説明

液体吐出ヘッド

【課題】液体吐出ヘッドにおいて、メンテナンス性を向上する。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータ2と、この圧電アクチュエータ2によって、その一部の側が区画される圧力室7と、この圧力室7に連通するノズル12を有するノズルプレート51と、圧電アクチュエータ2の背面に設けられたマグネット30と、を備え、マグネット30の磁力でノズルプレート51を圧電アクチュエータ2へ吸引・固着し、圧電アクチュエータ2の駆動によって圧力室7内に充填された液体に圧力を加えて、ノズル12から液滴を吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の媒体に向かって液体を吐出することによって、その媒体上に所定のパターンを形成する液体吐出ヘッドは、液体が充填される圧力室と、圧力室に連通するノズルと、圧力室内の液体に圧力を印加する圧電アクチュエータと、を少なくとも備えている。つまり、液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータを変形駆動させることによって圧力室内の液体に対し圧力を加え、それによってノズルから液体を吐出する。
【0003】
例えば特許文献1には、多数のノズルを列状に並べてノズル列を構成すると共に、そのノズル一つ一つに対応するように、多数の圧力室を列状に並べて配置した液体吐出ヘッドが開示されている。この液体吐出ヘッドの圧電アクチュエータは、板状の圧電体層とそれを挟持するように圧電体層に対し積層される2つの板状電極とを含む圧電素子部を複数含んで構成されている。具体的にこの圧電アクチュエータでは、ノズルピッチ(ノズルとノズルとの間隔)に対応するように各圧電素子部が薄板形状を有しており、その薄板形状の各圧電素子部における基端側の部分同士が、絶縁層をその間に挟んで互いに接合されている。このため、この圧電アクチュエータは、複数の圧電素子部が櫛歯状に並ぶブロック状に構成されている。そうして、その互いに間隔を空けて並設された各圧電素子部の先端が各圧力室に当接するように、ブロック状の圧電アクチュエータが圧力室を区画形成する部材に対し接合されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、積層圧電体として機能させる圧電素子部と、圧電体としては機能させない非圧電素子部とを、圧力室の列方向に交互に並べて配置した圧電アクチュエータを有する液体吐出ヘッドが開示されている。この圧電アクチュエータは、複数枚のグリーンシートを積層することによって構成された積層圧電体のブロックにおいて、積層方向に貫通するスリットを、その積層方向に直交する方向に所定の間隔を空けて複数、設けており、このスリットによって圧電素子部と非圧電体素子部とをそれぞれ区画するようにしている。そうして、その各圧電素子部が各圧力室に当接する一方、各非圧電素子部が圧力室と圧力室との間の区画壁に当接するように、そのブロック状の圧電アクチュエータが、圧力室を区画形成する部材に対し接合されている。
【特許文献1】特開平09−029965号公報
【特許文献2】特開2002−292864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうした液体吐出ヘッドにおいては、ノズルピッチを更に狭くして、パターン形成に係る解像度を更に高めたいとする要求が存在する。
【0006】
ところが、ノズルピッチを狭くすることに伴い、各ノズルが連通する各圧力室の幅(ノズル列方向の幅)も狭くなるため、各圧力室に接合される各圧電素子部の幅も狭くしなければならない。
【0007】
一方で、こうした液体吐出ヘッドにおいては、高粘度の液体を吐出可能にしたいという別の要求も存在する。そのためには、圧力室内の液体に印加する圧力を更に高める必要があり、各圧電素子部の変位量を大きくすることが必要となる。
【0008】
特許文献1に開示されている液体吐出ヘッドにおいて、前述した2つの要求を共に満たそうとすると、各圧電素子部の厚みを更に薄くしつつ、圧電素子部同士の間隔を狭くすると共に、その各圧電素子部の高さ(櫛歯状に突出する高さ)を高くしなければならない。しかしながらこうした構造の圧電アクチュエータは、各圧電素子部の剛性を確保することが困難であり、結果として前述した2つの要求を満たすことはできない。
【0009】
また、特許文献2に開示されている液体吐出ヘッドにおいて、前述した2つの要求を共に満たそうとしたときも同様に、圧電素子部同士の間隔を狭くする必要があるが、積層された圧電素子の面積が小さくなり、各圧電素子部の剛性を確保することが困難である。結果として前述した2つの要求を満たすことはできない。
【0010】
