説明

液体吐出装置、及び、液体吐出方法

【課題】高粘度液体を効率よく吐出させる。
【解決手段】液体吐出装置は、ノズルと、液体を吐出させるために液体に圧力変化を与える圧力室と、圧力室に液体を供給する液体供給部と、圧力室内の液体に圧力変化を与えるための素子と、液体を吐出させるべく素子を動作させる吐出パルスを生成する吐出パルス生成部と、を備え、液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上であり、ノズルは、液体の吐出側が圧力室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有し、第2部分の開口面積が、液体供給部の圧力室側の開口の面積の1/9以下であり、吐出パルスは、第2部分に位置するメニスカスを第1部分まで引き込むために液体を減圧させる減圧部分と、第1部分まで引き込まれたメニスカスが第2部分に戻る前に、液体を吐出させるべく液体を加圧させる加圧部分と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び、液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタの技術を応用して、通常用いられる水系インクよりも高い粘度の液体(便宜上、高粘度液体ともいう。)を吐出させる試みがなされている。例えば、液体を吐出させるノズルを、インクの吐出側に向かって先細りとなるテーパー部分と、このテーパー部分における吐出側の先端から連続して設けられるストレート部分とから構成した装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−90223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テーパー部分とストレート部分とからなるノズルから高粘度液体を吐出させる場合、液体の吐出が不安定になることがあった。例えば、液体が吐出されなかったり、吐出量が不足したりすることがあった。吐出を不安定にする要因は種々考えられる。その一つには、圧力室内の液体に与えられた圧力変化が液体の吐出に効率よく使われていなかったことが挙げられる。
また、従来の形状のヘッドで粘度の高い液体を吐出させると、液体の吐出が不安定になるという問題が生じることが判った。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体を効率よく吐出させ、かつ、吐出を安定化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための主たる発明は、
液体が吐出されるノズルと、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する液体供給部と、
前記圧力室内の前記液体に前記圧力変化を与えるための動作をする素子と、
前記ノズルから前記液体を吐出させるべく前記素子を動作させる吐出パルスを生成する吐出パルス生成部と、
を備え、
前記液体の粘度は、
8ミリパスカル秒以上であり、
前記ノズルは、
前記液体の吐出側が圧力室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、
前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有し、
前記第2部分の前記開口面積が、
前記液体供給部の開口であって前記圧力室側の開口の面積の1/9以下であり、
前記吐出パルスは、
前記第2部分に位置するメニスカスを前記第1部分まで引き込むために前記液体を減圧させる減圧部分と、
前記第1部分まで引き込まれたメニスカスが前記第2部分に戻る前に、前記液体を吐出させるべく前記液体を加圧させる加圧部分と、を有する液体吐出装置である。
【0007】
本発明の他の特徴は、本明細書、及び添付図面の記載により、明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】印刷システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】ヘッドの断面図である。
【図3】ヘッドの構造を模式的に説明する図である。
【図4】駆動信号生成回路等の構成を説明するブロック図である。
【図5】駆動信号の一例を説明するための図である。
【図6】図6Aは、加圧部分を印加した際におけるメニスカスMの形状及び圧力分布を模式的に示す図である。図6Bは、加圧部分の印加後におけるメニスカスMの形状及び圧力分布を模式的に示す図である。図6Cはインク圧力と色の関係を説明する図である。
【図7】ノズルとインク供給路のインピーダンスの比に起因して吐出が不安定になる場合を説明するためのシミュレーションデータである。
【図8】図8Aは、ノズルの形状を説明する断面図である。図8Bは、ノズルをテーパー部分側から見た図である。
【図9】図9Aは、吐出パルスの印加開始タイミングにおける電圧を示す図である。図9Bは、図9Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図10】図10Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから2.80μs経過後における電圧を示す図である。図10Bは、図10Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図11】図11Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから3.80μs経過後における電圧を示す図である。図11Bは、図11Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図12】図12Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから4.20μs経過後における電圧を示す図である。図12Bは、図12Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図13】図13Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから5.60μs経過後における電圧を示す図である。図13Bは、図13Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図14】図14Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから6.00μs経過後における電圧を示す図である。図14Bは、図14Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図15】図15Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから8.00μs経過後における電圧を示す図である。図15Bは、図15Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図16】図16Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから9.40μs経過後における電圧を示す図である。図16Bは、図16Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図17】図17Aは、吐出パルスの印加開始タイミングから11.40μs経過後における電圧を示す図である。図17Bは、図17Aのタイミングにおけるメニスカスの状態及び圧力の分布を模式的に示す図である。
【図18】テーパー角度に関する評価結果の一覧を示す図である。
【図19】ノズルとインク供給路のインピーダンスの比に起因して吐出が安定化する場合を説明するためのシミュレーションデータである。
【図20】図20Aはノズルの第1変形例を説明する図である。図20Bはノズルの第2変形例を説明する図である。図20Cはノズルの第3変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0010】
すなわち、液体が吐出されるノズルと、前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する液体供給部と、前記圧力室内の前記液体に前記圧力変化を与えるための動作をする素子と、前記ノズルから前記液体を吐出させるべく前記素子を動作させる吐出パルスを生成する吐出パルス生成部と、を備え、前記液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上であり、前記ノズルは、前記液体の吐出側が圧力室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有し、前記第2部分の吐出側端部の前記開口面積が、前記液体供給部の開口であって前記圧力室側の開口の面積の1/9以下であり、前記吐出パルスは、前記第2部分に位置するメニスカスを前記第1部分まで引き込むために前記液体を減圧させる減圧部分と、前記第1部分まで引き込まれたメニスカスが前記第2部分に戻る前に、前記液体を吐出させるべく前記液体を加圧させる加圧部分と、を有する液体吐出装置を実現できることが明らかにされる。
