説明

液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法

【課題】装置の非運転時における液体の増粘を抑制して、吐出安定性を確保することが可能な液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法を提供することにある。
【解決手段】圧電振動子26の作動により圧力発生室21内に圧力変動を与え、該圧力室に充填されたインクをノズル開口28から吐出する記録ヘッド10を備えたプリンターであって、ノズル開口内のインクのメニスカスMの位置をプリンターの運転時における運転位置Pよりも上流側に退避させるポンプ11と、退避したメニスカスの位置を保持する開閉バルブ12と、を備え、プリンターの非運転時には、ポンプによって運転位置よりも上流側の退避位置Qにメニスカスの位置を退避させると共に、当該退避位置に退避したメニスカスの位置を前記保持手段によって保持し、プリンターの運転開始時には、ポンプを解除することで、メニスカスの位置を運転位置に回復させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置、及び液体吐出装置の制御方法に係り、特に、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を与えて、圧力室内の液体をノズルから吐出させる液体吐出装置、及び液体吐出装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力発生室(圧力室)内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として吐出(噴射)させる液体吐出ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)等の画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等がある。
【0003】
例えば、上記の記録ヘッドでは、液体状のインクを封入したインクカートリッジ(以下、単にカートリッジという)からのインクが導入されると共に、リザーバーから圧力発生室を経てノズルに至る一連の液体流路が形成された流路ユニットや圧力発生室の容積を変動可能な圧力発生素子を有するアクチュエーターユニットなど備えている。
【0004】
そして、上記構成の記録ヘッドがインクを吐出させずに放置されていると、ノズル内のインクの自由表面(メニスカス)がノズルの大気開放口を通してノズルの外側の大気に晒されるために、インク溶媒が自然蒸発して、インクの増粘固着が生じる。そして、このようなインクの増粘が進むと、記録ヘッドがインクの吐出不良を発生させる等の不具合を招く虞がある。
【0005】
上記増粘による不具合を防止するため、種々のメンテナンス処理が実行されている。例えば、圧力発生素子を駆動させて、圧力発生室内のインクに対してノズルからインクを吐出させない程度の微振動を与えることで、ノズルの大気開放口を通して大気に晒されて増粘したインクを攪拌して、その周りのインクと混ぜ合わせ、これによりメニスカスを形成しているインクの増粘固着を抑制する記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−230243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記記録ヘッドでは、従来のインクよりも増粘し易い、例えば顔料インクを吐出させる場合においては、圧力発生室内のインクを微振動させる回数が増えてしまい、却ってインクに微振動を与え過ぎることにより、インクの増粘が悪化する現象も観察されている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、前述した微振動の回数を無制限に増大しなくても液体の増粘を抑制して、吐出安定性を確保することが可能な液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の液体吐出装置は、アクチュエーターの作動により圧力室内に圧力変動を与え、該圧力室に充填された液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、
前記ノズル内の液体のメニスカスの位置を装置の運転時における運転位置よりも上流側に退避させる退避手段と、退避したメニスカスの位置を保持する保持手段と、を備え、
装置の非運転時には、前記退避手段によって前記運転位置よりも上流側の退避位置にメニスカスの位置を退避させると共に、当該退避位置に退避したメニスカスの位置を前記保持手段によって保持し、
装置の運転開始時には、前記保持手段を解除することで、メニスカスの位置を前記運転位置に回復させることを特徴とする。
