説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】作業効率及び生産効率を向上した液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】ケースヘッド50の収容部51に各圧電素子ユニット40を収容した後、収容部51の外側に引き出された各配線フィルム48の端部を回路基板60の貫通孔62にそれぞれ挿通する際、回路基板60のケースヘッド50とは反対面側から各貫通孔62内に挿入した規制板102で配線フィルム48を整列させた状態で、回路基板60をケースヘッド50に向かって移動させて配線フィルム48をスリット状の貫通孔62に挿通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の駆動により液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、圧電素子に接続される配線フィルムの配線を回路基板の導電パッドに接続する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、圧電素子(圧電振動子)の変位による圧力を利用してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドが知られている。インクジェット式記録ヘッドの構成は、複数提案されているが、その一つとして、例えば、複数の圧電素子を固定基板に固定した圧電素子ユニットをケースヘッド(ヘッドホルダ)に収容し、各圧電素子とケースヘッド上に設けられる回路基板上の接続端子とを、配線フィルム(フレキシブルケーブル)の配線(導電パターン)によって電気的に接続するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、一端が圧電素子に接続された配線フィルムの各配線は、例えば、次のような手順で回路基板の接続端子に接続される。すなわち、配線フィルムの他端部を回路基板に設けられた貫通孔(窓)から引き出し、引き出した配線フィルムの端部を折り曲げることによって各配線を接続端子に電気的に接続している。
【0004】
【特許文献1】特開2000−218774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように各配線を接続端子に接続する際、圧電素子ユニットがケースヘッドに収容された状態で、配線フィルムの端部を回路基板の貫通孔に挿通している。このとき、配線フィルムの端部には傾きが生じていることが多く、配線フィルムの端部を容易に貫通孔に挿通することができないという問題がある。複数の圧電素子ユニットがケースヘッドに挿通されている場合には、特に面倒であった。
【0006】
このため、例えば、ケースヘッドに対向して回路基板を配した状態で、両者の間の空間に治具等を手動で挿入して配線フィルムを整列させ、各配線フィルムの端部を貫通孔に挿通させていた。
【0007】
しかしながら、このような治具を用いたとしてもその作業は繁雑であり作業効率及び生産効率が低いという問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、作業効率及び生産効率を向上することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、ノズルに連通する圧力発生室が設けられる流路ユニットと、各圧力発生室に対応して設けられ当該圧力発生室内に液滴を噴射するための圧力を付与する複数の圧電素子と一端が各圧電素子に接続される複数本の配線を有する配線フィルムとを具備する複数の圧電素子ユニットと、前記流路ユニットに固定され各圧電素子ユニットが収容される収容部を有するケースヘッドと、該ケースヘッドの前記流路ユニットとは反対側の面に固定されて前記配線の他端がそれぞれ接続される複数の導電パッドを有する回路基板とを具備し、前記配線フィルムが前記回路基板に設けられたスリット状の貫通孔に挿通された状態で、前記配線の他方の端部が前記導電パッドに接続された液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記ケースヘッドの収容部に各圧電素子ユニットを収容した後、前記収容部の外側に引き出された各配線フィルムの端部を前記回路基板の前記貫通孔にそれぞれ挿通する際、前記回路基板の前記ケースヘッドとは反対面側から各貫通孔内に挿入した規制板で前記配線フィルムを整列させた状態で、前記回路基板を前記ケースヘッドに向かって移動させて前記配線フィルムをスリット状の前記貫通孔に挿通させるようにしたこと特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる本発明では、回路基板の貫通孔に挿入した規制板によって配線フィルムを整列させるようにしたので、極めて容易に配線フィルムの端部を回路基板の貫通孔に挿通させることができ、作業効率及び生産効率が大幅に向上する。また、比較的狭いスペースで作業を行うことができるため、比較的容易に作業の自動化を実現することができる。
