説明

液体噴射ヘッド、及び液体噴射装置

【課題】硬化した余剰の接着剤に起因する液体流路の目詰まり等を防止する液体噴射ヘッド、及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口のそれぞれに通じるノズル連通口及び前記ノズル連通口と繋がり、ノズルプレートに平行な方向に伸びた圧力室を備える圧力室形成基板と、前記圧力室形成基板に接合される封止板と、前記封止板の前記圧力室に対応する箇所に位置し、同封止板に変形をおこさせる圧電素子と、を有し、前記ノズルプレートと前記圧力室形成基板及び前記圧力室形成基板と前記封止板とは、接着剤により接続されており、前記ノズル連通口は、前記ノズルプレート面を底辺として、同底辺に繋がる前記圧力室側の壁面を第1壁面とした場合に、前記第1壁面と同第1壁面に相接する第2壁面の二つの面とには、前記ノズル連通口の外側に向かって落ち込んだ凹み部を有し、前記凹み部は、前記ノズル開口側に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する液体噴射ヘッド、及びこの液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の液体噴射ヘッドは、液体導入口からリザーバ(共通液室)及び圧力室を通ってノズル開口に至る一連の液体流路を備えており、圧力発生素子によって圧力室に圧力変動を生じさせ、ノズル開口から液滴を噴射させるものである。この液体噴射ヘッドは複数の部品を接着することで作製されている。例えば、圧力室やノズル開口を有する流路ユニットを、複数のプレート状部材によって構成し、流路ユニットの作製工程では、これらのプレート状部材を積層状態で接着している。また、流路ユニットの取付工程では、この流路ユニットとケースとの間を接着している。そして、これらのケースや流路ユニットには、上記の液体流路が形成されている。
【0003】
複数の構成部品を接着剤で接着した場合、接着剤の一部が上記の液体流路内に露出した状態で硬化してしまうことがある。そして、この接着剤が万一剥がれてしまうと、液体の流れを悪くしたりノズル開口を詰まらせてしまったりする。例えば、ノズル連通口の縁(隅角部)で硬化した接着剤が部分的に剥離すると、この剥離部分が髭状になって、具体的には、一端がノズル連通口の壁面に接着されたままで自由端部が液体の流れに乗った状態になって、その先端部がノズル開口から外側に露出してしまうことがある。このため、液体噴射ヘッドの形成過程において、液体流路内に露出した接着剤を溶剤等を用いて洗浄することで、液体流路の不良を防止する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−114556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体流路内に露出した接着剤を溶剤等により完全に除去できない場合がある。また、溶剤等を用いた洗浄を行うことはそれだけ液体噴射ヘッドの組み立てに要する工数が多くなることを意味するため、コスト面においても問題が生じる場合がある。
【0006】
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、硬化した余剰の接着剤に起因する液体流路の目詰まり等を防止する液体噴射ヘッド、及び液体噴射装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、液体を噴射するノズル開口が複数形成されたノズルプレートと、前記ノズル開口のそれぞれに通じるノズル連通口及び前記ノズル連通口と繋がり、前記ノズルプレートに平行な方向に伸びた圧力室を備える圧力室形成基板と、前記圧力室形成基板に接合される封止板と、前記封止板の前記圧力室に対応する箇所に位置し、同封止板に変形をおこさせる圧電素子と、を有し、前記ノズルプレートと前記圧力室形成基板及び前記圧力室形成基板と前記封止板とは、接着剤により接続されており、前記ノズル連通口は、前記ノズルプレート面を底辺として、同底辺に繋がる前記圧力室側の壁面を第1壁面とした場合に、前記第1壁面と同第1壁面に相接する第2壁面の二つの面とには、前記ノズル連通口の外側に向かって落ち込んだ凹み部を有し、前記凹み部は、前記ノズル開口側に形成されている構成としてある。
【0008】
