPOはヒトの尿から、または遺伝子工学的方法により得ることができる。EPOは人体に少量しか含まれていないので、治療目的で天然供給源からEPOを単離するのはほとんど不可能である。よって、遺伝子工学的方法により、前記物質を比較的大量に製造する唯一の経済的可能性が提供される。
【0003】
エリスロポエチンの組換え生産は、1984年にヒトエリスロポエチン遺伝子が同定されて以来可能となっている。90年代初期から、真核細胞、特にCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞で遺伝子工学的に生産されたヒトエリスロポエチンを含有する種々の医薬品が開発されている。組換えヒトエリスロポエチンの生産については、例えば特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0004】
EPOは従来液体形態として製剤化され、それ自体として静脈内または皮下に注射される。しかしながら、EPOの液体製剤には安定性の問題点が生じる。前記問題点は、保存用容器の表面の触媒作用によるエリスロポエチン分子の破壊が原因である可能性がある。さらに、EPO分子が容器の内壁に吸着してタンパク質および活性に損失を生じることも考えられる。よってこれまで、種々の物質を添加することで液体EPO製剤を安定化するための様々な手法が追及されてきた。これらの安定化用化合物には、例えばポリエチレングリコール、デキストラン、ゼラチンなどの高分子物質や、種々の糖および糖アルコール、無機塩類、ならびにチオール化合物がある。ヒト血清アルブミン(HSA)などの血清タンパク質も添加されることが多い。しかしながら、アレルギーや免疫学の観点から、前記血清タンパク質の使用は望ましくない。
【0005】
特許文献3には、EPO製剤における安定化剤としての種々のアミノ酸の使用について記載されており、この場合アミノ酸はEPOを安定化するために尿素とともに用いられる。さらに、特許文献3に記載の製剤は液体形態ではなく凍結乾燥物の形態で保存され、該凍結乾燥物が使用直前に水で再構成される。
【0006】
特許文献4には、保存剤の存在により安定で保存可能なEPO製剤が記載されている。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0148605号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第205564号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0306824号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0607156号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液体形態で長期間保存可能であり、HSA、尿素または保存剤などの添加物を必要としない、保存上安定なEPO調製物を生産することである。このようにして、望ましくは製剤の耐容性に関するあらゆるリスクを回避する、安定な液体EPO製剤が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記課題は請求項1に記載の主題により解決される。好適な実施形態は従属項に定義されている。
HSA、尿素または高分子安定化剤が存在しなくても、特定の組み合わせのアミノ酸を含有するEPO組成物は、安定性を著しく損ねることなく長期間液体形態で安定な条件下で保存可能であることが見出された。
【0009】
従って、本発明は保存上安定な液体エリスロポエチン製剤に関し、該製剤は、
(i)ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、およびフェニルアラニンからなる群から選択された少なくとも4種のアミノ酸を含むことと、
(ii)保存剤、尿素、および血清タンパク質を含まないことと、
(iii)凍結乾燥物から再構成されたものではないことと
を特徴とする。
【0010】
特に好適な実施形態はアミノ酸であるグリシンをさらに含有する。
本発明の液体製剤は、免疫原性を有する可能性のある化合物を必要としない、含有する化合物の種類が全体として可能な限り少数であるといった利点だけではなく、製造工程のいずれの段階においても凍結乾燥を必要としないという利点も備えている。このことは、一方では凍結乾燥に関わる費用を節減し、他方では例えば凍結乾燥物が完全または十分に再構成できないなどの物理的問題のリスクを回避するものである。
【0011】
本発明の範囲内において、用語「保存上安定な」とは、液体EPO製剤を25℃で3ヶ月間保存した後でなお活性EPO分子の含量が初期濃度の80%以上であることを意味するものと理解される。25℃で3ヶ月間保存した後に、EPO活性の残存含量が元の活性の少なくとも85%であることが好ましく、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%である。エリスロポエチンの活性は、EPOに関する先行技術においてすでに示されているように、従来の活性試験を用いて測定可能である(さらに、欧州薬局方、2002年1月、p.1316(第4版)も参照されたい)。