【0010】
ここで、前記貫通孔内に挿入した前記規制板を、その先端部が前記配線フィルムの端部よりも前記ケースヘッド側に位置するように各配線フィルム側方に配し、当該規制板と前記回路基板とを前記配線フィルムの傾斜方向とは逆方向に移動させ、前記規制板を前記配線フィルムの表面に当接させることで当該配線フィルムを整列させるようにするのが好ましい。これにより、回路基板の貫通孔に挿入した規制板によって配線フィルムの傾斜を比較的容易に規制することができる。つまり、規制板によって配線フィルムを比較的容易に整列させることができる。
【0011】
また、前記配線フィルムが、前記圧電素子ユニットを前記収容部に収容した状態において、端部の傾斜方向が当該圧電素子ユニットの並設方向に沿った第1の方向である第1の配線フィルムと、端部の傾斜方向が前記第1の方向とは逆方向である第2の方向である第2の配線フィルムとを含む場合には、前記第1の配線フィルムに対応する第1の規制板をその先端部が前記第1の配線フィルムの端部よりも前記ケースヘッド側に位置するように且つ前記第2の配線フィルムに対応する第2の規制板をその先端部が前記第2の配線フィルムの端部よりも前記回路基板側に位置するように各配線フィルム側方に配し、前記第1及び第2の規制板と前記回路基板とを前記第2の方向に移動させ、前記第1の規制板を前記第1の配線フィルムの表面に当接させた状態で前記第2の規制板を前記第2の配線フィルムの傾斜方向外側に配し、前記第2の規制板の先端が前記第2の配線フィルムの端部よりも前記ケースヘッド側に位置するように当該第2の規制板を前記ケースヘッド側に移動させ、前記第1及び第2の規制板と前記回路基板とを前記第1の方向に移動させて前記第2の規制板を前記第2の配線フィルムに当接させ、前記第1及び第2の規制板によって前記第1及び第2の配線フィルムを整列させた状態で、前記回路基板を前記ケースヘッドに向かって移動させるようにするのが好ましい。これにより、配線フィルムの傾斜方向が一定でない場合であっても、各配線フィルムを確実に整列させて、各配線フィルムの端部を回路基板の各貫通孔に極めて容易に挿通させることができる。
【0012】
さらに、前記配線フィルムの端部を前記回路基板の貫通孔に挿通する前に、前記ケースヘッドの表面の前記回路基板が当接される領域の周縁部にモールド剤を予め全周に亘って塗布しておき、前記配線フィルムの端部を前記貫通孔に挿通した後、前記モールド剤を介して前記回路基板を前記ケースヘッドに押圧し、前記モールド剤によって両者を固定すると共に前記回路基板と前記ケースヘッドとの隙間を塞ぐようにするのが好ましい。これにより、回路基板とケースヘッドとの隙間を容易且つ確実に塞ぐことができる。例えば、これら回路基板及びケースヘッドは、比較的小型の部品であるため、回路基板をケースヘッドに当接させた後、これら回路基板とケースヘッドとの隙間を塞ごうとすると、作業が繁雑になり、作業効率が大幅に低下してしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドを示す斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの概略を示す断面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド10は、流路ユニット20と、流路ユニット20が下面に固定されると共に、インク滴を吐出するための圧力を発生させる複数の圧電素子41を有する圧電素子ユニット40が収容されるケースヘッド50と、ケースヘッド50の上面に固定されて各圧電素子41が接続される回路基板60とを具備する。
【0015】
流路ユニット20は、図2に示すように、複数の圧力発生室21を有する流路形成基板22と、各圧力発生室21に連通する複数のノズル23が穿設されたノズルプレート24と、流路形成基板22のノズルプレート24とは反対側の面に設けられる振動板25とで構成されている。