更に、特許文献1、特許文献2で開示された構成は、いずれも個々の圧力室に対応する圧電素子部の間に空間的な隙間が設けられている。この隙間によって、隣接する圧力室を独立して駆動する際の物理的なクロストーク(干渉)が防止されるが、ノズルピッチを小さくしようとするときに隙間そのものの存在、および隙間の加工精度の観点で工法上の問題も生じる。
【0011】
また、メンテナンス上、ノズルの交換を簡単にしたい。
【0012】
あるいは、ノズル穴径を変更し異なる液体を吐出させたいという要求も存在する。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、少なくとも1つの圧電素子部を含む圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッドにおいて、その圧電素子部の厚みを薄くしたりその高さを高くしたりしても十分な剛性を確保しつつ、その変位量を増大可能にするとともに、圧電アクチュエータ配置の高密度化、ひいては当該圧電アクチュエータを用いた液体吐出ヘッドの記録密度(印字解像度)を向上することにある。また、液体吐出ヘッドにおいて、メンテナンス性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータと、この圧電アクチュエータによって、その一部の側が区画される圧力室と、この圧力室に連通するノズルを有するノズルプレートと、前記圧電アクチュエータの背面(前記圧電アクチュエータにおける圧力室とは反対側の面)に設けられたマグネットと、を備え、前記マグネットの磁力で前記ノズルプレートを前記圧電アクチュエータへ吸引・固着し、前記圧電アクチュエータの駆動によって前記圧力室内に充填された液体に圧力を加えて、前記ノズルから液滴を吐出するものである。
【0015】
この構成によると、ノズルプレートの取り付けに接着剤を使う必要が無くなり製造作業性が向上する。
【0016】
また、本発明の液体吐出ヘッドは、前記圧電アクチュエータから前記ノズルプレートを取り外すための着脱機構を備えるものである。
【0017】
この構成によると、ノズルプレートの交換が可能となり、メンテナンス性の向上を図ることができるとともに、ノズルプレートの仕様を必要により変更することが可能となる。
【0018】
また、本発明の液体吐出ヘッドは、前記圧電アクチュエータは、圧電体シートと、この圧電体シートの表裏面の各面側に設けられた第1および第2の電極と、前記圧電体シートならびに前記第1および第2の電極をその両側から挟んで支持する高透磁率の固定部と、を備えるものである。
【0019】
この構成によると、圧電体シートは、固定部で支持されることになる。このため、圧電体シートの厚みを薄くしても、その圧電体シートを含んで構成される圧電素子部の剛性は確保される。アクチュエータとして機能しない固定部を安価な材料を採用することによって、低コスト化も図ることができる。
【0020】
また、本発明の液体吐出ヘッドは、前記圧電アクチュエータは、前記圧電体シート、ならびに前記第1および第2の電極を積層することによって構成された積層体を前記固定部を介して複数積層してブロック化してなるものである。
【0021】
この構成によると、圧電アクチュエータの配置密度を大きくすることができる。
【0022】
また、本発明の液体吐出ヘッドは、前記固定部は、フェライトからなるものである。
【0023】
このように固定部として圧電体シートと同じ材料を使用することによって、圧電体の焼結の際の歪を解消することができる。ノズルプレートとフェライトで形成された固定部を直接磁力で吸着することができるので、より固着力の高い構成を実現することができる。さらに仕様の異なるノズルプレートを容易に交換することができる。
【0024】
また、本発明の液体吐出ヘッドは、前記固定部は、鉄鋼板を絶縁材料でできた固定シートの間に挟み込んでなるものである。
【0025】
このように固定部として安価な材料を使用することによって、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によると、ノズルプレートを容易に取り外しが可能であるために、メンテナンス性の向上や、ノズル仕様を変更可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド(以下、ヘッドユニットと呼称する)の斜視図、図1(b)は、ヘッドユニットのノズル面を示す説明図、図1(c)は、ヘッドユニットを複数備えたラインヘッドの構成図である。
【0029】
