説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】複数の液体噴射ヘッドを少ない作業工程数で簡易かつ効率的に製造する。
【解決手段】一表面に開口し平行間隔をあけて配列され各側壁に電極が形成された複数の吐出溝13を有するアクチュエータ基板130と、一表面150cに形成された開口から他表面150dに貫通し所定のピッチで配列された複数のカバープレート開口部18を有するカバープレート基板150と、一表面に開口しカバープレート開口部18と略等しいピッチで配列された複数の流路21を有する流路プレート基板190とを、カバープレート開口部18の開口と流路21の開口とを対向させ、吐出溝13の配列方向にカバープレート開口部18および流路21の配列方向を直交させるように接合して積層基板を形成する接合工程と、隣接するカバープレート開口部18の中間位置で吐出溝13に交差する面に沿って積層基板を切断する切断工程とを備える液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インク等の液体を吐出する複数の吐出ノズルを有する液体噴射ヘッドを用いて被記録媒体に文字や画像を記録する液体噴射記録装置が知られている。例えば、インクジェットヘッドは、複数の吐出溝を有するアクチュエータ基板と吐出溝の側壁を固定するための天板と各吐出溝にインクを供給する流路部材とが板厚方向に積層状態に配されて形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のインクジェットヘッドの製造方法によれば、アクチュエータ基板と天板を接着した後に個々の大きさに分割してインクジェットヘッドチップを形成し、各インクジェットヘッドチップに流路部材をそれぞれ固定するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−296618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のインクジェットヘッドの製造方法は、個々に分割したインクジェットヘッドチップや流路部材に接着剤を塗布する工程や、インクジェットヘッドチップごとに位置合わせをする工程に手間がかるという問題がある。また、インクジェットヘッドチップに流路部材を個々に接着すると、アクチュエータ基板およびカバープレート基板の端面と流路部材の端面とに段差が生じてしまい、アクチュエータ基板およびカバープレート基板の端面にはノズルプレートを接着させることができても、流路部材の端面にはノズルプレートを接着させることができない場合があるという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、複数の液体噴射ヘッドを少ない作業工程数で簡易かつ効率的に製造することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一表面に開口し平行間隔をあけて配列され各側壁に電極が形成された容積可変の複数の液体吐出溝を有するアクチュエータ基板と、一表面に形成された開口から他表面に貫通し所定のピッチで配列された複数の開口部を有するカバープレート基板と、一表面に開口し前記開口部と略等しいピッチで配列された複数の溝状の流路を有する流路プレート基板とを、前記開口部の開口と前記流路の開口とを対向させ、前記液体吐出溝の配列方向に前記開口部の配列方向および前記流路の配列方向を直交させるように板厚方向に積層状態に接合して積層基板を形成する接合工程と、該接合工程により形成された前記積層基板を、隣接する前記開口部の中間位置で前記液体吐出溝に交差する面に沿って切断する切断工程とを備える液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、流路プレート基板の流路の開口とカバープレート基板の開口部の開口とを対向させることで共通流路が構成され、共通流路が複数の液体吐出溝に連通する分配流路構造が所定のピッチで複数積層基板に形成される。
そして、隣接する開口部の中間位置で積層基板を切断することにより、各々に分配流路構造が1つずつ設けられ、切断面に全ての液体吐出溝が開口する液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0009】
この液体噴射ヘッドによれば、液体吐出溝の側壁に設けられた電極に電圧を加えて、アクチュエータ基板の液体吐出溝の容積を変動させることにより、共通流路から液体吐出溝に分配供給された液体を、ポンプ効果によって切断面の開口部からそれぞれ吐出させることができる。
すなわち、本発明によれば、3枚の基板を接合して切断するだけで、個々の液体噴射ヘッドごとに接合したり位置合わせをしたりすることなく、少ない作業工程数で簡易かつ効率的に複数の液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0010】
