説明

液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置

【課題】副走査方向に隣り合う画素間の隙間に起因する白筋の発生を抑制し、記録品質を向上させることが可能な液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口28に通じる圧力室26をヘッド走査方向に直交する副走査方向に複数列設する流路形成基板21(圧力室形成基板)と、圧力室内のインク(液体)に圧力変動を生じさせ得る圧電振動子16(圧力発生手段)とを備える記録ヘッドにおいて、隣り合う複数の圧力室の組を圧力室セット41とし、当該圧力室セットに対して圧電振動子を1つずつ設け、この圧電振動子を駆動することにより、駆動対象の圧力室セットに対応する各ノズル開口から同時にインク滴を吐出するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関し、特に、ノズル開口に通じる圧力室を形成する圧力室形成基板と、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ得る圧力発生手段を備え、圧力発生源を作動して圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでこの圧力室内の液体をノズル開口から液滴として吐出させる液体噴射ヘッド、及び、これを備える液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を液滴として吐出可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズル開口から液体状のインクをインク滴として記録紙等の吐出対象物に対して吐出・着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式プリンタ等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置が応用されている。
【0003】
上記インクジェット式プリンタ(以下、単にプリンタという)では、記録ヘッドを主走査方向に、記録媒体(吐出対象物)としての記録紙を副走査方向にそれぞれ移動させ、これらの移動に連動してインク滴を吐出させる。このインク滴の吐出は、複数の吐出パルスを一連に含む駆動信号の中から吐出パルスを選択的に圧力発生手段(例えば、圧電振動子)に供給してこれを駆動することにより、圧力室内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動を制御することで行われる。そして、この種のプリンタには、圧力発生手段に供給する吐出パルスの数に応じて、記録紙に形成するドットの大きさを変えることにより、多階調記録を行うように構成されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1のプリンタでは、所定間隔で発生される吐出パルスを一記録周期(一吐出周期)内に複数含ませて一連の駆動信号を構成する。そして、大ドットを形成する場合は記録周期内の3つの吐出パルスを圧力発生手段に供給する。また、中ドットを形成する場合は2つの吐出パルスを圧力発生手段に供給する。さらに、小ドットを形成する場合は1つの吐出パルスを圧力発生手段に供給する。これにより、「大ドット」、「中ドット」、「小ドット」、「非記録」の4階調での記録を行う。
【0005】
【特許文献1】特開2002−103619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1の構成では、大ドットや中ドットを記録する場合のように、複数の吐出パルスを用いて連続的にインク滴を吐出して1つの画素領域にドットを形成する際には、記録ヘッドの主走査方向に複数のインク滴(ドット要素)を着弾させるため、ドット要素eの集合体として形成された画素は、図11に示す大ドットのように、主走査方向に長く副走査方向に短い横長な形状となる。このため、特許文献1の構成では、副走査方向に隣り合う画素間に隙間Gが生じ、この隙間によって記録画像上にざらつきや白筋が発生したりする等、記録画像の画質の低下を招く虞があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、副走査方向に隣り合う画素間の隙間に起因する白筋の発生を抑制し、記録品質を向上させることが可能な液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル開口に通じる圧力室をヘッド走査方向に直交する副走査方向に複数列設する圧力室形成基板と、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ得る圧力発生手段とを備える液体噴射ヘッドであって、
隣り合う複数の圧力室の組を圧力室セットとし、当該圧力室セットに対して前記圧力発生手段を1つずつ設け、