上記のように構成された発明では、ノズルプレートと圧力室形成基板及び圧力室形成基板と前記封止基板とは、接着剤により接続されており、この接着剤がノズル連通口内部で硬化してしまう場合がある。そのため、ノズル連通口は、ノズルプレート面を底辺として、同底辺に繋がる圧力室側の壁面を第1壁面とした場合に、第1壁面と同第1壁面に相接する第2壁面の二つの面とには、ノズル開口側に、ノズル連通口の外側に向かって落ち込んだ凹み部を有している。そのため、接着剤がこの凹み部に溜まりつつ硬化することで、同接着剤がノズル開口に達するのを防止することができ、硬化した余剰の接着剤に起因する液体流路の目詰まり等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクジェット式記録ヘッド1の断面図である。
【図2】流路ユニット2の構造を説明する図である。
【図3】ノズル連通口3の構造を説明する図である。
【図4】流路形成基板17におけるノズル連通口3付近を示す内部断面図である。
【図5】液体噴射装置の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
1.インクジェット式記録ヘッドについて:
2.液体噴射装置について:
【0011】
1.インクジェット式記録ヘッドについて:
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置に用いられるインクジェット式記録へッド(本発明の液体噴射ヘッドの一種。)を例に挙げて行うことにする。
【0012】
図1は、インクジェット式記録ヘッド1の断面図である。また、図2は流路ユニット2の構造を説明する図である。そして、図3はノズル連通口3の構造を説明する図である。
【0013】
図1に示すように、インクジェット式記録ヘッド1は、複数の圧電振動子4を有する振動子ユニット5と、この振動子ユニット5を収納可能なケース6と、ケース6の先端面に接合される流路ユニット2とを備えている。
【0014】
振動子ユニット5は、複数の圧電振動子4、固定板7、及び、フレキシブルケーブル8等をユニット化した部品である。圧電振動子4は、圧力発生素子の一種であり、電気機械変換素子の一種でもある。本実施形態の圧電振動子4は、30μm〜100μm程度の極めて細い幅に切り分けられた櫛歯状に形成されている。そして、各圧電振動子4は、自由端部を固定板7の縁よりも外側に突出させた片持ち梁の状態で取り付けられている。この圧電振動子4は、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成された積層型の圧電振動子4であって、電界方向に直交する縦方向に伸縮可能な、言い換えれば、素子の長手方向に振動可能なタイプの圧電振動子4である。従って、圧電振動子4は、充電により自由端部が振動子長手方向に収縮し、放電により自由端部が素子長手方向に伸長する。固定板7は、上記した様に、各圧電振動子4が接合される部品である。本実施形態では放熱性が良好な金属板、具体的には、厚さ0.7mm〜1mm程度のステンレス鋼板を用いている。また、フレキシブルケーブル8は、各圧電振動子4に駆動信号を供給する可撓性を備えた配線部材であり、振動子基端部にて各圧電振動子4と電気的に接続されている。
【0015】
ケース6は、収納空部9、及び、インク供給路10を形成した合成樹脂製のブロック状部材である。本実施形態ではこのケース6をエポキシ系樹脂を射出成型することで作製している。収納空部9は、振動子ユニット5を収納するための空部である。振動子ユニット5は、固定板7を収納空部9の壁面に接着することで、この収納空部9内に固定されている。この収納状態において、圧電振動子4の先端面は収納空部9の先端側開口に臨み、流路ユニット2の島部11に接合されている。また、インク供給路10は、ケース6の取付面側からリザーバ12までの間を連通するインク流路であり、共通液体流路の一部を構成する。このインク供給路10は、ケース6の高さ方向を貫通させて設けられており、ケース6の取付面側にて図示しないインクタンクと接続されている。
【0016】
流路ユニット2は、リザーバ12から各圧力室14を通って対応するノズル開口15に至る一連の個別インク流路(個別液体流路の一種)を、ノズル開口15に対応する複数設けた部品である。この流路ユニット2は、ノズルプレート16と流路形成基板(圧力室形成基板)17と弾性板18とから構成され、ノズルプレート16を流路形成基板17の一方の表面に接着し、弾性板18を流路形成基板17の他方の表面に接着することで作製される。