【0011】
このような液体吐出装置によれば、ノズルから吐出される液体の量と圧力室へ供給される液体の量が、ノズルの開口の大きさと供給部の開口の大きさとによって最適化されている。このため、圧力室への液体の供給不足が改善され、液体の吐出が安定化される。
【0012】
さらに、加圧部分によって素子を動作させると、第1部分における第2部分側にて圧力が局所的に高くなる。これにより、液体に与えられた圧力を液体の吐出に効率よく使用でき、ひいては高粘度液体を効率よく吐出できる。
【0013】
かかる液体吐出装置であって、前記第2部分の吐出側端部の前記開口面積は、前記圧力室側の開口の面積の1/20以上であることが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、圧力室でインクを加圧した際にノズル側でもインクの流れを生じさせることができ、安定してインク滴を確実に吐出させることができる。
【0014】
かかる液体吐出装置であって、前記吐出パルスは、前記減圧部分の生成終了後から前記加圧部分の印加開始までの期間に亘って、前記減圧部分の生成終了タイミングにおける前記素子の状態を維持する維持部分を有することが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、維持部分の生成時間を定めることで加圧部分による加圧開始タイミングを定めることができる。このため、タイミングの最適化を容易に行える。
【0015】
かかる液体吐出装置であって、前記ノズルのインピーダンスは、前記液体供給部のインピーダンスよりも小さいことが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、圧力室内の液体に生じた圧力振動をノズル側に効率よく伝えることができるので、高粘度液体を効率よく吐出できる。
【0016】
かかる液体吐出装置であって、前記ノズルの第1部分は、テーパー角度が40度以上の円錐台状の空間を区画することが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、液体滴の尾の部分が過度に長くなることを抑制できる。なお、40度とあるのは、厳密な角度を示すものではなく、多少のばらつきが許容される。
【0017】
かかる液体吐出装置であって、前記ノズルの第1部分は、前記液体の粘度に応じた範囲のテーパー角度に定められていることが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、液体滴の尾の部分が過度に長くなることを一層抑制できる。
【0018】
かかる液体吐出装置であって、前記ノズルの第2部分は、断面積をノズル方向と直交する面でほぼ変えない形状であることが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、吐出された液体滴の飛行方向を安定させることができる。
【0019】
かかる液体吐出装置であって、前記ノズルの第2部分は、吐出方向の長さが開口部の内径よりも短いことが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、圧力室内の液体に生じた圧力振動をノズル側に効率よく伝えることができる。
【0020】
かかる液体吐出装置であって、前記ノズルの第2部分は、前記第1部分よりもテーパー角度が小さい他の円錐台状の空間を区画することが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、液体滴の飛行速度を高めることができる。
【0021】
かかる液体吐出装置であって、前記素子は、印加された吐出パルスの電位に応じて変形することで前記圧力室の容積を変化させ、前記液体に圧力変化を与えるピエゾ素子であることが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、前記液体に与える圧力をきめ細かに制御できる。
【0022】
かかる液体吐出装置であって、前記吐出パルスは、前記減圧部分による単位時間あたりの圧力室の容積変化度合いよりも、前記加圧部分による単位時間あたりの圧力室の容積変化度合いの方が大きく定められ、かつ、前記加圧部分よりも後に、液体の吐出後における前記メニスカスの移動を抑制するための部分を有さないことが好ましい。
このような液体吐出装置によれば、第1部分の液体により強い圧力を与えることができる。また、液体滴の高周波吐出にも適する。
【0023】
また、液体が吐出されるノズルと、前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する液体供給部と、前記圧力室内の前記液体に圧力変化を与えるための動作をする素子と、を備え、前記ノズルは、前記液体の吐出側が圧力室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有し、前記第2部分の吐出側端部の前記開口面積が、前記液体供給部の開口であって前記圧力室側の開口の面積の1/9以下である液体吐出装置を用い、粘度が8ミリパスカル秒以上の前記液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出方法であって、前記第2部分に位置するメニスカスを前記第1部分まで引き込むために前記液体を減圧させることと、前記第1部分まで引き込まれたメニスカスが前記第2部分に戻る前に、前記液体を吐出させるべく前記液体を加圧させることと、を行う液体吐出方法を実現できることも明らかにされる。
【0024】
===第1実施形態===
<印刷システムについて>
図1に例示した印刷システムは、プリンタ1と、コンピュータCPとを有する。プリンタ1は液体吐出装置に相当し、用紙、布、フィルム等の媒体に向けて、液体の一種であるインクを吐出する。媒体は、液体が吐出される対象となる対象物である。コンピュータCPは、プリンタ1と通信可能に接続されている。プリンタ1に画像を印刷させるため、コンピュータCPは、その画像に応じた印刷データをプリンタ1に送信する。
【0025】
===プリンタ1の概要===
プリンタ1は、用紙搬送機構10、キャリッジ移動機構20、駆動信号生成回路30、ヘッドユニット40、検出器群50、及び、プリンタ側コントローラ60を有する。
【0026】
用紙搬送機構10は、用紙を搬送方向に搬送させる。キャリッジ移動機構20は、ヘッドユニット40が取り付けられたキャリッジを所定の移動方向(例えば紙幅方向)に移動させる。駆動信号生成回路30は、駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、用紙への印刷時にヘッドHD(ピエゾ素子433,図2を参照)へ印加されるものであり、図5に一例を示すように、吐出パルスPSを含んでいる。ここで、吐出パルスPSとは、ヘッドHD(ノズル427)から滴状のインクを吐出させるために、ピエゾ素子433に所定の動作を行わせる電位の変化パターンである。駆動信号COMが吐出パルスPSを含むことから、駆動信号生成回路30は、吐出パルス生成部に相当する。なお、駆動信号生成回路30の構成や吐出パルスPSについては、後で説明する。ヘッドユニット40は、ヘッドHDとヘッド制御部HCとを有する。ヘッドHDは、液体状のインクを用紙に向けて吐出させるものであり、液体吐出ヘッドに相当する。ヘッド制御部HCは、プリンタ側コントローラ60からのヘッド制御信号に基づき、ヘッドHDを制御する。なお、ヘッドHDについては後で説明する。検出器群50は、プリンタ1の状況を監視する複数の検出器によって構成される。これらの検出器による検出結果は、プリンタ側コントローラ60に出力される。プリンタ側コントローラ60は、プリンタ1における全体的な制御を行う。このプリンタ側コントローラ60についても後で説明する。
【0027】
===プリンタ1の要部===
<ヘッドHDについて>
図2に示すように、ヘッドHDは、ケース41と、流路ユニット42と、ピエゾ素子ユニット43とを有する。ケース41には、ピエゾ素子ユニット43を収容して固定するための収容空部411が内部に設けられている。このケース41は、例えば樹脂材によって作製される。そして、ケース41の先端面には、流路ユニット42が接合されている。
【0028】
