説明

液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 異なる厚さを有する吐出口部材を備える液体吐出ヘッドにおいて、吐出口の形状や大きさが精度よく形成される液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドは、基板と、第1及び第2の流路と、第1の流路と連通する第1の吐出口の孔及び、第2の流路と連通し、第1の吐出口の孔よりも深くて開口面積の大きい第2の吐出口の孔が形成された吐出口部材と、を備える。吐出口部材は第1及び第2の吐出口部材からなる。第1の吐出口部材は、第1の流路を形成する流路壁の上に設けられた、第1の吐出口の孔が形成された一定の厚さの材料層からなり、第2の吐出口部材は、第2の流路を形成する流路壁の上に設けられた、第1の吐出口部材と同じ一定の厚さの第1の材料層と、第1の材料層の上に形成された第2の材料層と、第1及び第2の材料層を貫いて形成された第2の吐出口の孔と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出口から液体を吐出することにより、被記録材に記録を行う液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドとして、基板の上に、液滴を吐出するエネルギを発生させる液体吐出エネルギ発生素子と、吐出口を有する吐出口部材と、を備えたものが知られている。液体吐出エネルギ発生素子と吐出口部材との間には流路が形成されており、該流路に貯留されている液体が吐出口から吐出されることによって、記録紙等の被記録材に液滴が着弾してドットを形成し、記録が行われる。
【0003】
近年では、開口面積が異なる複数の吐出口を備える液体吐出ヘッドが提案されている。1つの液体吐出ヘッドから異なるサイズの液滴を吐出することができ、ドットの細かい箇所ではサイズの小さい液滴で記録し、ドットの粗い箇所ではサイズの大きい液滴で記録することによって、記録品位を低下させることなく印刷時間を短縮することが可能となる。
【0004】
サイズの異なる液滴を吐出する液体吐出ヘッドでは、吐出速度やリフィル時間(液滴を吐出させた後に流路内へ液体が供給されて流路が液体で満たされるまでの時間)等の吐出特性が吐出口ごとに異なると、記録品位が低下する虞がある。
【0005】
そこで、特許文献1では、吐出口の開口面積の大きさよって吐出口部材の厚さが異なる液体吐出ヘッドが開示されている(図4)。液滴が吐出口から受ける抵抗を吐出口の孔の深さで調整することにより、異なるサイズの液滴を同一の基板から吐出する場合であっても、吐出速度やリフィル時間等の吐出特性を揃えることができる。
【0006】
図5は特許文献1に開示されている液体吐出ヘッドの製造方法を示す断面図である。特許文献1では、まず図5(a)に示すように、基板1の液体吐出エネルギ発生素子2が配設されている面に、流路13(図5(d))となる領域に型材21を設置し、さらに大液滴を吐出する側の流路13の型材21に平坦部材23を設ける。なお、平坦部材23は、大液滴吐出口8(図5(d))に相当する箇所に貫通孔22が形成されている。次に、型材21及び平坦部材23を覆うように吐出口部材24を構成するネガ型感光性樹脂材料を塗布し、平坦部材23の分だけ吐出口部材24が凸となるようにする(図5(b))。その後、図5(c)に示すように、マスク15を用いて吐出口部材24の所定の位置を露光によって硬化させ、硬化されなかった領域を除去して小液滴吐出口6及び大液滴吐出口8を形成する(図5(d))。最後に、図5(e)に示すように、基板1を貫通するように供給口12を形成し、型材21を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007―125810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示されている製造方法では、感光性樹脂を露光によって硬化させて吐出口部材24を形成する際に、感光性樹脂が平坦部材23の所で凸状に盛り上がっているため、露光時にフォーカスズレが発生しやすい。特に、液体吐出ヘッドは微細化傾向にあり、正確な位置に吐出口を配置するには、図5(c)に示すように、吐出口部材24の表面に対して1つのマスク15を使って露光することが必要である。1つのマスク15を使って高さの異なる表面をもつ吐出口部材24を露光する場合では、フォーカスズレを避けられない。