【0017】
ノズルプレート16は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口15を列状に開設した薄いプレート状部材である。本実施形態では、100ミクロン程度の薄いステンレス鋼板に180dpiのピッチで96個のノズル開口15を穿設している。また、ノズル開口15の直径は最細部で40ミクロン前後である。そして、列設された複数のノズル開口15によってノズル列を構成している。このノズル列は、噴射可能なインクの種類に応じた数が設けられる。例えば、カラー記録が可能なインクジェット式記録ヘッド1にあっては、4条〜7条のノズル列が横並びに設けられる。
【0018】
流路形成基板17は、ノズルプレート16の各ノズル開口15に対応させて圧力室14となる空部を隔壁で区画した状態で複数形成すると共に、ノズル連通口3及びリザーバ12となる空部等を形成した板状の部材である。本実施形態における流路形成基板17は、厚さ300ミクロン程度のシリコンウエハーに対して異方性エッチング処理を施すことにより作製される。これは、結晶面によって圧力室14,ノズル連通口3,インク供給口19等を区画できるため、極めて微細な形状であっても寸法精度良く作製できるからである。
【0019】
図2(b)に示すように、圧力室14は、ノズル開口15の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室であり、偏平な凹室で構成されている。本実施形態の圧力室14は、表面に現れるシリコン結晶面の関係により、細長い並行四辺形状に作製される。そして、圧力室14の長さ(長手方向の長さ)は1〜2mm程度であり、幅(短尺方向の長さ)は100ミクロン程度である。また、リザーバ12から遠い側に位置する圧力室14の長手方向一端部には、板厚方向を貫通するノズル連通口3を設ける。このノズル連通口3は、図2(c)に示すように、圧力室14とノズル開口15との間を連通する。このノズル連通口3も結晶面の関係から、平面から見て横に細長い平行四辺形状の貫通口として形成され、その長さ(圧力室長手方向の長さ)は400ミクロン前後であり、その幅は圧力室14よりもやや狭い80ミクロン程度である。そして、各ノズル開口15は、図2(b)や図3に示すように、対応するノズル連通口3が臨むように、圧力室14の長手方向一端に配置される。
【0020】
インク供給口19は、圧力室14の長手方向他端とリザーバ12との間に形成された溝状部であり、その流路幅は圧力室14よりも十分に狭く設けられる。そして、このインク供給口19、圧力室14、及び、ノズル連通口3によって、一連の個別インク流路が構成される。
【0021】
図2(a)に示すように、弾性板(封止板)18は、支持板20上に弾性体膜21をラミネート加工した二重構造である。本実施形態では、支持板20として厚さ30ミクロン程度のステンレス鋼板を用い、弾性体膜21として厚さ数ミクロンの樹脂フィルム(例えば、ポリフェニレンサルファイド)を用いている。この弾性板18は、圧力室14の一方の開口面を封止するダイヤフラム部とリザーバ12の一方の開口面を封止するコンプライアンス部とを備えている。そして、ダイヤフラム部は、圧力室14に対応した部分の支持板20を環状にエッチング加工することで作製されており、環内に島部11が設けられる。また、コンプライアンス部は、支持板20を部分的にエッチング加工で除去し、リザーバ12に面する部分を弾性体膜21だけにすることで作製される。
【0022】
図3に示すように、流路形成基板17のノズル連通口13を構成するよう相接する隔壁171(第1壁面)、隔壁172(第2壁面)のノズルプレート16と相接側の部位には、ノズル連通口13の径方向外側に向かって奥まった凹み部173が形成されている。この凹み部173は、隔壁171及び隔壁172のノズルプレート16と相接する側の部位を、ノズル連通口13の径方向外側に向けて切除して形成されている。そのため、凹み部173は、ノズル連通口13の開口中心から距離Lbだけ径方向外側に奥まった位置からノズル連通口13の連通方向に延設した側壁173b、173c(ノズルプレート16と垂直となる部位とも記載する。)と、この側壁173b、173cのノズルプレート16と反対側の位置であってノズル連通口13の径方向内側に向けて延設する段面173aとで形成される。
【0023】
