説明

液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置

【課題】圧力発生室を形成する際に、保護膜のマスクとなるレジスト膜を良好且つ効率的に除去して製造効率を向上する。
【解決手段】液体流路を流路形成基板の表面に形成された保護膜52をマスクとして流路形成基板をエッチングすることによって形成する際に、所定パターンの保護膜を形成する工程として、流路形成基板の表面の全面に保護膜を成膜する第1の工程と、保護膜上にポジ型のレジスト200を塗布してプリベーク処理することによりレジスト膜を形成する第2の工程と、レジストを選択的に露光して現像することでレジスト膜を選択的に除去する第3の工程と、プリベーク処理の温度以下の温度でドライエッチングすることにより保護膜を選択的に除去する第4の工程と、第3の工程でレジスト膜の表層に形成される変質層を除去する第5の工程と、レジスト膜を再露光及び現像することによってレジスト膜を除去する第6の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルに連通する圧力発生室がエッチングにより形成された流路形成基板を具備する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液滴としてインク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に設けられる圧力発生手段とを具備し、この圧力発生手段によって圧力発生室内に圧力を付与することで、ノズルからインク滴を噴射するものがある。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室は、例えば、流路形成基板上に形成した所定パターンの保護膜(マスク膜)をマスクとして流路形成基板を異方性エッチングすることによって形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、このように圧力発生室を形成する際の保護膜は、フォトリソグラフィー法を用いて所定パターンに形成される。具体的には、流路形成基板の全面に形成した保護膜上にレジストを塗布し、露光・現像することによってレジスト膜を形成し、レジスト膜をマスクとしてエッチングすることによって保護膜をパターニングし、その後レジスト膜を除去している。
【0005】
【特許文献1】特開2007−216564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、保護膜は、ウェットエッチング又はドライエッチングの何れによってもパターニングすることはできる。しかしながら、例えば、特許文献1に記載のような構成のインクジェット式記録ヘッドでは、流路形成基板の両面が加工されているため、一般的には、保護膜をドライエッチングによってパターニングしている。ウェットエッチングによって保護膜をパターニングするためには、流路形成基板の保護膜とは反対側の面にエッチング液が触れないように保護する必要があり、作業が繁雑になるためである。
【0007】
保護膜をドライエッチングでパターニングすることで、保護膜のパターニング自体は比較的容易且つ良好に行うことができる。しかしながら、パターニングする際のマスクとして用いられるレジスト膜の除去が大変であるという問題がある。
【0008】
レジスト膜の除去方法としては、例えば、有機剥離液による除去が挙げられるが、剥離力が強いため、基板の接着に用いられる接着剤等の有機物に悪影響を及ぼしてしまう虞がある。また、例えば、Oプラズマアッシング等による除去方法もあるが、処理時間が比較的長くかかってしまい作業効率が悪いという問題がある。
【0009】
なお、このような問題は、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク滴以外の液滴を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧力発生室を形成する際に、保護膜のマスクとなるレジスト膜を良好且つ効率的に除去して製造効率を向上することができる液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記液体流路を、前記流路形成基板の表面に形成された所定パターンの保護膜をマスクとして当該流路形成基板をエッチングすることによって形成し、前記所定パターンの保護膜を形成する工程として、前記流路形成基板の表面の全面に保護膜を成膜する第1の工程と、該保護膜上にポジ型のレジストを塗布してプリベーク処理することによりレジスト膜を形成する第2の工程と、該レジスト膜を選択的に露光して現像することで当該レジスト膜を選択的に除去する第3の工程と、前記プリベーク処理の温度以下の温度でドライエッチングすることにより前記保護膜を選択的に除去する第4の工程と、前記第3の工程で前記レジスト膜の表層に形成される変質層を除去する第5の工程と、前記レジスト膜を再露光及び現像することによって当該レジスト膜を除去する第6の工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0012】
かかる本発明では、レジスト膜をドライエッチングによりパターニングする際の出力を比較的低くしているため、レジスト膜をパターニングしてもレジスト膜の感光性が完全に消失することはない。したがって、保護膜をパターニングした後、レジスト膜を効率的に除去することができる。よって、液体噴射ヘッドの製造効率を大幅に向上することができる。
【0013】
ここで、前記第5の工程では、オゾン水によって前記変質層を除去することが好ましい。これにより、周囲に悪影響を及ぼすことなく変質層を良好且つ容易に除去することができる。
【0014】
また前記第4の工程では、前記流路形成基板を80℃以下の温度に保持した状態で前記保護膜をドライエッチングすることが好ましい。これにより、レジスト膜の感光性の消失を確実に抑えつつ保護膜をパターニングすることができる。
【0015】
また本発明は、前記保護膜を窒化シリコンによって形成し、前記第4の工程では、四フッ化炭素を用いたプラズマエッチングによって前記保護膜を除去する場合に、特に有効である。この場合、第4の工程によってレジスト膜の表層に疎水性を有する変質層が形成されるため、変質層を有する状態では現像液がはじかれてしまい現像によるレジスト膜の除去が極めて困難になる。しかしながら、本発明では、レジストを現像により除去する前に変質層を除去しているため、レジスト膜を容易に除去することができる。
【0016】
また、前記第3の工程は、前記レジスト膜を選択的に除去した後、さらに当該レジスト膜をポストベーク処理することが好ましい。これにより、レジスト膜をさらに良好に形成することができる。
【0017】
さらに本発明は、上記態様の製造方法により製造されたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。かかる態様では、所定の性能を有する液体噴射ヘッドを比較的安価に提供できる。
【0018】