本実施形態に係るヘッドユニット1は、そのノズル面11に配置された各ノズル12から、図示省略の媒体に対し、液体材料等を吐出する。複数のノズル12が穿孔されたノズルプレート51は、図1(b)に示すように、複数のノズル12がX方向(主走査方向)に所定の等間隔(300dpi)を空けて、ノズル列21を例えば4列形成している。各ノズル列21は、X方向に少しずつずれて配置され、Y方向から見れば千鳥配置となっている。本実施形態では、単独のノズル列21によるノズル密度はX方向に例えば300dpiであり、4列のノズル列21でのノズル密度は例えば1200dpiを満足するように配置されている。Y’方向、即ち各ノズル列のY方向(副走査方向)とのずれ角はθで図に示した。
【0030】
また、ヘッドユニット1は、複数個並べられて図1(c)に示すように、長尺のラインヘッド100を構成する。
【0031】
図2は、本実施形態に係るヘッドユニット1の断面図であり、図1(a)に示すII−II断面、即ち、ヘッドユニット1の中の1つであるノズル列21について断面を示す。
【0032】
ヘッドユニット1は、ノズル12を有するノズルプレート51と、圧電体を積層してなる圧電アクチュエータ2と、ノズルプレート51と圧電アクチュエータ2との間に形成された圧力室7とを備えている。
【0033】
圧電アクチュエータ2は積層構造を有し、圧電体シート3と固定部としての透磁率の高い絶縁材料でできた固定シート4とを交互に積層して焼き固められて構成されている。
【0034】
尚、固定シート4はフェライト(M2+O・Fe)としてもよい。また、圧力室7の反対側の電極取出し面2aに電極取出しフレキシブル基板19が接合されている。このフレキシブル基板19に重ねてマグネット30が設けられている。このマグネット30により生じる磁束は透磁率の高い固定シート4を通じてノズルプレート51を図2に示すZ方向に移動しないように吸引し固定している。尚、ノズルプレート51のX−Y面内の位置は、図外の位置決めピン等で位置規制されている。マグネット30にはヨーク31が接着されており、磁束を他に漏らさない効果を呈している。
【0035】
このマグネット30は着脱可能であり、図9にその構造と着脱方法について示す。図9(a)において、ノズルプレート51は固定シート4にマグネット30に磁力で吸引されており、通常の液滴と動作ではノズルプレート51が離間しない十分な吸引力を有している。図9(b)は、ヘッドユニット1のメンテナンス時ノズルプレート51を着脱するときの構成動作について示した図である。図9(a)において、圧電アクチュエータ2はその外周部に段状切り込み部32aを有しており、その部分にあわせて圧電体ホルダー32で支えられている。ヨーク31には、回動支点34aを有するレバー支持部34(着脱機構の一部)が設けられ、回動支点34aには着脱レバー33(着脱機構の一部)が回動自在に取り付けられている。ノズルプレート51を取り外す場合は、着脱レバー33を図中矢印方向に回動させ圧電体ホルダー32を介してマグネット30とフレキシブル基板19が離間する。これにより磁力がノズルプレート51に及ばなくなり、ノズルプレート51は容易に取り外すことができることになる。ノズルプレート51を取り付ける場合は、逆に図9(b)の状態でノズルプレート51をセットしその後マグネット30を吸着させればよい。
【0036】
本実施形態に係る圧電アクチュエータ2においては、圧電体シート3および固定シート4として、所定の厚みを有する、いわゆるグリーンシートを用いており、厚みはいずれも約42.0μmとしている。この厚みは、ヘッドユニット1の解像度の仕様(X方向におけるノズルピッチ、Y方向におけるノズルピッチ)によって適宜調整される。また、ノズルピッチと圧電特性の関係から圧電体シート3の厚みと固定シート4の厚みを異なる寸法にしてもよい。
【0037】
以下、具体的仕様について図5を用いて説明する。
【0038】
図5において、隣接するノズル列21のY方向の間隔をL2_sub、隣接するノズル列21を含めX方向のノズルピッチをL2_mainとする。
【0039】
ここで、
L2_sub=4mm
とし、
L2_main=25.4mm/1200dpi=21.2μm
とする(図1(b)参照)。
【0040】
この条件では、図5に定義するθは、
tanθ=(L2_main/L2_sub)=21.2/4000
を満たす。従って、
θ=0.3 (deg)
となる。
【0041】
ここで、1つのノズル列21に着目すると、ノズル12は300dpiの解像度で構成されており(図1(b)参照)、X方向におけるノズルピッチNPXは、
NPX=25.4mm/300dpi=84.7μm
となる。
【0042】
このとき、X方向と、圧電体シート3と固定シート4とが積層される方向(X’方向)との成す角度θ=0.3 (deg)であるから、X’方向のノズルピッチ(即ち、圧電体シート3+固定シート4の繰り返しピッチ)NPX’は、
NPX’=NPX×cosθ=84.7μm
となる。
【0043】
ここで、圧電体シート3と固定シート4の厚みを同じとすると、各シートの厚みは42.35μmとなる。
【0044】