流路ユニット42は、流路形成基板421と、ノズルプレート422と、振動板423とを有する。そして、流路形成基板421における一方の表面にはノズルプレート422が接合され、他方の表面には振動板423が接合されている。流路形成基板421には、圧力室424、インク供給路425、及び、共通インク室426などが設けられる。この流路形成基板421は、例えばシリコン基板によって作製される。圧力室424は、ノズル427の並び方向に対して直交する方向に細長い空間として形成されている。インク供給路425は、圧力室424と共通インク室426との間を連通する狭い流路の部分である。このインク供給路425は、圧力室424へ液体を供給するための液体供給部に相当する。共通インク室426は、インクカートリッジ(図示せず)から供給されたインクを一旦貯留する部分であり、共通の液体貯留室に相当する。
【0029】
ノズルプレート422には、複数のノズル427が所定の並び方向に所定の間隔で設けられている。このノズルプレート422は、例えばステンレス板やシリコン基板によって作製されている。なお、ノズルプレート422に設けられるノズル427については、後で詳しく説明する。
【0030】
振動板423は、例えばステンレス製の支持板428に樹脂製の弾性体膜429を積層した二重構造を採っている。振動板423における各圧力室424に対応する部分は、ステンレス板の部分が環状にエッチング加工されている。そして、環内には島部428aが形成されている。この島部428aと島部428aの周辺の弾性体膜429aとがダイヤフラム部423aを構成する。このダイヤフラム部423aは、ピエゾ素子ユニット43が有するピエゾ素子433によって変形し、圧力室424の容積を可変する。
【0031】
ピエゾ素子ユニット43は、ピエゾ素子群431と、固定板432とを有する。ピエゾ素子群431は櫛歯状をしている。そして、櫛歯の1つ1つがピエゾ素子433である。各ピエゾ素子433の先端面は、対応する島部428aに接着される。固定板432は、ピエゾ素子群431を支持するとともに、ケース41に対する取り付け部となる。この固定板432は、例えばステンレス板によって構成されており、収容空部411の内壁に接着される。
【0032】
ピエゾ素子433は、電気機械変換素子の一種であり、圧力室424内の液体に圧力変化を与えるための動作(変形動作)をする素子に相当する。図2に示すピエゾ素子433は、隣り合う電極同士の間に電位差を与えることにより、積層方向と直交する素子長手方向に伸縮する。即ち、上記の電極は、所定電位の共通電極434と、駆動信号COM(吐出パルスPS)に応じた電位になる駆動電極435とを有する。そして、両電極434,435に挟まれた圧電体436は、共通電極434と駆動電極435との電位差に応じた度合いで変形する。ピエゾ素子433は、圧電体436の変形に伴って素子の長手方向に伸縮する。共通電極434は、グランド電位、若しくは、グランド電位よりも所定電位だけ高いバイアス電位に定められる。そして、ピエゾ素子433は、駆動電極435の電位が共通電極434の電位よりも高くなるほど収縮する。反対に、駆動電極435の電位が共通電極434の電位に近付くほど、或いは、共通電極434の電位よりも低くなるほど伸張する。
【0033】
前述したように、ピエゾ素子ユニット43は、固定板432を介してケース41に取り付けられている。このため、ピエゾ素子433が収縮すると、ダイヤフラム部423aは、圧力室424から遠ざかる方向に引っ張られる。これにより、圧力室424が膨張される。反対に、ピエゾ素子433が伸長すると、ダイヤフラム部423aが圧力室424側に押される。これにより、圧力室424が収縮する。圧力室424内のインクには、圧力室424の膨張や収縮に起因して圧力変化が生じる。すなわち、圧力室424の収縮に伴って圧力室424内のインクは加圧され、圧力室424の膨張に伴って圧力室424内のインクは減圧される。ピエゾ素子433の伸縮状態は駆動電極435の電位に応じて定まるので、圧力室424の容積も駆動電極435の電位に応じて定まる。従って、圧力室424内のインクに対する加圧度合いや減圧度合いは、駆動電極435における単位時間あたりの電位変化量で定めることができる。
【0034】
<インク流路について>
ヘッドHDには、共通インク室426からノズル427に至る一連のインク流路(液体で満たされる液体流路に相当する)が、ノズル427の数に応じて複数設けられている。このインク流路では、圧力室424に対して、ノズル427及びインク供給路425がそれぞれ連通している。このため、インクの流れなどの特性を解析する場合、ヘルムホルツの共鳴器の考え方が適用される。図3は、この考え方に基づくヘッドHDの構造を模式的に説明する図である。
【0035】
一般的なヘッドHDにおいて、圧力室424の長さL424は200μmから2000μmの範囲内に定められる。圧力室424の幅W424は20μmから300μmの範囲内に定められ、圧力室424の高さH424は30μmから500μmの範囲内に定められる。そして、インク供給路425の長さL425は50μmから2000μmの範囲内に定められる。インク供給路425の幅W425は20μmから300μmの範囲内に定められ、インク供給路425の高さH425は30μmから500μmの範囲内に定められる。また、ノズル427の直径φ427は10μmから35μmの範囲内に定められ、ノズル427の長さL427は40μmから100μmの範囲内に定められる。
【0036】
本実施形態のヘッドHDでは、ノズル427の吐出側端部の開口面積Snzlを、インク供給路425の開口面積Ssupに基づいて定めており、図3に示すように、ノズル427の吐出側の開口面積Snzlが、インク供給路425の圧力室424側の開口面積Ssupの1/9以下になるように構成している。
【0037】
なお、インク供給路425に関し、幅W425や高さH425は、圧力室424の幅W424や高さH424以下に定められる。また、インク供給路425の幅W425や高さH425の一方を、圧力室424の幅W424や高さH424の一方に揃えた場合、インク供給路425の幅W425や高さH425の他方は、圧力室424の幅W424や高さH424の他方よりも小さいサイズに定められる。
【0038】
このようなインク流路では、圧力室424内のインクに圧力変化を与えることで、ノズル427からインクを吐出させる。このとき、圧力室424、インク供給路425、及び、ノズル427は、ヘルムホルツの共鳴器のように機能する。このため、圧力室424内のインクに加わる圧力の大きさは、ヘルムホルツ周期と呼ばれる固有の周期で変化する。すなわち、インクには圧力振動が生じる。ヘルムホルツ周期は、圧力室424におけるインク(液体)の固有振動周期とも呼ばれる。このヘルムホルツ周期の圧力振動により、メニスカス(ノズル427で露出しているインクの自由表面)がノズル427内で周期的に移動する。そして、このヘルムホルツ周期の圧力変化を利用することで、インクをノズル427から効率よく吐出させることができる。
【0039】
一般的なヘッドHDにおいて、ヘルムホルツ周期は5μsから10μsの範囲内に定められる。例えば、図3のインク流路において、圧力室424の幅W424を100μm、高さH424を70μm、長さL424を1000μmとし、インク供給路425の幅W425を55μm、高さH425を80μm、長さL425を600μmとし、ノズル427の直径φ427を24μm、長さL427を100μmとした場合、ヘルムホルツ周期は8μs程度になる。なお、このヘルムホルツ周期は、隣り合う圧力室424同士を区画する隔壁の厚さ、弾性体膜429の厚さやコンプライアンス、流路形成基板421やノズルプレート422の素材によっても変化する。
【0040】
<プリンタ側コントローラ60について>
プリンタ側コントローラ60は、プリンタ1における全体的な制御を行う。例えば、コンピュータCPから受け取った印刷データや各検出器からの検出結果に基づいて制御対象部を制御し、用紙に画像を印刷させる。図1に示すように、プリンタ側コントローラ60は、インタフェース部61と、CPU62と、メモリ63とを有する。インタフェース部61は、コンピュータCPとの間でデータの受け渡しを行う。CPU62は、プリンタ1の全体的な制御を行う。メモリ63は、コンピュータプログラムを格納する領域や作業領域等を確保する。CPU62は、メモリ63に記憶されているコンピュータプログラムに従い、各制御対象部を制御する。例えば、CPU62は、用紙搬送機構10やキャリッジ移動機構20を制御する。また、CPU62は、ヘッドHDの動作を制御するためのヘッド制御信号をヘッド制御部HCに送信したり、駆動信号COMを生成させるための制御信号を駆動信号生成回路30に送信したりする。
【0041】
ここで、駆動信号COMを生成させるための制御信号はDACデータとも呼ばれ、例えば複数ビットのデジタルデータである。このDACデータは、生成される駆動信号COMの電位の変化パターンを定める。従って、このDACデータは、駆動信号COMや吐出パルスPSの電位を示すデータともいえる。このDACデータは、メモリ63の所定領域に記憶されており、駆動信号COMの生成時に読み出されて駆動信号生成回路30へ出力される。
【0042】
<駆動信号生成回路30について>