【0016】
流路形成基板22には、その一方面側の表層部分に、圧力発生室21が隔壁によって区画されてその幅方向で複数並設されている。また、流路形成基板22には、圧力発生室21の列の外側に、各圧力発生室21にインクを供給するためのリザーバ26が、流路形成基板22を厚さ方向に貫通して設けられている。そして、各圧力発生室21とリザーバ26とは、インク供給路27を介して連通している。インク供給路27は、本実施形態では、圧力発生室21よりも狭い幅で形成されており、リザーバ26から圧力発生室21に流入するインクの流路抵抗を一定に保持する役割を果たしている。さらに、圧力発生室21のリザーバ26とは反対の端部側には、流路形成基板22を貫通するノズル連通孔28が形成されている。このような流路形成基板22は、本実施形態では、シリコン単結晶基板からなり、流路形成基板22に設けられる上記圧力発生室21等は、流路形成基板22をエッチングすることによって形成されている。
【0017】
流路形成基板22の一方面側にはノズル23が穿設されたノズルプレート24が接着剤や熱溶着フィルムを介して接着され、各ノズル23は、流路形成基板22に設けられたノズル連通孔28を介して各圧力発生室21と連通している。また、流路形成基板22の他方面側、すなわち、圧力発生室21の開口面側には振動板25が接合されて、各圧力発生室21はこの振動板25によって封止されている。
【0018】
振動板25は、例えば、樹脂フィルム等の弾性部材からなる弾性膜29と、弾性膜29を支持する、例えば、金属材料等からなる支持板30との複合板で形成されており、弾性膜29側が流路形成基板22に接合されている。また、振動板25の各圧力発生室21に対向する領域内には、圧電素子41の先端部が当接する島部31が設けられている。すなわち、振動板25の各圧力発生室21の周縁部に対向する領域に他の領域よりも厚さの薄い薄肉部32が形成されて、薄肉部32の内側にそれぞれ島部31が設けられている。また、振動板25のリザーバ26に対向する領域に、薄肉部32と同様に、支持板30がエッチングにより除去されて実質的に弾性膜のみで構成されるコンプライアンス部33が設けられている。
【0019】
そして、圧電素子ユニット40を構成する各圧電素子41の先端が、振動板25の島部31に当接した状態で固定されている。
【0020】
ここで、各圧電素子ユニット40を構成する圧電素子41は複数一体的に形成されている。すなわち、圧電材料42と電極形成材料43,44とを縦に交互にサンドイッチ状に挟んで積層した圧電素子形成部材45を形成し、この圧電素子形成部材45を各圧力発生室21に対応して櫛歯上に切り分けることによって複数の各圧電素子41が形成されている。圧電素子41(圧電素子形成部材45)の振動に寄与しない不活性領域(圧電素子41の基端部側)が固定基板46に固着されている。また圧電素子41の基端部近傍には、固定基板46とは反対側の面に、各圧電素子41を駆動するための信号を供給する複数の配線47を有する配線フィルム48が接続されている。そして、これら圧電素子41(圧電素子形成部材45)と固定基板46と配線フィルム48とで圧電素子ユニット40が構成されている。
【0021】
上述したように流路ユニット20の振動板25上にはケースヘッド50が固定されており、圧電素子ユニット40は、このケースヘッド50の収容部51内に収容されている。例えば、本実施形態では、ケースヘッド50に収容部51が3つ並設されており、各収容部51内に、圧電素子ユニット40がそれぞれ収容されている。そして、圧電素子41の先端部が振動板25に接合されると共に固定基板46がケースヘッド50に固定されている。
【0022】
回路基板60は、配線フィルム48の各配線47がそれぞれ接続される複数の導電パッド61を有し、ケースヘッド50の上面に接合されている。そして、ケースヘッド50の収容部51は、この回路基板60によって実質的に塞がれている。本実施形態では、この回路基板60は、モールド剤70によってケースヘッド50に強固に固着されている(図2参照)。モールド剤70は、回路基板60の外周部全周に亘って設けられており、回路基板60とケースヘッド50との間にこのモールド剤70が挟み込まれた状態となっている。したがって、回路基板60の外周部における回路基板60とケースヘッド50との隙間は、このモールド剤70によって完全に塞がれている。
【0023】