圧電体シート3および固定シート4の厚みは、それぞれ異なる厚みとしてもよく、またグリーンシートの実用に供される厚みは、2〜100μmとされており、この範囲で適宜ヘッドユニット1の解像度仕様によって選択すればよい。
【0045】
尚、L2_subに該当する部分にはインク23の供給流路15または排出流路16が設けられる(図4、図6参照)。
【0046】
以下、図2に戻って説明を続ける。
【0047】
圧電体シート3に電界を加える第1の電極としての制御電極5および第2の電極としてのグランド電極6は、それぞれ圧電体シート3の表裏のシート面に対向して形成されている。制御電極5は制御電極取出し配線5a(取出し電極)として、圧力室7とは反対側の電極取出し面2a側まで延伸されて露出しており、図示しない圧電アクチュエータ駆動回路に接続されたフレキシブル基板19に接続されている。また、各グランド電極6は共通電極として図示しないスルーホール等で短絡されて電極取出し面2a側まで延伸されてフレキシブル基板19に接続されている。制御電極5、グランド電極6、制御電極取出し配線5aは例えばアルミニウムや白金でパターニングすることができる。
【0048】
このように、図2および図5に示す構成(即ち、ブロック化した圧電アクチュエータ18)を合わせると、本実施形態に係る圧電アクチュエータは、第1および第2の電極(制御電極5およびグランド電極6)に接続された取出し電極(制御電極取出し配線5a)を備え、圧電体シート3、第1および第2の電極、第1および第2の滑り層10、ならびに固定部(固定シート4,4)を積層した方向と垂直で、かつ第1および第2の電極が配置された側を駆動端面(駆動面3a)とし、取出し電極は、駆動端面と対向する面(電極取出し面2a)に露出させたものである、ということができる。
【0049】
圧電素子部として機能する変位動作部2bは、制御電極と5とグランド電極6とで挟持された範囲となる。そして、各圧力室7と1対1に対応する変位動作部2bの圧力室7側は、圧力室7に充填されたインク(液体)23(図6のみ図示)に圧力を印加する駆動面(駆動端面)3aとなる。
【0050】
ここで、変位動作部位(圧電素子部)2bのZ方向の長さは、共通電極であるグランド電極6の高さ方向に対する長さLによって規定され、この長さLによって、電圧印加時における変位動作部2bの変位量が設定される。本実施形態の構成では、長さLをZ方向に長く設定することが可能であり、これによって、各変位動作部2bの変位量を大きく設定することができる。
【0051】
このことは、本構成に従えば、圧電体として機能する実効的なストロークを大きくできることを意味し、特に粘度が高い液体を吐出する際に有利となる。即ち、圧電アクチュエータ2によって加えられた衝撃波(および共振による振動波)は、圧力室7内で高粘度の液体の有するダンパー効果によって減衰してしまうが、大きなストロークによって、この減衰を補償することができるからである。
【0052】
また、圧電体素子部の伸縮の応答性を考慮し、圧電体素子部のコンデンサー容量を必要以上に大きくしないように、制御電極5とグランド電極6とは必要最小限にとどめ、変位動作部2b以外の圧電体シート3の部分では、これらの電極がお互いに対向しないように配線パターンが設計されている。
【0053】
本実施形態では、更に、制御電極5と固定シート4との間およびグランド電極6と固定シート4との間には、固体潤滑材を膜状に形成した滑り層10,10がそれぞれ設けられている。
【0054】
滑り層10を構成する固体潤滑材としては、例えばモリブデン化合物である二硫化モリブデンを採用することができる。二硫化モリブデンは、図示は省略するが、層状結晶構造を有し、各層は、モリブデン層の両側を硫黄層によって挟持した構造となっている。ここで、各層におけるMo原子とS原子との結合は強固である一方で、層と層とを繋ぐS原子同士の結合は非常に弱いことから、そのS原子同士の結合層において層間滑りが容易に生じる。従って、制御電極5と固定シート4との間およびグランド電極6と固定シートとの間に層間境界面に対し平行な層状結晶構造となるように二硫化モリブデンからなる滑り層10,10をそれぞれ設けることによって、圧電体シート3と固定シート4との相対変位が良好に行われる。
【0055】
また、固体潤滑材として、グラファイトを採用することも可能である。グラファイトもまた、層状結晶構造を有し、各層においては、強い共有結合によって炭素間が繋がっているが、層と層との間は弱いファンデルワールス力によって結合している。このため、その層間で滑りが容易に発生する。従って、上述した二硫化モリブデンの場合と同様に、圧電体シート3と固定シート4との相対変位が良好に行われる。
【0056】
また、滑り層10として、圧電体を焼結する温度に耐えうる柔軟材を設けてもよい。この柔軟材は圧電体シート3のd31方向の変位規制は受けにくいように構成されている。
【0057】
