説明

液体収容容器

【課題】液体噴射装置に液体を供給する液体収容容器に関し、液体収容容器を液体噴射装置に装着する際に気泡が発生した場合であっても、液体噴射装置への気泡の侵入を低減する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】液体噴射装置に液体を供給する液体収容容器1であって、液体を収容する液体収容部12と、液体を前記液体噴射装置に供給する液体供給部30と、液体収容部12と液体供給部とを連通させる液体連通流路22とを備え、液体供給部30は、液体噴射装置に接続するための液体供給口35と、液体供給口35から鉛直上方に伸びる中空の液体供給流路32であって、下端が前記液体供給口35に接続され、上端が閉塞した液体供給流路32とを有し、液体供給流路32の途中には、液体連通流路22からの液体が流入する液体流入孔33が開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に液体を供給するための液体収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置としては、例えば、インクジェットプリンターが知られている。従来、このインクジェットプリンターにインクカートリッジ(液体収容容器)を装着する際に発生する気泡を抑制する技術として、インク供給口の側壁に形成された筒状パッキングに襞部と嵌合部を設け、襞部と嵌合部とインク供給針とを液密に嵌合させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、気泡の発生を完全に抑制することは難しく、発生した気泡がインク誘導室の下端側(外部開口側)に滞留する場合があった。そうすると、インクと共に気泡がインク供給針内部を介してインクカートリッジの記録ヘッドに侵入し、記録ヘッドが安定してインクを噴射できない可能性があった。このような問題は、インクジェットプリンターに限らず、一般に、液体収容容器を交換可能に装着する液体噴射装置(液体消費装置)に共通する問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−113723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、液体噴射装置に液体を供給する液体収容容器に関し、液体収容容器を液体噴射装置に装着する際に気泡が発生した場合であっても、液体噴射装置への気泡の侵入を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することができる。
【0007】
[適用例1] 液体噴射装置に液体を供給する液体収容容器であって、前記液体を収容する液体収容部と、前記液体を前記液体噴射装置に供給する液体供給部と、前記液体収容部と前記液体供給部とを連通させる液体連通流路と、を備え、前記液体供給部は、前記液体噴射装置に接続するための液体供給口と、前記液体供給口から鉛直上方に伸びる中空の液体供給流路であって、下端が前記液体供給口に接続され、上端が閉塞した液体供給流路と、を有し、前記液体供給流路の途中には、前記液体連通流路からの前記液体が流入する液体流入孔が開口している、液体収容容器。
適用例1の液体収容容器によれば、液体供給口で気泡が発生した場合であっても、その気泡を液体流入孔よりも上に位置する液体供給流路(以下、「気泡捕捉部」ともいう。)で捕捉することができる。よって、気泡の液体噴射装置への侵入を低減することができる。
【0008】
[適用例2] 適用例1に記載の液体収容容器であって、前記液体流入孔は、前記液体噴射装置に対する装着状態において鉛直方向と略垂直な方向を向いている、液体収容容器。
適用例2の液体収容容器によれば、さらに、気泡が気体捕捉部まで液体供給流路内を上昇する際に、気泡が液体流入孔を通って上流側流路へ侵入することを防止できる。
【0009】
[適用例3] 適用例1又は適用例2に記載の液体収容容器であって、さらに、前記液体供給口の下端近傍に設けられ、前記液体噴射装置の液体供給針に押されることで変位する弁体と、前記液体供給針が前記液体供給口に挿入されていない状態において、前記弁体の下面と接することで前記液体の流れを遮断するシール部材と、を備え、前記液体流入孔よりも上に位置する前記液体供給流路の容積をV1とし、前記液体供給針の挿入時において、前記液体供給針が前記シール部材に接することで最初に前記弁体と前記シール部材と前記液体供給針によって囲まれる空間の容積をV2とした場合に、V1はV2以上である、液体収容容器。
液体噴射装置へ液体収容容器を装着する際に発生する気泡の量は、最大で容積V2分である。よって、適用例3の液体収容容器によれば、気泡捕捉部の容積V1を容積V2以上とすることで、確実に気泡捕捉部で気泡を補足することができる。
【0010】
[適用例4] 適用例3に記載の液体収容容器であって、さらに、前記液体供給流路の周縁に形成された鉛直方向に伸びる溝部と、を備え、前記溝部は、少なくとも前記液体供給流路の下端から前記液体噴射装置に対する装着状態における前記弁体の上端に相当する位置まで形成されている、液体収容容器。
適用例4の液体収容容器によれば、さらに、弁体が位置する液体供給流路内において、気泡が溝部を通ることで弁体によって気泡の上昇を邪魔されることなく、気泡をスムーズに気泡捕捉部へと誘導することができる。
【0011】
[適用例5] 適用例1又は適用例2に記載の液体収容容器であって、さらに、前記液体供給口の下端近傍に設けられ、前記液体噴射装置の液体供給針に押されることで変位する弁体と、前記液体供給針が前記液体供給口に挿入されていない状態において、前記弁体の下面と接することで前記液体の流れを遮断するシール部材と、前記液体供給流路の周縁に形成された鉛直方向に伸びる溝部と、を備え、前記溝部は、少なくとも前記液体供給流路の下端から前記液体噴射装置に対する装着状態における前記弁体の上端に相当する位置まで形成されている、液体収容容器。
適用例5の液体収容容器によれば、さらに、弁体が位置する液体供給流路内において、気泡が溝部を通ることで弁体によって気泡の上昇を邪魔されることなく、気泡をスムーズに気泡捕捉部へと誘導することができる。
【0012】
[適用例6] 適用例4又は適用例5に記載の液体収容容器であって、前記溝部の上端は、少なくとも前記液体流入孔よりも上の位置まで伸びている、液体収容容器。
