説明

液体噴射ヘッド、及び、液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】気泡の巻き込みによる噴射の不具合を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性基材から成り、インクを噴射するノズル8がエッチング加工により開設されたノズル基板を有し、ノズルは、結晶性基材の板厚方向に同軸上で連続し直径の異なる複数のノズル部から成り、各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径D1の第1ノズル部8aと、当該第1ノズル部に連続し第1の直径よりも大きい第2の直径D2の第2ノズル部8bとの径差が、第1の直径に対して0.1以上0.4以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッド、及び、その製造方法に関するものであり、特に、結晶性基材に対しノズルがエッチング加工により形成された液体噴射ヘッド、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、液体噴射装置は、ノズルから液体を噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録紙等の記録媒体(噴射対象)に対して噴射・着弾させることで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置が応用されている。
【0003】
上記記録ヘッドには、インクを噴射するノズルをノズル基板に複数列設してノズル列とし、ノズルに連通する圧力室の内部に圧力発生手段により圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用してノズルからインクを噴射させる構成のものがある。圧力発生手段としては、圧電素子を用いた圧電方式、発熱素子を用いた熱方式、静電気力を用いた静電方式等がある。
【0004】
従来、上記ノズル基板としては、例えば、ステンレス鋼等の金属製の板材にポンチを用いた塑性加工によってノズルが開設されたものが用いられていた(例えば、特許文献1参照)。この構成におけるノズルは、噴射側の円筒形状のストレート部と、このストレート部に連続して当該ストレート部側から圧力室側に向けて拡径したテーパー部とにより構成されていた。このノズルは、規定量のインクを規定の位置に着弾させるべく寸法や形状に極めて高い精度が求められている。そして、より緻密な高解像度の画像を記録する要請から、ノズルプレートをシリコン単結晶基板(以下、シリコン基板と略記する。)から作製し、この基板に対してエッチング加工によってノズルを形成する構成も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。エッチング加工によりノズルを形成する構成では、塑性加工でノズルを形成する構成と比較してより高い寸法精度でノズルを形成することができる。
【0005】
シリコン基板に対してエッチング加工によってノズルを形成する場合、上記のテーパー部を形成するのが困難である。このため、互いに連通した直径の異なる複数の円筒状のノズル部により複数段のノズルとし、インクの噴射特性を上記のテーパーノズルの噴射特性に近づけるように構成されている。各ノズル部の直径に関し、最も噴射側に位置するノズル部の直径が最も小さく、より圧力室側に位置するノズル部ほど直径が大きくなる。このように各ノズル部の直径を段階的に異ならせるのは、ノズル全体の流路抵抗・イナータンスを考慮して、所望の噴射特性が得られるようにするためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−229127号公報
【特許文献2】特開2007−175992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8は、上記のような複数の円筒状のノズル部から構成されるノズル(多段ノズル)においてインクを噴射する様子(メニスカスの変位の様子)を説明する要部断面図である。なお、図の縦方向上側が圧力室側、下側が噴射側となる。インクを噴射する際には、まず、圧力室が膨張されて当該圧力室内が減圧され、これにより、定常状態ではノズルの噴射側開口近傍に位置するメニスカスが圧力室側に引き込まれる(図8(a)、図8(b))。メニスカスが、噴射側の第1ノズル部から圧力室側の第2ノズル部の境界近傍まで移動した時点で、膨張状態の圧力室が急激に収縮されて圧力室内が加圧される。これにより、メニスカスの中央部が盛り上がり、噴射側に押し出される(図8(c))。その後、噴射するインク滴とメニスカスとを分離させるべく、再度圧力室が膨張される(図8(d))。ここで、噴射側のノズル部と圧力室側のノズル部との間には段差部(隣り合うノズル部同士を連続する面)が生じている。特に、従来のノズルでは、ノズル部同士の直径差が比較的大きく、段差部が大きい傾向にあった。そして、圧力室を急激に収縮させた後、圧力室を再度膨張させる際、図8(d)において矢印で示すように上記段差部の近傍でノズル内周壁側からメニスカス中央部に向けて巻き込むようなインクの流れが生じやすかった。即ち、段差部から比較的離れた位置ではインクがノズル内壁に沿った方向に流れるのに対し、段差部の近傍では段差部の面に沿ったインクの流れが生じるので、複雑なインクの流れにより渦を巻きやすくなる。この巻き込みにより、図8(e)に示すように、インク内に気泡Bが取り込まれてしまう虞があった。このような気泡Bが生じてしまうとインクの飛翔曲がり等が生じる可能性があり、インクの噴射が不安定になる原因となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、気泡の巻き込みによる噴射の不具合を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、結晶性基材から成り、液体を噴射するノズルがエッチング加工により開設されたノズル基板を有し、