さらに本発明は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、所定の性能を有する液体噴射装置を比較的安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0020】
図示するように、流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路13と連通路14とが隔壁11によって区画されている。また、連通路14の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバー100の一部を構成する連通部15が形成されている。このように流路形成基板10には、圧力発生室12を含むインク流路(圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15)が形成されている。
【0021】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼などで形成されている。
【0022】
流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とで構成される圧電素子300が形成されている。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーターと称する。なお、振動板とは圧力発生室12の一方面を構成し圧電素子300の駆動により変形が生じる部分をいう。本実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、当該圧電素子保持部31が必ずしも密封されている訳ではないが、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。また保護基板30には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部32が設けられている。リザーバー部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、流路形成基板10の連通部15と連通して各圧力発生室12に共通するインク室であるリザーバー100を構成している。また、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバー部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。各圧電素子300から引き出されたリード電極90は、その端部近傍が貫通孔33内で露出されている。保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましい。
【0024】
保護基板30のリザーバー部32に対応する領域には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0025】
このような構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し圧電素子300を撓み変形させることによって、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出される。
【0026】
以下、本発明に係る液体噴射ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)の製造方法につい
て、図3〜図8を参照して説明する。図3〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの圧力
発生室の長手方向の断面図であり、図8は、ドライエッチング装置の保持ステージの概略
図である。なお以下に説明するように、流路形成基板10及び保護基板30はそれぞれシ
リコンウエハーに複数一体的に形成され、最終的に各基板に分割される。
【0027】
まず図3(a)に示すように、シリコンウエハーである流路形成基板用ウエハー110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。例えば、流路形成基板用ウエハー110の表面を熱酸化することにより、二酸化シリコンからなる酸化膜51を形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(酸化膜51)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。
【0028】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。次に、図4(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を形成し、これら圧電体層70及び上電極膜80をパターニングすることによって圧電素子300を形成する。
【0029】
圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。また、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD法やスパッタリング法等を用いるようにしてもよい。
【0030】
次に、図4(b)に示すようにリード電極90を形成する。具体的には、流路形成基板用ウエハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなる金属層91を形成後、この金属層91を圧電素子300毎にパターニングすることでリード電極90を形成する。
【0031】
次いで、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の圧電素子300側に、シリコンウエハーである保護基板用ウエハー130を接着剤35によって接合する。なお、この保護基板用ウエハー130には、圧電素子保持部31、リザーバー部32及び貫通孔33が予め形成されている。
【0032】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の保護基板用ウエハー130とは反対面側を加工して、流路形成基板用ウエハー110を所定の厚みとする。次いで、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の表面に、圧力発生室12等のインク流路を形成する際のマスクとなる所定パターンの保護膜52を形成する。すなわち、圧力発生室12等のインク流路に対向する領域に開口部52aを有する保護膜52を形成する。
【0033】
所定パターンの保護膜52を形成する工程としては、具体的にはまず図6(a)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の全面に、例えば、CVD法等により窒化シリコン(SiN)からなる保護膜52を全面に形成する(第1の工程)。次いで図6(b)に示すように、保護膜52上にポジ型のレジストを塗布し、例えば、100℃程度の比較的低い温度でプリベーク処理することによってレジスト膜200を形成する(第2の工程)。
【0034】