上記発明においては、前記開口部が、前記カバープレート基板の前記一表面に開口面を有する溝状の凹部と、該凹部の底面から前記他表面に前記液体吐出溝と略等しいピッチまたは略半分のピッチで貫通形成された複数の貫通孔とを備え、前記接合工程において、前記カバープレート基板の前記貫通孔と前記アクチュエータ基板の前記液体吐出溝とを略一致させることとしてもよい。
【0011】
カバープレート基板の複数の貫通孔とアクチュエータ基板の複数の液体吐出溝の開口とを略一致させることで、共通流路が流路と凹部とによって構成され、共通流路から貫通孔を介して複数の液体吐出溝に連通する分配流路構造となる。したがって、例えば、液体吐出溝に対して1つ置きに貫通孔を配置することで、水性インク用の液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記カバープレート基板が、前記開口部の前記開口をほぼ閉塞する位置に異物除去部材を備えることとしてもよい。
このように構成することで、異物除去部材により、液体に含まれる塵埃等や大きな気泡等が液体吐出溝に侵入するのを防止する液体噴射ヘッドを製造することができる。異物除去部材としては、例えば、フィルタ等が挙げられる。
【0013】
また、上記発明においては、前記異物除去部材が前記カバープレート基板の前記一表面に対して凹状に配置されており、前記接合工程において、前記カバープレート基板の前記一表面に沿って接着剤を塗布することとしてもよい。
このように構成することで、接着剤がフィルタに付着するのを防ぎ、カバープレート基板の接合面全体に接着剤を一括で簡易に塗布することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記アクチュエータ基板の前記液体吐出溝が、隣接する各2つの前記開口部に跨り、かつ、その両外側に形成される切断面を越えることなく終端するように形成されていることとしてもよい。
このように構成することで、液体吐出溝が一端の切断面に開口し、他端の切断面側に閉塞されている複数の液体噴射ヘッドを簡易に形成することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記アクチュエータ基板の液体吐出溝を形成する液体吐出溝形成工程を備え、該液体吐出溝形成工程が、フライスを前記一表面に沿う方向に移動させながらアクチュエータ基板を構成する基板の板厚方向に移動させて前記液体吐出溝を切削加工することとしてもよい。
このように構成することで、各2つの開口部に跨り、両端が閉じられた液体吐出溝を簡易に形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の液体噴射ヘッドを少ない作業工程数で簡易かつ効率的に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本実施形態の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、3枚の基板から複数の液体噴射ヘッドを採取する多数個取りによるものである。この製造方法においては、図1および図2に示すように、一表面130cに開口部13aを有する一対の吐出溝(液体吐出溝)13の列が平行間隔をあけて複数配列されたアクチュエータ基板130と、一表面150cから他表面150dに貫通し所定のピッチで配列された4つのカバープレート開口部(開口部)18を有するカバープレート基板150と、一表面190dに流路開口面21aを有しカバープレート開口部18のピッチと略等しいピッチで配列された4つの溝状の流路21を有する流路プレート基板190とが用いられる。
【0018】
アクチュエータ基板130は、圧電素子からなり板厚方向に分極されている。各吐出溝13は、カバープレート基板150の隣接する各2つのカバープレート開口部18のピッチと略等しい長さを有している。この吐出溝13は、長手方向に沿って深さが一定で、両端が徐々に終端するように形成されている。また、各吐出溝13は側壁15によって分離されており、各側壁15にはそれぞれ駆動電圧印加用の電極16が蒸着によって形成されている。
【0019】
カバープレート基板150のカバープレート開口部18は、一表面150cに凹部開口面17aを有する溝状の凹部17と、凹部17の底面から他表面150dに貫通する複数の貫通孔19とによって構成されている。貫通孔19は、アクチュエータ基板130の吐出溝13のピッチの略半分のピッチで設けられている。また、凹部17には、凹部開口面17aから離れる方向に向かって内壁面が内側に突出した段差部25が設けられている。
【0020】
段差部25には、平坦面を有するフィルタ(異物除去部材)29が接着剤によって固定されている。フィルタ29は、例えば、孔径が約8ミクロンのメッシュ構造で約0.1mmの厚さを有している。このフィルタ29は、凹部開口面17aを略閉塞するように設けられ、他表面150d上の全ての貫通孔19の端部から略一定距離(例えば、約0.8mm)に配置されている。