上述した制御電極5、グランド電極6、滑り層10は、圧電体シート3あるいは固定シート4の表面に、例えば印刷法によって形成することができる。また、各機能を満たす材料のナノ粒子を所定の溶媒に分散させ、この分散液をインクジェット法によって塗付し、更にベイク工程を経てパターンニングしてもよい。
【0058】
尚、図2では説明の都合上、これらをデフォルメして厚く記載しているが、本実施形態では、制御電極5、グランド電極6、滑り層10の厚みは、それぞれ50nmに設定している。これらの厚みは20nm以上、100nm以下とすればよい。20nm未満とすると、形成された電極としての金属膜等に欠陥が生じやすく、また100nmを越えると、電極等が配置されている駆動面3a側と電極取出し面2aとのX方向の厚みの差異に起因して全体の歪が大きくなる。
【0059】
電極等の厚みが50nm程度であれば、柔軟性を備えるグリーンシートで構成される圧電体シート3、固定シート4を圧接した際に、これらの電極部分に当接するグリーンシートの部分が変形し、ほぼ所望の厚みに収めることができる。
【0060】
また、滑り層10としてグラファイトを用いた場合、グラファイトは導電性を有することから、滑り層10によって制御電極5ないしはグランド電極6を兼用することが可能である。この構成において、薄層化されたグラファイトの抵抗値がCR時定数の上で問題(即ち、圧電体としての応答性を阻害する要因)となる場合は、図2において滑り層10として示す範囲を(制御電極5の代替としての)グラファイトで形成し、その他の部分(即ち、制御電極取出し配線(取出し電極)5a)を金属でパターニングするとよい。
【0061】
また、図2において共通電極であるグランド電極6の高さ方向に対する長さLより若干深く固定シート4に柔軟層20が設けられている。この柔軟層20はスリットであってもよい。制御電極5とグランド電極6との間に圧電体シート3の分極方向に電界が作用したとき、長さLの範囲の圧電体シート3は圧電体のシート面方向に収縮するとともにシート面に垂直方向に僅かにナノメートルオーダーで膨張する。この膨張を阻害するとシート面方向の変位が減少する。よってこの柔軟層20は、シート面に垂直方向の変位を自由にするために設けられている。この柔軟層20はグリーンシートを製作するときに予めパターン化して塗布され、焼結工程で消滅あるいは柔軟材に変質する。
【0062】
さて、圧電体シート3の駆動面3aに対応して圧力室7が設置されている。圧力室7は、ノズルプレート51と圧力室区画部材9、駆動面3a(駆動端面)により区画構成され、各圧電体シート3の駆動端面で発生した圧力が隣接する圧力室7に影響しないようにしている。尚、圧力室区画部材9は、ノズルプレート51をエッチング等で加工して形成する。
【0063】
更に、本実施形態においては、圧力室7と圧電アクチュエータ2の駆動面3aの間には、コーティング層(被覆層)8を設けるようにした。コーティング層8は所定の粘弾性部材で構成されており、構造上、このコーティング層8によって圧力室7の上面が区画されている。尚、粘弾性部材は、圧力室7内に充填される液体に対する耐食性を考慮して、例えば耐溶剤性のあるゴムあるいは耐水性のあるパラキシリレン樹脂膜等によって形成するとよい。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る圧電アクチュエータ2を端的に表現すると、圧電体シート3と、この圧電体シート3の表裏面の各面側に設けられた電極(制御電極5およびグランド電極6)と、圧電体シート3ならびに第1および第2の電極をその両側から挟んで支持する固定部(固定シート4,4)と、を備え、この固定部と圧電体シート3との間には、固定部に対して圧電体シート3の変位を許容する滑り層10が設けられている圧電アクチュエータ、と表すことができる。そして、圧電体シート3および固定部は、滑り層10を介して互いの面方向に沿って相対スライドして相対変位する。
【0065】
以下、図3〜図6を用いて、本実施形態に係るヘッドユニット1の内部構造について詳細に説明する。
【0066】
図3は、本実施形態に係るヘッドユニット1の内部構造を示す要部斜視図である。図3では理解を容易にするため、圧電アクチュエータ2の複数の圧電体シート3のうち数枚の圧電体シート3と固定シート4について描いているが、実際は紙面右奥に向かって積層されている。
【0067】
図4は、本実施形態に係るヘッドユニット1の断面図である。図4(a)は、図1(b)に示すY’方向についての圧電アクチュエータ2の断面図を示しており、図4(b)は、図4(a)の一部を拡大した図である。
【0068】
図4(a)、(b)に示すように、変位動作部(圧電素子部)2bは圧力室7を介してノズル12に対向している(図4においては、図2を用いて説明したコーティング層8は省略されている。後に説明する図8も同じ)。図4において、15は供給流路、16は排出流路であり、それぞれ図1に示すX方向に、2つのノズル列21の間を、ノズル列21に沿って延伸され、各圧力室7に吐出すべきインク23を供給する。