前記ノズルは、結晶性基材の板厚方向に同軸上で連続し直径の異なる複数のノズル部から成り、
前記各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径の第1ノズル部と、当該第1ノズル部に連続し前記第1の直径よりも大きい第2の直径の第2ノズル部との径差が、前記第1の直径に対して0.1以上0.4以下であることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、複数のノズル部からなるノズルにおいて、各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径の第1ノズル部と、当該第1ノズル部に連続し前記第1の直径よりも大きい第2の直径の第2ノズル部との径差が、第1の直径に対して0.1以上0.4以下に設定されたので、従来の多段ノズルと比較して、ノズルから液体を噴射する際に気泡の巻き込みを抑制することができる。これにより、エッチング加工により高い寸法精度でノズルを形成した液体噴射ヘッドにおいても気泡による噴射の不具合を防止することが可能となる。
【0011】
また、上記構成において、前記第1ノズル部から遠い位置にあるノズル部ほど直径が大きい構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成において、隣り合うノズル部の径差が、前記第1ノズル部から遠いほど大きい構成を採用することが望ましい。
【0013】
また、本発明は、結晶性基材から成り、液体を噴射するノズルがエッチング加工により開設されたノズル基板を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
結晶性基材に対し、板厚方向に同軸上で連続し直径の異なる複数のノズル部を形成するノズル形成工程を含み、
前記ノズル形成工程において、前記各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径の第1ノズル部と、当該第1ノズル部に連続し前記第1の直径よりも大きい第2の直径の第2ノズル部との径差が、前記第1の直径に対して0.1以上0.4以下に設定されることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、複数のノズル部からなるノズルにおいて、各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径の第1ノズル部と、当該第1ノズル部に連続し前記第1の直径よりも大きい第2の直径の第2ノズル部との径差が、第1の直径に対して0.1以上0.4以下に設定されたので、従来の多段ノズルと比較して、ノズルから液体を噴射する際の気泡の巻き込みを抑制することができる。これにより、エッチング加工により高い寸法精度でノズルを形成した液体噴射ヘッドにおいても気泡による噴射の不具合を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】記録ヘッドの構成を説明する分解斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】ノズルの構成を説明する図である。
【図4】ノズル形成工程を説明する図である。
【図5】ノズルからインクを噴射する際のメニスカスの動きを説明する断面図である。
【図6】ノズルにおける条件を変えつつメニスカスに気泡が巻き込まれるか否かの合否判定を行った実験の結果を示す表である。
【図7】第2の実施形態におけるノズルの構成を説明する図である。
【図8】従来のノズルでインクを噴射する際のメニスカスの動きを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面等を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式プリンター(液体噴射装置の一種)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の記録ヘッド1の構成を示す分解斜視図であり、図2は、記録ヘッド1の圧力室長手方向の断面図である。この記録ヘッド1は、結晶性基材の一種であるシリコン単結晶基板製の流路基板2の一方の面に、同じくシリコン単結晶基板からなるノズル基板3を、流路基板2の他方の面に、ガラス製の電極基板4を各々配置して積層し、各部材間を接着剤によって接合することで3層構造となっている。
【0018】