駆動信号生成回路30は、吐出パルス生成部として機能し、DACデータに基づき、吐出パルスPSを有する駆動信号COMを生成する。図4に示すように、駆動信号生成回路30は、DAC回路31と、電圧増幅回路32と、電流増幅回路33とを有する。DAC回路31は、デジタルのDACデータをアナログ信号に変換する。電圧増幅回路32は、DAC回路31で変換されたアナログ信号の電圧を、ピエゾ素子433を駆動できるレベルまで増幅する。このプリンタ1では、DAC回路31から出力されるアナログ信号は最大3.3Vであるのに対し、電圧増幅回路32から出力される増幅後のアナログ信号(便宜上、波形信号ともいう。)は最大42Vである。電流増幅回路33は、電圧増幅回路32からの波形信号について電流の増幅をし、駆動信号COMとして出力する。この電流増幅回路33は、例えば、プッシュプル接続されたトランジスタ対によって構成される。
【0043】
<ヘッド制御部HCについて>
ヘッド制御部HCは、駆動信号生成回路30で生成された駆動信号COMの必要部分をヘッド制御信号に基づいて選択し、ピエゾ素子433へ印加する。このため、図4に示すように、ヘッド制御部HCは、駆動信号COMの供給線の途中に、ピエゾ素子433毎に設けられた複数のスイッチ44を有する。そして、ヘッド制御部HCは、ヘッド制御信号からスイッチ制御信号を生成する。このスイッチ制御信号によって各スイッチ44を制御することで、駆動信号COMの必要部分(例えば吐出パルスPS)がピエゾ素子433へ印加される。
【0044】
<駆動信号COMについて>
次に、駆動信号生成回路30によって生成される駆動信号COMについて説明する。図5は、駆動信号COMを説明する図であり、縦軸は駆動信号COMの電圧を示し、横軸は時間を示す。なお、この実施形態では、駆動信号生成回路30がグランド電位を基準とする電圧の駆動信号COMを生成し、ピエゾ素子433の共通電極434がグランド電位に定められている。このため、駆動信号COMの電圧は、駆動信号COMで定められる駆動電極435の電位を示す。
【0045】
この図に示すように、駆動信号COMには吐出パルスPSが含まれている。この駆動信号COMは駆動電極435に印加される。これにより、固定電位とされた共通電極434との間に、吐出パルスPSの波形(電位の変化パターンに相当する。)に応じた電位差が生じる。その結果、ピエゾ素子433は波形に応じて伸縮し、圧力室424の容積を変化させる。
【0046】
この吐出パルスPSは所謂台形波によって構成されている。このような台形波の吐出パルスPSをピエゾ素子433(詳しくは駆動電極435)に印加すると、最低電位に対応する最小容積から、最高電位に対応する最大容積まで膨張する。その後、再び最小容積まで収縮する。そして、最大容積から最小容積に収縮する際に、圧力室424内のインクが加圧され、ノズル427から滴状のインク(インク滴)が吐出される。
【0047】
図5に例示した吐出パルスPSでは、最低電圧から最高電圧まで変化する部分が圧力室424内のインクを減圧させる減圧部分P1に相当し、最高電圧から最低電圧まで変化する部分が、インクを吐出させるためにインクを加圧させる加圧部分P3に相当する。また、最高電圧で一定の部分が、減圧部分P1の印加終了タイミングにおけるピエゾ素子433の状態を維持する維持部分P2に相当する。従って、この吐出パルスPSでは、インク滴の吐出後においてメニスカスの過度な往復移動を抑制するための部分(制振部分ともいう)を有していない。その理由は、このプリンタ1で使用する高粘度インク(高粘度液体の一種)では、インクの粘性抵抗等によってインク滴の吐出後におけるメニスカスの移動が、一般的に普及している水系インクよりも早期に収束するという知見に基づく。そして、制振部分を有さないことから、吐出パルスPSの生成に必要な期間をその分短くでき、インク滴を高い周波数で吐出させることができる。
【0048】
この吐出パルスPSにおいて、減圧部分P1の生成期間T1は2.8μs、最低電圧は0V、最高電圧が23Vである。また、維持部分P2の生成期間T2は2.8μsであり、加圧部分P3の生成期間T3は2.4μsである。駆動信号生成回路30は、吐出パルスPSに続いて最低電圧で一定の部分P4を生成する。この部分P4は、次の吐出パルスPSの生成開始までの期間T4に亘って生成され、接続部分に相当する。駆動信号生成回路30は、吐出パルスPSを含んだ駆動信号COMを繰り返し周期T毎に繰り返し生成する。
【0049】
吐出パルスPSが有する各部分P1〜P3の生成期間、最低電圧、最高電圧は、吐出対象となるインク(液体)の種類、必要とされるインク滴の飛行速度、インク滴における尾の部分の長さ等によって適宜調整される。そして、減圧部分P1と加圧部分P3とに関し、減圧部分P1によってもたらされる単位時間あたりの圧力室424の容積変化度合いよりも、加圧部分P3によってもたらされる単位時間あたりの圧力室424の容積変化度合いの方が大きいことが好ましい。これは、減圧部分P1が圧力室424内にインクを充填する作用を有し、加圧部分P3がノズル427からインク滴を吐出させる作用を有することによる。このように定めることで、圧力室424内にインクを十分充填した状態で、このインクを加圧できる。その結果、インク滴を吐出させるに際して、ノズル427付近のインクにより強い圧力を与えることができるようになる。
【0050】
<参考例について>
この種のプリンタにおけるノズルには、テーパー部分(円錐台状の空間を区画する部分)とストレート部分(円柱状の空間を区画する部分)とを有するものが提案されている。しかしながら、このような形状のノズルを用いてもインク滴の吐出が不安定になることがあった。その要因の一つに、圧力室内の液体に与えられた圧力変化が液体の吐出に効率よく使われていなかったことが挙げられる。例えば、ストレート部分の範囲内でメニスカスを移動させてインク滴を吐出させた場合、ストレート部分における内壁からの粘性力がストレート部分の中心部分に存在する液体の慣性力に勝るため、インク滴の吐出を妨げたり、吐出量を不足させたりすると考えられる。
【0051】
図6A〜図6Cは、加圧タイミングに起因して吐出が不安定になる場合を説明する図である。図6Aは、加圧部分を印加した際におけるメニスカスMの形状及び圧力分布を模式的に示す図である。図6Bは、加圧部分の印加後におけるメニスカスMの形状及び圧力分布を模式的に示す図である。図6Cはインク圧力と色の関係を説明する図である。
【0052】
図6Aでは、吐出パルスが有する減圧部分及び維持部分をピエゾ素子に印加することで、メニスカスMをストレート部分を越えないように引き込んだ後、加圧部分を印加した状態を示している。この図において、青や赤等の色は液体の圧力を示している。すなわち、図6Cに示すように、この図では圧力の低い側を青系の色で示し、高い側を赤系の色で示している。具体的には、圧力の低い側から順に、青、水、緑、黄緑、黄、橙、赤を用いて7段階で示している。そして、各圧力の境界に等圧線を引くことで圧力の分布を表している。
【0053】
なお、各色は絶対的な圧力の大きさを示すものではなく、相対的な圧力の差を示している。すなわち、その時点における圧力の最も低い領域を青で示し、青の領域を基準に色分けをしている。このような色に基づく圧力の表現は、他の図(図9B、図10B、…、図17B)において同じである。
【0054】
図6Aでは、最も圧力の高い赤の領域がメニスカスMにおける底の部分に存在している。赤の領域は、メニスカスMにおける底の部分から圧力室側(図において下方)向かって半楕円形状に分布している。赤の領域の周辺には2番目に圧力の高い橙の領域が弓状に分布している。また、橙の領域の周辺には3番目に圧力の高い黄の領域が略Y字状に分布している。そして、黄の領域の側方には黄緑の領域や緑の領域が分布し、緑の領域の側方には水の領域や青の領域が分布している。この図から、圧力の高い赤、橙、黄の領域に関し、圧力室側に延びた状態で分布していることが判る。このように、圧力の高い部分が延びた状態で分布した結果、図6Bに示すように、インク柱の先端部分における圧力が不足し、インク滴が吐出されなかったり、吐出量の不足が生じたりすると考えられる。
【0055】
図7は、ノズルとインク供給路のインピーダンスの比に起因して吐出が不安定になる場合を説明するためのシミュレーションデータである。図7において、縦軸はメニスカスMの状態をインクの量で示しており、横軸は時間である。縦軸に関し、0ngは、定常状態におけるメニスカスMの位置を示す。そして、正側に値が大きくなるほどメニスカスMが吐出方向に押し出された状態を示し、負側に値が大きくなるほどメニスカスMが圧力室側に引き込まれた状態を示す。
【0056】
図7のシミュレーションデータにおいて、ノズルのインピーダンスはインク供給路のインピーダンスよりも大きく定められている。具体的には、ノズルにおけるストレート部分の直径が28μm、ストレート部分の長さが20μm、ノズルの長さが60μm、テーパー角度が25度にそれぞれ定められ、インク供給路の幅が100μm、高さが100μm、長さが500μmにそれぞれ定められている。これにより、粘度30mPa・sのインクにおいて、ノズルのインピーダンスが1.59×1014Ωとなり、インク供給路のインピーダンスが1.27×1014Ωとなる。なお、各インピーダンスは、例えばコンプライアンス、抵抗、イナータンスの各要素を、電気回路の値と対応させて計算することで求められる。