当該圧力発生手段を駆動することにより、駆動対象の圧力室セットに対応する各ノズル開口から同時に液滴を吐出するように構成したことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、1回の吐出動作で形成される単位ドットは、副走査方向に並ぶ複数のドット要素から構成され、これにより、従来よりも副走査方向に長い形状となるので、例えば、液滴を複数回連続的に吐出して単位ドットよりも大きなドットを形成する際には、従来と比較してドット形状を副走査方向に広げることができ、ドット形状のヘッド走査方向と副走査方向のバランスを向上させることができる。つまり、ドット形状のアスペクト比をより1に近づけることができる。このため、本発明をインクジェット式プリンタなどの画像記録装置に適用した場合には、副走査方向に隣り合う画素同士の隙間を抑制することができ、その結果、記録画像におけるざらつきや白筋等の発生を抑えて画質の向上を図ることができる。また、副走査方向のドット(ドット要素を含む。以下、同様)形成密度が高まるので、所定の領域をドットで隙間無く埋める所謂ベタ記録の際には、ヘッドの走査回数、即ち、パスを低減することが可能となり、その結果、記録速度を高めることができる。
【0010】
また、この構成において、前記圧力室セットの隣り合う圧力室同士を区画する区画壁における圧力発生手段側の端面に、圧力発生手段から離隔する方向に窪んだ逃げ段部を設けることが望ましい。
【0011】
上記構成によれば、圧力発生手段の駆動が区画壁によって阻害されることを防止することができる。
【0012】
また、上記構成において、前記圧力室セットを、副走査方向のドット形成密度に基づく規定ピッチで列設し、
圧力室セットを構成する各圧力室を、前記規定ピッチよりも小さいピッチで列設することが望ましい。
なお、圧力室セットのピッチとは、当該圧力室セットの副走査方向の中心から、その隣の圧力室セットの副走査方向の中心までの距離を意味する。
【0013】
この構成において、前記圧力室セットを構成する各圧力室を、前記規定ピッチの1/2のピッチで列設する構成を採用することができる。
【0014】
この構成によれば、副走査方向のドット形成密度が、見かけ上、従来の2倍になるので、吐出対象物の所定の領域をドットで隙間無く埋める際には、パスを半分にすることが可能となり、その結果、吐出動作速度をより高めることができる。
【0015】
さらに、前記圧力室セットを構成する各圧力室を、前記規定ピッチの1/2よりも小さいピッチで列設する構成を採用することができる。
また、前記圧力室セットを構成する各圧力室を、ヘッド走査方向のドット形成密度に対応したピッチよりも小さいピッチで列設する構成を採用することが望ましい。
【0016】
これらの構成によれば、各ドットを構成するドット要素が副走査方向に近接するので、白筋の発生を効果的に抑制することができる。これにより、ベタ記録時に必要なドット量を低減することが可能となり、その結果、パスを少なく抑えて記録速度を向上させることができる。
【0017】
また、前記圧力室セットを、副走査方向のドット形成密度に基づく規定ピッチで列設し、前記圧力室セットに対応する各ノズル開口を、前記規定ピッチよりも小さいピッチで列設する構成を採用しても良い。
【0018】
この構成によれば、圧力室セットにおけるノズル開口の列設ピッチのみを設定するので、圧力室同士を区画する区画壁の厚さ等の圧力室の構造の変更が不要であり、これにより、各圧力室の吐出特性を揃えることができる。
【0019】
上記構成において、前記圧力室セットに対応する各ノズル開口を、前記規定ピッチの1/2のピッチで列設する構成を採用することができる。
【0020】
この構成によれば、副走査方向のドット形成密度が、見かけ上、従来の2倍になるので、吐出対象物の所定の領域をドットで隙間無く埋める際には、パスを半分にすることが可能となり、その結果、吐出動作速度をより高めることができる。
【0021】
さらに、前記圧力室セットに対応する各ノズル開口を、前記規定ピッチの1/2よりも小さいピッチで列設する構成を採用することができる。
また、前記圧力室セットに対応する各ノズル開口を、ヘッド走査方向のドット形成密度に基づくピッチよりも小さいピッチで列設する構成を採用することが望ましい。
【0022】
これらの構成によれば、各ドットを構成するドット要素が副走査方向に近接するので、白筋の発生を効果的に抑制することができる。これにより、ベタ記録時に必要なドット量を低減することが可能となり、その結果、パスを少なく抑えて記録速度を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の液体噴射装置は、上記何れかの構成の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、図1に示すインクジェット式プリンタ(以下、プリンタと略記する)を例示する。
【0025】
プリンタ1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、インクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、記録ヘッド2が搭載されたキャリッジ4を記録紙6(吐出対象物の一種)の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、紙幅方向に直交する方向である紙送り方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8等を備えて概略構成されている。ここで、紙幅方向とは、主走査方向(ヘッド走査方向)であり、紙送り方向とは、副走査方向(即ち、ヘッド走査方向に直交する方向)である。なお、インクカートリッジ3としては、キャリッジ4に装着するタイプでも、或いはプリンタ1の筐体側に装着してインク供給チューブを介して記録ヘッド2に供給するタイプでもよい。