本実施形態では、凹み部173は、流路形成基板17をエッチングすることで凹み部173を成形している。より具体的には、凹み部173の側壁173b、173cの長さ(ノズルプレート16から段面173aまでの長さ)をLa、ノズル開口15中心から側壁173b、173cまでの距離をLbとした場合に、Lb>Laとなる関係を有するよう各部を成形している。
【0024】
上記構成のインクジェット式記録ヘッド1では、圧電振動子4を振動子長手方向に伸長させることで、島部11がノズルプレート16側に押圧される。この押圧によって、ダイヤフラム部を構成する弾性体膜21が変形し、圧力室14が収縮する。また、圧電振動子4を振動子長手方向に収縮させると、弾性体膜21の弾性により圧力室14が膨張する。そして、圧力室14の膨張や収縮によって内部のインク圧力が変動するので、この圧力室14の膨張や収縮を制御することにより、ノズル開口15からインク滴を噴射させることができる。
【0025】
次に、上記構成のインクジェット式記録ヘッド1の製造方法について説明する。インクジェット式記録ヘッド1を製造するにあたり、予め、ケース6、振動子ユニット5、流路ユニット2等の必要な構成部品を作製しておく。
【0026】
振動子ユニット5を作製する振動子ユニット作製工程では、まず、所定の大きさに切り出した固定板7を用意し、この固定板7の表面に接着剤を塗布する。即ち、振動子群が接着される接着領域に印刷等によって接着剤を塗布する。この接着剤としては、例えば、熱硬化性のエポキシ系接着剤が好適に用いられる。固定板表面に接着剤を塗布したならば、圧電板の片半部分を接着剤塗布面に載置する。ここで、圧電板は、圧電振動子4の基材であり、電極層と圧電体とを何層にも積層してなる板状部材である。圧電板を載置したならば固定板7と圧電板の間に介在する接着剤を硬化させ、圧電板を固定板7に接着する。圧電板を固定板7に接着したならば、圧電板を櫛歯状に切り分けて複数の圧電振動子4を作製する。この切り分けには、例えば、ダイシングソーやワイヤーソーが用いられ、固定板7の先端面から外側に突出している圧電板の先端側部分(つまり、自由端部)から固定板7側に向けて切り込むことでなされる。圧電振動子4に切り分けたならば、フレキシブルケーブル8を接合し、振動子ユニット5が完成する。
【0027】
流路ユニット2を作製する流路ユニット作製工程では、接着面の下地処理を行うプライマ工程と、弾性板18、流路形成基板17及びノズルプレート16を接着するプレート接着工程とを順に行う。プライマ工程では、プライマ成分としてシランカップリング剤を用い、このシランカップリング剤を0.2wt%程度の濃度に調整したプライマ処理液に各プレート部材(弾性板18、流路形成基板17、ノズルプレート16)の接着面を60分〜70分程度の時間に亘って浸す。
【0028】
プレート接着工程では、流路形成基板17の一方の表面に弾性板18を接着し、流路形成基板17の他方の表面にノズルプレート16を接着する。これにより、流路ユニット2が作製される。このプレート接着工程において、接着には種々の接着剤が用いられるが、熱硬化性を有する流動性の接着剤、例えば、2液性のエポキシ系接着剤が好適に用いられる。ここで、流路形成基板17とノズルプレート16とを接着するにあたっては、流路形成基板17の上側表面に接着剤を塗布し、その後、この接着面にノズルプレート16を上方側から載置する。これは、余剰の接着剤が垂れてノズル開口15が閉塞される不具合を防ぐためである。
【0029】
これらのケース6、振動子ユニット5、及び、流路ユニット2等を作製したならば、組立工程に移行し、各構成部品を組み立てる。この場合、まず、流路ユニット2をケース6の先端面に接着する。例えば、ケース6の先端面に接着剤を塗布した後、流路ユニット2をケース先端面に位置付け、ピン等により位置を固定する。この場合においても種々の接着剤が選択できるが、例えば、プレート接着工程と同様に、エポキシ系の接着剤が好適に用いられる。
【0030】
流路ユニット2の位置を固定したならば、ケース6の取付面側から振動子ユニット5を収納空部9内に挿入する。振動子ユニット5の挿入は、まず、各圧電振動子4の先端面に接着剤を転写し、この先端面を先頭にして振動子ユニット5を収納空部9内に挿入する。そして、各圧電振動子4の先端面が対応する島部11に当接したならば、固定板背面とケース内壁面との間に接着剤を注入する。この接着剤は、比較的粘性が低い流動性の接着剤、例えば、熱硬化性のエポキシ系接着剤が好適に用いられる。この注入された接着剤は、毛細管力によって固定板7とケース内壁面との隙間内を浸透して接着領域を満たす。