上記ノズル基板3は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば360dpi)で複数のノズル8が列状に開設された板材である。このノズル基板3の詳細については後述する。上記流路基板2には、その表面から異方性エッチングを施すことにより、インク流路となる溝部が形成されており、この溝部の開口部分がノズル基板3によって塞がれることにより、各ノズル8に対応して設けられた複数の圧力室5、各圧力室共通のインクが導入される共通インク室6(リザーバー)、及び、共通インク室6と各圧力室5とを連通するインク供給路7から成る一連のインク流路が区画されている。
【0019】
流路基板2において、共通インク室6となる溝部の底面には、基板厚さ方向に貫通したインク導入口9が開設されている。また、各圧力室5となる溝部の底面には、ヘッド積層方向(図2において上下方向)に弾性変位可能な弾性面として機能する薄肉部5aが形成されている。さらに、流路基板2には共通電極端子10が形成されている。そして、この流路基板2は導電性を有するので、上記薄肉部5aは、共通電極としても機能するようになっている。なお、流路基板2における電極基板4が接合される面には、無機ガラスからなる絶縁層(図示せず)が設けられている。
【0020】
上記電極基板4は、ホウ珪酸ガラスによって作製されている。このホウ珪酸ガラスは、熱膨張率がシリコンと同程度である。このため、温度変化によるヘッド構成部材間の剥離が生じ難くなっている。この電極基板4の流路基板2に接合される面において、圧力室5の薄肉部5aに対向する位置には、トレイ状に浅くエッチングされた凹部4aが、各圧力室5に対応して形成されている。この凹部4aの底面には、インジウムスズ酸化物(ITO)などの薄膜を積層して形成された個別電極11がそれぞれ敷設されている。各個別電極11は、各圧力室5に対応して延在するセグメント電極11aと、外部に露出している電極端子部11bとから構成されている。そして、電極基板4が流路基板2に接合されると、各圧力室5の薄肉部5aと各個別電極11のセグメント電極11aとが、狭小な隙間を形成した状態でそれぞれ対向する。この隙間は封止材13によって封止されて密閉状態となっている。
【0021】
また、この電極基板4には、基板厚さ方向を貫通したインク導入路12が形成されており、このインク導入路12は、流路基板2との接合状態でインク導入口9と連通するようになっている。このインク導入路12とインク導入口9を通じて、例えばプリンター本体側に設けられたインクタンク(図示せず)からのインクが共通インク室6内に導入されるようになっている。そして、共通インク室6のインクは、この共通インク室6から分岐したインク供給路7を通って各圧力室5に分配供給される。
【0022】
流路基板2の共通電極端子10と、電極基板4の個別電極11との間には、駆動信号が印加される。この駆動信号の電圧が高まると、薄肉部5aと個別電極11(セグメント電極11a)との間に生じる静電気力によって、薄肉部5aが弾性変形して個別電極11側に撓む。この結果、対応する圧力室5の容積が増加して、インク供給路21を通じて共通インク室6側からインクが圧力室5内に流入する。そして、駆動信号の電圧が低下すると、薄肉部5aはその弾性力によって個別電極11から離れて圧力室側に撓む。その結果、圧力室5の容積が減少する。この一連の動作によって圧力室5内のインクに圧力変動が生じる。第1の駆動源28aでは、この圧力変動を利用して第1の圧力室5a内のインクの一部をノズル18からインク滴として噴射するようになっている。即ち、薄肉部5a、共通電極端子10、及び個別電極11は、圧力発生手段として機能する。
【0023】
図3は、本実施形態におけるノズル8の構成を説明する図であり、(a)はノズル8の断面図、(b)は圧力室側から見たノズル8の平面図である。同図に示すように、本実施形態におけるノズル8は、ノズル基板3の板厚方向に同軸上で連続する複数のノズル部から構成されている。より具体的には、最も噴射側に位置する第1ノズル部8a、この第1ノズル部8aの圧力室側に連続する第2ノズル部8b、及び、当該第2ノズル部8bに連続し最も圧力室側に位置する第3ノズル部8cの合計3つの円筒状のノズル部から3段のノズル8が構成されている。
【0024】
各ノズル部8a〜8cの直径はそれぞれ異なっていて、第1ノズル部8aの直径D1(本発明における第1の直径に相当)が最も小さく、第2ノズル部8bの直径D2(本発明における第2の直径)はD1よりも大きく、第3ノズル部8cの直径D3が最も大きくなっている。即ち、第1ノズル部8aから遠い位置にあるノズル部ほど直径が大きくなっている。このように、各ノズル部の直径が異なるため、ノズル基板3の板厚方向に隣り合うノズル部同士の境界には段差部15、即ち、隣り合うノズル部同士を連続する面(ノズル基板の表面と平行な面)がそれぞれ形成されている。即ち、第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとの間には第1段差部15aが、第2ノズル部8bと第3ノズル部8cとの境界には第2段差部15bが、それぞれ形成されている。そして、上記ノズル8は、各ノズル部8a〜8cのうち最も噴射側に位置する第1ノズル部8aの直径D1と、これに連続する第2ノズル部8bの直径D2との差が、直径D1に対して0.1以上0.4以下(0.1≦(D2−D1)/D1≦0.4)となるように各ノズル部8の寸法が設定されている点に特徴を有している。以下、この点について説明する。