適用例6の液体収容容器によれば、さらに、溝部の上端は少なくとも前記液体流入孔よりも上の位置まで伸びていることから、一度溝部に入った気泡は、概ね、そのまま溝部を通って気泡捕捉部へと達する。よって、よりスムーズに気泡を気泡捕捉部へと誘導することができる。
【0013】
[適用例7] 適用例6に記載の液体収容容器であって、前記液体流入孔は前記溝部に形成されている、液体収容容器。
適用例7の液体収容容器によれば、溝部以外に液体流入孔が形成されている場合に比べ、液体がスムーズに溝部を通って液体供給口へと流れる。よって、溝部以外に液体流入孔が形成されている場合に比べ、液体が液体供給流路内を通る際の圧力損失を低減させることができる。
【0014】
[適用例8] 適用例4乃至適用例7のいずれかに記載の液体収容容器であって、前記溝部は2つ以上形成されており、前記溝部はそれぞれ、前記液体供給流路を挟んで対向する位置に他の溝部を有さないように配置されている、液体収容容器。
適用例8に記載の液体収容容器によれば、さらに、液体供給流路の周縁に溝部を2つ以上形成することで、より多くの気泡が溝部を通るため、スムーズに気泡を気泡捕捉部へと誘導することができる。また、溝部が液体供給流路を挟んで対向する位置に他の溝部を有さないことから、弁体が溝部に嵌る可能性を低減でき、弁体を安定して鉛直方向に変位させることができる。その結果、弁体により溝部の流路が閉塞する可能性を低減することができる。また、液体供給針が液体供給口に挿入されていない状態(液体収容容器が液体噴射装置に装着されていない状態)においては、弁体が溝部に嵌り傾くことによる弁体の下面とシール部材との接触不良によって液体が外部へ漏れ出す可能性を低減することができる。
【0015】
[適用例9]適用例1乃至適用例8のいずれかに記載の液体収容容器は、前記液体収容容器の裏面を構成する裏面部材と、前記裏面部材から前記液体収容容器の表面側に突出するように形成された複数の壁部材と、前記裏面部材よりも表面側に前記液体供給流路を形成する前記液体供給部と、を有する容器本体を有し、前記液体連通流路は、前記裏面部材の裏面側に形成された第2の溝部と、前記第2の溝部を覆うフィルムにより形成されている、液体収容容器。
適用例9の液体収容容器によれば、さらに、液体収容部から液体供給流路へと液体を供給するための液体連通流路を容易に形成することができる。これにより、液体収容容器の製作コストを低減することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、液体収容容器及びその製造方法、上述したいずれかの構成の液体収容容器を備えた液体噴射装置(液体消費装置)等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のインクカートリッジ1を装着したインクジェットプリンター100を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施例としてのインクカートリッジ本体7の構成を示す図である。
【図3】図2におけるインクカートリッジ本体7のA−A部分断面図である。
【図4】図3におけるインクカートリッジ本体7のB−B,C−C,D−D部分断面図である。
【図5】図3におけるインクカートリッジ本体7のE−E部分断面図である。
【図6】第2実施例におけるインクカートリッジ本体7aの図2におけるA−A部分断面図である。
【図7】図6におけるインクカートリッジ本体7aのB−B,C−C,D−D部分断面図である。
【図8】図6におけるインクカートリッジ本体7aのE−E部分断面図である。
【図9】第3実施例におけるインクカートリッジ本体7bの図2におけるA−A部分断面図である。
【図10】図9におけるインクカートリッジ本体7bのB−B,C−C,D−D部分断面図である。
【図11】図9におけるインクカートリッジ本体7bのE−E部分断面図である。
【図12】第4実施例のインクカートリッジ1cの第1の外観斜視図である。
【図13】インクカートリッジ1cの第2の外観斜視図である。
【図14】インクカートリッジ1cの第1の分解斜視図である。
【図15】インクカートリッジ1cの第2の分解斜視図である。
【図16】インクカートリッジ1cがキャリッジに取り付けられた状態を示す図である。
【図17】大気開放孔14cからインク供給部30cに至る経路を概念的に示す図である。
【図18】カートリッジ本体15の正面図である。
【図19】図18のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.第4実施例:
E.変形例:
【0019】
A.第1実施例:
図1は本発明のインクカートリッジ1を装着したインクジェットプリンター100を示す斜視図である。このインクジェットプリンター100は主走査方向(紙巾方向)に移動するキャリッジ2を備える。キャリッジ2の移動は、ステッピングモータ6の駆動によりタイミングベルト5を介して行われる。キャリッジ2の下面には、記録ヘッド4が備えつけられており、記録ヘッド4のノズルを介してインクが噴射され印刷用紙PP上に印刷が行われる。また、キャリッジ2上には、複数のインクカートリッジ1を搭載可能なカートリッジ収納部が設けられている。なお、図1では、インクカートリッジ1は、キャリッジ2に装着されているが(いわゆる、オンキャリッジ)、キャリッジ2とは別の場所に設けられた装着部に装着されても良い(いわゆる、オフキャリッジ)。
【0020】
図2は、本発明の第1実施例としてのインクカートリッジ本体7の構成を示す図である。図2(a)はインクが収容されている側(以下、「表面側」ともいう。)からインクカートリッジ本体7を見た図であり、図2(b)は、裏面側(「背面側」ともいう。)からインクカートリッジ本体7を見た図であり、図2(c)は側面からインクカートリッジ本体7を見た図である。上記に説明したインクカートリッジ1は、以下に説明を行うインクカートリッジ本体7と、カートリッジ本体7の表面側及び裏面側を覆うフィルム(図示せず)とを有している。なお、図2には方向を特定するためにXYZ軸が図示されている。以下では、説明の便宜上、Y軸正方向側を上方向、Y軸負方向側を下方向とする。
【0021】