【0009】
また、大液滴吐出口8の孔の深さと小液滴吐出口6の孔の深さの差を大きくするほど、表面高さが大きく異なっている吐出口部材24となるため、上記のフォーカスズレがより大きくなる。
【0010】
フォーカスズレが生じると、吐出口の形状や大きさを精度よく形成することが困難になる。吐出口の形状や大きさが正確でないと、液体の吐出量のばらつきが大きくなったり、着弾精度が悪化したりし、記録品位が低下する虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、前述の背景技術が有する問題点を鑑みてなされたものであり、異なる厚さを有する吐出口部材を備える液体吐出ヘッドにおいて、吐出口の形状や大きさが精度よく形成される液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の液体吐出ヘッドは、基板と、基板の上に設けられた第1及び第2の流路と、基板の上に設けられ、第1の流路と連通する第1の吐出口の孔及び、第2の流路と連通する該第1の吐出口の孔よりも深くて開口面積の大きい第2の吐出口の孔が形成された吐出口部材と、を備える。基板の一の面に一定の高さで設けられた、第1及び第2の流路を形成する複数の流路壁を備えており、吐出口部材は第1及び第2の吐出口部材からなる。第1の吐出口部材は、第1の流路を形成する流路壁の上に設けられた、第1の吐出口の孔が形成された一定の厚さの材料層からなり、第2の吐出口部材は、第2の流路を形成する流路壁の上に設けられた、第1の吐出口部材と同じ一定の厚さの第1の材料層と、第1の材料層の上に形成された第2の材料層と、第1及び第2の材料層を貫いて形成された第2の吐出口の孔と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、基板と、基板の一の面に設けられた、第1及び第2の流路を形成する複数の流路壁と、第1の流路を形成する流路壁の上に設けられた、第1の流路と連通する第1の吐出口の孔を有する第1の吐出口部材と、第2の流路を形成する流路壁の上に設けられた、第2の流路と連通する、第1の吐出口の孔よりも深くて開口面積の大きい第2の吐出口の孔を有する第2の吐出口部材と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、一の面にネガ型感光性樹脂材料からなる第1の樹脂層を塗布し、第1の樹脂層の流路壁となる領域を露光により硬化させて流路壁を形成する工程と、少なくとも流路壁の間に溶解可能な埋込部材を充填する工程と、ネガ型感光性樹脂材料からなる第2の樹脂層を、流路壁及び埋込部材の上に、該第2の樹脂層の表面が平坦となるように塗布する工程と、第2の樹脂層の第1の吐出口部材となる領域を露光により硬化させて第1の吐出口部材を形成する工程と、ネガ型感光性樹脂材料からなる第3の樹脂層を、第1の吐出口部材とこれ以外の領域の上に該第3の樹脂層の表面が平坦となるように塗布する工程と、第3の樹脂層の第2の吐出口部材となる領域を露光により硬化させて第2の吐出口部材を形成する工程と、埋込部材を溶解して除去する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる厚さを有する吐出口部材を備える液体吐出ヘッドにおいて、吐出口の形状や大きさが精度よく成形される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における第1の実施例の液体吐出ヘッドの断面斜視図である。
【図2】本発明における液体吐出ヘッドの製造方法の工程を説明する断面図である。
【図3】本発明における他の実施例の液体吐出ヘッドの断面斜視図である。
【図4】従来の液体吐出ヘッドの断面斜視図である。
