説明

液体噴射ヘッド、及び、液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】静電気による不具合をより確実にすることが可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】ノズルプレート22の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズル27の内周面に、導電膜46が連続した状態で形成され、第1の面において導電部材(ユニット固定板17、ヘッドカバー18)と導通される領域以外の部分に撥液層49が形成され、導電部材が、第1の面における撥液層が形成されていない導通領域50に対して導通し、且つ、電気的に接地される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置に用いられる液体噴射ヘッド、及び、その製造方法に関するものであり、特に、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成部材および当該ノズル形成部材の周縁部に取り付けられる導電部材を備えた液体噴射ヘッド、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドには種々の形式があるが、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)におけるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)は、共通液室から圧力室を経てノズルに至る一連の液体流路が形成された流路ユニットと、圧力室の容積を変動可能な圧力発生手段を有するアクチュエータユニットと、流路ユニットやアクチュエータユニットが固定されるヘッドケースと、を備えたものがある。
【0003】
この記録ヘッドには、流路ユニットの側面および流路ユニットに設けられたノズルプレート(ノズル形成部材の一種)のノズル面周縁部を被覆する金属製のヘッドカバーが設けられている。このヘッドカバーは、接地線に接続されており、ノズルプレートに接触して電気的に導通することで、例えば、記録紙等から発生した静電気がノズルプレートを通じて伝達することによる駆動IC等の損傷や誤作動等の不具合を防止するようになっている。
【0004】
ここで、ノズル周辺部に付着したインクに起因する飛行曲がり等の噴射不良の防止や、ノズル面に付着したインクをワイピング部材により払拭する際の拭き取り性の向上の観点から、ノズルプレートのインクを噴射する側の表面には撥液膜が形成されており、これによりノズルプレート表面の撥液性(撥インク性)が高められている。この撥液膜は絶縁性である場合があるので、ノズルプレートが導電性を有する金属等の素材から作製されている場合、上記ヘッドカバーが取り付けられる部分については撥液膜が除去され、カバーがノズルプレートの素材自体に接触して導通するように構成される(例えば、特許文献1参照)。また、ノズルプレートが電気を通しにくい素材(非導電性部材)、例えば、シリコン単結晶基板で作製されている場合、ノズルプレートのインクを噴射する側の面に、導電性を有する膜が形成され、その上に撥水膜が設けられる構成もある(例えば、特許文献2参照)。なお、シリコンは半導体であるが、本明細書では非導電性の部材として扱う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−256231号公報
【特許文献2】特開2000−203033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ヘッドカバーを通じてノズルプレートを接地する構成においても、静電気の一部が接着剤や撥液膜を通じてノズル側に流れ、これがヘッド内の液体流路中のインクを流れて、駆動ICや振動板などに到達することにより駆動ICの損傷や振動板のクラック等の不具合が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、静電気による不具合を防止または抑制することが可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズルが形成され、液体が噴射される側の第1の面とは反対側の第2の面が液体流路の一部を区画する非導電性のノズル形成部材と、
導電性を有し、前記ノズル形成部材の前記第1の面に接触する導電部材と、
を備え、
前記ノズル形成部材の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズルの内周面に亘って、導電膜が連続した状態で形成され、
前記ノズル形成部材の第1の面において前記導電部材と導通される領域以外の部分に撥液層が形成され、
前記導電部材は、前記ノズル形成部材の第1の面における撥液層が形成されていない領域に対して導通し、且つ、電気的に接地されていることを特徴とする。
なお、導電部材がノズル形成部材に接触する状態には、直接接触する状態のみならず、例えば、接着剤等を介して間接的に接触する状態も含まれる。
【0009】