【0057】
このように、ノズルのインピーダンスがインク供給路のインピーダンスよりも大きい場合、圧力室内のインクに与えた圧力変化がインクの吐出に有効に使われないという問題が生じる。すなわち、圧力室内のインクに与えた圧力変化の多くがインク供給路を通じて共通インク室側に伝播する。これにより、インクの圧力変化に対するメニスカスMの移動度合いが小さくなり、インク滴が吐出されなかったり、吐出量の不足が生じたりする。また、インク滴が吐出された後において、メニスカスMが定常状態に戻るまでに時間を要してしまう。これは、ノズルのインピーダンスが大きい場合、ノズル面の粘性力が過度に大きくなるためと考えられる。また、メニスカスMが圧力室側に引き込まれた状態であっても、圧力室内のインク圧力と共通インク室内のインク圧力との差が小さくなり、共通インク室側から圧力室側へのインク流れが弱いためとも考えられる。言い換えれば、メニスカスMの表面張力が支配的になっているからとも考えられる。
【0058】
<このプリンタ1の特徴について>
このような事情に鑑み、このプリンタ1では、インク滴の吐出特性を改善するため、次の構成を採った。まず、ノズル427に関し、インクの吐出側が圧力室424側よりも小さい開口面積に定められるテーパー部分427aと、このテーパー部分427aの吐出側端部に連通するストレート部分427bとを有する構成とした(図8A等を参照)。また、吐出パルスPSに関し、圧力室424内のインクを減圧させる減圧部分P1によって、ストレート部分427bに位置するメニスカスMをテーパー部分427aまで引き込むようにし、インクを吐出させる目的でインクを加圧させる加圧部分P3の印加開始タイミングを、テーパー部分427aまで引き込まれたメニスカスMがストレート部分427bに戻る前に定めた。この構成によれば、加圧部分P3をピエゾ素子433に印加して圧力室424内のインクを加圧した際に、テーパー部分427aにおけるストレート部分427b側のインク圧力を局所的に高くできる。言い換えれば、インクにおける圧力の高い部分をメニスカスMの近傍に集中させることができる。このため、インクに与えられた圧力変化をインク滴の吐出に効率よく使用することができる。その結果、高粘度のインクであっても吐出を効率的に行うことができる。加えて、ストレート部分427bを設けていることから、インク滴の飛行方向を許容範囲内に収めることができる。すなわち、飛行方向を安定させることができる。さらに、減圧部分P1と加圧部分P3の間に維持部分P2を生成しているため、この維持部分P2の生成期間を定めることで、加圧部分P3によるインクの加圧タイミングを容易に定めることができる。
【0059】
また、このプリンタ1では、ヘッドHDにおいて次の構成を採っている。すなわち、ノズル427とインク供給路425に関し、ノズル427のインピーダンスZ427をインク供給路425(液体供給部)のインピーダンスZ425よりも小さくした。この構成によれば、ダイヤフラム部423aをピエゾ素子433で変形させて圧力室424内のインクに圧力変化を与えた場合において、この圧力変化のうちのメニスカスMの移動に寄与する比率を従来よりも増やすことができる。これにより、ノズル427のテーパー部分427aにおけるストレート部分427b側に、圧力の高い部分を集中させ易くできる。従って、インクに与えられた圧力変化をインク滴の吐出に効率よく使用することができる。その結果、高粘度のインクであっても吐出を効率的に行うことができる。
【0060】
<ノズル427の形状等について>
以下、これらの特徴について詳細に説明する。まず、ノズル427の形状及びインク供給路425の形状について説明する。図8A及び図8Bに示すように、ノズル427は漏斗状をしており、テーパー形状のテーパー部分427aと、このテーパー部分427aにおける吐出側端部に連通するストレート部分427bとを有する。テーパー部分427aは、円錐台状の空間を区画する部分であり、ノズル427における第1部分に相当する。ストレート部分427bは、ノズル427における第2部分に相当し、断面積をノズル方向と直交する面でほぼ変えない形状であって円柱状の空間を区画する部分である。言い換えれば、吐出方向と直交する方向の断面形状が、吐出方向における何れの場所においても一定の円形である部分である。テーパー部分427aは、圧力室424側(図8Aにおける下側)に向かうほど開口面積が大きくなっている。言い換えれば、インク滴の吐出側における開口面積が圧力室424側における開口面積よりも小さく定められている。例えば、テーパー部分427aにおける中間位置の直径φ427bは圧力室424側の端部の直径φ427aよりも小さい。また、吐出側端部(ストレート部分427b側の端部)の直径φ427cは中間位置の直径φ427bよりも小さい。
【0061】
この実施形態において、吐出側端部の直径φ427cはストレート部分427bの直径に相当しており、30μmに定められている。ストレート部分427bの長さL427b、すなわち吐出方向の長さは20μmに定められ、テーパー部分427aの長さL427aは80μmに定められている。このためノズル427の長さL427は100μmになる。そして、テーパー角度θ427は50度に定められている。一方、インク供給路425については、幅W425が55μm、高さH425が80μm、長さL425が600μmにそれぞれ定められている。その結果、ノズル427のインピーダンスZ427はインク供給路425のインピーダンスZ425よりも小さくなる。具体的に示すと、粘度30mPa・sのインクにおいて、ノズル427のインピーダンスZ427は1.0×1014Ωになり、インク供給路425のインピーダンスZ425は1.27×1014Ωになる。
【0062】
<インク流路とノズルとの関係について>
この種のプリンタでは、上述したようにインクを効率よく吐出させるばかりでなく、インクの吐出を安定化させたいという要望もある。例えば、低い周波数でインク滴を吐出させた場合と、高い周波数でインク滴を吐出させた場合とで、インク滴の量や飛行方向、或いは、飛行速度等を同じにしたいという要望がある。しかし、一般的なインクの粘度(約1ミリパスカル秒)よりも十分に高い粘度のインク、具体的には粘度が6〜20ミリパスカル秒のインク(便宜上、高粘度インクともいう。)を、従来のヘッドで吐出させた場合には、インクの吐出が不安定になってしまうという問題がある。
【0063】
インクの吐出を不安定にする要因は種々考えられるが、その要因の一つにインクの供給不足があると考えられる。高粘度インクは、通常のインクよりもインク供給路425を通過しにくい特性を有する。このため、圧力室424へのインクの供給が追いつかず、インクが不足した状態でインクの吐出動作が行われると、インクの吐出が不安定になると考えられる。
【0064】
このため、本実施形態のヘッドHDでは、ノズル427の開口面積を、インク供給路425の開口面積に基づいて定めている。すなわち、図3に示すように、ノズル427の吐出側の開口面積Snzlが、インク供給路425の圧力室424側の開口面積Ssupの1/9以下になるように構成している。これにより、ノズル427からのインク滴の吐出量を制限しつつ、圧力室424へのインクの供給量を確保している。その結果、圧力室424へのインクの供給不足を解消でき、インクの吐出を安定化できる。
【0065】
さらに、ノズル427の開口面積Snzlを、インク供給路425の開口面積Ssupに対して小さくするほど、ノズル427の内部でインクが流れ難くなる。このため、圧力室424内で加圧されたインクは、インク供給路425の側へ多く流れることなる。さらに、ノズル427の開口面積Snzlを過度に小さくしてしまうと、圧力室424でインクを加圧してもノズル427からはインク滴が吐出されなくなってしまう。
【0066】
このようなインク滴の吐出不良を防止するためには、ノズル427の開口面積Snzlをインク供給路425の開口面積Ssupの1/20以上に定めればよい。このように定めることで、圧力室424でインクを加圧した際にノズル427側でもインクの流れを生じさせることができ、インク滴を確実に吐出させることができる。
【0067】
ノズル427の開口面積については、インクの粘度と開口面積とをパラメータとしてインク滴の吐出安定性を評価する実験を本願の発明者が行っている。表1は、インク滴の吐出安定性評価の実験結果を示すものである。本評価実験において開口面積は、圧力室424側の開口面積Ssupに対するノズル427の吐出側の開口面積Snzlの比を表している。
【0068】

【0069】