【図5】従来の液体吐出ヘッドの製造方法の工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態により製造される液体吐出ヘッドの断面斜視図である。図1に示す液体吐出ヘッドの一の面には、液体吐出エネルギ発生素子2が複数配設されており、該一の面に、液体吐出エネルギ発生素子2を囲うように流路壁3が一定の高さで形成されている。液体吐出エネルギ発生素子2としては、熱エネルギを発生する発熱抵抗素子などが用いられる。
【0018】
また、流路壁3の、基板1の反対側に位置する面には第1の吐出口部材又は第2の吐出口部材が形成されている。なお、本書の説明では、第1の吐出口部材を第1の液滴を吐出するための吐出口部材(以下、小液滴吐出口部材5と呼ぶ)とし、第2の吐出口部材を第1の液滴よりも大きな第2の液滴を吐出するための吐出口部材(以下、大液滴吐出口部材7と呼ぶ)とする。
【0019】
小液滴吐出口部材5と基板1と流路壁3とで囲まれることによって第1の流路13aが形成され、大液滴吐出口部材7と基板1と流路壁3とで囲まれることによって第2の流路13bが形成されている。第1の流路13a及び第2の流路13bは、不図示のインクタンクと供給口12で連通されており、液体タンクから液体が供給され、液体を貯留できるようになっている。
【0020】
小液滴吐出口部材5及び大液滴吐出口部材7の、液体吐出エネルギ発生素子2と対向する位置には、第1の液滴を吐出する吐出口(以下、小液滴吐出口6と呼ぶ)及び第2の液滴を吐出する吐出口(以下、大液滴吐出口8と呼ぶ)が形成されている。小液滴吐出口6から吐出される第1の液滴よりも大きいサイズの第2の液滴が大液滴吐出口8から吐出されるように、大液滴吐出口8の開口面積は小液滴吐出口6の開口面積よりも大きくなっている。
【0021】
また、大液滴吐出口部材7の厚さt2は、小液滴吐出口部材5の厚さt1よりも大きくなっており、大液滴吐出口8の孔の深さは小液滴吐出口6の孔の深さよりも大きい。厚さt2を大きくするほど、大液滴吐出口8から吐出される液滴が受ける抵抗の大きさを大きくすることが可能である。したがって、大液滴吐出口8と小液滴吐出口6とにおける、吐出速度やリフィル時間等の吐出特性を揃えることができる。
【0022】
大液滴吐出口部材7は、小液滴吐出口部材5と同一高さを有する平坦部材11の上に設けられている。平坦部材11は、小液滴吐出口部材5を形成するための一定の厚さの第1の材料層から形成されている。すなわち、平坦部材11及び小液滴吐出口部材5は同じ第1の材料層から形成されている。平坦部材11は、大液滴吐出口部材7の成形時において、大液滴吐出口部材7を形成する第2の材料層の表面を平坦に形成する機能を有する。
【0023】
また、平坦部材11には溝14が形成されており、大液滴吐出口部材7を構成する材料が溝14に浸入している。さらに、平坦部材11は、大液滴吐出口8を内包する貫通孔25を有している。大液滴吐出口部材7を構成する材料が溝14及び貫通孔25に浸入していることで、平坦部材11と大液滴吐出口部材7との接触面積が大きくなり、平坦部材11と大液滴吐出口部材7との密着性が高められている。
【0024】
次に、液体吐出ヘッドの動作について説明する。
【0025】
不図示の液体タンクから供給口12を介して第1の流路13a及び第2の流路13bに供給された液体は、液体吐出エネルギ発生素子2から熱エネルギを受ける。該熱エネルギによって液体が加熱されて気泡を発生し、この気泡の発生に基づく作用力によって小液滴吐出口6または大液滴吐出口8から液滴が吐出される。この液滴が記録紙等の被記録部材に着弾してドットを形成することで記録が行われる。
【0026】
被記録部材に形成される画像のうち、ドットの細かい箇所では小液滴吐出口6から吐出されるサイズの小さい液滴で記録し、ドットの粗い箇所では大液滴吐出口8から吐出されるサイズの大きい液滴で記録することによって、印刷時間を短縮することが可能となる。また、厚さt1と厚さt2に差を設けることによって、小液滴吐出口部材5と大液滴吐出口部材7とにおける吐出特性が揃えられているため、高い品位で記録が可能である。
【0027】