この構成によれば、ノズル形成部材の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズルの内周面に亘って導電膜が連続した状態で形成され、ノズル形成部材の第1の面において導電部材と導通される領域以外の部分に撥液層が形成され、導電部材が、ノズル形成部材の第1の面における撥液層が形成されていない領域に対して導通し、且つ、電気的に接地されるので、静電気がノズルを通じて液体流路内の液体に流れたとしても、ノズル形成部材における液体に接触する第2の面の導電膜を通じて静電気を導電部材側に流すことができる。これにより、静電気による駆動ICの破損等の不具合をより確実に防止することが可能となる。
【0010】
また、本発明は、ノズル形成部材がシリコン単結晶基板から成る構成に好適である。
【0011】
上記構成において、前記導電膜が、酸化タンタルから成る構成を採用することができる。
【0012】
上記構成において、前記導電部材と前記ノズル形成部材とが導電性接着剤で接合される構成を採用することが望ましい。
【0013】
この構成によれば、導電部材と前記ノズル形成部材とが導電性接着剤で接合されるので、導電部材とノズル形成部材間のがたつきを防止すると共に導通をより確実にすることができる。
【0014】
さらに、本発明は、液体を噴射するノズルが形成され、液体が噴射される側の第1の面とは反対側の第2の面が液体流路の一部を区画する非導電性のノズル形成部材と、導電性を有し、前記ノズル形成部材の前記第1の面に接触する導電部材と、を備えた液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記ノズル形成部材の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズルの内周面に亘って、導電膜を連続した状態で形成する工程と、
前記第1の面における前記導電部材と導通される領域以外の部分に撥液層を形成する工程と、
前記導電部材を、前記ノズル形成部材の第1の面における撥液層が形成されていない領域に対して接触させて当該ノズル形成部材と導通させた状態で取り付ける工程と、
前記導電部材を電気的に接地する工程と、
を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドを斜め上方から観た分解斜視図である。
【図3】ヘッドユニットの分解斜視図である。
【図4】ヘッドユニットの断面図である。
【図5】ヘッドユニットにユニット固定板及びカバー部材が取り付けられた状態を説明する平面図である。
【図6】ノズルプレートの製造工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式プリンター(本発明の液体噴射装置の一種)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を例に挙げて行う。
【0017】
まず、プリンターの概略構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2の表面へ液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、インクを噴射する記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送するプラテンローラー6等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、インクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0018】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
【0019】
図2は、上記記録ヘッド3の構成を示す分解斜視図である。本実施形態における記録ヘッド3は、ケース15と、複数のヘッドユニット16と、ユニット固定板17と、ヘッドカバー18とにより概略構成されている。なお、本実施形態におけるユニット固定板17とヘッドカバー18とは、本発明における導電部材を構成する。
ケース15は、内部にヘッドユニット16や集束流路(図示せず)を収容する箱体状部材であり、上面側に針ホルダ19が形成されている。この針ホルダ19は、インク導入針20を取り付けるための板状部材であり、本実施形態においてはインクカートリッジ7のインク色に対応させて8本のインク導入針20がこの針ホルダ19に横並びに配設されている。このインク導入針20は、インクカートリッジ7内に挿入される中空針状の部材であり、先端部に設けられた導入孔(図示せず)からインクカートリッジ7内に貯留されたインクをケース15内の集束流路を通じてヘッドユニット16側に導入するようになっている。
【0020】
また、ケース15の底面側には、4つのヘッドユニット16が、主走査方向に横並びに位置決めされた状態で各ヘッドユニット16に対応した4つの開口部17′を有する金属製のユニット固定板17に接合されると共に、同じく各ヘッドユニット16に対応する4つの開口部18′が開設された金属製のヘッドカバー18によって固定される。
【0021】
図3は、ヘッドユニット16(記録ヘッド3よりも狭義の液体噴射ヘッド)の構成を示す分解斜視図であり、図4は、ヘッドユニット16の断面図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。
本実施形態におけるヘッドユニット16は、ノズルプレート22、流路基板23、共通液室基板24、及び、コンプライアンス基板25(保護基板)から概略構成され、これらの部材を積層した状態でユニットケース26に取り付けられている。