【0026】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダ10によって検出され、検出信号が位置情報としてプリンタコントローラ42(図4参照)に送信される。これにより、プリンタコントローラ42はこのリニアエンコーダ10からの位置情報に基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作(吐出動作)等を制御することができる。
【0027】
また、記録ヘッド2の移動範囲内であってプラテン5よりも外側には、記録ヘッド2の走査起点となるホームポジションが設定してある。このホームポジションには、キャッピング機構11が設けられている。このキャッピング機構11は、キャップ部材11´によって記録ヘッド2のノズル面を封止し、ノズル開口28(図2参照)からのインク溶媒の蒸発を防止する。また、このキャッピング機構11は、封止状態のノズル面に負圧を与えてノズル開口28からインクを強制的に吸引排出するクリーニング動作に用いられる。
【0028】
図2は、上記記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ヘッドケース12と、このヘッドケース12内に収納されるアクチュエータユニット13と、ヘッドケース12の底面(先端面)に接合される流路ユニット14等を備えている。上記のヘッドケース12は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部にはアクチュエータユニット13を収納するための収納空部15が形成されている。アクチュエータユニット13は、櫛歯状に切り分けられた複数の圧電振動子16(本発明における圧力発生手段の一種)と、この圧電振動子16が接合される固定板17とを備えている。また、アクチュエータユニット13の各圧電振動子16には、フレキシブルケーブル18が接続されており、駆動信号発生回路49(図4参照)からの駆動信号がこのフレキシブルケーブル18を通じて供給されるようになっている。
【0029】
本実施形態における圧電振動子16は、電界方向に直交する方向に変位する所謂縦振動モードの圧電振動子であり、駆動信号が供給されると圧電体及び電極の積層方向とは直交する方向に変位(伸縮)する。また、各圧電振動子16は、流路ユニット14の圧力室26の形成ピッチよりも小さいピッチで切り分けられており、隣り合う2つの圧力室26の組からなる圧力室セット41(図6参照)に対して1つずつ対応するように構成されている。この点の詳細については、後述する。
【0030】
図3は、本実施形態における流路ユニット14の構成を説明する分解斜視図である。この流路ユニット14は、流路形成基板21(本発明における圧力室形成基板に相当)の一方の面にノズルプレート22(ノズル形成基板)を、流路形成基板21の他方の面に振動板23(封止板)を、それぞれ接合して一体化することにより作製されており、図2に示すように、リザーバ24(共通液体室)から、インク供給口25、圧力室26、ノズル連通口27、及びノズル開口28に至るまでの一連のインク流路(液体流路)を形成する。
【0031】
上記ノズルプレート22は、複数のノズル開口28を列状に穿設した金属製の薄いプレートである。本実施形態では、このノズルプレート22をステンレス製の板材によって構成し、ノズル開口28の列(ノズル列)を複数設けている。そして、1つのノズル列は、360個のノズル開口28によって構成され、各ノズル開口28は、圧力室26(流路形成基板21の空部38)にそれぞれ1対1に対応して360dpiで開設されている。
【0032】
ノズルプレート22と振動板23との間に配置される流路形成基板21は、インク流路となる部分、具体的には、リザーバ24となる開口部36、インク供給口25となる溝部37、及び、圧力室26となる空部(圧力室空部)38が区画形成された板状の部材であり、本実施形態においては、結晶性を有する基材であるシリコンウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。上記の空部38は、主走査方向に細長い凹部であり、一端が溝部37を介して開口部36と連通すると共に、他端はノズル連通口27を通じてノズルプレート22のノズル開口28に連通するように構成されている。そして、この空部38は、流路形成基板21において副走査方向に複数列設されている。なお、本実施形態においては、隣り合う2つの空部38が組となっており、この組となった空部38同士によって圧力室セット41(図6参照)が構成されるようになっている。この点の詳細については後述する。
【0033】