図2及び図3は、図1に示す液体吐出ヘッドの製造工程を示す断面模式図である。本実施形態の液体吐出ヘッドの製造では、半導体素子の製造におけるフォトリソグラフィ技術を適用することができる。
【0028】
まず、図2(a)に示すように、基板1の液体吐出エネルギ発生素子2が配設された面に、スピンコート法により第1の樹脂層18を塗布する。第1の樹脂層18としては、フォトレジストと呼ばれる、光によって反応した部分が硬化するネガ型の感光性樹脂材料を用いた。
【0029】
スピンコート法とは、基板1の表面の中央部に液状のフォトレジストを滴下し、基板1を高速回転させることで生じる遠心力によってフォトレジストを基板1の外周部へ向けて広げる方法である。スピンコート法によってフォトレジストを基板1の表面全体に均一に塗布することができる。
【0030】
次に露光工程に移って、UV光17を第1の樹脂層18へ照射し、第1の樹脂層18を反応させる。このとき、Crパターン16が設けられたマスク15を介してUV光17の照射を行う。Crパターン16は、第1の樹脂層18の第1の流路13a及び第2の流路13b(図1)が形成される領域にUV光17が照射されないように形成されている。したがって、第1の流路13a及び第2の流路13bが形成される領域の第1の樹脂層18では、UV光17による反応が起こらない。
【0031】
第1の樹脂層18を露光したあと、第1の樹脂層18を現像液に浸す。このとき、第1の樹脂層18のUV光17が照射されなかった領域が現像液によって除去される。したがって、図2(b)に示すように、第1の樹脂層18のうち、樹脂が除去された部分が第1の流路13a及び第2の流路13bとなり、樹脂が残存する部分が一定の高さを有する流路壁3となる。
【0032】
なお、流路壁3は、後の工程で行われる研磨加工で削られるため、液体吐出ヘッドの完成状態における流路壁3の設計寸法よりも第1の樹脂層18を厚く塗布しておくとよい。
【0033】
続いて、図2(c)に示すように、液体吐出エネルギ発生素子2及び流路壁3を覆うように埋込部材4を塗布する。このとき、流路13が埋没するように埋込部材4を塗布する。埋込部材4として使用する材料は、流路壁3との相溶の問題がなく、除去が容易であり、且つ研磨加工に適したものであればよい。
【0034】
埋込部材4の塗布が完了したところで、図2(d)に示すように、流路壁3の表面が現れるまで埋込部材4を研磨加工する。埋込部材4と流路壁3との表面を平坦化するため、流路壁3の表面も研磨するとよい。
【0035】
次に、図2(e)に示すように、流路壁3及び埋込部材4で形成される面の上に第2の樹脂層19をスピンコート法によって塗布する。流路壁3と埋込部材4との表面は平坦化されているため、第2の樹脂層19の表面も容易に平坦とすることが可能となる。
【0036】
さらに、第2の樹脂層19の表面に、液体を撥水させるための第1の撥水材9を形成する。第1の撥水材9は、図1に示す液体吐出ヘッドの小液滴吐出口部材5の表面となる。液体吐出ヘッドで液滴を吐出したときに、第1の撥水材9は、小液滴吐出口部材5に液体が付着するのを防止する。液体が小液滴吐出口部材5に付着しなくなるため、液体吐出ヘッドの記録品位と耐久性とが向上する。
【0037】
続いて、図2(b)で流路壁3を形成したときと同様に、UV光を第2の樹脂層19に照射して第2の樹脂層19を硬化させる。第2の樹脂層19にUV光を照射するときに用いられるマスクのCrパターンは、小液滴吐出口6が形成される領域と、貫通孔25が形成される領域と、溝14が形成される領域と、に対応して設けられている。
【0038】
UV光を照射した後の第2の樹脂層19を現像液に浸すことによって、第2の樹脂層19のUV光が照射されなかった領域が現像液によって除去される。図2(f)に示すように、第2の樹脂層19のうち、樹脂の除去された部分が小液滴吐出口6、貫通孔25及び溝14となり、樹脂の残存する部分が一定の厚さを有する小液滴吐出口部材5及び平坦部材11となる。すなわち、小液滴吐出口部材5の形成と同時に平坦部材11が形成される。
【0039】