【0031】
この接着領域が接着剤で満たされたならばケース6を加熱する。この加熱により、流路ユニット2はケース先端面に、振動子ユニット5の固定板7はケース内壁面にそれぞれ接着される。このようにして、流路ユニット2及び振動子ユニット5をケース6に接着したならば、プリント基板等の必要な部品を取り付けてインクジェット式記録ヘッド1の組み立てを終了する。
【0032】
ところで、上記したプレート接着工程における流路形成基板17とノズルプレート16の接着において、余剰の接着剤がノズル連通口3の縁(隔壁171、172同士が交差する隅角部。)を伝わって滞留してしまう場合がある。この場合、開口縁付近ではみ出した接着剤も、はみ出した状態で硬化することになる。このように、余剰の接着剤がインク流路内で硬化してしまうと、使用時におけるインクの流れによって、この接着剤がインク流路の壁面から剥離してしまう場合がある。この場合、剥離された接着剤がノズル開口15を通過し得る程度の大きさであれば、この接着剤はインクと共にノズル開口15から排出されるので支障はない。しかし、剥離された接着剤がノズル開口15やインク供給口19を通過し得ない大きさであった場合には、目詰まりが生じてしまう。また、ノズル連通口3の縁で硬化した接着剤が部分的に剥離すると、この剥離部分が髭状になって自由端部が液体の流れに乗り、その先端部がノズル開口15から外側に露出してしまうことがある。この状態になってしまうと、髭状部は、液体の流れによっては離脱し難いので、そのままの状態が長期間に亘って継続し、印字不良等の原因となり得る。
【0033】
そのため、本実施形態に係る流路形成基板17では、ノズル連通口3を構成する隔壁171、172に形成された凹み部173により、ノズル連通口3内で硬化した接着剤がノズル開口15に達しないよう対策を図っている。
【0034】
図4は、流路形成基板17におけるノズル連通口3付近を示す内部断面図である。図4に示すように、流路形成基板17とノズルプレート16の接着の際、接着剤がノズル連通口3側にはみ出し、隔壁171、172の隅角部を伝わる場合を想定する。この時、接着剤は凹み部173の側壁173b、173cを伝わり、やがて段面173aの首下に達する。ここで、接着剤のはみ出た量が微量であれば、接着剤は段面173aを超えて、上流に達することなく凹み部173に留まり、やがて硬化する。そのため、使用時におけるインクの流れによって、この接着剤がインク流路の壁面から剥離しても、硬化した接着剤の長さは一定の長さ(理想的には、側壁173b、173cの長さLa)に留まるため、ノズル開口15から外側に噴射される。
【0035】
また、接着剤が壁面から完全に剥離しない場合でも、凹み部173の側壁173b、173cの長さLaは、ノズル開口15中心から側壁173b、173cまでの距離Lbより短いLb>Laとなる関係を有しているため、接着剤の剥離した先端部がノズル開口15に達しない。そのため、硬化した余剰の接着剤に起因する液体流路の目詰まり等を防止することが可能となる。
【0036】
2.液体噴射装置について:
以下、本実施形態に係る液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置の構成を説明する。
図5は、液体噴射装置の一例を示す概略斜視図である。ここで、図5では、液体噴射装置の一例として、インクジェット式記録装置100を例に説明を行う。本実施形態のインクジェット式記録装置100では、インクジェット式記録ヘッド1がキャリッジ50に搭載されている。そして、インクジェット式記録ヘッド1が搭載されたキャリッジ50は、装置本体70に取り付けられたキャリッジ軸50aに軸方向で移動自在に設けられている。
【0037】
また、装置本体70には、インクが貯留されたタンクからなる貯留手段30が設けられており、貯留手段30からのインクは、キャリッジ50に搭載されたインクジェット式記録ヘッド1に供給管40を介して供給される。
【0038】