【0012】
本発明の範囲内において、用語「液体製剤」とは、エリスロポエチンと製剤中に含まれる別の物質との製剤が製造工程のいずれの段階においても、すなわち前記物質の混合前、混合中、混合後のいずれにおいても凍結乾燥されないこと、ならびに同製剤が注射用または輸液用の溶液として静脈内または皮下に施用されるためのものであることを意味するものと理解される。
【0013】
本発明の製剤は、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、フェニルアラニン、またはグリシン以外のアミノ酸を含有しない。好ましくは、該製剤はロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、およびグリシン以外のアミノ酸を含有しない。特に、本発明のEPO製剤はいかなるアルカリ性アミノ酸も含有しない。さらに、該製剤はアミノ酢酸を含有しない。本発明の製剤に血清タンパク質その他の安定化タンパク質、尿素および保存剤が全く含まれないことについては、すでに上記に述べたとおりである。
【0014】
いずれの場合にも、イソロイシンおよびロイシンが本発明の製剤に含まれる場合、これ
らのアミノ酸の濃度は0.25〜1.5g/l、好ましくは0.5〜1.25g/lの範囲にあり、特に好ましくは1.0g/lである。
【0015】
グルタミン酸およびアスパラギン酸が本発明の製剤に含まれる場合、前記アミノ酸の濃度は0.1〜0.5g/l、好ましくは0.2〜0.4g/lの範囲にあり、特に好ましくは0.25g/lである。
【0016】
スレオニンが本発明の製剤に含まれる場合、このアミノ酸の濃度は0.1〜0.5g/l、好ましくは0.2〜0.4g/lの範囲にあり、特に好ましくは0.25g/lである。
【0017】
フェニルアラニンが本発明の製剤に含まれる場合、このアミノ酸の濃度は0.2〜1.0g/l、好ましくは0.3〜0.8g/lの範囲にあり、特に好ましくは0.5g/lである。
【0018】
グリシンが本発明の製剤に含まれる場合、該製剤中のこのアミノ酸の濃度は2.0〜10.0g/l、好ましくは5.0〜8.0g/lの範囲にあり、特に好ましくは7.5g/lである。
【0019】
本発明の製剤に使用するのに適したエリスロポエチンは、真核細胞で生産された組換えエリスロポエチンである。組換えエリスロポエチンは哺乳類の細胞で生産されることが好ましく、特に好ましくは、例えば特許文献1および2に記載されているようにCHO細胞で生産される。従来のプロトコールに従って実施される培養に続いて、クロマトグラフィ法を用いて組換えエリスロポエチンの精製工程が実施される。培養およびタンパク質精製のいずれについても、先行技術文献、例えば欧州特許出願公開第0830376号明細書に記載されている。エリスロポエチンの精製は、欧州特許出願公開第0228452号明細書、同第0428267号明細書、および国際公開公報第03/045996号パンフレットの対象にもなっている。しかしながら、別の従来精製技術および一連の精製工程を採用することも可能である。
【0020】
本発明の範囲内において、用語「エリスロポエチン」とは、骨髄における赤血球産生を刺激する能力を有し、かつ欧州薬局方(Ph.Eur.;2002年1月、p.1316)に記載のアッセイ(赤血球増加症または正常な赤血球のマウスにおける活性測定)によりエリスロポエチンとして明白に特定されうる任意のタンパク質を意味するものと理解される。エリスロポエチンはヒト野生型エリスロポエチンでもよいし、1または複数のアミノ酸の置換、欠失もしくは付加を有する変異型エリスロポエチンでもよい。同様に、本発明の製剤に含まれるエリスロポエチンは、同タンパク質が、例えばポリアルキレングリコールのようなポリマーとの結合体(いわゆるPEG化エリスロポエチン)の形態として存在する、結合体であってもよい。
【0021】
好適な実施形態では、本発明の製剤は安定化のための糖も糖アルコールも含まない。同様に該製剤は安定化剤として高分子化合物を含まないことが好ましい。さらに、該製剤は保存剤を含まない。ここで保存剤とは、保存安定性を増大させるための保存剤として従来使用されており、標準的な濃度では殺菌作用を有する物質として理解されるべきものである。特に、該製剤は、クロロエタン、ベンジルアルコール、p‐クロロ‐m‐クレゾール、およびピロカルボン酸ジアルキルエステル、ならびに塩化ベンザルコニウムなどの保存剤を含まない。
【0022】
該製剤のpHは血液のpHより著しく高いことはない。すなわちpH7.4よりも高くないことが好ましい。通常、該製剤のpHは6.0〜7.4であり、好ましくは6.5〜
7.4であり、特に好ましくは7.0〜7.4である。所望のpH範囲を達成するために調整を要する場合は、適切な溶液を用いて、すなわちpH値を低下させる必要がある場合は酸性溶液、pH値を上昇させる必要がある場合はアルカリ性溶液を用いて、pH値を調整する。それぞれHClおよびNaOHを用いてpH値を調整することが好ましい。