【0021】
また、フィルタ29は、カバープレート基板150の一表面150cに対して凹状に配置されている。したがって、カバープレート基板150と流路プレート基板190とを接着する工程において、カバープレート基板150の一表面150cに沿って接着剤を塗布した場合に、接着剤がフィルタ29に付着するのを防ぐことができる。これにより、例えば、図3に示すように、ゴム製の塗布ローラ33により、カバープレート基板150の接合面全体に接着剤を一括で簡易に塗布することができる。また、凹部17が精度よく位置決めして形成されているので、フィルタ29を接着するための接着剤を、ロボット等を使用して段差部25に塗布することが可能となる。
【0022】
流路プレート基板190の流路21は、例えば、サンドブラスト加工などで溝状に形成されている。流路21の流路開口面21aは、カバープレート5の凹部開口面17aと同一の形状で、かつ、同一の大きさを有している。また、流路21には、一表面190dとは反対側の他表面190cに貫通する液体導入孔21Aが設けられている。
【0023】
本製造方法は、これらアクチュエータ基板130とカバープレート基板150と流路プレート基板190とを板厚方向に積層状態に接合して積層基板を形成し(接合工程)、この積層基板をカバープレート基板150の隣接する凹部17の中間位置で切断する(切断工程)ことにより、複数の液体噴射ヘッドを製造する。以下、各工程について具体的に説明する。
【0024】
まず、接合工程においては、接合面に接着剤が塗布された各基板を、アクチュエータ基板130の吐出溝13の配列方向に対して、カバープレート基板150の凹部17の配列方向および流路プレート基板190の流路21の配列方向がそれぞれ直交するように配置する。
【0025】
そして、カバープレート基板150の凹部17の凹部開口面17aと流路プレート基板190の流路21の流路開口面21aとを対向させ、かつ、カバープレート基板150の貫通孔19をアクチュエータ基板130の吐出溝13の開口部13aに略一致させるように位置合わせして、これら3つの基板を板厚方向に積層状態に重ね合せた状態で加圧および加熱する。これにより、アクチュエータ基板130とカバープレート基板150と流路プレート基板190とが接合された積層基板が形成される。
【0026】
流路プレート基板190の流路21の流路開口面21aとカバープレート基板150の凹部17の凹部開口面17aとを対向させることで共通流路が構成される。また、カバープレート基板150の複数の貫通孔19とアクチュエータ基板130の複数の吐出溝13の開口部13aとを略一致するように位置合わせすることで、共通流路から貫通孔19を介して複数の吐出溝13に連通する分配流路構造が、積層基板に所定のピッチで複数形成される。
【0027】
続いて、切断工程においては、接合工程により形成された積層基板を、カバープレート基板150の隣接する凹部17の中間位置で、アクチュエータ基板130の吐出溝13に交差する面に沿って切断する。これにより、各々に分配流路構造が1つずつ設けられ、切断面に全ての吐出溝13が開口する液体噴射ヘッドが製造される。なお、切断面をノズルプレート(図示略)の接着面にするため、ダイシング等の方法で切断面が平坦な形状になるように切断することが望ましい。
【0028】
本実施形態に係る製造方法によれば、吐出溝13の側壁15に設けられた電極16に電圧を加え、圧電厚みすべり効果によって吐出溝13の容積を変動させることにより、共通流路から貫通孔19を介して吐出溝13に分配供給された液体がポンプ効果によって切断面の開口部からそれぞれ吐出される液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0029】
すなわち、3枚の基板(アクチュエータ基板130、カバープレート基板150および流路プレート基板190)を接合して切断するだけで、個々の液体噴射ヘッドごとに接合したり位置合わせをしたりすることなく、少ない作業工程数で簡易かつ効率的に複数の液体噴射ヘッドを製造することができる。また、ノズルプレートが接着される接着面が3枚の基板によって構成されるので、接着面の面積を十分に確保することができる。したがって、カバープレート基板150の薄型化を図ることが可能になる。
【0030】
また、アクチュエータ基板130の各吐出溝13が、カバープレート基板150の隣接する各2つの凹部17に跨り、かつ、その両外側に形成される切断面を越えることなく終端するように形成されているので、吐出溝13が一端の切断面に開口し、他端の切断面側に閉塞されている複数の液体噴射ヘッドを簡易に形成することができる。
【0031】
また、フィルタ29により、凹部17を介して吐出溝13に供給される液体に含まれる塵埃等を除去したり、大きな気泡が吐出溝13に侵入したりしてしまうのを防止する液体噴射ヘッドを製造することができる。また、フィルタ29により、基板の接合時に塵埃等が凹部17に入り込むのを防ぐことができる。
【0032】