また回路基板60には、ケースヘッド50の収容部51に対向する領域にスリット状の貫通孔62が形成されており、配線フィルム48はこの回路基板60の貫通孔62から収容部51の外側に引き出されている。
【0024】
ここで、圧電素子ユニット40の配線フィルム48は、本実施形態では、圧電素子41を駆動するための駆動IC(図示なし)が搭載されたフレキシブルプリント基板(FPC)、例えば、テープキャリアパッケージ(TCP)やチップオンフィルム(COF)などからなる。そして、配線フィルム48に設けられる各配線47の一端部側は、例えば、半田、異方性導電材等によって圧電素子41を構成する電極形成材料43,44に接続されている。一方、各配線47の他端部側は、回路基板60の各導電パッド61に接続されている。具体的には、回路基板60の貫通孔62から収容部51の外側に引き出された配線フィルム48の先端部が回路基板60の表面に沿って折り曲げられた状態で、各配線47が回路基板60の各導電パッド61に接合されている。
【0025】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッド10の製造方法について説明する。なお、図3及び図4は、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する概略図であり、図5は、本実施形態に係る組立装置の概略図である。
【0026】
まず、図3に示すように、圧電素子ユニット40をケースヘッド50の収容部51内に固定する。なお、圧電素子ユニット40には、予め配線フィルム48の一端側が固定されており、圧電素子ユニット40をケースヘッド50の収容部51内に固定すると、配線フィルム48の他端側の先端部は、収容部51の外側に突出した状態となる。
【0027】
その後、このケースヘッド50上に回路基板60を固定するが、その際、回路基板60の貫通孔62に各圧電素子ユニット40を構成する配線フィルム48の先端部を挿通する。しかしながら、図3に示すように、圧電素子ユニット40を収容部51内に収容した状態では、配線フィルム48の他端部側の先端は、内部応力等による反り、或いは自重により傾斜した状態となっている。このため、ケースヘッド50の除面に回路基板を配置しても、そのままで配線フィルムの端部を貫通孔に挿通させることは難しい。なお各圧電素子ユニット40における配線フィルム48の傾き量(角度)は多少のばらつきがあるが配線フィルム48の傾斜方向は一定である。
【0028】
このため、本実施形態では、図5に示すような組立装置を用い、以下に説明する方法で各配線フィルム48を整列させ、回路基板60の貫通孔62に各配線フィルム48の端部を同時に挿通させるようにした。
【0029】
本実施形態の製造方法で使用する組立装置100は、図5に示すように、回路基板60を保持する保持手段101と、回路基板60の各貫通孔62にそれぞれ対応する複数枚の規制板102とを具備する。保持手段101は、例えば、回路基板60を吸着保持するように構成されており、第1のベース部材103に固定されている。また、第1のベース部材103は、所定の間隔を確保した状態で第2のベース部材104に固定されている。なお第2のベース部材103は、図示しない駆動手段によって3次元方向に移動可能に支持されている。
【0030】
各規制板102は、第1のベース部材103と第2のベース部材104との間に直線移動可能に設けられた支持部材105に固定されており、第1のベース部材103に形成された挿通孔106を介してその先端部が第1のベース部材103の外側に突出するように配されている。
【0031】
このように、本実施形態の製造方法で使用する組立装置100は、回路基板60と規制板102とを同一機構で移動させることができると共に、規制板102は回路基板60とは独立した機構で上下方向に移動可能に構成されている。
【0032】
そして、まず図4(a)に示すように、保持手段101によって保持された回路基板60をケースヘッド50上に配置すると共に、支持部材105を下降させて回路基板60の各貫通孔62に、ケースヘッド50とは反対側の面から規制板102を挿入する。さらに各規制板102が並設されている各配線フィルム48の側方に位置するように、規制板102及び回路基板60を移動させると共に、各規制板102の先端部が配線フィルム48の端部よりもケースヘッド50側に位置するように下降させる。つまり、各規制板102の先端部が、配線フィルム48の傾斜方向(図中右方向)外側に位置するように、回路基板60と共に各規制板102を移動させる。