上記振動板23は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板29の表面にPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂フィルムを弾性薄膜部30としてラミネートした複合板材によって構成されている。この振動板23には、圧電振動子16の伸縮駆動に応じて変形して圧力室26内のインク(液体の一種)に圧力変動を生じさせ得るダイヤフラム部31が形成されている。このダイヤフラム部31は、圧電振動子16の先端面が接続される部分を島部33として残した状態でその周囲の支持板29をエッチング処理で除去して弾性薄膜部30のみとすることで構成されている。
【0034】
また、この振動板23には、流路形成基板21の開口部36の一方の開口面を封止し、リザーバ24の一部を区画するコンプライアンス部32が形成されている。このコンプライアンス部32は、リザーバ24(開口部36)に対応する領域の支持板29を、エッチング加工によって除去することにより、弾性薄膜部30のみとされている。そして、このコンプライアンス部32は、圧電振動子16の駆動時のリザーバ24内のインクの圧力変動を緩和するダンパーとして機能する。
【0035】
上記流路ユニット構成部材、即ち、振動板23、流路形成基板21、及びノズルプレート22には、位置決めピン(図示せず)に挿通可能な基準穴40(40a,40b,40c)が各部材の板厚方向を貫通してそれぞれ開設されている。そして、各流路ユニット構成部材は、各々の基準穴40に位置決めピンを挿通することで相対的な位置が合わされた上で接着剤等によって接合され、ノズルプレート22を下側にした姿勢でヘッドケース12に固定される。
【0036】
図4はプリンタの電気的な構成を示すブロック図である。本実施形態におけるプリンタ1は、プリンタコントローラ42とプリントエンジン43とで概略構成されている。プリンタコントローラ42は、ホストコンピュータ等の外部装置からの印刷データ等が入力される外部インタフェース(外部I/F)44と、各種データ等を一時的に記憶するワークメモリとして利用されるRAM45と、各種データ処理のための制御プログラムやフォントデータ及びグラフィック関数等を記憶したROM46と、各部の制御を行う制御部47と、クロック信号を発生する発振回路48と、記録ヘッド2へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路49と、印刷データをドット毎に展開することで得られた吐出データや駆動信号等を記録ヘッド2に出力するための内部インタフェース(内部I/F)50とを備えている。
【0037】
制御部47は、ROM46に記憶されている制御プログラムに基づいて、各部の統合的な制御を行うほか、外部装置から外部I/F44を通じて受信した印刷データを、記録ヘッド2で用いられる吐出データ(ドットパターンデータ)に変換する。具体的には、制御部47は、RAM45の受信バッファに一旦記憶された印刷データを読み出し、中間コードデータに変換してRAM45の中間バッファに記憶させる。そして、変換した中間コードデータを、フォントデータ及びグラフィック関数等を参照してドットパターンに対応した吐出データに変換し、RAM45の出力バッファに格納する。そして、記録ヘッド2の1回の主走査で記録可能な1行分の吐出データが得られたならば、制御部47は、出力バッファに格納されている1行分の吐出データを内部I/F50を通じて記録ヘッド2に出力する。
【0038】
上記プリントエンジン43は、記録ヘッド2、キャリッジ移動機構7、紙送り機構8、及び、リニアエンコーダ10を備えている。キャリッジ移動機構7は、記録ヘッド2が取り付けられたキャリッジと、このキャリッジをタイミングベルト等を介して走行させる駆動モータ(例えば、DCモータ)等からなり、記録ヘッド2を主走査方向に移動させる。紙送り機構8は、紙送りモータ及び紙送りローラ等からなり、記録紙6を順次送り出して副走査を行う。また、リニアエンコーダ10は、キャリッジ4に搭載された記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダパルスを、主走査方向における位置情報として内部I/F50を通じて制御部47に出力する。これにより制御部47は、リニアエンコーダ10側から受信したエンコーダパルスに基づいて記録ヘッド2の主走査方向の位置を把握することができる。
【0039】
上記の駆動信号発生回路49は、複数の吐出パルス(吐出波形)を含んだ一連の駆動信号を発生する。この吐出パルスは、圧電振動子16を伸縮駆動してノズル開口28からインク滴(液滴の一種)を吐出させ得るパルスであり、図5に例示した駆動信号COMは、一記録周期T内に3つの吐出パルス(第1吐出パルスP1,第2吐出パルスP2,第3吐出パルスP3)を含んでいる。そして、駆動信号発生回路49は、この駆動信号COMを記録周期T毎に繰り返し発生する。これらの第1吐出パルスP1〜第3吐出パルスP3は、何れも同じ波形の信号によって構成されており、中間電位VMから最高電位VHまでインク滴を吐出させない程度の一定勾配で電位を上昇させる膨張要素p1と、最高電位VHを所定時間保持する膨張ホールド要素p2と、最高電位VHから最低電位VLまで急勾配で電位を下降させる吐出要素p3と、最低電位VLを所定時間保持する収縮ホールド要素p4と、最低電位VLから中間電位VMまで電位を復帰させる制振要素p5とを含んで構成されている。