以下、本実施形態に係る製造方法によって製造された液体噴射ヘッドの一例について、図面を参照して説明する。
液体噴射ヘッド10は、例えば、水性インク(液体)を吐出するものであり、図4〜図7に示すように、液体噴射ヘッドチップ1と、流路プレート基板190から形成された流路プレート9と、液体噴射ヘッドチップ1を駆動する駆動回路等を搭載した配線基板(図示略)とを備えている。これらの各部材は、例えば、アルミニウム等でできた支持プレート11に固定されており、各部材どうしは熱伝導性のよい接着剤や両面テープ等で結合されている。
【0033】
液体噴射ヘッドチップ1は、アクチュエータ基板130から形成されたアクチュエータプレート3と、カバープレート基板150から形成され、アクチュエータプレート3の一表面に接着されたカバープレート5と、アクチュエータプレート3およびカバープレート5の端面に接着されたノズルプレート7とを備えている。
【0034】
アクチュエータプレート3は、カバープレート5が設けられた一表面に開口部13aを有する複数の吐出溝13を備えている。各吐出溝13の長手方向の一端は、アクチュエータプレート3の一端面3aまで延び、他端は他端面3bまで延びることなく途中位置において深さが徐々に浅くなっている。各吐出溝13の両側壁15には、吐出溝13の開口部13aから深さ方向の途中位置まで、長手方向に延びる電極16が形成されている。
【0035】
カバープレート5は、アクチュエータプレート3の一表面、すなわち、吐出溝13の開口部13aが形成されている表面に接着されている。このカバープレート5は、アクチュエータプレート3とは反対側の表面に凹部開口面17aを有する凹部17と、凹部17からアクチュエータプレート3の吐出溝13が浅くなっている端部に貫通する複数の貫通孔19とを備えている。凹部17には段差部25が設けられており、フィルタ29が凹部17の凹部開口面17aを略閉塞するように段差部25に固定されている。
【0036】
アクチュエータプレート3にカバープレート5が接着された状態では、吐出溝13の開口部13aのうち凹部17の貫通孔19が貫通している部分以外の領域がカバープレート5によって塞がれることにより、複数の独立した吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bが形成されている。
【0037】
吐出チャンネル23Aは、カバープレート5の貫通孔19が貫通した吐出溝13によって形成されるインク流路であり、凹部17および貫通孔19を介してインクが充填されるようになっている。一方、ダミーチャンネル23Bは、カバープレート5によって吐出溝13の開口部13aが閉塞された空洞部であり、インクが流入しないように密閉されている。これら吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bは、吐出溝13の配列方向に交互に形成されている。このような構成を採用することによって、例えば、電気的な伝導性を有するインクや液体などを吐出する場合に、電極16間で短絡現象が発生することなく吐出動作を実施することができる。
【0038】
ノズルプレート7は、アクチュエータプレート3、カバープレート5および流路プレート9の各端面からなる液体噴射ヘッド10の一端面全体に、吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bの開口に対向して接着されている。また、ノズルプレート7は、吐出チャンネル23Aの開口に対向する位置にのみノズル孔27を有している。なお、ダミーチャンネル23Bの開口は、ノズルプレート7によって封止されている。
【0039】
このノズルプレート7は、例えば、ポリイミドフィルムにエキシマレーザ装置等を用いてノズル孔27が形成されたものである。なお、ノズルプレート7の被記録媒体に対向することとなる面には、撥水性を有する撥水膜(図示略)が形成されており、インクの付着等を防止するようになっている。
【0040】
本実施形態に係る製造方法により、液体噴射ヘッド10の切断面が平坦な形状になるように切断することで、3つのプレートの端面にノズルプレート7を接着することができる。また、流路プレート9の端面を含めた範囲にノズルプレート7が接着されるので、ノズルプレート7の接着面の面積を十分に確保することができる。したがって、カバープレート5の薄型化を図ることが可能になる。
【0041】
流路プレート9は、液体噴射ヘッドチップ1内にインクを供給するものである。この流路プレート9は、カバープレート5の凹部開口面17aが形成されている表面に接着されており、カバープレート5側表面に流路開口面21aを有する流路21を備えている。流路21の流路開口面21aは、カバープレート5の凹部開口面17aに対向して配置されている。
【0042】
また、流路21には、カバープレート5とは反対側の表面に貫通する液体導入孔21Aが設けられている。液体導入孔21Aは、インクカートリッジ107(図8参照)から供給されるインクを一時的に貯留する圧力調整室(図示略)に接続されている。