【0023】
注射用に、純水を溶媒として使用することが好ましい。しかしながら、医薬製剤に適した従来のその他の溶媒を使用することもできる。
使用される緩衝剤は、注射溶液または輸液を上記に特定したpH範囲にするのに必要な濃度で緩衝作用を示すことのできる、任意の生理学的に許容可能な緩衝剤であってよい。適切な緩衝剤は、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、およびHEPESである。リン酸緩衝剤を使用することが好ましい。緩衝剤化合物は、約20〜100mM、好ましくは30〜80mM、特に好ましくは40〜60mMの濃度で使用される。
【0024】
好適な実施形態では、本発明の製剤は追加成分として表面活性剤を含有する。界面活性剤の使用は、容器内壁へのEPOの吸着を低減することを想定したものである。この目的に対しては、通常は少量の界面活性剤で十分である。基本的に、生理学的に許容可能な任意の界面活性剤を本発明の範囲内で使用することができる。ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類またはソルビタントリオレエートが特に適しており、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類が特に好適である。ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルは、ポリソルベート20およびポリソルベート80のうち少なくともいずれか一方であることが好ましく、ポリソルベート20が最も好ましい。界面活性剤の濃度は、0.01〜1.0g/l、好ましくは0.05〜0.2g/lの範囲にあり、最も好ましくは0.1g/lである。
【0025】
好適な実施形態では、製剤は少量の生理学的に許容可能な錯化剤をさらに含有する。錯化剤は、例えばカルシウム塩、クエン酸塩、またはEDTAである。本発明の範囲内において、カルシウムを含有する塩、例えば塩化カルシウムなどが特に好ましい。カルシウム塩の濃度は0.005〜0.05g/l、好ましくは0.008〜0.012g/l、特に好ましくは0.01g/lである。
【0026】
浸透圧を調整するために任意の適切な塩を使用することができる。この目的については、塩化ナトリウムの使用が好ましい。本発明において、塩化ナトリウムの濃度は0.5〜2.5g/l、好ましくは1.0〜2.0g/l、特に好ましくは1.3〜1.6g/lの範囲内にある。
【0027】
液体製剤の浸透圧は200〜400ミリオスモル/kg、好ましくは250〜300ミリオスモル/kg、最も好ましくは260〜290ミリオスモル/kgである。
本発明の好適な実施形態では、活性物質であるEPOに加えてアミノ酸であるロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、およびグリシン、ならびに塩化カルシウム、ポリソルベート、リン酸緩衝剤および塩化ナトリウムを含有し、その他の含有成分が存在しないことを特徴とする液体EPO製剤が提供される。
【0028】
使用されるエリスロポエチンの活性は100,000IE/mg未満であってはならない(欧州薬局方、2002年1月、p.1316(第4版)も参照されたい)。好ましくは、EPOの活性は少なくとも110,000IE/mgであり、特に好ましくは少なくとも120,000IE/mgである。
【0029】
エリスロポエチンの濃度は、いずれの場合においても完成したシリンジ製品について所望される活性物質濃度に応じて変化する。一般的なEPO濃度は1,500IE/ml〜40,000IE/mlであり、例えばドイツ医薬品集2004年版に記載の市販製品N
eoRecormon(登録商標)およびErypo(登録商標)を参照されたい。
【0030】
製剤の構成成分は、従来の供給元、例えばシグマ社(Sigma)やメルク社(Merck)から入手可能である。
本発明の製剤の製造は、先行技術における慣用法により実施可能である。
【0031】
本発明は、本発明の液体EPO製剤を製造する方法にも関する。本発明において、上述の製剤の構成成分を水性緩衝液中に溶解する。上述のように、水性緩衝液はリン酸緩衝液であることが好ましい。
【0032】
液体製剤を製造するための本発明の方法の好適な実施形態では、最初に溶媒、好ましくは注射用水が提供され、続いて緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウム二水和物およびリン酸一水素二ナトリウム二水和物と、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、および使用するアミノ酸、好ましくはグリシン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、およびフェニルアラニンを該溶媒に溶解する。構成成分を完全に溶解した後、ポリソルベートの(それぞれの溶媒中の)溶液を添加する。最後に、次の工程でエリスロポエチンの(それぞれの溶媒中の)溶液を添加する。
【0033】