【0069】
供給流路15、排出流路16は、いわゆるインク23の共通流路を構成しており、この共通流路は、予め圧電体シート3を各流路位置に対応して成形加工しておいてもよいし、最終的に積層、焼結された圧電体シート3を切削加工して形成してもよい。いずれにしても、本実施形態に係るヘッドユニット1においては、共通流路は積層された圧電体シート3を積層方向に貫通するように構成されている。
【0070】
供給流路15および排出流路16は、複数の溝状の絞り穴17aが設けられた絞りプレート17で区分されている。この絞りプレート17は各圧力室7への液体(インク)供給条件を均一にするためのものである。インク23は供給流路15から複数の絞り穴17aを通過して各供給口13に流入する。更に各圧力室7の排出口14から出た液体は排出口14から絞り穴17aを通して排出流路16へ至る。
【0071】
図5は、本実施形態に係るヘッドユニット1において、ノズルプレート51側から圧電アクチュエータ2を見た構成図である。尚、図5は理解を容易にするためにノズルプレート51等、一部の構成要素を透過して描いており、ノズル12および圧力室区画部材9は二点鎖線で示している。
【0072】
図6は、液体(インク)が循環するシステムを示した図である。インク23は液体タンク22から供給ポンプ24を経て供給流路15を通り、絞り穴17a(図4、図5参照)、供給口13(図4参照)を経て圧力室7(図3、図4等参照)に至り、更に圧力室7から排出口14(図4参照)、絞り穴17a、排出流路16、フィルター26、排出ポンプ25を経てもとの液体タンク22に戻る。
【0073】
このように本実施形態に係るヘッドユニット1は、インク23が常に循環している。こうした液体の循環システムは、圧力室7内の異物が存在する場合、循環経路の中に設けられたフィルター26によって異物除去が可能である。また、気泡が発生したときでも、液体の循環により圧力室7内から気泡を除去することが可能になるという利点があり液体の吐出安定性を向上することができる。
【0074】
圧電アクチュエータ2は、圧電体シート3、固定シート4、制御電極5、グランド電極6および滑り層10を積層・焼結して形成するグリーンシート法で製作される。また、分極処理は、焼結後制御電極5に所定の分極処理の電圧が加えられ、図2に示す矢印方向(分極方向)に分極される。
【0075】
このように、本実施形態に係るヘッドユニット1は、圧電体シート3、第1および第2の電極(制御電極5およびグランド電極6、図2参照)、ならびに第1および第2の滑り層10,10(図2参照)を積層することによって構成された積層体を固定部(固定シート4)を介して複数積層してブロック化してなる圧電アクチュエータを備えている。
【0076】
さて、図5に示すように圧電体シート3の積層方向は、図1(b)で示したX’―Y’座標のX’方向に一致する。即ちノズル列21の配列方向(X方向)に対して角度θだけ傾いた方向に積層されている(より正確には、圧電体シート3、固定シート4等を順次積層して形成した圧電アクチュエータブロック18を、角度θだけ傾けて配置する)。この角度θは、制御電極5とグランド電極6とで挟まれた変位動作部(圧電素子部)2bおよび各ノズル12はノズル密度のスペック値(例えば1200dpi)分ずれる角度に設定される。尚、供給流路15、排出流路16(図4、図6参照)の方向は、X方向に設定されている。
【0077】
本実施形態では、圧電アクチュエータブロック18のX’方向のノズル列数を4列で示したが、この列数はグリーンシートの一度に積層可能な積層数としてよい。更にノズル列21は4列で構成されているが、4列に限らず任意の数を設定してよい。
【0078】
このように構成することで、Y’方向における圧電体シート3の長さ(これによって、実質的にY’方向のノズル数が設定される)、および角度θを調整することで、理論的にはX方向における解像度の制約をなくすことが可能となる。
【0079】
ここで、各圧電アクチュエータブロック18のX’方向における両端側は、固定シート4aで構成され、この固定シート4a同士を接着して複数の圧電アクチュエータブロック18を連結する(即ち、一体の圧電アクチュエータとする)。このとき固定シート4aの厚みは隣接するノズルピッチに合うように他の固定シート4の1/2以下にしている。即ち、本実施形態においては、圧電アクチュエータブロック18において、最外側の固定部(固定シート4a)を、他の固定部(固定シート4)と比較して厚みを薄く構成している。これによって各圧電アクチュエータブロック18間の配置ピッチを調整することも可能である。
【0080】