【0043】
流路プレート9の流路21の流路開口面21aとカバープレート5の凹部17の凹部開口面17aとが対向することにより、液体導入孔21Aから導入されたインクが吐出チャンネル23Aに分配供給される共通流路(以下、共通流路を「共通インク室」という。)31が構成されている。
【0044】
このように構成された液体噴射ヘッド10の作用について説明する。
インクカートリッジ107から供給されたインクは、圧力調整室において一時的に貯留された後、流路プレート9の液体導入孔21Aから共通インク室31内に導入される。共通インク室31に導入されたインクは、貫通孔19を介して全ての吐出チャンネル23Aに分配供給される。
【0045】
この場合に、凹部17の凹部開口面17aをほぼ閉塞する位置に配置されたフィルタ29により、インクに含まれる塵埃や大きな気泡等が除去される。これにより、塵埃等や大きな気泡を含まないインクを吐出チャンネル23Aに供給することができる。
【0046】
各吐出チャンネル23内にインクが供給されたら、所定の吐出チャンネル23Aの両側壁15の電極16に電圧を印加する。これにより、圧電厚みすべり効果によって側壁15がせん断変形して吐出チャンネル23A内の容積が変化する。そして、ポンプ効果によって吐出チャンネル23A内のインクが吐出される。
【0047】
例えば、吐出チャンネル23Aの両側壁15が吐出チャンネル23Aの外側に向かって変形するように、すなわち、ダミーチャンネル23Bの内側に向かって変形するように、分極方向に直交する一方向に電圧を印加する。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が増加する分、吐出チャンネル23A内にインクが引き込まれる。
【0048】
次に、側壁15にかかる電圧をゼロにする。すなわち、吐出チャンネル23Aの両側壁15が電圧印加前の変形がない状態になるようにする。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が減少して圧力が増加し、ノズル孔27からインクが吐出される。
【0049】
次に、液体噴射ヘッド10が、プリンタやファックス等に適用されるインクジェット式の記録装置である液体噴射記録装置100に搭載されて使用される仕様態様の一例を図8に示す。
液体噴射記録装置100は、色ごとに設けられた複数の液体噴射ヘッド10と、液体噴射ヘッド10が主走査方向に複数併設して搭載されたキャリッジ103と、フレキシブルチューブからなるインク供給管105を介して液体噴射ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ107とを備えている。
【0050】
キャリッジ103は、一対のガイドレール109A,109Bの長軸方向に移動可能に搭載されている。また、ガイドレール109A,109Bの一端側には駆動モータ111が設けられている。駆動モータ111による駆動力が、この駆動モータ111に連結されたプーリ113Aとガイドレール109A,109Bの他端側に設けられたプーリ113Bとの間に掛け渡されたタイミングベルト115に伝わり、これによりタイミングベルト115の所定の位置に固定されたキャリッジ103が搬送されるようになっている。
【0051】
また、キャリッジ103の搬送方向に直交する方向で、鎖線で示すケース117の両端側には、ガイドレール109A,109Bに沿ってそれぞれ一対の搬送ローラ119が設けられている。これら搬送ローラ119は、キャリッジ103の下方であってキャリッジ103の搬送方向に直交する方向に被記録媒体Sを搬送するものである。
【0052】
このように構成された液体噴射記録装置100においては、搬送ローラ119によって被記録媒体Sを送りつつ、キャリッジ103を被記録媒体Sの送り方向に直交する方向に走査することにより、液体噴射ヘッド10によって被記録媒体S上に文字および画像等が記録される。
【0053】
なお、本実施形態のおいては、カバープレート基板150および流路プレート基板190には、それぞれ4つの凹部17および流路17が形成されていることとしたが、カバープレート基板150および流路プレート基板190は、それぞれ4つ以上の凹部17および流路17が形成されているものであってもよいし、あるいは、4つ以下しか形成されていないものであってもよい。また、アクチュエータ基板130には、長手方向の両端が終端している一対の吐出溝13の列が形成されていることとしたが、アクチュエータ基板130の吐出溝13の数および配置は、カバープレート基板150の凹部17および流路プレート基板190の流路17の数および配置に対応するものであればよい。
【0054】