【0033】
ここで、回路基板60をケースヘッド50上に配置する前に、ケースヘッド50の上面には、回路基板60を固定するためのモールド剤70を予め塗布しておく。具体的には、ケースヘッド50の上面の、回路基板60が固定される領域の外周部に、その全周に亘ってモールド剤70を連続的に塗布しておく。
【0034】
次いで、図4(b)に示すように、規制板102と回路基板60とを配線フィルム48の傾斜方向とは逆方向(図中左方向)に移動させ、規制板102を配線フィルム48の一方の表面に当接させて配線フィルム48の端部の傾斜を規制する。すなわち、ケースヘッド50の表面(上面)に対して傾斜した状態にある配線フィルム48の端部を、ケースヘッド50の表面に対して略垂直な方向に沿うように起き上がらせて整列させる。
【0035】
なお、このように配線フィルム48の傾斜を規制する規制板102は、スリット状の貫通孔62に挿入可能な程度に比較的広い幅を有することが好ましい。また、規制板102の先端部は、比較的薄く形成されていることが好ましく、本実施形態では、厚さが漸小するように形成したが、先端部の形状は特に限定されるものではない。
【0036】
そして、このように規制板102によって各配線フィルム48の整列させた状態(傾斜を規制した状態)で、図4(c)に示すように、回路基板60のみを下降させることで、つまり回路基板60をケースヘッド50に向かって移動させることで、配線フィルム48の先端部が貫通孔62に確実に挿通される。なお実際には、第2のベース部材104を下降させつつ、支持部材105を上昇させる。
【0037】
このように規制板102を用いて複数の配線フィルム48を整列させることで、各配線フィルム48の端部を、回路基板60の各貫通孔62に極めて容易に挿通させることができ、作業効率及び生産効率が大幅に向上する。また、組立装置100における回路基板60の搬送と、配線フィルム48の傾き規制の駆動とを共通化できるため、装置構成を簡略化することができる。したがって、作業の自動化を比較的容易且つ安価で実現することができる。
【0038】
また上述したように回路基板の貫通孔に挿入した規制板によって配線フィルムを整列させるようにしたので、上述した組立装置等を用いて、複数個同時に組立作業を実施することも可能となる。例えば、ケースヘッドと回路基板との間に所定の治具等を挿入して配線フィルムの傾斜を規制しようとすると、これらケースヘッド及び回路基板の周囲にスペースを確保する必要がある。しかしながら、本発明の製造方法であれば、ケースヘッド及び回路基板の周囲にはそれ程スペースを確保する必要がない。したがって、組立装置等を用いて楓数個同時に組立作業を実施することも可能となる。
【0039】
なお回路基板60の貫通孔62に配線フィルム48が挿通されたことが確認されると、その後は、この回路基板60をケースヘッド50表面に予め塗布されているモールド剤70上に押圧し、その状態でモールド剤70を硬化させる。これにより、回路基板60はケースヘッド50に対してモールド剤70によって確実に固定される。また、回路基板60とケースヘッド50との間の隙間がこのモールド剤70によって塞がれる。つまり、ケースヘッド50の収容部51がより確実に塞がれる。したがって、収容部51内へのインクの流れ込みによる圧電素子41の破壊といった問題の発生を防止することができる。
【0040】
また本実施形態では、ケースヘッド50にモールド剤70を予め塗布しておくようにした。このため、固定基板46をケースヘッド50上に配置した後に作業するのと比べて、モールド剤の塗布面積が減少する。すなわち、モールド剤の使用量が抑えられ、材料コストの削減を図ることができる。また、塗布作業が比較的簡単になるため、塗布作業の自動化を実現することができる。
【0041】
なお回路基板60をケースヘッド50に固定した後は、規制板102を配線フィルム48から離隔させてから、各配線フィルム48の端部を折り曲げて、配線フィルム48の各配線47を回路基板60の導電パッド61に接合(融着)する(図2参照)。
【0042】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの概略断面図であり、図7及び図8は、その製造方法を説明する概略図である。また図9は、実施形態2に係る組立装置の概略図である。
【0043】