【0040】
これらの第1吐出パルスP1〜第3吐出パルスP3を圧電振動子16に供給すると、各吐出パルスP1〜P3が供給される毎に規定量のインク滴がノズル開口28から吐出される。そして、一記録周期T内に供給する吐出パルス信号の数を変えることで、1つの画素形成領域(記録紙6における仮想上の領域)中に記録されるドットの大きさを異ならせることができる。本実施形態では、吐出データ(11)の場合には、一記録周期T内の3つの吐出パルスP1〜P3を圧電振動子16に連続的に供給することでインク滴の吐出動作を3回連続して行い、画素形成領域に大ドットを記録する。吐出データ(10)の場合には、一記録周期T内の第1吐出パルスP1と第2吐出パルスP3との計2つの吐出パルスを圧電振動子16に供給することで、インク滴の吐出動作を2回連続して行い、画素形成領域に中ドットを記録する。吐出データ(01)の場合には、一記録周期T内の第2吐出パルスP2を圧電振動子16に供給することで、画素形成領域に小ドットを記録する。なお、吐出データ(00)の場合には、吐出パルスが圧電振動子16に供給されないため、画素形成領域にはドットが形成されない。
【0041】
このように、上記プリンタ1は、大ドット或いは中ドットを形成する場合に、複数の吐出パルスを用いて連続的にインク滴を吐出することで、記録紙6に対して主走査方向に複数のインク滴を着弾させるように構成されている。なお、本実施形態において、主走査方向の設計上の解像度(基本解像度)は、360dpiに設定されている。したがって、例えば、大ドットを形成する場合には、3つのインク滴(単位ドット)が主走査方向に360dpiで並ぶ(図9(b)参照)。
【0042】
ここで、上記のプリンタ1における記録ヘッド2は、隣り合う複数の圧力室26の組を圧力室セット41とし、当該圧力室セット41に対して圧電振動子16を1つずつ対応させて設け、圧電振動子16を駆動することにより、駆動対象の圧力室セット41に対応する各ノズル開口28から同時にインク滴を吐出するように構成していることに特徴を有する。以下、この点について詳細に説明する。
【0043】
図6は、流路形成基板21の要部平面図、図7は、流路ユニット14のX−X線断面図、図8は、流路ユニット14のY−Y線断面図である。同図に示すように、本実施形態では、隣り合う2つの圧力室26によって1つの圧力室セット41が構成されている。各圧力室セット41は、例えば、180dpiに対応する規定ピッチAで副走査方向に列設され、圧力室セット41を構成する各圧力室26は、規定ピッチAよりも小さい360dpiに対応するピッチBで列設されている。即ち、各圧力室26は、規定ピッチAの1/2のピッチで列設されている。また、ノズル開口28は、インク供給口25側とは反対側の圧力室26の端部領域において当該圧力室26の幅員の中心線CL上に配置されている。そして、振動板22の島部33とアクチュエータユニット13の圧電振動子16は、圧力室セット41(組となった圧力室26)に対して1対1に設けられている。
【0044】
圧力室セット41の隣り合う圧力室26同士は、区画壁51によって区画されている。この区画壁51の上端面(圧電振動子16側の端面)の島部33に対応する部分は、振動板33と接合されていない。この部分には、流路形成基板21の厚さ方向(圧電振動子16から離隔する方向)の途中まで窪んだ逃げ段部52が設けられている。この逃げ段部52を設けることにより、圧電振動子16の伸縮駆動に伴う島部33の変位が区画壁51によって阻害されることを防止することができる。また、アクチュエータユニット13の各圧電振動子16の先端の位置にばらつきがある場合においても、この逃げ段部52と島部33との間に形成される隙間によってばらつきを吸収することができ、圧電振動子16に対する機械的ストレスを防止することができる。
【0045】
そして、上記構成の記録ヘッド2では、フレキシブルケーブル18を通じて圧電振動子16に吐出パルスが供給されると、まず、膨張要素p1によって圧電振動子16が素子長手方向に収縮して島部33が圧力室26から離隔する方向に変位し、これにより駆動対象の圧力室セット41を構成する各圧力室26が、中間電位VMに対応する基準容積から最高電位VHに対応する膨張容積まで膨張する。この圧力室26の膨張により、各圧力室26内にはリザーバ24側からインク供給口25を通じてインクが供給される。そして、この圧力室26の膨張状態は、膨張ホールド要素p2の供給期間中に亘って維持される。
【0046】
その後、吐出要素p3が供給されて圧電振動子16が伸長して島部33が圧力室26に近接する方向に変位する。これにより、圧力室セット41の各圧力室26は、膨張容積から最低電位VLに対応する収縮容積まで急激に収縮される。上述したように圧力室セット41の隣り合う圧力室26の間の区画壁51の上端面には逃げ段部52が設けられているので、島部33が区画壁51の上端面に当たることなく圧力室26を収縮させることができる。各圧力室26の収縮により、それぞれの内部のインクが加圧され、駆動対象の圧力室セット41に対応する各ノズル開口28から同時にインク滴が吐出される。圧力室26の収縮状態は、収縮ホールド要素p4の供給期間に亘って維持され、この間に、インク滴の吐出によって減少した圧力室26内の圧力は、その固有振動によって再び上昇する。この上昇タイミングにあわせて制振要素p5が供給される。この制振要素p5の供給により、圧力室26が基準容積まで膨張復帰し、圧力室26内のインクの圧力変動が吸収される。