表1において、「○」は、飛行速度の不足或いはインク滴の吐出曲がり等が発生せず吐出が安定していることを示し、「△」は、飛行速度の不足或いはインク滴の吐出曲がり等が時々生じ吐出の安定性が不十分であることを示し、「×」は、飛行速度の不足或いはインク滴の吐出曲がり等の発生頻度が高く吐出がとても不安定であることを示している。
【0070】
<インクの吐出制御について>
次にインクの吐出制御について説明する。図9〜図17は、インク滴の吐出時におけるノズル427付近のインクの状態を、吐出パルスPSの印加開始からの経過時間毎に示している。すなわち、図9A、図10A、…、図17Aは、吐出パルスPSの印加開始からの経過時間とその時間における電圧を示している。また、図9B、図10B、…、図17Bは、図9A、図10A、…、図17Aの各時間におけるメニスカスMの状態と圧力の分布を模式的に示している。なお、このシミュレーションは粘度30mPa・sのインクで行っている。
【0071】
図9A,Bに示すように、吐出パルスPSの印加開始直前(0.00μs)においてメニスカスMは定常状態にあり、インク圧力は最も低い状態(青)で安定している。図10A,Bに示すように、減圧部分P1の印加終了タイミング(2.80μs)では、メニスカスMが多少圧力室424側に湾曲し、赤の領域がメニスカスMの底の部分から圧力室424側に分布している。赤の領域は略長方形状に分布し、ストレート部分427bにおける多くの部分を占める。前述したように、圧力の色分けは相対的な圧力の差を示している。このため、この赤の領域は、周りのインクの圧力が低くなったことに起因して、相対的に圧力が高くなったことを示している。赤の領域の周囲には、この赤の領域を覆うように橙の領域が分布し、橙の領域を覆うように黄の領域が分布している。これらの領域は、薄い層のように分布している。黄の領域の外側には緑の領域が分布している。緑の領域における圧力室424側の部分(底の部分)は、橙の領域や黄の領域における圧力室424側の部分に比べて厚くなっている。すなわち、圧力室424側に広く分布している。緑の領域の外側には水の領域が分布している。水の領域の分布範囲は、緑の領域の分布範囲よりも広くなっている。特に、圧力室424側の部分において広くなっている。そして、水の領域よりも外側には、青の領域が分布している。この状態では、橙の領域と黄色の領域が薄いので(等圧線の間隔が狭いので)、赤の領域とその近傍に圧力の高い領域が集中しているといえる。このことから、圧力室424側へ移動させようとする強い力が、メニスカスMに与えられていることが判る。
【0072】
図11A,Bに示すように、維持部分P2の印加期間中(3.80μs)において、メニスカスMの中心部分はストレート部分427bを越えてテーパー部分427aにまで達している。このとき、最も圧力の高い赤の領域は、テーパー部分427aにおいてマッチ棒の先端の様な楕円球状に分布している。そして、赤の領域を覆うように橙の領域が分布し、橙の領域を覆うように黄色の領域が分布している。他の領域も同様に、内側の領域を覆うように分布している。この状態では、赤の領域が分布している範囲の周辺に橙の領域や黄の領域が薄く分布していることから、圧力室424側へ移動させようとする強い力が、依然としてメニスカスMに与えられていることが判る。
【0073】
図12A,Bに示すように、維持部分P2の印加期間中(4.20μs)において、メニスカスMの中心部分は、テーパー部分427aにおける中間部分まで引き込まれている。そして、メニスカスMの周囲には主に水の領域が分布し、一部に緑の領域が見られる。このように、高い圧力を示す赤の領域や橙の領域がなくなっているのは、メニスカスMが引き込まれたことでエネルギーが消費され、圧力の差が小さくなったからと考えられる。これにより、メニスカスMは圧力室424側への移動を止め、その後は吐出方向へ移動を開始する。吐出方向へ移動を開始するのは、圧力室424の減圧に起因してインク供給路425からインクが流入すること、及び、メニスカスMが表面張力によって定常状態に戻ろうとすることが理由と考えられる。
【0074】
図13A,Bに示すように、加圧部分P3の印加開始タイミング(5.60μs)において、メニスカスMの中心部分は、テーパー部分427aにおけるストレート部分427bの近傍(絞り側の端部)に位置している。このタイミングは、テーパー部分427aまで引き込まれたメニスカスMがストレート部分427bに戻る前のタイミングに相当する。図14A,Bに示すように、加圧部分P3の印加開始直後のタイミング(6.00μs)において、メニスカスMの中心部分(底の部分)は、ストレート部分427bにおける圧力室424側の端部に位置する。このタイミングは、テーパー部分427aまで引き込まれたメニスカスMがストレート部分427bに戻ったタイミングに相当する。そして、メニスカスMの底の部分よりも圧力室424側には、赤の領域が略台形状に分布している。また、赤の領域を覆うように橙の領域が分布し、橙の領域を覆うように黄の領域が分布している。加えて、黄の領域の外側には緑の領域が分布している。ここで、橙の領域と黄の領域は、狭い範囲に分布している。すなわち、等圧線が密な状態で分布している。このことは、メニスカスMの近くに圧力の高い部分が集中していることを意味する。図15A,Bに示すように、加圧部分P3の印加終了タイミング(8.00μs)において、赤の領域は、ストレート部分427b内に存在するインクの大半とノズル427よりも外側に飛び出した部分に亘って分布している。この赤の領域の周囲を覆うように橙の領域が分布し、橙の領域を覆うように黄色の領域が分布し、黄色の領域を覆うように黄緑の領域が分布している。そして、これらの領域も図14Bと同様に狭い範囲に分布している。従って、加圧部分P3の印加終了タイミングにおいて、ノズル427のストレート部分427bのインク及びノズル427から飛び出して柱状になっている部分のインクは、他の部分のインクに比べて高い圧力になっている。
【0075】
ここで、圧力の高い部分を集中させることができた理由について説明する。これは、テーパー部分427aの作用と考えられる。すなわち、圧力室424を収縮してインクを加圧すると、その力はノズル427内のインクにも作用する。この力(吐出方向への押圧力)を受けると、テーパー部分427aに沿って移動する。テーパー部分427aはインクが流れる流路を絞っているので、インクに与えられる力はより大きなものとなって応力が集中する。これにより、テーパー部分427aにおけるストレート部分427bとの境界部分に、圧力の高い部分を集中させることができる。そして、インクを加圧するタイミングを、テーパー部分427aまで引き込まれたメニスカスMがストレート部分427bに戻る直前に定めている。言い換えれば、ストレート部分427bのインクが極力少ない状態でインクを加圧している。これにより、テーパー部分427aの吐出側端部に存在するインクに加圧力を集中させることができ、インクを局所的に強く加圧できる。この点も、圧力の高い部分を集中させることに寄与している。なお、テーパー部分427aの作用を利用していることから、メニスカスMの最大引き込み度合いは、テーパー部分427aを越えない程度に定めることが望ましい。
【0076】
このような制御を行った結果、図16A,Bに示すように、ストレート部分427bよりも吐出側のインクについて圧力を高めることができ、インク滴を吐出させるために十分な速度で移動するインク柱を生成できる。さらに、図17A,Bに示すように、インク柱における先端側の部分をインク滴として吐出させることができる。すなわち、インク柱がくびれている部分に青の楕円領域があるが、この部分でインク柱がちぎれる。そして、楕円領域よりも先端側の部分がインク滴として吐出される。インク滴として吐出される部分の多くが赤の領域であることから、圧力室424内のインクに与えられた圧力変化が、インク滴の吐出に効率よく使用されていることが判る。これに伴い、インク滴における尾の部分が過度に長くなる現象を抑制できる。なお、楕円領域よりも圧力室424側の部分は、新たなメニスカスMを形成する。
【0077】
<テーパー角度θ427について>
前述のデータは、テーパー角度θ427が50度のものであった。応力集中の生じる理由がテーパー部分427aにおけるインクの挙動にあると考えられることから、テーパー角度θ427についての検討をした。ここでは、テーパー角度θ427を20度、25度、30度、40度、50度、60度、80度に定め、それぞれのテーパー角度のノズル427から粘度8mPa・s、10mPa・s、15mPa・s、20mPa・s、30mPa・s、40mPa・sのインクを吐出させて評価を行った。なお、ここに挙げた以外のデータは、前述したものと同様である。この評価においても、ノズル427のインピーダンスZ427がインク供給路425のインピーダンスZ425よりも小さくなるようにノズル427の形状を定めている。また、テーパー角度θ427が80度以上のノズル427については評価の対象から外している。これは、80度以上であれば(要するに、鋭角にならない角度範囲のテーパー面が設けられていれば)テーパー面に沿ってインクが流れるので、圧力集中の効果が得られるからである。この場合、テーパーの最大角度は圧力室424の幅、ノズル427ピッチ、ノズル427の長さ等によって決まる。