【0025】
まず、上記ノズル8を形成する工程について説明する。
図4は、ノズル形成工程の流れを説明する要部断面図である。まず、ノズル基板3となるシリコン基板17の表面(圧力室側となる面)全体にフォトレジスト18が成膜され、その上に第1ノズル穴パターン用のマスク19が形成される(図4(a))。次に、このマスク19を介してフォトレジスト18に対して露光および現像が行われ、第1ノズル部8aに対応する部分に開口20が設けられたレジストパターンが形成される(図4(b))。そして、上記レジストパターンをエッチングマスクとしてシリコン基板17に対し異方性ドライエッチングが行われ、直径D1の第1ノズル部8aが形成される。その後、レジストパターンが除去される(図4(c))。なお、ノズル部の直径は、マスクに設けられる開口の大きさによって調整される。
【0026】
次に、第2ノズル部8bの形成工程に移る。即ち、第1ノズル部8aが形成されたシリコン基板17の全面にフォトレジスト21が再度成膜され、その上に、第2ノズル部パターン用のマスク22が積層される(図4(d))。このマスク22を介して露光および現像が行われ、第2ノズル部8bに対応する部分に開口23が設けられたレジストパターンが形成される(図4(e))。続いて、このレジストパターンをエッチングマスクとして異方性ドライエッチングが行われ、第2ノズル部8bが形成される(図4(f))。この第2ノズル部8bの内径D2は、直径D2との差が当該直径D1に対して0.1以上0.4以下となるように調整される。
【0027】
続いて、第3ノズル部8cの形成工程に移る。即ち、第1ノズル部8a及び第2ノズル部8bが形成されたシリコン基板17の表面にフォトレジスト24が成膜され、この上に、第3ノズル部パターン用のマスク25が積層される(図4(g))。このマスク25を介して露光および現像が行われ、第3ノズル部8cに対応する部分に開口26が設けられたレジストパターンが形成される(図4(h))。続いて、このレジストパターンをエッチングマスクとして異方性ドライエッチングが行われ、第3ノズル部8cが形成される(図4(i))。この第3ノズル部8cの直径D3は、ノズル全体の流路抵抗・イナータンスを考慮して適切な値に調整される。本実施形態においては、第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとの径差(D2−D1)よりも、第2ノズル部8bと第3ノズル部8cとの径差(D3−D2)の方が大きくなっている。即ち、隣り合うノズル部の径差が、第1ノズル部8aから遠いほど大きくなっている。このため、段差部15bの幅L2は、段差部15aの幅L1よりも大きくなっている(図3(a)参照)。なお、勿論、所望の噴射特性が得られれば、第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとの径差(D2−D1)と、第2ノズル部8bと第3ノズル部8cとの径差(D3−D2)とが等しい構成を採用することもできる。
【0028】
以上の工程を経てシリコン基板17にノズル8が形成され、シリコン基板17の噴射側の面に撥水膜の成膜などの必要な表面処理が施されてノズル基板3が完成する。
【0029】
図5は、上記構成のノズル8からインクを噴射する際のメニスカスの動きについて説明するノズル近傍の要部断面図である。
なお、図の上側が圧力室側、下側が噴射側(記録紙等の噴射対象側)となる。ノズル8からインクを噴射する際には、まず、上記圧力発生手段の作動により圧力室5が膨張されて当該圧力室内が減圧され、これにより、定常状態ではノズル8の噴射側開口近傍に位置するメニスカスが圧力室側に引き込まれる(図5(a)、図5(b))。そして、メニスカスのノズル内壁と接触している部分が第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとの境界近傍まで移動した時点で、膨張状態の圧力室5が急激に収縮されて圧力室内が加圧される。これにより、メニスカスの中央部が盛り上がり、噴射側に押し出される(図5(c))。その後、噴射するインク滴とメニスカスとを分離させるべく、再度圧力室5が膨張される(図5(d))。その後、圧力室5が定常容積まで復帰され、ノズル8からは規定量のインクが噴射される(図5(e))。
【0030】
ここで、本発明に係るノズル8では、上記のように第1ノズル部8aの直径D1と第2ノズル部8bの直径D2との差が、直径D1に対して0.1以上0.4以下となるように各ノズル部8の寸法が設定されているので、第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとの間の第1段差部15aは可及的に小さくなっている。これにより、段差部が大きい傾向にあった従来の多段ノズルの場合と比較して、第1段差部15aの近傍でノズル内周壁側からメニスカス中央部に向けて巻き込むようなインクの流れが生じ難くなっている。これにより、気泡がメニスカスに巻き込まれることが抑制されるようになっている。その結果、気泡を原因としてインクの噴射が不安定になることを防止することができる。