なお、装置の運転時とは、液体吐出装置に電気が供給されて液体を吐出可能な稼働状態を意味する。また、装置の非運転時とは、液体吐出装置に電気が供給されずに液体を吐出不可能な停止状態を意味し、稼働状態から停止状態に移行する期間を含む。
【0010】
この構成によれば、ノズル内の液体のメニスカスの位置を装置の運転時における運転位置よりも上流側に退避させる退避手段と、退避したメニスカスの位置を保持する保持手段と、を備え、装置の非運転時には、退避手段によって運転位置よりも上流側の退避位置にメニスカスの位置を退避させると共に、退避位置に退避したメニスカスの位置を保持手段によって保持し、装置の運転開始時には、保持手段を解除することで、メニスカスの位置を運転位置に回復させるので、運転位置よりも上流側の退避位置にメニスカスの位置を退避させて、退避したメニスカスの過飽和水蒸気層をノズルの大気開放口から遠ざけることができ、これにより、過飽和水蒸気層によってメニスカスを安定して覆うことができる。したがって、過飽和水蒸気層が気流の流れや空気などの外乱によって攪拌されることを抑制でき、この結果、装置の非運転時における液体の増粘を抑制して、吐出安定性を確保することができる。
【0011】
上記構成において、前記ノズルは、同一径のストレート部と、当該ストレート部から前記圧力室に向かうに従って徐々に拡径するテーパー部とを一連に備え、
前記メニスカスの退避位置が前記テーパー部内に設定されていることが望ましい。
【0012】
この構成によれば、ノズルは、同一径のストレート部と、ストレート部から圧力室に向かうに従って徐々に拡径するテーパー部とを一連に備え、メニスカスの退避位置がテーパー部内に設定されているので、ストレート部よりも拡径したテーパー部内にメニスカスを退避させることで、メニスカスの大気開放口側に滞留する過飽和水蒸気層が、テーパー部よりも径の小さいストレート部からノズル内に侵入する気流や空気の流れなどの外乱によって攪拌されることを抑制でき、装置の非運転時における液体の増粘を抑制でき、しかも運転開始時にメニスカスを運転位置に直ちに回復させ易い。
【0013】
上記構成において、前記圧力室と前記ノズルとの間に連通孔を備え、
前記メニスカスの退避位置が前記連通孔内に設定されていることが望ましい。
【0014】
この構成によれば、圧力室とノズルとの間に連通孔を備え、メニスカスの退避位置が連通孔内に設定されているので、ノズルの大気開放口よりも圧力室側の連通孔内にメニスカスを退避させることができる。これにより、ノズルの大気開放口からの距離を大きく採ったとしてもメニスカスが壊れ難くなり、また、メニスカス表面を覆う過飽和水蒸気層を安定した状態で滞留させることができる。この結果、過飽和水蒸気層の厚みを増すことができ、装置の非運転時における液体の増粘を確実に抑制できる。
【0015】
また、本発明の液体吐出装置の制御方法は、アクチュエーターの作動により圧力室内に圧力変動を与え、該圧力室に充填された液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置の制御方法であって、
装置の非運転時には、前記ノズル内の液体のメニスカスの位置を装置の運転時における運転位置よりも上流側に退避させると共に、この退避位置を保持し、
装置の運転開始時には、前記メニスカスの位置を退避位置から運転位置に回復させることを特徴とする。
この制御方法によれば、運転位置よりも上流側の退避位置にメニスカスの位置を退避させて、退避したメニスカスの過飽和水蒸気層をノズルの大気開放口から遠ざけることができ、これにより、過飽和水蒸気層によってメニスカスを安定して覆うことができる。したがって、過飽和水蒸気層が気流の流れや空気などの外乱によって攪拌されることを抑制でき、この結果、装置の非運転時における液体の増粘を抑制して、吐出安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの構成を説明する平面図である。
【図2】記録ヘッドを圧力発生ユニット側から見た斜視図である。
【図3】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図4】記録ヘッド内の過飽和水蒸気層を説明する模式図であって、(a)は装置の運転時であり、(b)は装置の非運転時である。
【図5】他の実施形態における記録ヘッドの過飽和水蒸気層を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面等を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、図1に示すインクジェット式記録装置(以下、プリンターと略記する)に適用した場合を例示する。
【0018】