【0022】
ノズルプレート22(本発明におけるノズル形成部材の一種)は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル27を列状に形成したシリコン単結晶基板から成る部材である。本実施形態では、180dpiのピッチで180個のノズル27を列設することでノズル列が構成されている。また、各ノズル27は、ドライエッチングによって形成され、内径が異なる連続する2つの円筒状の空部から構成されている。即ち、ノズルプレート22の板厚方向におけるインクが噴射される側に形成された内径の小さい円筒と、インクが噴射される側とは反対側(インク流路側)に形成された内径の大きい円筒と、からノズル27が構成されている。ノズル27の形状については、例示したものには限られず、例えば、内径が一定な円筒部(ストレート部)と、噴射側からインク流路側に向けて内径が次第に拡大するテーパー部と、からノズル27が構成されていても良い。上記ノズルプレート22には、後述するように、導電性を付与するための導電膜46と、撥液性を付与するための撥液層49が形成されている。この点の詳細については後述する。
【0023】
流路基板23は、ノズルプレート22と同様に、シリコン単結晶基板によって作製されている。図3に示すように、その上面(共通液室基板24側の面)には二酸化シリコンからなる極薄い弾性膜30が熱酸化によって形成されている。この流路基板23には、図4に示すように、異方性エッチング処理によって複数の隔壁で区画された圧力室31が各ノズル27に対応して複数形成されている。この流路基板23における圧力室31の列の外側には、各圧力室31の共通のインクが導入される室としての共通液室32の一部を区画する連通空部33が形成されている。この連通空部33は、インク供給路34を介して各圧力室31と連通している。
【0024】
流路基板23の上面(ノズルプレート22側とは反対側の面)の弾性膜30上には、金属製の下電極膜と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層と、金属からなる上電極膜とを順次積層することで形成された圧電素子35が圧力室31毎に形成されている。この圧電素子35は、所謂撓みモードの圧電振動子であり、圧力室31の上部を覆うように形成されている。
【0025】
この圧電素子35が形成された流路基板23上には、厚さ方向に貫通した貫通空部36を有する共通液室基板24が配置される。この共通液室基板24は、流路基板23やノズルプレート22と同様にシリコン単結晶基板を用いて作製されている。また、この共通液室基板24における貫通空部36は、流路基板23の連通空部33と連通して共通液室32の一部を区画するようになっている。
【0026】
共通液室基板24の上面(流路基板23とは反対側の面)には、各圧電素子35を駆動するための駆動IC38が設けられている。この駆動IC38の各端子は、図示しないボンディングワイヤー等を介して各圧電素子35の個別電極から引き出された引き出し配線と接続されている。そして、駆動IC38の各端子は、フレキシブルプリントケーブル(FPC)等の外部配線39(図3参照)を介してプリンター1の制御部(図示せず)と電気的に接続され、この外部配線39を介して制御部側からの印刷信号等の各種信号が供給されるようになっている。
【0027】
また、共通液室基板24の上面側には、コンプライアンス基板25が配置される。このコンプライアンス基板25における共通液室基板24の貫通空部36に対向する領域には、インク導入針20側からのインクを共通液室32に供給するためのインク導入口40が厚さ方向に貫通して形成されている。また、このコンプライアンス基板25の貫通空部36に対向する領域のインク導入口40以外の領域は、極薄く形成された可撓部41となっており、この可撓部41によって貫通空部36の上部開口が封止されることで共通液室32が区画形成される。そして、この可撓部41は、共通液室32内のインクの圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能するようになっている。
【0028】
ユニットケース26は、インク導入口40に連通してインク導入針20側から導入されたインクを共通液室32側に供給するためのインク導入路42が形成されると共に、可撓部41に対向する領域にこの可撓部41の膨張を許容する凹部43が形成された部材である。このユニットケース26の中心部、具体的には、共通液室基板24上に設けられた駆動IC38に対向する領域には、厚さ方向に貫通した空部44が開設されており、外部配線39がこの空部44を挿通して駆動IC38と接続されるようになっている。
そして、これらのノズルプレート22、流路基板23、共通液室基板24、コンプライアンス基板25、及び、ユニットケース26は、接着剤や熱溶着フィルム等を間に配置して積層した状態で加熱することで相互に接合される。
【0029】
以上のように構成されたヘッドユニット16を備える記録ヘッド3は、各ノズルプレート22がプラテン5に対向した状態でノズル列方向が副走査方向と一致するようにキャリッジ4に取り付けられる。