調製時および調製の最終段階において、溶液のpHを測定し、必要であれば適切な溶液、特にNaOHまたはHClを用いて、7.0〜7.4の範囲に調整する。
最後に、完成した液体製剤を適切な容器に詰める。該液体製剤は施用時まで同容器内で保存される。前記容器は、特に、シリンジ製品、穿刺式の密栓フラスコ、またはアンプルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0035】
液体エリスロポエチン製剤
濃度が3,333IE/mlの液体エリスロポエチン製剤の調製。
【0036】
【表1】

含有成分は全て欧州薬局方(Ph.Eur.)に準拠した品質のものである。
【実施例2】
【0037】
活性物質濃度が10,000IE/mlの液体エリスロポエチン製剤の調製
エリスロポエチンの含量を除き、シリンジ製品あたりの個々の成分の含量は実施例1に記載の含量に相当する。本実施例の場合、エリスロポエチンの含量は10,000IE/mlである。
【0038】
該製剤をガラス製のシリンジに充填し、シリンジ製品として保存する。
【実施例3】
【0039】
設定容量1リットルの液体EPO製剤の調製
例えばタンパク質含量が1,000μg/mlで活性がタンパク質1mgあたり130,000IEである例示的な1リットルの設定容量では、以下の表に示した組成となる(活性成分のバルクの密度を1.008g/lと仮定)。
【0040】
ここで、エリスロポエチン、リン酸一水素二ナトリウム二水和物およびリン酸二水素ナ
トリウム二水和物、塩化ナトリウムおよび水を含有する薬剤溶液が調製されるが、その組成は秤量すべき個々の成分の量を計算する際に考慮されている。
【0041】
【表2】

【実施例4】
【0042】
液体EPO製剤の調製方法
注射用水の80%をセットアップ容器に用意する。水の温度を測定し、25℃未満にしておかなければならない。続いて、上述の組成に対応するように秤量されたリン酸二水素
ナトリウム二水和物、リン酸一水素二ナトリウム二水和物、塩化カルシウム、グリシン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、および塩化ナトリウムを、窒素による保護下で撹拌しながら慎重に添加する。この溶液を、全ての成分が完全に溶解して均質な溶液が形成されるまで、ただし少なくとも15分間撹拌する。続いて、別途注射用水溶液として調製したポリソルベート20をセットアップ容器に添加する。この溶液を少なくとも15分間撹拌する。
【0043】
pH値を調整するために、セットアップ容器中の調製物の温度およびpH値を確認する。温度は18〜25℃と推定される。pH値は7.0〜7.4の範囲内にあると推定される。pH値が7.4を超えている場合は、0.1Nの塩酸を用いて調整する。pH値が7.0未満である場合は、0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を用いて調整する。セットアップ容器中の溶液を10分間撹拌する。
【0044】
pH値の調整に続いて、相応量のエリスロポエチンタンパク質をセットアップ容器中に入れる。
再度、調製物の温度(18〜25℃に設定)およびpH値を確認する。pH値が7.4を超えているかまたは7.0未満である場合は、それぞれ0.1Nの塩酸および0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を用いて調整する。
【0045】
セットアップ容器中の溶液を注射用水でフィルアップして計算された最終重量とし、続いて少なくとも15分間撹拌する。必要であれば、上述のようにしてpH値を再度7.0〜7.4の範囲内に調整しなければならない。完成した液体EPO製剤をシリンジ製品に充填し、充填後にシリンジ製品をフラスコ用密栓で密封する。
【実施例5】
【0046】
本発明のEPO製剤の長期安定性
本発明のEPO製剤の長期安定性を、BRP標準品を基準として比較することにより確認した。この試験は、EPO溶液を保存すると分解反応および副反応が生じ、該反応により、とりわけメチオニンおよびシステインの側鎖の酸化が引き起こされるという事実に基づくものである。EPOのMet45は、酸化されてスルホキシドを形成することが特に多い。前記メチオニンスルホキシドは、トリプシンを用いてEPOをタンパク質分解した後にRP‐HPLC分析することによって検出可能である。本実施例では、酸化されたメチオニンの割合が保存安定性の指標である。すなわち、この割合が高いほど保存安定性が低いことになる。種々の保存温度(2〜8℃、25℃、40℃)および種々の保存期間(6週間、12週間、6ヶ月)における本発明の製剤中のメチオニン酸化型分子種の割合を、従来技術の製剤と比較して測定した結果、本発明の製剤は従来技術の液体製剤に匹敵する安定性を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定な液体エリスロポエチン製剤であって、
(i)ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびフェニルアラニンからなる群から選択される少なくとも4種のアミノ酸を含有し、