図1は液体吐出ヘッドの一種である記録ヘッドを搭載するインクジェット式記録装置の構成を示す平面図である。まず、記録ヘッドを搭載するインクジェット式記録装置(以下、プリンターという)の概略構成について、図1を参照して説明する。例示したプリンター1は、記録紙等の記録媒体(着弾対象物:図示せず)の表面へ液体状のインクを吐出して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、フレーム2と、このフレーム2内に配設されたプラテン3とを備えており、紙送りモーターの駆動により回転する紙送りローラー(何れも図示せず)によってプラテン3上に記録紙が搬送されるようになっている。また、フレーム2内には、プラテン3と平行にガイドロッド4が架設されており、このガイドロッド4には、記録ヘッド10を備えたキャリッジ5が摺動可能に支持されている。このキャリッジ5は、パルスモーター6の駆動によって回転する駆動プーリー7と、この駆動プーリー7とはフレーム2における反対側に設けられた遊転プーリー8との間に架設されたタイミングベルト9に接続されている。そして、キャリッジ5は、パルスモーター6を駆動することで、ガイドロッド4に沿って紙送り方向と直交する主走査方向に往復移動するように構成されている。
【0019】
フレーム2の一側には、インクカートリッジ13(液体貯留部の一種)を着脱可能に搭載するカートリッジホルダー14が設けられている。インクカートリッジ13は、エアチューブ15を介してエアポンプ16と接続されており、このエアポンプ16からの空気が各インクカートリッジ13内に供給される。そして、この空気によるインクカートリッジ13内の加圧により、インク供給チューブ17を通じて記録ヘッド10側にインクが供給(圧送)されるように構成されている。
【0020】
インク供給チューブ17は、例えば、シリコン等の合成樹脂で作製された可撓性を有する中空部材であり、このインク供給チューブ17の内部には、各インクカートリッジ13に対応するインク流路が形成されている。また、インク供給チューブ17のインクカートリッジ13と記録ヘッド10との間には、インクカートリッジ13側(上流側)から順に、エンコーダー付ポンプ11(本発明における退避手段に相当)と、開閉バルブ12(本発明における保持手段に相当)とを配設している。エンコーダー付ポンプ11は、インク供給チューブ17内を流下するインクの流量を計測しながら、インクをインクカートリッジ13側に圧送する。開閉バルブ12は、インク供給チューブ17内のインクの流動を許容する開状態と、インク供給チューブ17内のインクの流動を遮断する閉状態とに変換可能に構成され、インク供給チューブ17内のインクの移動を制御する。また、プリンター1本体側と記録ヘッド10側との間には、プリンター1本体側の制御部(図示せず)から記録ヘッド10側に駆動信号等を伝送するためのFFC(フレキシブルフラットケーブル)18が配線されている。
【0021】
次に、記録ヘッド10の構成について説明する。ここで、図2は、記録ヘッド10を圧力発生ユニット側から見た斜視図、図3は、記録ヘッド10の要部断面図である。例示した記録ヘッド10は、圧力発生ユニット(又はアクチュエーターユニット)19と、流路ユニット20とから構成されており、これらを重ね合わせた状態で一体化してある。圧力発生ユニット19は、圧電振動子26(本発明におけるアクチュエーターに相当)と、振動板27と、圧力発生室(本発明における圧力室に相当)21を区画するための圧力発生室プレート22とを積層し、焼成等により一体化することで構成されている。
【0022】
また、流路ユニット20は、供給口30や第2連通口31(本発明における連通孔の一部に相当)を形成した供給口形成プレート32と、リザーバー33や第1連通口34(本発明における連通孔の一部に相当)を形成したリザーバープレート35とを積層することで構成されている。また、リザーバープレート35の供給口形成プレート32とは反対側の面には、ノズル開口28(本発明におけるノズルに相当)が形成されたノズルプレート36を設けている。
【0023】
振動板27は、弾性を有する板材で構成されている。圧力発生室21とは反対側となる振動板27の外側表面には、各圧力発生室21に対応した状態で複数の圧電振動子26が配設される。例示した圧電振動子26は撓み振動モードの振動子であり、駆動電極26aと共通電極26bとによって圧電体26cを挟んで構成されている。そして、圧電振動子26の駆動電極に駆動信号が印加されると、駆動電極26aと共通電極26bとの間には電位差に応じた電場が発生する。この電場は圧電体26cに付与され、圧電体26cが付与された電場の強さに応じて変形する。
【0024】
圧力発生室プレート22は、圧力発生室21を形成するのに適した厚さのセラミックス材の薄板、例えばアルミナやジルコニア等によって構成され、圧力発生室21を区画するための空部がプレートの厚さ方向に貫通した状態で形成されている。圧力発生室21は、ノズルプレート36のノズル開口28のピッチと同じ一定のピッチで列状に開設され、列設方向と直交する左右方向に細長い長孔である。