次にこのレジスト膜200を露光・現像することにより、その一部を選択的に除去する(第3の工程)。この第3の工程としては、まず図6(c)に示すように、所定位置に開口部251を有するマスク材250を介してレジスト膜200を選択的に露光する。すなわち、マスク材250の開口部251から圧力発生室12等のインク流路が形成される領域のレジスト膜200を露光する。次いでそのレジスト膜200を、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の現像液によって現像する。これにより、図6(d)に示すように、圧力発生室12等のインク流路が形成される領域のレジスト膜200が選択的に除去されて、レジスト膜200に開口部201が形成される。
【0035】
次いで、図7(a)に示すように、レジスト膜200をマスクとして保護膜52をドライエッチングすることにより、保護膜52の一部を選択的に除去して所定パターンに形成する(第4の工程)。具体的には、四フッ化炭素(CF)を用いたプラズマエッチングによって、圧力発生室12等の流路が形成される領域の保護膜52を選択的に除去して保護膜52に開口部52aを形成する。
【0036】
このようにドライエッチングにより保護膜52に開口部52aを形成する際には、レジスト膜200のプリベーク処理の温度以下の温度で実施する必要がある。すなわち、保護膜52が形成されている流路形成基板用ウエハー110の温度を、プリベーク処理の温度以下に保持した状態で、保護膜52をドライエッチングする必要がある。例えば、本実施形態では、100℃程度の温度でプリベーク処理しているため、100℃以下の温度で行う必要がある。好ましくは、流路形成基板用ウエハー110を80℃以下の温度に保持した状態で、保護膜52のドライエッチングを行う。
【0037】
これにより、第3の工程を実施した後でも、レジスト膜200の感光性が完全に消失することはない。すなわち、レジスト膜200にはプリベーク処理の温度よりも高い温度がかかっていないため、ドライエッチング後であっても、レジスト膜200の感光性は完全に消失することはない。
【0038】
ここで、保護膜52のドライエッチングは、例えば、図8に示すように、流路形成基板用ウエハー110と保護基板用ウエハー130との接合体150を、流路形成基板用ウエハー110を上側としてドライエッチング装置の保持ステージ400上に固定した状態、すなわち保護基板用ウエハー130を保持ステージ400上に固定した状態で実施される。保護基板用ウエハー130の外表面には、圧電素子300や圧電素子300を駆動するための駆動ICが接続される配線パターン(図示なし)が設けられているため、保護基板用ウエハー130の全面を保持ステージ400に当接させることはできない。このため、保持ステージ400の中央部には凹部401が設けられており、接合体150は、保護基板用ウエハー130の周縁部のみが保持ステージ400に当接された状態で固定されている。
【0039】
そして保護膜52をドライエッチングする際には、この保持ステージ400を、例えば、60℃程度の温度に保持することによって、流路形成基板用ウエハー110と保護基板用ウエハー130との接合体150を上述したように80℃程度と比較的低い温度に維持している。なお保持ステージ400の冷却温度は特に限定されるものではない。
【0040】
このように保持ステージ400の温度を制御して、接合体150(流路形成基板用ウエハー110)の温度を抑えるためには、保持ステージ400の凹部401の深さdを0.1mm〜0.5mm程度の深さとすることが好ましく、特に、0.1mm〜0.2mm程度とするのが望ましい。これにより接合体150の全面が保持ステージ400に接触しているのと同等の冷却効果が得られる。
【0041】
なお凹部401の深さが0.1mmよりも浅いと、接合体150(保護基板用ウエハー130)の表面を確実に保護することができない虞があり、また0.5mmよりも深いと接合体150を十分に冷却されない虞がある。また凹部401中が真空である場合でも、凹部401の深さを上記の範囲とすることで、接合体150を良好に冷却することができる。
【0042】
保護膜52をドライエッチングした後は、レジスト膜200を以下の手順で除去する。上述したように保護膜52をドライエッチングした後であってもレジスト膜200の感光性が完全に消失することはないが、レジスト膜200の表層にはレジスト膜200が変質した変質層202が形成されてしまう。例えば、本実施形態の場合、四フッ化炭素(CF)を用いているため、レジスト膜200の表層には、疎水性を有する変質層202が形成されてしまう。
【0043】
このためレジスト膜200を除去するにあたり、まずは図7(b)に示すように、レジスト膜200の表層に形成された変質層202を除去する(第5の工程)。具体的には、例えば、スピンコート装置等によってレジスト膜200上にオゾン水(O)を供給し、このオゾン水によって変質層202を除去するのが好ましい。これにより、周囲に悪影響を及ぼすことなく、変質層202を良好に除去することができる。なおオゾン水の濃度は、特に限定されず、例えば、10〜20ppm程度と比較的低濃度のものであってもよい。なお、レジスト膜200の感光性を消失させない方法であれば、変質層202の除去方法は、必ずしもオゾン水によるものに限定されるものではない。
【0044】
次いで、図7(c)に示すように、残っているレジスト膜200を再露光し、その後現像することで、図7(d)に示すようにレジスト膜200を完全に除去する(第6の工程)。上述したように、保護膜52をドライエッチングする際の温度を、レジスト膜200のプリベーク処理の温度以下としているため、ドライエッチング後であってもレジスト膜200の感光性は完全に失われることなく残っている。したがって、ポジ型のレジストからなるレジスト膜200を再露光及び現像することで、残っている全てのレジスト膜200を比較的容易に除去することができる。
【0045】
また本発明では、上述したようにレジスト膜200の再露光及び現像前にレジスト膜200の表層に形成された変質層202を除去している。このため、レジスト膜200を再露光及び現像することによって、レジスト膜200を完全に除去することができる。ちなみにレジスト膜200の表層に変質層202が残っていると、変質層202によってレジスト膜200の現像が阻害されてしまう。例えば、本実施形態では、変質層202が疎水性を有するため、レジスト膜200を現像する際に、この変質層202によって現像液がはじかれてしまう。このため、変質層202が残った状態で、レジスト膜200を再露光及び現像したとしても、レジスト膜200を除去するのは難しい。
【0046】
このように保護膜52を形成した後は、図5(c)に示すように、この保護膜52をマスクとして流路形成基板用ウエハー110を異方性エッチング(ウェットエッチング)する。これにより、流路形成基板用ウエハー110には、インク流路を構成する圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15が形成される。
【0047】