また、本実施形態においては、アクチュエータ基板130、カバープレート基板150および流路プレート基板190を重ね合わせた状態で1度に加圧および加熱して接合することとしたが、例えば、アクチュエータ基板130とカバープレート基板150とを重ね合わせて加圧および加熱して接合し、その後、接合されたアクチュエータ基板130およびカバープレート基板150に流路プレート基板190を重ね合わせて加圧および加熱して接合し、積層基板を形成することとしてもよい。
【0055】
また、本実施形態においては、例えば、製造方法が、アクチュエータ基板130の吐出溝13を形成する液体吐出溝形成工程を備えることとしてもよい。この場合、液体吐出溝形成工程が、フライス等をアクチュエータ基板130の一表面130cに沿う方向に移動させながらアクチュエータ基板130の板厚方向に移動させて、吐出溝13を切削加工することとすればよい。このようにすることで、各2つの凹部17に跨り、両端が閉じられた吐出溝13を簡易に形成することができる。
【0056】
また、本実施形態においては、吐出溝13の配列方向に交互に吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bが形成されていることとしたが、これに代えて、全ての吐出溝13にカバープレート5の貫通孔19を貫通させて吐出チャンネル23Aだけを形成することとしてもよい。この場合、ノズルプレート7は、すべての吐出チャンネル23Aに対向するピッチでノズル孔27を形成することとすればよい。また、製造方法においては、アクチュエータ基板130の吐出溝13のピッチと略等しいピッチで複数の貫通孔19が貫通形成されたカバープレート基板を採用することとすればよい。
【0057】
また、本実施形態においては、カバープレート基板150のカバープレート開口部18が凹部17と複数の貫通孔19とによって構成されていることとしたが、例えば、カバープレート開口部18自体が1つの貫通孔であって、かつ、全ての吐出溝13に連通する大きさの孔であってもよい。このようにすることで、例えば、油性インク等を使用する簡易な構成の液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0058】
また、本実施形態においては、側壁15にかかる電圧をゼロにし、吐出チャンネル23Aの両側壁15が電圧印加前の変形がない状態になるようにする駆動方法を示したが、電圧を逆方向に印加し、吐出チャンネル23Aの両側壁15が吐出チャンネル23Aの内側に向かって変形するように、すなわち、ダミーチャンネル23Bの外側に向かって変形するように、分極方向に直交する他の一方向に電圧を印加してもよい。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が減少して圧力が増加し、ノズル孔27からインクが吐出される。
以上のように異なる駆動方法を説明したが、これらの方法においては、インクを安定して吐出するために、さらなるインクの加圧が必要な場合には、側壁15を吐出するチャネル側へ突出するように変形させる。この動作によって、吐出するチャネルの内部の圧力がさらに増加するので、インクをより加圧することができる。ただし、この動作は上述したとおり、インクを安定して吐出させることを目的とするものであるので、必須な動作ではなく必要に応じて適宜使用すればよい。また、上述した各動作を必要に応じて組み合わせて実行することにより、最適なインクの吐出を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態では、液体噴射装置の一例として、インクジェット式の記録装置を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であっても構わない。また、本実施形態では、複数のノズル孔27が配列方向に直線状に一列に配列されていることとしたが、これに代えて、複数のノズル孔27が直線状に配列されてなく縦方向にずらして配列されていてもよい。例えば、複数のノズル孔27が斜めに配列されていてもよく、あるいは、千鳥状に配列されていてもよい。また、ノズル孔27の形状に関しても、円形に限定されるものではない。例えば、三角等の多角形状や、楕円形状や星型形状でも構わない。
【0060】
また、本実施形態では、導電性のインクを利用した場合を説明したが、例えば、非導電性の油性インク、ソルベントインクやUVインク等を用いても構わない。なお、油性インクを用いる場合には、液体噴射ヘッド10は上述の、全ての吐出溝13にカバープレート5の貫通孔19を貫通させて吐出チャンネル23Aだけを形成する構成にすればよい。このように液体噴射ヘッドを構成することで、いかなる性質のインクであっても使い分けることができる。したがって、水性のインクを利用して記録を行うことができる。特に、導電性を有するインクであっても問題なく利用でき、液体噴射記録装置の付加価値を高めることができる。なお、その他は同様の作用効果を奏することができる。
【0061】