【0025】
供給口形成プレート32は、図3に示すように、ステンレス材等の金属材料によって構成された薄手の板状部材である。この供給口形成プレート32には、板厚方向を貫通する供給口30が複数開設されている。また、板厚方向を貫通する第2連通口31が、リザーバープレート35の第1連通口34に対応させて形成されている。供給口30は、インク流路(液体流路)内のインクに対して流体抵抗(流動抵抗)を付与する部分である。この供給口30に関し、図3に示すように、リザーバー33側の口径が圧力発生室21側の口径よりも広くなっている。この供給口30はプレス加工によって形成される。また、供給口形成プレート32には、肉厚を他の部分よりも十分に薄くしたコンプライアンス部38が形成されている。このコンプライアンス部38は、エッチングなどによってリザーバープレート35のリザーバー33に対応する領域内をリザーバー33とは反対面側から板厚方向に窪ませて凹部39を形成することで作製されている。
【0026】
リザーバープレート35は、ステンレス材等の金属材料によって構成された板状部材である。このリザーバープレート35には、リザーバー33を区画するための空部が板厚方向を貫通した状態で形成されている。この空部がリザーバー33を区画形成する。このリザーバー33は、複数の圧力発生室21に共通な液室として機能する部分であり、インクの種類(色)毎に設けられ、インクカートリッジ13からインク供給チューブ17を介して供給されるインクを貯留する。また、リザーバープレート35には、板厚方向を貫通する第1連通口34が上記の第2連通口31に対応させて複数形成されている。
【0027】
ノズルプレート36は、ステンレス材等の金属材料によって構成された板状部材である。このノズルプレート36には、複数のノズル開口28を列設してノズル列(ノズル開口群)が横並びに形成されており、本実施形態では、ノズル列は一定のピッチ(例えば、180dpi)で開設された180個のノズル開口28によって構成されている。ノズル開口28は、図4に示すように、同一径のストレート部40と、該ストレート部40の一端開口から圧力発生室21に向かうに従って徐々に拡径するテーパー部41とを一連に備えている。また、本実施形態では、ストレート部40およびテーパー部41の径が、第1連通口34および第2連通口31の径よりも小さくなるように設定されている。なお、ノズルプレート36は金属材料以外にも、有機プラスチックフィルム等から構成してもよい。
【0028】
そして、各プレート部材は、圧力発生ユニット19と供給口形成プレート32との間、供給口形成プレート32とリザーバープレート35との間、およびリザーバープレート35とノズルプレート36との間を接合して一体化される。これにより、図3に示すように、リザーバー33と圧力発生室21の他端部とが、供給口30を通じて連通する。また、圧力発生室21の一端部とノズル開口28とが、リザーバープレート35の第1連通口34および供給口形成プレート32の第2連通口31からなるノズル連通口42(本発明における連通孔に相当)を通じて連通する。そして、リザーバー33から圧力発生室21を通って圧力発生ユニット19とノズル開口28とを連通する一連のインク流路(液体流路)がノズル開口28毎に形成される。
【0029】
上記構成の記録ヘッド10では、圧電振動子26を変形させることで対応する圧力発生室21が収縮或いは膨張し、圧力発生室21内のインクに圧力変動が生じる。このインク圧力を制御することで、ノズル開口28からインクを吐出(噴射)させることができる。インクを吐出するのに先だって定常容積の圧力発生室21を予備的に膨張させるとリザーバー33側から供給口30を通じて圧力発生室21内にインクが供給される。また、予備膨張の後に圧力発生室21を急激に収縮させるとノズル開口28からインクが吐出される。
【0030】
次に、上記記録ヘッド10内のインクが増粘する過程について説明する。図4は、図3中の破線Aで囲まれた領域を拡大して示しており、記録ヘッド10内のインクの自由表面M(メニスカス)の大気開放口28a側に形成される過飽和水蒸気層43を説明する模式図であって、(a)は装置の運転時であり、(b)は装置の非運転時である。まず、プリンター1に電気が供給されてインクを吐出可能な稼働状態(装置の運転時)においては、メニスカスMは、図4(a)に示すように、その外周がノズル開口28のストレート部40における圧力発生室21とは反対側に開口した大気開放口28a側の内周面に接触して、中心部分が圧力発生室21側に向かって窪んだ湾曲面を形成している。この運転位置Pでは、メニスカスMの表面のうち最も圧力発生室18側の頂部と外周縁Maが、ストレート部40内に位置する(以下、この位置を運転位置とし、図4(a)中に符号Pで示す)。なお、プリンター1の運転時においては、ポンプ11は駆動させず、開閉バルブ12はインク供給チューブ17内のインクを自由に通す開状態となっている。