インクカートリッジ本体7は、図2(a)〜(c)で示すように略直方体形状をしている。インクカートリッジ本体7は裏面部材8と、裏面部材8から表面側へと突出するように形成された複数の壁部材9,11と、裏面部材8より表面側に形成されたインク供給部30と、インク供給部30にインクを供給するためのインク導入部21とを備える。複数の壁部材には、裏面部材8の周縁から突出するカートリッジ本体壁9と、カートリッジ本体7の表面側の空間を区画するリブ11とがある。また、表面側を覆うフィルムとカートリッジ本体壁9とリブ11により、2つのインク収容部10,12が区画形成されている。インクカートリッジ本体7の上面には、インクカートリッジ本体7の内部に大気を導入するための大気開放孔14が開口している。
【0022】
インク供給部30は、インクカートリッジ本体7の下端に設けられた凸部19の内部にまで形成されており、その下端は開口している。その開口にキャリッジ2のインク供給針が挿入されることで、インクが記録ヘッド4に供給される。なお、図2に示すインクカートリッジ本体7の上下方向が鉛直方向となるように、インクカートリッジ1はキャリッジ2に装着される。
【0023】
第1のインク収容部10と第2のインク収容部12は、連通孔17,18とインクカートリッジ本体7裏面に設けられたインク連通路(「インク連通流路」ともいう。)16により連通されている。第2のインク収容部12とインク供給部30は、インク導入部21に設けられた連通孔20とインクカートリッジ本体7裏面に設けられたインク連通路(「インク連通流路」ともいう。)22により連通されている。ここで、インク導入部21は、連通孔20とインク連通路22を含んだ構成となっている。第2のインク収容部12のインクは、連通孔20とインク連通路22を通り、後述するインク供給部30のインク供給流路に形成されたインク流入孔33からインク供給部30へと流入する。なお、インク連通路16,22は、インクカートリッジ1の裏面部材8の裏面側に形成された溝部と裏面に貼り付けられた第2のフィルム(図示せず)により流路を形成している。
【0024】
次に、図3〜図5を用いてインク供給部30の詳細について説明を行う。図3は、図2におけるインクカートリッジ本体7のA−A部分断面図である。図4は、図3におけるインクカートリッジ本体7のB−B,C−C,D−D部分断面図である。図5は、図3におけるインクカートリッジ本体7のE−E部分断面図である。なお、図3,図4では説明の便宜上、後述する弁体、付勢部材(「弾性部材」ともいう。)、シール部材は省略している。
【0025】
図3,図4に示すように、インク供給部30の内部は略円柱状の中空状の領域(以下「中空領域」という。)を形成している。インク供給部30は、キャリッジ2に接続するためのインク供給口35と、上端が閉塞し下端がインク供給口35に接続されたインク供給流路32を含んでいる。また、図5(a)に示すように中空領域内には、インク供給針60に押されることで鉛直方向(上下方向)に沿って変位する弁体52と、弁体52の下面と接するシール部材50と、弁体52を常時下方向に付勢する付勢部材54とが備えられている。図5中にドットで示したインクは、インクカートリッジ1が未使用状態(インクカートリッジ1がキャリッジ2に取り付けられる前の状態)ではシール部材50の上面まで充填されている(図5(a))。また、インク供給針60が挿入されていない状態では、弁体52の下面とシール部材50によりインクの流れを遮断することでインクが外部へ漏れ出さないようにしている。なお、シール部材50には弾性材料(例えば、ゴム。)が用いられ、付勢部材54としては、例えばコイルバネが用いられる。
【0026】
インク供給流路32の途中には、第2のインク収容部12から連通孔20(図3)、連通路22を通ったインクが流入するインク流入孔33が開口している。インク流入孔33は鉛直方向と略垂直な方向を向くように形成されている。
【0027】
図3に示すように、インク供給口35は、拡径部35aと大径部35bとを有している。拡径部35aは、上端から下側に行くにつれ次第に内径が大きくなるテーパー形状を有している。大径部35bは、インク供給流路32よりも内径の大きな円筒形状を有している。また、インク供給口35の下端は、キャリッジ2(詳細にはインク供給針60)に装着できるように供給針挿入孔40が開口している。なお、供給針挿入孔40には封止フィルム(図示せず)を貼り付け、キャリッジ2へ装着する際には、インク供給針60により突き破られて開封するようにしても良い。
【0028】
次に、図5を用いて、使用済のインクカートリッジ1をキャリッジ2から取り外し、未使用のインクカートリッジ1をキャリッジ2に装着した場合のインクの流れと、装着時に発生した気泡の流れを説明する。図5(a)は、インク供給針60がシール部材50と接し、最初に弁体52とシール部材50とインク供給針60により囲まれた空間を形成した状態を示したE−E部分断面図であり、図5(b)は、インク供給針60が弁体52を押し上げ、キャリッジ2にインクカートリッジ1が装着された状態を示したE−E部分断面図である。図5(c)は、図5(a)のインク供給針60の先端部付近を示す部分拡大断面図であり、図5(d)は、図5(b)のインク供給流路32上端付近を示す部分拡大断面図である。図5中のドットで塗りつぶした範囲にはインクが充填されている。なお、説明の便宜上、図5(b)は付勢部材54を省略し、図5(d)は、ドット(インク)を省略している。
【0029】
図5(c)に示すように、インク供給針60は、内部に設けられたインク流路61と、先端部に設けられた先端溝部62と、インク流路61と先端溝部62とを接続するインク連絡流路64とを備えている。弁体52がインク供給針60により押し上げられると、インク供給部30内のインクがインク供給針60の先端溝部62、インク連絡流路64を通ってインク流路61へと流れ出す(図5(b)の下向き矢印)。インク流路61へと流れ出したインクは、記録ヘッド4へと供給され、印刷用紙PP上に印刷が行われることでインクが消費される。
【0030】