(ii)保存剤、尿素またはHSAを含有せず、
(iii)凍結乾燥物から再構成されたものではない
ことを特徴とする製剤。
【請求項2】
グリシンをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
非イオン性の界面活性剤をさらに含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルである、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルはポリソルベート20またはポリソルベート80である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
浸透圧が250ミリオスモル/kg〜300ミリオスモル/kgの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
浸透圧が塩化ナトリウムで調整されることを特徴とする請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
生理学的に許容可能な緩衝剤をさらに含んでなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
緩衝剤はリン酸緩衝剤である、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
pHが7.0〜7.4の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項11】
カルシウムイオンをさらに含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項12】
カルシウムイオンは塩化カルシウムに由来することを特徴とする請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
イソロイシンおよびロイシンが含まれる場合、イソロイシンおよびロイシンの濃度がそれぞれ0.25〜1.5g/lの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項14】
グルタミン酸およびアスパラギン酸が含まれる場合、グルタミン酸およびアスパラギン酸の濃度が0.1〜0.5g/lの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項15】
スレオニンが含まれる場合、スレオニン濃度が0.1〜0.5g/lの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項16】
フェニルアラニンが含まれる場合、フェニルアラニン濃度が0.2〜1.0g/lの範
囲内にあることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項17】
グリシンが含まれる場合、グリシン濃度が2.0〜10.0g/lの範囲内にあることを特徴とする請求項2〜16のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
安定な液体エリスロポエチン製剤を調製する方法であって、エリスロポエチン、アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、およびグリシン、ならびに塩化カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、塩化ナトリウムを水性緩衝液に溶解する工程を含んでなり、該方法のいずれの段階においても製剤が凍結乾燥されないことを特徴とする方法。
【請求項19】
成分が以下の順序、すなわち
(a)塩化カルシウム、
(b)塩化ナトリウム、
(c)ロイシン、イソロイシン、スレオニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、およびグリシン、
(d)ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、および
(e)エリスロポエチン
の順に溶解されることを特徴とする請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2007−536215(P2007−536215A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502297(P2007−502297)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002551
【国際公開番号】WO2005/087804
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506292996)ビオシューティカルズ アールツナイミテル アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】BIOCEUTICALS ARZNEIMITTEL AG
【Fターム(参考)】