【0031】
そして、上記運転位置Pに位置したメニスカスMがインクの吐出などを行なわない状態で放置されると、メニスカスMの大気開放口28a側には、インク内の水分が蒸発した過飽和水蒸気層43が形成される。しかしながら、ノズル開口28の大気開放口28a(この大気開放口28aの位置を図4(a)中に符合Oで示す)から運転位置Pまで距離(O−P)が近接しているために、この薄い過飽和水蒸気層43は、記録ヘッド10を搭載したキャリッジ5を走査した際などに、外気が大気開放口28aからノズル開口28内に侵入する外乱によって攪拌される。このため、攪拌された過飽和水蒸気層43の一部が、大気開放口28aから外側に排出され、インク内の水分の蒸発量が増加する。この結果、インク内の水分が減少して、インクが増粘する。
【0032】
一方、本発明のプリンター1は、プリンター1に電気が供給されずに液体を吐出不可能ない停止状態に移行する前(装置の非運転時)に、インク供給チューブ17に配設されたポンプ11を駆動させることでインクをインクカートリッジ13側(上流側)に移送し、このインクの移送により、図4(b)に示すように、メニスカスMが第1連通口34に位置するまで後退、即ち、退避させる。そして、退避位置QにメニスカスMを退避させた後に、今度は、開閉バルブ12を開状態から閉状態に変換して、インク供給チューブ17内のインクの流動(移動)を遮断する(インクの供給を停止する)と共に、ポンプ11の駆動を停止する。これにより、退避位置Qに退避したメニスカスMの位置が保持される。
【0033】
上記プリンター1の非運転時において、メニスカスMが第1連通口34内に退避させた状態で放置されると、メニスカスMの大気開放口28a側には、インク内の水分が蒸発した過飽和水蒸気層43´が形成される。この過飽和水蒸気層43´は、ノズル開口28の大気開放口28aから退避位置Qまでの距離(O−Q)が、ノズル開口28の大気開放口28aから運転位置Pまでの距離(O−P)よりも上流側に離間しているため、過飽和水蒸気層43の厚みよりも厚く形成される。なお、プリンター1の運転開始時には、開閉バルブ12を閉状態から開状態に変換して、退避位置Qに退避させたメニスカスMの保持を解除することで、メニスカスMの位置を運転位置Pに回復させる。
【0034】
このように、本実施形態のプリンター1は、非運転時には、運転位置Pよりも上流側の退避位置QにメニスカスMを退避させて、退避したメニスカスMの大気開放口28a側に過飽和水蒸気層43´を安定した状態で滞留させることができる。これにより、過飽和水蒸気層43´によってメニスカスMを覆うことができ、装置の近くを人が通ったり、或いはエアコンの風が当たるなど外気が比較的大きく動いた場合であっても、大気開放口28aからノズル開口28内に侵入する空気などの外乱によって過飽和水蒸気層43´が攪拌され難く、その一部が大気開放口28aから外側に排出されることが抑制される。この結果、プリンター1の非運転時におけるインクの増粘を抑制することができる。したがって、吐出安定性を確保することができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、ストレート部40およびテーパー部41の径が、第1連通口34および第2連通口31の径よりも小さくなるように設定されているので、退避位置Qに退避したメニスカスMの表面積を運転位置Pの表面積よりも広げることができる。これにより、メニスカスMの大気開放口28a側に滞留する過飽和水蒸気層43が、ノズル開口28内に侵入する気流や空気の流れなどの外乱によって攪拌されることを抑制でき、プリンター1の非運転時におけるインクの増粘を抑制できる。
【0036】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。図5は他の実施形態における記録ヘッドの過飽和水蒸気層を説明する模式図である。
上記実施形態においては、第1連通口34内にメニスカスMを退避させると共に、退避位置Qに退避したメニスカスMを保持する例を示したが、本発明は、これには限らず、メニスカスMがノズル28のテーパー部31に位置するまでメニスカスMを退避させる(以下、この位置を退避位置とし、図5中に符号Q´で示す)と共に、退避位置Q´に退避したメニスカスMを保持しても良い。即ち、プリンター1の非運転時において、メニスカスMがノズル28のテーパー部31内に退避させた状態で保持して、メニスカスMの大気開放口28a側に過飽和水蒸気層43´を形成しても良い。これにより、過飽和水蒸気層43が、テーパー部41よりも径の小さいストレート部40からノズル開口28内に侵入する気流や空気の流れなどの外乱によって攪拌されることを抑制でき、プリンター1の非運転時におけるインクの増粘を抑制できる。そして、運転開始時には、メニスカスをストレート部40内に速やかに戻すことができる。