実施形態1では、圧電素子ユニット40をケースヘッド50の収容部51に収容した状態で、各配線フィルム48が同一方向に傾斜しているインクジェット式記録ヘッドの構成を例示した。これに対し、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド10Aは、ケースヘッド50の収容部51に収容された状態で各配線フィルム48が異なる方向に傾斜する圧電素子ユニット40A,40Bを具備する(図6参照)。
【0044】
すなわち、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド10Aは、図6に示すように、ケースヘッド50Aが大きさの異なる収容部51A,51Bを有し、一方の収容部51Aには一つの圧電素子ユニット40が収容されるが、他方の収容部51Bには二つの圧電素子ユニット40が、配線フィルム48同士が相対向する向きで収容されている。
【0045】
各圧電素子ユニット40において、配線フィルム48の傾斜方向は一定である。つまり、配線フィルム48は圧電素子41側に向かって傾斜する。このため、同一の向きで各収容部51A,51Bに収容された圧電素子ユニット(第1の圧電素子ユニット)40Aの配線フィルム(第1の配線フィルム)48Aは、その端部が圧電素子ユニット40の並設方向に沿った第1の方向(例えば、図中左側)に向かって傾斜した状態になり、収容部51B内に圧電素子ユニット40Aとは逆向きで収容された圧電素子ユニット(第2の圧電素子ユニット)40Bの配線フィルム(第2の配線フィルム)48Bは、その端部が第1の方向とは逆方向(第2の方向)に傾斜することになる。
【0046】
また、回路基板60には、各収容部51A,51Bに対する貫通孔62A,62Bがそれぞれ一つずつ設けられている。そして、収容部51Aに対応する貫通孔62Aからは一枚の配線フィルム48Aが引き出され、収容部51Bに対応する貫通孔62Bからは、収容部51Bに収容された二つの圧電素子ユニット40A,40Bの各配線フィルム48A,48Bが引き出されている。なお、それ以外の構成は、実施形態1で説明したインクジェット式記録ヘッドと同様であるので説明は省略する。
【0047】
このような構成のインクジェット式記録ヘッドを製造する場合には、例えば、図9に示す組立装置100Aを用いて、以下の手順で回路基板60の貫通孔62に各配線フィルム48の端部を挿通させる。
【0048】
図9に示すように、組立装置100Aは、相対的に長さの異なる規制板102A,102Bを有する。つまり、配線フィルムの傾斜方向の異なる一方の圧電素子ユニット40Aに対応する第1の規制板102Aと、他方の圧電素子ユニット40Bに対応する第2の規制板102Bとを具備する。また、本実施形態では、収容部51Bに対応して設けられる第1及び第2の規制板102A,102Bが一体的に設けられている。勿論、これら第1及び第2の規制板102A,102Bは別体であってもよい。なお、実施形態2に係る組立装置100Aのそれ以外の構成は、実施形態1の組立装置と同様であるので説明は省略する。
【0049】
このような組立装置100Aを用いて、まず図7(a)に示すように、保持手段101によって保持された回路基板60をケースヘッド50上に配置する。すなわち、第1及び第2の規制板102A,102Bが、並設されている各配線フィルム48の側方に位置するように、第1及び第2の規制板102A,102B及び回路基板60を移動させる。そして、支持部材105を下降させ、この回路基板60の各貫通孔62に、ケースヘッド50とは反対側の面から第1及び第2の規制板102A,102Bをそれぞれ挿入する。本実施形態では、収容部51Aに対応する貫通孔62Aには、第1の規制板102Aが挿入され、収容部51B対応する貫通孔62Bには、一体的に形成された第1及び第2の規制板102A,102Bが挿入されることになる。
【0050】
またこのとき、第1の規制板102Aの先端部が同一方向に傾斜する各配線フィルム48Aの端部よりもケースヘッド50A側となるように、且つ配線フィルム48Bに対応する第2の規制板102Bを、その先端部が配線フィルム48Bの端部よりも回路基板60側に位置するように、第1及び第2の規制板102A,102Bの高さを調整する。
【0051】