そして、駆動モーター80の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト80aを介してキャリッジ50に伝達されることで、インクジェット式記録ヘッド1を搭載したキャリッジ50はキャリッジ軸50aに沿って移動される。一方、装置本体70にはキャリッジ軸50aに沿ってプラテン90が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン90に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0039】
このようなインクジェット式記録装置100では、キャリッジ50がキャリッジ軸50aに沿って移動されると共にインクジェット式記録ヘッド1によってインクが噴射されて記録シートSに印刷される。
【0040】
また、上述したインクジェット式記録装置100では、インクジェット式記録ヘッド1がキャリッジ50に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド1が装置本体70に固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、ライン式記録装置であってもよい。
【0041】
なお、上記した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド1を、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置100を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0042】
なお、本発明は上記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。即ち、上記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって上記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が上記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0043】
1…インクジェット式記録ヘッド、2…流路ユニット、3…ノズル連通口、4…圧電振動子、5…振動子ユニット、6…ケース、7…固定板、8…フレキシブルケーブル、9…収納空部、10…インク供給路、11…島部、12…リザーバ、13…ノズル連通口、14…圧力室、15…ノズル開口、16…ノズルプレート、17…流路形成基板、18…弾性板、19…インク供給口、20…支持板、21…弾性体膜、30…貯留手段、40…供給管、50…キャリッジ、70…装置本体、80…駆動モーター、90…プラテン、100…インクジェット式記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口が複数形成されたノズルプレートと、
前記ノズル開口のそれぞれに通じるノズル連通口及び前記ノズル連通口と繋がり、前記ノズルプレートに平行な方向に伸びた圧力室を備える圧力室形成基板と、
前記圧力室形成基板に接合される封止板と、
前記封止板の前記圧力室に対応する箇所に位置し、同封止板に変形をおこさせる圧電素子と、を有し、
前記ノズルプレートと前記圧力室形成基板及び前記圧力室形成基板と前記封止板とは、接着剤により接続されており、
前記ノズル連通口は、前記ノズルプレートを底辺として、同底辺に繋がる前記圧力室側の壁面を第1壁面とした場合に、
前記第1壁面と同第1壁面に相接する第2壁面の二つの面とには、前記ノズル連通口の外側に向かって凹んだ凹み部を有し、
前記凹み部は、前記ノズル開口側に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記凹み部は、前記ノズルプレートと垂直となる部位を含んで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記凹み部の前記ノズルプレートに垂直となる部位の長さをLa、前記ノズル開口から前記凹み部の垂直部までの距離をLbとした場合に、Lb>Laとなる関係を有することを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−218194(P2012−218194A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83355(P2011−83355)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】