図5(c)に示すように、インク供給針60をインク供給口35に挿入していくと、インク供給針60がシール部材50と接し、インク供給針60とシール部材50と弁体52とで囲まれた空間68が形成される。この囲まれた空間68は、インク供給針60が弁体52を押し上げるまで形成されている。また、この空間68内には外部から侵入してきた空気が存在する。そして、図5(b)に示すように、インク供給針60が弁体52を押し上げた際に、空間68内の空気が気泡としてインク供給口35内に侵入する。インク供給口35内に侵入した気泡の内、弁体52とインク供給流路32との隙間53を通過可能な大きさの気泡は、インク流入孔33よりも上に位置するインク供給流路32に達する。以下では、インク流入孔33よりも上に位置するインク供給流路32(図5(d)でクロスハッチングされた部分)を気泡捕捉部69ともいう。
【0031】
このように、インクカートリッジ1のキャリッジ2への装着時にインク供給口35内に侵入し気泡捕捉部69で捕捉された気泡は、インクの消費時においてインク供給針60内部へ侵入することがなく、この結果、記録ヘッド4は安定してインクを噴射することができる。また、インク流入孔33は鉛直方向と略垂直な方向を向くように形成しているため、気泡がインク流入孔33を通って上流側流路(例えば、インク連通路22)に侵入することを回避でき、第2のインク収容部12からインクを安定してインク供給流路32に供給することができる。なお、気泡捕捉部69は、インクカートリッジ1の装着時にインク供給口35内に侵入した気泡ばかりでなく、インクカートリッジ1内に当初から存在する気泡やインク流入孔33からインク供給流路32内に流入する気泡を捕捉することもできる。
【0032】
上記実施例において、図5(c)の空間68の容積の内、インク供給針60がシール部材50と接することで最初に空間68が形成された時の容積をV2とした場合に、図5(d)の気泡捕捉部69の容積V1は、容積V2以上であることが好ましい。これは、1回のインクカートリッジ1の交換時にインク供給口35内に侵入する気泡の最大量は容積V2分であるため、気泡捕捉部69の容積V1が容積V2以上であれば、確実に気泡を気泡捕捉部69で捕捉することができるからである。また、気泡捕捉部69に捕捉された気泡は、時間が経過するにつれインクに溶解し、気泡捕捉部69は再びインクで充填されることになる。よって、新たにインクカートリッジ1を交換する場合であっても、気泡捕捉部69は、交換時に発生する気泡の最大量である容積V2分の気泡を再度捕捉することができる。
【0033】
B.第2実施例:
図6は、第2実施例におけるインクカートリッジ本体7aの図2におけるA−A部分断面図である。図7は、図6におけるインクカートリッジ本体7aのB−B,C−C,D−D部分断面図である。図8は、図6におけるインクカートリッジ本体7aのE−E部分断面図である。なお、図8(a)はインク供給針60がシール部材50と接し、最初に弁体52とシール部材50とインク供給針60により囲まれた空間を形成した状態を示しており、図8(b)は、インク供給針60が弁体52を押し上げ、キャリッジ2にインクカートリッジ1が装着された状態を示している。第1実施例との違いは、インク供給流路32の周縁には鉛直方向(上下方向)に伸びる溝部34が形成されている点である。その他のインクカートリッジ本体及びインクカートリッジの構成及びインクカートリッジを搭載したインクジェットプリンターの構成については第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については、同一符号で示すと共に説明を省略する。
【0034】
図6及び図8(a),(b)に示すように、溝部34は、インク供給口35とインク供給流路32の境界部分(言い換えればインク供給流路32の下端)から、インク供給針60により弁体52が押し上げられた際(言い換えれば、インクカートリッジ1aがキャリッジ2に装着された際)の弁体52の上端に相当する位置まで形成されている。また、図7(c)に示すように、溝部34はインク供給流路32の周縁に5つ形成されている。
【0035】
図8(b)に示すように、インク供給針60が弁体52を押し上げた際にインク供給口35内に侵入した気泡は、上昇の過程で弁体52とインク供給流路32の隙間53だけでなく、溝部34も通って気泡捕捉部69に達することができる。このように、溝部34が、インク供給口35とインク供給流路32の境界部分からインク供給針60により弁体52が押し上げられた際の弁体52の上端に相当する位置にまで形成されていることで、気泡は、スムーズにインク供給流路32を上昇し気泡捕捉部69に達することができる。よって、気泡がインク供給針60の先端付近に滞留することをより低減できるため、インクと共に気泡がインク供給針60内部に侵入することをさらに防止することができる。これにより、キャリッジ2はより安定してインクを噴射することができる。
【0036】
上記第2実施例において、溝部34の配置は特に限定はされないが、インク供給流路32を挟んで対向する位置に他の溝部34を有さないように配置することが好ましい。これにより、複数の溝部34がインク供給流路32に形成されている場合でも、弁体52は溝部34に嵌ることなく鉛直方向に安定して変位することができる。よって、弁体52によって気泡の上昇が邪魔されることなく、確実に気泡を気泡捕捉部69で捕捉することができる。また、インクカートリッジ1がキャリッジ2に装着されていない状態においては、弁体52が溝部34に嵌り傾くことによる弁体52の下面とシール部材50との接触不良によってインクが外部へ漏れ出す可能性を低減することができる。なお、溝部34の形成個数は特に限定されるものではなく、1つ以上有すれば良い。溝部34が1つ以上形成されていれば、気泡は溝部34を通ってスムーズに気泡捕捉部69へと達するからである。
【0037】
C.第3実施例:
図9は、第3実施例におけるインクカートリッジ本体7bの図2におけるA−A部分断面図である。図10は、図9におけるインクカートリッジ本体7bのB−B,C−C,D−D部分断面図である。図11は、図9におけるインクカートリッジ本体7bのE−E部分断面図である。なお、図11(a)は、インク供給針60がシール部材50と接し、最初に弁体52とシール部材50とインク供給針60により囲まれた空間を形成した状態を示しており、図11(b)は、インク供給針60が弁体52を押し上げ、キャリッジ2にインクカートリッジ1が装着された状態を示している。第2実施例との違いは、溝部34bの形成位置であり、その他のインクカートリッジ本体及びインクカートリッジの構成及びインクカートリッジを搭載したインクジェットプリンターの構成については上記実施例と同様の構成である。よって、同様の構成については、同一符号で示すと共に説明を省略する。