そして、各ヘッドユニット16は、インクカートリッジ7からのインクをインク導入路42を通じてインク導入口40から共通液室32側に取り込み、共通液室32からノズル27に至るインク流路(液体流路の一種)をインクで満たす。そして、駆動IC38からの駆動信号を圧電素子35に供給してこの圧電素子35を撓み変形させることによって対応する圧力室31内のインクに圧力変動を生じさせ、このインクの圧力変動を利用してノズル27からインクを噴射させる。
【0030】
次に、ノズルプレート22の詳細、特にその製造工程について説明する。
図6は、ノズルプレート22の製造工程について説明する模式図である。
本実施形態におけるノズルプレート22の材料としては、上述したシリコン単結晶基板22′が用いられ、1つの基板22′から複数のノズルプレート22が作製される。この基板22′に対して、図6(a)に示すように、まずドライエッチングによってノズル27が形成される(ノズル形成工程)。次に、図6(b)に示すように、インクが噴射される側の面(図で下側の面。以下、第1の面)、この面とは反対側の面(図で上側の面。以下、第2の面)、及びノズル27の内周面に、導電膜46が形成される(導電膜形成工程)。この導電膜46は、導電性を有し、尚且つ、耐インク性を有するものが望ましく、本実施形態においては、タンタル酸化物膜から構成される。この導電膜46は、化学蒸着(CVD)法により形成され、その膜厚は、100nm程度である。導電膜46は、上記のように、少なくとも上記の第1の面(特に、導電部材が接触する領域(以下、導通領域50))、第2の面(特に、インク流路のインクが接触する領域)、及び、ノズル27の内周面に形成され、且つ、これらの領域の導電膜46が互いに連続していれば良い。勿論、これらの領域以外、例えば、ノズルプレート22の側面にも導電膜46が形成される構成を採用することもできる。
【0031】
基板22′に導電膜46を形成したならば、続いて、第1の面の導電膜46上に、撥液層49が形成される(撥液層形成工程)。具体的には、先にシリコン材料をプラズマ重合することにより下地膜(PPSi(Plasma Polymerization Silicone)膜)47が成膜され(図6(c))、この下地膜47上に、撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜を成膜し、その後、乾燥処理、アニール処理等を経て撥液膜(SCA(silane coupling agent)膜)48が形成される(図6(d))。金属アルコキシドの分子膜は撥液性を有していればいかなるものでもよいが、フッ素を含む長鎖高分子基(長鎖RF基)を有する金属アルコキシドの単分子膜または撥液基を有する金属酸塩の単分子膜であることが望ましい。金属アルコキシドとしては、例えばケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等が一般的に用いられる。長鎖RF基としては、例えば、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオポリエーテル鎖等が挙げられる。この長鎖RF基を有するアルコキシシランとして、例えば、長鎖RF基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0032】
ここで、上記の撥液層49は、導電膜46と比較して電気的に絶縁性が高いので、第1の面において導電部材が取り付けられて導通される領域、即ち、導通領域50以外の領域のみに形成される。この導通領域50に関し、第1の面の全体に撥液層49を形成した後に該当する部分のみ撥液層49を除去しても良いし、撥液層49を形成する際に該当する部分だけマスクすることで当該部分に最初から撥液層49が形成されないようにしても良い。
【0033】
撥液層49が形成されたならば、基板22′が分割されて複数のノズルプレート22が得られる。このような工程を経て、ノズルプレート22が作製される。このノズルプレート22は、第2の面側に流路基板23が接合される。これにより、第2の面が圧力室31や共通液室32等のインク流路の一部を区画するので、導電膜46がインク流路に露出して当該インク流路中のインクに接触可能な状態となる。また、本実施形態においては、4つのヘッドユニット16が、主走査方向に横並びに位置決めされた状態でユニット固定板17に取り付けられる(導電部材取り付け工程)。このユニット固定板17は、各ヘッドユニット16のノズルプレート22の導通領域50に導電性接着剤51によって接合される。導電性接着剤51としては、例えば、銀、ニッケル、或いは銅等の金属粉や、金メッキが施された導電性ポリマー等の導電材を含有するペースト状の接着剤を用いることができる。また、ペースト状の接着剤には限られず、導電性を有するフィルム状の接着剤を用いることもできる。なお、ユニット固定板17とノズルプレート22とが電気的に導通した状態で接合されていれば、例示した接合方法には限られない。
【0034】
ユニット固定板17と各ヘッドユニット16のノズルプレート22とが接合されたならば、このユニット固定板17の上に重ねるようにヘッドカバー18が取り付けられる(導電部材取り付け工程)。ヘッドカバー18とユニット固定板17との間も導電施接着剤によって接合される構成を採用することができる。このように、本実施形態では導電部材とノズルプレート22とが導電性接着剤で接合されるので、導電部材とノズルプレート22間のがたつきを防止すると共に、導通をより確実にすることができる。