【0078】
図18は、評価結果の一覧を示している。この図において縦の項目はインクの粘度であり、横の項目はテーパー角度θ427である。そして、評価結果に関し、記号×は、インクが滴状にならず吐出されなかったことを意味する。また、記号△は、インク滴における飛行方向の後側に生じる尾の部分が、プリンタ1として支障が生じうる長さであることを意味する。この評価では、尾の部分が500μmよりも長い場合に、△の評価としている。従って、記号○は、尾の部分がプリンタ1として支障が生じない程度の長さであることを示している。
【0079】
この評価結果から次のことがいえる。すなわち、テーパー角度θ427とインクの粘度との間には相関関係があり、粘度が高いインクほどテーパー角度θ427を大きくすることが好ましいといえる。このことは、インクを吐出できない評価×に着目すると理解できる。例えば、テーパー角度が20度の場合には、粘度20mPa・s以上のインクで評価×になっており、テーパー角度が25度及び30度の場合には粘度30mPa・s以上のインクで評価×になっている。そして、テーパー角度が40度以上60度以下の場合には粘度40mPa・sのインクで評価×になっている。また、テーパー角度が80度以上の場合には粘度40mPa・sのインクで評価△になっている。
【0080】
評価○に着目すると、テーパー角度θ427にはインクの粘度に応じた適正範囲があることが判る。例えば、粘度が8mPa・s以上であって15mPa・s以下のインクを吐出させるのであれば、テーパー角度θ427は40度以上であればよいことが判る。また、粘度が8mPa・s以上であって30mPa・s以下のインクを吐出させるのであれば、テーパー角度θ427は50度以上であればよいことが判る。
【0081】
次に、テーパー部分427aの長さL427aについて検討する。応力をテーパー部分427aにおけるストレート部分427b側に集中させるという作用効果からすれば、テーパー部分427aが設けられていればこの作用効果を得られる。従って、長さは問わないといえる。そして、高粘度インクをより安定的に吐出させるという観点からすれば、長さL427aはストレート部分427b以上の長さ(ノズル427長さL427の1/2)を有することが好ましいといえる。加えて、前述のシミュレーションでは、ノズル427長さL427が100μmであり、そのうちの80μmがテーパー部分427aの長さL427aである。そうすると、テーパー部分427aの長さL427aは、ノズル427長さL427の4/5を有することがより好ましいといえる。このように、ノズル427長さL427におけるテーパー部分427aの比率を増やすと、圧力の高い部分を容易に得ることができる。
【0082】
<インピーダンスについて>
前述したように、シミュレーションに用いたヘッドHDでは、粘度30mPa・sのインクにおいてノズル427のインピーダンスZ427は1.0×1014Ωであり、インク供給路425のインピーダンスZ425は1.27×1014Ωである。すなわち、ノズル427のインピーダンスZ427は、インク供給路425のインピーダンスZ425よりも小さい。ここで、インピーダンスはインクの粘度に応じて値が変わる。このため、他の粘度のインクを用いると各インピーダンスの数値は変化する。しかし、ノズル427のインピーダンスZ427がインク供給路425のインピーダンスZ425よりも小さいという関係は、インクの粘度に関わらず成立する。
【0083】
このように、ノズル427のインピーダンスZ427をインク供給路425のインピーダンスZ425よりも小さくすると、圧力室424内のインクに圧力変化を与えた場合において、インピーダンスの大きいインク供給路425側についてはインクが流れ難くなり(音響的に重くなり)、インピーダンスの小さいノズル427側についてはインクが流れ易くなる(音響的に軽くなる)。これにより、インクに与えられた圧力変化によってメニスカスMを効率よく移動させることができる。また、インク滴の吐出後に生じる残留振動(圧力室424内のインクに与えられる圧力振動)が圧力室424内に残り易くなり、共通インク室426から圧力室424へインクを流入しやすくする。これにより、メニスカスMを早期に定常状態に戻すことができ、インク滴を高い周波で吐出させることができる。
【0084】
図19は、このことを説明するための図であり、図7に対応するシミュレーションデータである。このシミュレーションデータを取得するに際し、ノズル427やインク供給路425の形状データは、先に述べた通りである。すなわち、ノズル427のインピーダンスZ427は1.0×1014Ωであり、インク供給路425のインピーダンスZ425は1.27×1014Ωである。図19に示すように、メニスカスMは、吐出パルスPSの印加開始から100μsを経過した時点で、ほぼ定常状態の位置に戻っている。本実施形態では、吐出パルスPSの印加開始から100μsを経過した時点でメニスカスMが定常状態の位置に戻っていることを、40kHz程度の高い周波数であっても、インク滴を安定的に吐出できることの判断基準にしている。ここで、図19の結果では、インク滴の吐出間隔が最短でも100μsであるため、吐出周波数は、最高でも10kHz程度になってしまうとも考えられる。しかし、吐出周波数を高めた場合、インク滴が次々と吐出されることから、インク流路(共通インク室426からノズル427に至る一連の流路)には、共通インク室426側からノズル427側に向かうインクの流れが生じると考えられる。このインクの流れは、吐出周波数を高めるほど速くなり、圧力室424へのインクの供給を補助すると考えられる。以上より、上記の判断基準が定められている。そして、10ng以上のインク滴を40kHz程度の周波数で吐出できれば、高粘度インクであっても、既存の水系インクを吐出させるプリンタと同等の性能を発揮し得る。
【0085】
そして、ノズル427のインピーダンスZ427を小さくするためには、ストレート部分427bの長さL427bを直径φ427bよりも短くすることがよい。このように構成すると、イナータンスや流路抵抗を小さくできるからである。すなわち、イナータンスは、ストレート部分427bの長さL427bにインク密度を乗じ、それを開口面積で除して求められるので、開口面積が大きいほど(直径φ427bが大きいほど)、値が小さくなる。また、流路抵抗は、ストレート部分427bの長さL427bが短いほど、かつ、開口面積が大きいほど小さくなる。従って、ストレート部分427bの長さL427bを直径φ427bよりも短くすることは、ノズル427のインピーダンスZ427を小さくするために有効な手段といえる。
【0086】
<まとめ>
以上の説明から次のことが判る。すなわち、ノズル427は、インクの吐出側が圧力室424側よりも小さい開口面積に定められるテーパー部分427a(第1部分)と、テーパー部分427aの吐出側端部に連通するストレート部分427b(第2部分)とを有しており、このノズル427のインピーダンスZ427は、インク供給路425(液体供給部)のインピーダンスZ425よりも小さく定められている。このため、圧力室424内のインクに生じた圧力振動をノズル427側に効率よく伝えることができ、高粘度のインクを効率よく吐出させることができる。
【0087】
また、テーパー部分427aは、テーパー角度が40度以上の円錐台状の空間を区画しているので、インク滴の尾の部分が過度に長くなることを抑制できる。そして、テーパー部分427aは、インクの粘度に応じた範囲の角度に定められているので、その効果をより高めることができる。このテーパー部分427aに連通するストレート部分427bに関し、断面積をノズル方向と直交する面でほぼ変えない形状としたことにより、吐出されたインク滴の飛行方向を安定させることができる。加えて、ストレート部分427bの長さ(吐出方向の長さ)は、ストレート部分427bの直径φ427b(開口部の内径)よりも短いので、圧力室424内のインクに与えられた圧力振動をノズル427側に効率よく伝えることができる。
【0088】
また、ノズル427の吐出側の開口面積Snzlを、インク供給路425の圧力室424側の開口面積Ssupの1/9以下になるように構成することにより、ノズル427からのインク滴の吐出量を制限しつつ、圧力室424へのインクの供給量を確保することができる。その結果、圧力室424へのインクの供給不足を解消でき、インクの吐出を安定化できる。
【0089】
さらに、ノズル427の開口面積Snzlをインク供給路425の開口面積Ssupの1/20以上になるように構成することにより、圧力室424でインクを加圧した際にノズル427側でもインクの流れを生じさせることができ、インク滴を確実に吐出させることができる。
【0090】