【0038】
図9と図10(a),(b)に示すように溝部34bは、インク供給口35とインク供給流路32の境界部分(言い換えればインク供給流路32の下端)から、インク供給流路32の上端まで形成されている。また、インク流入孔33bは溝部34bに形成されている。
【0039】
図11(b)に示すように、インク供給針60が弁体52を押し上げた際にインク供給口35内に侵入した気泡は、一旦溝部34bに入れば、概ね溝部34bを通って気泡捕捉部69まで達する。このように、溝部34がインク供給口35とインク供給流路32の境界部分からインク供給流路32の上端まで形成されていることで、気泡はよりスムーズに気泡捕捉部69へと達することができる。よって、気泡がインク供給針60の先端付近に滞留することをより一層低減できるため、インクとともに気泡がインク供給針60内部に侵入することをより一層防止することができる。これにより、キャリッジ2はより一層安定してインクを噴射することができる。
【0040】
上記第3実施例において、インク流入孔33bは、インク供給流路32の途中に形成されていれば特に形成位置は限定されないが、溝部34bに形成されていることが好ましい。これにより、溝部34bに形成されたインク流入孔33bを通ってインク供給流路32に流入したインクは、そのまま溝部34bを通ってインク供給口35へと流れることから、溝部34b以外にインク流入孔33bが形成されている場合に比べ、インク供給流路32内を流れるインクの圧力損失を低減させることができる。
【0041】
D.第4実施例:
図12は、第4実施例のインクカートリッジ1cの第1の外観斜視図である。図13は、インクカートリッジ1cの第2の外観斜視図である。図13は、図12とは反対方向から見た図を示している。図14は、インクカートリッジ1cの第1の分解斜視図である。図15は、インクカートリッジ1cの第2の分解斜視図である。図15は、図14とは反対方向から見た図を示している。図16は、インクカートリッジ1cがキャリッジ2に取り付けられた状態を示す図である。なお、図12〜図15には、方向を特定するため、XYZ軸が図示されている。
【0042】
インクカートリッジ1cは、内部に液体のインクを収容する。図16に示すように、インクカートリッジ1cは、インクジェットプリンター100(図1)のキャリッジ2に装着され、当該インクジェットプリンター100にインクを供給する。
【0043】
図12および図13に示すようにインクカートリッジ1cは、略直方体形状を有し、Y軸正方向側の面101aと、Y軸負方向側の面101bと、X軸正方向側の面101cと、X軸負方向側の面101dと、Z軸正方向側の面101eと、Z軸負方向側の面101fとを有している。以下では、説明の便宜上、面101aを上面、面101bを底面、面101cを右側面、面101dを左側面、面101eを正面、面101fを背面とも呼ぶ。また、これらの面101a〜101fのある側を、それぞれ上面側、底面側、右側面側、左側面側、正面側、背面側とも呼ぶ。
【0044】
底面101bには、インク供給部30cにインク供給針を挿入するための供給針挿入孔40が開口している(図15)。インク供給部30cは、上記第1〜第3実施例のいずれかのインク供給部30,30a,30bを用いることができる。底面101bには、さらに、インクカートリッジ1cの内部に大気を導入するための大気開放孔14cが開口している(図15)。
【0045】
大気開放孔14cは、インクジェットプリンター100のキャリッジ2に形成された突起230(図16)が所定の隙間を有するように余裕を持って嵌るような深さと径を有している。ユーザは、大気開放孔14cを気密に封止する封止フィルム90を剥がしてから、インクカートリッジ1cをキャリッジ2に装着する。突起230は、封止フィルム90の剥がし忘れを防止するために設けられている。
【0046】
図12および図13に示すように、左側面101dには、係合レバー13が設けられている。係合レバー13には、突起13aが形成されている。突起13aが、キャリッジ2への装着時にキャリッジ2に形成された凹部210と係合することによりキャリッジ2に対してインクカートリッジ1cが固定される(図16)。以上から解るように、キャリッジ2はインクカートリッジ1cが装着される装着部である。インクジェットプリンター100の印刷時には、キャリッジ2は、記録ヘッド4(図1)と一体になって、印刷媒体の主走査方向(紙巾方向)に往復移動する。主走査方向は、図16において矢印AR1で示すとおりである。すなわち、インクカートリッジ1cは、インクジェットプリンター100が印刷を行っているとき、各図におけるZ軸方向に沿って往復移動させられる。
【0047】
左側面101dの係合レバー13の下方には、回路基板89が設けられている(図13)。回路基板89上には、複数の電極端子89aが形成されており、これらの電極端子89aは、キャリッジ2に設けられた電極端子(図示省略)を介して、インクジェットプリンター100と電気的に接続される。
【0048】
インクカートリッジ1cの上面101aと背面101fには、外表面フィルム81が貼り付けられている。
【0049】
さらに、図14、図15を参照しながら、インクカートリッジ1cの内部構成、部品構成について説明していく。インクカートリッジ1cは、カートリッジ本体15と、カートリッジ本体15の正面側を覆う蓋部材99とを有している。
【0050】
カートリッジ本体15の正面側には、様々な形状を有するリブ102aが形成されている(図14)。カートリッジ本体15と蓋部材99との間には、カートリッジ本体15の正面側を覆うフィルム85が設けられている。フィルム85は、カートリッジ本体15のリブ102aの正面側の端面に隙間が生じないように緻密に貼り付けられている。これらのリブ102aとフィルム85により、複数の小部屋、例えば、後述するインク収容室、バッファ室がインクカートリッジ1cの内部に区画形成される。これらの各部屋については、さらに詳細を後述する。
【0051】
カートリッジ本体15の背面側には、差圧弁収容室70aと気液分離室76aとが形成されている(図15)。差圧弁収容室70aは、バルブ部材71とバネ72とバネ座73とからなる差圧弁70を収容する。気液分離室76aの底面を囲む内壁には土手76bが形成され、気液分離膜77が、当該土手76bに貼着されており、全体で気液分離フィルタ76を構成している。