第2の樹脂層19の表面が平坦に形成されているため、露光時においてフォーカスズレが発生することなく、小液滴吐出口6を精度よく形成することができる。
【0040】
次に、図2(g)に示すように、第2の樹脂層19とこれ以外の領域の上に第3の樹脂層20を塗布する。第2の樹脂層19には、小液滴吐出口6、溝14及び貫通孔25が形成されているが、それらの開口面積は小さいため、第3の樹脂層20の表面を平坦に塗布することができる。
【0041】
さらに、第3の樹脂層20の表面に第2の撥水材10を塗布する。第2の撥水材10は、第1の撥水材9と同様に、大液滴吐出口部材7に液体が付着するのを防止し、液体吐出ヘッドの記録品位と耐久性の向上が可能になる。
【0042】
平坦部材11の表面に形成された第1の撥水材9と第3の樹脂層20との密着性は十分に確保されない。そこで、本実施形態では、平坦部材11に溝14を設けて、第3の樹脂層20と、第1の撥水材9が形成されていない平坦部材11とを接触させて、平坦部材11と第3の樹脂層20との密着性が高められている。
【0043】
図2(b)や図2(f)で流路壁3や小液滴吐出口6を形成したときと同様に、フォトリソグラフィ技術を用いて図3(h)に示すような大液滴吐出口8を形成する。第3の樹脂層20の表面は平坦に塗布されているため、露光時にフォーカスズレが発生することなく、精度よく大液滴吐出口8が形成される。
【0044】
次に、基板1を、加熱したアルカリ性のエッチング液に所定の時間だけ浸漬し、供給口12を形成する。最後に、流路13に充填した埋込部材4を除去することによって、供給口12と流路13とが連通し、吐出される液体の、不図示の液体タンクから流路13への供給が可能となる。
【0045】
本発明の製造方法では、吐出口部材の形成時に、図2(e)や図2(g)に示すように、吐出口部材となる樹脂層の表面を平坦に形成した後で吐出口を形成するため、吐出口の形状や大きさのばらつきが抑えられる。
【0046】
本発明の製造方法では、図3(a)及び(b)に示す複数の異なる液体を吐出する液体吐出ヘッドにも適用することができる。
【0047】
図3(a)は、供給口12a、12b及び12cを備える液体吐出ヘッドの断面斜視図である。図3(a)に示す液体吐出ヘッドでは、例えば、供給口12a、12b及び12cからイエロー、マゼンダ及びシアンのインクを供給することが可能である。供給口12aは小液滴吐出口6と大液滴吐出口8とに連通されており、供給口12bは小液滴吐出口6と大液滴吐出口8とに連通されている。供給口12cは、小液滴吐出口6にのみ連通されている。
【0048】
したがって、図3(a)に示す液体吐出ヘッドは、イエロー及びマゼンダは、サイズの小さい液滴とサイズの大きい液滴とを吐出でき、シアンはサイズの小さい液滴のみを吐出することができる。
【0049】
図3(b)は、図3(a)に示す液体吐出ヘッドとは異なる大液滴吐出口と小液滴吐出口との配置を有する液体吐出ヘッドの断面斜視図である。供給口12a及び供給口12cは、小液滴吐出口6に連通されており、供給口12bは大液滴吐出口8に連通されている。
【0050】
以上のように、露光工程で使用するマスク及びCrパターンを変更することによって、大液滴吐出口と小液滴吐出口との配置を変えることが容易にできる。
【0051】
本実施形態では、小液滴吐出口部材5と大液滴吐出口部材7とを同じ材料を用いて形成したが、流路壁との密着が十分保てるものであれば、小液滴吐出口部材5と大液滴吐出口部材7とを異なる材料で形成することも可能である。
【0052】
また、流路壁3、小液滴吐出口部材5及び大液滴吐出口部材7を構成する樹脂層は、ネガ型感光性樹脂材料に限られず、感光した部分が溶解するポジ型の感光性樹脂材料でもよい。
【0053】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0054】
(実施例)
液体吐出エネルギ発生素子2として、発熱抵抗素子(材質TaSiN)が配設されている基板1を用意した。また、基板1には、発熱抵抗素子を駆動するドライバーやロジック回路等が形成されている。
【0055】