次いで、図7(b)に示すように、第1及び第2の規制板102A,102Bと回路基板60とを配線フィルム48Aの傾斜方向とは逆方向(第2の方向:図中右方向)に移動させる。これにより、第1の規制板102が配線フィルム48Aの一方の表面に当接し、配線フィルム48Aの端部の傾斜が規制されるが、本実施形態では、第1の規制板102Aを配線フィルム48Aの表面に当接させたままの状態で、第2の規制板102Bが配線フィルム48Bの傾斜方向外側に位置するまで、これら第1及び第2の規制板102A,102Bと回路基板60とを移動させる。このとき、配線フィルム48Aは、第1の規制板102Aによって、配線フィルム48Bと同一方向に傾斜した状態に保持される。
【0052】
この状態で、図7(c)に示すように、支持部材105をケースヘッド50側にさらに下降させ、第2の規制板102Aの先端が配線フィルム48Bの端部よりもケースヘッド50側に位置するように、第1及び第2の規制板102A,102Bの高さを調整する。
【0053】
その後、図8(a)に示すように、第1及び第2の規制板102A,102Bと回路基板60とを配線フィルム48Bの傾斜方向とは逆方向(第1の方向:図中左方向)に移動させる。すなわち、回路基板60の各貫通孔62が対応する各収容部上に位置するように、第1及び第2の規制板102A,102Bと回路基板60とを移動させる。これにより、第2の規制板102Bが配線フィルム48Bに当接して傾斜が規制される。勿論、配線フィルム48Aの傾斜は、第1の規制板102Aが当接することで規制されている。
【0054】
そして、このように第1及び第2の規制板102A,102Bによって各配線フィルム48A,48Bを整列させた状態で、図8(b)に示すように、回路基板60のみを下降させることで、つまり回路基板60をケースヘッド50に向かって移動させることで、各配線フィルム48A,48Bの先端部が各貫通孔62A,62Bにそれぞれ確実に挿通される。なお、その後の工程は、実施形態1と同様であるので、説明は省略する。
【0055】
このように本実施形態の製造方法では、配線フィルムの傾斜方向が一定でない場合であっても、各配線フィルム48の端部を、回路基板60の各貫通孔62に極めて容易に挿通させることができ、作業効率及び生産効率が大幅に向上する。
【0056】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0057】
例えば、上述した実施形態における規制板の動作は、その一例を説明したに過ぎない。すなわち、各貫通孔内に挿入した規制板で配線フィルムを整列させた状態で、回路基板をケースヘッドに向かって移動させて配線フィルムをスリット状の貫通孔に挿通させることができれば、規制板の動作は、特に限定されるものではない。
【0058】
また、例えば、上述した実施形態では、圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子を有する構成を例示したが、例えば、成膜及びリソグラフィ法により積層形成させて撓み変形させる薄膜型の圧電素子や、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子などであってもよい。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用することができる。何れにしても、収容部から配線フィルムが引き出され、その端部が回路基板の貫通孔に挿通された構成であれば、本発明の製造方法を採用することができる。
【0059】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの概略断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す概略断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す概略図である。
【図5】実施形態1に係る組立装置の概略図である。
【図6】実施形態2に係る記録ヘッドの概略断面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの製造工程を示す概略図である。
【図8】実施形態2に係る記録ヘッドの製造工程を示す概略図である。
【図9】実施形態2に係る組立装置の概略図である。
【符号の説明】
【0061】