また、吐出パルスPSを用いた吐出制御において、この吐出パルスPSは、吐出パルスPSは、ストレート部分427bに位置するメニスカスMをテーパー部分427aまで引き込むためにインクを減圧させる減圧部分P1と、テーパー部分427aまで引き込まれたメニスカスMがストレート部分427bまで戻る前に、インクを吐出させるべくインクを加圧させる加圧部分P3とを有するので、インクに与えられた圧力をインクの吐出に効率よく使用できる。加えて、減圧部分P1と加圧部分P3の間に維持部分P2を生成しているので、タイミングの最適化を容易に行える。
【0091】
===その他の実施形態について===
前述した実施形態は、主として、液体吐出装置としてのプリンタ1を有する印刷システムについて記載されているが、その中には、液体吐出方法や液体吐出システムの開示が含まれている。また、液体吐出ヘッドや液体吐出ヘッドの制御方法の開示も含まれている。また、この実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0092】
<ノズル427の形状について>
前述の実施形態においてノズル427は、円錐台状の空間(流路)を区画するテーパー部分427aと、円柱状の空間を区画するストレート部分427bとを有していた。しかし、ノズル427はこの形状に限定されるものではない。液体の吐出側が圧力室424側よりも小さい開口面積に定められていればよい。例えば、図20Aに示すノズル427Aのように、テーパー部分427a´及びストレート部分427b´を楕円形状に変形してもよい。また、図20Bに示すノズル427Bのように、テーパー部分427aに変えて四角錐状部分427a″を設けてもよい。これらのノズル427A,Bであっても、同様の作用効果を奏する。また、図20Cに示すノズル427Cのように、圧力室424側の第1テーパー部分427aと吐出側の第2テーパー部分427b″を設けてもよい。このノズル427Cでは、第2テーパー部分427b″は、第1テーパー部分427aで区画される円錐台状の部分よりもテーパー角度の小さい他の円錐台状の空間を区画する部分に相当する。このノズル427Cでは、インク滴の飛行速度を高めることができる。
【0093】
<吐出動作をする素子について>
このプリンタ1では、インクを吐出させるための動作をする素子として、ピエゾ素子433を用いている。ここで、吐出動作をする素子は、前述したピエゾ素子433に限定されるものではない。印加された電位に応じて動作をし、圧力室424内の液体に圧力変化を与える素子であればよい。例えば、磁歪素子であってもよい。そして、この素子として、前述の実施形態のようにピエゾ素子433を用いた場合には、圧力室424の容積を吐出パルスPSの電圧に基づいて精度良く制御できる。すなわち、圧力室424内のインクに与える圧力をきめ細かに制御できる。
【0094】
<他の応用例について>
また、前述の実施形態では、液体吐出装置としてプリンタ1が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体吐出装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【符号の説明】
【0095】
1 プリンタ,10 用紙搬送機構,20 キャリッジ移動機構,
30 駆動信号生成回路,31 DAC回路,32 電圧増幅回路,
33 電流増幅回路,40 ヘッドユニット,41 ケース,
411 収容空部,42 流路ユニット,421 流路形成基板,
422 ノズルプレート,423 振動板,423a ダイヤフラム部,
424 圧力室,425 インク供給路,426 共通インク室,
427 ノズル,427a テーパー部分,427b ストレート部分,
428 支持板,428a 島部,429 弾性体膜,
43 ピエゾ素子ユニット,431 ピエゾ素子群,432 固定板,
433 ピエゾ素子,434 共通電極,435 駆動電極,
436 圧電体,44 スイッチ,50 検出器群,
60 プリンタ側コントローラ,61 インタフェース部,
62 CPU,63 メモリ,CP コンピュータ,
HD ヘッド,HC ヘッド制御部,COM 駆動信号,
PS 吐出パルス,P1 減圧部分,P2 維持部分,P3 加圧部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が吐出されるノズルと、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する液体供給部と、
前記圧力室内の前記液体に前記圧力変化を与えるための動作をする素子と、
前記ノズルから前記液体を吐出させるべく前記素子を動作させる吐出パルスを生成する吐出パルス生成部と、
を備え、
前記液体の粘度は、
8ミリパスカル秒以上であり、
前記ノズルは、
前記液体の吐出側が圧力室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、
前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有し、
前記第2部分の吐出側端部の前記開口面積が、
前記液体供給部の開口であって前記圧力室側の開口の面積の1/9以下であり、
前記吐出パルスは、
前記第2部分に位置するメニスカスを前記第1部分まで引き込むために前記液体を減圧させる減圧部分と、
前記第1部分まで引き込まれたメニスカスが前記第2部分に戻る前に、前記液体を吐出させるべく前記液体を加圧させる加圧部分と、を有する液体吐出装置。
【請求項2】
前記第2部分の吐出側端部の前記開口面積は、
前記圧力室側の開口の面積の1/20以上である、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記吐出パルスは、
前記減圧部分の生成終了後から前記加圧部分の印加開始までの期間に亘って、前記減圧部分の生成終了タイミングにおける前記素子の状態を維持する維持部分を有する、請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記ノズルのインピーダンスは、
前記液体供給部のインピーダンスよりも小さい、請求項1から3の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記ノズルの第1部分は、
テーパー角度が40度以上の円錐台状の空間を区画する、請求項1から4の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記ノズルの第2部分は、
断面積をノズル方向と直交する面でほぼ変えない形状である、請求項1から5の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記素子は、
印加された吐出パルスの電位に応じて変形することで前記圧力室の容積を変化させ、前記液体に圧力変化を与えるピエゾ素子である、請求項1から6の何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記吐出パルスは、
前記減圧部分による単位時間あたりの圧力室の容積変化度合いよりも、前記加圧部分による単位時間あたりの圧力室の容積変化度合いの方が大きく定められ、かつ、前記加圧部分よりも後に、液体の吐出後における前記メニスカスの移動を抑制するための部分を有さない、請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
液体が吐出されるノズルと、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する液体供給部と、
前記圧力室内の前記液体に圧力変化を与えるための動作をする素子と、
を備え、
前記ノズルは、
前記液体の吐出側が圧力室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、
前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有し、
前記第2部分の吐出側端部の前記開口面積が、
前記液体供給部の開口であって前記圧力室側の開口の面積の1/9以下である液体吐出装置を用い、
粘度が8ミリパスカル秒以上の前記液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出方法であって、
前記第2部分に位置するメニスカスを前記第1部分まで引き込むために前記液体を減圧させることと、
前記第1部分まで引き込まれたメニスカスが前記第2部分に戻る前に、前記液体を吐出させるべく前記液体を加圧させることと、
を行う液体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−37257(P2011−37257A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59728(P2010−59728)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】