基板1の発熱抵抗素子が配設されている面に、以下の組成からなるネガ型の感光性樹脂材料をスピンコート法によって塗布し、90℃のホットプレートで5分間ベークを行い、厚さが14μmの第1の樹脂層18を形成した(図2(a))。
【0056】
(組成物)
EHPE(ダイセル化学工業製) 100重量部
SP−172(旭電化工業製) 2重量部
A−187(日本ユニカー製) 5重量部
メチルイソブチルケトン 100重量部
ジグライム 100重量部
続いて、光源にi線を用いた露光装置(以下、i線ステッパーと称す)で露光を行い、キシレン60%とメチルイソブチルケトン40%との混合液で現像を行い、第1の流路13a及び第2の流路13bを形成した(図2(b))。第1の流路13a及び第2の流路13bを形成した後、第1の樹脂層18の残部を140℃オーブンにてベークし、感光性樹脂材料を硬化させ流路壁3とした。
【0057】
次いで、埋込部材4として溶解可能なODUR(東京応化工業製)を用い、これをスピンコート法により、流路壁3から16μmの厚さとなる位置まで塗布し、120℃のホットプレートで6分間ベークを行い、埋込部材4を形成した(図2(c))。CMP(Chemical Mechanical Polishing)によって流路壁3上の埋込部材4を16μm研磨し、流路壁3を露出させた。
【0058】
さらに、流路壁3と同じ組成のネガ型の感光性樹脂材料をスピンコート法によって流路壁3から10μmの厚さの所まで塗布し、90℃のホットプレートで5分間ベークを行い、第2の樹脂層19を形成した。さらに、その表面に撥水材9を0.5μmの厚さで形成した(図2(e))。
【0059】
i線ステッパーで第2の樹脂層19の露光を行い、キシレン60%とメチルイソブチルケトン40%の混合液で現像を行い、小液滴吐出口部材5と平坦部材11を一括形成した(図2(f))。
【0060】
続いて、流路壁3と同じ組成のネガ型の感光性樹脂材料をスピンコート法によって小液滴吐出口部材5から20μmの厚さの所まで塗布し、90℃のホットプレートで5分間ベークを行い、第3の樹脂層20を形成した。さらに第3の樹脂層20の表面に撥水材10を0.5μmの厚さで塗布した(図2(g))。
【0061】
i線ステッパーで第3の樹脂層20の露光を行い、キシレン60%とメチルイソブチルケトン40%の混合液で現像を行い、大液滴吐出口8を形成した(図3(h))。140℃オーブンにてベークを行い、第3の樹脂層20を硬化させ、大液滴吐出口部材7とした。
【0062】
次に、小液滴吐出口6と大液滴吐出口8が形成された基板を、約80℃に加熱温調したTMAH(Tetramethyl ammonium haydroxide)22wt%水溶液に十数時間浸漬した。図2(i)に示すように、基板1をエッチングして供給口12を形成した。
【0063】
最後に、流路13の型材として残っている埋込部材4を約40℃に加熱温調した乳酸メチルへ浸漬し、埋込部材4を溶解によって一括除去し、200℃のオーブンで感光性樹脂材料を完全に硬化させ、液体吐出ヘッドを成形した(図2(j))。
【0064】
以上のように実施例の製造方法で製造した液体吐出ヘッドを記録装置に搭載し、吐出及び記録評価を行ったところ、良好な画像記録が可能であった。
【符号の説明】
【0065】
1 基板
2 液体吐出エネルギ発生素子
3 流路壁
4 埋込部材
5 小液滴吐出口部材
6 小液滴吐出口
7 大液滴吐出口部材
8 大液滴吐出口
11 平坦部材
12、12a、12b、12c 供給口
13a 第1の流路
13b 第2の流路
14 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に設けられた第1及び第2の流路と、
前記基板の上に設けられ、前記第1の流路と連通する第1の吐出口の孔及び、前記第2の流路と連通する該第1の吐出口の孔よりも深くて開口面積の大きい第2の吐出口の孔が形成された吐出口部材と、を備えた液体吐出ヘッドにおいて、
前記基板の一の面に一定の高さで設けられた、前記第1及び前記第2の流路を形成する複数の流路壁を備えており、
前記吐出口部材は第1及び第2の吐出口部材からなり、