図7は、本実施形態に係るヘッドユニット1において、圧電アクチュエータ2に印加される駆動電圧波形を示す説明図である。図8(a)は制御電極5に正電圧(+V)を印加した時の圧電アクチュエータ2の状態を示す説明図、図8(b)は制御電極5に負電圧(−V)を印加した時の圧電アクチュエータ2の状態を示す説明図、図8(c)は制御電極5にグランド電位を印加した時の圧電アクチュエータ2の状態を示す説明図である。
【0081】
以下、図7、図8を用いて、図示しない駆動回路から制御電極5に図7に示す駆動電圧波形が印加された時の圧電アクチュエータ2の挙動を説明する。
【0082】
図8(a)において、制御電極5に+Vの電圧を印加すると、圧電体シート3には制御電極5からグランド電極6の方向(即ち、分極方向)に電界がかかる。その結果、圧電体シート3は圧電定数d31方向に収縮する。即ち、本実施形態に係る圧電アクチュエータ2は、圧電定数d31方向に変位する駆動面3aを有する。これによって駆動面3aは上方に持ち上がり、結果的に圧力室7の体積が増大して、圧力室7内にインク23が充填される。
【0083】
次に図8(b)において、制御電極5に−Vの電圧を印加すると、圧電体シート3にはグランド電極6から制御電極5の方向(即ち、分極方向とは逆方向)に電界がかかる。その結果、圧電体シート3は圧電定数d31方向に伸長する。これによって駆動面3aは下方に押し下げられ、結果的に圧力室7の体積が減少して、圧力室7内のインク23に圧力が付与される。この図8(b)の状態で圧力室7内のインク23はノズル12から外部に吐出される。
【0084】
次に図8(c)において、制御電極5にグランド電位(GND)の電圧を印加すると、制御電極5とグランド電極6との間の電位差が消失し、駆動面3aは基準位置に戻り、この動作によって吐出中の液滴が切断され、所定量のインク23がノズル12から吐出することになる。
【0085】
以上のように本実施形態によれば、圧電体シート3は滑り層10を介してその両側から固定シート4,4で支持される構造となるので、圧電体シート3が薄くても十分な剛性を確保することができる。
【0086】
変位動作部(圧電素子部)2bを含む圧電体シート3に対して、固定層としての固定シート4が積層されると共に、その滑り層10と平行に第1の電極(制御電極5)および第2の電極(グランド電極6)を配置することによって、圧電体シート3の厚みを薄くして圧電素子部の厚みを薄くしたり、第1の電極および第2の電極の高さを高くして圧電素子部の高さを高くしたりしても、その圧電素子部の剛性を確保することができる。その結果、圧電素子部の十分な剛性を確保しつつ、その変位量を増大可能にすることができる。
【0087】
また、圧電体シート3と固定シート4との間に滑り層10等を介設することによって、圧電体シート3の変位時のエネルギ損失が低減し、圧電アクチュエータ2の変換効率を向上させることができる。
【0088】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について図10を用いて説明する。図10は、本実施形態に係るヘッドユニット1の図2相当図である。第1の実施形態では、圧電体シート3と固定部としての透磁率の高い絶縁材料(フェライト)でできた固定シート4とを交互に積層して焼き固められた構成としているが、第2の実施形態では、固定部を、鉄鋼板40を透磁率の高い絶縁材料でできた固定シート41,41の間に接着して挟み込んだ構成としている。このとき、固定シート41は透磁率の高い絶縁材料でなくてもよく、圧電材料でもよい。尚、図11のように、鉄鋼板40を飛び飛びに配置してもよい。鉄鋼板40の配置の密度は、マグネット30によるノズルプレート51の吸着特性に大きな影響がない範囲で小さくすることができる。
【0089】
以上のように本実施形態によれば、固定部として安価な材料を使用することによって、低コスト化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本発明は、圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッドに好適に利用することができ、更に、この液体吐出ヘッドを搭載した、例えばプリンタや配線プリント装置、ディスプレイ製造装置として応用可能な液体吐出装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係るヘッドユニットの斜視図、(b)は、第1の実施形態に係るヘッドユニットのノズル面を示す説明図、(c)は、第1の実施形態に係るヘッドユニットを複数備えたラインヘッドの構成図である。
【図2】第1の実施形態に係るヘッドユニットの断面図である。
【図3】第1の実施形態に係るヘッドユニットの内部構造を示す要部斜視図である。
【図4】第1の実施形態に係るヘッドユニットの断面図である。