【0052】
カートリッジ本体15の背面側には、さらに、複数の溝15bが形成されている(図15)。これらの溝15bは、カートリッジ本体15の背面側の略全体を覆うように外表面フィルム81が貼り付けられたときに、カートリッジ本体15と外表面フィルム81との間に後述する各種の流路、例えば、インクや大気が流動するための流路を形成する。なお、このインクを流動するための流路には、請求項に記載の液体連通流路も含まれる。
【0053】
次に、上述した回路基板89周辺の構造を説明する。カートリッジ本体15の左側面の下面側には、センサ収容室79aが形成されている(図15)。センサ収容室79aには、液体残量センサ86と、固定バネ87とが収容されている。固定バネ87は、液体残量センサ86をセンサ収容室79aの下面側の内壁に押し当てて固定する。センサ収容室79aの左側面側の開口は、カバー部材88によって覆われ、カバー部材88の外表面88aに、上述した回路基板89が固定される。センサ収容室79a、液体残量センサ86、固定バネ87、カバー部材88、回路基板89と、後述するセンサ流路形成室79bとを全体で、センサ部79とも呼ぶ。
【0054】
詳細の図示は省略するが、液体残量センサ86は、後述する中間流路の一部を形成するキャビティと、キャビティの壁面の一部を形成する振動板と、振動板上に配置された圧電素子とを備えている。圧電素子の端子は、電気的に回路基板89の電極端子の一部に接続されており、インクジェットプリンター100にインクカートリッジ1cが装着されたとき、圧電素子の端子は、回路基板89の電極端子を介してインクジェットプリンターと電気的に接続される。インクジェットプリンター100は、圧電素子に電気エネルギを与えることにより、圧電素子を介して振動板を振動させることができる。その後、振動板の残留振動の特性(周波数等)を、圧電素子を介して検出することにより、インクジェットプリンター100はキャビティにおける気泡の有無を検出することができる。具体的には、カートリッジ本体15に収容されていたインクが消費されることにより、インクが満たされた状態から大気が満たされた状態に、キャビティの内部の状態が変化すると、振動板の残留振動の特性が変化する。かかる振動特性の変化を、液体残量センサ86を介して検出することにより、インクジェットプリンター100は、キャビティにおけるインクの有無を検出することができる。
【0055】
また、回路基板89には、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの書換可能な不揮発性メモリが設けられており、インクジェットプリンターのインク消費量などが記録される。
【0056】
カートリッジ本体15の底面側には、上述した大気開放孔14cと共に、減圧孔110と、センサ流路形成室79bと、迷路流路形成室95aが設けられている(図15)。減圧孔110は、インクカートリッジ1cの製造工程においてインクを注入する際に、空気を吸い出してインクカートリッジ1c内部を減圧するために用いられる。センサ流路形成室79bおよび迷路流路形成室95aは、後述する中間流路の一部を形成する。なお、センサ流路形成室79bおよび迷路流路形成室95aは、中間流路の中で最も狭隘で最も流路抵抗の大きな流路部分である。特に、迷路流路形成室95aは、迷路状の流路を形成しており、メニスカス(流路内にできる液体架橋)を発生させるので、流路抵抗が特に大きな部分である。
【0057】
供給針挿入孔40、大気開放孔14c、減圧孔110、迷路流路形成室95a、センサ流路形成室79bは、インクカートリッジ1cが製造された直後には、それぞれ封止フィルム83、90、98、95、84によって開口部が封止されている。このうち、封止フィルム90は、上述したようにインクカートリッジ1cがインクジェットプリンター100のキャリッジ2に装着される前にユーザによって剥離される。これにより、大気開放孔14cは外部と連通し、インクカートリッジ1cの内部に大気が導入される。また、封止フィルム83は、インクカートリッジ1cがインクジェットプリンター100のキャリッジ2に装着された際に、キャリッジ2に備えられたインク供給針によって破られるように構成されている。インク供給部30cの内部には、上記実施例同様、下面側から順に、シール部材50と、弁体52と、付勢部材54とが収容されている。
【0058】
次に、大気開放孔14cからインク供給部30cに至る経路を、図17を参照して概念的に説明する。図17は、大気開放孔14cからインク供給部30cに至る経路を概念的に示す図である。
【0059】
大気開放孔14cからインク供給部30cに至るまでの経路は、インクを収容するためのインク貯留室(「インク収容部」ともいう。)と、インク貯留室の上流側の大気流路と、インク貯留室の下流側の中間流路とに大きく分けられる。
【0060】
インク貯留室は、上流から順に、第1のインク収容室370と、収容室接続路380と、第2のインク収容室390とから構成される。収容室接続路380の上流側は第1のインク収容室370と連通し、収容室接続路380の下流側は第2のインク収容室390と連通している。
【0061】
大気流路は、上流側から順に、蛇行路310と、上述した気液分離膜77を収納する気液分離室76aと、気液分離室76aとインク貯留室とを連結する連結部320〜360とから構成される。蛇行路310は、上流端が大気開放孔14cと連通し、下流端が気液分離室76aと連通している。蛇行路310は、大気開放孔14cから第1のインク貯留室までの距離を長くするために細長く蛇行して形成されている。これにより、インク貯留室内のインク中の水分の蒸発を抑制することができる。気液分離膜77は、気体の透過を許容すると共に、液体の透過を許容しない素材で構成されている。気液分離膜77を、気液分離室76aの上流側と下流側との間に配置することにより、インク貯留室から逆流してきたインクが、気液分離室76aより上流に進入することを抑制することができる。
【0062】