前記第1の吐出口部材は、前記第1の流路を形成する前記流路壁の上に設けられた、前記第1の吐出口の孔が形成された一定の厚さの材料層からなり、
前記第2の吐出口部材は、前記第2の流路を形成する前記流路壁の上に設けられた、前記第1の吐出口部材と同じ一定の厚さの第1の材料層と、前記第1の材料層の上に形成された第2の材料層と、前記第1及び第2の材料層を貫いて形成された前記第2の吐出口の孔と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の材料層は、前記第2の材料層の材料が入り込んだ貫通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第2の吐出口の孔のうち、前記第1の材料層における孔は、前記第2の材料層の材料が入り込んで形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
基板と、
前記基板の一の面に設けられた、第1及び第2の流路を形成する複数の流路壁と、
前記第1の流路を形成する前記流路壁の上に設けられた、前記第1の流路と連通する第1の吐出口の孔を有する第1の吐出口部材と、
前記第2の流路を形成する前記流路壁の上に設けられた、前記第2の流路と連通する、前記第1の吐出口の孔よりも深くて開口面積の大きい第2の吐出口の孔を有する第2の吐出口部材と、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記一の面にネガ型感光性樹脂材料からなる第1の樹脂層を塗布し、前記第1の樹脂層の前記流路壁となる領域を露光により硬化させて前記流路壁を形成する工程と、
少なくとも前記流路壁の間に溶解可能な埋込部材を充填する工程と、
ネガ型感光性樹脂材料からなる第2の樹脂層を、前記流路壁及び前記埋込部材の上に、該第2の樹脂層の表面が平坦となるように塗布する工程と、
前記第2の樹脂層の前記第1の吐出口部材となる領域を露光により硬化させて前記第1の吐出口部材を形成する工程と、
ネガ型感光性樹脂材料からなる第3の樹脂層を、前記第1の吐出口部材とこれ以外の領域の上に、該第3の樹脂層の表面が平坦となるように塗布する工程と、
前記第3の樹脂層の前記第2の吐出口部材となる領域を露光により硬化させて前記第2の吐出口部材を形成する工程と、
前記埋込部材を溶解して除去する工程と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第2の吐出口部材が、前記第1の吐出口部材と同じ一定の厚さを有する平坦部材の上に形成されている液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記第1の吐出口部材を形成するときに、前記第2の樹脂層から露光により前記平坦部材を同時に形成することを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記平坦部材が、前記第2の吐出口部材の材料によって充填される溝をさらに有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記平坦部材を形成するときに、前記第2の樹脂層から露光により前記溝を形成すること含む、請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記第2の樹脂層を塗布する工程では、前記流路壁と前記埋込部材とを削って平坦にする工程をさらに含む、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記第2の樹脂層または前記第3の樹脂層を塗布する工程において、前記第2の樹脂層または前記第3の樹脂層の表面に撥水材を形成することを含む、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−143611(P2011−143611A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5863(P2010−5863)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】