【0047】
駆動対象の圧力室セット41の各ノズル開口28から同時に吐出された2つのインク滴は、図9(a)に示すように、副走査方向に並んだ状態で記録紙6上にドット要素eとして着弾し、これらの2つのドット要素eによって1つの小ドットS(単位ドット)が形成される。即ち、本実施形態における小ドットSは、360dpiで副走査方向に並ぶ2つのドット要素eによって構成される。そして、例えば、一記録周期T内の計3つの吐出パルスP1〜P3を圧電振動子16に連続的に供給することでインク滴の吐出動作を3回連続して行い、1つの画素形成領域に大ドットを記録する場合には、図9(b)に示すように、単位ドットが主走査方向に3つ並んで1つの大ドットLが形成される。同図では、360dpiで主走査方向に3つ、180dpiで副走査方向に2つそれぞれ並べて合計6つの大ドットを示している。
【0048】
このように、上記のプリンタ1における記録ヘッド2は、隣り合う複数の圧力室26を組とする圧力室セット41に対して圧電振動子16を1つずつ対応させて設け、この圧電振動子16を駆動することにより、駆動対象の圧力室セット41に対応する各ノズル開口28から同時にインク滴を吐出するように構成したので、一記録周期中の複数の吐出パルスを用いて連続的にインク滴を吐出することでより大きいサイズのドットを形成する場合には、従来と比較してドット形状を副走査方向に広げることができ、ドット形状のヘッド走査方向と副走査方向のバランスを向上させることができる。つまり、アスペクト比をより1に近づけることができる。このため、副走査方向に隣り合う画素同士の隙間を抑制することができ、その結果、記録画像におけるざらつきや白筋等の発生を抑えて画質の向上を図ることができる。本実施形態においては、副走査方向のドット形成密度が、見かけ上、本発明を適用しない場合と比べて2倍になるので、記録紙6の所定の領域をドットで隙間無く埋める所謂ベタ記録の際には、ヘッドの走査回数(パス)を半分にすることが可能となり、その結果、記録速度を高めることができる。
【0049】
また、本発明は、圧電振動子16に関し、形成ピッチを変更する必要が無く、従前の構成のものをそのまま流用することができるので簡便であり、個々の圧電振動子16のサイズも従前と変わらないので、変位効率が低下することもない。また、製造上の都合により圧電振動子16の列設方向の幅を小さく作成できない場合も同様である。
【0050】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0051】
上記実施形態においては、圧力室26及びノズル開口28を、圧力室セット41の形成ピッチ(規定ピッチA)の1/2のピッチで列設した構成を例示したが、これには限られない。例えば、圧力室26及びノズル開口28を、圧力室セット41の形成ピッチの1/2よりも小さいピッチで列設する構成を採用することもできる。特に、圧力室26及びノズル開口28を、主走査方向の基本解像度に対応するドット形成密度(360dpi)に基づくピッチよりも小さいピッチで列設することが望ましい。これらの構成によれば、各ドットを構成するドット要素が副走査方向に近接するので、白筋の発生を効果的に抑制することができる。これにより、ベタ記録時に必要なドット量を低減することが可能となり、その結果、記録速度を向上させることができる。
【0052】
また、以上では、圧力室26の幅員の中心線(副走査方向の中心線)CL上にノズル開口28の中心が位置することを前提として、圧力室セット41における圧力室26の列設ピッチとノズル開口28の列設ピッチを同一とした構成を例示したが、これには限らない。例えば、図10に示す第2実施形態のように、圧力室セット41におけるノズル開口28の列設ピッチのみを変更することも可能である。この第2実施形態では、各圧力室セット41の列設ピッチ(規定ピッチA)と、圧力室セット41を構成する各圧力室26の列設ピッチについては、図6に示した第1実施形態の構成と同様であるのに対し、各圧力室セット41におけるノズル開口28の列設ピッチB′を、規定ピッチAよりも小さく、より具体的には、規定ピッチAの1/2よりも小さく設定している。即ち、ノズル開口28の配置位置を、圧力室26の副走査方向の中心線CLに対して、同じ圧力室セット41を構成する隣の圧力室26側にオフセットさせている。また、この構成において、ノズル開口28の列設ピッチB′を主走査方向の基本解像度に対応するドット形成密度に基づくピッチよりも小さいピッチで列設することが望ましい。なお、この第2実施形態において、各圧力室セット41におけるノズル開口28の列設ピッチB′を、規定ピッチAの1/2に設定した場合は、上記第1実施形態と同じ構成となる。
【0053】
この第2実施形態の構成においても、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏する。さらに、第2実施形態の構成によれば、圧力室セット41におけるノズル開口28の列設ピッチのみを設定するので、圧力室同士を区画する区画壁51の厚さ等の圧力室26の構造の変更が不要であり、これにより、各圧力室26の吐出特性を揃えることができる。