【0037】
また、上記実施形態では、アクチュエーターとして、所謂撓み振動モードの圧電振動子26を例示したが、これには限られない。例えば、所謂縦振動モードの圧電振動子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。なお、メニスカスMの退避位置Q´は、第1連通口34内に設定されていても良い。即ち、本発明のプリンター1は、メニスカスMの退避位置Q´を運転位置Pから上流側に離間させる程、過飽和水蒸気層43が攪拌されることを抑制でき、プリンター1の非運転時におけるインクの増粘を抑制できる。つまり、本発明は、少なくともプリンター1の運転時のメニスカスMの位置よりも上流側にメニスカスMを退避させて、過飽和水蒸気層43´を安定した状態で滞留させれば良い。
【0038】
また、上記実施形態では、ポンプ11を用いてメニスカスMを圧力発生室21側(上流側)に退避させる例を示したが、開閉バルブ11を開状態から閉状態に変換させた後に、アクチュエーター26を駆動させてインクを吐出させることで、メニスカスMの退避位置Qを運転時の位置Pよりも上流側に退避させても良い。即ち、開閉バルブ11を閉状態にしてインク供給チューブ17内のインクの流動を遮断した状態で、アクチュエーター26を駆動させて、開閉バルブ11よりも下流側のインクをノズル開口28から吐出してインクの残量を減らすことで、メニスカスMの位置を運転時の位置Pよりも上流側に退避させても良い。この構成によれば、ポンプ11を設ける必要がなくなり、プリンター1を小型化できる。
【0039】
以上は、液体吐出装置の一種であるプリンター1を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体吐出装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルターを製造するディスプレー製造装置、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置、バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…プリンター,10…記録ヘッド,11…ポンプ,12…開閉バルブ,21…圧力発生室,26…圧電振動子,28…ノズル開口,31…第2連通口,34…第1連通口,40…ストレート部,41…テーパー部,M…メニスカス,Ma…外周縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエーターの作動により圧力室内に圧力変動を与え、該圧力室に充填された液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、
前記ノズル内の液体のメニスカスの位置を装置の運転時における運転位置よりも上流側に退避させる退避手段と、退避したメニスカスの位置を保持する保持手段と、を備え、
装置の非運転時には、前記退避手段によって前記運転位置よりも上流側の退避位置にメニスカスの位置を退避させると共に、当該退避位置に退避したメニスカスの位置を前記保持手段によって保持し、
装置の運転開始時には、前記保持手段を解除することで、メニスカスの位置を前記運転位置に回復させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記ノズルは、同一径のストレート部と、当該ストレート部から前記圧力室に向かうに従って徐々に拡径するテーパー部とを一連に備え、
前記メニスカスの退避位置が前記テーパー部内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記圧力室と前記ノズルとの間に連通孔を備え、
前記メニスカスの退避位置が前記連通孔内に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
アクチュエーターの作動により圧力室内に圧力変動を与え、該圧力室に充填された液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置の制御方法であって、
装置の非運転時には、前記ノズル内の液体のメニスカスの位置を装置の運転時における運転位置よりも上流側に退避させると共に、この退避位置を保持し、
装置の運転開始時には、前記メニスカスの位置を退避位置から運転位置に回復させることを特徴とする液体吐出装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37146(P2011−37146A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187010(P2009−187010)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】