また、本実施形態では、カバープレート基板150に凹部17が形成されていることとしたが、参考例として、アクチュエータ基板130に凹部が形成されていてもよい。例えば、アクチュエータ基板130の裏面(吐出溝13が形成された表面の反対側の面)に吐出溝13の配列方向に延びた断面凹状の凹部が形成され、この凹部の底面に、吐出溝に連通する貫通孔が形成された構成であってもよい。なお、この場合、支持プレート11の位置を入れ換えて、支持プレート11をカバープレート5に重ね合わせるように配置すればよい。
また本実施形態では、ゴム製の塗布ローラ33を用いて接着剤を塗布する方法を説明したが、これに代えて、シート状の接着剤を各基板130、150、190の間に設置し、各基板130、150、190を合わせることで接着しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法によりアクチュエータ基板、カバープレート基板および流路プレート基板を接合する様子を示す図である。
【図2】図1のアクチュエータ基板、カバープレート基板および流路プレート基板の縦断面図である。
【図3】図1のカバープレート基板の表面全体に接着剤を塗布する様子を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法によって製造された液体噴射ヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【図5】図4の液体噴射ヘッドを吐出溝に沿う方向の面で切断した縦断面図である。
【図6】図4の液体噴射ヘッドかノズルプレートを取り除いた状態を別の角度から見た分解斜視図である。
【図7】図6の液体噴射ヘッドを吐出溝に交差する方向の面で切断した縦断面図である。
【図8】図4の液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
10 液体噴射ヘッド
13 吐出溝(液体吐出溝)
18 カバープレート開口部(開口部)
17 凹部
19 貫通孔
21 流路
29 フィルタ(異物除去部材)
130 アクチュエータ基板
150 カバープレート基板
190 流路プレート基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面に開口し平行間隔をあけて配列され各側壁に電極が形成された容積可変の複数の液体吐出溝を有するアクチュエータ基板と、一表面に形成された開口から他表面に貫通し所定のピッチで配列された複数の開口部を有するカバープレート基板と、一表面に開口し前記開口部と略等しいピッチで配列された複数の溝状の流路を有する流路プレート基板とを、前記開口部の開口と前記流路の開口とを対向させ、前記液体吐出溝の配列方向に前記開口部の配列方向および前記流路の配列方向を直交させるように板厚方向に積層状態に接合して積層基板を形成する接合工程と、
該接合工程により形成された前記積層基板を、隣接する前記開口部の中間位置で前記液体吐出溝に交差する面に沿って切断する切断工程と
を備える液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記開口部が、前記カバープレート基板の前記一表面に開口面を有する溝状の凹部と、該凹部の底面から前記他表面に前記液体吐出溝と略等しいピッチまたは略半分のピッチで貫通形成された複数の貫通孔とを備え、前記接合工程において、前記カバープレート基板の前記貫通孔と前記アクチュエータ基板の前記液体吐出溝とを略一致させる請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記カバープレート基板が、前記開口部の前記開口をほぼ閉塞する位置に異物除去部材を備える請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記異物除去部材が前記カバープレート基板の前記一表面に対して凹状に配置されており、前記接合工程において、前記カバープレート基板の前記一表面に沿って接着剤を塗布する請求項3に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記アクチュエータ基板の前記液体吐出溝が、隣接する各2つの前記開口部に跨り、かつ、その両外側に形成される切断面を越えることなく終端するように形成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記アクチュエータ基板の液体吐出溝を形成する液体吐出溝形成工程を備え、
該液体吐出溝形成工程が、フライスを前記一表面に沿う方向に移動させながらアクチュエータ基板を構成する基板の板厚方向に移動させて前記液体吐出溝を切削加工する請求項5に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131942(P2010−131942A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312369(P2008−312369)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】