その後は、流路形成基板用ウエハー110及び保護基板用ウエハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウエハー110の保護基板用ウエハー130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウエハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウエハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによってインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。
【0049】
例えば、本実施形態では、レジスト膜200のポストベーク処理を行っていない。保護膜52の厚さが比較的薄い場合には、ポストベーク処理を行わなくてもレジスト膜200は保護膜52をエッチングする際のマスクとして十分に機能する。勿論、第3の工程でレジスト膜200を露光・現像した後、レジスト膜200をポストベーク処理するようにしてもよい。ただしポストベーク処理の温度は、レジスト膜200の感光性が完全に失われない程度の温度とする必要があり、プリベーク処理の温度よりも若干高い温度、例えば、120℃程度であることが好ましい。
【0050】
また例えば、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィープロセスを応用して製造される薄膜型の圧電素子を圧力発生手段として具備するインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子を圧力発生手段として具備するインクジェット式記録ヘッド等、他のタイプの圧力発生手段を具備するインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0051】
さらに、上述のように製造されたインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図9は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0052】
図9に示すように、インクジェット式記録装置における記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0053】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0054】
また上述の実施形態では、インクジェット式記録ヘッドがキャリッジに搭載されて主走査方向に移動するタイプのインクジェット式記録装置を例示したが、本発明は、他のタイプのインクジェット式記録装置にも適用することができる。例えば、固定された複数のインクジェット式記録ヘッドを有し、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、いわゆるライン式のインクジェット式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0055】
なお上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを例示したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】一実施形態に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】一実施形態に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】一実施形態に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】一実施形態に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】一実施形態に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】一実施形態に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】ドライエッチング装置の保持ステージを示す概略図である。
【図9】一実施形態に係る記録装置の概略を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 インク供給路、 14 連通路、 15 連通部、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバー部、 33 貫通孔、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 52 保護膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 110 流路形成基板用ウエハー、 130 保護基板用ウエハー、 200 レジスト膜、 201 開口部、 202 変質層、 250 マスク材、 251 開口部、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記液体流路を、前記流路形成基板の表面に形成された所定パターンの保護膜をマスクとして当該流路形成基板をエッチングすることによって形成し、
前記所定パターンの保護膜を形成する工程として、前記流路形成基板の表面の全面に保護膜を成膜する第1の工程と、該保護膜上にポジ型のレジストを塗布してプリベーク処理することによりレジスト膜を形成する第2の工程と、該レジスト膜を選択的に露光して現像することで当該レジスト膜を選択的に除去する第3の工程と、前記プリベーク処理の温度以下の温度でドライエッチングすることにより前記保護膜を選択的に除去する第4の工程と、前記第3の工程で前記レジスト膜の表層に形成される変質層を除去する第5の工程と、前記レジスト膜を再露光及び現像することによって当該レジスト膜を除去する第6の工程と、を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第5の工程では、オゾン水によって前記変質層を除去することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記第4の工程では、前記流路形成基板を80℃以下の温度に保持した状態で前記保護膜をドライエッチングすることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記保護膜を窒化シリコンによって形成し、前記第4の工程では、四フッ化炭素を用いたプラズマエッチングによって前記保護膜を除去することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程は、前記レジスト膜を選択的に除去した後、さらに当該レジスト膜をポストベーク処理することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−184350(P2009−184350A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326468(P2008−326468)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】