中間流路は、上流側から順に、迷路流路400と、第1流動路410と、上述したセンサ部79と、第2流動路420と、バッファ室430と、上述した差圧弁70を収容する差圧弁収容室70aと、第3流動路450とから構成されている。迷路流路400は、上述した迷路流路形成室95aによって形成される空間を含み、3次元の迷路状の形状に形成されている。迷路流路400によって、インク内に混入した気泡を補足して迷路流路400より下流のインクに気泡が混入することを抑制することができる。迷路流路400を「気泡トラップ流路」とも呼ぶ。第1流動路410は、上流端が迷路流路400に連通し、下流端がセンサ部79のセンサ流路形成室79bに連通している。第2流動路420は、インクカートリッジ本体15の背面側に形成された溝とフィルム81により形成され、上流端がセンサ部79のセンサ流路形成室79bに連通し、下流端がバッファ室430に連通している。バッファ室430は、途中に流動路を挟むことなく、直接に差圧弁収容室70aに連通している。差圧弁収容室70aにおいて、差圧弁70により、差圧弁収容室70aより下流側のインクの圧力は、上流側のインクの圧力より低く調整され、下流側のインクが負圧となるようにされる。連通孔432は、バッファ室430と差圧弁収容室70aとの間を連通する孔である(図18)。連通孔451は、差圧弁収容室70aと第3流動路450との間を連通する孔である(図18)。第3流動路450(図18)は、上流端が差圧弁収容室70aに連通し、下流端がインク供給部30cに形成されたインク流入孔33cに連通している。この第3流動路450は、差圧弁収容室70aから出たインクが鉛直下方向に向けて流れる流路である。なお、第3流動路450の途中には連通孔452が形成され、後述するインクカートリッジ本体15に形成された連通路とバネ座73に形成された連通孔により差圧弁70と第3流動路450は連通している。
【0063】
図19は、図18のA−A断面図である。この図では、差圧弁70と、差圧弁70の上流側にあるバッファ室430と、差圧弁70の下流側にある第3流動路450とインク供給部30cの部分が示されている。なお、ここでは図示の便宜上、バッファ室430と差圧弁収容室70aとを接続する連通孔432の位置が図18よりもやや上側に描かれている。図19(a)は差圧弁70が閉じた状態を示している。上述したように、連通孔452,454と連通路453により差圧弁70と第3流動路450は連通している。記録ヘッドがインクを消費すると、インク供給流路32c側の圧力が低下して差圧弁70が図19(b)のように開いた状態になる。差圧弁70が開くと、インクが、バッファ室430から連通孔432を通って差圧弁収容室70aに流れ、さらに、第3流動路450を経由してインク供給流路32cの途中に形成されたインク流入孔33cからインク供給流路32c内に供給される。差圧弁70を利用すれば、記録ヘッドへのインクの供給圧力を適切な圧力範囲に収めることができ、この結果、記録ヘッドからのインク吐出(インク噴射)を安定した条件下で行うことが可能である。また、差圧弁70よりも下流にあるインク流路(例えばインク供給流路32c、第3流動路450)は負圧に保たれているのに対し、インク供給針60内部はキャリッジ2のインク噴射口に連通していることから大気圧である。よって、インク供給針60挿入時にインク供給口35c内に気泡が侵入した場合であっても、気泡はインク供給針60付近に滞留することなくスムーズにインク供給流路32cの上端側に設けた気泡捕捉部69cへと達する。よって、気泡がインク供給針60内部へ侵入することを防止することができる。なお、上述の説明からも理解できるように、バッファ室430は、差圧弁70の直前に設けられており、差圧弁70に導入されるインクを貯留しておく部屋として機能している。
【0064】
E.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、特許請求の範囲の独立項に記載した要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の上記実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
E−1.第1変形例:
上記実施例では、インクジェットプリンターと、インクカートリッジを用いてインク供給部の説明を行ったが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置と、その液体を収容した液体容器を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であれば良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用しても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置および液体収容容器に本発明を適用することができる。
【0066】
E−2.第2変形例:
上記実施例では、インク供給口35,35cは上端側がテーパー形状であったが、形状は特にこれに限定されるわけではなく、上端から下端まで一定の内径を有する円筒形状でも良い。なお、インク供給口35,35c内にはシール部材50を設ける必要があるため、鉛直方向と直交する断面において、インク供給口35,35cの内径は、インク供給流路32,32cの径よりも大きいことが好ましい。
【0067】
E−3.第3変形例:
上記実施例では、インク連通路(インク連通流路)22は裏面部材8の裏面側に形成された溝部と裏面に貼り付けられた第2のフィルムにより流路を形成していたが、インク収容部10,12のインクが液体供給部へと流入可能な流路であればこれに限定されるものではない。例えば、インク供給部30の外表面からインク供給流路32に通じる穴を形成させて、その穴からインク流入孔33を介してインクがインク供給部30へと流れても良い。
【0068】
E−4.第4変形例:
上記実施例では、インク収容部10,12が2つ形成されていたが、インク収容部の個数(部屋数)はこれに限定されるものではない。
【0069】
E−5.第5変形例:
上記第3実施例では、インク流入孔33bは溝部34bに形成されていたが、インク供給流路の途中に溝部が形成されていれば良く、溝部以外のインク供給流路の周縁にインク流入孔が形成されていても良い。
【符号の説明】
【0070】
1…インクカートリッジ
2…キャリッジ
4…記録ヘッド
5…タイミングベルト
6…ステッピングモータ