【0031】
図6は、ノズル8における第1ノズル部8aの直径D1と第2ノズル部8bの直径D2との差の直径D1に対する比率を変えつつ、メニスカスに気泡が巻き込まれるか否かの合否判定を行った試験の結果を示す表である。なお、気泡の巻き込みが無かった場合を合格(○)とし、気泡の巻き込みが生じた場合を(△又は×)としている。同図に示すように、上記の条件(0.1≦(D2−D1)/D1≦0.4)を満たす場合には、気泡巻き込みに関して何れも合格となっている。一方、上記の条件から外れる((D2−D1)/D1>0.4)場合には、気泡の巻き込みが生じていることが判る。なお、((D2−D1)/D1<0.1)の場合、圧力室5を膨張させて圧力室内を減圧したときにメニスカスが第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとの境界部分を越えて第2ノズル部8b側に移動してしまい、インクの噴射に支障を来す虞がある。
【0032】
なお、ノズル8の形状に関し、上記で例示したものには限られない。例えば、上記の例では、ノズル8が第1ノズル部8aと第2ノズル部8bとにより3段のノズル部8a〜8cで構成された例を示したが、例えば、図7に示すように、4段以上のノズル部でノズル8が構成されてもよい。即ち、図7に示すノズル8は、最も噴射側に位置する第1ノズル部8a、この第1ノズル部8aの圧力室側に連続する第2ノズル部8b、当該第2ノズル部8bの圧力室側に連続する第3ノズル部8c、及び、当該第3ノズル部8cに連続し、最も圧力室側に位置する第4ノズル部8dの合計4つの円筒状のノズル部から構成されている。この構成においても、各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1ノズル部8aの直径D1と第2ノズル部8bの直径D2との差が、直径D1に対して0.1以上0.4以下(0.1≦(D2−D1)/D1≦0.4)となるように各ノズル部8の寸法が設定されていれば、気泡の巻き込みを抑制することができる。
【0033】
なお、上記では、本発明における圧力発生手段として、静電気力によって圧力室の一部を変位させる所謂静電方式のアクチュエーターを例示したが、これには限られず、例えば、圧電素子や発熱素子等の他の圧力発生手段を採用する構成においても本発明を適用することが可能である。
【0034】
また、以上では、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド1を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。そして、ディスプレー製造装置では、色材吐出ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液が吐出される。また、電極製造装置では、電極材吐出ヘッドから液状の電極材料が吐出される。チップ製造装置では、生体有機物吐出ヘッドから生体有機物の溶液が吐出される。
【符号の説明】
【0035】
1…記録ヘッド,3…ノズル基板,5…圧力室,8…ノズル,8a〜8c…ノズル部,15…段差部,17…シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性基材から成り、液体を噴射するノズルがエッチング加工により開設されたノズル基板を有し、
前記ノズルは、結晶性基材の板厚方向に同軸上で連続し直径の異なる複数のノズル部から成り、
前記各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径の第1ノズル部と、当該第1ノズル部に連続し前記第1の直径よりも大きい第2の直径の第2ノズル部との径差が、前記第1の直径に対して0.1以上0.4以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第1ノズル部から遠い位置にあるノズル部ほど直径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
隣り合うノズル部の径差が、前記第1ノズル部から遠いほど大きいことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
結晶性基材から成り、液体を噴射するノズルが開設されたノズル基板を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
結晶性基材に対し、板厚方向に同軸上で連続し直径の異なる複数のノズル部をエッチング加工により形成するノズル形成工程を含み、
前記ノズル形成工程において、前記各ノズル部のうち最も噴射側に位置する第1の直径の第1ノズル部と、当該第1ノズル部に連続し前記第1の直径よりも大きい第2の直径の第2ノズル部との径差が、前記第1の直径に対して0.1以上0.4以下に設定されることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51274(P2011−51274A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203436(P2009−203436)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】