【0054】
また、以上では、液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッド2を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】プリンタの構成を説明する斜視図である。。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】流路ユニットの構成を説明する分解斜視図である。
【図4】プリンタの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】駆動信号の構成を説明する図である。
【図6】流路形成基板の構成を説明する要部平面図である。
【図7】図6におけるX−X線断面図である。
【図8】図6におけるY−Y線断面図である。
【図9】(a)は単位ドットの構成を説明する模式図、(b)は大ドットの構成を説明する模式図である。
【図10】第2実施形態における流路形成基板の構成を説明する要部平面図である。
【図11】従来における大ドットの構成を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1…プリンタ,2…記録ヘッド,4…キャリッジ,6…記録紙,12…ヘッドケース,13…アクチュエータユニット,14…流路ユニット,16…圧電振動子,21…流路形成基板,22…ノズルプレート,23…振動板,24…リザーバ,25…インク供給口,26…圧力室,27…ノズル連通口,28…ノズル開口,33…島部,41…圧力室セット,51…区画壁,52…逃げ段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に通じる圧力室をヘッド走査方向に直交する副走査方向に複数列設する圧力室形成基板と、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ得る圧力発生手段とを備える液体噴射ヘッドであって、
隣り合う複数の圧力室の組を圧力室セットとし、当該圧力室セットに対して前記圧力発生手段を1つずつ設け、
当該圧力発生手段を駆動することにより、駆動対象の圧力室セットに対応する各ノズル開口から同時に液滴を吐出するように構成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記圧力室セットの隣り合う圧力室同士を区画する区画壁における圧力発生手段側の端面に、圧力発生手段から離隔する方向に窪んだ逃げ段部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室セットは、副走査方向のドット形成密度に基づく規定ピッチで列設され、
圧力室セットを構成する各圧力室は、前記規定ピッチよりも小さいピッチで列設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記圧力室セットを構成する各圧力室は、前記規定ピッチの1/2のピッチで列設されていることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記圧力室セットを構成する各圧力室は、前記規定ピッチの1/2よりも小さいピッチで列設されていることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記圧力室セットを構成する各圧力室は、ヘッド走査方向のドット形成密度に基づくピッチよりも小さいピッチで列設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記圧力室セットは、副走査方向のドット形成密度に基づく規定ピッチで列設され、
前記圧力室セットに対応する各ノズル開口は、前記規定ピッチよりも小さいピッチで列設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記圧力室セットに対応する各ノズル開口は、前記規定ピッチの1/2のピッチで列設されていることを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記圧力室セットに対応する各ノズル開口は、前記規定ピッチの1/2よりも小さいピッチで列設されていることを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記圧力室セットに対応する各ノズル開口は、ヘッド走査方向のドット形成密度に基づくピッチよりも小さいピッチで列設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1から請求項10の何れかに記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−136956(P2007−136956A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336037(P2005−336037)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】