10 インクジェット式記録ヘッド、 20 流路ユニット、 21 圧力発生室、 22 流路形成基板、 23 ノズル、 24 ノズルプレート、 25 振動板、 26 リザーバ、 27 インク供給路、 28 ノズル連通孔、 29 弾性膜、 30 支持板、 31 島部、 32 薄肉部、 33 コンプライアンス部、 40 圧電素子ユニット、 41 圧電素子、 42 圧電材料、 43,44 電極形成材料、 45 圧電素子形成部材、 46 固定基板、 47 配線、 48 配線フィルム、 50 ケースヘッド、 51 収容部、 60 回路基板、 61 導電パッド、 62 貫通孔、 70 モールド剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力発生室が設けられる流路ユニットと、各圧力発生室に対応して設けられ当該圧力発生室内に液滴を噴射するための圧力を付与する複数の圧電素子と一端が各圧電素子に接続される複数本の配線を有する配線フィルムとを具備する複数の圧電素子ユニットと、前記流路ユニットに固定され各圧電素子ユニットが収容される収容部を有するケースヘッドと、該ケースヘッドの前記流路ユニットとは反対側の面に固定されて前記配線の他端がそれぞれ接続される複数の導電パッドを有する回路基板とを具備し、前記配線フィルムが前記回路基板に設けられたスリット状の貫通孔に挿通された状態で、前記配線の他方の端部が前記導電パッドに接続された液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記ケースヘッドの収容部に各圧電素子ユニットを収容した後、前記収容部の外側に引き出された各配線フィルムの端部を前記回路基板の前記貫通孔にそれぞれ挿通する際、
前記回路基板の前記ケースヘッドとは反対面側から各貫通孔内に挿入した規制板で前記配線フィルムを整列させた状態で、前記回路基板を前記ケースヘッドに向かって移動させて前記配線フィルムをスリット状の前記貫通孔に挿通させるようにしたこと特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記貫通孔内に挿入した前記規制板を、その先端部が前記配線フィルムの端部よりも前記ケースヘッド側に位置するように各配線フィルム側方に配し、当該規制板と前記回路基板とを前記配線フィルムの傾斜方向とは逆方向に移動させ、前記規制板を前記配線フィルムの表面に当接させることで当該配線フィルムを整列させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記配線フィルムが、前記圧電素子ユニットを前記収容部に収容した状態において、端部の傾斜方向が当該圧電素子ユニットの並設方向に沿った第1の方向である第1の配線フィルムと、端部の傾斜方向が前記第1の方向とは逆方向である第2の方向である第2の配線フィルムとを含む場合には、
前記第1の配線フィルムに対応する第1の規制板をその先端部が前記第1の配線フィルムの端部よりも前記ケースヘッド側に位置するように且つ前記第2の配線フィルムに対応する第2の規制板をその先端部が前記第2の配線フィルムの端部よりも前記回路基板側に位置するように各配線フィルム側方に配し、
前記第1及び第2の規制板と前記回路基板とを前記第2の方向に移動させ、前記第1の規制板を前記第1の配線フィルムの表面に当接させた状態で前記第2の規制板を前記第2の配線フィルムの傾斜方向外側に配し、前記第2の規制板の先端が前記第2の配線フィルムの端部よりも前記ケースヘッド側に位置するように当該第2の規制板を前記ケースヘッド側に移動させ、前記第1及び第2の規制板と前記回路基板とを前記第1の方向に移動させて前記第2の規制板を前記第2の配線フィルムに当接させ、前記第1及び第2の規制板によって前記第1及び第2の配線フィルムを整列させた状態で、前記回路基板を前記ケースヘッドに向かって移動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記配線フィルムの端部を前記回路基板の貫通孔に挿通する前に、前記ケースヘッドの表面の前記回路基板が当接される領域の周縁部にモールド剤を予め全周に亘って塗布しておき、前記配線フィルムの端部を前記貫通孔に挿通した後、前記モールド剤を介して前記回路基板を前記ケースヘッドに押圧し、前記モールド剤によって両者を固定すると共に前記回路基板と前記ケースヘッドとの隙間を塞ぐようにしたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−119667(P2009−119667A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294661(P2007−294661)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】