【図5】第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、ノズルプレート側から圧電アクチュエータを見た構成図である。
【図6】第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、インクが循環するシステムを示した構成図である。
【図7】第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、圧電アクチュエータに印加される駆動電圧波形を示す説明図である。
【図8】(a)は、第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、制御電極に正電圧(+V)を印加した時の圧電アクチュエータの状態を示す説明図、(b)は、第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、制御電極に負電圧(−V)を印加した時の圧電アクチュエータの状態を示す説明図、(c)は、第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、制御電極にグランド電位を印加した時の圧電アクチュエータの状態を示す説明図である。
【図9】(a)、(b)は、第1の実施形態に係るヘッドユニットにおいて、ノズルプレートの着脱機構を示す説明図である。
【図10】第2の実施形態に係るヘッドユニットの図2相当図である。
【図11】第2の実施形態に係るヘッドユニットの変形例の図2相当図である。
【符号の説明】
【0092】
1 ヘッドユニット(液体吐出ヘッド)
2 圧電アクチュエータ
2a 電極取出し面
2b 変位動作部
3 圧電体シート
3a 駆動面
4 固定シート(固定部)
5 制御電極(第1の電極)
5a 制御電極取出し配線
6 グランド電極(第2の電極)
7 圧力室
8 コーティング層
9 圧力室区画部材
10 滑り層
11 ノズル面
12 ノズル
18 圧電アクチュエータブロック
19 フレキシブル基板
20 柔軟層
21 ノズル列
30 マグネット
31 ヨーク
32 圧電体ホルダー
33 着脱レバー(着脱機構)
34 レバー支持部(着脱機構)
34a 回動支点
40 鉄鋼板(固定部)
41 固定シート(固定部)
51 ノズルプレート
100 ラインヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータと、
この圧電アクチュエータによって、その一部の側が区画される圧力室と、
この圧力室に連通するノズルを有するノズルプレートと、
前記圧電アクチュエータの背面に設けられたマグネットと、を備え、
前記マグネットの磁力で前記ノズルプレートを前記圧電アクチュエータへ吸引・固着し、前記圧電アクチュエータの駆動によって前記圧力室内に充填された液体に圧力を加えて、前記ノズルから液滴を吐出する液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータから前記ノズルプレートを取り外すための着脱機構を備える液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータは、
圧電体シートと、
この圧電体シートの表裏面の各面側に設けられた第1および第2の電極と、
前記圧電体シートならびに前記第1および第2の電極をその両側から挟んで支持する高透磁率の固定部と、を備える液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータは、前記圧電体シート、ならびに前記第1および第2の電極を積層することによって構成された積層体を前記固定部を介して複数積層してブロック化してなる液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項3又は4記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記固定部は、フェライトからなる液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項3又は4記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記固定部は、鉄鋼板を絶縁材料でできた固定シートの間に挟み込んでなる液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−120218(P2010−120218A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294538(P2008−294538)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】