【0035】
ユニット固定板17とヘッドカバー18が取り付けられると、図5に示すように、ユニット固定板17とヘッドカバー18の各開口部17′,18′からは、各ヘッドユニット16のノズルプレート22のノズル開口27が臨む。また、このヘッドカバー18は、図示しない接地線に電気的に接続される(接地工程)。したがって、ノズルプレート22の導電膜46は、導電部材であるユニット固定板17及びヘッドカバー18を通じて接地される。
【0036】
以上のように、ノズルプレート22の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズル27の内周面に、導電膜46が連続した状態で形成され、第1の面において導電部材(ユニット固定板17、ヘッドカバー18)と導通される領域以外の部分に撥液層49が形成され、導電部材が、第1の面における撥液層49が形成されていない領域に対して導通し、且つ、電気的に接地されるので、静電気がノズル27を通じてインク流路内のインクに流れたとしても、ノズルプレート22におけるインクに接触する第2の面に導電膜46が形成されているので、この導電膜46を通じて静電気を導電部材側に逃すことができる(図6(e)における矢印参照。)。これにより、静電気による駆動IC38の破損等の不具合をより確実に防止することが可能となる。
【0037】
ここで、上記ノズルプレート22に関し、本実施形態では、シリコン単結晶基板から作製された例を示したが、これには限られず、導電膜46を形成することが必要な、他の非導電性部材、例えば、ガラス、石英などからノズルプレート22を作製する場合にも本発明は好適である。
【0038】
なお、図6では、撥液層49と固定板17及びヘッドカバー18との間にノズル面の面方向に亘って隙間を設けているが、ノズルプレート22と固定板17の積層方向に対して、接着層49の一部と固定板17及びヘッドカバー18との一部が重なり合うように導電性接着剤51により接着されていても良い。
【0039】
また、以上では、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド3を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…プリンター,3…記録ヘッド,16…ヘッドユニット,17…ユニット固定板,18…ヘッドカバー,22…ノズルプレート,23…流路基板,27…ノズル,31…圧力室,32…共通液室,35…圧電素子,38…駆動IC,46…導電膜,47…下地膜,48…撥液膜,49…撥液層,50…導通領域,51…導電性接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが形成され、液体が噴射される側の第1の面とは反対側の第2の面が液体流路の一部を区画する非導電性のノズル形成部材と、
導電性を有し、前記ノズル形成部材の前記第1の面に接触する導電部材と、
を備え、
前記ノズル形成部材の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズルの内周面に亘って、導電膜が連続した状態で形成され、
前記ノズル形成部材の第1の面において前記導電部材と導通される領域以外の部分に撥液膜が形成され、
前記導電部材は、前記ノズル形成部材の第1の面における撥液膜が形成されていない領域に対して導通し、且つ、電気的に接地されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズル形成部材は、シリコン単結晶基板から成ることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記導電膜が、酸化タンタルから成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記導電部材と前記ノズル形成部材とが導電性接着剤で接合されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
液体を噴射するノズルが形成され、液体が噴射される側の第1の面とは反対側の第2の面が液体流路の一部を区画する非導電性のノズル形成部材と、導電性を有し、前記ノズル形成部材の前記第1の面に接触する導電部材と、を備えた液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記ノズル形成部材の少なくとも第1の面、第2の面、及び、ノズルの内周面に亘って、導電膜を連続した状態で形成する工程と、
前記第1の面における前記導電部材と導通される領域以外の部分に撥液膜を形成する工程と、
前記導電部材を、前記ノズル形成部材の第1の面における撥液膜が形成されていない領域に対して接触させて当該ノズル形成部材と導通させた状態で取り付ける工程と、
前記導電部材を電気的に接地する工程と、
を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−156845(P2011−156845A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22839(P2010−22839)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】