7,7a,7b…インクカートリッジ本体
8…裏面部材
9…カートリッジ本体壁
10…第1のインク収容部
11…リブ
12…第2のインク収容部
13…係合レバー
13a…突起
14…大気開放孔
14c…大気開放孔
15…インクカートリッジ本体
15b…溝
16…インク連通路(インク連通流路)
17,18…連通孔
19…凸部
20…連通孔
21…インク導入部
22…インク連通路(インク連通流路)
30,30a,30b,30c…インク供給部
32,32c…インク供給流路
33,33b,33c…インク流入孔
34,34b,34c…溝部
35,35c…インク供給口
40…供給針挿入孔
50…シール部材
52…弁体
53…隙間
54…付勢部材
60…インク供給針
61…インク流路
62…溝部
64…インク連絡流路
68…空間
69,69c…気泡捕捉部
70…差圧弁
70a…差圧弁収容室
71…バルブ部材
72…バネ
73…バネ座
76…気液分離フィルタ
76a…気液分離室
76b…土手
77…気液分離膜
79…センサ部
79a…センサ収容室
79b…センサ流路形成室
81…外表面フィルム
83…封止フィルム
85…フィルム
86…液体残量センサ
87…固定バネ
88…カバー部材
88a…外表面
89…回路基板
89a…電極端子
90…封止フィルム
95a…迷路流路形成室
99…蓋部材
100…インクジェットプリンター
102a…リブ
110…減圧孔
210…凹部
230…突起
310…蛇行路
320…連結部
370…第1のインク収容室
380…収容室接続路
390…第2のインク収容室
400…迷路流路
410…第1流動路
420…第2流動路
430…バッファ室
432…連通孔
450…第3流動路
451…連通孔
452…連通孔
453…連通路
454…連通孔
V1…気泡捕捉部69の容積
V2…空間68が最初に形成された時の容積
PP…印刷用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射装置に液体を供給する液体収容容器であって、
前記液体を収容する液体収容部と、
前記液体を前記液体噴射装置に供給する液体供給部と、
前記液体収容部と前記液体供給部とを連通させる液体連通流路と、を備え、
前記液体供給部は、
前記液体噴射装置に接続するための液体供給口と、
前記液体供給口から鉛直上方に伸びる中空の液体供給流路であって、下端が前記液体供給口に接続され、上端が閉塞した液体供給流路と、を有し、
前記液体供給流路の途中には、前記液体連通流路からの前記液体が流入する液体流入孔が開口している、液体収容容器。
【請求項2】
請求項1に記載の液体収容容器であって、
前記液体流入孔は、前記液体噴射装置に対する装着状態において鉛直方向と略垂直な方向を向いている、液体収容容器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液体収容容器であって、さらに、
前記液体供給口の下端近傍に設けられ、前記液体噴射装置の液体供給針に押されることで変位する弁体と、
前記液体供給針が前記液体供給口に挿入されていない状態において、前記弁体の下面と接することで前記液体の流れを遮断するシール部材と、を備え、
前記液体流入孔よりも上に位置する前記液体供給流路の容積をV1とし、
前記液体供給針の挿入時において、前記液体供給針が前記シール部材に接することで最初に前記弁体と前記シール部材と前記液体供給針によって囲まれる空間の容積をV2とした場合に、
V1はV2以上である、液体収容容器。
【請求項4】
請求項3に記載の液体収容容器であって、さらに、
前記液体供給流路の周縁に形成された鉛直方向に伸びる溝部と、を備え、
前記溝部は、少なくとも前記液体供給流路の下端から前記液体噴射装置に対する装着状態における前記弁体の上端に相当する位置まで形成されている、液体収容容器。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の液体収容容器であって、さらに、
前記液体供給口の下端近傍に設けられ、前記液体噴射装置の液体供給針に押されることで変位する弁体と、
前記液体供給針が前記液体供給口に挿入されていない状態において、前記弁体の下面と接することで前記液体の流れを遮断するシール部材と、
前記液体供給流路の周縁に形成された鉛直方向に伸びる溝部と、を備え、
前記溝部は、少なくとも前記液体供給流路の下端から前記液体噴射装置に対する装着状態における前記弁体の上端に相当する位置まで形成されている、液体収容容器。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の液体収容容器であって、
前記溝部の上端は、少なくとも前記液体流入孔よりも上の位置まで伸びている、液体収容容器。
【請求項7】
請求項6に記載の液体収容容器であって、
前記液体流入孔は前記溝部に形成されている、液体収容容器。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれかに記載の液体収容容器であって、
前記溝部は2つ以上形成されており、
前記溝部はそれぞれ、前記液体供給流路を挟んで対向する位置に他の溝部を有さないように配置されている、液体収容容器。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の液体収容容器は、
前記液体収容容器の裏面を構成する裏面部材と、前記裏面部材から前記液体収容容器の表面側に突出するように形成された複数の壁部材と、前記裏面部材よりも表面側に前記液体供給流路を形成する前記液体供給部と、を有する容器本体を有し、
前記液体連通流路は、前記裏面部材の裏面側に形成された第2の溝部と、前記第2の溝部を覆うフィルムにより形成されている、液体収容容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−99965(P2013−99965A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−34242(P2013−34242)
【出願日】平成25年2月25日(2013.2.25)
【分割の表示】特願2009−64275(P2009−64275)の分割
【原出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】